2008年3月29日土曜日

LDLコレステロールは本当に悪玉? 少な過ぎると死亡率上昇

(毎日新聞社 2008年3月29日)

脳卒中や心筋梗塞の発症の危険性を高める「悪玉」とされる
LDLコレステロールは、低いほど死亡率が高まることが、
大櫛陽一・東海大教授(医療統計学)らの疫学調査で分かった。

LDL値の高さは、4月から始まる特定健診・保健指導(メタボ健診)でも、
メタボか否かを判断する基準の一つで、
悪玉という位置づけの是非が議論になりそう。

大櫛教授らは、神奈川県伊勢原市で87~06年に
2回以上住民健診を受けた約2万6000人を平均8・1年追跡。
LDL値ごとに7群に分け、死亡率や死因との関係を調べた。

全死因合計の「総死亡率」でみると、男女とも、最もLDL値が低い群
(血液1デシリットル中79ミリグラム以下)が一番死亡率が高い。
男性では、年間死亡率が人口10万人あたり約3400人と、
死亡率が最も低い群(140~159ミリグラム)の約1・6倍。
女性も、人口10万人あたり約1900人で、死亡率が最も低い群
(120~139ミリグラム)の約1・3倍。

脳卒中や心筋梗塞など心血管疾患による死亡率に限ると、
男性では180ミリグラム以上になると死亡率が上昇、
女性はほとんど関係ない。
男女ともLDL値が低いと、がんや呼吸器疾患による死亡が増え、
全体の死亡率が高い。

大櫛教授は、LDL値の適正範囲を
「男性100~180ミリグラム、女性120ミリグラム以上」と提案。
メタボ健診の基準では、LDL値が120ミリグラム以上の人は
下げることを勧めているが、大櫛教授は
「適切な範囲にあるLDL値を下げ過ぎる危険がある。
コレステロールは人体に必須の物質で、少ないと免疫機能が低下し、
死亡率が上がるのではないか」。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=70010

クローン技術で脳疾患治療 マウスの運動機能が回復

(共同通信社 2008年3月24日)

パーキンソン病に似た症状を起こしたマウスの脳に、
自分の体細胞からクローン技術でつくった神経細胞を移植し、
運動機能を回復させる実験に、
米国の研究所や理化学研究所の共同チームが成功。

ほとんど動けなかったマウスが、1カ月後には活発に動けるようになった。
理研発生・再生科学総合研究センターの若山照彦チームリーダーは、
「人への応用には技術的・倫理的課題が大きいが、
症状の改善は期待できる」。

チームは、脳神経の一部を薬剤で損傷させたマウスから皮膚細胞を採取。
卵子に入れてクローン胚をつくり、胚性幹細胞(ES細胞)を作製。
これを神経細胞に分化させて元のマウスの脳に移植すると、
患部に定着して運動機能が回復。

マウスのクローン技術は確立しているが、人ではまだ成功していない。
「研究用の卵子提供がほとんど見込めず、人への応用はすぐには無理」。

患者本人の体細胞からつくる人工多能性幹細胞(iPS細胞)は
「がん化を防ぐなど、安全性をクリアすれば治療に使えるかもしれない」。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=69774

2008年3月28日金曜日

専門分野の統合は難しい?

(サイエンスポータル 2008年3月18日)

地球環境をはじめ近い将来、社会が直面する“未来の課題”の解決は、
これまで大学で行われてきたシーズ先導型の研究では無理。
大学が蓄積してきた知識と研究力を総動員する、
ニーズ先導型の研究活動でこの壁を乗り越える。

こんな目的を掲げた東京工業大学統合研究院ソリューション研究機構の
機関誌「そりゅーしょん通信」最新(第9)号に、
「統合」についてあらためて問う記事が載っている。

「統合がうまくいっても、理工系だけの統合に終わるのではないかと危惧」。
元毎日新聞編集局次長・科学環境部長の
瀬川至郎・早稲田大学客員教授の寄稿記事。
「取材すべき喫緊の課題は複合的であり、個々のディシプリン(専門分野)を
統合した形で取り組まなければならない」。

