2008年7月5日土曜日

スポーツ21世紀:新しい波/273 バレー協会・個人登録制度/8

(毎日 6月28日)


4月の東京都高体連女子バレーボール専門部会総会で、
日本バレーボール協会(JVA)の山岸紀郎専務理事は、
会場の高校生らに個人登録制度のメリットを説明。


「中学、高校(のチーム)だけでなく、それ以外から試合に
参加するチャンスが出てくる。
皆さんも、『中学校のOGでチームを作って、皇后杯に出ようよ』
という話になるかもしれません。
天皇杯・皇后杯は、学校やクラブなどカテゴリーの枠を超えた
チームの参加を認めています」

「天皇杯・皇后杯」とは昨年度、黒鷲旗大会から分離する形でスタートした
天皇杯・皇后杯全日本選手権大会のこと。
第1回は昨年4月から各都道府県予選を行い、
今年1月に男子はJT、女子は東レが優勝。

大会について、JVAのホームページは
「(JVAに)有効に登録されていれば、誰でも参加することが可能。
バレーボールを行うすべての選手が、日本一を目指せる壮大な大会」。
個人登録制度と不可分の関係にあることが分かる。

こうした施策は、日本サッカー協会(JFA)の影響を強く受けている。
総収入が約175億円(08年度予算)に達するJFAも、
以前は他競技団体と変わらぬ「貧乏所帯」。

成長のきっかけは、77年からの長沼健専務理事(当時)による改革。
その柱が、個人登録制度導入。

「中学生」「高校生」など所属・身分による種別区分を年齢ごとに改め、
加盟登録費を個人から徴収。
登録選手へのメリットとして、天皇杯全日本選手権大会を、
全国すべての登録チームが参加できるトーナメント大会に衣替え。

個人登録について、JVA同様に中学校など現場からの反発もあったが、
これを機に赤字体質を脱却。
93年のJリーグ発足、代表チーム強化、02年の日韓W杯開催へ。

近年、バスケットやバレーなどが個人登録制度を導入した背景には、
こうしたサッカーの実績がある。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

秋田全県で小型家電回収、携帯電話やデジカメ 10月メドに実験

(日経 6月24日)

秋田県は10月をメドに、家庭で要らなくなった携帯電話などの
小型家電を回収する実験を全県に広げる。
現在は、県北部の7市町で実施、県内で認知度を高め、
地域特性のデータなどを収集しやすくする。

実験は、2006年に大館市で全国で初めてスタート。
金属資源リサイクルのモデル地域としての地位を確立する狙い。

寺田典城知事が、県議会で表明。
回収するのは、家電リサイクル法の対象にならない
携帯電話やデジタルカメラなど。

実験には、東北大学の中村崇教授が代表を務めるRtoS研究会や
DOWAホールディングスなどが参加
スーパーの店頭などに回収ポストを置き、1年間で約17トンを集めた。

全県に広げるため、回収ポストの設置場所を家電量販店などに広げるほか、
効率的な回収・分析システムも導入。

http://www.nikkei.co.jp/news/retto/20080623c3b2304m23.html

堺市臨海部に世界最大級の太陽光発電施設計画

(サイエンスポータル 2008年6月24日)

堺市臨海部に、世界最大級の太陽光発電施設を建設する計画を
関西電力、シャープ株式会社、堺市が公表。

関西電力が建設する発電出力1万キロワットの太陽光発電所と、
シャープと進出企業によるコンビナートの各工場の屋根上などに
シャープと関西電力グループが共同で設置する
太陽光発電施設(発電出力最大1万8千キロ)の2施設から成る。

1万キロワットの太陽光発電所は、堺第7-3区産業廃棄物埋立処分場の
敷地(大阪府から借用予定)内に建設。
来年度に着工し、2011年度完成の予定。総事業費は約50億円。

工場の屋根などに設置される発電施設は、10年3月までに着工、
11年3月までに運転開始の予定。
シャープが、10年3月までに稼動を予定している太陽電池新工場で
生産する薄膜シリコン太陽電池モジュールが採用。

太陽光発電は、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを排出しない
発電システムとして各国で導入が急がれている。
関西電力やシャープはこの計画により、年間1万トンのCO2削減の見込み。

日本は京都議定書により、1990年の温室効果ガス排出量
(CO2換算で12億6,100 万トン)の6%削減を2008年から12年までに
達成することが義務づけ。

2008年7月4日金曜日

どん底からはい上がる 「同じ悲しみ」分かち合い 緊急連載企画「命つなぐために-自殺大国ニッポンのいま」5回続きの(5)

(共同通信社 2008年6月25日)

5月17日、JR仙台駅近くのホールに千葉や岐阜、大阪など
各地の自殺者遺族が集まった。
約30都道府県、200人以上が参加する「全国自死遺族連絡会」の初集会。

「何十年と続く悲しみにどう向き合うか」、「地域で孤立する仲間を救いたい」。
これまで表舞台に立つことが少なかった遺族たちの
「生の声」が会場に響いた。

「遺族だからこそ、気持ちを分かり合える」。
福島市の女性の言葉に、拍手がわく。
連絡会の世話人、田中幸子さん(59)=仙台市=も壇上で小さくうなずいた。

3年前、幸子さんは警察官の長男健一さん=当時(34)=を自殺で亡くした。
異動直後の激務に体調を崩し、休職中の出来事。
休職が決まった後も、健一さんが自主的に仕事に出ていたと後で知った。
「ゆっくり休み、落ち着いてきていると思っていた」。
息子の苦しみを理解し切れていなかった後悔。
「後を追いたい」との気持ちを懸命に抑えた。

すがる思いで遺族支援の会合に参加したが、
当事者でないスタッフを交えて悩みを語り合う進め方に、なじめなかった。
「いすに座って、しくしく泣いている『典型的な遺族』を演じてしまった」。

会合の後、遺族だけで開かれた「お茶会」の方がしっくりきた。
冗談を言っていたかと思うと、突然床に突っ伏して泣きだす人。
同じ痛みを持つ人同士なら、素直に振る舞えると知った。
遺族が運営する自助グループ「藍の会」を発足させたのは、2006年。

他県からも、参加者や電話相談が相次いだ。
「当事者が思いをはき出せる場が、いかに少ないか」。
そんな驚きが、各地の遺族や自助グループが連携し、
支え合う全国連絡会の結成につながった。

昨年6月に政府が決定した「自殺総合対策大綱」には、
遺族支援も柱の一つとして明記。
だが、具体的な方策はまだ途上。
精神的ケアや相続などの法律相談、生活支援の充実など課題は山積。

「国はなぜ、遺族支援の仕組みづくりに当事者の声を生かさないのか」。
連絡会の初集会では、こんな不満の声も。
行政の支援策検討の場で遺族が直接意見を述べる機会は、
ほとんどないのが実情。

「遺族だからこそ、できる遺族支援がある」。
その思いを行政や専門家にも伝えたい。まだ声は小さい。

それでも最近、各地の自治体から問い合わせが来るように。
「『行動する遺族』が、認められつつあるのかな」。
幸子さんは明るい表情でそう話した。

※ 自殺者遺族の支援  

国の自殺総合対策大綱は、自殺した人の遺族への対応を
「後追い自殺を防ぐことも期待できる」として重視。
自助グループの運営支援や、相談窓口を記したパンフレットの配布などに
積極的に取り組むとしている。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=76284

リンドウを収穫、出荷 奥州・衣川

(岩手日報 7月2日)

岩手・宮城内陸地震により大きな被害を受けた
奥州市衣川区で、生産が盛んなリンドウの収穫が始まった。

衣川区、農業高橋勉さん(63)は、妻成子さん(57)と
自宅のリンドウ畑約35アールで、高さ70-90センチに成長した
「長野極早生(わせ)」を収穫。

今年は日照があり、収穫は例年より4、5日早い。
「断水で成長を心配したが、品質に問題はなさそうだ」と喜ぶ。

同市の岩手ふるさと農協によると、衣川区では主に転作作物として
66軒の農家がリンドウの生産に取り組んでいる。
ピンク色の花を咲かせるオリジナルブランド「衣川ピンク」など
約40品種があり、出荷は11月まで続く。

当世留学生事情(5)専門分野の日本語強化

(読売 6月21日)

大学で必要な能力に特化した日本語教育が進化している。
「いろいろな」は「様々な」。「だんだん」は「次第に」。
「リポート作成」のテキストは、話し言葉から書き言葉への変換が
練習問題になっていた。
「口頭発表」のテキストでは「一般的には」など、発表でよく使う表現が並ぶ。

独立行政法人・国際交流基金が、日本で大学生活を送る留学生向けに
2006年に開発したオリジナル教材。
「会話」のテキストでは、教授とのやりとりが中心。
「今よろしいですか」、「お手伝いしましょうか」など、普通の日本語教育なら、
上級レベルの敬語も登場。

