2010年3月13日土曜日

レーザー:誕生50年、広がる用途 20世紀の大発明、最新の研究は

(毎日 2月23日)

CDやDVDなどでのデータ読み取り・書き込みや、
工業製品の溶接、医療機器まで、幅広く活用されているレーザー
今年で、誕生50年を迎える。
応用範囲の広さから、「20世紀最大の発明」とも言われ、
新しい分野に用途は広がりつつある。
私たちの生活に欠かせない存在となったレーザーの仕組みや歴史、
最新の研究を紹介。

レーザーは1958年、米コロンビア大にいた
チャールズ・タウンズ氏が理論を発表。
60年、米国のセオドア・メイマン氏が、
ルビーを使ったレーザーを発明。
タウンズ氏は64年、ノーベル物理学賞を受賞。

◆従来と違う人工光

レーザーは、電球などの普通の光と大きく異なる性質を持つ。
普通の光は、さまざまな波長の光が混ざり合ってでき、
伝わる方向もばらばらで、四方八方へ広がっていく。
レーザーは、波長が一定で、波の山と谷がそろっているため、
一定方向へほぼまっすぐに伝わることが特徴。

タウンズ氏と共同研究をした経験のある
霜田光一・東京大名誉教授は、
「従来の光とは、まったく異なる光と言っていい」

なぜ、このような光が作れるのか?
レーザーが、アインシュタインの考え出した「誘導放出」という
原理に基づいた人工の光。
電気的に高エネルギー状態にされた原子は、
低エネルギー状態に戻る時、ある振動数の光の粒子を放出。
この粒子が、別の原子を刺激して同じ振動数の粒子を放出。
これを誘導放出。
この繰り返しによってできた多数の粒子からなる光は、
波長や伝わる方向がそろっている。

発明以来、誘導放出を起こす物質を変えることで、
強度や波長の異なるさまざまなレーザーが開発・実用化。
用途は、二つに分かれる。
一つは、レーザーをエネルギー密度の高い熱源として利用する使い方。
金属を、細かくきれいな断面で加工できる溶接機や、
医療用レーザーメスなどが該当。
もう一つは、まっすぐ遠くまで伝わる性質を生かした用途。
光ファイバーを使った光通信、スクリーン上の好きな場所を示せる
レーザーポインターなど。

◆X線の性質持たせる

まっすぐ伝わるレーザーの性質と、物の中をすり抜けて
内部まで届くX線の性質を持った「新しい光」の開発を、
理化学研究所が進めている。
兵庫県佐用町の大型放射光施設「スプリング8」の脇に
建設中の「X線自由電子レーザー」

X線レーザーは従来もあったが、波長の長いものしかなく、
小さな物質を見ることができなかった。
X線自由電子レーザーは、波長が0・1nm、
さまざまな物質の原子と原子の間の距離に近いため、
原子レベルで物を見ることができる。
電子の速度を自由に変えられるため、非常に短い時間しか
瞬かない光を作ることができるのが特徴。

これまでの手法で観察できなかった、瞬時に動く小さな物でも
見られるようになる。
新しい薬の開発につながる膜たんぱく質の1分子の動きの観察や、
化学反応を原子レベルで観察し、効率をより高める研究などに活用。
天文学や新素材開発などに役立つ可能性も。

施設は、円周が1・5キロのスプリング8ほどではないが、大がかり。
約400mの加速器に、電子を通してほぼ光速まで加速。
次に、強い磁力を与えてX線を放出。
施設は、全長700m。
X線と光速に近い電子の相互作用によって、
非常に波長の短いX線レーザーが生まれる。

今年秋には完成、来春までにはレーザーを稼働できる見通し。
理研放射光科学総合研究センターの石川哲也センター長は、
「さまざまな使い道があり、各分野で今までにない
サイエンスを切り開けるのではないか。
いろいろな分野の研究者に使ってもらいたい」

◆核融合で強力な熱源

強力な熱源として利用しようというのが、レーザー核融合
大阪大レーザーエネルギー学研究センターでは、
10ペタ(1兆の1万倍)ワットという高強度レーザーを、
昨年3月に開発。
レーザーが当たる瞬間のエネルギーは、中国全土を照らす
太陽光を、畳半畳に集めた場合に相当するとてつもない強さ。

レーザーを、核融合原料の重水素と三重水素に照射。
核融合反応によって、ヘリウムと中性子が生成する5000万度の
高温を作り出す計画。
阪大では、5000万度を作り出す実験を今秋にも予定。

疇地宏センター長は、「レーザー核融合の研究は、
40年近い歴史があるが、ようやく初めて点火するところまで来た」

レーザー核融合を巡っては、米国のローレンス・リバモア研究所
同時期に点火実験を計画、阪大では同研究所とも連携しながら
実用化を目指す。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/02/23/20100223ddm016040110000c.html

インタビュー・環境戦略を語る:ガルーダ・インドネシア航空、ファイク・ファーミさん

(毎日 3月1日)

ガルーダ・インドネシア航空は、航空機の運航で排出する
CO2を相殺するため、植樹などカーボンオフセットに取り組む。
日本・韓国・中国・アメリカ地区総支配人のファイク・ファーミさんは、
「ご搭乗ごとに1本の植樹」と気軽さを強調し、
乗客と一体となった環境保全を展開。

--インドネシアでの植樹活動の支援など、
カーボンオフセットに取り組んでいる。

◆国際的な環境保全団体の世界自然保護基金(WWF)
インドネシアなどと協力し、大規模な火災で森林が焼失した
カリマンタン島のセバンガウ国立公園で、植樹活動をした。

07年から約3年間、「ご搭乗のお客様お一人様につき、
1本の木を植えよう」を合言葉に、国立公園内の約250haで、
約10万本の植樹に協力。
国立公園は、世界でも有数のオランウータンの生息地。

--ジャワ島のジョクジャカルタの植樹は、環境保全の他に目的が。

◆王室の方の主宰する財団による、
「ジャワ鎮守の森-植樹村落開発」を支援
一角の「ガルーダの森」に、約5万本のマホガニーや
カシューナッツなどの植樹を予定。
エコツアーの料金に2000円上乗せで、
自分の名前が付いた木を植樹できる。
日本から、これまでに約80グループがツアーに参加。
年内にも開催予定。

植樹による環境保全だけでなく、養蚕など地場産業の育成を目指す。
手工芸品の機内販売など、幅広い目的の活動に携われてうれしい。

--環境保全は欠かせない?

◆日本の皆さんは、インドネシアというと、まずリゾート地のバリ島を
思い浮かべるのでは。
半面、地球温暖化対策を進め、火災や違法伐採などによる
森林破壊を食い止める必要。

インドネシアは、1万7000の島で構成される群島国、
バリ以外の魅力を知っていただくためにも、環境保全は欠かせない。

--両国は、日本からの地球温暖化対策支援の円借款など、
結び付きを深めている。

◆両国は、経済連携協定(EPA)を結び、観光だけでなく、
ビジネスなど幅広い分野で相互補完関係を築こうとしている。

環境保全も同じで、インドネシアが日本の最先端の
省エネ技術導入を目指す一方、日本は天然ガスなど
資源確保で、インドネシアを必要。

私たちは、日本のお客様を大切に考えている。
サービス向上のため、春から日本人乗務員が登場する予定。
スムーズに入国できるよう、成田出発の便は、
機内で入国やビザの取得手続きができるサービスを2月に導入。
==============
◇ファイク・ファーミ

ガジャマダ大学卒、95年ガルーダ・インドネシア航空入社。
08年7月、日本・韓国・中国・アメリカ地区総支配人。42歳。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/03/01/20100301ddm008020023000c.html

親と向き合う(3)安心与える言動磨く

(読売 2月23日)

教育委員会が、保護者対応力の向上に乗り出した。

電話が鳴ったら、近くの人がすぐ出る。
3鈴以内で出られなかったら、「お待たせしました」の一言を添える。

東京都教委がまとめた、「学校問題解決のための手引」。
7万部を刷り、公立の幼稚園と小中高・養護学校の全教職員に配る。

要望や苦情の聴き方、事務室と職員室の連携など、
保護者との初期対応に重点を置いた。
「相手の声に耳を傾け、その背景にある事情を把握する姿勢が前提」
(都教委)だが、学校だけでの解決が難しい
「解決困難ケース」の対処法も説明。