前段で、毎日新聞時代の経験を紹介したうえでの指摘。
統合研究院が目指すのも同様、ディシプリンの「統合」と思われるのに、
機関誌を創刊号から読み返してみたら、紙面に登場するのは
理工系の研究者や企業の幹部ばかりではないか、というわけだ。

「そりゅーしょん通信」の巻頭言を書いているのは、
冨浦梓・東京工業大学監事(元新日本製鐵常務・技術開発本部副本部長)。
冨浦氏も、専門教育だけでは課題解決が困難になっていることを指摘。

目につくのは、「専門教育と一体化した教養教育が重要」と言っていること。
「試行不能な巨大人工物、試行が許されない生命倫理などにかかわる
対象が増加した結果、仮説実証法は破綻に瀕した」のだから、
「依拠すべきは論理整合性。論理整合を図るには、自然科学的論理や
人文社会科学的論理の充実に加えて、社会的合意や動向の把握も不可欠」。

理工系と、文科系の人間が集まって知恵を出し合えばよいというのではなく、
文科系的知識や思考法も備えた理工系の人間や、
その逆の人間が必要になっている、というようにも読める。

瀬川氏も、実はメディア企業においても、政治、経済、社会、科学など
各部が「統合」して目前の課題に取り組むことの難しさがあることを認めている。
「各取材セクションは、それぞれ『自分たちがやってきたこと』に固執し、
なかなか統合しようとしない」。

大学でも同様な現実があるのでは、というのが氏の危惧、
興味深いことに、氏も教育の重要性に触れている。
大学院教育については、相澤益男・総合科学技術会議議員
(前東京工業大学学長)も、最近、早急な改革の必要を唱えている。

では、大学院だけの改革で十分だろうか。
大学入学時に理科系、文科系に明確に仕分けられてしまう。
入学者選抜の仕組みと、その後のカリキュラムのあり方を変えずに、
冨浦氏が言うような「専門教育と一体化した教養教育」の充実が可能なのか。

大学(学部)に手を付けない限り、課題解決能力のある理系人材の育成は
難しいだろうし、文科系出身者でないと指導的な立場に就きにくい
日本社会の構造も変わらないのでは…。
そう考える人は、理工系出身者の一部だけだろうか。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0803/0803181.html

女性教授計画により多くの女性科学者を頂点へ!

(サイエンスポータル 3月7日)

連邦教育研究省(BMBF)は、3月8日の国際婦人デーにちなみ
女性教授計画」をスタート。
BMBFでは、国内大学に今後5年間で200名までの女性教授職を用意、
BMBFと各州政府は総額1億5000万ユーロを投入。

特筆すべき点は、大学が助成を受けるためには男女参画の機会均等が
良好と判断されなければならないことにあり、
判定は科学、研究、大学運営などに傑出した代表者からなる
独立の審議会によって行われる。

この措置について、シャヴァン連邦教育研究大臣は、
「大学が優れた後継女性科学者に長期的な展望を与えることができなければ、
価値あるポテンシャルを失うことになり、
女性教授計画はこの点で大学を支援するもの。
「女性教授計画」は、研究や学問における女性の機会均等にとって
万人が認めるものとなる。
大学の機会均等化活動を強化し、ドイツ研究界のトップにおける
女性の割合を拡大し、学界の創造性・イノベーション能力を引き上げるという
目的を達成するものとなる」

http://crds.jst.go.jp/watcher/data/386-003.html

2008年3月27日木曜日

統計資料集「欧州の科学・技術・イノベーション」2008年版

(サイエンスポータル 3月10日)

EU研究総局は、欧州委員会統計局(Eurostat=ユーロスタット)が
標記資料集を公表。
同資料集は、全244ページから成り、内容は以下の3部構成。

1)研究開発投資(Investing in R&D)
・各国政府の研究開発費
・対国内総生産(GDP)比

2)知的従事者の調査(Monitoring the knowledge workers)
・研究開発人材
・高等教育など

3)生産性と競争力(Productivity and competitiveness)
・イノベーション
・特許
・先端技術産業
・知的サービス業
・EU産業R&D投資スコアボード