東南アジア諸国連合(ASEAN)にバングラデシュを加えた11か国から
選ばれた18人が毎年、日本の大学院に進学する前に、
この教材を使って、同基金の研修施設、関西国際センターで
ゼロから日本語を学ぶ。期間は7か月。
文法学習は最低限にとどめ、必要な日本語を最短で学ぶことが目標。

研修生は、食堂や図書館を備えた宿泊棟で生活し、茶道体験や
地元の家庭へのホームステイ、京都、奈良、広島への研修旅行など、
日本理解を深める行事に参加。

「リポート作成は、理系と文系を分けて指導した方がいいのでは」。
3人の日本語教育専門員が、指導法について協議。
日本の大学院に進学した元研修生の声を聞きながら、
テキストを日々、刷新。

それぞれの研究テーマに合わせた個別指導のため、
専門的な語彙リスト作りや、研究分野に関する論文の読解指導も。
「カリキュラム作りのために、我々も担当する学生の専門分野の
勉強もしている」と日本語教育専門員の1人、野畑理佳さん(36)。

センターを訪れる元研修生から聞き取り調査も。
三重大学大学院に進んだインドネシア人留学生、ナワウィさん(31)は
「授業にしっかりついて行けるし、研究の準備が十分にできる」。
国際交流基金は、事業の柱の一つに外国人に対する日本語教育を
掲げており、関西国際センターは、日本に赴任予定の外交官や公務員、
若手研究者らに、それぞれの専門に役立つ日本語を教えてきた。

このノウハウを応用し、1996年から、日本に留学予定の学生に対し、
現地での日本語教育を手がけてきた。
最近では、学内での日本語教育に頭を悩ませる大学から
問い合わせが増えている。
同基金日本語事業部の嘉数勝美部長(57)は、
「多くの留学生を迎えたい大学には利用価値は高い」。

同基金では、海外での日本語教育拠点の設置も進め、
現地の大学と協定を結ぶなどして、31か国40か所まで増加。
こうした拠点でも、このテキストを使い、
日本への留学を考える学生を増やしたい。

留学生と大学双方の負担を減らすためにも、
短期間に必要な日本語を習得する仕組みは欠かせない。

◆語学教育拠点

英国のブリティッシュ・カウンシル(113か国213か所=2007年)や
ドイツのゲーテ・インスティテュート(83か国147か所=08年)。
04年から展開する中国の孔子学院も、69か国238か所と急増(08年)。
国際交流基金は、海外の日本語教育拠点を2010年までに100か所以上に。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080621-OYT8T00215.htm

[第3部・イラク]情勢不安 スポーツに影

(読売 6月25日)

「ドーハの悲劇」と呼ばれるサッカー・ワールドカップ(W杯)
米国大会アジア最終予選(1993年)の日本戦。
ゴールを決めたイラクの元スター、アハマド・ラディさん(44)は、
母国のサッカーに対する情熱を感じる1人。

「空襲や戦闘で街が廃虚になった時でも、子どもたちは、
がれきの上でボールをけっていた。それがイラクなんだ」

98年に現役引退。昨年10月にイラク議会議員に就任。
青年スポーツ委員会のメンバーとして、
スポーツ復興に力を注ぐが、身の危険を抱えた仕事。

イラク戦争後、政情不安や混乱はスポーツ界に及び、
要人や元選手らがテロや拉致の対象となった。

2006年7月に武装集団の襲撃を受け、五輪委員会の会長ら
約30人が拉致され、会長は消息不明に。
「将来に希望がない人の犯罪だろうが、誰が敵か、何の理由か分からない」
と五輪委のティラス・オディシオ・アンワイア事務総長は嘆く。

サッカーに与える影響も深刻。
フル代表が参加した昨年7月のアジアカップで劇的な初優勝を飾ったが、
快進撃の間もバグダッドでは、市民への自爆テロが発生。
大会後、主将のFWユニスらは身の危険を感じて帰国を見合わせた。

選手の多くは海外でプレーしているため、代表の練習もままならず、
主催試合をアラブ首長国連邦(UAE)など周辺国を間借りして開催。
空爆で競技施設が破壊され、使用できるスタジアムは国内で一つだけ。
リーグ戦も、中断や停止が繰り返されている。

04年のアテネ五輪で準決勝まで進んだ五輪代表チームは、
北京五輪アジア予選で敗退。
フセイン・サイード・サッカー協会長は、「準備が出来なかった」と悲しんだ。
W杯南アフリカ大会アジア3次予選でも敗れ、国民は失望した。

ウエートリフティングはトルコ、ボートはドイツなど、
イラクでは国際オリンピック委員会(IOC)などの協力で、
五輪で有望な個人競技の選手を、
国外に送り込んで練習施設の確保と強化を進めている。

「今のイラクで、スポーツは唯一国民に希望を与えるもの」
(オディシオ事務総長)と関係者の努力は続いている。

一方6月に入り、政府がイラク五輪委に干渉しているとして、
IOCがイラク五輪委の暫定資格停止を決めるなど
国内では新たな混乱も生じている。
スポーツを取り巻く厳しい状況は予断を許さない。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080625.htm

2008年7月3日木曜日

コーヒーでつながる人の輪 「最悪」返上目指す 緊急連載企画「命つなぐために-自殺大国ニッポンのいま」5回続きの(4)

(共同通信社 2008年6月25日)

店員がカウンター越しに声を掛け、世間話に花が咲く。
「コーヒーもう1杯どう?」。何杯飲んでも、100円。

世界遺産の白神山地のふもと、秋田県藤里町に
火曜日の午後だけ開店するコーヒーサロン「よってたもれ」がある。
秋田弁で「寄ってください」という意味。
2003年の開店以降、不定期の移動式サロンも含め4000人以上が訪れた。

運営するのは、自殺予防を考える民間団体「心といのちを考える会」。
会長で住職の袴田俊英さん(49)は、店を「縁側のような場所」と表現。
農家の縁側でお茶を飲みながら、世間話をしていた昔のように、
誰でも集まれる場所を作ろうという発想から始まった。

店を訪れる客の話をじっくり聞き、
深刻な内容なら場所を移して相談に乗ることも。
つらい思いを抱えて涙を浮かべて来る客も、
一緒にコーヒーを飲むことで癒やされるようだ。

「機械化が進み、農作業が1人でできるようになったことで
『人のつながり』が切れ、精神的な不安定さが生まれた。
1人で悩まない状況を作ることが大切。
誰かに、『大変だ』と言える雰囲気をつくれば、自殺は少なくなるかも」。

店でくつろいでいた藤里町の村岡宏明さん(53)は、
「気軽に来られるオアシス。火曜になると、『行かねばな』と思う。
楽しみが増えた」とコーヒーを1口飲み、満足そうに目を細めた。

秋田県が、地域社会でそれまで「タブー視」されがちだった自殺問題を
正面から取り上げ、本格的な対策に乗り出したのは2001年度。

地域の保健師や開業医が、自殺の背景にあるとされるうつ病の兆候を
早期に発見し、専門医につなげるための研修などに力を入れてきた。
体の不調は、心の悩みが原因になっていることも多く、
かかりつけの内科医などに「目利き」をしてもらうのが狙い。

袴田さんらのような民間団体の活動もあり、07年の自殺者数は417人と
前年より76人(約15%)減少。
人口10万人当たりの自殺率は、発生地で集計する警察庁の統計では
山梨県を下回ったが、自殺者の居住地でみる厚生労働省の
人口動態統計では1995年から全国最悪が続いている。

「独り暮らしより、大家族の中で暮らしている高齢者の方が
『居場所がない』といった疎外感を感じやすい。孤独より孤立が問題」
と秋田県の担当者。
それでも手応えを感じているのか、
「『自殺率ワースト県』の返上はここ1、2年が勝負」。

※秋田県の自殺者

県内の2007年の自殺者417人のうち男性は309人、女性は108人。
年代別では、60代が66人で約16%、70代以上が111人で約27%、
60歳以上が全体の40%以上。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=76283

当世留学生事情(4)社員寮に入り 企業知る

(読売 6月20日)

企業の社員寮を、留学生に提供する取り組みがある。
東京都練馬区の東京メトロ平和台駅から、徒歩約10分。
三井物産平和台寮は閑静な住宅街にある。
立教大学大学院で学ぶ中国人留学生、謝善鵬さん(27)は、
この寮で社員に交じって生活。

会社から帰った社員3人と食堂で夕飯を食べながら、
「今就職活動中なんですよ」、「へえ、どんな状況?」、
「なかなか難しいですよ」。
そんなやりとりが気軽にできる。
寮費は、社員と同じで1万円足らず。朝夕付く食事も割安。

