2007年12月8日土曜日

TH2細胞の活性化とアレルギー性気道疾患の発現に不可欠なTRAILとCCL20との関連

(nature medicine 11月号Vol.13 No.11 / P.1308 - 1315)

2型ヘルパーT(TH2)リンパ球が仲介する免疫応答で、
腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)
担う役割は明らかになっていない。

本論文では、TRAIL欠損(Tnfsf10-/-)マウスとTRAILを標的とする
短鎖干渉RNAに暴露したマウスを使って、
アレルギー性気道疾患発症の特徴を明らかにする。

TRAILは、アレルギーマウスの気道上皮に大量に発現していること、
そのシグナル伝達を抑制すると、ケモカインCCL20の産生と
骨髄性樹状細胞およびCCR6とCD4を発現するT細胞の
気道へのホーミングが低下することがわかった。

ホーミングの低下により、TH2サイトカインの放出、炎症、気道過敏性
および転写活性化因子STAT6の発現が制限される。
Tnfsf10-/- マウスでは、インターロイキン13によるSTAT6の
活性化によって気道過敏性が復活する。
組換え型TRAILは、喘息の発症徴候を誘発し、
またヒト気管支上皮初代培養細胞でCCL20の産生を促進する。

TRAILはまた、喘息患者の痰でも増加。
気道上皮におけるTRAILの機能から、
この分子は喘息治療の標的であることが示される。

[原文]Critical link between TRAIL and CCL20 for the activation of TH2 cells and the expression of allergic airway disease

Markus Weckmann1, Adam Collison2, Jodie L Simpson2,3, Matthias V Kopp1, Peter A B Wark2,3, Mark J Smyth4, Hideo Yagita5, Klaus I Matthaei6, Nicole Hansbro2, Bruce Whitehead7, Peter G Gibson2,3, Paul S Foster2,6 & Joerg Mattes1,2,7

1 Department of Paediatrics and Adolescent Medicine, Albert Ludwigs University Freiburg, 79106 Freiburg, Germany.
2 Centre for Asthma and Respiratory Diseases (CARD), School of Biomedical Science, Faculty of Health, University of Newcastle and Hunter Medical Research Institute, Newcastle 2301, Australia.
3 Department of Respiratory and Sleep Medicine, Hunter Medical Research Institute, Newcastle 2305, New South Wales, Australia.
4 Cancer Immunology Program, Peter MacCallum Cancer Centre, East Melbourne 3002, Australia.
5 Department of Immunology, Juntendo University School of Medicine, 113-8421 Tokyo, Japan.
6 Division of Molecular Biosciences, John Curtin School of Medical Research, Australian National University, Canberra 2601, Australia.
7 Paediatric Respiratory and Sleep Medicine, Department of Paediatrics, John Hunter Children's Hospital, Newcastle 2305, Australia.

The role of tumor necrosis factor?related apoptosis-inducing ligand (TRAIL) in immune responses mediated by T-helper 2 (TH2) lymphocytes is unknown. Here we characterize the development of allergic airway disease in TRAIL-deficient (Tnfsf10-/-) mice and in mice exposed to short interfering RNA targeting TRAIL. We show that TRAIL is abundantly expressed in the airway epithelium of allergic mice and that inhibition of signaling impairs production of the chemokine CCL20 and homing of myeloid dendritic cells and T cells expressing CCR6 and CD4 to the airways. Attenuated homing limits TH2 cytokine release, inflammation, airway hyperreactivity and expression of the transcriptional activator STAT6. Activation of STAT6 by interleukin-13 restores airway hyperreactivity in Tnfsf10-/- mice. Recombinant TRAIL induces pathognomic features of asthma and stimulates the production of CCL20 in primary human bronchial epithelium cells. TRAIL is also increased in sputum of asthmatics. The function of TRAIL in the airway epithelium identifies this molecule as a target for the treatment of asthma.

http://www.m3.com/tools/MedicalLibrary/nature/200711/nature_medicine/03.html?Mg=4a9047687808fea9276ce35389724222&Eml=12b55b931cb52b4152963c77864c5aec&F=h&portalId=mailmag

理系白書’07:第3部・科学者の倫理とは/4 相次ぐ論文不正疑惑

(毎日 11月18日)

「そうそうたるメンバーが一堂に会し、熱い議論が交わされた」、
「今後のRNA(リボ核酸)分野の広がりを感じさせる素晴らしい1週間」。

米国・キーストンで05年1月に開かれ、数百人が参加した国際シンポジウム。
多比良和誠・東京大大学院教授(当時)は、専門誌で会場の様子をこう記した。
皮肉にもこのシンポジウムが、多比良氏に対する論文不正疑惑の発端に。

多比良氏は、前年に英科学誌「ネイチャー」に、
短い2本鎖RNAをヒトの細胞に入れると、
核の中で遺伝子の働きを抑制できたとする論文(後に取り下げ)を発表。
一方、ほぼ同時期に米国の研究者が異なる手法で同じ結果を出した論文を発表。
両者が招かれ、それぞれの論文をテーマに講演するはずだった。

多比良氏は、論文の核心には踏み込まず、具体的なデータも示さなかった。
外国の研究者から、「論文の手法では核内にRNAを導入できず、
うまくいかないはずだ」など批判的な質問が相次いでも、
多比良氏は明確に答えなかった。
「お茶を濁すような対応で、会場が騒然となった」。

日本RNA学会は05年4月、多比良氏の論文12本を検証するよう東京大に求めた。
4本を調査した東京大は06年3月、「信頼性はない」と結論を下した。
根拠となる実験ノートや生データは存在せず、実験結果を再現できなかった。
捏造などは確認できなかったが、大学は06年12月、
「科学の発展を脅かし、大学の名誉を傷つけた」などとして、
多比良氏と実験を担当した川崎広明助手(当時)を懲戒解雇。

多比良氏は、処分について「『再現性のない論文』とまでは断定できず、
過去の処分事例と比較しても重すぎる」と主張。
大学に教授職の地位確認などを求め、東京地裁で係争中。

調査委員長を務めた松本洋一郎・同大学院工学系研究科長は、
「生データや実験ノートがなく、正しさを説明できないこと自体が
科学の世界では“不正”だ」。

近年、東京大や大阪大、早稲田大など日本を代表する大学で、
研究者の論文不正疑惑が相次いで発覚。
だが、科学の世界では、意図的でないミスで
間違った結論を導いてしまうことも少なくない。
不正かどうかの認定は容易ではない。

「ミス」と「不正」をどう見分けるか?