同書には、EU加盟27カ国の上記各事項に関する統計データや
指標がまとめられている他、適宜日本、中国、米国などとの国際比較。

http://crds.jst.go.jp/watcher/data/385-001.html

21世紀地球科学の主要10課題

(サイエンスポータル 3月12日)

全米研究会議(NRC)は、21世紀の地球科学分野が直面する
主要課題をまとめた報告書を公表。
カリフォルニア大学バークレー校の地球化学教授、Donald J. DePaolp氏は
「地球科学分野が発展するためには、我々は過去を見つめ、
地球や生命の起源、惑星の構造や力学、生命と気候の関係など
根本的で深い問題に取り組んでいかなければならない」。

21世紀地球科学分野の主要課題(10課題)

1.地球や惑星はどのようにして生まれたのか?
2.地球の「暗黒時代」に何が起きたのか?
3.生命はどのようにして生まれたのか?
4.地球内部はどのようになっており、どのように地表面に影響しているか?
5.地球はなぜプレートテクトニクス(岩盤移動)が起き、大陸があるのか?
6.地球は材料の物性にどのようにコントロールされているのか?
7.気候変動がなぜ起こるのか?そしてどの程度変動するのか?
8.生命と地球は互いにどのように影響合っているのか?
9.地震と火山噴火は予知できるのか?
10.(地層と地表面との)流動現象はどのように生活環境に影響するのか?

同書は、米エネルギー省、国立科学財団、米国地質調査所、
米国航空宇宙局の要請を受け作成。

http://crds.jst.go.jp/watcher/data/386-001.html

腎臓がん克服、小橋建太さん 不屈のリング…自分信じ生きる

(毎日 3月18日)

人気、実力ともに日本を代表するプロレスラー、小橋建太さん(40)が
腎臓がんを克服してリングに帰ってきた。
がんで腎臓を片方取って、現役復帰したプロスポーツ選手は前例がない。
プロレスや生き様を通して、たくさんの人を勇気付けている小橋さん。
不屈の闘志を支えるものは何か?

「こばしーーーっ!」
叫ぶような声が、日本武道館のあちこちから聞こえてくる。
得意技のマシンガンチョップや剛腕ラリアットが決まるたびに、
観客から「お~~」という歓声が地鳴りのように響く。
リングの上では、汗でぬれた鍛え上げられた体がライトに照らされる。
復帰第8戦を飾った小橋さん。
コールや拍手が鳴りやまない。会場が一つになっていった。

小橋さんは、両親の離婚で父の姿を知らないまま育った。
母はパートなどを掛け持ちして、小橋さんと兄の2人を1人で育てた。
経済状況は苦しかった。
家は雨漏りし、畳がへこみ、床底が抜けた。
母は、愚痴ひとつ言わずに必死で働いた。
「母が胸を張れる立派な人間になりたい」。

早く自立したく、高校卒業後は京セラで工場勤務。
しかし、自分が置かれた状況が見えてくるに従って、
「本当にこれがしたかったことなのか?」という疑問が。

小さな新聞の記事が目に入った。
米国のプロボクサー、マイク・タイソンの活躍を伝えるもの。
恵まれない環境に育ち、少年院にまで入っていた同い年の男が、
好きなボクシングでのし上がっている。
「自分にとってのボクシングはなんなのか?」。
「プロレスラーになりたい」。子供のころの夢がよみがえった。

退職してウエートトレーニングに取り組み、全日本プロレスに入門願。
しかし、実績がないことや20歳という年齢を理由に入門を断られた。
交渉して何とか入門したが、上下関係が厳しい先輩たちとの共同生活や
付き人としての苦悩など、苦労は絶えなかった。
リングデビューは88年。

熱いファイトスタイルや不屈の強さで、徐々に存在感を増した。
たくさんの賞を取り、前シーズンではチャンピオンだった06年6月、
がんが見つかった。
所属する「プロレスリング・ノア」の健康診断。