きっかけは、2008年、都内の全2418の公立学校・幼稚園を
対象に実施した調査。
保護者から、理不尽な要求を繰り返し受けるなどの
解決困難ケースについて、07年度の発生件数を尋ねたところ、
「ある」と回答したのは約1割。
その半分以上が、学校の初期対応が原因でこじれていた。

いじめを受けた児童の保護者から相談を受けた際、
担任が「お宅のお子さんにも問題がある」と話したところ、
ファクスやメールで、執拗な抗議を受け続けた学校も。

全体から見れば、深刻化する事例はわずかだが、
都教委は、「保護者からの不満や苦情には、
貴重な提案や相談も含まれる。
保護者と協力して子どもを育むには、すべての学校現場で、
初期対応力の向上が欠かせない」との姿勢。

08年度、大阪市教委も教職員向けの手引書をつくった。
以前は、保護者対応で迷った学校から、すぐに市教委に
連絡が入ることが多かったが、手引書に対応の流れを図式化し、
関係先の電話番号も載せたところ、市教委への電話は減った。

指導部の岡田和子・総括指導主事は、
「教師が一冊持つことで、現場が主体的になり、
簡単な事例であれば、学校で解決するようになった」

「少々お待ち下さいませ」
壁に背中を向けて並んだスーツ姿の若者たちが、
腰から上半身を15度傾け、軽いおじぎをした。
「恐れ入りますが」、「あいにくでございますが」
相手の心を和ませる「クッション言葉」も飛び交う。

小中学校で担任を務める教職5年以内の若手24人を対象に、
埼玉県と北本市の両教委が企画した研修会。
県内の百貨店で、社員教育を担当する「接遇のプロ」が講師役。

市教委では、「学校は世間の常識と溝があると言われ、
それが原因で保護者との信頼関係を損ねることも。
学校で最初に保護者と接する担任も、初期対応を学ばなければ」

受講した男性教諭(29)は、「保護者からの苦情で、混乱してしまい、
うまく対応できなかったことがある。
信頼なくして出来ない仕事。
まずは、安心を与える言動を日頃から心がけたい

教師一人一人の意識が、少しずつ変わっている。

◆解決困難ケース

保護者の行為・状態として、長期間にわたり頻繁に
手紙やメールを送りつけたり、一つの要求が通ると
次の要求をしたりするケースのほか、
インターネットやビラなどの媒体による中傷、
国や教育委員会の巻き込み、医学的な治療が優先される
心の問題などがある。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100223-OYT8T00243.htm

2010年3月12日金曜日

ロジカルシンキング(8)論理的な説明技術〜主張と根拠 積み重ねる

(日経 2月23日)

今回から、相手を説得するのに不可欠な論理的な説明技術の
体得の仕方について解説。
自分の主張を相手に理解してもらうには、
「説明内容」、「受け手」、「伝える手段」の三つを考慮。

説明内容で、一番重要なのはわかりやすさ。
わかりやすく説明するには、伝える内容がしっかりした
ロジック(論理)で構成されていること、
明確なメッセージで表現されていること。

論理的な説明というと、自分の主張をロジカルに
組み立てさえすればよいと考えがち。
本来の目的は、論理的な説明をすることではなく、相手を説得すること。

説得する相手、つまり受け手を考慮した説明が欠かせない。
受け手の感情や知識レベルなどを勘案しながら、
どのような伝え方をすればよいのかを決定。

説明するとき、紙の資料を使うのか、口頭だけなのか、
伝える手段を考える。
時間をどれくらい使えるのかにも注意。
伝える手段は、自分に都合よくそろっているわけではない。
限られた条件で、いかに活用できるかを考える。

説明内容を作り上げるためのポイント。
ロジックを組み立てるツールに、「ピラミッドストラクチャー」。

米国の有力コンサルティング会社、マッキンゼーに所属していた
バーバラ・ミント氏が体系化。
自分の主張が、どのような論理展開になっているかを、
ピラミッドのように図式化。
「複数の根拠をもとに、主張が組み立てられる」という考え方を
ベースに、主張と根拠を積み重ね。

ピラミッドの頂上に、「メーンメッセージ(主張)」を置く。
2番目の階層に、メーンメッセージを補足する「キーメッセージ」。
下の階層にある情報を、「サポート情報」。
キーメッセージの根拠となる。

メーンメッセージである「職場内で必要最低限の
コミュニケーションしかとられていない」の下に、
3つのキーメッセージが並んでいる。
キーメッセージの下には、サポート情報がある。
相手が納得するまで、サポート情報を用意しなければならない。

ロジックを組み立てる場合、まず自分の言いたいことがあって、
その根拠を補っていく「トップダウン的なアプローチ」と、
関連しそうな事実を積み上げていきながら完成させていく
ボトムアップ的なアプローチ」の2つ。

注意すべきは、主張とサポート情報との整合性をとること。
注意しても、メッセージと関係のない情報が入っていたり、
メッセージの一部しかサポートできていない情報があったりする。

同じ階層にある情報やメッセージの抽象度をそろえること。
中央が、「重要顧客との商談状況に関する情報が共有されなかった」
となっていたら、他のキーメッセージとは具体性が異なる。
これでは、説明を聞いた相手は違和感を覚える。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz100223.html

科学技術予算:編成過程、様変わり 総合科学技術会議の存在大きく

(毎日 3月2日)

日本の科学技術政策が、転換期を迎えている。
その象徴が、司令塔となる総合科学技術会議
(議長・鳩山由紀夫首相)の改革。
昨秋の政権交代以後、会議の運営が大幅に変わり、
新政権全体の改革案を試行する役割も担う。
「事業仕分け」で注目を集めた科学技術予算も、
編成プロセスの大幅改変が進行中。

「予算編成のあり方を変える画期的な話」
総合科学技術会議本会議を、鳩山首相はそう締めくくった。
「画期的」とは、同会議が策定を進める
「科学・技術重要施策アクション・プラン(AP)」のこと。

◆限られていた影響力

政策の中身は、予算の配分で決まる。
次年度の予算は、通常8月に、各省庁が財務省に概算要求を提出。
同省の査定を経て、年末に政府原案が作られ、
年明けの通常国会に提出。
その中で、科学技術予算は、同会議が科学者の視点で
編成に関与するのが大きな特徴。

これまでの自民党政権では、実際の影響力は限られていた。
同会議は従来、1月「科学技術政策上の当面の重要課題」、
6月「資源配分方針」を策定。
どんな事業に予算をつけるかを示すものだが、
いずれも同会議が単独で作り、予算を組む省庁との連携はなし。
秋に、概算要求を事後評価する「優先度判定」を行うが、
要求の各項目をランク付けするだけで、
同会議独自の政策提案は望むべくもなかった。

◆概算要求に先回り

「受け身」のスタンスを逆転し、科学技術予算編成の主導権を
同会議に移す取り組みがAP。
具体的には、各省庁が概算要求を仕込み始める春~初夏、
先回りして「取り組むべき政策」を示す。
「予算を増額したい政策」を名指しし、予算確保を求めたり、
省庁間で重複する政策の排除も行う。

作成には各省庁も参加し、概算要求はAPに沿って作る。
11年度予算のAPは、環境、健康関連の課題解決型研究と
競争的資金制度改革の3点に絞って作成中。

AP新設の背景を、科学技術担当の津村啓介内閣府政務官は、
「(科学者、産業界代表からなる)有識者議員から、
『専門家として科学技術予算に責任を持つ立場なのに、
編成に関与できていない』との不満、問題提起があった」

有識者議員の相澤益男・元東京工大学長は、
「政権交代以降、政務官と有識者議員の情報交換が急増し、
議論を政策として実現する道筋ができた。APはその成果」

◆財務省も協力要請

予算編成への関与の強化につれ、心配されたのは財務省の反応。
1月、同会議は財務省の大串博志政務官と担当主計官を呼び、
初の意見交換を行った。

「各省から要求が出た後にゼロにするのは難しい。
要求の段階から、総合科学技術会議を含む皆で議論したい」、
「重点テーマに、各省が同じような予算要求をする。
順位付けなどに知恵を貸してほしい」
財務省から出たのは、意外にも同会議の協力を求める声。
議員からは、「画期的な情報交換」との声。

