2011年2月12日土曜日

「恐怖消す」プロセス解明 北大、脳内の作用部位発見

(2011年2月1日 共同通信社)

恐怖や不安の記憶を消し去る脳内マリフアナ
「内在性カンナビノイド」を伝達するシナプスを、
北海道大学医学研究科の渡辺雅彦教授(神経解剖学)のグループが
マウスの研究で突き止め、31日の米科学アカデミー紀要に発表。

脳内で作用するプロセスが、具体的に分かったのは初めて。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の新薬開発などに
つながる可能性がある。

脳内では無数の神経細胞が結合しあい、シナプスが視覚や聴覚をはじめ、
さまざまな情報を伝達する役割を果たす。

研究グループによると、カンナビノイドを受け取るシナプスは、
恐怖や不安など、「負の感情」をつかさどる大脳の扁桃体の中の
「基底核」と呼ばれる部分にあった。
神経細胞に食い込むような特殊な形をし、「陥入型シナプス」と名付けた。

陥入型シナプス周辺の神経細胞には、カンナビノイドの合成酵素も集中。
神経細胞で生成されたカンナビノイドがシナプスに働きかけ、
基底核の活動を活発化させて、恐怖の記憶を消去している。

渡辺教授は、「カンナビノイドを含む薬は、食欲増進などに使われている。
プロセス解明によって、PTSDへの薬効に注目した新薬開発が進む
可能性がある」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/2/1/131852/

2010年の平均気温平年より0.34℃高 日本は0.86℃高

(サイエンスポータル 2011年2月3日)

昨年の世界の平均気温は、1971~2000年の30年間の
平均値(平年値)より0.34℃高く、日本に限るとは0.86℃高かった。

世界の平均気温は1891年以降、2番目に高く、
日本は1898年以降、4番目に高い値。

世界の年平均気温は、100年あたりで見ると0.68℃の割合で上昇、
特に1990年代半ば以降、高温となる年が多くなっている。

全体的に気温が高いのは、インド洋や大西洋で、
陸上では中央アジアなどを除く多くの地域で、平年より高くなっている。

日本は、100年あたり1.15℃の割合で上昇、
特に1990年代以降、高温となる年が増えている。

近年、高温になる年が頻発している理由として、
温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化の影響と、
数年~数十年で繰り返される自然変動によると考えられ、
2010年に関しては、2009年夏から2010年春まで持続した
エルニーニョ現象の影響がさらに加わった可能性がある。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/1102/1102031.html

脱毛、白髪の仕組み解明 幹細胞にコラーゲン不可欠

(2011年2月4日 共同通信社)

毛根で、「17型コラーゲン」というタンパク質が不足すると、
脱毛と白髪の両方の原因となることを、マウスの研究で突き止めたと、
西村栄美東京医科歯科大教授(幹細胞医学)らが、
4日付米科学誌(セル・ステム・セル)に発表。

西村教授は、「頭皮で、このコラーゲンが作られるような薬を開発すると、
一部の脱毛や白髪を治療できる可能性がある」

髪の毛と黒い色のもとは、毛根に貯蔵されている
毛包幹細胞と色素幹細胞。
毛が再生産される際に使われる。

西村教授らによると、17型コラーゲンの働きで、
毛包幹細胞が枯渇せず、脱毛を防いでいることが判明。
このコラーゲンは、毛包幹細胞が「TGFベータ」というタンパク質を
作るのにも不可欠で、このタンパク質の働きで色素幹細胞が
なくなってしまわないことも分かった。

マウスは通常、生後約2年で老化し脱毛や白髪が起きるが、
遺伝子操作で17型コラーゲンができないようにしたマウスでは、
半年以内に白髪が目立つようになり、約10カ月で全身の毛が抜けた。
TGFベータも作られていなかった。

人間の17型コラーゲンを作るよう遺伝子操作すると、
再び毛包と色素の両方の幹細胞ができ、脱毛と白髪を抑えられた。

TGFベータができても、色素幹細胞側で受け取れないように、
遺伝子操作をすると白髪に。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/2/4/132026/

2011年2月11日金曜日

荒れない学校(4)親が参加 子ども変わる

(読売 1月29日)

「いつも小言ばかり言ってごめんね。
あなたを叱っている時、お母さんもつらくて悲しいんです」、

「スポーツ、勉強、恋愛、今しかできないことを、
めいっぱい楽しんでください。応援しています」

京都府舞鶴市立城北中学校の体育館。
同中PTA会長の長内加津美さん(44)が、全校生徒の前で、
保護者らが書いた手紙を読みながら、涙で声をつまらせていた。
全校合唱コンクール2日目の舞台。
手紙の紹介後、保護者ら約130人が壇上で合唱。

するとアンコールで、多くの生徒が壇上になだれ込んだ。
保護者らと300人近くで、「世界に一つだけの花」を合唱。
「『帰れ』、『うざい』と言われるかと少し怖かったが、
親たちの気持ちが伝わっているとうれしかった」、
指揮をしていた元PTA会長の船越正一さん(47)。

かつては、一部の生徒が授業を抜け出したり、
かっとなってトラブルを起こしたりと、落ち着かない学校だった。
雰囲気が変わり始めたのは、2008年、田中正信校長(56)が赴任、
PTA活動の活性化を、学校改善の取り組みの一つに位置づけてから。

