(読売 7月22日)
生命科学を必修化した高校がある。
京都市の私立立命館高校には、2年生全員に週3時間、
「生命」の授業がある。
生物Iと生物2の内容を整理し、生徒全員に学んでほしい知識を生命、
それ以外を3年の選択生物とした。
実験などを通じ、生命科学の基本を学ぶカリキュラム。
「DNAという言葉は、授業で何度も使っていますが、きょうはまったく違う
二つの生物から、生命の設計図であるDNAを抽出してみよう」
担当の久保田一暁教諭(38)は、9組の生徒24人に、
近くのスーパーで買ってきた鶏のレバーとバナナを見せた。
レバーとバナナを、別々にミキサーで砕き、湯せんして余分なたんぱく質を
固めてから、遠心分離器にかける。
試験管の上澄みをエタノールに加えると、
白い糸くずのような微量のDNAが姿を現した。
「写真を見たことはあるけど、実物は初めて。本当に糸みたい」。
男子生徒が、濾紙の上に取ったDNAを、興味深そうに眺めた。
9割が立命館大に進学する同校は、理数教育の質の高さで定評があり、
文部科学省のスーパーサイエンスハイスクールにも指定。
高校の学習指導要領では、生命科学の理解に必要な、
遺伝子からたんぱく質が作られる仕組み、代謝、進化、
バイオテクノロジーなどの内容の大半が、生物2に含まれる。
しかし、生物2の履修率は1割程度、
文系の高校生は、大半が学習しないまま卒業。
「欧米では、中学や高校で生命科学の基本を学ぶのが常識で、
日本でもこうした授業が広まってほしい。
遺伝子組み換え作物やES細胞(胚性幹細胞)、生物多様性から
環境まで広がる生命科学の話題は、文系・理系にかかわらず、
社会人になった時に、自分の判断で選択が必要になる」。
約300ページの教本は、久保田教諭がまとめた。
ES細胞などの新しいトピックがニュースなどで登場すれば、
「科学読み物」などのコラムにして、翌年の教本に追加。
授業は、毎年11月になると、3人程度のグループごとにテーマを決めて、
調査や取材、実験などを通して意見をまとめ、年度末に発表。
生命科学について問題意識を持って行動し、
意見を発言できる力をつけるのが目的。
バイオエタノールについて発表した渡辺亜美さん(17)のグループは、
クラスコンテストで優勝。
「生命の授業の内容が、ここまで濃いとは思わなかった。
本格的な実験をするだけでなく、自分で理由を考える学習が多く、
論理的に考える力がついたと思う」
受験を前提に授業を作る多くの一般校で、大胆な教科の再編は難しい。
とはいえ、社会に出た時に必要な科学の知識を教えるのは、
中学や高校に課せられた使命のはず。
◆スーパーサイエンスハイスクール(SSH)
科学技術に強い人材の育成を目的にした理数教育重点校。
大学や研究機関と連携した教育活動をしたり、
指導要領を超えた理科の学習カリキュラムを組んだりする。
科学技術振興機構が、活動に必要な経費を支援。
期間は5年間で、2008年度は102校が指定。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080722-OYT8T00205.htm
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