専門分野が細分化した現在、その役割を果たすことが期待されているのは、
各分野の専門家集団である学会。

しかし、06年の日本学術会議の調査によると、回答した国内610学会のうち、
倫理綱領を策定していたのは93学会(策定中を含む)、
倫理に関する常設委員会を持っていたのは74学会。

日本分子生物学会は昨年12月、研究倫理委員会を発足。
きっかけは、杉野明雄・元大阪大教授が昨年、
染色体の複製に関する論文でデータを捏造したとして受けた懲戒解雇処分。
倫理委は現在、杉野氏の論文を過去にさかのぼって検証。
一研究者の業績を、学会がここまで徹底的に洗い直すことは極めて珍しい。

委員会設置を決めた前会長の花岡文雄・大阪大教授は、
「日本の学会には、仲間の批判を躊躇する雰囲気があり、
取り組みが遅れた。だが、科学が間違った方向へ行ったのなら、
その分野を一番理解している専門家が正さなければならない。
捏造の背景や、見過ごされてきた原因も含めて明らかにする責任がある」。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2007/11/18/20071118ddm016040148000c.html

井口、医療機器を寄贈 ダイエー時代から慈善活動

(共同通信社 2007年12月5日)

米大リーグ、フィリーズからフリーエージェント(FA)となった
井口資仁内野手が、老人福祉施設へ
自動体外式除細動器(AED)などを寄贈
14日に北海道・洞爺湖町の社会福祉法人「幸清会」の施設を訪問し、
AED1台のほか、車いす3台を贈る。

井口は、ダイエー(現ソフトバンク)に入団した1997年から車いすの寄贈や、
盲導犬育成のための寄付など積極的にチャリティー活動を行ってきた。
今回の寄贈について、同選手は、
「野球でも、AEDがあれば助かっていたという痛ましい事故も起きている。
少しでも多くの命が救えれば」。

AEDは、心臓の拍動がリズムを失い、全身に血液が送り出せなくなった
患者に、電気ショックを与え心拍を正常に戻す医療機器。
心臓突然死から患者を救う装置として期待。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=63540

2007年12月7日金曜日

万能細胞の安全性向上 がん遺伝子なしで成功

(共同通信社 2007年12月3日)

人の皮膚から、さまざまな細胞に成長できる万能性をもつ
「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を、世界で初めてつくった
京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らが、作製法を改良し、
より安全なiPS細胞を得ることに成功。

これまで、がん遺伝子を含む4つの遺伝子を皮膚細胞に組み込んでいたが、
がん遺伝子を除く3つの遺伝子でもできることを確認。

人体に有害な恐れがあるウイルスは依然として使っているが、
安全性をめぐる問題の1つが解決でき、
傷んだ組織を修復する再生医療の実用に向け前進。

山中教授は、「ゴールは先だが、一歩一歩着実に前進している」。
今後は、細胞作製の効率をいかに向上させるかが課題。

成人女性の顔から採った皮膚とマウスの皮膚で、それぞれiPS細胞をつくった。
マウス実験によると、3つの遺伝子を組み込む改良法では、
iPS細胞ができるまでの日数が2-3週間と、従来法の倍以上かかり、
細胞の量も大幅に少なかった。

がんの危険性を比較するため、従来法と改良法でつくったマウスのiPS細胞を、
それぞれ別の受精卵の中に入れ、赤ちゃんマウスを誕生。
がん遺伝子入り細胞を持つマウスは、37匹のうち6匹(16%)ががんになり、
生まれて100日以内に死んだが、がん遺伝子なしの26匹は、
同期間内に1匹も死なず、安全性がより高いことが確認。
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人工多能性幹細胞(iPS細胞)

既に役割が定まった体細胞に遺伝子操作を加えて、万能性がある
胚性幹細胞(ES細胞)のように多様な細胞に成長できる能力を持たせた細胞。
山中伸弥・京都大教授らが2006年、世界で初めてマウスの皮膚細胞から作製。
人の皮膚からの作製には、山中教授と米ウィスコンシン大チームが
07年11月、同時に成功。

ES細胞と違い、育てば赤ちゃんになる受精卵(胚)を材料にするという
倫理問題を回避できるのが最大の利点で、
再生医療研究を大きく加速する成果として注目。
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【解説】

人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、治療に使うには安全面で2つの難題。
1つが、「がん遺伝子」を組み込んでいること。

今回の成功でこの点はひとまず解決したため、
再生医療の実用化に向け、大きく前進。
残る難題は、遺伝子の導入に「レトロウイルス」と呼ばれる、
発がんの危険が否定できないウイルスを使っていること。
ある専門家は「特定の遺伝子の除去よりこちらの方が難しい」。
解決にはかなりの時間がかかるとの見方も。

この研究は、iPS細胞づくりと並行して進められ、
初の作製成功の発表からわずか10日ほどでの成果。
研究競争の激しさを強く印象。
競争はさらに激化し、日本発の技術を適正に推進する方策が求められる。
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山中伸弥・京都大学教授

「20年近く研究をやってきて、初めて人の役に立つかもしれないと思えた。
ゴールはまだ遠いが、山頂は見えた」。

1987年、神戸大医学部を卒業。
研修医時代にリウマチの重症患者に触れたことなどから、基礎研究の世界に。
奈良先端科学技術大学院大で、受精卵を壊してつくる
胚性幹細胞(ES細胞)と異なる道を探り始めた。
きっかけの1つを、「約10年前に人の受精卵を顕微鏡で見た時。
受精卵は、子どもに育つ可能性がある。小さかった娘2人の姿と重なった。
ほかに道があるなら受精卵を使いたくないと思った」

マウスで成功して1年あまり。
試行錯誤して、人の万能細胞に必要な遺伝子を突き止めた。
「実験に取り組んだスタッフが頑張った。
成功した時に浮かんだのは、『すごいな、おまえら』の言葉」
と約20人の研究室スタッフをねぎらう。

世界的な競争が激化する研究分野。
複数の大学教授がチームで協力する欧米を「駅伝」、
個人技が主体の日本を「マラソン」に例える。
「臨床応用に向けて、日本も研究者同士の壁を取り除く必要がある」。

気晴らしは、大学周辺のジョギング。
「けがをしない保証があれば、学生時代のように柔道とラグビーをやりたい」
大阪府出身。45歳。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=63297

理系白書’07:第3部・科学者の倫理とは/3 アカデミック・ハラスメント

(毎日 11月11日)

応用物理学を専攻する国立大准教授の40代男性は
最近、ようやく体調が戻りつつある。
以前は研究室に来て、上着をハンガーにかけるのも、おっくうだった。
前に在籍した大学で、教授から嫌がらせを受け、うつ状態になったため。

企業研究者だったとき、大学院時代に知り合った教授から
「別の大学に移る。どうしても一緒に来てほしい」と請われ、誘いを受けた。
助手として赴任した初日、勤務時間を尋ねると、教授は、
「ここは企業とは違う。勤務時間だけ働けばいいと思ったら大間違いだ」と、
いきなり怒鳴りつけられた。
以来、学生の前で、たびたび怒鳴られた。