APが示した省庁横断、重複排除、トップダウン型の予算編成は、
民主党政権が昨秋打ち出した「予算編成改革」の柱。
元々、省庁横断型で、「各省より一段高い立場」にある同会議は、
改革のモデルケースとして絶好の舞台。
この取り組みの成否は、政権全体の改革の行方を占う。

http://mainichi.jp/select/science/news/20100302ddm016040133000c.html

親と向き合う(2)「苦情は宝」発想変え対応

(読売 2月20日)

保護者対応の悩みを抱えこまないよう、学校全体で工夫。

東海地方の公立高校の男性教諭(37)は、
保護者とのトラブルを抱えたことが何度かある。
特にひどかったのが、希望大学への推薦入学に成績が足りない
3年生の母親から、調査書の書き換えを求められたケース。

即座に断ったが、しばらくすると、昼夜、土日を問わず
携帯に電話が入るようになった。
「調査書を改ざんすることぐらい簡単でしょ」と強い口調で迫られた。
電話は数日間で収まったが、この間、誰にも相談できなかった。

「1年間、問題なく終えるのが当たり前とされる世界。
保護者トラブルが起きれば教員のミスとされ、
話すのは恥という気持ちがある。
当然、対応がこじれても、周りに相談しづらい」と明かす。

東京都教職員互助会運営の三楽病院では、
保護者とのトラブルを抱えて受診する教師が増えている。
精神神経科の真金薫子部長によると、いい教育を目指すあまり、
親の要求に応えようと頑張り過ぎ、ギリギリまで
心の病に気づかないケースが多い。
特に、異動1年目や新任の教師が陥りやすい。

「同僚との会話が少なくなったり、書類の締め切りが
間に合わなくなったりと、ささいな変化を見逃さないこと」と真金部長。
「何でも遠慮せずに話せる雰囲気を、普段から職場に
作っておくことが大切」

「早退は、子供ひとりで帰さない」、
「跳び箱は、マットを敷き指導する」、
「学校の保護者以外にも挨拶を」……。

東京都東村山市立大岱小学校の職員室の壁には、
30の個条書きで埋まった模造紙が張られている。
保護者から来るどんな苦情でも書き出し、
学校全体で受け止める仕組み。

提案した西留安雄校長(60)は、
「保護者から指摘されて当然のことを、一学級の問題として
とらえてはいけない。
視覚化して全員が共有することで、苦情が宝になることもある」

数年前まで、親のクレームが少なくなかった。
発想を転換した。
「うちの子は漢字を覚えない。しっかりと指導してほしい」と
要望が来れば、独自の漢字検定を作り、学校全体で競わせた。
児童のノートの書き方指導に注文があれば、
きれいなノートを表彰する大会を企画。

若手の指導・育成にも力を入れる。
職員会議の時間をなるべく削って、指導役のベテラン教師が
若手教師に寄り添い、気づいたことを話し合える環境をつくった。

西留校長は、「忙しいことを理由に、変えようとしない学校もあるが、
子どもの願いに応えるという教師の初心に戻れば、
学校はいくらでも変えられる」と強調する。

◆心の病

教師の場合、強いストレスから気分が落ち込んだり、
やる気が出なくなったりする適応障害になることが多い。
2008年度、病気休職した公立小中高校などの教職員
8578人のうち、精神性疾患が原因で休んだのは
63%の5400人、その割合は年々高まっている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100220-OYT8T00279.htm

2010年3月11日木曜日

セイコークロックの福室幸一取締役「『時刻を知る』以外の付加価値を」

(日経 3月1日)

セイコーホールディングス子会社で、掛け時計や置き時計を
手掛けるセイコークロックが、新たな製品開発の方針。
単に「時刻を知る」だけではない魅力を加え、
買い替えや買い増し需要を喚起。
携帯電話の普及で、加速する市場の縮小を食い止めようとしている。
商品企画を担当する福室幸一取締役に、具体策を聞いた。

——掛け・置き時計の市場動向は?

国内は縮小している。
ほとんどの家庭には、すでに掛け時計も置き時計もあり、
壊れなければ買い替えない。
若い人は、携帯電話のアラーム機能を目覚まし時計の代わりに使う。
時刻を知ることに困っている人はもういない。
だからこそ、プラスの魅力を打ち出さなければいけない」

——プラスの魅力とは?

「1984年、発売した『ピラミッドトーク』が象徴的な商品。
一見、時計にはみえないが、先端を押すと音声で教えてくれる。
便利さよりも、楽しさで受けたのだと思う。
標準電波を受信して、時刻を合わせる機能などを加え、
昨年末に25年ぶりに復活」

防災用の置き時計。
中途半端にラジオを聞けるだけにするのではなく、
手動の発電機、懐中電灯、携帯電話のコネクターなど
『フル装備』に仕上げた。
昨年末、海をイメージした動画を壁や天井に映し出す
ドーム形の時計を、タカラトミーと共同で開発。
買ってもらうため、従来のクロックの枠にとらわれない
ものづくりが重要」

——時計に娯楽の要素を加えるなら、販路も変える必要がある。

「それも課題のひとつ。
セイコーは、時計店や百貨店の販路が強いが、
これらの製品が売れる場所は別にある。
広告宣伝の手法も、考えなくてはいけない。
ウェブを使えば、費用をかけなくても効率的に伝えられるのでは。
どう顧客と接点をつくっていくかを検討」

——今期も、クロック事業は営業赤字の見通し。
製品の魅力向上に合わせて、どう収益を改善していくのか?

「リーマン・ショック以降、100万円を超す高級機種の売れ行きが
激減し、利益を得にくくなった。
効率化を進めるため、機種数を絞り込んでいる。
国内外で別々だった低価格帯のブランドも、
これから5年ほどかけて1つにまとめていく」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/interview/int100226.html

親と向き合う(1)新人教師自殺 心のケアは…

(読売 2月18日)

なぜ、新人教師が希望を絶たなければいけなかったのか?

2006年5月27日、新宿区内の小学校の新任女性教諭が、
自宅で自殺を図った。
未遂に終わったが、声が出なくなり、うつろな目で
タオルを握りしめたまま涙を落とすばかりに。
31日、女性は再び死を選び、翌日に亡くなった。23歳。
教壇に立てたのは、わずか2か月。

その年の夏、娘のかばんを整理していた母親は、
中にあったノートをめくり、最後のページで手が止まった。
「無責任な私をお許し下さい。全て私の無能さが原因です。
家族のみんな ごめんなさい。」

女性教諭の初任校は、1学年にクラスが一つしかなかった。
新人ながら、小学2年の学級担任に就いた。
ベテランの教員が指導教諭に付いたが、この先生も
1年の学級を受け持ち、慌ただしかった。

不安もあったが、教師になれた喜びの方が勝り、
22人の教え子の名前を覚えようと、やる気に満ちていた。
一日は忙しかった。
授業に学級運営、遠足などの学校行事の準備。

初任者研修報告、公開授業指導案、年間授業計画作りなどの
仕事も山積。
朝6時半に家を出て、帰宅時も仕事を持ち帰る毎日。
ソファの上で迎える朝も少なくなかった。

「年頃なのに、出勤前に鏡を見なくなった」
4月下旬頃から、姉は妹の変化を感じていた。

学校が異変に気づくのは、5月22日。
研修で不在だった女性の連絡帳を、たまたま指導教諭が広げた。
4月のページから、ある親による苦情でいっぱい。

5月25日、保護者4人が校長室に駆け込む。
指導へのクレームだった。
親たちは教室に行き、授業をのぞいた。
亡くなる1週間前だった。

大学4年のとき、都内の小学校で、学習障害児に付き添う
ボランティアに励んだ。
芯が強くて明るく、人前で弱音を吐くような性格ではなかった。

亡くなる前、親たちが授業を見に来た後、
友人に「自分がふがいない」と打ち明けている。
「保護者対応が、気持ちの面で一番つらかったと思う」と、
当時の娘の心中を父親は推し量った。

