2007年8月23日木曜日

体内時計の鍵となる新たな遺伝子を発見!

(nature asia-pacific、西村尚子サイエンスライター)

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター システムバイオロジー研究チーム 
上田泰己チームリーダー(TL)

徹夜や時差のある国への旅行によって、
1日の生活リズムが大きく狂ってしまうのは、
私たちの体内に24時間周期でリズムを刻む時計があるから。

体内時計は、「時計遺伝子」と総称される複数の遺伝子によって
機能すると考えられているが、
上田TLらのグループは、ショウジョウバエを使って、
その鍵となりうる新たな遺伝子を発見。

体内時計は、バクテリアからショウジョウバエ、マウス、ヒトに至るまで
多くの生物種にあり、24時間周期の生体リズムを作り出している。
ヒトでは、睡眠や覚醒などに関与し、さまざまな生理機能に影響を与えている。
これまでに、ほ乳類では約20の時計遺伝子候補が同定され、
そのうち朝、昼、晩にそれぞれ発現する3つの遺伝子のある配列(制御配列)が
体内時計の中核を担っているとの説が有力。

上田TLらは、ショウジョウバエの頭部において
24時間周期のリズムで発現している遺伝子を200個突き止め、
そのうち137遺伝子についての変異体を作り出した。
次に、RNAi技術(in vivo RNAi)を用いて、
脳内の時計組織(24時間周期を制御する神経細胞群)における
それぞれの遺伝子の発現を抑制して解析したところ、
5つの遺伝子が時計遺伝子の候補に。
そのなかで、体内時計への影響が最も大きかったcwo遺伝子
「チップ・オン・チップ」を用いて解析した結果、
この遺伝子が自分自身や他の時計遺伝子を制御していることが明らかに。

cwo遺伝子の「cwo」は、「Clockwork Orange(時計じかけのオレンジ)」の略。
この遺伝子に、「オレンジドメイン」とよばれる配列が含まれていたことから、
アンソニー・バージェスによる原作をスタンリー・キュービックが監督した
『時計じかけのオレンジ』という映画にちなんで、
遺伝子にも同じ名前が付けられたという。

「cwo遺伝子は、ヒト体内時計に関与するDec1、Dec2、Hes5遺伝子と似た配列。
ほ乳類のDec1、Dec2遺伝子は、体内時計の中枢(視交差上核)で
約24時間ごとに発現し、時計遺伝子の転写を抑制する」と上田TL。

体内時計の研究の歴史は古く、始まりは植物の概日リズムの認識。
1960年代には、体内時計の特徴が生理学的な実験で定量的に測定。
1980年代に入ると、分子生物学的な手法によって
体内時計システムを構成するさまざまな分子を明らかに。

「現在は、これまでの成果から定量的な性質をボトムアップに理解し、
体内時計システムの設計原理を分子レベルで解明する段階」。
cwo遺伝子の発見は、その重要な鍵に。

ハエは、「活発に活動する時間帯」と「あまり活動しない時間帯」が
周期的に現れる行動リズムをもつが、
cwo遺伝子の変異体ショウジョウバエでは、
24時間周期が約26時間に伸びたり、周期性が完全になくなったりした。
ヒトでも、体内時計の乱れによると思われるリズム障害が報告。
「cwo遺伝子に相当するヒトの遺伝子が、
リズム障害の診断や治療標的の候補にもなりうる」。

23億年程前に誕生したとされるシアノバクテリアにも体内時計があり、
体内時計の起源はきわめて古い。
「生命は、約24時間周期の地球の自転サイクルに影響を受けて、
進化の過程で体内時計を獲得したのだろう。
動物、シアノバクテリア、植物のそれぞれの体内時計をつくるために
機能する遺伝子群はそれぞれ異なっている。
おそらく、進化の過程で何度も、新たな時計が発明されたのだろう」。

ヒトは夜になるとなぜ眠くなるのか?
誰もが抱く素朴な疑問に答えが見つかる日は遠くないようだ。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=39

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体内時計の研究は、とても興味深いですね。
人間の生活リズムが徐々に夜型に変わりつつあります。
生物学的な生活リズムと、社会学的な生活リズムに
「ずれ」が生じています。
果たして、この「ずれ」はたいした問題ではないのか、
それとも深刻な問題となるのか?
そういう問題提起の意味でも、健康を考えるためにも、
このような研究で多くの知見を生み出してほしいです。
ちなみに、私は欧米に行った時に時差ぼけにはなりません。
生活リズムが合うようです。
日本での生活リズムが崩れているせいですが・・・

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