謝さんがこの寮に入ったのは2006年。
それまでは大学近くで一人暮らしをしていたが、家、大学、バイト先の
居酒屋を行き来するだけで、日本人との交流は少なかった。
「単に『おはよう』と、毎朝あいさつするだけでほっとする」と謝さん。
寮対抗のスポーツ大会にも参加し、「家族のような感じになれた」。

日本で就職を目指す留学生にとって、
社員寮は日本の文化を知る上でも重要。
謝さんは、「この寮の人は、平日朝早くから夜遅くまで働いているのに、
休日はしっかり遊びを満喫している。
大学やバイト先で見た日本人とは全く違い、
日本の会社で働くイメージが膨らんだ」

留学生への社員寮の提供は、経済同友会が参加企業を募る形で
1987年から始まっている。
当初は、参加企業も提供部屋数も増えたが、バブル経済の崩壊後、
社員寮を売却、提供部屋数は98年の838室をピークに減少、
07年には592室。

ただ、好転の兆しもある。
社員寮の賃貸業務を全国規模で展開する「共立メンテナンス」によると、
ここ2年で社員寮の契約部屋数は6~7%伸。
「社員研修の場として考えているところや、身近に相談出来る相手を置いて
離職を防ぐ狙いもあるようだ」。

1棟丸ごとの賃貸契約も増えている。
03年に若手の寮制度を廃止した三井物産も、3年後には復活。
部署間のコミュニケーション不足を補い、会社としての一体感を
醸成するには必要不可欠だという声。

特に、共同の風呂やトイレがある施設を優先的に探し、
より寮内での連帯感を強めるよう工夫。

現在は、8棟で18人の留学生を受け入れている。
古東誠・給与企画室長は、「社員と学生の生活パターンが違うこともあり、
そんなに接点が作れているわけではないが、
海外赴任が前提の社員にもよい刺激になるはず」。

「グローバル展開が当たり前となってきている日本企業にとって、
留学生を受け入れる意義は大きい」と、
社員寮の活用を進める財団法人「留学生支援企業協力推進協会」の
太田篤事務局長。
社員寮の活用に、もっと知恵を絞りたい。

◆日本での就職率は上昇傾向

2006年度の留学生3万2099人のうち、9411人(29.3%)が日本で就職。
04年度は、2万4961人中5705人(22.9%)で増加傾向。
政府の教育再生懇談会は、「留学生30万人計画」実現のため、
国内就職率の目標を5割にすることを提案。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080620-OYT8T00216.htm

[第3部・韓国]エリートにも「格差」

(読売 6月23日)

「精神訓練の一環でヘビを口にくわえたんです。失神した仲間もいました」。
1996年のアトランタ五輪アーチェリー女子個人・団体金メダルの
金京郁(キムキョンウク)さんは、現役時代に軍隊で行った
練習の思い出に苦笑いした。

アーチェリーの韓国女子は、五輪で個人6連覇、団体5連覇中。
今でこそ「ヘビくわえ」はしないが、度胸をつけるためのバンジージャンプも。
韓国のお家芸は、練習内容もひと味違う。

8~10歳ごろに弓を持ち、才能を認められた子供だけが
上の学校で競技を続ける。
代表候補になると、国立合宿所に住み、練習と試合の繰り返し。

愛好者という位置づけはないから、国内の選手登録は
約1500人と日本の約10分の1。
選ばれた者だけが競技を続けるエリート・ピラミッド。

ソウル市内の中学校の校舎屋上で、女子選手が矢を放っていた。
休日は一日中、授業がある時は放課後から深夜まで練習。
同じ時間、真下の教室では補習授業の真っ最中。
“未来の金メダリスト”を目指す呉(オ)タ美(ミ)さんは
「金メダリストになりたい。そのためには努力しないといけないから」。

そんな韓国有数のエリートスポーツも、環境は恵まれたものばかりではない。
教育熱が高い韓国では、子供一人当たりの養育費の高騰が
少子化の要因に挙げられるほど。
「学歴がないと、社会に出た後に厳しい」風潮があり、
スポーツに専念するなら、勝ち組にならねば、との考えが主流。

当然、メダリストになるのは難しいから、
親は「スポーツに専念するリスク」を避けたがる傾向。
呉さんを指導する韓煕貞(ハンヒジョン)コーチは、
「才能があっても、辞めていく選手は少なくない。
子供を説得できない親もいる。
そういうときは、強制的に弓を握らせるしかないが、選手の確保は大変だ」。

韓国オリンピアン協会の事務総長を務める宋錫漉(ソンソクロク)
京東大教授(スポーツマーケティング学)は、
韓国スポーツ界の現状を「著しい二極化」。

巨額の契約金や年俸で生計を立てるスポーツ選手、
生涯年金などの支援を受けられる五輪金メダリストはごく一部。
協会や実業団の力が強く、結果を残せなかったら
すぐに解雇される選手も少なくない。
「ずっと競技だけをやってきた人が引退後、社会に適応出来ないケースも多い」。

成功者の陰に、隠れた多くの敗者を救済するシステムはまだ未熟。
厳しい環境と過酷な生存競争――。
「価値があるのは1番だけ。2番以下は敗北」。
エリートスポーツに身をささげる強烈なプライドが、金メダルの系譜の源泉。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080623.htm

2008年7月2日水曜日

「弟の死は労災」姉が究明 泣き寝入りせず声上げて 緊急連載企画「命つなぐために-自殺大国ニッポンのいま」5回続きの(3)

(共同通信社 2008年6月25日)

東京都内のマンション。
諏訪裕美子さん(45)が事務所に使う部屋には、
9年前に過労自殺した弟、達徳さん=当時(34)=の
洋服や本などの遺品が並ぶ。

裕美子さんは今年2月、「過労死の労災申請」(自由国民社刊)を出版。
「孤立しがちな遺族を励まし、救済の手助けになれば」との願い。

機械メーカー勤務の達徳さんは1999年、自宅マンションから飛び降り自殺。
納期に追われ顧客対応にも苦労、1日11~18時間の長時間労働が続く。
「僕は自転車をこいでいるようだ。疲れていても、こぎ続けなければならない。
もう疲れた」と同僚に漏らしていた。

裕美子さんは2000年、自殺は「仕事が原因」と労災申請。
仕事の実態を明らかにするため、同僚や友人から証言を集めた。
「会社の帰りや休日に会ったり、電話で話を聞いたが、1人では大変だった」。
時間が足りず、会社を辞めて奔走したが、
情報は少なく思うようにいかなかった。
証言や資料は労働基準監督署に出したが、
「労災認定には、どんなものが必要なのか分からずに悩んだ」。

孤独な活動が2年過ぎたころ、「過労死を考える家族の会」などの存在を知った。
「体験から得た情報集めのこつや、提出書類作成の仕方など
実際に役立つ助言をもらえて救われた」。
申請から2年8カ月後、達徳さんの労災は認定。
その後起こした民事裁判は06年、会社側と和解。

間もなくして、知人から過労自殺の労災申請の相談を受けた。
「こんな身近に同じ遺族が、と驚いた。
教えてほしいことのリストを見た途端、何も知識がなく
困っていたかつての自分が重なって」

裕美子さんは、それまで心に温めていた遺族の労災申請の手助けとなる
実用的な本の出版を決意、同じ思いを持つ共著者で
社会保険労務士の色部祐さんと動き始めた。

「知りたいことを分かりやすく」と心掛け、自身の体験だけでなく、
ほかの遺族がどんな要望を持っているのか聞き取り、本に反映。
過労死、過労自殺の予防策も加え、遺族の教訓を生かした
「危険信号」の見つけ方などを入れた。

「周囲の偏見や会社の協力がなく、労災申請をあきらめる遺族は少なくない。
申請件数が増え、社会の認識が高まれば、認定もされやすくなり、
過労死、過労自殺のない社会実現にも役立つ。その一助になれば」。
本に込めたもう一つの願い。

※ 過労自殺の認定

2007年度の過労自殺(未遂を含む)の労災申請件数は164件、
03年度の122件に比べ34%増。
認定件数は、07年度が81件と、03年度の40件から倍増。
世代別認定件数では、07年度は20-30代が44%。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=76282

当世留学生事情(3)海外展開 見据えて採用

(読売 6月19日)

ベンチャー企業と留学生をつなぐ取り組みがある。
慶応大学大学院に留学中の中国の陳実さん(24)は、
価格比較サイト運営会社「ECナビ」(従業員180人)
インターンシップ(就学体験)生として働く。

チームで競合他社の動向を分析するのが仕事。
9月から正社員になることが決まった。
「留学生仲間で、日本のベンチャー企業の話題はほとんどなかった」。

仲を取り持ったのは、経済産業省関東経済産業局が
関東地域のベンチャー企業に参加を呼びかけた
「Career Gateway to Asia」。
留学生フェアや経営者の講演を開き、留学生のインターンシップを進める。

