(読売 7月8日)
教員の自然体験や生活体験不足が、理科の指導力低下につながる。
梅雨曇りの空の下、女子学生が慣れない手つきで、
畑にクワを振り下ろす。
ぬれた土がはね、ズボンや腕、顔を容赦なく汚していく。
畑は、大妻女子大狭山台キャンパスの中にある。
同大は、野菜の栽培や理科実験、料理などを体験する
「児童学基礎体験演習」を、家政学部児童学科の1年生の必修。
小学校や幼稚園の教員、保育士をめざす学生が多く、
野菜作りは、生命をはぐくむ力や命の大切さを学ぶと同時に、
土遊びや植物の栽培、自然観察などに、心理的な抵抗感をなくすことも狙い。
岡健准教授(45)は、「理科や生活科を教える以前に、
自然や生活体験が乏しく、子供とうまく向き合えない学生が増えている」。
農作業や土いじりが、「意外に楽しい!」と笑顔を見せる学生たちに、
「虫は大丈夫?」と尋ねると、一斉に「きらーい」。
農作業を終えた学生は、金属の成分を炎に入れ、
様々な色が付くことを経験する炎色反応の実験に取り組んだ。
照明を消した実験室で、ホウ酸を溶かしたアルコール溶液から
緑の炎が上がると、学生が「すてき」、「ディズニーランドみたい」。
小学校教員を目指す学生は文系が大半で、
もともと理科の知識や実験、観察の体験が少ない。
小学校は、全教科の授業力が必要になるため、
理科の関連授業は、他教科と同じ2科目4単位で修了することが多く、
実験の指導まで十分に手が回らないのが実情。
「今は理科が嫌いでも、小学校までは好きだったという学生が多い」と
小学校教員の経験が長い石井雅幸准教授(49)。
「実験室の加熱器具や薬品を安全に扱う技術を覚えるだけでも、自信に」。
実験を見せるだけに終わらず、実験の科学的な意味を理解し、
実験で何を学ばせるか、を意識できる教師を教壇に立たせるのが目標。
「自分が感動すると、子供に教えたいという思いも強く抱く。
教員の養成課程で、生活体験や理科の実験を、意識して仕組む必要」
千葉県は昨年、「児童生徒の理科離れ対策事業」を始め、
小学校の新任教員を対象にした夏の校外研修で、
理科の観察や実験を学ぶ実習を必修。
しかし、昨年の研修や学校からの報告で、「虫にさわれない」、
「ガスバーナーやメスシリンダーが使えない」、
「顕微鏡のネジを逆に回してねじ切った」、「マッチがすれない」、
「ザリガニをはしでつかもうとする」といった実験以前の弱点。
県は、理科授業を得意とする教員43人を、「サテライト研究員」に委嘱、
県内5地区14会場で講師として研修を指導。
子供の興味を引き、思考力を高める実験の技術を直接、学ばせる。
「実験器具の扱い方など基本の指導を、昨年より入念にすべき」。
かつては小学校のベテラン教員が、放課後に若い教員に実験を指導。
しかし、放課後も教務が忙しくなり、
授業技術を後輩に伝える機会が減っている。
県総合教育センターの高安礼士・カリキュラム開発部長は、
「子供の理科離れは、教員の苦手意識も一因。
団塊教員の退職が進む中、県独自に理科に強い教員を育てる必要がある」
技術立国の看板の陰で進んできた、子供の理科離れ。
理科教育の再興には、理科に強い教員の育成が鍵を握る。
小中学校の新学習指導要領は、理数教育の充実を図っている。
完全実施は、小学校は2011年度、中学は12年度だが、
小学校理科は来年度からほぼ全面的に前倒し実施され、
年間総授業時間は350時間から405時間に増える。
新しい理科は、観察・実験や自然体験を通じた
「実感を伴った理解」を強調。
しかし、科学技術振興機構の05年度の調査では、
理科を苦手と答えた小学校教員は61%。
理科授業の課題に、「準備・片づけに手間がかかる」(66%)、
「教材作成等の工夫が必要」(55%)、
「実験に失敗するなど教科書通りに教えられない」(51%)。
大学時の専攻は、教育系66%、文学・経済・法学系が12%。
理学系と工学系は各1%。
小5~中3の児童生徒を対象にした国立教育政策研究所の
03年度の調査では、「理科が好き」と答えたのは、
全学年で、国語、社会、算数・数学、英語を上回った。
しかし、「受験に関係なくても大切だ」は、
理科が軒並み低く、中3は55%。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080708-OYT8T00201.htm
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