東京都江東区にある事務所を訪ねると、
白いシャツにブルーのネクタイをきちんと締めた小橋さんが現れた。
黒のスーツに包んだ体は、リングの上よりも小さく見える。
激しい戦いの後、観客に何度も丁寧にお辞儀をした、
あの誠実な人柄は、ここでも全身からにじみ出ている。

「(告知された時)がん=(イコール)死=『もうプロレスができない』って、
すべてが結ばれました。
帰りのタクシーの中で、入門して20年のことが頭にフラッシュバック。
家に帰って、少し落ち着いてから、いろいろ考えました。
ああ、もうこれで死んでしまうんだな、と。
あこがれのチャンピオンベルトも取ったし、
ベストバウト(年間最高試合賞)とかMVPとかの賞もいっぱいもらったけど、

でも何が自分にとって一番大きかったのか、と考えたら、
ファンのみんなの声援だったんですね。
自分のプロレス人生は本当にファンのお陰だった。
そう思うと、後悔はなかった。
こんなにみんなに愛されたプロレスラーとして後悔はない、とね」

手術後は、底なし沼といえるほどの精神の激しい落ち込みに苦しんだ。
全身の倦怠感が3~4カ月続き、心身ともにブラックホールにいるよう。
練習熱心で知られるが、当時は「ここで動かないとダメだ」と、
自分を無理やり道場に連れて行き、練習を再開。
「早くリングに上がりたい」という一心。
復帰について、主治医は「絶対反対」と言い続けた。

07年12月2日。日本武道館で、546日ぶりの復帰戦。
詰め掛けた1万7000人は「プロレスリング・ノア」史上最多の観客動員数、
異例の立ち見券も販売。
終了後、観客は総立ちとなり、「小橋コール」。
多くの人が泣いていた。みんなが「生きる」ことの大切さを共有。

「まずは生きること。
生きたくても、生きることができない人がいっぱいいる中で、
自分は生きるチャンスを得たんですよ。
当たり前にできていたことが、当たり前って感じない。
すごくありがたく感じますよね。
すべてに対して、ありがたい、ありがとう、って感謝の気持ちが
余計に強くなりましたよね」

がんは今、不治の病というわけではない。
たくさんの人が不安の中で闘病している。
「がんばるしかないですよね。自分を信じて、生きようと。
自分も、チャンピオンになったこのいい時期に、なんでなんだ?と
思いましたけどね、やっぱり。だから……」

言葉の端々から一生懸命な姿勢が見える。おごらず、偉ぶらない。
「自分だけじゃないんだよ、と。人間なんてみんな一緒、みんな弱いと思う。
でも、強くなろうとする気持ちがあれば、強くなっていく。
『上がって行こう、上がって行こう』と思えば、必ず上がって行ける。
プロレスが好きか嫌いかは別にして、がんになっても復帰したプロレスラーが
いるということを一人でも多くの人に知ってもらいたい。
病気とかいじめとかにあっている人に、負けないで自分自身を信じて
がんばって行けば道は開けていくんだと。それを伝えたいんですよね」
小橋さんの目は、どこまでも真っすぐだった。
==============
◇こばし・けんた

1967年、京都府福知山市生まれ。
福知山高校卒業後、京セラ勤務を経て、87年、全日本プロレス入門。
88年にデビュー。00年「プロレスリング・ノア」創設を機に、
「新しい自分を建てる」という意味を込めて本名の健太から改名。
186センチ、115キロ。

http://mainichi.jp/select/science/news/20080318dde012050013000c.html

2008年3月26日水曜日

ダウン症のリコーダー奏者:障害乗り越え、奏でる音色 家族4人でCD発表

(毎日 3月18日)