独力で論文を書き上げたある日。
研究室の外の廊下で教授から、
「場所代だから、著者名に(教授の名前を)入れるのは当然だろう」。
反論を許さない口調に、しぶしぶ応じたものの不満だった。
論文内容に関する議論など、教授とはまったくなかった。

教授は、男性が親しくしていた学生らにも、いいがかりをつけ攻撃する。
男性は、学生との接触を避けた。
精神的な圧迫感で研究どころではなく、通院するようになった。

「大学は研究室単位で動いており、
予算と人事権を握る教授は中小企業の社長のようなもの。
研究室の問題は、外の人が口出しできない」。
この教授は取材に対し、「コメントできない」などと話している。

アカデミック・ハラスメント(アカハラ)とは、
「教育・研究現場での権力を利用した嫌がらせ」。

多くの論文を書くことは、科学者の業績や評価につながる。
研究に関与しなくても、共著者として論文に名前が載れば、成果とみなされる。
共著者を強要し、研究成果を横取りするのは、アカハラの典型例。

NPO法人「アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク」代表理事の
御輿久美子・奈良県立医科大助教らがまとめた
准教授、講師、助教を対象にしたアンケート(回答者931人)によると、
研究論文の作成で、1割が
「上司に論文の筆頭著者(ファースト・オーサー)をとられたことがある」。
筆頭著者を他の人に譲るように強要されたという回答も1割近く。

「上司から、実験データの改ざんや捏造を強要された」という教員もおり、
権力関係が論文捏造の背景に。
「自分で取った研究費が、教授の研究費として使われてしまう」、
「任期付きの職のため、次のポストを探さなければならないが、
上司に推薦状を書いてもらえない」という訴えも。

同ネットワークには1年間で、約1200件の相談が全国から寄せられた。
御輿さんは、最近の成果主義やプロジェクトの大型化が、
アカハラを誘発しやすくしているのではないかと懸念。
多額の公的研究費を受ける研究室からの相談が目立っている。

御輿さんは、「多額の資金を得れば、それに見合う成果が求められ、
若手研究者や大学院生は、上から決められた仕事を長時間強いられる。
思うようなデータが出ないと、辞めろと叱責される。
こうした環境では、アカハラが連鎖的に拡大しかねず、
捏造などの不正を招くかもしれない。悪循環だ」。


過去に所属した研究機関でアカハラを受けたと公表している
若山信子さん(65)=茨城県つくば市=は、
「被害者は、自分に落ち度があるのではないかと感じ、泣き寝入り。
こじれる前に、解決できる身近な相談場所が必要」。

セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)に続き、
アカハラの相談窓口をつくる大学が増えてきた。
アカハラ訴訟を担当してきた若林実弁護士(第2東京弁護士会)は、
「大学に相談体制があっても、申し立てることによって
2次的な嫌がらせを受けたり、研究がストップしてしまうなど、
被害者は不利な状況に置かれがち。
身内をかばい、隠ぺいとみられるケースもあり、自浄能力が十分でない」。
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<大学などがアカハラを認めた最近の主な例>

07年10月:大阪市立大教授が、博士論文の指導をしていた大学院生に対し、
一方的に学生指導の補佐から外す。停職3カ月。

07年6月:広島工業大准教授が、国の研究費を不正使用。
卒論作成時期の学生を学外調査に動員。停職6カ月。准教授は依願退職

06年1月:福岡県立大教員3人が、教授による研究や授業妨害、退職強要が
あったとして、人権救済を申し立てた。
福岡法務局が人権侵害を一部認め、教授に反省を促す措置

05年7月:山口大助教授が、学生にプリンターのトナー代を要求し、
研究員からは給料の10%を出すように強要。戒告処分

05年6月:九州大助教授が、大学院生に理不尽な叱責や
長時間の説教を繰り返した。戒告処分

05年6月:岡山大教授が、学生に自分の実験データ解釈を強制しようとして
恐怖や不安を与えた。学生のデータをもとに了承を得ず、
共著で論文を発表しようとした。減給処分

04年11月:九州大教授が、20年以上にわたり大学院生の自宅に
電話し専攻の変更を迫った。セクハラ行為も。諭旨免職

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2007/11/11/20071111ddm016040078000c.html

2007年12月6日木曜日

理系白書’07:第3部・科学者の倫理とは/2 ロボット研究と軍事転用

(毎日 11月4日)

受話器を取ると、カタコトの日本語が聞こえてきた。
「ちょっと話を聞かせてほしい」。
数年前、筑波大の山海嘉之教授(49)の研究室にかかった1本の電話。
相手は、「某外国の軍事関係者」。

山海教授は、ロボット工学や脳神経科学、情報科学などを融合させた
「サイバニクス」の第一人者。
当時、歩いたり、物を持ち上げたりする人間の動作を補助する
ロボットスーツ「HAL」の開発に取り組んでいた。

身体障害者や高齢者、介護者の役に立ちたいという思いからの研究。
筋肉を動かそうとすると、脳から筋肉に神経を伝わって微弱な電流が流れる。
この電流を体外から読み取り、筋肉の動きを助けるように装着した機械を
動かそうと考えていた。

だが、電話を受けたのは、このアイデアをまだほとんど公にしていない時期。
「なぜ、研究内容を知っているんだろう」。
山海教授は驚いたが、
「私の技術は人間を助けるためのもの。軍事利用に興味はない」と断り、電話を切った。
似たような接触は、今でもときどきある。

米国は、軍や国防総省が積極的にロボット研究に乗り出している。
米カーネギーメロン大ロボット研究所の金出武雄教授(62)は、
「『軍関係のカネはもらわない』という研究者もいるが、少数派。
軍事というより国防という意味で、社会からの要請がある。
一番の目的は、人的被害を減らすことだ」。

国防総省の高等研究計画局(DARPA)は、
ロボットや通信、画像認識などの技術開発や基礎研究に
年間約30億ドル(3500億円)を拠出。
金出教授も、DARPAの計画に参加し、ビデオ映像から自動的に
人物の顔を認識できる技術などの開発に取り組む。
空港や駅などでテロリストを見つけるのに有効だが、
監視社会化やプライバシーの問題が懸念。

金出教授は、「あらゆる技術は、もろ刃の剣。
研究者には一市民以上の責任があり、いち早く危険性を指摘したり、
悪用されないよう手を尽くさなければならない。
だが、技術をどう使うか、何が『悪用』なのかは結局、社会が決める。
20年以上米国に住んでいるが、米社会にはその判断力がある」。