個人情報保護を理由に、連絡帳は遺族に開示されていないが、
区教委が両親に口頭で内容を説明し、
「初任者である教諭が見たら、ショックを受けるだろう」。

「なんで子どもに漢字で名前を書かせないのか」、
「期待したような宿題が出ていない」など、
「結婚や子育てもしていないので、経験が乏しいのではないか」
といった教諭個人を中傷するような文言も。

女性教諭の死から4か月余りが過ぎた06年10月、
両親は公務災害を申請。
自殺直前、精神科医は「適応障害の疑い、抑うつ状態」と診断。

2年後、精神疾患との因果関係が認められないと、「公務外」と認定。
再審請求をしたが、結果は出ていない。

区教委は07年4月、再発防止策をまとめた。
「子どもへの指導や保護者への対応について、深い悩みに陥っていた」、
「状況の把握が結果として十分でなく」と結論づけ、
新規採用教員への心のケアや、全教員による保護者対応の
サポート体制が必要であるとした。

学校に理不尽な要求を繰り返す親、「モンスター・ペアレント」が
社会の関心を集め始めるさなかでの女性教諭の死は、
当時、保護者に問題があるとされた。

それから3年余り。
女性の両親は、原因は、むしろ学校のあり方にあると考えている。
両親は、女性教諭の同僚から聞いた話として、
かつて職員室にあったテーブルのことを話してくれた。
教員たちは、暇を見つけてはテーブルを囲み、悩みを語らっていた。
テーブルが撤去されたのをきっかけに、和やかな空気は薄れていった。

「保護者からのクレームだけで、人は死なない。
教師が支え合える仕組みがないと、子どもたちにとっても悲劇となる
父親の言葉は、対応に迷う現場への問いかけでも。

◆教職志望者「保護者との関係不安」

文部科学省が2006年度にまとめた調査によると、
「保護者や地域住民への対応が増えた」と感じている教師は、
小学校で74・9%、中学校で70・6%、高校で62・4%。
08年度、愛知教育大教職大学院などが教職志望の学生を対象に、
教師になる場合の不安について聞いたところ、
「非常に不安」、「不安」と答えた割合は、
「保護者との関係」が計70・3%で最も多かった。

いずれも背景には、「モンスター・ペアレント」の問題。
学校と保護者の関係づくりを研究する
小野田正利・大阪大教授(教育制度学)は、
「モンスター・ペアレントというレッテルを張って、人間性そのものを
否定すれば、要求の裏にある親の思いも抹殺してしまう」と警告。

保護者からの苦情が、学校問題を改善するきっかけになることも。
「向き合うべきか、距離を保つべきかを見定めるため、
まずは保護者の話に耳を傾け、怒りの根源を
学校全体で探る姿勢が必要だ」と小野田教授。

◆モンスター・ペアレント

米国の一部で、家庭内虐待を受ける子どもから見た
「怪物のような形相をした親」を指した単語。
日本で広まった言葉とは、意味が異なる。
米国では、特に大学生の我が子の生活に干渉する親を
「ヘリコプター・ペアレント」。
常に頭上を旋回し、何かあれば急降下して支援する様。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100218-OYT8T00311.htm

小野清子が見たオリンピック

(sfen)

冬の競技の厳しさを痛感

冬季オリンピックの全15競技のうち、10競技が屋外で行われる。
冬季オリンピックのほとんどの競技が、当日の天候や雪質に
大きく影響されるということ。
どんなに状況が悪くても、選手は皆同じ土俵の上。
いかなるときでも、自分自身をベストな状態に整えることも
実力のうちといわれる。

2月13日(土)は、モーグルの試合を観戦。
試合会場であるサイプレス・マウンテンには十分に雪がなかったため、
より遠くの山から雪を運んでコース整備が行われた。

モーグルの試合観戦では、会場に向かう観客たちのパワーに
驚きと感動があった。
サイプレス・マウンテン行きのバスは、1時間半も
待たなければならなかった。
待合室がなく、雨が降って寒いなかじっと立っていたが、
バスを待つ人々は皆、笑顔。
日本じゃありえない!と思った。
誰も文句を言わず、バスを待っている。
文化の違いをひしひしと感じさせられた。

試合が始まってからの歓声にも驚いた。
皆、自国以外の選手に対しても、素晴らしい滑走には
心からの拍手と、大きな歓声を送る。
そうするほか、選手たちに「よかったよ!」といった称賛を表現する
手段がない。
日本人選手に対しても、大きな拍手を送ってくださったとき、
感謝の気持ちが自然と込み上げてきた。

人種や国籍の垣根を越え、スポーツ観戦を通じて
会場全体がひとつになること。
それこそが、オリンピックをはじめとする国際大会の醍醐味。
オリンピック憲章では、オリンピック開催の目的のひとつが
平和な社会の構築であることを提言。
古代ギリシャの伝統に基づき、オリンピック期間中は
戦争・紛争を停止するよう国連が呼びかけ。
『五輪停戦』、まさにスポーツを通じた平和運動そのもの。

平和運動とともに、現在は環境問題に対する呼びかけや配慮も、
オリンピックの重要な要素。
バンクーバー冬季オリンピックでは、スピードスケートの会場の建設に
倒木やその廃材を利用するなど、あらゆる面で環境に配慮した
運営を行っていた。
オリンピックは、選手やコーチ・役員、選手の家族のためだけでなく、
地球全体、皆のためのイベントである。

11~18日の観戦で最も印象に残った競技は、
フィギュアスケート男子。
銅メダルを取った高橋大輔選手の演技に、大変感動。
自分が努力してきたことを信じて4回転ジャンプを跳ぶんだ、
というその果敢な姿勢に胸打たれた。
苦しい時期を乗り越えてメダルを手にした彼を見ていると、
青春真っただなか!というようなすがすがしさを感じた。

私のすぐ後ろで、欧米人の女性グループが観戦、
高橋選手の演技のあとは、立ち上がって
「ブラボー!ブラボー!」と歓声を送っていた。
彼女らの応援に感謝の気持ちを伝えるとともに、
私も一緒になって喜んだ。

今回のオリンピック観戦では、観客席にいなければ経験できない
貴重な体験ができた。
オリンピックファミリーとして、色んな国の役員の方たちと
観戦した経験もあるが、それとはまた異なる素晴らしい体験に。

http://www.ssf.or.jp/sfen/olympics/index.html

2010年3月10日水曜日

楽しい図書館(10)活用は様々 工夫次第

(読売 2月17日)

読者から連載への様々な感想。

「学校司書がいなくても、教員や保護者が工夫すれば、
子どもたちが図書に親しむ環境をつくることができるのでは」、
神奈川県内の公立小学校に、長女(5年)と長男(2年)を
通わせる伊藤真衣さん(34)。

長女が低学年のころ、保護者有志で授業開始前に
読み聞かせをしていた。
「『好きな本を読みなさい』では、戸惑ってしまう子どもも。
親が本の魅力を伝えたり、授業で図書館を活用するなど、
大人がきっかけを与えることが重要」

都立高校の学校司書、佐藤久栄さん(54)は、
東京都中野区立啓明小学校の図書館の取り組みに触発。
佐藤さんの高校では、授業で図書館を利用する機会が少ないが、
「先生たちに学校図書館を使ってもらえるよう、働きかけたい」

学校司書と司書教諭、教員らが連携し、読書活動や授業での
図書館活用を進めていくことを求める声が相次いだ。

読書、学びの場として、学校図書館の有効活用への期待は大きい。
「昼休みや放課後、児童・生徒がなだれ込むように図書館に来て、
活気にあふれていた」、
「学校図書館活用には、行政の支援や学校司書、教員たちの
熱心な取り組みが欠かせないと実感」

東京学芸大学で開かれた、6年一貫で教員を育成する
「新教員養成コース」の先進校視察報告会。
島根県東出雲町立揖屋小学校と同東出雲中学校を訪れた学生たちが、
学校司書らへのインタビューや、図書館を活用した授業見学を
通して学んだことなどを発表。

