(読売 7月16日)
物理の世界を、実験で面白く伝える教員がいる。
「ピーッ」、「パン」、「チーン」――。
千葉県柏市立手賀中学校で、1年の理科の授業は、
松丸敏和教諭(53)が笛やトライアングルを鳴らして始まった。
授業のテーマは、「音の正体はなんだろう」。
「振動?」という生徒の答えに、
「きょうは、それを実験をして確かめたいと思います」。
両手で持ったペットボトルの口に、ストローで横から息を吹いて音を出し、
ボトルの振動を手で体験する。
発泡スチロールの粒を乗せたビニールに音叉をつけ、
振動がビニールに伝わって粒がはねることを確かめる。
ワイングラスの水に、音叉を入れ、水の表面が細かく波打つ様子に驚く。
紙コップ、磁石、ラジオも登場し、授業中に音の振動を体感した実験は
9種類に上った。
音叉以外は、生活でなじみの深いものばかり。
生徒は、「小学校よりも楽しい。テストでクラスの理科の平均点は79点」。
東京の国立科学博物館に5年間務めた松丸教諭は、
博物館で市民向けに演じた科学実験をアレンジし、理科の授業で実践。
「『音は振動』と机の上で教わるのと、体感するのでは理解が違う。
実験で興味を引きつけてから、計算などの基礎学習や、
科学の用語などを身につけるように工夫」
学校を離れて、物理を体感させる工夫もある。
岩手大教育学部の八木一正教授(58)は、盛岡市の遊園地
「岩山パークランド」で毎夏、体験学習会を開く。
「遊園地は、巨大な科学実験室」がキャッチフレーズ。
今年は来月8日の予定。
小学3年以上の約200~300人の子供が参加。
学習テキストには、遊具ごとに速さや周期などを調べる
実験課題や考察が記されている。
ジェットコースターに乗った時に体が感じる力の大きさを、
ペットボトルで作った加重力の測定器を使って測ったり、
三角比を利用して観覧車の高さを測ったり。
子供たちは遊具で遊びながら、テキストの空欄の数字や言葉を埋める。
「家族と遊びながら勉強もできる。子供たちの目の輝きが違う」
振り子、円運動など、さまざまな力学の要素が登場する遊園地は、
欧米では高校生の物理学習にも使われ、
遊園地の物理学を研究する学会まである。
都内で長く高校教員を務め、物理嫌いが多い高校生に、
物理を楽しく伝える方法を考えてきた八木さんは、海外の取り組みも研究、
2001年、岩手大に移ったのを契機に、遊園地学習会を始めた。
「高校でも、実験授業が楽しくなった生徒は、自発的に勉強するようになる。
物理の面白さは、できれば10歳までに体験してほしい。
遊園地学習会も、盛岡から未来のノーベル賞学者を出す、という意気込み」
「子供たちを物理嫌いにさせたくない」。
その思いの強さが、教員の情熱を支える原動力になっている。
◆実験・観察授業の環境
日本理科教育振興協会が2004年に実施した調査では、
公立小中学校2461校のうち、小学校の77%、中学校の88%が、
顕微鏡など理科設備品が十分でない。
必要なのに老朽化して使用に堪えない設備品があるという回答も、
小91%、中95%。
実験の定期的な研修をする学校は、小4%、中10%。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080716-OYT8T00201.htm
0 件のコメント:
コメントを投稿