2008年9月17日水曜日

太陽光発電を簡素化、途上国への普及目指す 豪研究者

(CNN 9月6日)

「地球環境に優しい技術には、お金がかかる」
そんな現状を覆そうと、太陽光発電の分野で近年、
途上国の貧しい住民が利用できる、安くて簡単な技術の開発が進んでいる。

オーストラリア・ニューサウスウェールズ大博士課程の
ニコール・ケッパー氏が考案した「iJET(アイジェット)」もその1つ。

ケッパー氏によれば、アイジェットは
「インクジェット方式のプリンターとマニキュアの除光液、
ピザの焼けるオーブンがあれば作れる」太陽光発電機。
従来の工程と違い、クリーンルームを備えた工場や熟練した技術者を
必要としないため、約半分の費用で製造できる。

同氏は今年、この技術で、同国の優れた科学者に贈られる
「オーストラリア博物館エウレカ賞」を受賞。
「工程を簡素化し、分かりやすくすることが、
太陽光発電を途上国に普及させるカギ」。

途上国ではすでに、インフラ整備に膨大な費用と時間のかかる
従来の電力供給システムに代わるものとして、太陽光発電が注目。
アフリカ東部などで灯油ランプをソーラー式発光ダイオード(LED)照明に
切り替えるプロジェクトに取り組む非営利団体「ソーラーエイド」の
ジェレミー・レゲット会長は、
「一軒一軒の家、ひとつひとつの村に設備を取り付けることにより、
太陽光発電は着実に普及するだろう。

太陽光発電のコストを下げるための技術は、日進月歩の勢い。
新たな発明も大歓迎だ」

ケッパー氏が描くのは、アイジェットを途上国の企業が製造し、
地元の家庭に販売するという将来像。
「現地で製造できれば、雇用創出などの経済効果も期待できる」。

当面の課題は、太陽光発電機の主要な材料となる
シリコンの使用量をいかに減らすかということ。
「シリコンは、製造コストの約50%を占めているのが現状。
コスト削減のためには、この割合を低くする必要がある」

http://www.cnn.co.jp/science/CNN200809060019.html

野口 健 氏「人が集まればできる」

(サイエンスポータル 7月18日)

野口 健 氏(アルピニスト)

アルピニストとは、登山家というよりごみを拾う人と思われている。
ファンにサインを求められ、エベレストのことを書いたら、
山に登っているんですかと聞かれた。8年間ずうっとごみ拾い。
特に環境を考えていたわけではなく、人が少ない山を登っていたので、
それほど汚している気がしなかった。

1997年、初めてエベレストに行き、1シーズンに3,000人という
人の多さとごみの多さに驚いた。
氷河の隙間や溶けた部分の至る所に、空き缶やヘリの残骸などがある。
食べ物や缶は、どこの国のごみかよくわかる。

一緒だった国際隊のヨーロッパの人に、日本人はマナーが悪いとしかられた。
悔しかったが、あまりにも日本のごみが多くて言い返せなかった。
過去は仕方がないが、日本人が拾えば良いと思った。
そうして2000年から始めた。

清掃をする8,000メートルの高さはとても空気が薄く、
ヘリコプターがプロペラを回しても浮かなくて、ヘリでごみを降ろせない。
酸素ボンベを背負って10キロのごみをザックに入れると、動けなくなる。
少し拾っては運んで降ろし、何度も繰り返す。本当にしんどかった。
最近ヒマラヤは、温度が高くて雪崩が起き、かなり危ない。

シェルパを説得して行ってもらったけれど、その間3人が亡くなり、
仲間を失っても続けるか葛藤した。
その後、僕自身が体を壊し、責任問題を考えた。

ネパールは、貧しい国で環境のことを考える余裕がなく、
すごい抗議がくると思った。
でも、やめようと言ったとき、30人ぐらいの人たちがシーンとなって、
一人が最後までやろうと言ってくれた。彼はこう言った。
「自分たちの村やカトマンズも、ごみだらけだと気づいた。
ネパールのシンボルのエベレストを徹底的にきれいにすることで、
ネパールを変えよう」。

一度本気でごみを拾うと、毎日歩いている道でも違う角度から見るので、
いろいろなことに気づく。
亡くなったシェルパの家に謝りに行くと、奥さんはどうか続けてほしいといった。
生前その人は、「お父さんはエベレストをきれいにするために
一生懸命頑張っている。お前が大きくなるころ、
エベレストはとってもきれいになっている」と赤ちゃんにと語りかけていた。

この春にうれしいことがあった。
25歳のシェルパが、自分たちですると言ってくれた。
それまで僕がお金を集めていたが、地元の人が動いてバトンタッチした。
登山隊では、きれいにするのがドイツやデンマーク、北欧など。
そういう国はきれいだ。
捨てるのは日本やアジア側。