ECナビも、この事業で2人の留学生をインターンシップで受け入れた。
昨年度、同社の採用試験を受けた約2000人のうち留学生はわずか数人。
これまで留学生の採用はゼロ。
昨年、海外に留学している日本人学生を採用しようと
米サンフランシスコの留学フェアに出展したが、
海外からの留学生には目がいっていなかった。

しかし、中国への本格進出を考えているだけに、
宇佐美進典社長(35)は、「試験を受けに来た人から選んで採るという
受け身の採用から、中国でどうビジネスを展開するかに合う人を選ぶ
攻めの採用をするいいきっかけになった」。

陳さんの採用をきっかけに、留学生を積極的に採用。
「これまで積み上げてきた目に見えないノウハウを、
海外で軌道に乗せるには、両方の文化を分かっている人を
教育した方が成功の確率も上がる。
留学生は、待遇に不満があればすぐ辞めるとも言われるが、
我々は仕事のやり方を1、2年で教え、すぐ発揮できる場を提供する。
留学生からも、選ばれる会社になればいい

大々的に留学生を募集するインターネット商社「イー・クラシス」では、
今年度の新卒採用者60人のうち留学生が35人。
留学生だけの会社説明会も実施、100人規模で学生が集まった。
宮下崇俊社長(34)自身が約130人の留学生を面接、
負けん気が強く向上心の強い、社風に合う留学生を採用。

新入社員は、研修で2週間合宿し、早朝マラソンから穴掘りまで
体力の限界に挑む。
「社会とはいかに理不尽なことが多いか実感してもらうため」と、
合宿によって「留学生も日本人も関係なく、うちの社員として一体感が出た」。

留学生の採用増は、やはり事業の海外展開を予定。
3年前から支店を出す上海では、現地採用スタッフを使ってきたが、
「本社の社風を身につけた上で送り込んでほしい」という声を受けて、
日本で留学生を採用して育成する方法に。

「2年ほどで、海外支店のそれなりの立場になってもらう。
立場が人を育てることもある」と宮下社長。
来年度は50人程度採用する方針。
海外進出を目指すベンチャー企業の留学生争奪戦が始まっている。

◆日本企業の海外進出

製造業の海外現地法人数をアジア全体で見ると、
1995年の4543社が2005年には8319社と急増。
特に、中国には3585社で10年前の3倍増。
海外展開する中小企業は、過去10年で4割近く増え、06年に7551社。
情報通信やサービス業などの非製造業が54%。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080619-OYT8T00260.htm

[第2部・ブラジル](下)W杯至上主義 崩れる

(読売 6月20日)

ブラジルが、いまだに五輪で勝てない理由として、
多くの同国サッカー関係者が指摘するのが、ワールドカップ(W杯)の存在。

「ブラジル人の最大の関心事はW杯で、普段はサッカーなんか見ない
おばさんだって熱狂する。五輪は、メディアで成績を気にする程度」
選手で2度、監督、コーチとしても2度のW杯優勝を経験し、
3位だった1996年アトランタ五輪監督も務めたマリオ・ザガロ氏(76)。

国中がお祭り騒ぎになるW杯に比べ、84年ロス五輪でプロが解禁され、
年齢制限もある五輪への関心は低く、それがチーム作りにも影響。

しかし、その関心度も近年、着実に変わってきた。
フル代表と五輪代表を、ドゥンガ監督とともに指揮する元鹿島の
ジョルジーニョコーチ(40)は、「自分が出た88年ソウル五輪では
重圧はなかったが、今は勝てないことで国民のイライラが募り、
期待や注目につながっている」。

注目されなかったタイトルは、逃し続けたことで価値を高め、
国民の期待値も上がった。
そんな空気は、若い選手の意識も染めつつある。

五輪代表の有力候補で、サンパウロFCのMFエルナネス(23)は、
「普通のブラジル人なら、W杯でのプレーを夢見ると言うだろうけど、
僕は五輪出場が夢だった。
それは、ブラジルが一度も取っていない金メダルを、
自分が初めて手にしたかったから」

父が地方都市、レシフェのサトウキビ加工工場で働いていたエルナネスは、
「ボールが買えなくて、空き缶でサッカーをしたりして創造性を磨いた」
という貧しい層の出身。
14歳で地元クラブに見いだされ、16歳でサンパウロFCへ移籍。
貧困からはい上がった、ブラジルの典型的なトップレベルのプロ選手。
そんな選手が、「W杯より五輪」と明言。

W杯至上主義だったブラジルサッカー界の価値観は、
確かに変わり始めている。

94年W杯で、ドゥンガを主将としたチームを優勝させたザガロ氏は、
「ドゥンガはよくやってるし、金のチャンスは十分ある。
だけどね、サッカーには運ってやつも大事なんだ」。

価値観の変化で、ブラジル五輪代表の「運」も変わるか。
8月の北京で、答えは出る。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080620.htm

2008年7月1日火曜日

日が昇るまで生きて 受話器握り、寄り添う 緊急連載企画「命つなぐために-自殺大国ニッポンのいま」5回続きの(2)

(共同通信社 2008年6月25日)

蛍光灯の白い光の下、着信の赤ランプが瞬き続ける。
夜の闇の向こうから、助けを求める声が押し寄せる。
「日が昇るまで生きて」。

相談者の苦しみを受け止めるのは、ボランティアの主婦や学生、会社員ら。
「眠らない電話」で、年間1万2000件超の相談を受ける民間団体、
東京自殺防止センター(新宿区)を訪ねた。

午後8時、繁華街から離れたマンション2階の事務所。
最初につながったうつ病の女性と話し始めて13分後、
相談員の主婦(64)が聞いた。
「死にたいと思うことはありますか」。

本当の気持ちを吐き出してもらうための「死の問い」は、
どの相談員も必ず口にする。女性の答えは、「消えてしまいたい」。
「泣きたい時は泣いていいんですよ」と寄り添う相談員。
40分ほど話して受話器を置くと、すぐ次の電話が入る。
「疲れた。いろいろあって...」。また女性。ぽつり、ぽつりと話す。
3人目は年配の男性。公園のベンチからだ。
「首つりを考えているが、周りに迷惑をかけたくない」

午前零時。公衆電話の男性は、経験5年の男性相談員(31)に告げた。
昼間も自殺しようとしたが、踏ん切りがつかなかった。
これからまたやるつもり。
相談員は「死んでほしくない」と伝えたが、通話度数がなくなり切れた。
「気掛かりです。またかけてきてほしい」

東京自殺防止センターは1998年発足。
日本の自殺者数が3万人を超えた年。
大阪で同様の取り組みをしていた西原由記子さん(75)が開いた。
所長の加藤勇三さん(70)は、「『生きたい』と『死にたい』の間で揺れる
人の力を信じ、歩き出すのを待つのが大事」。

相談員を目指して研修中の高城洋子さん(54)=仮名=は、
10年前に弟を自殺で亡くした。
死の数カ月前、東京から広島に帰省した際、本を読んでいた弟に
声を掛けたのが最後のやりとり。
「どう?」「ああ」。あの時、もっと話をしていたら?
弟にしてやれなかったことを、誰かのために。
10年間抱えてきた「宿題」。
死のふちに立つ人の心の声をとことん聞き、生きていてと伝えたい。

西原さんは、自殺者が後を絶たない現実に憤然とする。
センターが命綱になってきた自負はある。
だが、多くの人が希望を持てない社会。
「国は、もっと人々の『痛み』に目を向けてほしい」

午前6時。電話が鳴りやむころ、窓の外には青い空が広がっていた。
10時間で受けた相談は38件。つながらなかった電話もたくさんある。

※ 東京自殺防止センター 

相談は、毎日午後8時から翌午前6時まで、
電話03(5286)9090。
自殺しようとしている人の求めに応じ、スタッフが駆けつける「緊急訪問」や、
事務所での面接相談なども実施。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=76281

当世留学生事情(2)業界の人材 産学で育成

(読売 6月18日)

大学と企業がタイアップした取り組みが始まっている。
壁の白い模造紙には、「燃料費増」「高級志向」「女性進出」などと
小さな紙がたくさん張ってある。
埼玉県新座市にある立教大学観光学部で、土曜1限目に行われている
「観光ビジネスプロジェクト」。
中国、ベトナム、韓国からの留学生計8人と日本人学生9人が、
3グループに分かれて議論。

中国人留学生、初延安さん(23)が中心になったグループのテーマは
「女性の社会進出が進むと、航空業界ではどんな変化が起きるか」。
「取り出した情報から何が想定できるか、もっと深掘りして」と
経営コンサルタントで兼任教授の那須一貴さん(42)の声が飛ぶ。