「両校では、子どもたちが日常的に図書に親しむことで、
自ら興味のあるテーマや問題を見つけ出しているように感じた」、
中等教育教員養成課程3年の関根和宜さん(21)。
中学校社会科の教師を目指し、「調べ学習などで図書館をうまく活用し、
生徒の考える力を伸ばせる先生になりたい」と意欲。

同大教職大学院の成田喜一郎教授(58)は、
「現職教員でも、学校図書館を上手に使いこなせる人は少ない。
教員を志す学生たちに、図書館活用教育の有効性や方法を
学ばせることは重要」

同大では1992年、教員養成課程の選択科目として、
学校図書館に関する科目を設け、図書館活用教育に力を入れている。

付属小・中学校などの学校司書らで組織する
「東京学芸大学・学校図書館運営専門委員会」は、
「授業に役立つ学校図書館活用データベース」
http://www.u-gakugei.ac.jp/~schoolib/htdocs/)を開設。

学校司書が教員から相談を受けた事例を挙げ、
紹介した書籍のリストや授業実践例などを紹介。
同大付属小金井小学校学校司書の中山美由紀さん(51)は、
「学外の学校司書や教員、先生を目指す学生にも参考にしてほしい」

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100217-OYT8T00328.htm

インデックスの渡辺社長「中国で富裕層向けネット通販、3年後に販売額5000億円」

(日経 2月26日)

インデックス・ホールディングス子会社で、
携帯電話向けサイト構築大手のインデックスが、
中国で電子商取引(EC)事業に乗り出す。

中国最大の小売りグループ、全国華聯商厦集団
(フォアレングループ、天津市)と包括提携し、共同で
電子ショッピングモールを始める計画。
今後の見通しを、渡辺和俊社長に聞いた。

——ネット通販の具体的な内容は?

「中国の富裕層向けの会員制ショッピングモールを開設。
インターネットのカタログから欲しい物を選び、
パソコンや携帯電話から注文できる仕組み。
富裕層には高齢者も多いため、専用の携帯電話を渡し、
必要な物があれば電話をしてもらうという、
コンシェルジュ型のサービスに」

「2月末、事業の準備会社として当社とフォアレングループ、
不動産開発大手の泛華建設集団(北京市)の3社で、
合弁会社を設立。
合弁会社から当社がシステム開発を受注し、サイト構築などに入る」

——どのような商品を扱うのか?

「輸入物のブランド品やオリンピック観戦ツアーのような
特殊な旅行商品、不動産や食品などを対象とした投資商品。
輸入販売会社や旅行会社など、様々な企業に出店してもらう形、
参加企業は当社が集める。
販売額は、3年後に5000億円」

「ポイントを活用し、フォアレンの実店舗との連動も進める。
通販で獲得したポイントを実店舗で使えるようにし、
現金や他社ポイントと交換したりできるようにする。
中国でも、ポイントはあるが、異なる会社間やサービス間での
ポイント交換はまだほとんどないのが実態。
当社の子会社は、日本でポイント交換事業を手がけ、
ノウハウを生かす」

——フォアレングループとは?

「中国全土の46都市に、56の大型百貨店を展開、
スーパーやホテル事業なども展開。
売上高は、約400億元(約5400億円)。
ネット通販は過去に手がけたようだが、今はしていない」

——他のネット通販との違いをどう出すのか?

富裕層向けの会員制サービスとして始めるのが異なる点。
会員は、フォアレンがすでに抱える顧客に対し、募集をする計画。
フォアレンに一任、どのように会員を募るのか詳細は知らないが、
まず10万人の会員獲得を目指す。
ネット通販としてのブランドを確立し、3年後をメドに
一般向けの通販も始めたい」

——インデックスは、2000年代半ばから現地で待ち受け画面など
デジタルコンテンツの配信を手がけてきた。
なぜ今になって通販をやるのか?

「中国では、現地企業の買収などでコンテンツ配信に参入。
デジタル分野は、無断複製など不正使用の問題もあり難しい。
成長が見込めるのは、デジタルコンテンツより、物販だと判断」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/interview/int100225.html

特集 いきいき老後へ 「生活の質」維持 米国に学ぶ高齢者のQOL

(2010年2月27日 毎日新聞社)

漠然と老後に対し、不安を抱いている人が多い。
十分に準備をする暇もないうちに、高齢社会に突入。
1947年、日本人の平均寿命は、男性50・06歳、女性53・96歳。
人生90年の時代を、誰が予想していたか。

自分を知り、地域を知り、介護保険、成年後見制度、
日常生活自立支援事業の公的支援制度を使いこなせれば、
老後の心配はないとの意見もあるが、
42万人もの病弱な高齢者が、特別養護老人ホームの入居を希望し、
待機しているという事実。
どうすれば、私たちは幸せな老後を迎えることができるか?

米国には、高齢者が芸術に親しみ、自らも表現者になることによって、
生き生きとした老後を過ごそうという運動がある。
ESTA(Elders Share the Arts)といわれ、約30年の歴史。
ニューヨークで開かれた絵画展を訪れた。
平均年齢が75歳を超えていると思われる画家たちの目が輝いていた。
展覧会とあわせて開かれた報告会では、
「今が人生のゴールデンタイムですか」との質問に、
100人近い参加者の約80%が「イエス」と答えた。
元気で前向きに生きる高齢者が多いことを、あらためて知らされた。

生活が不自由になるまでは、独立して生活をし、援助が必要になると、
子どもや兄弟、あるいは友人と同居するというのが、
一般的な米国人の老後の過ごし方。
全米では、現在、看護が必要な約180万人がナーシングホームと
呼ばれる、必要な治療を受けることができる老人施設に入居。
65歳以上の5-8%、約200万人が、在宅で、
介護を受けながら暮らしている。

健やかに老いることを願っても、加齢に伴う病気からは
逃げることはできない。
ニューヨーク市老人局の発表によると、米国では、65歳を超えると
10人に1人、85歳を超えると2人に1人が認知症に。
現在の患者数は450万人、70%が在宅で治療・看護を受けている。
老人局では、認知症になっても、QOLの高い生活を維持するための
老い支度の必要性を訴えている。

長生きをすれば、誰もが認知症にかかり、将来意思表示が
できなくなる可能性がある。
備えとして、医療行為に対する代理人の選定、尊厳死の宣言と
訳されるリビング・ウイルの用意、
DNR(Do not resuscitate 治癒が期待できない時の蘇生治療拒否)
に関しての意思表示をしておくことが必要。

葬儀や埋葬法の希望を述べておくことも重要。
遺言を書き、法的トラブルや経済問題で禍根を残さない。
すべての米国人が、このような準備ができているわけではないが、
ナーシングホームに入居する際、代理人を決め、リビング・ウイル、
DNRに関する意思表示が必要。

日本人は、不確定なことに対し、あらかじめ想定をして
決めておくことが得意ではない。
自分の死や死後について準備をしておくことは、
縁起でもないと思う人もまだ多い。
決定を先延ばしにしたまま、何も決めずに臨終を迎え、
それが残された家族の争いの原因になることも珍しくはない。

介護保険、成年後見制度、日常生活自立支援事業がスタート。
自分のことを知り、地域を知り、これらの公的制度を
上手に利用すれば、老後の心配は解消されるという意見書を、
NPO法人いきいきフォーラム2010が発表、
自分のことを知ることに対し、あまりにもおざなりになっている。

人生50年の時代には認知症、介護を心配する必要がなかった。
日本は世界一の長寿国となり、人生90年の時代。
誰もが認知症など老年症候群にかかり、介護を受け、
医療の世話になり、死を迎える。
米国で推奨されているよう、一人一人が自分の終末期医療の
あり方と死後について、準備をしておかなければならない。
それは生活のマナーであり、究極のQOL対策ともいえる。

◇良質なサービスや商品提供、厳格基準クリアした企業に

高齢者が安心して健康に暮らすことができるよう、
良質なサービスや商品を提供している事業所(営業所)に対し、
シルバーマークが交付される。
社団法人シルバーサービス振興会が、89年よりスタートさせた制度、
利用者が事業所を選択する目安。
安全性、倫理性、快適性の観点から審査され、介護保険の
指定基準を上回る認定基準をクリアしなければ、交付されない。

