(読売 7月9日)
実験を通して、論理的な思考力を育てる授業がある。
埼玉県川口市立仲町小学校で、学級担任を持たない理科専科の
池田和夫教諭(58)は、二つの集気びんにそれぞれ、
二酸化炭素と酸素を満たし、ガラス板でふたをした。
次に、酸素のびんを逆さまにして、二酸化炭素のびんの口に重ね、
ガラス板を静かに抜いた。
「二酸化炭素を入れたびんの中で、ろうそくの火は燃えるのか」。
池田教諭の出した課題に、6年1組の児童は、一斉に結果を予想して
ノートに書き込む。指名されると、次々にそれを読み上げていく。
「燃えると思います。二酸化炭素も、酸素があれば燃えるからです」、
「燃えないと思います。びんの中をかき混ぜていないからです」
予想には、根拠をつけるのがルール。
次は、討論の時間。
「なぜ混ざらないと思いますか」、
「酸素より二酸化炭素の方が重いからです」、
「二酸化炭素が下に集まるなら、地面の小さな生き物は死んでしまう」、
「地球は、風で空気が動いています」……。
相手の意見を整理した上で、自分の最終予想をノートにまとめる。
「では、やってみよう」と池田教諭。
ろうそくの火は、二酸化炭素を満たしたびんの中に入れても燃え続け、
子供たちから「おーっ」と歓声が上がった。
子供たちはまたノートに向かい、目の前で起きた実験結果を書き、発表。
気体の分子が、猛スピードで飛び回ることを説明したプリントが配られ、
全員で音読。
池田教諭が、「かき混ぜなくても、混ざるのが気体の性質」
と解説して授業を締めた。
子供たちは、何度も考え、それをまとめて書き、
意見と理由を発表することを繰り返す。濃密な45分間。
こうした授業法は、「アクティブラーニング」と呼ばれ、大学にも広がっている。
実験を見せて、「なぜ」を問うのではなく、
実験が「どうなるか」を徹底して考えさせる。
そうすることで、知識の確実な定着を狙っている。
根拠をつけて予想するには、過去の学習内容や生活の知識などを
動員して考えるしかない。
考えは書くことで頭の中で整理され、討論によって
他の意見との葛藤が起きる。
最後に印象的な実験を見せ、全員の思考が「気体は混ざり合う」という
科学知識に、自然に到達する仕組み。
児童のノートは、3か月でいっぱいになる。
理科の新学習指導要領では、論理的な思考力の育成と、
小中高と続く学習内容の系統性が強調。
気体の分子運動は、中学以降の学習内容。
「順序立てて思考を進めれば、小6でも次に
『なぜ気体は自然に混ざってしまうの?』という疑問に行き着く。
今覚える必要がなくても、子供が知りたい時に回答を用意することは、
学習の積み重ねと系統性で大事なこと」
授業は、科学者の新発見が「仮説、考察、論争、検証」と経るのと、
同じ順序をたどってもいる。
知を発展させる人間の営みが、思考力を育てる子供の授業のヒントに。
◆アクティブラーニング
能動的学習や参加型学習と訳される。
教師が知識を説明し、生徒が受け身になる学習ではなく、
生徒の自発的で論理的な思考や討論などを通して、
分析や意思決定をしたり、正解にたどりついていく学習。
欧米の大学で注目され、
東京大学などが授業モデルの研究や実践を進めている。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080709-OYT8T00240.htm
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