「HAL」が完成に近づいた04年、
山海教授は事業化のためベンチャー企業を設立。
技術が流出しないよう、製品はレンタル方式。
買収を防ぐため、資金は議決権のない株式だけで調達。
個人で持っていた特許は、すべて大学に寄付。
税務当局は、この特許の価値を13億円以上と査定。

「技術が社会に与える影響が大きくなり、研究のテーマそのもの、
研究の手法が問われる。考えられる限りの策を講じるのが研究者のモラル」

テレビ番組の収録で、岡山市の出身小学校を訪れた山海教授は、
児童にHALを紹介した後、1本のビデオを見せた。
ロボット兵器ともいえる米国の無人偵察機が、
地上で地雷を埋めようとしていた人間を攻撃する映像。
3人の人影が吹っ飛ぶと、子供たちは無言で息をのんだ。

「何か意見ある?」と問いかける山海教授。
「ゲームみたいに一瞬で人を殺すなんて」、
「お金のある国なら何機も作れるから、ますます強くなる」、
「ロボットを悪用する人の心には暗い世界しかない」。
山海教授は涙ぐんでうなずいた。
「HALにも同じことが言えるかもしれないんだよ」

山海教授は、この番組の収録を振り返る。
「米国の子供なら、攻撃の場面で『Cool(すごい)!』と叫ぶかもしれない。
(原爆を開発した)マンハッタン計画では、優秀な科学者がわれ先に集まった。
今の日本はまだ、技術で人をあやめることに国民がノーと言える。
その良識を失ってはならない」。

科学技術は、人々の暮らしを便利に豊かにする一方、
使い方によっては悪影響も及ぼす。
科学者や技術者は、自らが開発した技術の使われ方に、
どこまで責任を負うべきなのか?
この点が問われているのが、「ウィニー裁判」。

匿名性の高いファイル交換ソフト「ウィニー」を開発・公開した
元東京大助手の男性が、著作物の違法コピーを助長したとして
著作権法違反のほう助罪に問われ、昨年12月に有罪判決(控訴中)。
ウィニーを巡っては、音楽や映画の違法コピーやコンピューターウイルス
による情報流出が社会問題に。

男性は、「純粋に技術的な検証が目的だった」と主張したが、
判決は、「技術自体は価値中立」と認めた上で、
違法かどうかは「現実の利用状況やそれに対する認識などによる」。
利用者の多くが、著作権を侵害するであろうことを認識しながら
ウィニーを公開していたことを「独善的かつ無責任」と非難。

判決について、研究者の間で賛否が分かれる。
生殖補助医療や遺伝子操作など他の分野も含め、
研究者は、技術が社会に与える影響に無関心ではいられないことを浮き彫りに。

J1:鹿島・田代 ゴールのたびに心臓病の君思い胸たたく

(毎日 12月4日)

サッカーのJリーグ1部(J1)で、逆転優勝を決めた鹿島アントラーズ。
快進撃の立役者となったFW(25)が、ゴールを決めるたびに見せた
左胸をたたくパフォーマンスは、故郷の福岡市で心臓病と闘う
宇野純平さん(22)=同市西区=と交わした約束。

「今日、田代さんが先発で出てくれますよ。
左胸をたたいてくれたらいいのになあ」

9月22日、アルビレックス新潟戦の朝。
病室から知人に電話した宇野さんの声は、弾んでいた。
サッカー少年だった宇野さんは2年前、心臓移植以外に治療法のない
特発性拡張型心筋症を発症。
臓器提供者の少ない国内では、治療の見通しが立たないため、
人工心臓に頼りながら米国での手術を待つ日々。

田代選手は今年7月、小学校が隣同士だった縁で宇野さんを見舞った。
約束したパフォーマンスには、宇野さんの心臓が
いつまでも動き続けるようにとの願いを込めた。

このアルビレックス戦で、ヒーローインタビューに立った田代選手は
「最後まであきらめません」と宣言。
そこから破竹の9連勝でリーグ戦を制した。

「今度は僕が頑張る番」。
田代選手の活躍を見届けた宇野さんは自らに誓っている。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20071204k0000m050186000c.html

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これはいい話ですね。
スポーツが、いろんな人の勇気を与えてくれる。
ソフトバンクの和田投手も、三振をとるたびにワクチンを寄付しています。
田代選手も、たくさんゴールをあげて、
たくさんの人たちに、そして宇野さんに希望を与えてほしい。

2007年12月5日水曜日

理系白書’07:第3部・科学者の倫理とは/1 産学連携で収入・保有株申告

(毎日 10月28日)

防衛費を上回る額となった科学技術予算。
研究者同士や分野間の競争が激化し、
論文捏造や研究費の不正など負の側面が現れ始めた。
生命操作技術や情報技術など、社会的に影響の大きな技術も
現実のものとなり、人々の価値観を一変させかねない事態も。
科学者は、社会にどのような責任を負うのか?
社会は、科学技術をどう律していくべきなのか?
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「金もうけのためじゃない。技術発展や日本経済への貢献のためにやっている。
なぜ、懐具合まで探られなくてはならないのか」。

東北大の西沢昭夫総長特別補佐は、学内の説明会で、
ある教員からこうかみつかれた。
共同研究や技術移転先の企業からの収入額や株の保有状況を、
大学に申告してほしいと求めたから。

東北大は、実学志向が強く、企業との連携に積極的。
05年には、1企業から年間100万円以上の収入があれば
自己申告するという学内ルールを定めた。
企業との金銭関係の透明性を高め、個人の利益を目的にしているとの
疑惑を持たれないようにするため。

だが、教員たちの理解が進んだとは言い難い。
西沢さんは、「『先生たちの善意が誤解されないよう、社会に説明するため』
と話しても、けんか腰になる人もいる。
悪いことをしていると、疑われていると感じるようだ」。

日本の大学では、「金もうけはうしろめたいこと」という意識が根強い。
しかし、産業の国際競争力低下に危機感を抱いた政府は、
国策として産学連携を促進する方針。
98年には、「大学等技術移転促進法(TLO法)」が施行。
研究成果の社会還元は、教育、研究に続く大学の「第3の責務」に。
98年度に148社だった大学発ベンチャー企業は、1500社超(06年度)。
企業の共同研究実績も、06年度で約1万2000件(98年度の5倍増)。

一方、産学連携が進めば進むほど、研究者が利益を優先し、
教育や研究という本来の業務がおろそかになる「利益相反」が生じかねない。
どの程度なら許されるのか?