審査は、シルバーサービス振興会が、まず実地調査を行う。
その結果に基づき、消費者団体の代表、福祉・医療の専門家、
学識経験者などからなるシルバーマーク基準認定委員会が
最終審査を行い、認定。
認定時期は、年3回(2月、6月、10月)、有効期間は2年間。

対象となっている在宅サービスは、訪問介護、訪問入浴介護、
福祉用具貸与、福祉用具販売、在宅配食サービスの5種類、
シルバーサービスの広がりとともに、
マークの種類を順次増やしていく。

◆商品開発の視点----花王

加齢に伴う身体の変化を、さまざまな形で気づかされる。
視力、聴力が衰える。
トイレの回数が増えたり、失敗する場合もある。
高齢者特有の不具合は、老年症候群と呼ばれ、
高齢者のQOLを落とす原因。

軽い尿漏れは、65歳以上の高齢女性の約30%が、
1カ月に1回は経験。
いつ起こすかわからない。
においも気になる。
トイレの不安があると、友人との楽しい買い物や食事を控えたり、
地域とのつながりも消極的に。
体を動かす機会が減り、運動不足で足腰が弱くなる。
その結果、運動機能、生活機能の低下が一気に進む。

それを防ぎ、前向きな気持ちを持ち続けるためには、
オムツを上手に活用すること。
花王サニタリー研究所では、高齢者研究に基づく排せつケア商品を
通して、高齢者の生活支援となるさまざまな研究開発。

「リリーフ超うす型お出かけパンツ」は、下着のようにはけて、
はき心地は木綿のよう。
ズボンも膨らまないから、他人の目が気にならない。
今までどおりの外出が楽しめる。
おしっこ2回分をしっかり吸収。
銀含有の抗菌消臭成分が、雑菌の繁殖を抑え、においも防ぐ。

パンツ型オムツをはく時、身体能力の低下が見られない
高齢者であっても、重心の動揺が大きい。
転倒を防止するため、伸縮性のある繊維ではきやすさを追求、
片手で引き上げるだけで装着できる。
脳卒中の後遺症から片マヒになってしまった高齢者も、
自分ではくことができる。

排せつ機能の低下がさらに進んだ人には、
パンツ型オムツにミシン目が付けられ、必要に応じて、
寝たままでも交換できるテープ式になるタイプも開発。
花王の介護サポートセンターに寄せられた
紙オムツに対する悩みや意見に応えるようにして生まれた。
商品の発売後、「安心して旅行に行けた」など多くの喜びの声。

高齢者の排せつ機能の改善に対し、サニタリー研究所では、
前東京都老人総合研究所副所長の鈴木隆雄氏
(現国立長寿医療センター研究所所長)らと新たな共同研究。
約40度の心地よい蒸気温熱で、おなかの周りを
温めることによって、尿漏れ、頻尿を改善しようというもので、
その有効性は、既に明らか。
月に1回以上尿失禁に悩まされている女性を、
骨盤底筋を鍛える運動を行い、腰部を昼間1日5時間温めた
グループと、何もしないグループに分け、3カ月後に比較、
前者で、尿失禁、排尿回数の改善が認められ、同時にQOLも向上。

高齢者それぞれの状態に合わせた商品選択と
上手な活用が今後ますます重要。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/3/1/116714/

2010年3月9日火曜日

楽しい図書館(9)絵本の世界 園児浸る

(読売 2月16日)

図書館がある幼稚園で、園児は本を楽しむ。

「おじゃまします」
食事を終えた園児たちが、元気な声を上げて図書館に。
約33平方メートルのこぢんまりとした本の部屋は、
約25人の園児ですぐにいっぱいに。

椙山女学園大学付属幼稚園(名古屋)の「すぎのこ絵本図書館」。
窓のステンドグラスに、桃太郎や赤ずきんの絵が描かれた
明るい雰囲気。
ボランティアの女性が読み聞かせを始めると、
園児は食い入るように聞き入る。
好きな本を取って、床に座って読み始める園児の姿も。
子どもたちは読み終わると、「ありがとうございました」と言って
部屋に戻っていった。

絵本による教育を大切にしている同園では、
毎日、教室ごとに読み聞かせが行われ、各教室には100冊程度の本。
絵本図書館は、2002年、園児たちが落ち着いて
本の世界に浸れるようにと、同園の創立60周年を記念して開設。

約3000冊の絵本や紙芝居などがあり、園児たちは食後や帰宅前に
立ち寄って読んだり、本を借りて家で楽しんだりする。
昼には、ボランティアの母親たちが読み聞かせを行う。
長男が同園に通う名古屋市の主婦、葉吹まりさん(44)は、
「月に1、2回、空いている時間にボランティアを。
子どももここで読んだことがきっかけで、本が好きになった」

地域にも開放しているのが、この絵本図書館の特徴。
「転勤者が多い地域で、1人で子育てに悩む人もいるので、
子育て支援に役立てばと思った」と、椙山美恵子園長。
通常、土曜日の午前中、夏休みは土日以外の毎日、開放し、
幼稚園の教諭が読み聞かせも行うほか、貸し出しも。

言葉の力を育てていくのに、絵本は大切。
読み聞かせで、子どもは本の世界への想像が膨らむと同時に、
読んでくれる親の体温や鼓動も伝わり、親子のきずなが深まる。
絵本ほど大事なものはない」と椙山園長。

図書館を持たない幼稚園や保育所のため、
貸し出しを行うこども図書館も活用。

市立「前橋こども図書館」では、絵本100冊をセットにして
希望する所に3か月間の貸し出しを行っている。

市内には、幼稚園や保育所が約100か所あるが、
法律で図書館の設置が義務づけられている小中高と違い、
図書館を備える所は少ない。
同こども図書館には9万冊の蔵書があり、その多くが絵本で、
読書推進に有効活用。
昔から読み継がれてきた定番の絵本や、
最新の絵本なども合わせて貸し出している。

これまで、28か所に貸し出しを行っている。
同館の渡辺幸江館長は、「子どもたちは、幼稚園や保育所で
多くの時間を過ごす。その時間も、本に親しんでもらえたら」

豊かな読書環境が、子どもの成長につながっていく。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100216-OYT8T00284.htm

「脳トレ」川島教授ら、学ぶ意欲の数値化に挑戦

(読売 2月20日)

「脳トレ」で知られる東北大の川島隆太教授(脳科学)らの
研究チームは、子供たちがやる気を感じながら、
勉強に打ち込める効果的な指導方法を探ろうと、
仙台市教委と協力し、実証研究に乗り出す。

学習中の子供たちの脳の働きを分析し、
意欲の高さを数値化することで、経験頼みだった指導の
ノウハウを共有できるようにするのが狙い。

研究には、川島教授ら研究者3人と、市内の校長、
教員ら計約10人が参加。
小中学校で、心理学に基づくアンケートを実施したり、
授業中の脳の働きを脳波計で測定したりすることを検討。
ほめられた時の脳の働きなども分析。

同大と市教委が協定を締結。
調査方法や規模などの詳細を詰め、4月から本格的に取りかかる。

川島教授は、「2、3年かけて、学習意欲を高める方法を実証したい。
学ぶ意欲を数値化できれば、教育実習の学生でも、
ベテランの先生のように、子供たちのやる気を引き出す
指導ができるようになる」

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20100219-OYT1T01213.htm

魅力アップへ化粧直し 東京・いわて銀河プラザ

(岩手日報 3月2日)

銀座にある本県のアンテナショップ「いわて銀河プラザ」が、
大掛かりな店舗改修を行い、26日にリニューアルオープン。
1998年のオープン以来、右肩上がりで売り上げを伸ばしている
同店だが、集客の柱になっていた歌舞伎座が、
5月から3年間の長期休館。
客数の落ち込みが懸念されるこの時期に、リニューアルで勝負。