エベレストで活動しながら、日本の社会に足りないのは何かと考えた。
それは環境教育だった。
そのことを考えてほしくて、エベレストで集めたごみを
ほとんど持ち帰って展示した。

温暖化で、エベレストの氷河が大きく変化している。
数年前は6月ごろ、今年は4月中旬に溶けて水が流れてきている。
氷河湖が大きくなって表面だけ凍り、決壊して洪水になる。
シェルパたちがすむ麓の村は、1時間ぐらいで
ほとんどが流されてしまうことが分かった。

地球全体のことを個人で何ができるかしばらく苦しみ、
まず知ってもらおうといろいろなところで発表した。
非常に僕はラッキーだった。
第1回アジア・太平洋水サミットで、洪水のことを訴えた。
ヒマラヤの周りのインド、バングラデシュ、ブータンの環境大臣が集まった。
死におびえながら何とかしてくれと願う現場の思いと、
政府のリーダーの意識がどれだけ1つになれるか不安だった。

頭より心で理解することが大事、スピーディになる。
水サミットから洞爺湖に引き継がれていく。
氷河からどう水を抜くか、専門家が派遣されて調査がやっと始まった。

また、氷河が溶けてバングラデシュに巨大な洪水が起きている。
昨年と今年2回、同じ場所で調べたら、岸が削れて
川が500メートル広がっていた。
学校は奥に仮設、1,200人から今年は600人に減った。
3月ツバルに行ったら、海面が上がり、ヤシの木がどんどん倒れている。

地球温暖化は誰が招いたかは難しいが、
彼らはCO2をそれほど排出していない。
いわば日本や大国のツケを払っている。
環境問題は、国境がないとしみじみ感じた。

子どもが、大人の社会を動かした小笠原諸島の例も紹介したい。
小中学生が、島のごみの状態を地図に書き込み、村長の所に行った。
費用の問題があった。こどもたちは、村中に啓発のポスターをはった。
村長が折れ、村で車の撤去活動が始まった。

富士山では、100人が2,000人、昨年は6,000人になり、
5合目から上はごみがない。人が集まれば、できないと思うことができる。
登山家と冒険活動は環境活動にそっくりで、
いつもピンチがあり気持ちが負けると遭難する。
環境問題も、伝えることを諦めず輪を広げて下さい。
環境メッセンジャーになって、この3日間のことを、
ぜひ自分の国に帰ったら広めてください。Never give up!

◆野口 健 氏のプロフィール:
米国ボストン生まれ。高校時代に登山を始める。
1999年、エベレストの登頂に成功し、
7大陸最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。
2000年からはエベレストや富士山での清掃活動を開始。
全国の小中学生を主な対象とした「野口健・環境学校」を開校するなど
積極的に環境問題への取り組みを行っている。
現在は、清掃活動に加え新たに地球温暖化に対する取り組みに
力を入れている。

http://www.scienceportal.jp/highlight/0807.html

教師力08(13)山村の「小中連携」担う

(読売 9月11日)

小中連携の教育を進めるために、大学院に進んだ教師がいる。

鳥取県日南町立日南中学校の国語教師、黒見隆久教諭(45)が、
大学院進学を勧められたのは、昨年度の3学期。
出願締め切りまで半月もなかった。

島根大学の教育学研究科に、今年度から出来た
「現職教員1年短期履修コース」。
教師個人のニーズに合わせ、オーダーメードの教育プログラムを
提供するのが売り物。
黒見教諭は、このコースの1期生5人のうちの1人として、
4月から車で片道1時間20分ほどかけて通学。

大学から派遣の打診を受けた山本静夫教育長は、
「出すなら黒見さん」と決めていた。
小学校との交流活動に熱心で、町役場の目の前に自宅を構え、
当時、日南中勤務8年目。町の事情を熟知していたから。

日南町は島根、岡山、広島県に接する鳥取県西部の山間地。
町内で、100キロマラソンが開けるほどの広さがある。
人口約6000人で、ピーク時の4割まで減った。
中学校はすでに1校だが、小学校は6校が集落ごとに点在。
児童数は、合計しても210人ほど。

来春から、この6校を統合した新設校が、中学校の隣に出来る。
今年度から、県から指導主事の派遣も受けた。
黒見教諭は、小中連携教育を町おこしの起爆剤にしたいという
矢田治美町長の意向も受け、町の将来を託された存在。

指導教授とは、マンツーマンの授業がある。
何をやっていいか悩んだ。
最初は、町の小中学生の学力テストの分析を試みた。
塾もほとんどない山村だけに、決してテストの成績は高いとは言えない。
夏からは、島根、鳥取両県で、小中学校の連携・一貫教育を
進めている自治体や学校の視察も始めた。

9月初旬の教室で、朝から夕方まで行われた高岡信也・教育学部長による
集中講義「学校・学級マネジメント特論」。
現職教員4人を含む大学院生7人だけの授業で、
黒見教諭は町の事情を力強く語っていた。

「統合された中学校では、それぞれの地域とのつながりが
必ずしも強いとは言えない。家庭学習も明らかに少ない」と黒見教諭。
中学校の教師として最も気がかりなのは、
9年間の義務教育を終えてからの進路だ。
産業は限られているものの、若手で新しく事業を興そうとしている人たちと、
キャリア教育を進められないか、といったプランも持っている。

集落ごとに言葉のなまりも違う土地柄だけに、
たたら製鉄について学んだり、伝統の太鼓を学んだり、
小学校の特色も様々。
統合で、そうした学校の伝統をどう引き継いでいくのか?
自然を生かした学習を、町全体でどう進めていくのかという課題も。

「少しでも、町の良さを理解して巣立ってほしい。
それが将来の町おこしにつながる」
黒見教諭の願いは、過疎の町の多くの住民の願いでもある。

◆小中連携・一貫教育

昨年度までに、構造改革特区制度を使って、
小中連携・一貫教育で指定を受けたのは全国で70地域。
教育課程上の特例を受ける文部科学省の研究開発学校が、24地域。
過疎地での統廃合に絡んで、連携・一貫教育を模索する事例が目立つが、
東京都三鷹市のように、統廃合をしないまま、
全市的に小中連携を進める自治体もある。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080911-OYT8T00280.htm

2008年9月16日火曜日

北澤 宏一 氏「国際競争力は本当に衰えているか?」

(サイエンスポータル 7月25日)

北澤 宏一 氏(科学技術振興機構 理事長)

日本の国際競争力が衰えた、とよく言われる。
そもそも国際競争力とはなんだろう?

国境線に立って日本と海外とのやりとりを見たならば、
実は日本は非常に素晴らしい国だと気付く。世界の最優良児だ。
バブル経済の頂点にあった1986年以来、不況の90年代を含め、
多少の短期的凹凸はあるが、貿易黒字10兆円を22年間も続け、
2007年で250兆円というダントツ世界1位の海外純資産を築いてきた。

この資産は融資あるいは投資され、
日本は07年には16兆円の所得収支黒字を得ている。
貿易黒字10兆円と合わせると26兆円、
国民一人あたりにして年間21万円の黒字。
自分が毎年金利だけで21万円も払うことを考えてみれば、
この巨額さが分かる。

世界最大の「投資国」日本が浮かび上がる。
海外投資は、ここ数年増加の速度を増している。
日本の企業の利益が増えているからだ。

一方、国内に目を転じると、若者たちの非正規雇用が大きな問題。
国民に十分な職場が提供されず、個人金融資産は
2000年以降むしろ減り始めている。
GDP(国内総生産)は、90年以来500兆円のまままったく増えていない。
にもかかわらず、多くの企業はここ数年、活発な海外活動によって
史上空前の利益を出している。

政府は、国民に多額の借金をしている。
政府はリーダーシップを失い、国民は閉塞感の中に置かれたまま。
これは、新しいタイプの日本病だ。
企業は国内を見捨て、利益を海外で再投資、蓄積しているため、
国内の投資は不活発。

その昔、地方から大都市へ、特に冬場は出稼ぎが多くあった。
この日本病は、「出稼ぎの留守宅」のようなもので、
父親が留守宅に魅力を感じていない。
科学技術に革新が起きると、社会に新たな産業が起こり、
社会の課題が解決されると考えられてきた。

しかし、現在の日本病を解決するには、もう一つの工夫が必要。
良い技術が開発されたとき、その技術をまず日本国内で
適用してみようと考える企業が必要。
メーカーは、「日本は法人税が高いので、海外で活動する方が楽」。
彼らが国内投資を控える理由である。

日本に対するイメージは、国内と海外とでまったく対照的。
この未体験の日本病は、外国人から見れば、処方は簡単である。
留守宅に取り残された日本政府と国民は、
企業という父親がもっと繁く家に帰ってくるよう工夫すればよい。
ただし、留守宅改造は、父親が元気なうちにやる必要がある。

◆北澤 宏一 氏のプロフィール:
1943年長野県飯山市生まれ。東京大学理学部卒、同大学院修士課程修了、
米マサチューセッツ工科大学博士課程修了。
東京大学工学部教授、科学技術振興機構理事などを経て
2007年10月から現職。日本学術会議会員。
専門分野は物理化学、固体物理、材料科学、磁気科学、超電導工学。
高温超電導セラミックスの研究で国際的に知られ、80年代後半、
高温超伝導フィーバーの火付け役を果たす。
著書「科学技術者のみた日本・経済の夢」など。

http://www.scienceportal.jp/highlight/0807.html

シャープ 菌・ウイルスなど撃退する照明器具発売

(じほう 2008年9月5日)

シャープは、独自の「プラズマクラスター技術」を搭載した
LED照明や空気清浄機など、6品目の発売を開始すると発表。

空気中に浮遊するカビ菌やウイルスなどを分解・除去する
機能をもつ技術を、同社は21世紀型の健康・環境商品と位置付け、
病院などの公共機関やオフィス向けに販売する方針。

同社は、プラズマクラスター技術の改良を進めており、
新型インフルエンザウイルスの分解・除去効果もある。

プラズマクラスターは、シャープ独自の技術で、
空気中では不安定になるプラスとマイナスのイオンを、
プラズマ放電により、複数の水分子を粒子の周囲に
ぶどうの房(クラスター)状に集め、安定させることに成功。

プラズマクラスターイオンは、浮遊するカビ菌、ウイルスなどの表面に付着して
酸化力の強い物質に変化し、表面のタンパク質を瞬時に分解・除去。

プラズマクラスター技術を発光ダイオード(LED)照明のほか、
イオン発生機、空気清浄機、冷蔵庫、ドラム式洗濯乾燥機に搭載する。

LED照明には、プラズマクラスターイオン発生装置を組み込み、
「天井からふりそそぐようにイオンを放出し、空中で浮遊する
カビ菌・ウイルス・ダニのアレル物質を取り囲んで分解・除去する」。

発売するのは、室内が明る過ぎる場合に3段階で暗くできる機能があり、
省エネにも貢献する製品(DL-N028N、16万2750円)など5種類。
10月24日から順次発売。
既存の建物でも、工事をすれば設置できる。

シャープは、プラズマクラスター技術を「除菌イオン」として
エアコンや空気清浄機に搭載する一方、
細菌(MRSA、セラチア菌)や真菌(アスペルギルス)、
ポリオウイルスなどを分解・減少させる効果を、実験レベルで確認。

新型インフルエンザでは、1cm当たり7000個の濃度のイオンを噴出させ、
増殖能力を99%減少。
イオン濃度をさらに高めて行った実験で、10分で、ウイルスを
ほぼ100%分解・除去。

実験したのは、新型インフルエンザ関連の国際会議で
議長を務めるなどしたロンドン大のジョン・オックスフォード教授ら。
教授が社長の企業とシャープの共同研究として、
ヒトから採取した新型インフルエンザウイルスが浮遊する
容積1m3のボックス内に、1cm3当たり約5万個と高濃度のクラスターイオンを
10分間吹きつけ、「感染力価」の変化を測定。
細胞に対するウイルス感染力を示す感染力価が減り、
感染力が99.9%減った。

オックスフォード教授によると、感染に至るウイルスの空気中濃度は不明だが、
50%程度除去できれば効果がある。
「このような新技術は武器の1つとなり、
インフルエンザとの戦いを効果的にする」(同教授)。
シャープも、「実空間で有害な物質を除去できることを、
模擬的な空間で実証したい」(専務執行役員・技術担当の太田賢司氏)。

実生活レベルでの感染制御力について、
医療関係の研究機関などと協力して研究する方針。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=79578

教師力08(12)生徒目線 大学院で学ぶ

(読売 9月10日)

大学院に通って、指導スタイルを一変させた教師がいる。

「先生とは一緒に活動したくありません」
私立立教新座高校の演劇部顧問、高瀬修司教諭(41)が、
部員の代表から言われたのは、4年前の夏休みの部活動中だった。
予想もしていなかった言葉に、ショックを受けた。

大きな大会で、何度か好成績を収めていた。
指導も熱心に行い、規則では午後6時までとされる活動時間も2時間延長。
舞台装置もどんどん自分で作った。

担当の国語の授業でも、自分のやり方で生徒を
ぐいぐい引っ張る熱血教師だった。
生徒からは、「火の玉」と呼ばれたことも。

だが、次第に歯車は狂い出した。
部活も授業も、同じように指導しているのに、うまくいかない。
「自分が悪いんじゃなく、生徒が悪い。今年の生徒はだめだ」。
心のどこかで言い訳するようになり、口をついて出るのは
「なんでできないんだ」、「そうじゃないだろう」と否定的な言葉ばかり。

生徒の心が離れていくのは当然だった。
「このままでは心がおかしくなってしまうかも」。
そんな風に思い詰めたころ、体が悲鳴を上げた。
学校で倒れ、入院。大手術を受けて生死の境をさまよった。
療養期間中は、自分の教員生活を振り返る貴重な時間になった。

復職を前に、「どうしても、もう一度学びたい」と校長に申し出た。
なぜ教壇に立ちたかったのか、教師として何をすべきだったのかを
見つめ直したい気持ちからだった。

進学先に選んだのは、株式会社「栄光」が運営する日本教育大学院大学
特例として、受け持ち時間を減らしてもらい、
2年前の4月、1期生として入学。
体調は万全ではなかったが、
「これまで責任転嫁していた生徒に申し訳ない」という一心で通い通した。

「教育とは何のために、誰のためにあるのか」。
テクニックや教科の専門性を学ぶ講義よりも、
教師の役割を説く講義が心にしみた。
「自分に足りなかったのは、生徒の声を聞く余裕。
教師が教え込むのではなく、生徒が主役になる授業をしよう」。
勉強を進めるうちに、思いを新たにした。

この夏休み、演劇部の部室では、部員が議論をするのを
見守る高瀬教諭の姿があった。
「同じ目線で話すのがいい。僕らに任せようとしてくれるのが分かる」と
1年生部員の秋山肇君(16)。

授業でも、ディスカッションを多く取り入れ、自分は聞き役にまわる。
「自分と他人の感じ方を比較できて新鮮だった」、
「行き詰まっても、話し合っているうちにどんどんいい案が出てきて面白かった」。
生徒からそんな前向きな感想が寄せられた。

「生徒は、何かの拍子に素晴らしい力を出す。
その力を引き出すのが教師のつとめだ」と確信。
かつての自分の指導法に、NOを突きつけてくれた卒業生に心から感謝している。

◆教職大学院と専門職大学院

今年度から出来た教職大学院は、法科大学院などとともに
高度な専門的職業人養成を目指した専門職大学院の一つ。
元学校長ら実務家教員を4割以上置く。
日本教育大学院大学は、構造改革特区制度を使って2年早く開学。
教職大学院には当たらないが、専門職大学院の一つで、
実務家教員を3割以上置く。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080910-OYT8T00192.htm

2008年9月15日月曜日

星出 彰彦 氏「地球の大きなエネルギー感じた」

(サイエンスポータル 8月1日)

星出 彰彦 氏(宇宙航空研究開発機構・宇宙飛行士)

STS-124ミッションは、すべてが予想以上に順調に進んだので、
楽をさせてもらったという気持ち。
無重力になって、最初はなかなか姿勢のコントロールが
利かないということがあった。

国際宇宙ステーションとドッキングするまではまだよかったのだが、
ハッチが開いてステーションに乗り移ると、シャトルに比べかなり広い。
シャトル内では、壁がすぐ近くにあるので間違った場所に
飛んでいっても、すぐ姿勢を直すことができたのだが、
広くなったことで苦労した。

さらに、日本実験棟「きぼう」の船室に入るとさらに広い。
壁を蹴って、あるところに行きたいと思っても、
ちょっと角度が違うとずれてしまう。
目的のところに到達するのに、姿勢の変更が簡単にできなくて苦労した。

宇宙を経験して初めて感じた印象というと、
まず宇宙ステーションにドッキングするとき。
徐々に近づくステーションが本当に美しかった。
銀色に輝くあれだけ大きなものが、漆黒の宇宙に浮かんでいる。
ものすごく美しく、人類として誇りに思えた。
これは、地上の訓練の中ではなかなか味合えないインパクトだった。

もちろん地球も美しかったし、無重力の楽しさも体験しないと
分からないもので、地上で映像を見たり、先輩宇宙飛行士の話を聞いたり
したことによる想像をはるかに超えるものだった。

地上での訓練は、いろいろな設備を使うが、
主にコンピュータグラフィックスを使ったシミュレータによる。
何回も何回も訓練を繰り返すことで、身につくようになっている
よくできた訓練システム。
失敗は何度もあり、一度はシャトルとステーションとのやりとりで失敗したことも。
マーク・ケリー船長から、「これで、このタスクに関して、
お前は軌道上で絶対に失敗しないことを確信した」。

失敗は当たり前。
地上で失敗してそこで学ぶことが大事で、
それを踏まえて軌道上で成功すればよい。
軌道上でミスがゼロ、ということはありえない。

一番大事なのは、大きなミスをしないこと。
小さいミスはいくらでもリカバリーできるので、
大きな失敗をしないように、という訓練システムになっている。
それが十分効果を発揮したミッションだった。

宇宙から大気の層が薄い地球を見て、守らなければいけない星だ、
ということはいろいろな宇宙飛行士が言っているが、その通りだと感じた。
一方、太陽の光が反射して非常にまぶしい海や、大きな大地を見て、
非常に大きなエネルギーというか力強さを感じた。

ああ、この星はすばらしい大きなエネルギーを持った星なんだ、と強く感じた。
世界は国と国との争い、環境問題などをいろいろあるが、
環境問題についてのインパクトは強烈だった。
自分たちの目で見ることが大事だと感じた。
多くの人たちに、宇宙から地球を見てほしいと思う。

国際宇宙ステーションは、5つの国と機関が協力してやってきた。
設計段階とか、いろいろなところで考え方の違いなどもあった。
しかし、それを乗り越えてここまで来ることができたということは、
国際協力ができるのだ、人類は、ということを示せた大きな例になる。

◆星出 彰彦 氏のプロフィール:
1968年東京都生まれ、92年慶應義塾大学理工学部機械工学科卒、
97年ヒューストン大学CULLEN COLLEGE OF ENGINEERING
航空宇宙工学修士課程修了、2001年宇宙航空研究開発機構宇宙飛行士、
06年米航空宇宙局ミッションスペシャリスト(搭乗運用技術者)に認定。
08年日本時間6月1-15日まで日本実験棟「きぼう」船内実験室打ち上げを
主任務とするSTS-124ミッションの乗員として、
「きぼうの」の国際宇宙ステーションへの取り付け作業などを行った。

http://www.scienceportal.jp/highlight/0808.html

トマト:病気に強いトマト開発に道 「黄化葉巻病」を分子レベルで解明

(毎日 9月5日)

世界の主産地で被害が出ている「トマト黄化葉巻病」の
発症の仕組みを、日米の研究チームが分子レベルで解明。
病気になったトマトは、処分しか拡大を防ぐ方法がなかったが、
初めて発症を防ぐ可能性が出てきた。

この病気は、ウイルス感染が原因。
葉が黄色くなり、しわが入ってスプーンのように曲がり、収穫量が激減。
96年に愛知など3県で見つかり、被害が拡大。
海外では地中海沿岸、米国南部、中国などに広がる。

植物は一般に、細胞内のたんぱく質「AS1」と「AS2」が結合することで、
正常に葉を作る。
研究チームは、ウイルスに感染すると細胞内で増えるたんぱく質
「ベータC1」に注目。

これを作る遺伝子を、シロイヌナズナの細胞に入れると、病気を起こした。
ベータC1が、AS2の代わりにAS1に結合するために、
正常な葉が形成されない。

町田泰則・名古屋大教授(植物分子発生学)は、
「病気に強いトマトを開発する道が開かれた」。
2日付米分子生物学誌(電子版)に発表。

http://mainichi.jp/select/science/news/20080905ddm002040076000c.html

脳の大きさ決める仕組み 理研チームが解明

(共同通信社 2008年9月5日)

発生段階で、脊椎動物の脳が一定の大きさになるよう、
神経の成長を巧みに調節している仕組みを、
理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの
笹井芳樹グループディレクターらが解明し、米科学誌セルに発表。

いったん脳の原型ができると、「ONT1」というタンパク質が働き、
それ以上の脳形成を止めていた。

笹井ディレクターは、「謎が多い臓器形成の仕組みの一端が分かった。
万能細胞を使った再生医療の研究にも役立ちそうだ」。

チームは、アフリカツメガエルの受精卵で実験。
神経成長を促す別のタンパク質とONT1が、互いに抑制し合いながら
バランスを取っているのを発見。
受精卵が細胞分裂を繰り返して、胎児に相当する段階に進むと、
ONT1が強く働いて脳形成が終わった。

この仕組みは、魚類や哺乳類などでも共通だが、
人を含む霊長類などではそれに加えて、
さらに脳を大きくする別の仕組みも存在するらしい。
「ほかの臓器でも、似た調節機構が働いているのではないか」。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=79535

花で盛町活性化 女性団体が商店街に、駅前には木製プランター

(東海新報 9月10日)

「にぎわいが少ない」との指摘も多い大船渡市の盛駅や盛町商店街。
活性化を目指し、商店街沿いに住む女性や観光振興を目指す組織によって、
道路沿いに花を飾る運動が進んでいる。

少ない予算でも、商店街沿いに明るい雰囲気が生まれ、
関係者は手応えを感じている。

盛町の商店街で運動に取り組んでいるのは、
商店街沿いに住む女性五人で組織する「HANA倶楽部ポピー」(水野直子代表)。
今年、大船渡市による活力創生2億円事業の採択を受け、
「盛町商店街まちづくり花いっぱい運動」を展開。

盛町商店街では、営業していない店舗も増えて来訪者が減少、
まち全体に寂しさを感じることも。
「活気があり、歩いてみたい街、親しみのある街」とのイメージを発信しようと、
今年度本格的に取り組んでいる。

昨年、さかり中央通り商店街振興組合に協力を求めて講習会を開催、
猪川町在住の柴田満喜子さんが考案したペットボトル使用の
オリジナルハンギングバスケット制作や花植えなどを体験。
今年度は団体を組織して、商店街沿いの花整備や講習会を開催。

商店街にある街路灯52基に、ハンギングバスケットを取り付け、
道路沿いのプランターとともにほぼ毎日手入れを行っている。
市からの補助は7万円程度だが、ペットボトル再利用など
経費を最小限に抑えた形で活動し、
花の管理には楽しみながらも地道な作業が光る。

年間を通して、花で歓迎する雰囲気を目指している。
手入れを行っている古内裕子さん、佐々木真弓さんは、
「手入れをしていると声をかけられ、まちの交流にもつながる。
できることからしようと取り組んでいますが、
商店街に明るさが出てきたと思います」。

盛駅前のタクシー乗り場などがある広場には、
地元素材を活用した新たな観光、物産振興を目指している
大船渡ブランド化推進化会議が、木製のプランターを20基設置。
現在は、一年草の花々咲いているが、ツバキ苗も植えた。

これまではロープで仕切られていた部分に置いたもので、
「海フェスタ」開催に合わせ、来訪者の玄関口となる場所の
歓迎ムードを高めようと設置。
ツバキ苗だけでなく、プランターも気仙スギを使用し、
今後もにぎわい創出への演出に期待。

http://www.tohkaishimpo.com/

2008年9月14日日曜日

複合デバイスコース開講 岩手マイスター育成事業

(岩手日報 9月7日)

高度技術力と経営力を身に付けた技術者を育成する
岩手マイスター育成事業の複合デバイス(電子部品)技術コースは、
岩手大工学部でスタート。

同大の馬場守教授が、環境問題に触れながら持続的発展可能な
社会づくりのためのモノづくりについて解説。
受講生たちは、世界規模で成長する半導体関連産業の一つで、
さまざまな分野のデバイスの融合化に認識を深めた。

岩手大大学院工学研究科の小林華香さん(23)は、
「基礎理論から学び、やるからにはマイスターを目指したい」。

同事業は、社会人技術者や大学院生、大学生を対象に
受講無料で講習を行い、一定の講習、実務経験を積み試験に合格すれば、
マイスターに認定する。
地域再生を担う人材育成、モノづくり産業への付加価値を高める試み。

金型、鋳造、複合デバイスの3技術コースを設定。
鋳造は8月中旬から始まり、金型は9月中旬開講。

馬場教授は、「金型や鋳造は基盤技術で、複合デバイスは
1分野にとどまらない融合化の技術。
可能性は広く、自動車や半導体産業が集積する岩手の地で、
人材育成、技術開発につなげたい」。

http://www.iwate-np.co.jp/economy/e200809/e0809071.html

仏教は科学と同じ基盤に立っている

(サイエンスポータル 9月8日)

佐々木 閑 氏(花園大学 文学部 教授)

科学と仏教が、どうつながっているかいつも考えている。
仏教は、2500年前に釈迦がつくった。
しかし、日本の仏教を釈迦の時代の仏教と思ったらとんでもない。
釈迦の仏教は、そのまま伝わっているのではなく、
大きく劇的に変わっている。

スリランカ、タイ、ミャンマーなどに残っている仏教、小乗仏教は
比較的、釈迦の時代の姿を残しているが、
究極のところ世界中どこを探しても釈迦の仏教はない。

私は文献を使い、痕跡を追って釈迦の時代の仏教が
どういうものだったかを調べる仕事をしている。

釈迦は、われわれを造っている特別の存在はない。
助けてくれ、と声を上げれば救ってくれるような存在などない、
というところから出発している。

一切は苦。すべては苦。
自分たちの精神、心を変えないと、そこから抜け出せない。
苦をなくすためには自分自身を変えないといけない、ということだ。
これは難しく大変で、努力と時間がかかる。
自分の精神がどうなっているか、自分の心がどうなっているか、
徹底して合理的に考えざるを得ない。

だから、釈迦の仏教は非常に厳しい修行を課す。
自分の精神を見つめ、それを改造するにはどうするか。
私(釈迦)がやっても大変だったのだから、
君たち(弟子)も、仕事などやめてやりなさい。
食事は人からもらいなさい。そのために鉢を持て。服など着るな。
ぼろを拾ってきて縫い合わせて着なさい、と教えた。

ミャンマーなどのお坊さんが着ている黄色い衣服。
あれは「けさ」というが、「けさ」というのは「ぼろ」という意味。
汚いという意味の言葉が、中国でなまって「けさ」になった。
効率的に修行をする時間を作り出すには、
個人より集団が適しているということで、
お寺で集団生活をして修行に専念するという形ができた。
すべては、自分の精神がどうなっているかを見つめるため。

しかし、後に入ってきた一神教的な考え方によって、
釈迦の教えが崩れ、このユニークな形が全く違う形になってしまった。
禅宗の座禅のやり方も、釈迦の瞑想方法と同じではない。
座禅では心を無にせよ、という。
釈迦は、「心を一点に集中せよ」と言ったのだ。

脳科学者が、瞑想状態にある僧の脳の状態を調べて
アルファ波が出ているなどということを言っているが、
仏教を一元的に考えると、思わぬ落とし穴にはまる危険がある。
「仏教はきわめて多様な複合宗教だ」という理解が、ぜひとも必要。
最近の脳科学によって、「自己を知る」という深遠なテーマが
初めて科学になってきた。

一方の仏教は、何十万、何百万という人々が積み上げて
世界にも類を見ない高度な知の世界を生み出した宗教である。
その成果は、大乗仏教の神秘主義に隠れてしまっているが、
「自己を理解しよう」という強い合理的精神に満ちている。

仏教は、科学と同じ基盤に立っている。
脳科学と仏教の間にある共通性に注目することで、
科学と仏教がより高い視点で、探求の道を進むことが可能になるだろう。

◆佐々木 閑(ささきしずか)
1979年京都大学工学部工業化学科卒、82年京都大学文学部哲学科卒、
84年京都大学大学院文学研究科修士課程宗教学専攻修了、
87年同博士課程単位取得満期退学。
88-90年米カリフォルニア大学バークレー校南および
東南アジア言語学科Ph.Dコース在籍。
90年花園大学文学部専任講師、93年同助教授、2002年から現職。
専門は古代インド仏教の法律論、教団史、アビダルマ哲学。
科学と仏教の関連性についても考察を続ける。文学博士。
著書「出家とはなにか」、「インド仏教変移論」、「犀の角たち」(大蔵出版)。
訳書「鈴木大拙著 大乗仏教概論」(岩波書店)。

http://www.scienceportal.jp/highlight/0809.html#080908

健康の世界的格差が大きいことが調査から明らかに

(WebMD 2008年8月28日)

世界保健機関(WHO)の報告によれば、
今日生まれた女児の推定寿命が80歳以上であるか45歳未満であるかは、
その女児が母国と呼ぶ国次第である。

経済状態による健康の不公平(health inequity)を、
各国内のみならず世界的規模でも検討、
1世代以内に健康の不公平を是正するようを求めている。

「避けることができる健康の不公平は、人々が成長し、生活し、働き、
年をとっていく環境と、疾患治療のために整備されている制度が原因で発生。
生死の条件は、政治的、社会的および経済的な力により形作られている

WHOは2005年、「健康の公平を推進するための対策に関する
エビデンスを集めること、ならびに健康の公平の達成に向けた
世界的な活動を振興すること」を目的として、
Commission on Social Determinants of Healthを設立。

WHOは、国際保健事業の指導的かつ調整的機関としての役割。
同報告書は、世界中に存在する健康格差の例を3つ挙げている。
1)糖尿病患者の80%は、低所得国または中所得国に居住。
2)母体死亡の生涯リスクは、アフガニスタンでは8人に1人、
スウェーデンでは17,400人に1人。
3)米国では、アフリカ系アメリカ人の死亡率が白人と等しいと仮定した場合、
1991~2000年には886,202人の死亡を回避できたと予想。

上記委員会は、健康の不公平に対する3本柱からなる取り組みを概説。
1)日常生活の状態、すなわち人々が成長し、生活し、働き、
年をとっていく環境を改善すること
2)権力、金および資源の不公平な分配(日常生活の状態の構造的要因)に、
全世界、国家および地域レベルで対処すること
3)問題を分析し、対策を評価し、知識基盤を拡大するとともに、
健康の社会的決定因子に関する教育を受けた労働力を育成し、
健康の社会的決定要因に関する社会の認識を高めること。

同報告書は、感情的な実施要請で締めくくられている。
「健康の不公平の是正は、Commission on Social Determinants of Healthの
倫理的責務。社会の不公平は、多くの人々を死に至らしめている

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=SPECIALTY&categoryId=580&articleLang=ja&articleId=79410