文部科学省は、利益相反への対応方針と学内の体制整備のモデルをまとめ、
各大学に自主的な取り組みを求めた。
国立大学など92機関のうち、60機関が利益相反への対応方針を作成。

方針を持つ大学では、企業から得た報酬や謝金などの金銭的利益、
株の保有状況などを、教職員に定期的に申告。
学内の専門委員会が内容をチェックし、必要があれば改善を求める。
だが、申告させる金額の線引きは、各大学でまちまち。
統一された基準がないため、現場には戸惑いも。

岩手大は04年、全国の大学に先行して対応方針をまとめた。
大学の規模は大きくないものの、
研究成果を商業化する大学発ベンチャー企業は20社。
生産量日本一の雑穀を使ったパン、植物研究から端を発した解析技術など
地域振興と深く結びつく。

だが、役員を兼務する教員の多くは、企業から報酬を得ていない。
学内ルールでは、兼業も報酬も認められているにもかかわらず、である。
同大地域連携推進センターの対馬正秋・技術移転マネジャーは、
「米国なら、教員は休職してベンチャー社長に専念するから、
大手を振ってもうけることができる。
日本では、大学教員と社長の二つの顔を持つため、
『(本業をおろそかにして)もうけている』と後ろ指さされるのを気にする」。

インフルエンザ治療薬「タミフル」は、
服用後に起きる飛び降りなどの異常行動との関連が問題。
副作用を調査する厚生労働省研究班の班員の所属する機関に、
タミフル輸入販売元の中外製薬の寄付金が支出されていたことが発覚。
「調査の中立性が損なわれるのではないか」と議論。

研究班は、患者約2万5000人を調査する計画。
厚労省は、400万円しか準備しなかったため、
班員の所属機関が中外製薬から寄付を受け、一部を研究にあてることに。
同省も了解していた。
ところが寄付の存在が報道されると、寄付を受けた3人を研究班から除外。

国立大学への企業からの寄付金は、TLO法施行以降増加。
文部科学省によると、06年度の総額は660億円で、98年度の1・4倍。
利益相反ルール作りを促す指針を策定した検討班の班長、
曽根三郎・徳島大ヘルスバイオサイエンス研究部長は、
「大学の多くが、企業からの奨学寄付金を受け取り、
一線の研究者ほど利益相反状態に置かれる。
タミフルも利益相反状態だった。だが、利益相反=悪なのではない」。

実際、企業から寄付を受けた科学者が、
その企業の利益になるような行動を取る可能性はあるのか?
米国の消費者団体が、米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会の
審査を調べたところ、企業から研究費を受けている専門家は、
むしろ、その企業に厳しい投票をする傾向。

曽根さんは、「研究者が専門的知識を生かすことは、国民の利益につながる。
研究者を排除するのではなく、参加させて、
ルール違反した場合にきちんと処分する制度を整備すべき」。

しかし、ルール作りは遅れている。
78の大学医学部のうち、利益相反ルールを定めたのは22に過ぎない。
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■坂口力・元厚労相に聞く

元厚生労働相の坂口力衆院議員は、タミフル問題をめぐる
厚生労働省の対応について、厚生労働委員会で「看過できない」とただした。
研究者と企業からの寄付金について聞いた。

◆産学連携の進展に伴い、企業から研究機関への寄付が増えています。


最近の研究者は、産業界とタイアップしなければ、研究を進められない。
国立大学が法人化され、地域産業との連携が求められる。

◆タミフル問題では、企業からの寄付金が問題視されました。

タミフルの副作用は、販売する製薬会社が調べるべき。
それを厚労省研究班が引き受けたうえ、予算が非常に少なかった。
研究班は、自分で工面するしかなく、
タミフルの販売会社からの金しか使えなかったという構図。
厚労省は、研究者だけを悪者にして、
「企業から金をもらっている先生にはもう頼みません」と、幕引き。
これはおかしい。
厚労省が想定外の問題を研究班に投げたのだから、
研究班の先生にしてみれば迷惑な話。
厚労省が責任を持って処理すべきだった。

◆「企業からの研究費ももらっていない研究者に、
専門的なことが分かるのか」との指摘も。

企業から、個人で報酬やコンサルタント料のような金をもらっている場合、
研究への参加を見送るべきケースはある。
しかし、所属する大学などの組織が寄付金を受け、研究者に配分している
場合まで、研究に参加できないとするのは行きすぎでは?
組織が研究費を配分する段階で、企業の色は消されている。
大学が企業から寄付金を受けることが特別ではない今、
企業の寄付金を受け取っていない組織の研究者はいない。

◆透明性を確保した産学連携のため、何が必要でしょうか。

産学連携に参加する企業側は、当然「利益」を目的に。
臨床試験などでは、企業からの財政支援によって進められてきた。
そのような現実を認めたうえで、利益によって結果がゆがめられたり、
研究者が不適切な利益を得ることがないようなルールを作るべき。
現在、役所や大学で個別にルール作りが進んでいるが、
バラバラなルールになることは、かえって国民を混乱に。
研究と企業からの金の関係について、国全体でルールを作ることが必要。
==============
◇利益相反

産学連携活動に伴って、教職員や大学が得る利益(兼業報酬、未公開株式など)と、
教育・研究という大学での責任が衝突。
教職員が企業に負う職務遂行責任と、大学での職務遂行責任が両立できない状態。
法令違反ではないが、社会から不信を持たれる可能性も。
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■人物略歴 ◇さかぐち・ちから

65年三重県立大学大学院医学研究科修了(医学博士)。
69年三重県赤十字血液センター所長。72年衆院議員初当選。
00~04年まで厚生、厚生労働相。73歳。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2007/10/28/20071028ddm016040088000c.html

老化の記憶障害に関与 アルツハイマー関連物質

(毎日 2007.11.16)

理化学研究所は、アルツハイマー病発症に関与する
異常タンパク質の脳への蓄積が、老化に伴う記憶障害の原因にも
なっていることを、高島明彦チームリーダーらが発表。

記憶障害を手掛かりに、異常タンパク質の蓄積を早期に見つけられれば、
将来はアルツハイマー病の予防にもつながり得る。

このタンパク質は「タウ」と呼ばれ、
記憶障害や認知障害が起きるアルツハイマー病では、
過剰にリン酸化された異常な形で、脳の海馬や大脳皮質の神経細胞に沈着。
通常の老化でも「嗅内野」と呼ばれる、記憶の形成にかかわる
脳の特定部位に異常なタウが沈着することが知られていたが、
記憶障害との直接の関連は未解明。

高島さんらは、遺伝子操作で人間のタウを持たせ、
老化すると記憶障害を起こすマウスに対し、
プールを繰り返し泳がせ足場の場所を探させる記憶力テストを実施。

生後20カ月以上の老齢マウスは場所をなかなか覚えられず、
記憶力の低下が起きていることが分かったが、
このマウスの脳には、完全な沈着まではいかないものの
異常なタウが蓄積しており、それで神経活動が低下。

「異常タウは、沈着する前なら薬などで元に戻せる。
いかに早期に発見できるかが課題だ」。

理化学研究所プレスリリース
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2007/071116/

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/071116/acd0711161736005-n1.htm