リニューアルは、老朽化した壁面や天井を、木のぬくもりを生かした
明るい店内に改修。
生鮮食品から工芸品まで、幅広い商品が人気の同店だが、
商品数をさらに増やすため、陳列棚や冷凍・冷蔵設備を更新、
商品を保管するストックヤードも拡張する計画。
予算は、県の9月補正予算に盛り込んだ約8千万円。
国の緊急経済対策による交付金を活用。

改修工事のため、12日から2週間の休業を余儀なくされるが、
5日から閉店前の在庫一掃の売り尽くしセールを開催。
26日から、オープン記念セールを行い、
歴史的建造物でもある歌舞伎座との別れを惜しむ見物客らの
取り込みも図る戦略。

銀河プラザは、98年に銀座5丁目にオープン。
有名百貨店が軒を並べる「銀座中央通り」に近く、
道路を挟んで斜め向かいに歌舞伎座が位置。
都内にある地方自治体のアンテナショップの中で、随一の好立地。

多彩なイベントなども実を結び、2008年度の売り上げは、
99年に比べ1・6倍の約5億4700万円に増加。
アンテナショップの中でも沖縄、北海道に次ぐ売り上げを誇るが、
特に歌舞伎座の来場者が立ち寄るケースが多く、
公演前に弁当を求める人や公演後にお土産を買う客などが多い。

歌舞伎座は、老朽化のため、5月から建て替え工事に入る予定、
4月下旬までの「さよなら公演」が最終。
新歌舞伎座の完成は13年春、銀河プラザ側にも
何らかの対応策が求められていた。

県産業経済交流課の橋本良隆総括課長は、
「歌舞伎座が長期休館に入ることに加え、他のアンテナショップも
売り上げを伸ばし、これからが正念場に。
ピンチをチャンスに変えられるよう、
より魅力的な店舗に生まれ変わらせたい

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20100302_14

2010年3月8日月曜日

植物原料に安全な強力接着剤開発

(サイエンスポータル 2010年2月25日)

あらゆる植物に含まれる分子を高分子化することで、
既存の瞬間接着剤に比べ、2倍も接着強度が高い材料を、
金子大作・北陸先端科学技術大学院大学助教が開発。

植物のあらゆる細胞壁に含まれるポリフェノールの1種、
桂皮酸類と、酢酸誘導体などの触媒を混合、
加熱することでつくられる。

従来の接着剤とは、異なる接着機能を持つことから、
接着する材料表面に傷を入れるなどの前処理の必要もなく、
ガラスや金属を含むあらゆる材料を接着できる。

植物由来であるため、健康にも悪影響の心配もない。
自動車車体など、さまざまな材料から成る複雑な構造製品に
使用すれば軽量化が期待できる。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/1002/1002251.html

ロジカルシンキング(7)最適な解決策選ぶには〜ロジックツリーで洗い出し

(日経 2月16日)

問題の内容を分析して因果関係を構造化し、
解決すべき点が見えてきたら、いよいよ解決策を考える。

特定の解決策を決め打ちするのは、得策ではない。
幅広く複数のアイデアを出し、最も適切な選択肢を採用する、
というステップを踏むこと。

幅広くアイデアを出すといっても、先入観に縛られ、
なかなか思ったように浮かんでこない。
そんな時、「ロジックツリー」が有効。

ロジックツリーを使って考えると、それまで出てこなかったアイデアが
思い浮かぶ可能性が高まる。
まずは、「問題を解決するのに、どのようなやり方があるか」
という観点に立つ。

「業務計画が立てられない」という問題への解決策の糸口は、
「計画する能力をつける」、「職場内で計画を立てる仕組みを作る」に大別。

それぞれについて具体策を洗い出していけば、
幅広く解決策を挙げていくことができる。
解決策を選定するには、判断基準と制約条件を考慮。

よさそうなアイデアでも、自分の求める基準に合致しないものを
解決策として選ぶべきではない。
やる気を重視するなら、能力向上の手段の中でも、
やる気の出やすい方が魅力的。

制約条件にも注意。
予算の上限が決まっていれば、いくら魅力的でも、
予算オーバーのアイデアは捨てざるを得ない。
買い物のとき、いかに魅力的な商品でも、
高額すぎるものは買えないのと同じ。
判断基準や制約条件を考慮し、最適な解決策を選定。

解決策を選定するとき、「最もよい解決策」を1つだけ選ぶ手法は
望ましくない。
「全体として、効果的になるような解決策のパッケージを作る」
というスタンスを忘れてはいけない。

解決策が問題の一部の解消にしかつながらなかったり、
副作用の恐れがあったりしても、あきらめる必要はない。
他のアイデアと組み合わせて取り入れていけばよい。

必要になるのは、全体最適の視点。
全員が四番打者の野球チームが決して強いわけではないのと同じ、
インパクトの強い解決策を並べるのがよいわけではない。
解決策全体のバランスや相互補完性を考慮する姿勢が求められる。

問題解決において、心がけておきたいポイント。
考えられる問題や原因、解決策を幅広く洗い出し、
その中から最も重要なものや効果的なものを選ぶこと。

いくら段階を踏んだ問題解決をしても、
問題はこれだと決め打ちをしたり、思いついた解決策が
ベストだと決め込んだりすると、解決策を考えた意味がない。
まずは、問題点や解決策を幅広く洗い出すこと。

勢は柔軟な発想で問題をとらえ、よいアイデアを生み出すことに。
新たな情報や考え方があった場合、柔軟に他の選択肢に
目を向けることができる。

状況に柔軟に対応しながら、場当たり的でない問題解決を
進めていくため、ロジカルシンキングは欠かせない。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz100216.html

黒岩の未来へ農業整備 北上・推進委が記念誌発刊

(岩手日報 3月3日)

北上市の黒岩地区農業基盤整備事業推進委員会(昆精司会長)は、
同事業完工を機に、記念誌「万緑豊壌の郷」を発刊。
事業完工を祝うとともに、黒岩地区の歴史や結束を
再確認する一冊。

黒岩地区は、北上市東部の北上川東岸に位置する農村地帯。
同事業は、国庫補助の県事業として、1998~2009年度に実施。
同推進委は、95年度に設立、農家の同意取りまとめなどに奔走、
事業を実現した。

基盤整備は、黒岩地区の6地区で進められ、
77・1ヘクタールの圃場や用排水路を整備。
受益戸数220戸、受益面積126・3ヘクタール、
事業費26億8700万円の一大事業。

記念誌はA4判、65ページ。
300部を印刷、受益農家や関係機関に配布。
多田勝郎黒岩地区交流センター長が中心となって、資料を収集。
農業基盤整備事業のあらましにとどまらず、関係者による
座談会や地区の歴史をたどる内容も盛り込んだ。

昆会長は、「地域の産業・農業の将来をつなぐため、
『百年の大計』という気持ちで事業に取り組み、どうにか実現できた」と、
推進委発足から足かけ15年の歩みを振り返る。

記念誌編集委員会の及川純一委員長は、
「記念誌は、末代まで誇れる内容。
今後の地域づくりに活用していきたい」

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20100302_10

2010年3月7日日曜日

楽しい図書館(8)お茶飲み 気軽に会合

(読売 2月13日)

大学図書館が、重厚で堅いイメージから脱却し、学生の利用を促す。

「昔は、本のカード目録や歴代学長の写真が並び、
まじめな雰囲気。
コーヒーの香りが漂う明るい空間になって、うらやましい」

お茶の水女子大学付属図書館1階の「キャリアカフェ」で開かれた、
国立国会図書館の職員採用説明会。
卒業生で、国会図書館職員の中村若生さん(36)は、
職場環境を後輩約50人に説明、母校図書館の変貌に感想を漏らした。

同大図書館は、開架式の書架があり、利用者が出入りする2階に対し、
1階は会議室など、大半は学生立ち入り禁止の閉ざされた空間。
2007年、この1階部分が改装、パソコン70台などを自由に使える
「ラーニング・コモンズ」に変身。

同年末、隣接したスペースに丸っこい形のテーブルや
座り心地の良いソファを設置、コーヒーなどを飲みながら話ができ、
就活イベントも行われるキャリアカフェをオープン。
カウンター業務や本の整理などを手伝う学生アシスタント制度
「LiSA」も始まり、学生たちが図書館の企画に主体的にかかわる。