2週間前には、日本航空(JAL)の中堅社員から同社の
中期経営計画について説明を受け、同社を巡る環境について意見。
グループごとに、JALの新たなビジネスプランを、
1年間かけてまとめ、社員の前で提示。
学生たちの議論は、この日の授業後も夕方まで続いた。

同学部では、シェラトン系ホテルなどの運営会社スターウッド(米国)、
JAL、JTBなどと共同で、日本の観光産業で活躍する人材を育成する
プログラムをスタート。

日本政府が、アジアの懸け橋となる人材を育成するために始めた
「アジア人財資金構想」の一環。

JALは「エアラインビジネス論」、JTBは「観光情報論」などを提供、
社員がそれぞれ1年間、授業を担当。
JALの職場見学なども行われ、現役社員の声を聞く機会もある。

「ここでしっかり勉強すれば、就職につながる道が見えるので力も入る」と
中国人留学生、沈和さん(23)。
日本ツーリズム産業団体連合会によると、日本人の海外旅行先と、
日本に旅行で来る外国人の出身国は、ともに7割近くをアジア諸国。

日本語が話せ、日本の文化を知っているアジアの人材が
日本の観光産業の中で活躍する場はたくさんある。

濱島孝企画部長は、「人口減少社会の日本では、海外からの交流人口を
増やして活性化させることが重要。
卒業生が、日本に観光客を呼び込む役割を担ってもらえれば」。

ただ、留学生の卒業後の採用となると、参加企業の間に温度差も。
スターウッドの岩田陽子日本・韓国・グアム地区統括人事部長は、
「即戦力として、すぐに採用できる人材を」と期待。

一方、JALの河合真吾人財開発センター長は、
「魅力ある人材を育てられると思うが、優先採用は今のところ考えていない」。
参加企業を増やすことについても、
企業側から同業他社の参入には消極的な声。

留学生を日本での就職にどう結びつけるのか?
その点に、このプログラムの真価が問われることに。

◆アジア人財資金構想

優秀な留学生を日本に招き、産業界と大学が一体となり、
留学生の募集・選抜から専門教育・日本語教育、就職活動支援までの
人材育成プログラムを一貫して行う事業。2007年から始まった。
名古屋工業大とトヨタ自動車などで自動車産業、立命館大と松下電器産業などで
IT産業といった20の共同事業が進行中。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080618-OYT8T00227.htm

[第2部・ブラジル](上)サッカー王国 「金」への悲願

(読売 6月19日)

5月初めのリオデジャネイロは雨続き。
浜には、ぬれた砂の感触を楽しむように、
はだしでボールを追う少年たちがいた。
ビーチ、空き地、道端。天気に関係なく、サッカー少年は街にあふれる。

5月4日、リオ州選手権決勝。
7万8000人収容のマラカナン・スタジアムが満員の観客で揺れた。
ワールドカップ(W杯)で最多5回優勝を誇る王国に一歩踏み入れば、
王国たる理由を肌で感じる。

しかし、ブラジルは、五輪王座をつかめない。
南米ではウルグアイが2回、前回アテネ五輪でアルゼンチンも金メダル。
だが、52年から10度出場のブラジルは銀2回だけ。

コパカバーナビーチを見下ろす一室で、52年ヘルシンキ五輪代表のGK、
アルベルト・ロザリオさん(76)は静かに話し始めた。
「初期は、東欧が国家アマだったのに対し、我々プロが出られなかった」。
ロザリオさんは空軍軍人で、ブラジル開催の50年W杯で第3GK。
五輪に初出場した52年の代表たちも、同じレベルのアマ。

「次の理由は人気。50年の初開催でW杯人気が高まり、五輪は陰になった。
でも、そんな理由は80年代からは通じないけどね」

84年ロサンゼルス五輪から、W杯未出場のプロが解禁。
国内の関心は薄く、全国選手権22位の
インテルナシオナル主体でチームを派遣。
しかし、フランスに次ぐ銀メダル。

当時の監督、ジャイール・ピセルニ氏(63)は、
「全く期待されてないチームの銀が歴史を変え、五輪への注目度も変化」。

88年のソウル五輪にはロマリオに、ベベト、ジョルジーニョ(ともに元鹿島)が
加わるメンバーを送ったが、ソ連に決勝延長で1―2と惜敗。
ピセルニ氏は、「ロサンゼルス以降は常に優勝を狙えたが、勝てない。
サッカーだからとしか言いようがない」。

56年前、ベスト8で敗退したロザリオさんが、苦しげな表情でこぼした。
「4強をかけた西ドイツ戦、2―1の89分。
ゴール前で胸トラップした敵が、DFをかわしてシュート。
すごい弾道でゴール右上に刺さった。つらい思い出だ」
あと1分の悔恨。延長で力尽きた無念。
76歳の元GKは、半世紀続く胸の痛みを沈める母国の金メダルを待っている。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080619.htm

南東北3国立大が連携し基盤強化 山形・福島・宮城教育

(日経 6月18日)

山形大学(結城章夫学長)、福島大学(今野順夫学長)、
宮城教育大学(高橋孝助学長)の南東北3県の国立大学3校が
連携することで合意。

第1弾として、高校生らを対象とした進学説明会を3校共同で開催。
大学全入時代を迎えて、学校間競争が激しくなる中、
県境を越えた連携で基盤強化を図る狙い。

合同進学説明会は、JR仙台駅前の複合商業施設「アエル」内で開く。
3校の担当者らが大学の特色をそれぞれアピールするほか、
大学ごとに分かれたブースで個別相談にも応じる。

3校は、受験生獲得では競合関係にあるが、
「単独で開催するよりも、集客効果が高い」(山形大)と判断。

今後は、ファカルティ・デベロップメント
(FD、大学教職員の資質向上・能力開発)面での協力や
事務職員らの人事交流なども模索する見込み。

http://www.nikkei.co.jp/news/retto/20080617c3b1704d17.html

英国が新国際フェローシッププログラム

(サイエンスポータル 2008年6月24日)

英国が、若い博士課程修了者(ポスドク)を対象にした
新しい国際フェローシップ・プログラムを立ち上げ、
日本を初め各国のポスドクに応募を呼びかけている。

新しいプログラムは、「ニュートン・インタナショナル・フェローシップ」、
英アカデミー、王立協会、王立工学アカデミーが共同運営。
世界中の若手ポスドクを対象、英国の研究機関における研究支援として、
年2万4千ポンド(約500万円)の生計費と、8千ポンド(約170万円)の
研究費補助のほか、転勤手当2千ポンド(約42万円)を支給。
分野は自然科学、社会科学、工学、人文科学と幅広い。

期間は2年間だが、引き続き10年間、年6千ポンド(約130万円)の
研究支援が受けられる制度も備えている。
応募の締め切りは8月4日。

英イノベーション・大学・技能省のイアン・ピアソン科学・イノベーション
担当閣外相は昨年11月、海外から研究者を招へいする
国際的フェローシップとその後続プログラムに対し、
今後3年間で1,340万ポンドの予算をあてると発表。

昨年6月、英ブラウン新政権は省庁再編を実施。
貿易産業省と教育技能省を廃止し、旧貿易産業省の中にあった
科学・イノベーション庁と旧教育技能省の高等教育・技能部門を合体、
新たにイノベーション・大学・技能省をつくった。

同省に対しては、英国が科学、研究、イノベーションで世界をリードし、
世界に引けをとらない技能拠点を構築する、
政府の長期ビジョンを実行に移す責任が課されている。

http://scienceportal.jp/news/daily/0806/0806242.html

2008年6月30日月曜日

[第2部・豪州](下)公平精神で先住民支援

(読売 6月12日)

イアン・ソープ(25)が、先住民アボリジニの子供たちの支援を始めたのは、
同じ豪州人なのにフェアじゃない、というスポーツマンらしい正義感から。

「2002年にアボリジニ共同体を訪れ、生活水準の低さに衝撃を受けた。
平均で17年も違う寿命の短さにも。
僕は(五輪で)豪州を代表したのに、こんな現実を知らなかった。
一生かけても、問題を改善したいと思った」

不公平感は、身をもって体験済み。
「自分が誰かを、否定されるような経験だった」。
昨年3月、ソープの薬物検査が、男性ホルモンと性腺刺激ホルモンに
異常値を示したと報じられた。
8月に豪反ドーピング機関、11月に国際水泳連盟が、
自然要因だったとして終結を宣言。

ショックと吐き気の暗闇で、一つ心に残った出来事があった。
発覚後の豪州世論調査で、90%以上が「無実と信じる」と回答。
ソープが栄養補助剤も使わないほど、薬嫌いだったことや、
支援活動に熱心なその人間性を、人々が知っていたから。