ダウン症のリコーダー奏者、荒川知子さん(24)=仙台市泉区=
一家4人が、ファミリーアンサンブルの初CD
「みんなしあわせ」を発表。

知子さんが、知的障害や四肢が短いハンディキャップを乗り越えて
奏でる音色に「真っすぐで純粋で、天から降ってくるよう」とファンも多い。

音楽一家に育った。
父健秀さんはフルートや作編曲の音楽講師、母幸子さんはピアノ教室主宰、
兄洋さんは新日本フィルハーモニー交響楽団のフルート奏者。

リコーダーが知子さんの宝物になったのは、小3の時。
養護学級の交流授業で、普通学級の児童に交じり縦笛を演奏。
演奏に雑談がやみ、終わった瞬間、拍手が起こった。
担任教諭から「涙が出ました。すごい拍手で知子ちゃんも泣いていました」。
以来、リコーダーを手放さなくなった。

演奏が注目されたのは、仙台で01年開かれた「とっておきの音楽祭」。
障害の有無を超えて、心のバリアフリーを目指す趣旨に賛同し、
家族で出演した。
知子さんの演奏に足を止める客で、
会場周辺の通路がふさがるほどの大盛況だった。

CDは、洋さんの作品など10曲を収録。
プロデュースしたシンガー・ソングライターのあんべ光俊さんは
「技巧に走らない純粋な音色」と絶賛。
知子さんは、「空に向かって広がるような、いい演奏をしたい」。
CDは2500円。29日から全国で発売。
問い合わせは、発売元のイーハトーブ・ウィンズ(電話022・265・7004)。

http://mainichi.jp/select/science/news/20080318dde041040063000c.html

ナマコの皮膚からヒントを得た新素材

(Science 3月7日)

ナマコの皮膚とよく似た方法で、硬い柔らかいという状態を
変化させることができる新素材を開発。

このような素材は、生体用インプラントに使用されるようになる。
一例としては、脳に埋め込む微小電極の保護鞘。

この素材であれば、埋め込み時には硬いがその後柔らかくなり、
周辺組織への影響が軽くて済む
(パーキンソン病、脳卒中、脊髄の損傷の治療に使用されている微小電極は、
硬いインプラントの周辺に瘢痕組織が生じ、時間の経過に伴い効果が弱まる)。

Jeffrey Capadonaらは、弾性のある共重合体混合物に
セルロースナノ繊維、つまり「ウィスカー」を添加
水素結合を引き起こす溶剤を加えると、溶剤により繊維間の結合が破壊され、
素材は柔らかくなる。
溶剤が蒸発すると、ウィスカーの網状構造が再形成され、素材は硬くなる。

被嚢動物として知られる固着性の海洋生物の外皮から採取した
セルロースウィスカーを使用、木材や綿といった再生可能な資源からも
同様のナノ繊維が採れるであろう。

"Stimuli-Responsive Polymer Nanocomposites Insipred by the Sea Cucumber Dermis,"

J.R. Capadona; K. Shanmuganathan; D.J. Tyler; S.J. Rowan; C. Weder at Case Western Reserve University in Cleveland, OH;
J.R. Capadona; D.J. Tyler; S.J. Rowan; C. Weder at Louis Stokes Cleveland DVA Medical Center in Cleveland, OH.


http://www.sciencemag.jp/highlights.cgi?_issue=98#415

2008年3月25日火曜日

細胞内小器官の中心子がもつ「9」の謎を解く

(nature Pacific-Asia)

東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 廣野雅文准教授

膜のカプセル内に「おりたたまれたさらなる膜構造」をもつミトコンドリア、
鏡餅のようなかたちのリボソーム……。
私たちの細胞内には、実に不思議なかたちをした小器官がいくつもある。

「中心子」とよばれる小器官もまた興味深い。
「微小管」という細い管が、決まって9本、美しい円筒状に配置した構造

なぜ「決まって9本」なのか?どうやって「円筒」ができるのか?
中心子の形成メカニズムを探ることで、謎の解明への糸口。
中心子は、被子植物や菌類以外の多くの真核細胞にみられる構造で、
光学顕微鏡では小さな顆粒として観察。

顆粒は、9本の微小管が並んでできる円筒形の構造(9回対称性構造)。
機能は、細胞骨格の形成に働く「中心体」を形づくることと、
べん毛や繊毛の基底部となること。
中心体は、細胞分裂の間期に糸のような微小管を放射状に伸ばし、
分裂期になると2つに分かれて紡錘体を形成。

