(読売 7月18日)
小中学生向けの科学コンクールに強い地域がある。
名古屋市と愛知県豊橋市の間にある刈谷市は、人口約14万5000人。
豊田自動織機をはじめ、トヨタグループの多くの会社が本社を置く、
工業の町としても知られる。
市立刈谷東中学校科学部は昨年、ペットボトルロケットを遠くに飛ばす
角度や飛び方を分析し、日本学生科学賞の中学校・研究部門で、
科学技術担当大臣賞を受賞。
研究を主導したのは、現3年の松ヶ谷明史君(14)。
様々な材質のミニロケットで実験し、距離や飛び方との関係を調べた。
ロケットの飛び方に3パターンがあり、よく飛ぶのは直線で上昇後、
放物線を描いて落ちる飛び方で、45~60度の時、
その出現が多いことを確めた。
「小さいころから理科は好きでしたが、仮説を立てて実証することを
学んだのは、中学校の部活動」。
今年は部を挙げて、墨汁が紙ににじむパターンの解析などに取り組む。
同賞に強いのは、同中だけではない。
市立雁が音中学校は、トタン板のさび方の研究で環境大臣賞を受賞。
県審査は刈谷南、富士松を加えた4中学が、10賞中9賞をさらった。
理科だけでなく、技術工作のコンクールにも強く、
昨年、全国と県レベルで刈谷の小中学校が受けた関連の賞は、
市が把握しただけで50件以上。
市には年1回、小中学校の理科研究の発表会と、
工作の技術やアイデアを競う創意工夫展がある。
車の両輪と言える科学と技術に強い子を育ててほしいという、
石田退三・トヨタ自動車工業元会長の寄付から生まれ、
約半世紀の歴史を刻む。
市内21小中学校の全児童生徒が毎年、夏休みに理科研究か
工作に取り組む。
夏休み明けに、校内やクラスで発表、発表会や展示会の代表を決める。
近藤博司・市教育長(66)は、「市民に技術者が多い刈谷は、
理科研究や創意工夫展への関心が高い。
小学校でも夏休み前の指導が必要で、そのため理科の
教材研究や授業研究も盛ん」。
毎年指導するには、工夫がいる。
「理科研究でなぜを追求するのは、あまりうまくいかない」と
刈谷東中の鈴木竹久教諭(48)。
中学生が身の回りで気づく「なぜ」は、解明済みの現象が多い。
ペットボトルロケットの研究は、なぜ飛ぶかではなく、
飛び方のパターンと出現率に着眼したのが正解。
「形や材質を替え、実験や観察しなければわからない条件で調べる。
そこで規則性を見つけ、なるほどと思わせる研究が大事」
研究や工作の課題は、不得意な子の苦手意識を強める危険も。
「工作なら、障害者の方が使いやすい道具を作ってみる。
自分が不便と感じた道具に、ひと工夫してみる。
自分の作品が学校や周囲に評価され、
成功体験につながる指導が必要」。
刈谷の理科教員には、常に「10年後も学習レベルを保てるか」
という危機感がある。
教員の工夫と不断の努力なくして、科学に強い子を育てる風土は生まれない。
◆日本学生科学賞
日本で最も伝統のある中高生対象の科学研究コンクール。
戦後の復興を担う若者の科学教育を振興するため、1957年に始まった。
最高は内閣総理大臣賞で、中学と高校で各1点、副賞として
研究奨励金50万円が在籍校に贈られる。
高校の優秀な研究には、米国で開かれる「国際学生科学技術フェア」への
参加、派遣もある。読売新聞社が主催。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080718-OYT8T00235.htm
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