きっかけは、羽入佐和子前館長(現同大学長)の、
「図書館のサポーターを増やしたい」という一言。
同館図書・情報チームリーダーの茂出木理子さん(47)は、
「図書館も図書の所蔵だけでなく、学生が文章力や発表力を
つけられる場所に変わる必要があった」

現在、1日の利用者数は平日で約1500人、
改善前の1・5倍に増加。
大学院生も含め、約3200人が学ぶキャンパスで高い利用率。

LiSAの第1期メンバーで、文教育学部4年の田辺理子さん(23)は、
「ただ本を借りるだけでなく、自分たちが情報発信する
場にもなるんだ、と勉強になりました」

千葉大学付属図書館は、1994年、蔵書検索もできる
ウェブサイトを正式に開設、2001年に電子ジャーナル提供を
開始するなど、先駆的な取り組みで知られる。
06年秋、教職員や大学院生の連携で、学部生の図書館利用の
拡大を目指すプロジェクト「リエゾン・ライブラリアン」を始めた。

その一つ、07年開始の「授業資料ナビ」は、1、2年生がターゲット。
研究テーマの知識が少ない学生に、具体的な情報源を提示しようと、
教養科目中心に、教員推薦書籍のコーナーを館内に設置。
ウェブサイトもわかるようにした。
09年度前期、ナビ対象本321冊の約50%が貸し出され、
本館の貸出率約12%を大きく上回った。

西千葉キャンパスにある図書館本館サービスグループリーダーの
鈴木宏子さんは、「利用者の評価も高く、今後は専門科目などに
対象を拡大。足を運ばない学生へのPRが課題」

情報獲得手段の多様化に合わせ、大学図書館も変化を迫られている。

◆ラーニング・コモンズ

1990年代、英米の大学図書館で使われ始めた言葉、
厳密な定義はない。
コモンズは、「共有の場」の意味、お茶の水女子大では、
「学生がコンピューターを使いつつ、ディスカッションや
情報発信の場としても使える学習スペース」

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100213-OYT8T00268.htm

エム・オー・マリンコンサルの鏡社長 「安全は愚直な努力の積み重ねから」

(日経 2月25日)

海運会社にとって、日々の安全運航を継続するのは
最大の経営課題。
運航システムや港湾環境がめまぐるしく変化を続けるなか、
船長や航海士の運航技術を磨き、
どうやって重大事故を未然に防ぐのか。
商船三井の人材開発子会社、
エム・オー・マリンコンサルティングの鏡敏弘社長に聞いた。

——会社の事業目的は?

「『安全』が、海運会社の基盤であることは言うまでもなく、
安全運航を続けていくためには不断の努力が必要。
当社は1988年、海上従業員の訓練を集中的に実施するため、
別会社として設立。
96年、操船シミュレーターを導入、実際の業務で必要な
港内の操船技術をチェックし、習得できる」

それでも、事故は起きてしまった。
コンテナ船の機関室火災、自動車運搬船の横転、
大型タンカーからの原油流出、鉄鉱石運搬船の座礁。
熱心に、海上従業員の訓練を実施していたつもりだったが、
残念なことに96年、4件の重大海難事故が発生。
事故を再現したプログラムなども取り入れ、
教育プログラムを充実させ、再発防止に努めている」

——具体的には?

船員の教育に加え、商船三井本体の海上安全部と
連携・補完する形で支援。
新しく船長になる人や船の種類が変わる人などに
訓練を義務付け。
シミュレーターには、日本の主要な港や海外の主要な港の
データがそろっている。
電子海図や自動船舶識別システムが、日進月歩で進化、
それに合わせて最新のデータを取り入れる」

バーチャル空間で、2隻同時に操船研修ができるのが特徴。
夜間など、実際の港湾に限りなく近い状態を再現でき、
課題や安全確保の方法が検討できる。
フィリピンやインドなどの船員学校でも、
小型のシミュレーターを導入」

——海賊問題への対処は?

「シミュレーターでは、海賊船を登場させていない。
日本の商船は、武装していないこともあって、
決定的な解決策はない。
遭遇しないよう、不審な船には近づかないことが鉄則。
万が一、護衛船がいない時に海賊船に遭遇した場合、
速やかに関係各所に連絡し、早く逃げるしかない」

——船や航行の自動化、機械化が進んでいる。

「性能が向上したシステムが次々に導入、安全面では格段に向上し、
重大事故は減っている。
航海士にとって、必要な本船の位置情報も、
即座に分かるようになった。
それでも、安全運航のためには、人間の五感に頼るなど
『肌で感じる』必要。
機械に頼りすぎるのはよくない。
万が一、機械が故障した時に機敏に対応するためには、
どうすれば良いかを日ごろから訓練することが必要」

——研修を受ける人に訴えていることは?

安全を追求するには、どんなに小さなことでも
愚直にやることが大切。
これで終わりと言うことはなく、即効薬もない。
徹底的な事故原因の追求が、重大事故を未然に防ぐことにつながる」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/interview/int100224.html

日中大学フェア&フォーラムが明らかにしたこと

(サイエンスポータル 2010年2月26日)

日本と中国の92に上る大学が参加した
「変貌する日中の大学-グローバル大競争・連携時代を迎えて-」
と題する日中大学フェア&フォーラム。

中国側の反応もよく、2月1日の人民網日本語版は、
「中日双方の大学に、全面的な交流のプラットフォームを提供」
と高い評価。

「日本と海外の大学が結んだ提携関係のうち、
中国の大学との提携数は、米国を抜いてトップ。
中国と海外の大学が結んだ提携のうち、
日本の大学との提携数は2位。
中日両国は、一衣帯水という地理的メリット、
アジアにおける経済的実力と研究条件の良さというメリットを活かし、
中日大学間の協力をさらに推し進め、
利益とメリットの発揮を促進していく」と、協力を歓迎。

日本の科学技術政策にかかわる人々の間では、
日本の科学技術水準維持には、中国との協力は不可避、
という声が高まりつつある。

これらの声は、人口減などの影響で研究者の層も薄くなると
予想される日本と比較し、中国の研究人材の豊富さが早晩、
決定的な差になって現れる、という見通し。
中国を含め、アジア諸国から見たら日本は、
ノーベル賞学者を輩出しているうらやましい存在、という声も。

アジア諸国との研究者交流が必要という考えでは一致、
日本自身の評価について、科学技術政策担当者と
一部の研究者には違いがある。
どちらか一方が正しいということでは、恐らくない。

基調講演を行った物理学者の楊福家・英ノッティンガム大学長は、
日本の学問の伝統を評価する一方、
中国でリベラルアーツ、基礎教育を重視し、
優秀な人材を育てる大学改革が進んでいることを強調。

日中両国だけでなく、欧米の研究の歴史にも詳しい
楊氏に、科学技術振興機構・中国総合研究センターの
米山春子フェローがインタビューした記事。

以下のような記述は、日本にも当てはまると感じる人も。
「基礎教育を改革しようとするなら、
中国の大学入試制度をまず改革しなければならず、
かつ基礎教育に携わるハイレベルの教師陣を養成する必要。

最近、中国のみならず、日本の大学も基礎教育への重視度が
まちまちで、薄まっている大学も。
学生の質が下がっていることをよく耳にするが、
これは基礎教育の問題。

基礎教育は、人文科学、自然科学、社会科学のみではなく、
個人の人格に結びついた知識やこれに関連した学問や芸術、
精神修養などの教育、文化的諸活動を含める教養の問題。

中国や日本の一部の大学には、
グローバル大競争の情報社会において、学問が細分化され、
基礎教育はあまり意味がなくなっている、という考えがある。
わたくしは、そうと思わない。
基礎教育は、生徒・学生が自分に最も適した道を
歩めるようにする助けになる。

よい学生を育成するには、基礎教育から取り組まなければならない。
体制と世論の面から基礎教育者を奨励し、
尊敬を受けられるようにすべき。
基礎教育、教育を強化してこそ、中華民族の復興は可能。
われわれの時代が、巨人を生み出す時代となることを心から望んでいる」

http://www.scienceportal.jp/news/review/1002/1002261.html