基底部の中心子は、9本の微小管をさらに伸長し、べん毛や繊毛を作り出す。
中心子は、「微小管構造を形成するための司令塔」としてはたらく。
「べん毛をもつクラミドモナスという単細胞緑藻を使って
中心子の研究ができないか考えていたが、1997年に環境が整った」。

中心子形成の研究には、突然変異体を使った遺伝学解析が欠かせないが、
クラミドモナスはべん毛を使って接合するので、
べん毛がなくなる中心子変異体は次世代を残せなくなってしまう。

ところが、アメリカのあるチームがべん毛をもたないクラミドモナスを
接合させることに成功し、廣野准教授もその技術を伝授。
解明すべき謎は2つ。
第1に、「あらゆる生物の中心子がなぜ9回対称形なのか」、
第2に、「どのようにして9回対称形がつくられるのか」。

「正常なクラミドモナスの中心子ができるようすを電子顕微鏡でみると、
カートホイール(車輪の意味)という傘の骨のような放射状構造が現れ、
その後に各骨の先端に微小管ができる。
9本の骨からなるカートホイールが足場とるために、
9回対称になるのではないかと思われるが、
一方で、カートホイールよりも微小管の方が先にできるという報告も」。

廣野准教授は、中心子が全くできなくなってしまう変異体を単離し
bld10変異体(bldは毛をもたない:bald)」。
変異の原因を追求した結果、カートホイールに局在するあるタンパク質
(Bld10タンパク質)がなくなっているためであることを突き止めた。
遺伝子導入により、「末端を削ったさまざまな長さのBld10タンパク質」を
bld10変異体に発現、末端の一方(C末端)を35%ほど削った場合に、
中心子ができてべん毛を生やす細胞と、中心子ができずべん毛を
生やさない細胞が混在。

カートホイールの骨が短く、微小管8本からなる「8回対称形」を示す中心子
が多くみられた。
「カートホイールの直径と円周が短くなったために、
円周上に9本の微小管が並べなくなったからではないか」。
廣野准教授は、カートホイールがなくなり、中心子の微小管が7〜11本までの
いずれかの本数になる(9回対称性を失った)変異体を単離し、
「bld12変異体」と名付けた。

「bld12変異体の原因遺伝子は、線虫のSAS-6遺伝子と同じ。
SAS-6遺伝子は中心子形成に必須と考えられていたが、そうではなく、
カートホイールの9本の骨が放射状に配置されるのに必要」。

ただし、bld12変異体には9回対称性を維持しているものも多く、
9回対称性に関与する因子はカートホイールのほかにもある。
カートホイールが、中心子の微小管形成の足場となっていたことが明らか。
第二の謎は解明されつつある。

残されたのは「なぜ9回対称なのか」という問題だが、
「カートホイールの軸に、9の起源がある。
カートホイールがどのようにして9本の骨をもつようになるのかを探れば、
答えがみつかるかもしれない」。

原核細胞にはない中心子は、生物進化の重要な鍵を握っている。
中心子の数の異常が細胞のがん化につながり、医学的にも注目。
「複雑な構造がどのようにして組み上がるのか」。
廣野准教授の謎解きが続く。

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=84

2008年3月24日月曜日

ヒトES細胞研究の規制緩和求め学会声明

(サイエンスポータル 2008年3月19日)

ヒト胚性幹細胞(ES細胞)研究の規制緩和を求める声明を、
日本再生医療学会(理事長・中内啓光東京大学教授)が発表。

日本が、マウスやサルを使用したES細胞研究で世界をリードする
研究実績を誇るものの、
ヒトES細胞はつくりだしたヒトES細胞の株数、発表論文数において
欧米諸国、アジア・オセアニアと比べて大きく遅れている現状を明らかに。

原因の一つとして、「既に樹立されているES細胞の使用研究にも
ES細胞樹立の際と同様の厳しい二重審査を要求するという、
世界に類をみないES細胞研究指針」の存在。