2007年12月4日火曜日

小橋建太:腎臓がんから生還!不死鳥チョップ217発

(毎日 12月3日)

546日ぶりのリングで、217発のチョップをさく裂。
腎臓がんで長期欠場していた小橋建太(40)が、
高山善廣(41)とタッグを組んで三沢光晴(45)秋山準(38)組と対戦。
06年6月4日の札幌大会以来のリング。

敗れはしたが、満員の1万7000人のファンが待ち望んだ復帰戦で、
小橋は130連発を含む217発のチョップを放ち、病魔の克服をアピール。

超満員1万7000人の「小橋コール」が館内に響き渡った。
三沢、秋山にこん身の逆水平、大根斬りチョップを叩き込む。
圧巻は15分すぎ。
秋山に61発の逆水平を見舞うと、「青春の握り拳」を振り上げる。
さらに69発、計130発のマシンガンチョップ。
真っ赤に染まった秋山の胸こそが、鉄人復活の証。

心を鬼にしてエルボーを打ち込んできた三沢には、
堂々月面水爆でお返しした。剛腕ラリアットもさく裂。
チョップは計217発にも達した。
飛び散る汗。魂の雄叫び。何もかもが、全盛期の雄姿と同じだ。

最後は、三沢の雪崩式エメラルドフロウジョンに屈したものの、
その三沢と涙の抱擁をかわした小橋は、
「オレは生きている。リングは最高!」と絶叫した。

昨年6月に非情の宣告、「右腎臓に悪性の腫瘍がある」。
01年に、レスラー生命にかかわるひざの大ケガから生還したが、
再び病魔が襲いかかった。
主治医に、「まずは生きること」と絶望的な言葉。
「もうリングに上がることはできないのか…」。
自暴自棄になりかけたが、
「自分にはプロレスしかない」という信念が心の支えに。

手術後、初めて有明の練習場を訪れたとき、
真っ先にリングで大の字になった。
「自分の居場所を確かめたくて。ああ、生きているんだなって」。
練習を開始しても、1つしかない腎臓がリング復帰への最大の障害。
ハードな練習で生じる老廃物を処理できず、食生活も制限。

転機は、昨年12月10日の武道館。
小橋コールで埋め尽くされた会場で、「必ずリングに帰ってきます!」と約束。
「ファンの声援が、一番のリハビリだとあらためて感じた」。
この宣言のあと、腎臓の検査の数値は少しずつ回復に。

「病気をしている間に40代になった。40からが勝負。
オレを見てみんなに元気になってもらいたい」。
リングを取り囲んだ女性ファンのほとんどが泣いていた。
「勇気をありがとう」と書かれた横断幕を横目に花道を戻る際には、
足元がふらついて倒れそうになった。
それでも奇跡を起こした男は言った。
「これがゴールじゃない。これで止まらないし、レスラーとして生き続ける」。
人生最大の敵を倒した鉄人が、再び力強く歩き始めた。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20071203spn00m050022000c.html

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これは、感動、感激ですね!!!
プロレスラーが不死鳥のようによみがえるシーンを
いくつも見てきたが、今回もまた目にすることが。
また素晴しいレスリングを見せて欲しい。
そして多くの勇気を与えて欲しい。

星野ジャパン:約束通りの“北京切符”「選手のおかげ」

(毎日 12月3日)

試合中の厳しい表情が一気に緩んだ。
言葉を詰まらせ、「これでゆっくり、オフが過ごせるね」。

08年北京五輪アジア予選(アジア野球選手権)の台湾戦で、
日本代表が五輪出場権を獲得。
チームを率いた星野仙一監督(60)は韓国、台湾、フィリピンとの
「アジア枠1」の争いを制した選手たちを、
「日本の野球の底力を見せてくれた」とたたえ、目に涙を浮かべた。

プロ野球中日、阪神の監督を通算13年務め、計3度のリーグ優勝。
だが、国を代表して臨む国際大会は短期決戦で負けられないプレッシャーが。
総力戦で1点差勝ちした韓国戦後には、
「こんなに厳しい試合をしたのは初めて」。

それも覚悟の上で監督を引き受けた。
「今の自分があるのは野球のおかげ。野球界に『恩返し』をしなければ」。

東京六大学リーグで23勝を挙げた明治大時代は法政大の黄金期、
中日のエースとして活躍したのは巨人の9連覇の時期と重なる。
「強者に立ち向かうことに闘志を燃やす男」というイメージは、
野球を通じて確立された。

野球が公開競技だった1984年ロサンゼルス五輪以来、
6大会の代表監督には、ほぼ全員に話を聞いた。
国・地域別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」で
日本代表を率い「世界一」になった王貞治・ソフトバンク監督(67)からは
「打撃戦より投手戦の想定を」とアドバイス。

先輩の経験を吸収し、自ら対戦相手の情報収集、分析。
03年に体調不良を理由に阪神監督を退任した経緯もあり、
定期的に体の隅々まで検査して健康管理に気を配った。
グラウンドでは自らノックバットを手にとって指導、
試合中のダッグアウトでは「闘将」のイメージそのままに声を張り上げ続けた。

監督の熱意に応え、選手たちは勝ちにこだわるプレーを連発。
台湾戦では、一度逆転を許してからの再逆転勝利。
「(試合を見ている人には)ハラハラさせただろうが、
終わってみれば感動してもらえたかな。本当にいい選手を選べたと思う」。
最高の笑顔で振り返った。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20071204k0000m050127000c.html

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アジアでは勝って当たり前、の野球。
確かに全体のレベルは、日本の方が韓国、台湾よりも上。
しかし、短期決戦ではどうなるか分かりません。
どんな種目でも、国際大会で勝つことは本当に難しい。
改めて、スポーツに絶対ということはないし、
プレッシャーに打ち勝つ精神力が大切だということを、
認識させられました。
日本の野球を、オリンピックでも存分に見せて欲しい。

気仙サミット2007 合併テーマに公開討論

(東海新報 12月2日)

将来の広域合併を見据えた「気仙サミット2007」が開かれた。
甘竹勝郎大船渡市長が旧三陸町との合併効果を 強調しながら、
“三本の矢”が一つになる必要性を訴えたのに対し、
中里長門陸前高田市長と多田欣一住田町長は“時期尚早”との立場から、
水産や農林業など基幹産業の振興を図りながら従来通り
「当面、単独・自立」の方向性を歩んでいく考えを示した。