ソープが03年に始めた「若さの泉」運動は、
辺地の先住民の子供たちに本を貸し出す制度を作り、
親を巻き込んだ読書・識字教育を進めるもの。
遠隔地にプールを作る試みもした。

遠隔地の共同体を訪れるたび、先住民文化や生活の知恵の深さに驚く。
ある時、池で泳いでいると、子供たちが、ワニがいるよと笑った。
人食いでも知られるイリエワニが、淡水に住んでいるという。
「蛇でもワニでも、どこにいるかが直感で分かるんだ。
いや、最高速度で泳いで上がったよ」。
計5個の五輪金メダルを持つ、世界記録保持者は笑う。

スポーツは、子供たちとの笑顔をつなぐだけでなく、
社会にメッセージを送る手段に。
シドニー五輪では、陸上女子四百メートルで優勝したアボリジニの
キャシー・フリーマンの走りが、すべての豪州人の思いを一つに。
豪州の歴史では、スポーツが象徴する公平さが、社会や文化の特徴。
豪州では、スポーツの影響力が強く、選手の主張を多くの人が尊重してくれる」

政権が代わり、1970年代まで続いた強制隔離政策で、
親から引き離され自分のルーツを失った先住民の人々に、
ラッド新首相が正式な「謝罪」を行った。
3月には、アボリジニの生活を向上させ、寿命の差を縮める
諸施策の公約が与野党によって調印。
国会議事堂で開かれた式典に、ソープはフリーマンとともに立会人として招待。

「子供の瞳に希望を見たいよね。どんな子供たちでも」。
ソープが目指す次の頂点は、スポーツを超えたところにある。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080612.htm

当世留学生事情(1)15大学連携 精鋭獲得狙う

(読売 6月17日)

質の高い学生を獲得しようと、日本の大学が海外で活動。
マレーシアの首都クアラルンプール郊外にある
セランゴール州立セランゴール産業大学の教室。
試験管に入れた液体の色の変化を注視していたマレーシア人学生、
モハマド・ハニフさん(19)は、ノートの表に「白」と漢字で書き留めた。
ほかの欄には「赤褐色」「緑」の漢字。
教壇から日本語で指示するのは、日本の大学の日本人講師。

「JADプログラム(日本マレーシア高等教育大学連合プログラム)」。
寮に住みながら、3年間現地で日本人教員による授業を受けた後、
日本の大学の3年に編入、日本の学位を得る。
分野は、電気工学と機械工学限定。

「エンジニアになって、トヨタで働きたい」というハニフさんは、
現地で学んで2年目。
日本の大学生顔負けの正確な日本語の文章が書ける。
午前7時50分から午後5時までぎっしり詰まった授業で、
1年目は1日の半分を日本語の授業に充てたお陰。
授業では、教員がわざと乱れた文字を板書したり、早口でしゃべったり。

化学、数学、物理など、一般教養的な授業を経て、2、3年目になると、
「電気回路理論」「流体工学」など、日本のカリキュラムに基づく科目が並ぶ。

学生は、応募者約2000人の中から、マレーシアの全国統一試験での成績、
日本人の教授による面接などで選抜された約90人。
マレーシア滞在2年目になる芝浦工業大学の水野俊夫教授は、
「学生の意欲が高いので、授業を詰め込んでも集中力がとぎれない」。

日本の大学に入るためのマレーシアでの予備教育のプログラムは、
1993年に始まっている。
当初は2年間、日本語などを学び、日本の大学1年に入学させるもの。
現地で3年、日本で2年という新方式は05年から。
これだと、留学費用が安く済み、日本に来てから日本語で苦労する心配もない。
事前に日本の大学の情報も十分に得られる。

このプログラムを使って、十数年で約600人が日本に留学、
今年度、新方式で教育を受けた75人が初めて、日本の15の大学に編入。
各大学の担当者がマレーシアを訪れ、来年、編入する学生向けに説明会。

15校は、「日本国際教育大学連合」を設立した早稲田大学、慶応大学など
私立12校と、埼玉大学など国立3校。
実際には、幹事校の芝浦工業大学と拓殖大学両校だけが、
教授3人を含む教員10人をマレーシアに送り込んでいる。

日本では近年、留学生を巡る事件や不祥事が社会問題化したことや、
大学間の国際競争の激化から、各大学が個々に海外事務所を設け、
現地で優秀な学生をリクルートし始めている。

マレーシアでのプログラムは一貫して、日本政府の円借款事業として
マレーシア政府が行ってきた。
学生には奨学金が、教員には給与や滞在費が、マレーシア政府から支給。
事業の期限は、14年3月まで。

その後に同様の仕組みが出来ないと、現地にいる間から授業料を徴収し、
大学側も負担をする必要。
「現在のアジア諸国の経済水準では、高額な授業料は取れない。
参加校を増やして会費をもらうのも限界」、
「大学連合」の事務局機能を分担しているNPO法人アジアシードの浜野正啓さん。

「大学連合」は、マレーシアでのノウハウを生かし、他の国でも、
共同で海外拠点を設け、海外の大学と連携したいと考えている。
だが、留学生を増やすために、費用がかかることは間違いない。

◆円借款

発展途上国のインフラ整備などのため、日本政府が国際協力銀行を通じて、
低利で長期に貸し付ける制度。
政府開発援助(ODA)の一種で、有償資金協力とも。
累計融資額は、4兆2703億円のインドネシアが最多、
中国、インドが続く。マレーシアは9171億円で7番目。

◆現状12万人 首相「30万人」提唱

「留学生受け入れ10万人計画」が提唱されたのは、1983年。
提唱者は、当時の中曽根首相。留学生数は同年の1万428人から、
2007年には11万8498人まで増加。
ただ、ここ数年は12万人前後で推移。
福田首相は、「世界の活力を、日本の成長のエネルギーとしていく」と、
「留学生30万人計画」を提唱。

政府の審議会などでは、これまでに具体策として、
〈1〉国内30大学を政府が重点支援、
〈2〉留学生の国内就職率(現状は3割)を5割に引き上げ、
〈3〉日本留学に関する情報提供や留学生選抜にも活用できる海外拠点の整備、

07年5月現在、出身国・地域別留学生数は、
中国が7万1277人で全体の約6割。
韓国(1万7274人)、台湾(4686人)、ベトナム(2582人)、
マレーシアは2146人で5位。6位タイ(2090人)、7位米国(1805人)。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080617-OYT8T00283.htm

ミカン果汁で脳の老化防止? 静岡県立大などマウス実験

(朝日 2008年6月21日)

ミカン果汁が、脳の老化防止に役立つ可能性があることが、
静岡県立大や農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所による
マウス実験でわかった。日本基礎老化学会で発表。

県立大の海野けい子准教授(老化生化学)は、
「果汁の成分のどこに効果があるのかはこれからの研究課題。
人で効果があるかも試したい」。

老化が早い系統のマウス80匹を使った。
20匹ずつ4グループに分け、3.8~38%の3段階の濃度のミカン果汁で
水分補給したものと、水で水分補給したものを1年間飼育。
マウスが明るい箱から暗い箱に移動すると、
電気ショックを与える装置で実験し、移動を避けるようになるまで
にかかる時間を計って学習能力を調べた。

その結果、水で育てたマウスは、平均約1000秒かかったが、
ミカン果汁で育てたマウスは600~700秒で、
果汁濃度が高いほど学習時間が短かった。
老化につながる大脳の酸化を示す値も、3割ほど低い。

http://www.asahi.com/science/update/0621/TKY200806210194.html
(日経 6月21日)

山形県米沢市を、有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)産業の
一大集積地にしようと県が取り組む
「山形有機エレクトロニクスバレー構想」が動き出した。

三菱重工業などが、有機ELパネル製造会社を設立、
来春にもサンプル出荷を始める。
国内外の電機大手が開発競争を繰り広げる中、
次世代照明として産業集積が進むかどうかは、
技術とコスト、行政支援の3点がカギ。

「紆余曲折を経て、ここまでたどり着いたというのが本音。
実は、3年間ずっと努力を続けてきた。今は素直に喜びたい」。
新会社「ルミオテック」設立を受けて、斎藤弘知事が緊急会見。

県がバレー構想を打ち上げたのは2003年。
7年間で43億円を投入するが、
「目に見える成果が一向に上がらない」との批判も。

http://www.nikkei.co.jp/news/retto/20080620c3b2004p20.html

米で「脳トレ」ブーム、ベビーブーマー高齢化で加速

(CNN 6月18日)

チェスター・サントスさん(32)は、7年前から脳を鍛えている。
記憶力の衰えが不安なわけではなく、高齢期を迎えた
ベビーブーマー世代の間で高まる「脳活性化」ブームに乗った形。