幹細胞研究分野では、受精卵を使わない人工多能性幹細胞(iPS細胞)が、
山中伸弥・京都大学教授によって作り出され、
再生医療などへの応用を目指す研究の国際競争が一層激しい。

日本再生医療学会の声明は、「わが国発の画期的なiPS細胞の研究を
進めていく上でも、ヒトES細胞の研究利用は必須。
世界でも有数の高齢者社会を迎えつつあるわが国において、
幹細胞研究を迅速に進め、再生医療を実現することは
国民の福祉と健康の増進のみならず、医療関連産業や知財といった
経済的な側面からも極めて重要」として、
ヒトES細胞研究指針の規制緩和を強く求めている。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/0803/0803191.html

バチカン、「麻薬」「公害」「遺伝子操作」を罪に

(CNN 2008.03.11)

バチカン・ローマ法王庁のジャンフランコ・ジロッティ師は、
新たに「麻薬」と「公害」、「遺伝子操作」を「罪深い行為」として扱う。
これらは世界的な規模で、社会的な影響を与えている。

ジロッティ師は、バチカン内赦院の内赦執行官を務めるローマ法王庁の高官。
この3つの行為について、「実験と遺伝子操作によって、
人間の基本的な権利が脅かされる」。

麻薬は、人々の知性を覆い隠して心を弱らせ、
公害は、富める者と貧しい者の格差を社会的にも経済的にも拡大、
「社会的な不公平を生み出す」と非難。

カトリックには、神からの離反と見なされる「大罪(mortal sin)」と、
神に背く行為の「小罪(venial sin)」がある。
「大罪」は、ダンテ「神曲」で知られる
「淫欲」、「どん欲」、「強欲」、「怠惰」、「ねたみ」、「高慢」。
大罪を犯した者は、神の前で告白し、悔い改めなければ
地獄で火あぶりになる。

しかし、全世界的な社会問題などを見て、
新たに「罪」も現代化させる必要があると判断したという。
イタリア人のカトリック教徒のうち、教会へ懺悔に行かない人々、
約60%に増加したことも、「罪」の内容を見直すきっかけに。

http://www.cnn.co.jp/science/CNN200803110023.html

2008年3月23日日曜日

北京五輪:「マラソンなど、大気汚染リスク」 IOC医事委員長、大会中監視へ

(毎日 3月18日)

国際オリンピック委員会(IOC)のアルネ・リュンクビスト医事委員長は、
大気汚染が懸念される北京五輪ではマラソンや自転車ロードレースなど
競技時間が1時間を超す耐久種目は多少のリスクが残るとして、
五輪中は大気の状態を監視し、場合によって
日程を変更できる態勢も必要だとの認識。

IOCは、中国当局から昨年8月の大気データを入手。
同委員長は、データを基に「理想的ではないが良好な条件で競技できる。
健康上の問題はほとんどないだろう」。

同五輪では、ぜんそくの持病を抱える男子マラソン世界記録保持者の
ハイレ・ゲブレシラシエ選手(エチオピア)が健康不安を理由に
マラソンを欠場する意向。

「食の安全」について、同委員長は「大会中は、
北京当局が非常に高度な管理システムを導入する」と懸念を否定。

http://mainichi.jp/life/ecology/news/20080318ddm035050026000c.html

ボストン、レストランなどでトランス脂肪酸を禁止

(CNN 2008.03.14)

ボストンの公衆衛生当局は、ボストン市内のレストランや飲食店に
おけるトランス脂肪酸が含まれた油の使用禁止を、満場一致で可決。
違反した場合、罰金1000ドル(約10万円)。

レストランや飲食店のほか、学校や病院、企業の食堂も対象。
ただし、すでに袋詰めにされたポテトチップスやクッキーなどは、対象外。

米国では、トランス脂肪酸が心疾患のリスクを高める恐れがあるとして、
使用を規制する動きが強まっている。
ニューヨークとフィラデルフィアで禁止、
ボストン市内でも多くのレストランが、使用を自粛。

http://www.cnn.co.jp/business/CNN200803140010.html