(読売 7月23日)
高校生に、科学の心を育てようと教員が奮闘する。
マイナス196度の液体窒素の煙の上で、
ボタン電池のような円形磁石が、震えるように浮かび上がる。
日が完全に暮れた高校の教室で、たった2人の生徒が、
息をのむように磁石を見つめた。
大阪府立成城高校の3部は、午後6時過ぎに授業が始まる定時制。
総合学科2、3年の「電気概論」の授業で、横川敬一教諭(45)が、
超伝導の実験を実演。
「君たちが授業で取ったデータを使って、論文を学会に発表。
論文に成城高校・定時制って載るからな」。
横川教諭がはっぱを掛けると、2人は、照れたような笑顔を見せた。
横川教諭は2000年、大阪市立大学3年に編入学。
現在は、大学院で電子物性学を学び、超伝導などの研究も続ける。
定時制には、「自分は学力がない」、「先生も授業の手を抜く」と
初めから思いこんでいる生徒もいる。
そんな姿に悔しさを感じ、「最先端の研究に触れさせ、
達成感のある授業がしたい」と、昨年から超伝導を授業に組み入れた。
今年、電気概論を選択した生徒は4人。
仕事や家庭の事情もあり、全員そろわない日がほとんど。
それでも生徒は真剣で、鉛筆の芯で電気抵抗を測る訓練をしながら、
超伝導の仕組みやデータの取り方、用語を覚えていく。
授業を受ける近藤悠輝君(17)は、
「内容は難しいけど、ゆっくり考えれば理解できる。
将来、こんな仕事をしてみたい」。
授業は昨年の実績が評価され、科学技術振興機構の
サイエンス・パートナーシップ・プロジェクトに選ばれた。
高度な実験も、大学の支援があってこそ出来る。
横川教諭を指導する大阪市大の村田恵三教授(58)は、
「熱い思いを持つ先生が指導するのに、協力は惜しまない。
定時制であることは関係ない」。
福井県鯖江市の県立丹南高校は、月1回のペースで昼休みに
物理、化学、生物の科学実験をする講座
「ランチタイムサイエンス」を始めて4年。
実験場所は、パンなどを買いに来る生徒が足を止めやすい
購買部近くの廊下。
海の生物がテーマ。
西出和彦教諭(47)が、近くの漁協の協力で採集したウニやヒトデ、
ウミウシなどを水槽に入れ、生徒を待ち受ける。
昼休みは40分。実験は正味30分。
ウニの口から塩化カリウム溶液を入れて放精を促し、
顕微鏡の画像をモニターに映す。
実験に積極的な生徒、水槽の生物をつかんで楽しむ生徒、
物珍しそうに見守る生徒。
接し方は様々だが、西出教諭はそれで十分と考える。
「地方の学校は、科学館や自然観察会などの仕掛けが少ない。
体験しようとしない子は、都会よりも体験が少ないくらい。
生徒の日常会話に、少しでも昼休みの実験講座や科学の話題が上ればいい」
高校は多くの生徒にとって、学校で科学を学ぶ最後の機会。
科学を身近に感じる心を育てる知恵を絞ってほしい。
◆サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)
大学や科学館などと連携した、科学技術や理数への探究心を高める
学習活動の支援事業で、2006年から実施。研究者、技術者らが
実験などの講師をする「講座型」、夏休みなどに生徒を公募する「合宿型」。
今年度は1077件が採択、2135校が参加の見込み。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080723-OYT8T00216.htm
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