2008年8月1日金曜日

理科再興(13)生活に直結 地学の魅力

(読売 7月24日)

高校の地学教育が瀬戸際に立っている。
「石灰岩が一番」、「かんらん岩の青や紫もいい!」
大阪府岸和田市の府立岸和田高校で、地学の授業。
薄く切った岩石の標本を、偏光顕微鏡でのぞいた2年生は、
ステンドグラスのような美しい光の造形に、一目で夢中に。

寺戸真教諭(51)は、「岩石には、性質が違う鉱物の結晶が集まっている。
偏光顕微鏡で見えた色から、鉱物の種類や組み合わせがわかり、
石の種類を調べることができる。
みなさんも、石の魅力に気づいてください」と授業を締めた。

地学研究に定評のある大阪市立大がある大阪は、
伝統的に学校の地学教育も強く、教材研究も盛ん。
徳島出身の寺戸教諭も、大阪で地学教員に採用されて25年。

進路指導部長でもある寺戸教諭は、不本意ながら1年生の進路指導で、
理系の生徒は地学を選ばないように指導。
地学の試験が必要な理系の大学が少なく、大学入試センター試験は
物理と地学が同じ時間で、地学研究を志す生徒にもリスクが高い。
現2、3年で地学を選択した145人全員が、文系志望。

宇宙、気象、地震、火山、環境、防災など、科学ニュースの多くに、
地学が深くかかわっている。
「天変地異に対応し、生き抜く力を学ぶためにも、
高校生全員が知って欲しい学問なのに」と残念な思いでいっぱい。

現在、高校で働く地学教員の多くが50歳代で、高齢化が進む。
地学教員を募集する教育委員会が、ほとんどない。
高度な受験指導をする場面が少なく、天文は物理、環境は化学や生物など、
他の教科と重なる部分が多く、他の専門教員でも指導できると考えられがち。
地学の魅力や意義を伝えられる教員が少なく、
理系で有能な生徒が選択しない悪循環が、地学教育の先細りに。

東京都港区の私立麻布高校の山賀進教諭(58)は、
地学の授業のテーマを2日前に発生した「岩手・宮城内陸地震」に変更、
生徒を驚かせた。
気象庁の発表や新聞記事、東大地震研の分析などの情報を
パソコンのスライドにまとめ、緊急地震速報の課題まで踏み込む。

現在進行形の話題を授業に組み入れられるのは、地学教育の魅力。
ただ、研究が進んでも、「なぜ今、発生したか」などの
正解にたどりつく保証はない。
物理や化学の教員が、正解が見えにくい地学の授業を苦手と考える原因。

「物理や化学は、自然現象の一部を切り取って、
原因と結果の関係を単純化して追求する学問。
地学は対照的に、宇宙誕生からの時間、空間、自然を
全体的に鳥観する複雑系の学問。
地学教員の役割の一つは、今の科学で解明できないことがたくさんある、
と教えること」(山賀教諭)

生活に直結し、常に幅広い視点からの考察を求める地学。
学習意義が増えることこそあれ、減ることはないはずだ。

◆高校地学の実態

大阪府高等学校地学教育研究会が2004年に行った調査では、
府内の公立高で回答した115校のうち、地学を開講していたのは63%。
地学の内容を含む理科総合Bの開講は67%、
うち地学教員が地学分野を教えるのは62%。
会員も大半が50代以上。
同会では、「5~10年後には、この数値すら維持できないかもしれない」

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080724-OYT8T00272.htm

0 件のコメント: