2008年8月23日土曜日

半数超が「心の病増加」 余裕ない職場ほど傾向強く

(共同通信社 2008年8月13日)

財団法人社会経済生産性本部のアンケートに回答した
上場企業のうち、半数以上が社員の心の病が増える傾向に。
「人を育て、仕事の意味を考える余裕がない」会社ほど、
心の病の増加を訴える傾向が強い。

同財団は、2002年から2年ごとに同じ調査を実施。
今年は、2368社を対象にし、269社が回答。

最近3年間で、従業員の心の病が「増加傾向」と回答したのは56%、
2年前の61%から微減し「横ばい」は32%、「減少傾向」は4%。
職場で、「人を育てる余裕がなくなってきている」という企業の60%が
心の病が増加傾向と答える一方、
「そうではない」という企業で増加傾向と答えたのは35%。

「職場でのつながりを感じにくい」、
「仕事の全体像や意味を考える余裕が職場になくなってきている」
とする企業は、60%以上が心の病が増加傾向と回答。
「そうではない」とする企業で増加傾向としたのは、40%台前半。

従業員の健康づくりのうち、メンタルヘルス対策を重視する企業は63%、
6年前の調査の33%からほぼ倍増、
この問題に対する企業の危機感の高まりが読み取れる。

同財団は、「心の病については不調者の早期発見に加え、
組織風土の改善に目を向ける必要がある」。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=78568

糖尿病リスク低減のための食事に関する注意事項

(WebMD 7月28日)

糖尿病は米国で増加しつつあり、3件の新規研究では、
食事が2型糖尿病発現の可能性に影響を及ぼすかが浮き彫りに。

各研究では、食事の異なる面を取り上げている。
糖尿病のリスクは、炭酸飲料や加糖フルーツ飲料を多く飲み過ぎると高まり、
果物や野菜の摂取量を増やせば低下し、
脂肪の摂取量には影響されない。

カロリーの問題は、避けて通れない。
カロリー収支を誤れば、体重が増えて2型糖尿病に罹りやすくなる。

デューク大学医療センターのMark Feinglos、Susan Tottenは、
「カロリーが他の何よりも重要であるということを前提とすべきで、
糖尿病のリスクの高い若年者においては、
2型糖尿病の新規症例を減らすための1番の目標は、
高エネルギーで利益の少ない食物の摂取を減らすこと」

◆甘味飲料によるリスクの上昇

最初の研究では、甘味炭酸飲料およびフルーツ飲料は
アフリカ系米国人女性における2型糖尿病のリスク上昇につながる。

アフリカ系米国人女性約44,000名を対象、1995-2005年に追跡調査。
研究の開始時および2001年に、食事調査に記入。
研究の開始時点では、糖尿病のある者は1名もなかった。
10年後、2型糖尿病の新規症例2,713名が報告。

普通の清涼飲料水を、1日に2本以上飲んだ女性は、
飲んだ清涼飲料水が1カ月に1本未満であった女性に比べ、
2型糖尿病と診断される確率が24%高い。
炭酸飲料を飲んだ人におけるリスク増加の一部は、
体重増加によって説明される。
1日に加糖フルーツ飲料を2本以上飲んだ女性は、
1本未満の女性に比べ、2型糖尿病と診断される確率が31%高い。

ボストン大学のJulie Palmerらは、加糖フルーツ飲料は
「清涼飲料水に代わる、より健康的な飲み物として市販されている」が、
そのカロリーは少なくとも普通の炭酸飲料と同程度。

ダイエット炭酸飲料、オレンジジュース、グレープフルーツジュースは
糖尿病のリスク上昇にはつながらない。
オレンジジュースやグレープフルーツジュースに含まれる天然糖は、
普通の炭酸飲料やほとんどの甘味飲料に添加される異性化糖とは
代謝効果が異なる可能性がある。

◆飲料業界の反応

米国における非アルコール飲料の製造・流通を行う業界団体である
米国飲料協会(American Beverage Association)の
科学政策担当上級副社長Maureen Storeyは、
「2型糖尿病は、特にアフリカ系米国人女性において重要な
公衆衛生上の問題という点には同意するが、
飲料の消費が同疾患のリスク因子として確定されているわけではない

この研究は、体重を減らそうとしている女性は、
普通の炭酸飲料からダイエット炭酸飲料に切り替えれば、
減量が容易になることを推奨。
Storey博士は、フルーツ飲料の消費と2型糖尿病との関連が
「非常に弱いか、または存在しなかった」ことから、
「これらの飲料を避ければ、糖尿病のリスクには影響がない」。

この研究では、全エネルギー摂取、被験者があらゆる摂取源から
摂取した全カロリー数について管理したかどうかは明らかではない。
エネルギー摂取量(消費したカロリー)とエネルギー消費量(燃焼したカロリー)
との間の不均衡は、体重増加につながる可能性があり、
「家族歴を除けば、2型糖尿病発現の最も重要な因子」

◆果物と野菜は糖尿病のリスクを低下させる可能性がある

別の研究では、果物と野菜の摂取量を増やせば、
糖尿病のリスクが低下する可能性がある。

この研究は、ノーフォーク州(英国)の成人約22,000名を対象。
研究開始時に、診察を受け、血液検体を採取、食事と生活習慣の調査票に記入。
その後の12年間に、735名が糖尿病を発現。

ビタミンサプリメント摂取といった他の生活習慣因子について調整し、
糖尿病の診断は、ビタミンC血中濃度最高群では62%少なく、
果物・野菜摂取量最高群では22%少ない。
ビタミンC濃度最高群は、果物および野菜を1日に5-6皿食べていた。

Addenbrooke's病院(英国、ケンブリッジ)のAnne-Helen Hardingは、
「果物と野菜は、ビタミンCの主要な摂取源で、
果物と野菜を少量でも摂れば有益な可能性があり、
糖尿病に対する保護効果は果物と野菜の消費量とともに徐々に増大」

◆低脂肪食には影響力がないか?

3番目の研究は、低脂肪食が閉経後女性の糖尿病リスクを低下させるか?
しかし、それは無理であることが明らかに。

米国の閉経後女性約46,000名を対象。
フレッド・ハッチンソン癌研究センター
(Fred Hutchinson Cancer Research Center、シアトル)の
Lesley Tinkerらは、これらの女性を2群に分けた。

1群には、1日のカロリーに占める食事中脂肪の割合を、
研究開始時点の約38%から20%まで減少。
集中的な栄養・行動カウンセリングを受け、
定期的なグループミーティングに参加し、低脂肪食の目的を達成する助けに。

他群の女性には、食事中の脂肪を減らすように指示をしなかった。
連邦政府の栄養ガイドラインを記したパンフレットを配布、
カウンセリングやグループミーティングは行わなかった。
いずれの群の女性にも、減量や運動量の増加を要求しなかった。

この研究は約8年間継続され、糖尿病と診断された率は両群とも等しかった。
Tinker博士のチームは、運動や減量をせずに食事中の脂肪量を減らしても、
糖尿病リスクの抑制には不十分。

低脂肪群の女性は、脂肪量を減らしたが、指示された量には達していない。
食事調査から、研究開始1年後に、低脂肪群の女性は1日のカロリーの
約24%を脂肪(ほとんどが飽和脂肪)から摂っており、
研究6年目までに目標の20%を超えて約29%まで上昇。
体重の傾向は両群とも同様で、低脂肪群の女性は
当初平均5.3ポンド(約2.4kg)の減量を示したが、
研究の終了時点までに減量体重のほとんどを取り戻した。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=SPECIALTY&categoryId=580&articleLang=ja&articleId=78530

ガッツポーズは生まれつき 米・カナダ、五輪柔道を分析

(朝日 2008年8月14日)

五輪などスポーツの大きな試合では、勝った選手が両手を上げて
ガッツポーズし、負けた選手が肩を落とす光景がよく見られる。
ボディーランゲージは、誰かのまねではなく、
人間が生まれつき持つ癖らしいことが、カナダと米国の研究でわかった。

カナダ・ブリティッシュコロンビア大などのチームは、
米科学アカデミー紀要(電子版)に論文を発表。
04年夏のアテネ五輪とパラリンピックで撮影された
柔道の写真数千枚を吟味。
30以上の国・地域から集まった選手計140人について、
試合終了後の選手の頭、腕、体の姿勢を分析。

その結果、勝者は両手を上げ、上を向き、胸を張る傾向が見られた。
一方、敗者は肩を落とし、胸を狭める傾向。

このような傾向は、文化的背景によらず、
生まれつき視覚障害を持っている選手にも見られた。
チームは、「勝利や敗北のポーズは、学習で身につけたものというより、
人間にもともと備わっている癖である可能性が大きい」

http://www.asahi.com/science/update/0812/TKY200808120056.html

走る人は若い?ランニングは老化を防ぐ、米の大学が調査

(読売 8月16日)

ランニングの習慣に、老化を遅らせる顕著な効果があることを
米スタンフォード大の研究チームが突き止めた。

20年以上にわたる追跡調査の結論。
調査期間は、1984~2005年。
チームは、ランニングクラブに所属し、週4回程度走る男女538人
(84年当時の平均年齢58歳)に毎年質問票を送り、
歩行や着替えといった日常の行動能力や健康状態などを調査。
走る習慣がない健康な男女423人(同62歳)も、同様の方法で調べた。

その結果、走る習慣のないグループは、2003年までに34%が死亡、
習慣的に走るグループの死者は15%。
走るグループは、走る習慣のないグループに比べ、
日常の行動能力が衰え始める時期が16年ほど遅い。

チームは、「年齢を重ねても、健康的に過ごすために何かひとつ
選ぶとすれば、(ランニングのような)有酸素運動が最も適している」

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20080816-OYT1T00416.htm

2008年8月22日金曜日

大学発ベンチャー地方が都市圏上回る

(サイエンスポータル 2008年8月19日)

大学発ベンチャーの数で、地方が都市圏を上回ったことが、
経済産業省の調査で明らかに。
この6年間の設立数伸び率でも、地方が約3.5倍と
都市圏(約2.6倍)を上回っている。

「大学発ベンチャー基礎調査」によると、昨年度末時点で活動中の
大学発ベンチャーは、前年より94社増え、1,773社。
地方が909社を占め、都市圏の864社を上回っている。
大学発ベンチャーの1社あたり平均売上高は1億5,700万円、
全業種とも前年度と比較して増加しているが、
営業利益は依然赤字が続き、赤字幅は前年度に比べやや増加。

経済効果は、直接効果(市場規模)で約2,800億円、
雇用者数で約23,000人と試算。
事業分野をみると、大学の持つ研究成果を活用しやすいバイオ分野が
38.6%と最も高いが、昨年度の新規設立数で31.9%とシェアを落とした。

次に多いのはITソフト分野で、30.3%。
昨年度の新規設立数では、33.0%とシェアを伸ばした。
ベンチャー設立数の多い大学は、東京大学、大阪大学、早稲田大学、
京都大学、筑波大学以下、上位10位まで順位もほとんど変わりがない。

昨年度だけで見ると、岡山大学、東京工業大学、早稲田大学、筑波大学、
東北大学の順で、大学ベンチャーの所在する都道府県別でも
東京都、岡山県、神奈川県、北海道、茨城県となり、
地方の健闘ぶりが目を引く。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/0808/0808191.html

ホッケーの町全国V80 岩手町の住民、歓喜に沸く

(岩手日報 8月20日)

「ホッケーの町」にうれしいニュースが届いた。
岩手町の一方井中女子が、全日本中学生選手権で
27年ぶり2度目の優勝
を果たし、地元は歓喜に沸いた。
同町チームのホッケー日本一は、通算80回目。
地元開催の2011年インターハイで主力となる学年の活躍は
今後の強化に弾みをつけそう。

一方井中には、優勝が決まった直後にメンバーの千葉咲野さん(2年)の
父・一幸さんから一報が入った。「決勝で圧勝した」。
感激あふれる言葉に、外岡立之介校長の手が震えた。

外岡校長は、「夏休みすべてをホッケーに注ぎ、五輪や甲子園に
負けないくらい取り組んできた選手たちを誇りに思う」

同町からは、2000年の川口中女子以来、
8年ぶりの全日本中学生選手権優勝。
70年の岩手国体を契機に、ホッケーの町を掲げてきた同町の各世代が
重ねた「日本一」が80回目の大台に乗った。

一方井スポ少で、優勝メンバーの多くを指導した町ホッケー協会の
田村政雄会長は、「町出身の小沢みさきさん(富士大大学院)が
五輪出場を果たした記念すべき年に、後輩の活躍が続きホッとしている。
小沢効果だ」。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080820_4

大画面、熱い声援 県内スポーツバーにぎわう

(岩手日報 8月20日)

北京五輪を観戦する若者らで、県内のスポーツバーもにぎわっている。
大画面で競技を楽しみながら、中国にちなんだ料理やドリンクを味わい、
特別サービスも多彩。
だが、日本選手の不振や経済低迷を挙げ、
「例年よりも、盛り上がりはいまひとつ」と見る向きもある。

複数のスポーツバーが点在する盛岡市の大通。
「北京五輪放映中」などの看板を掲げ、PRに余念がない。

18日夜の女子サッカー準決勝日本-米国戦を、
友人6人で観戦した盛岡市上堂の会社員小笠原侑子さん(22)は、
「自宅で観戦するよりも盛り上がる」と五輪ムードを満喫。

特別サービスもめじろ押し。
同市大通2丁目のエスニック居酒屋MOON SOON CAFEは、
ゲームで勝てば、飲み放題時間を30分間延長できるサービスを提供。
同市大通3丁目のGraZieでは、記念ドリンクや5種類の果物の
盛り合わせなど日替わりメニューを設けている。

各店とも、「前回のアテネ五輪ほど客の入り、盛り上がりはいまひとつ」。
GraZieの渡辺英紀店長(30)は、「注目のカードは人気が高いのだが…」。
同市大通2丁目のCROSS HEATの柘植友貴店長(30)も、
「(客入りは)五輪だからというほど大きな変わりはない」。

原因について、「日本人選手の低迷」、「人気競技のスター選手不在」
を指摘する声も。
同市大通1丁目の青胡椒の立花実店長(29)は、
「事前の盛り上がりも欠けていたような気がする」。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080820_14

2008年8月21日木曜日

米国のおかげで生きている 心臓病を克服、五輪舞台

(共同通信社 2008年8月20日)

「打倒米国」に燃えるソフトボールの日本代表。
遊撃手の西山麗選手(24)は、米国の臓器提供バンクを通じて
心臓手術を受け、選手生命をつないだ。
「ソフトボールでは憎い敵だが、娘は米国のおかげで生きている」と
父・義信さん(66)。20日の準決勝はその米国が相手。

生後1カ月で、心臓に先天性の異常が見つかった。
「大動脈弁狭窄・閉鎖不全症」。
心臓の弁に不具合があり、激しい運動で死に至ることも。
日常生活に支障はないが、持久走や吹奏楽は禁じられ、
成長すれば手術が必要だと言われた。

しかし、運動が何より好きな西山選手は、医者が止めるのも聞かず、
中学でソフトボール部に入った。
攻守交代があり、体への負担が比較的軽いと考えた。

中2の時、米国の臓器提供バンクから「ドナー(臓器提供者)が現れた」と
連絡が入った。交通事故で亡くなった14歳の少女。

米国から届いた心臓弁を移植する手術は8時間に及び、
術後も1カ月間入院。
元気を回復した西山選手は、華麗な守備と俊足、巧打で活躍。
強豪の厚木商業高校を経て、実業団入り。

義信さんは、「日本代表にもなってうれしいが、
『ここまでよく体が持ったな』というのが実感だ」。

試合は欠かさず見学するという母・美千子さん(57)は、
これまで2度、相手選手と交錯して気を失うところを目の当たりにした。
「生きた心地がしなかった。わたしはプレーを見るのではなく、
何事も起こらないよう祈っている」

移植した心臓弁の耐久年数は約15年といわれ、既に10年が経過。
いずれ再手術を受ける時期が来る。
五輪に出場できた喜びを胸に、西山選手は
「元気あふれるプレーで、病気をしている子供たちに勇気と希望を与えたい」

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=78776

2008年8月19日火曜日

應義塾大学医学部長・末松誠氏に聞く(下)

(医療維新 8月14日)

――若手医師の待遇面でどんな改革を実施しているのか?

若手医師の待遇改善のため、教授会が相当努力をしている点。
私が、医学部長に就任してまず取り組んだのは、医学部の財務改革。
大学全体のバジェット(予算)は限られ、私学助成も年1%ずつ減らされ、
資金が潤沢にあるわけではない。
可能な限り無駄を省いたり、毎年割り当てられてきた「経常費」の見直しで、
ねん出した原資を、若手医師の振興策に回すように努力。
家にお金がなくて、子供が泣いている。
そんな時に、親が飯を食べ、子供にご飯を食べさせないなんてあり得ない。
自分もいわゆる「無給医」の一人。

――「親が飯を食べ、子供にご飯を食べさせないなんてあり得ない」というは
興味深いたとえ。

一番立場の弱い人たちに、どうがんばってもらうかが大事。
教授会構成員が理解を示してくれたおかげで、
「既得権」として経常的経費で保有していた原資を回し、
若手振興策の資金に充当することを、教授会の意思として決定。
これは非常に大胆な改革。
一方で、積極的に人材育成プログラムなどの競争的補助金を
獲得することにも力を入れ、今年度は相当の成果を挙げることができた。
向こう5年程度の中期的資金計画に基づいた人材育成プログラムを
考えながら、制度の整備を進めることが可能に。

――「経常費」の改革はいつから実施?

昨年秋から検討に入り、2008年度予算から実施。
削減・節約した経常費の一部は、大学院生の奨学金に。
大学院の学費は年間約120万円、1人の奨学金は年60万円。
1、2年生には、ミッション・ステートメントとして、
「今年何をやるか」をまとめ、書類審査を実施した上で奨学金を支給。
修了後にも、リポートを提出。
3年生以上は、1~2年の研究成果で判断。
3年で修了し、3年間奨学金を得て研究を終える医師も出てくる。

――大学院生は一学年何人?

今年度から、60人から68人に定員を増やしましたが、ほぼ充足。
昨年までは6~7割だが、応募者数自体が非常に増加した。
制度改革を進めていけば、大学院にレベルの高い医師が集まる。
二つの領域で、グローバルCOEプログラムを実施。
大学院生の研究活動に対して、給与が支払われる。
2年間の研究専念期間は、臨床はできませんが、
グローバルCOEプログラムがサポートする。
月5万円の給与があれば、年間60万円、
奨学金と合わせれば実質上の学費はゼロに。
今年の7月から、女性医師の職場復帰制度も始めた。

――それはどんな仕組みか?

朝10時に来て、午後4時に帰宅するなど、短時間勤務を可能にする制度。
非常勤の助教のポジションで、時給は安いが、
職場に復帰するチャンスを与えるという発想。
学生教育、臨床、臨床研究など、ミッションを明確することが前提。
勤務の日数や業務の内容により、常勤扱いとし、研究歴として認める場合も。
専門医の認定に必要な臨床経験を積む時間にも使うという選択肢。
30人程度の枠を作り、6月から募集を開始、ほぼ埋まりつつある。

――地域医療への慶應大学のかかわりについて?

慶應義塾大学には、首都圏を中心にとした104の病院からなる
関連病院長会議がある。
埼玉、千葉、茨城、栃木などの医師不足に悩む地域にある病院も少なくない。
関連病院の会議の中で、「教育中核病院」の認定基準の作成を進めている。
この基準は、「クリティカルパスの導入の有無」、「救急車の搬送受け入れ件数」、
「インターネットで電子ジャーナルを読むことができる環境」など
若手医師が専門医資格を取得するために必要な環境の指標となり得る
チェック項目を設け、「連携協議会」という大学側と地域の病院の
代表者から成る会議体で毎年評価をしていく仕組み。

初期研修修了後に教室に所属する医師は、ほとんどの場合、
その後の4~5年間のうち、2年間は地域の教育中核病院で
サブスペシャリティーを磨くための修練。
教育環境がしっかりしているかを評価するため、
大学だけでなく、地域の病院の先生方とともに基準を構築している。
専門研修病院の質の担保をしなければ、若手医師は集まらない。

認定基準を作り、来年度から本格実施する予定。
医療は、時代とともに変化するから、認定基準も毎年見直す。
教育中核病院にとっては厳しいが、
「大学側も努力しているので、病院側も努力してください」という発想。

――大学が中心となり、地域の病院とネットワークを組むという発想?

大学側が一方的に決めたのでは何もできない。
認定基準も、連携協議会で決める。
医師の派遣人事も、医局単位ではなく、連携協議会の意思も表明して決定。

――「医師の数を増やすことは重要だが、並行して大学の
マネジメント改革を進めていかないと問題は解決しない」ということ。

その通り。

――大学にとって、役割は異なる。
慶應義塾大学は、「基礎・臨床一体型の医学」を実践する医師の養成、
地域医療の担い手の育成が役割の大学もある。

大学がそれぞれの個性を生かし、ミッションを設定して改革に取り組むべき。
われわれのシステムが100%だとは思わない。
自分たちで工夫できることをあきらめずに実施し、どこまで可能かを追求。
物品の共同電子購入などにも取り組んでいる。
若手研究者の研究費は、数百万円程度。研究は、簡単には増えない。
試薬が、共同購入で30~40%引きになれば、
研究費はその分、余裕が出ることになり、事務職員の負担軽減にも。
若手医師支援の一環。
こうした仕組みは次々に導入していきたい。
企業が取り組んでいる、いいアイデアを医学部と病院に徹底的に取り入れる。
医学部と病院が協同して財務改革を進め、
その浮いた分を若手医師の支援に充てるのが基本的な考え。

http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080814_1.html

慶應義塾大学医学部長・末松誠氏に聞く(上)

(医療維新 8月13日)

医師不足についての現状認識と一連の改革について、
末松氏に話を聞いた。

――医師の需給をめぐる現状について。

医師養成数の抑制という1997年の閣議決定が見直され、
増員の方針に転換したのは、一つの見識。
医師の仕事の量や難易度が大きく変化した。
インフォームド・コンセントや医療倫理など知っておくべき知識が
質的・量的に変わった上、サブスペシャリティー領域の知識や
技術の習得のためのトレーニングのあり方が、
時間も、また労力の面でも大きく変わった。
6年間の医学部教育、卒後研修の中で、医師がリアルタイムに
学ぶべき医学・医療の情報量が以前と比べて格段に増えている。
様々なことを勉強し、訴訟などのリスクも抱え、
専門化・多様化したニーズに応えなければならない

――こうした現状に、25年前と医師数に関する考え方が同じでいいのか?

医師の数を増やさなければいけないのは、一般論として正しい。
基礎医学を支える医師人材の慢性的不足の問題も。

――基礎医学や社会医学に従事する医師の養成も必要か。

日々の臨床に加えて研究も志すという、モチベーションやポテンシャルが
高い学生が本塾医学部にはたくさん来る。
医学部の卒業生100人のうち、数人が基礎医学を目指すのは非常に健全。
社会医学系を目指す学生も。

昔は医局に入ると、その医局に何もかも一生お世話になるのが一般的。
これからは、自分でキャリアパスを選択し、社会の要請や自身の考え方の
変化により、自分で仕事を選べる時代になるべき。
私自身も、卒後9年間は消化器内科の臨床をやっていたが、
基礎研究に転向した。
基礎と臨床の同時両立は不可能だが、
論理的な考え方を研究を通じて学んでいくことは、
基礎研究でも臨床研究でも極めて重要なこと。

患者さんの視点で物事を考え、異なる背景や経験を持つ複数の医療スタッフが
集学的に患者さんを支える「グループアプローチ」は極めて重要。
そのような考え方を、若手の医師に理解してもらうため、
若い医師のキャリアパスを考え、選択自由度と育成プログラムの柔軟性を
高める視点が求めらる。

医学部を卒業した段階で進路を選択し、一生かかってその道を
極めるのもいいが、臨床から基礎に転じるだけでなく、
同じ診療科の領域でも異なる病院を経験したり、
新しい診断技術を習得するために転科するなど、
“ヘテロ”な医療人材の存在理由を理解する医師が
そのフィールドで活躍できるようにすることが重要。
結果として、医療の質の向上につながり、患者にフィードバックできる。

――以前とは仕事の量や質が異なり、医師のキャリアパスの多様性を
担保するためには、医師の数は必要。

その通り。
しかし、単に数を増やすだけでなく、大学間の人材育成システムの競争を
健全な形で促していく必要。
日本では、クリニカル・リサーチに従事する医師やコメディカルの人材も
非常に少ない。
患者さんへの啓発活動を通じて、臨床研究への協力が医学の発展に
寄与するという考えを普及させていく責務がある。

医師の仕事への絶対的ニーズと多様性は年々拡大し、
様々な場で医師の潜在的不足がある。
医師数だけでなく、システムの問題が大きい。
システムが、旧来のままの状態で単に医師の数だけ増やしても、
抜本的な問題解決にはならない。

――ここでいう「システム」とは、何を意味しているのか?

卒前卒後一貫の医師養成のあり方、若手医師のキャリアパス選択の
柔軟性や待遇の改善など。
今は、地方で医師が足りない、だから医学部定員を増やそうという話。
医師不足の地域で、仕事をする医師の支援や「振興策」ならいいが、
医学部入学の段階で「地域枠」といった形で医師の進路を決める、
政策誘導的に特定の診療科の医師の増員をすることは本当に妥当か。
本当に地方に定着するのか、医師のモチベーションを保つことが
本当にできるのか、熟考する必要。

大学医学部・医科大学は、真剣にシステム変革を考えなければいけない。
地域中核病院と大学医学部双方が医師不足の地域は、本当に厳しい。
しかし、地域の中核病院には、ある程度医師がいるにもかかわらず、
その地域の大学医学部では医師不足に陥っている地域もある。
このような場合、大学医学部の医師の育成の制度を再検討する必要。

――どんな医師を養成し、いかなるキャリアパスを提示するかが重要だが、
大学が取り組んでこなかったのか?

時代の変化に応じたシステムの変革に、必ずしもポジティブではなかった。
医学を志す人は、ますます大学を注意深く選択する時代になっていく。
各大学が、彼らに選ばれるために精一杯の工夫をしていく必要。

――具体的には、慶應義塾大学では、どんな改革を実施されているのか?

今年度から、若手医師支援策として様々な改革を実施。
学祖である北里柴三郎博士から受け継いでいる使命は、
「Physician Scientist」を養成し、「基礎・臨床一体型の医学の実践」。
サイエンスが分かる医師、新しい技術を作る医師、自分で考え開発し、
それを実用化につなげることができる医師の養成が使命。
こうした道を選択するのは全員ではないが、
「レシピ通り作れる」医師ではなく、新しい「レシピ」を創造し、デザインし、
ブラッシュアップできる医師の養成を目指す。
その理念を貫くため、大学院における若手医師への研究支援策。
慶應の場合は、他大学とは異なり、大学院大学ではない。
医学部・医学研究科が一体となって、卒前・卒後一貫型の
教育・研修システムを構築。

臨床系大学院に所属する医師に、一定の基準で専門研修医として
兼業を認める制度や、大学院生に対する奨学金制度なども設定。
卒後に臨床の修練をしていた医師が、大学院に入学して研究を
一定年限やることになっても、努力次第で経済支援を受けられる仕組み。

――大学院改革はいつごろから開始したのか?

大学院改革は、2001年に信濃町キャンパス内に
総合医科学研究センターを設置した頃から始まった。
21世紀COEプログラムの支援もあり、再生医学、癌低侵襲医療などの
研究が奨励され、大きな成果を上げてきた。
競争的研究資金を獲得した研究者が時限付きのプロジェクトを
推進・展開する場所で、産官学共同の学際的融合研究が推進。

若手の医師が自分で取得した研究費で運営できるスペースを設け、
自立した若手研究者の育成環境も構築。
医学研究科には医学部出身者だけではなく、
薬学、理工学、情報科学、医療科学など様々なバックグラウンドの
若手研究者が集まってきた。
ここに集う医師は、非医学部出身者との共同研究、技術開発を
推進する機会も豊富で、学際的研究環境を醸成しつつある。
このような環境は、グループアプローチを旨とする医療の実現にも
よい効果を与えていくと期待。

――「グローバルCOEプログラム」はどんな領域で実施されているか?

一つは、生命科学プログラムである「In vivo ヒト代謝システム生物学拠点」。
医学研究科と理工学研究科、環境情報科学の3専攻合同で、
50人以上の大学院生をサポート。20人超が医学研究科。
対象とする疾患は、主として癌と感染症、それらの制御戦略を
代謝生物学的切り口で探索しようという試み。
もう一つは、生理学教授の岡野栄之研究科委員長・教授がリーダーである
幹細胞医学のための教育研究拠点」。
全員が医学研究科を対象。5年間のプログラム。
両者は車の両輪で、医学研究を先導する若手医師の育成には不可欠。

http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080813_1.html

2008年8月18日月曜日

東京大学医学部長・清水孝雄氏に聞く

(医療維新 8月7日)

政府は、従来の方針を180度転換、「医学部定員増」を決定、
文科省から定員増に関して各大学に通知。
ところが、「文科省の通知を見て、落胆した。
110~120人程度の増員を予定していたが、再検討を余儀なくされた」と、
東大医学部長の清水孝雄氏は問題視。

2004年度の国立大学の法人化以降、大学運営は厳しく、
「教育、研究、臨床の質を落としてはいけない。
現状では、定員を増やす余裕はあまりない」

――一連の医師養成数をめぐる議論について。

医学部の定員増を認めたのは、非常に大きいこと。
「当面、過去最大数まで増やす」という方針は、貴重な一歩。
わが国の人口当たりの医師数は、OECD諸国に比べてまだまだ少ない。
この「一歩」に期待したが、文科省の通知を見て落胆、
予定の大幅な変更を検討せざるを得ない。

――なぜ文科省の通知を見て、落胆したのか。

第一は、「(過去最大数と現在の定員の差である)約500人増やす」
となっているが、地域枠の約200人分が既に入っており、
実質的な増員分は約300人すぎない。
地域枠は10年という期間限定で、これとは別枠で500人を増やすべき。

第二は、医師不足は、地方や特定の診療科に限らない。
基礎医学に従事する医師が減っている。
東大では、多い時は1学年25人が基礎医学に進んでいたが、現在は数人。
他大学でも同様で、これは日本の医療にとって危機。
法医学や病理などの医師も不足。
しかし、地方や特定の診療科での医師不足対策としての定員増に。

第三は、医学部の定員増には、教員・職員の増員や設備の改修などが
必要で、経費もかかる。
しかし、その担保、予算的な裏付けが一切明記されていない。

本当に、東大として医学生を増やすべきなのかどうか、
どんな立場を取るべきなのかを真剣に考えていく必要がある。
東大の場合、定員増は、医学部だけではなく、
駒場(教養)の先生なども関係する問題。
様々な要素を勘案しながら、検討していく必要。

国がどれだけ経済的支援をするのか?
来年度の予算に、「特別枠」として約3000億円ある。
これを全額、医学部の定員増に充てる必要はないが、
医学部定員を増やす年に、使わないでどうするのか。
「とにかく定員を増やせ。(予算などは)何とかする」、
という話ではスタートできない。非常に危ないこと。
「落胆」したのは、東大に限らず、他大学の医学部長も同様。

――当初はどの程度を予定していたのか?

当初は、110~120人への増員を予定。
現状の体制では難しく、教員・事務職員の増員や設備の改修を前提。
10~20人増は、1~2割増やすことに相当、解剖室などの改修は必須。

教育や研究の質を落とさず、臨床も高度なことをやらなければいけない立場で、
そんなに多く増やせる状況にはない。
東大は、研究を重視する一方、東大病院の外来は1日約4000人、
約1100床の病床はほぼフル稼働。

大学院化したのは1996年、医学系研究科には現在、
以前の2.5倍の1学年約250人の大学院生。
教員のポストは、2004年の国立大学法人化以降、減少。
医学部と病院の事務系職員も、大幅な削減を強いられている。
経営的にも厳しく、運営費交付金は毎年1%、病院はそれプラス2%減。
建物を建てる際にも、国が出すのは3分の1、残りは自分たちで調達。
東大病院の建築費用の借金は、毎年70億円近く返済。
経営努力が求められ、研究や教育へのしわ寄せが、東大ですら来ている。

従来、医学部発の論文数は年々増えていたが、3年前からほぼ横ばい。
経営が重要になり、臨床に取り組まなければならず、
結果的に研究に割ける時間が減ってきている。

――「110~120人への増員」は、5年後にはまた考え方が変わるのか?

臨床実習や講義、解剖の設備は、100人の学生数を想定したサイズ。
医学部定員増を図るには、教員・事務職員の増員、
設備の大幅かつ抜本的な改修、予算上の手当、
これらすべての壁をクリアしなければ無理。

抜本的に変える政策を国が打ち出さない限り、
医学部定員増は簡単に乗れる話ではない。
何の手当もなく、医学生の数だけを増やしたのでは、教育の質の低下に。
一人でも多くの医師、基礎や臨床の研究医、社会医学に従事する医師を
育成したいと思うが、現状ではほぼ限界に近い。

東大では、来年から臨床教員の制度を導入予定。
従来の医局と関連病院との関係性を改め、
大学が関連病院と契約してネットワークを組み、
共同して教育・研修に取り組むことなども検討。
現実的な数字として、110~120人という定員を想定。

――定員増は、国が打ち出した施策であり、十分な予算を付けないのはおかしい。

文科省は、「医学部定員を増加させてあげるから、そのために努力せよ」
という形。本来、発想は逆ではないか。

――文科省への定員提出の締め切りは9月22日。

大学としても予算が分からないと、どの程度、定員を増やすかは言えない。
予算上の担保を条件に、要望を出すことになる。
「医学部定員増」は、春から議論され、正式に決定したのは6月末、
2010年度からの定員増を予定。
しかし、「500人増」の中で、実質的な増員分は300人。
2009年度分の申請で、一杯になってしまうことが予想。

急いで話を進め、2009年度から増員する必要はあるのか。
医学部定員を増やしても、その効果が出るのは早くて6年後。
次年度からの実施にし、各大学がじっくり検討、調整する形でもよかった。

http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080807_2.html

2008年8月17日日曜日

建国60年迎える韓国の苦悩

(日経 8月13日)

韓国は15日に建国60周年を迎える。
日本による植民地支配からの解放記念日の「光復節」。
苦難を乗り越え、北東アジアで存在感を増しているが、
内政・外交ともに方向感を失っているような印象。

建国当時と比べた韓国の経済発展は、目を見張る。
65ドル程度にすぎなかった1人当たり国民所得は、2万ドルを突破。
朝鮮半島の分断や朝鮮戦争を経験しながら、
「漢江の奇跡」と呼ばれる急成長を達成。
輸出主導型の経済システムを築き、造船や半導体など
世界トップのシェアを持つ企業が育った。

政治的にも、軍事独裁から民主社会への道を歩んだ。
自由主義と市場経済を選択した韓国の正しさは、独裁体制下で
国際社会から孤立する北朝鮮との差をみれば明白。

民主化の定着とともに、国民の関心は「個人の生活安定」に移った。
今年2月、実利主義を掲げた企業家出身の李明博政権が発足したのは、
いわば時代の要請。

だが、米国の金融不安や原油高の影響で、年7%の実質成長率を
目指した李政権の成長戦略は修正を迫られた。
期待を裏切られた国民の政権離れで、大胆な経済政策を
打ち出しにくくなるジレンマを抱えた。

外交もしかり。
当初は日米との連携強化を掲げたものの、
米国産牛肉の輸入再開問題で国民の反感が強まった。
米大統領の訪韓後も、韓国内で反米感情はくすぶり、
米韓自由貿易協定(FTA)が年内に批准できるか予断を許さない。

日本との間でも、竹島(韓国名は独島)の領有権を巡る対立が続く。
韓国は、9月に日本で開く日中韓首脳会談に出席するかどうか、
なお態度を留保したまま。

北東アジアの安全保障にとって、日米韓の連携は欠かせない。
特に北朝鮮の核問題の行方は流動的で、
米国はテロ支援国家の指定解除を当面見送った。
南北関係は、北朝鮮で起きた北側による韓国人観光客射殺事件で
最悪の状態に。
拉致問題を抱える日本とともに、北朝鮮に共同対処すべき時。

韓国にとって、「実利」は何か?
還暦が、日米韓連携の重要性を再認識する機会になってほしい。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20080812AS1K1200212082008.html