記憶力低下を心配する大人たちや、テストに備えて知識を詰め込みたい
10代の子供たちの間で、任天堂の「脳トレ」シリーズのようなゲームや、
数独、クロスワードなど認知症防止に役立つとされるパズル、
ネットの脳活性化プログラムが大ヒットしそうな勢い。

サントスさんは、2008年全米記憶力コンテストの優勝者。
トランプ一式の並びを3分で記憶でき、無作為の単語100語や
100人の名前と顔を15分で覚えられる。
「人の脳には、自分で思っている以上のことをできる能力がある」と話す
サントスさんは、それまでの仕事を辞め、記憶術を教える仕事に就いた。

調査会社米シャープブレインズの調べによると、
脳活性化ソフトの市場は、2007年に2億2500万ドル(約240億円)、
2005年の推定1億ドルから大幅に増えた。

これは、任天堂の脳トレゲームの貢献もあるが、
何事にも積極的なベビーブーマー世代が60代に差し掛かったことで、
2007年に転機を迎えた。

ネットで脳を鍛えるプログラムも登場。
「ルモシティ」は、「楽しく夢中になれるゲームで、
認識能力と脳の健康を高める」と銘打ったプログラム。
メリーランド州に住むサラ・シュルツさん(67)は、
このおかげで考えるのが早くなった。

脳を鍛えるプログラムはベビーブーマーだけでなく、10代の教育でも注目。
ニューヨークで歴史を教えるリーモン・マシューズさんは、
脳活性化を学習課程に取り入れたところ、生徒の成績に違いが出た。
シャープブレインズの予想では、米国の脳活性化ソフト市場は
2015年に20億ドル規模に達する見通し。

いずれ認定脳トレ指導員や脳トレプログラムが、
職場や政策に進出するとサントスさんは予想。

http://www.cnn.co.jp/science/CNN200806180032.html

地域協働、初の包括協定 県とローソン

(岩手日報 6月24日)

県とコンビニチェーン大手のローソン(新浪剛史社長)は、
災害支援や環境活動など地域協働事業に関する包括的協定を締結。
達増知事と新浪社長が、県庁で協定書に調印。

今月稼働した県の「いわて公共サービス・マッチングシステム」に基づく、
初の包括的協定。
これまで部局ごとに民間企業と提携していたが、
企業からの相談・提案の窓口を県総合政策部に一本化し、事業連携を効率化。
同協定は6項目。

▽地産地消のための商品開発・販売促進
▽県政情報の掲示
▽災害時支援や登下校時の安全確保
▽i・ファミリー・サービス事業
▽エコ活動の促進

達増知事は、「地震発生後は協定締結前だったが、
一関と奥州におにぎりなどをいただいた。
今後も県民サービスを向上させ、相互に成果が得られるようにしたい」。

新浪社長は、「岩手は東北で一番店舗が多く、食材も豊富。
協定を通じて、全国チェーンではなくそれぞれの町のローソンとして
地域を元気にしていきたい」。

同社が都道府県と協定を結ぶのは17例目で、東北では初。
最初の事業として、東北六県と新潟県で本県産食材を使ったフェアを実施。
県内全店で、エコバッグ1万6500個を無料配布。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080624_4

2008年6月29日日曜日

[第2部・豪州](上)LZR生んだ 最先端プール

(読売 6月11日)

プールの底に並ぶ14個の窓から、
全長50メートルの別世界が鮮明に見渡せる。
北京五輪代表14人を含む豪州スポーツ研究所(AIS)所属の
競泳選手らが、水棲動物のように行き来する傍らで、
水底から白い柱が垂直に立ち上がる。
その柱の間を、飛び込んで来た選手の白い泡が横切った。

2006年に世界各地のハイテクプールの長所を採り入れて、
首都キャンベラ郊外に完成した新AISプール。
バイオメカニクス(生物力学)科学者チーム「水泳検査訓練研究班(ATTRU)」
責任者、ブルース・メーソン氏は説明する。

「柱は、磁気で通過速度を測定する装置。
スタート台は、力と方向を測るセンサー。
最高精度だと、体内の血液の流れまで測れる」

話題のスピード社の新作水着「レーザーレーサー(LZR)」。

その開発には、本社のある英国だけでなく、
世界各地にある研究施設、企業がかかわった。

AISプールは、最先端システムでマイケル・フェルプス(米)らの泳ぎを計測、
中核的な役割を果たした。
30台近い水上・水底のカメラが飛び込んだ選手の動きを追い、
プールサイドのスクリーンに中継する。
同時に、コンピューターがセンサーからの情報を分析し、
画像上に力の大きさ、方向、飛び込み角度、水中速度など
10以上のデータを描き込む。ビジュアルで、しかもライブだ。

選手は再生画像をもとに、コーチから改善点を指摘され、再び飛び込む。
「以前は、分析に何時間もかかっていた。
それだと、選手もコーチも感覚を忘れるだろ」。
現場のニーズを最優先した科学の支援が自慢。

豪州競泳陣は、01年まで米国と互角の勝負をしていた男子が、
世代交代で地盤沈下。
北京五輪で金メダルの期待を担うのは女子。
AISのピーター・フリッカー局長は、
「日本、英国など各国が、AISに匹敵するすばらしい強化拠点を作り、
高度な体制を整えつつある。さらに上を行く必要があった」と
新プール建設の背景を説明する。

AISは、初めて金メダルなしに終わった1976年モントリオール五輪の
危機感から生まれた。
中核だった科学部門は進化を続け、
「今は遺伝子情報をどう才能発掘や育成に生かすか、倫理指針を検討」。
スポーツ科学の教授でもある局長が明かす。

昔からスポーツは、平等を理想とする豪州の精神文化の礎だ。
「だから、スポーツは国民性そのもの。
金メダルが取れなければ、豪州と言えないでしょう」(フリッカー局長)。
AISの存在意義は、文化の誇りを守ることでもある。

http://www.yomiuri.co.jp/olympic/2008/feature/continent/fe_co_20080611.htm

温室効果ガス排出量取引の是非論議

(サイエンスポータル 2008年6月23日)

温室効果ガス排出量取引制度に対する日本の取り組みに関する
記事が急に目立つようになった。
福田首相が、ドイツ、英国、フランスの各首相から、
排出量取引制度の導入を求められ、帰国後急に姿勢が変わった経緯を、
毎日新聞朝刊が詳しく書いている。

「帰国後は、首相秘書官ら官邸スタッフ数人だけでとりまとめに入る」。
その結果、「福田ビジョン」に、今秋の国内排出量取引制度の
試験的導入が打ち出された、と。

温室効果ガス排出量取引に対しては、産業界を中心に国内では効果を
疑問視する声が根強く、欧米先進国との姿勢の違いが目立つが、
なぜ、このような事態になっているのか?
23日の日経朝刊オピニオン欄に載った原丈人・デフタ・パートナーズ会長の
インタビュー記事が興味深い。

「排出量取引を導入しても、世界の温暖化ガスの排出総量は変わらない。
排出枠を買うという安易な方法に頼り、自身の排出削減の努力を怠る」。
「中国など京都議定書の非加盟国は、排出削減に努めるより、
排出枠を売ってもうけようとしがち」。

欧州だけでなく、京都議定書非加盟国の米国まで
なぜ排出量取引に積極的なのか、という問いに対する答え。
「投機の対象として、大きな市場性がある。
信用力の低い米個人向け住宅融資(サプライムローン)問題の発生後、
次の標的が必要となっています」

シンポジウム「高度情報社会の脆弱性の解明と解決」で基調講演した
寺島実郎・日本総合研究所会長・三井物産戦略研究所所長の警告。
「米国で、一番ITをとりこんだのが金融。
金融というのは、ずっと産業金融という形をとっていたのが、
金融活動に伴うリスクをマネジメントすることで利益につなげる
デリバティブといったものが出てきた。
サブプライムローンも、住宅ブームを長引かせるために、
本来、金を貸せない人に貸す仕組みを考え出した」

米国社会を熟知していると見られる寺島、原両氏が
「バーチャル経済」の急速な広がりに、非常な危うさを感じている。
排出権取引をめぐり、完全な少数派になっているように見えるばかりか
「すでに排出権を買い始め、金づるになっている」
日本の巻き返し策は?