達増拓也知事は、「合併は最終的に住民が判断すること」としながら、
「県としてもできるかぎりの支援をしたい」。

「気仙の将来を考える」をテーマにした今回のサミットは、
青年会議所(大船渡・古川季宏理事長、陸前高田・宮樫正義理事長)が主催。
両会議所は、「気仙は一つ」の共通認識を持って活動しており、
知事と三首長を招いて、「将来のまちづくりのあり方や
地方行政などについて幅広く議論してもらおう」と企画。
3年前には陸前高田青年会議所が主催し、三首長討論会を開いた。

討論会は、岩手日報社の達下雅一論説委員長が司会を務めて進行。
達増知事はじめ甘竹市長、中里市長、多田町長がパネリストとして登壇。

広域合併についての考えを聞かれた甘竹市長は、
平成13年に三陸町と合併し、財政面で大きな効果を上げていることを強調。
「三陸町民からも、『合併して良かった』との声が。
国や県から91億円支援、6億円の人件費削減により、
市民会館の建設、学校や医療福祉施設、産業基盤の整備につながっている」。

多田町長は、「当面、自立は住民の意向であり、
いまは小さい町だからこそできるまちづくりが大切。
仮に合併すると、本町は中心地から離れた周辺地域になることが懸念。
合併後の人口は約7万5千人と少なく、将来的にはもっと大きな合併を
想定することも必要ではないか」。

中里市長は、「将来の合併は避けて通れないと思うが、
今すぐに協議のスタートラインに立てる状況にはない。
市民アンケート(平成15年)では、7割が合併に否定、慎重な意見が多い。
本市の財政は厳しいが、合併することによって解決できるものではなく、
特色あるまちづくりを進めていくことが先決」。

甘竹市長は、現在の気仙の人口や産業構造規模だと、
合併後の役所職員数を長期的に238人削減できることを指摘。
「職員1人年間6百万円の平均給与だとすると、
15億円近い人件費をまちづくりに使えることになる」。

また、広域連携の必要性については認めている中里市長は、
「産業振興などの面で幅広く進めていきたい」。
多田町長も、「気仙に住む人たちの共通した優しさを定住促進、
人口増につなげていきたい」。

終了後、大船渡市の会社員・男性(46)は
「こうした機会を設けたのは良かったが、
合併についてもっと突っ込んだ議論をしてほしかった。
三首長とも『気仙は一つ』の考えが根底にあることを感じたが、
現在の思いはそれぞれ違うのかな、という印象」。

陸前高田市の農業・男性(59)は、
「個人的には合併を進めてもらいたいが、三首長の考えは温度差があるよう。
中里市長は以前のアンケート結果を話していたが、
当時と今とでは市民の認識も変わってきているのでは。
もう一度合併に関する市民アンケートを行ってほしい」。

http://www.tohkaishimpo.com/

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このような機会をつくることは、とても有意義なことです。
政治家の生の声、考えを聞く、ぶつけ合うことはなかなかないですから。
選挙の時以外は。
私は、気仙地区は出来るだけ早く合併して、一つになるべきです。
経済、教育、文化については一つの活動圏になっている。
政治だけが、わざわざ分裂したまま。
大船渡から住田を通って奥州、盛岡、秋田方面へ、
また大船渡から高田を通って気仙沼、仙台方面へ、
道路と鉄道を整備、発展させるには合併することが大切。
政治家は、地方の発展のために将来のビジョンを明確にすべき。
気仙地区が一つになった方がいいなら、さっさと行動すべきです。

2007年12月3日月曜日

粗食長寿説(3)『養生訓』が導いた誤り

(毎日 2007.11.12)

仏教の伝来により、食肉を禁止する思想がかなり定着した。
日本は、食肉を禁止しても、沿岸では魚介類に恵まれ、
気候風土が米作に適していた。
ヨーロッパなどは稲を作る条件に恵まれず、麦を作ることしかできなかった。

植物性食品のうち、大豆のタンパク質のアミノ酸構成がベストで、米が次ぐ。
日本人は、食肉の不足をこの2つの食品で必死に補ってきた。

非公式には、食肉を摂っていた。
肉食を意味する薬食(くすりぐい)などという言い方も。
また、ウサギはトリとみなし、1羽、2羽…と数えて食べた。
トリは禁止されていなかった。
東北地方のマタギ族は、日本には珍しい狩猟部族。

国民の栄養源となるには、あまりにも少ない食肉の摂取量。
平均寿命は、江戸時代にも30歳代とされ、
間引きなどを考慮すると20歳代であった可能性も。

支配者階級は、質素・倹約を下級武士や農民に押しつける必要。
江戸幕府の武家諸法度などよい例。
“まずいものを食べ、一生懸命働くのが長寿につながる”という
粗食長寿説もこのような時代背景の中から出現。

イデオローグ(理論的唱導者)の代表が、貝原益軒(1630~1714年)。
彼は、江戸初期の儒学者で、父が黒田家の医官であり、
医学に対する深い見識をもっていた。
1713年、『養生訓』を完成。
この本は、食事、運動、酒の飲み方、性生活にわたる幅広い健康読本。
後世に大きな影響を与え、現代にも通ずる内容を含んでいる。

しかし、過食の戒めは書いてあっても、粗食の害は書いていない。
上級武士や富裕な商人など、特権階級のために書かれた健康読本である。
この時代、米を主食にしていたのは特権階級のみで、
下級武士や農民は、ヒエ、アワ、麦、イモを主食にしているのが一般的。

『養生訓』には、“肥えると、脳卒中になりやすい”と。
しかし、昭和30年代の日本の農民でさえ、
“やせていて”高血圧の人が脳卒中になるのが普通。
『養生訓』が、いかに特殊な階層の人々を観察し、
その人々のために書かれたものであるかが分かる。

低栄養の民衆にまで、「もっと生臭いものを遠ざけ、もっと働けば長生きする」と、
『養生訓』は信じ込ませてしまった。

(桜美林大学大学院老年学教授 柴田博)

http://sankei.jp.msn.com/life/body/071112/bdy0711120802000-n1.htm

「チーム北島」の河合氏 マックSSで水泳フォーム指導

(東海新報 12月2日)

大船渡市大船渡町のマックスイミングスクールで、
アテネ五輪金メダリスト・北島康介選手の泳法分析を担当した
工学博士・河合正治氏によるスクール生対象の泳法技術指導が行われた。
選手らは、世界レベルのアドバイスを熱心に聞き、
今後の飛躍への足がかりとしていた。

同スクールでは、選手のフォーム改善を目的に、
河合氏に三年ほど前から定期的な分析を依頼。
これまでは雫石町の県営プールなどで行われていたが、
大船渡市の同スクールでの指導は初めて。

河合氏は、工学的な泳法分析の第一人者で、
数多くのトップスイマーを技術面で支援。
北島選手には、中学三年時からフォーム改善の助言を与え、
アテネ五輪前には科学的な側面も取り入れながら北島選手を支えた
「チーム北島」の一員として、金メダル獲得に大きく貢献。

