(共同通信社 2008年7月10日)
中国・四川大地震発生から3日目の5月14日。
四川省都江堰市の聚源中学の生き埋め現場で、再び目を開くことのない
わが子にすがって泣き叫ぶ母親ら家族の周辺に、
噴霧器を背負ったマスク姿の男性らが黙々と消毒液をまき続けていた。
仮設の遺体安置所は、強い死臭と消毒液で、目まいがするほどの
臭気が充満。悲しみの場で、異質の雰囲気を放つ衛生当局者は、
「感染症予防は国家の命令。あらゆる手段を尽くす」。
中国政府は、感染症の発生に神経をとがらせている。
2度目の被災地入りをした温家宝首相は、復興支援とともに
「感染症予防が最重要課題だ」。
1万人以上の防疫要員を現地に投入。
北京五輪に向け、被災地で大規模かつ徹底的な消毒活動を繰り返すのは確実。
「新型肺炎(SARS)の衝撃が中国を変えた」。
SARSが猛威を振るった2003年春、中国は患者隠しや過少報告を行い、
国際社会の不信感は極度に高まった。
当時、北京の日本大使館で医務官をしていた勝田吉彰は、
衝撃をばねに中国が情報開示へ転換していったのを肌で感じた。
中国は、鳥インフルエンザで人への感染を確認すると、
世界保健機関(WHO)への報告と同時にネットで公表。
「こうしたシステムの構築は素早かった。既に日本の先をいっている」(勝田)
一方で、手付かずの課題もある。
英医学誌ランセットは、鳥インフルエンザ変異による新型インフルエンザが
拡大した場合の死者数を日本約15万人、中国約1060万人と予測。
危機感は中国も共有しているが、地域格差や官僚主義が
新型インフルエンザ予防の前に立ちはだかっている。
「地方の病院で、風邪の症状を訴える患者に
インフルエンザ検査をすることはない」。
北京の外国大使館で医療問題を扱う担当官は、
人口の約7割が生活する農村部の遅れた医療に懸念を示す。
潜伏期間も考慮すると、「1人の新型発症者を確認した時点で、
既に広く拡散している可能性」は高く、情報キャッチが大きく遅れる恐れ。
一党独裁の下、硬直した行政システムも阻害要因。
地方政府は、保身から中央政府に「見栄えのいい報告」を上げる傾向が根強く、
正確な状況把握の障害に。
中央政府内では「縦割り」が強く、情報共有は不十分なまま。
日本は、厚生労働省のシミュレーションに基づき、
インフルエンザ治療薬タミフルを2500万人分備蓄。
中国もこうした態勢づくりに興味を示しているが、
たたき台となる試案の作成はまだ緒に就いたばかり。
ある専門家は、「中国がシミュレーションを作成したら、
『2億人分のタミフル備蓄が必要』との数字がはじき出される可能性も。
パニックを恐れ、公表を控えるのでは」
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チベット暴動、聖火リレー妨害、四川大地震と耳目を集めるニュースに
事欠かないオリンピックイヤーの中国。
世界が強い関心を寄せる中国の人権、環境、感染症などの問題をめぐる
中国内外でのせめぎ合いや変わる中国観を、
インド・ダラムサラ、米国からのリポートを交えて報告。
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※鳥インフルエンザ
インフルエンザウイルスによる鳥類の病気で、
感染が拡大しているのは毒性が強いH5N1型。
鶏などが感染すると呼吸器、消化器に症状が現れ、大量死することも。
鶏肉や鶏卵を食べて人に感染した例は報告されていないが、
生きた鳥との接触による人への感染が起きている。
ウイルスの遺伝子が変異し、人から人への感染力が高い
新型インフルエンザが北京などで流行すれば、
五輪開催自体が不可能になると指摘。
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=77166
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