読売新聞23日朝刊経済面で安部順一・編集委員は、
「日本型排出量取引探れ」と題し、日本経団連を中心に産業界が取り組む
「環境自主行動計画」の改革を提言。

業界ごとの削減目標でなく、個別企業が国と協議して信頼できる
自主目標を示し、その上で排出量取引の可能性を探るという内容。

日本のとるべき道は、いずれにしろ険しいものになりそうだが、
寺島氏の講演に気になる指摘がもう一つ。

「1990年代、米クリントン政権は軍事費を3分の1削減。
80年代、米国の理工系学生の7割は軍事産業に就職。
軍事費削減で、これら優秀な理工系学生が、金融界に吸収され、
サブプライムローンも、さらにリスクを分散するための証券化、
という方法まで考え出した」

排出量取引を導入するにしろ、日本型の排出量取引など別の道を探るにしろ、
相手の背後には相当に手強い知能集団がいる。

http://scienceportal.jp/news/review/0806/0806231.html

“水没しつつある”ツバルの窮状

(サイエンスポータル 2008年6月20日)

今にも水没しそうな島国、ツバルに日本としてどのような支援ができるか?
「太平洋島嶼国の環境と支援を考える国際シンポジウム」が開かれた。
ツバルを代表して、マタイオ天然資源・環境省環境局長が、
「世界の中でも、特に気候変動の影響を受けやすい
脆弱なサンゴ環礁からなる島国」の窮状を訴えた。

ツバルの現状は、「高潮に対する最初の防御ラインであるサンゴ礁は、
熱ストレスに弱く、白化現象が毎年起こると予測」、
「サンゴの減少は、タンパク源である魚種の減少を招く」、
「温暖化による海水温の上昇により、カテゴリー4から5のサイクロトロンが
1975-89年に比べ、90-2004年には倍増」、
「今後30年のうちに、ツバルの一部地域に人は住めなくなる」、
「わずかな淡水層に海水が浸入することで、水不足に加え、
タロイモやココナツなどの生育が難しくなっている」。

マタイオ局長が、急を要する対策として挙げたのは、
沿岸域の防護、水管理、エネルギー確保で、
水管理には、地下の淡水層に海水を浸入させない防護策や
雨水の回収法の改善策、下水処理、家畜糞尿の処理など。

ツバルは毎年、2、3月が大潮の時季。
「日本を初め、各国からこの時季にジャーナリストが訪れ、
写真や映像を撮っていく」。
こうした報道で、水没の危機に瀕するツバル、というイメージを
刻みつけられた日本人も多いのでは。

地球温暖化による環境の激変は、遠い将来の話ではない。
その被害を最初に受けるのは、脆弱な地域、ということを実感させる
こうした報道が持つ意味は大きい。

シンポジウムの傍聴者は、海面上昇という外から見て分かりやすい
難題の背後に、ツバルがいろいろな社会・環境問題を抱えていることも理解。
報道では、なかなか伝わらないような。

茅根創・東京大学大学院教授によると、ツバルの一部地域の“冠水”は、
降ってわいたような出来事ではない。
ツバルは、サンゴ環礁でできた島の特徴として、外洋に面した沿岸部の
高い地形、ラグーン(環礁に囲まれた浅い環湖)に面した高い地形、
その間に広がる低地部から成る。
元をたどれば、サンゴや有孔虫の死がい。

三村信男・茨城大学教授が、20年以上前に現地調査したデータによると、
外洋側の高地の高さは海面から3-4メートル、ラグーン側高地は2メートル、
中央部の低地は1メートルないしそれ以下。

南太平洋応用地球科学委員会(SOPAC=ツバルを含む南太平洋島嶼国と
オーストラリア、ニュージーランドが加盟)の報告書によると、
ツバルの海水面は、高潮時に平均海水面から1.2メートル高くなる。
温暖化の影響と考えられる海水面の上昇は、この50年間で
10プラスマイナス5センチという報告。

つまり、50年間の海水面上昇を織り込んでも
「高潮時の水面上昇が、1.1メートルか、1.2メートルといった違い。
標高から見て、中央低地はもともと高潮時には冠水する区域」。

茅根教授によると、英王立協会の100年前の地質図によると、
当時、首都フナフティのある島はラグーン側高地に100人程度の集落があるだけ。
中央低地は沼地などからなり、海水がわきあがったという記載。

なぜ、最近になって海水の浸水が大きな問題になったか。
太平洋戦争時の1943年に建設された飛行場のために、
沼地だった場所が分からなくなってしまった。

さらに1980年代からの人口増で、100年前には100人程度しか
住んでいなかったフナフティの人口は、いまや4,000人。
かつて人が住んでいなかった湿地帯にも人が住み出し、浸水が問題に。

ツバルの歴史はともかく、茅根教授を含め講演者全員の考え方は一致。
とにかく対策は必要、ということ。
ツバルが直面する地球温暖化による海水面の上昇という
グローバルな課題への取り組みは、ツバルという地域の特殊性を
考慮したものにならざるを得ない、というのも講演者に共通する思い。

人口増により、増えた生活用水や豚の飼育に伴う汚水が垂れ流されている。
排水が海水の富栄養化をもたらし、サンゴや有孔虫の生育力を弱め、
海水面上昇の最初の“防護壁”になる環礁、砂浜の成長を阻害。
こうしたローカルな問題の解決も伴わないと、
ツバルを水没から防ぐ実のある対策にはなりえない。

http://scienceportal.jp/news/review/0806/0806201.html

がん制御遺伝子発見 白血病幹細胞で 日米伊チーム、根治向け一歩

(毎日新聞社 2008年6月19日)

慢性骨髄性白血病の根治につながる治療法を、
日米伊の研究チームが開発。
がん細胞を生み出す幹細胞を、薬が効く活性化状態にして攻撃する。
肺がんなど他のがんに応用できる可能性もあり、注目。
英科学誌「ネイチャー」で発表。

慢性骨髄性白血病の幹細胞は通常、ほとんど増殖しない
「静止期」にあり、薬が効きにくい。
米ハーバード大医学部の伊藤圭介研究員らは、
日米の患者80人以上から骨髄を採取し分析。
9割以上の患者で、PMLという遺伝子が強く発現し、薬が効きにくかった。

人工的にPMLをなくしたマウスは、幹細胞が一時的に活性化。
「PMLは、白血病幹細胞の活動を抑え、幹細胞の機能を長持ちさせている」。
白血病のマウスに、PMLを抑える亜ヒ酸を投与後、抗がん剤を与えた。
白血病細胞が幹細胞も含めて消失し再発しなかった。
ヒトの白血病細胞でも効果があった。

白血病に限らず、がんの幹細胞は「静止期」の性質を持つ。
研究チームは、亜ヒ酸を投与してPML発現を抑え、
幹細胞を活性化させてから抗がん剤を投与する新治療法について、
日米伊で臨床試験の準備を進めている。

◇平尾敦・金沢大がん研究所教授(幹細胞生物学)の話

幹細胞の細胞周期が治療効果に影響するとみられるがんは、
白血病をはじめ複数あり、他のがんに応用できる可能性が十分ある。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=75806

「うつ病」が原因トップ 10年連続、自殺3万人超 60歳以上、30歳代で最悪

(共同通信社 2008年6月19日)

日本国内で昨年1年間に自殺した人は、
前年に比べ2・9%(938人)増の3万3093人で、
「うつ病」が原因・動機の人が、約18%に当たる6060人に上り最多。

総数は、2003年の3万4427人に次ぐ過去2番目で、10年連続で3万人超。
年代別で60歳以上、30歳代が過去最多。

発生場所でみた都道府県別10万人当たり自殺者(自殺率)は、
39人の山梨が前年の秋田に代わり最悪。

警察庁は、自殺対策に役立てるため07年に自殺統計原票を改正、
動機の項目などをきめ細かくしており、今回が初の公表。
昨年6月に自殺総合対策大綱を策定し、多重債務問題などに取り組む政府は
データを基にさらなる対策を迫られそう。

新しい統計は、原因・動機を52項目に分類。
遺書や診断書、ネット掲示板への書き込みや関係者の話から推定し、
複合することも考慮して3つまで選べる。

最も多かった原因・動機は「うつ病」で、2番目が「身体の病気」の5240人と
健康問題が上位を占めた。
「多重債務」の1973人、「その他の負債」の1656人と経済・生活問題。

年代別では60歳以上が最多で、前年比8・9%(987人)増の
1万2107人と過去最悪。
50歳代の7046人、40歳代の5096人、中高年の割合が高い傾向。
性別では、男性が約71%。
19歳以下は、前年に比べ12%(75人)減の548人。
「いじめ」が原因とみられるのは10人で、「友達との不和など」が25人。

職業別では、無職が1万8990人と57・4%、
年金・雇用保険生活者が4982人、失業者が1756人で、
被雇用者・勤め人は9154人。

◆警察庁の自殺統計

警察は、変死者について検視などで死因を特定し、動機を調べて
事件性の有無を判断、自殺と認定。
死亡届を出した後に自殺と判明したケースや日本国内で自殺した外国人も
含まれるため、死亡届を基に集計する厚生労働省の人口動態統計より
人数が多くなる傾向。
警察庁は昨年、自殺統計原票の原因動機や職業分類を見直し、
今年から詳細データを公表。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=75832