スクール生への講義と泳法撮影が行われ、
小学生から大学生までの選手と保護者ら約六十入が参加。
講義で河合氏は、模式図や水中映像を使い、
水の抵抗を受けにくいターン技術などを指導。
「種目によりターンで、0・3~0・5秒差が出る」と聞いた選手らは
熱心に耳を傾けていた。

撮影した水中映像にコンピューターで解析を加え、
選手一人ひとりにフォーム改善をアドバイス。
画面上でスクール生と北島選手とのフォーム比較も行われるなど、
レベルの高い指導が展開された。
選手らもその場で体を動かしてフォームを確かめるなど、
指導内容を忘れないよう必死。
「これでタイムが1秒は縮まるはず」、「来年は県新を目指そう」など、
具体的な目標を与えられ笑顔でうなずく姿も。

盛小五年の鈴木寿真くんは、
「前回より泳ぎの姿勢が良くなったと言われてうれしかった。
泳ぎ込みを頑張りたい」と笑顔。
大船渡中一年の佐藤亘くんも、
「教わったことは難しい内容だけど、努力して改善したい」。

http://www.tohkaishimpo.com/

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これは、選手にとって素晴しい経験ですね。
トップレベルのアスリートはどういう指導を受け、泳ぎ方をしているのか、
直接教わり、アドバイスをもらう機会はなかなかないです。
特に地方では。
水泳がもっともっと発展するためにも、
このような機会がたくさんあってほしいですね。

2007年12月2日日曜日

厄介者の巨大クラゲから、有用ネバネバ成分を抽出!

(NPG Nature Asia-Pacific)

理化学研究所中央研究所環境ソフトマテリアル研究ユニット 丑田公規ユニットリーダー(UL)

数年来、日本海で巨大クラゲが大量発生。
クラゲの傘の直径は1メートルにも達し、重さは100キロ以上。
暖流の対馬海流に乗って日本海を北上してくるが、
その際に、定置網や魚を傷つけ、漁業に深刻な影響を与えている。

ミズクラゲなどの小さなクラゲが大量発生すると、
海水を冷却水に用いている沿岸部の原子力発電所や火力発電所が
運転停止に追い込まれることも。

駆除や解体、廃棄もままならないなか、
クラゲの体から、医薬品や食品添加物として使えそうな
有用物質を抽出するのに成功。

丑田ULらが抽出したのは、糖タンパク質であるムチンの一種
ムチンは動物の粘液や、里芋、オクラに含まれるネバネバ成分の総称。
抗菌作用や保湿効果をもち、化粧品などに利用されているが、
構造が明らかでないものがほとんど。

丑田ULらが発見したのは、ヒト胃液などの主成分である「MUC5AC」。
古事記のなかに出てくる「久羅下」にちなみ、
「国を生む」という日本語をもじって「クニウムチン」と名付け。

10年前に、細胞の外側の骨格成分「ヒアルロン酸」の研究を始めた。
「ヒアルロン酸も糖鎖高分子の一種で、性質はよくわかってきていた。
2004年の夏頃、大量発生するクラゲの質感をみて、
大部分がヒアルロン酸のような糖鎖高分子ではないかと直感」。

ヒアルロン酸の抽出法をクラゲで試したところ、
大量のクニウムチンが出てきた。
クニウムチンは、8つのアミノ酸の繰り返し構造からなるペプチド鎖をもつ。
「クニウムチンは、アミノ酸配列も糖鎖の構造も、
きわめてシンプルかつ原始的な純度の高いムチン」。
現状では、クニウムチンのような単純なムチンでも人工合成は難しい。

丑田ULは、クニウムチンを原材料にして改変を施すことで、
免疫作用や粘膜の保護作用など、多彩な機能をもつムチンを作り出し、
抗菌剤、保湿剤、人工胃液、食品添加物などの用途に。
「クラゲは食用にもなり、クニウムチンを経口投与しても毒性はない。
きわめてシンプルな構造なので、生体に用いても免疫反応や
アレルギー反応をおこす可能性が非常に低い」。

クニウムチンは、エチゼンクラゲやミズクラゲなどの日本海側でみられる
クラゲに共通して大量に含まれ、クラゲ約1トンから300グラム程度抽出。
「日本で年間数十万トンは発生しているので、ほぼ無尽蔵に原料が存在。
クラゲがムチンをもっていたのは幸運だった」。

その幸運は、丑田ULが長年続けてきたヒアルロン酸の研究、
ムチンの有用性とマーケット拡大を見抜く先見の明がもたらした。
「回収作業で多少の収入が得られるようになれば、
漁業関係者の“ただ働き状態”を軽減することにも」。

今後は研究者や民間企業の手を借りることで、
できるかぎり多くの用途をみつけたい。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=60

しっかり眠れば太らない? 小学生対象の米研究

(CNN 2007.11.10)

小学校3年生の時点で、十分な睡眠時間を取っている子どもは、
6年生で肥満になる確率が明らかに低くなるとの研究結果を、
米ミシガン大のチームが発表。

睡眠が足りないと、食欲ホルモンの分泌が乱れたり、
日中の運動不足を招いたりするためではないかと考えられる。

チームでは、連邦当局が過去に実施した調査のデータから、
小学校3年生と6年生の時点の睡眠時間や身長、体重が記録されている
子ども785人を抽出し、相関関係を分析。

3年生の平均睡眠時間は、約9時間半。
7時間しか眠らない子や12時間眠る子も。

同じ子どもたちが、6年生になった時の肥満率に注目。
睡眠時間が9時間未満だったグループと、
10‐12時間眠っていたグループに分けると、
肥満の範囲に入る子の率は前者で約22%、後者で約12%と、明確な差。

3年生の時点で太っていたかどうかという要因を考慮しても、
大きな差があることに変わりはなかった。
さらに詳細な分析の結果、境目は9時間45分の線にあり、
これを超えると肥満率がぐんと下がることが明らかに。

睡眠時間と肥満の関係を調べた研究は、これまでにもいくつか発表。
米シカゴ大の内分泌学者らが成人を対象に実施した調査では、
睡眠が不足すると、体内の食欲増進ホルモン「グレリン」が増え、
食欲抑制ホルモン「レプチン」が減るとの結果が報告。

睡眠が足りない子どもは日中、体を動かすより寝そべって菓子などを
食べている時間が長くなり、これが肥満につながるとの説も。

専門家の間には、「睡眠不足が肥満の原因になるのとは反対に、
肥満が原因で睡眠時無呼吸症候群などが起き、
眠りが妨げられることも考えられる」との指摘もあり、
睡眠時間と肥満の因果関係は確立するまでに至っていない。

http://www.cnn.co.jp/science/CNN200711100001.html