(読売 7月24日)
高校の地学教育が瀬戸際に立っている。
「石灰岩が一番」、「かんらん岩の青や紫もいい!」
大阪府岸和田市の府立岸和田高校で、地学の授業。
薄く切った岩石の標本を、偏光顕微鏡でのぞいた2年生は、
ステンドグラスのような美しい光の造形に、一目で夢中に。
寺戸真教諭(51)は、「岩石には、性質が違う鉱物の結晶が集まっている。
偏光顕微鏡で見えた色から、鉱物の種類や組み合わせがわかり、
石の種類を調べることができる。
みなさんも、石の魅力に気づいてください」と授業を締めた。
地学研究に定評のある大阪市立大がある大阪は、
伝統的に学校の地学教育も強く、教材研究も盛ん。
徳島出身の寺戸教諭も、大阪で地学教員に採用されて25年。
進路指導部長でもある寺戸教諭は、不本意ながら1年生の進路指導で、
理系の生徒は地学を選ばないように指導。
地学の試験が必要な理系の大学が少なく、大学入試センター試験は
物理と地学が同じ時間で、地学研究を志す生徒にもリスクが高い。
現2、3年で地学を選択した145人全員が、文系志望。
宇宙、気象、地震、火山、環境、防災など、科学ニュースの多くに、
地学が深くかかわっている。
「天変地異に対応し、生き抜く力を学ぶためにも、
高校生全員が知って欲しい学問なのに」と残念な思いでいっぱい。
現在、高校で働く地学教員の多くが50歳代で、高齢化が進む。
地学教員を募集する教育委員会が、ほとんどない。
高度な受験指導をする場面が少なく、天文は物理、環境は化学や生物など、
他の教科と重なる部分が多く、他の専門教員でも指導できると考えられがち。
地学の魅力や意義を伝えられる教員が少なく、
理系で有能な生徒が選択しない悪循環が、地学教育の先細りに。
東京都港区の私立麻布高校の山賀進教諭(58)は、
地学の授業のテーマを2日前に発生した「岩手・宮城内陸地震」に変更、
生徒を驚かせた。
気象庁の発表や新聞記事、東大地震研の分析などの情報を
パソコンのスライドにまとめ、緊急地震速報の課題まで踏み込む。
現在進行形の話題を授業に組み入れられるのは、地学教育の魅力。
ただ、研究が進んでも、「なぜ今、発生したか」などの
正解にたどりつく保証はない。
物理や化学の教員が、正解が見えにくい地学の授業を苦手と考える原因。
「物理や化学は、自然現象の一部を切り取って、
原因と結果の関係を単純化して追求する学問。
地学は対照的に、宇宙誕生からの時間、空間、自然を
全体的に鳥観する複雑系の学問。
地学教員の役割の一つは、今の科学で解明できないことがたくさんある、
と教えること」(山賀教諭)
生活に直結し、常に幅広い視点からの考察を求める地学。
学習意義が増えることこそあれ、減ることはないはずだ。
◆高校地学の実態
大阪府高等学校地学教育研究会が2004年に行った調査では、
府内の公立高で回答した115校のうち、地学を開講していたのは63%。
地学の内容を含む理科総合Bの開講は67%、
うち地学教員が地学分野を教えるのは62%。
会員も大半が50代以上。
同会では、「5~10年後には、この数値すら維持できないかもしれない」
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080724-OYT8T00272.htm
0 件のコメント:
コメントを投稿