親が生き生きと学校にかかわる姿を、子どもに見せるのがいいと考えた」、
田中校長は振り返る。

PTAが動き出した。
1年目は、活動への参加者を増やそうと、ソフトバレーボール大会や
学校周辺清掃への親子参加を積極的に呼びかけ、
手書きのビラなどでPR。
最初は反応が少なかったが、参加して楽しかったという声が
寄せられるようになった。

2年目、7、8年前に自然消滅していた地域の資源回収が
PTAの主導で復活。
親子で一緒に町内を回り、アルミ缶、新聞紙などを集めるなど、
活動が軌道に乗ってきた。
当時会長だった船越さんは、「親子の絆を深めるのが目標だった」

3年目の今年度、「学校へ行こう!キャンペーン」を目玉に。
授業参観に加え、希望者が全学級を見学する学校参観を年3回実施。
生徒会との意見交流会も開いた。

「親たちがきちんと見てくれていると感じる。
みんなも、盛り上がりと元気が出てきた」、
前生徒会長の3年千歳倫太郎さん(15)。
田中校長は、「保護者が温かく見守る中で、
子どもたちが自信を持って育ってくれれば」

保護者のかかわりが、学校に安定をもたらしている。

◆PTA

子どもの学校ごとに、保護者と教師で構成。
母親が仕事や介護で参加しにくくなる一方、
昨今は父親の積極参加が目立つ。
教員の多忙さ、役員の重い負担などから、
仕組みの見直しが求められている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20110129-OYT8T00220.htm

(福島)<ひと言葉>「人生の最期大切にしたい」

(2011年1月30日 読売新聞)

県警察医会長 中村雅英さん(69)

異状死体の発見現場に急行し、遺体を見て死因を明らかにする警察医
病死、自殺、孤独死と様々な人生の終幕に立ち会うのは、
犯罪を見逃さず、死者の尊厳を守るため。

医師としての社会的使命を果たしたいと、
いわき東署の警察医を引き受けたのは1996年4月、54歳の時。

その1か月後、「今でも忘れられないショッキングな出来事」が起こる。
警察署員から、異状死体が発見された住所と名前を聞いて、
不安が脳裏をよぎった。

現場に着くと、女性が自宅の物置で首をつっていた。
やはり、自分の患者だった。
「サインを出していたはずなのに、自分は見抜けなかった」。
もっと患者に関心を寄せ、心の揺らぎを受け止めなければ--。

女性を死なせてしまった悔恨が、親身になって患者に寄り添う
診療スタイルにつながった。

これまでに行った死体の検案は870体以上。
死は、古くから「忌まわしいもの」として避けられ、死因を調べる
「診断学」は、なおざりにされてきたと感じる一方、
死者にも、生者と同じく尊厳と人格が保たれるべきと考えている。

「死を診断するのは、人生の完結に立ち会うということ。
死因、死亡時刻をできるだけ正確に把握することで、
遺族の心は安まるのではないか」

孤独死の死体検案が増えていることに、憂いを感じている。
問題の解決には、「何よりも、近隣住民など身近にいる人々が、
独居生活者に関心を寄せることが大切」

2009年、県警察医会の会長を引き受けた。
県内の警察医は約40人、多くは60歳以上と高齢化が進む。
「後継者の育成が必要。まだまだ頑張らなくては」

昼夜なく呼び出され、遺体と対面する警察医の仕事に、
周囲から、「大変な仕事だね」とよく声をかけられる。
時間を選ばない点では、救急患者も同じ。
苦に感じたことはない。

「やっぱり、人が好きなんだな。
だから、人生の最期を大切にしてあげたいんだよ」。
優しい笑顔をのぞかせた。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/31/131813/

メタボ健診の受診率40% 09年度、低調続く

(2011年2月3日 共同通信社)

40~74歳を対象とした特定健康診査、「メタボ健診」の
2009年度の受診率(速報値)が、全国で40・5%にとどまったことが、
厚生労働省の調査で分かった。

制度が導入された08年度の受診率は38・9%、
約2ポイント上がったが、低調傾向が続いている。

厚労省は、「がんなどと比べ、緊急性が低いと考えがちだが、
放置すれば、数十年後に深刻な影響が出る」と、
積極的な受診を呼び掛けている。

対象者数は約5220万人で、受診者数は約2115万人。

健診の結果、生活習慣病の原因になるとされるメタボリック症候群と
診断された人は約311万人、予備軍が約265万人。

診断後に、保健師などによる保健指導が必要とされた約400万人のうち、
実際に指導を受けたのは約52万人だけ。

運営主体ごとの受診率は、公務員らが加入する共済組合(65・4%)、
大企業の社員が加入する健保組合(63・3%)と高かった一方、
中小企業の従業員らが加入する全国健康保険協会(30・3%)、
市町村国保(31・4%)、船員保険(32・1%)と低く、二極化が続いた。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/2/3/131990/

2011年2月10日木曜日

荒れない学校(3)児童支援に複数の目

(読売 1月28日)

福岡県直方市立直方東小学校で、
児童への支援を、校外の専門職も交えて個別に検討する
「チーム会議」が開かれた。

出席者は、川上裕史校長(53)、教頭、学級担任、大学院に在籍する
中堅教師など計8人。

議題は、最近学校生活などで不安定な様子が見られる
高学年女子児童への支援について。
生徒指導担当が司会となり、担任の現状報告の後、支援策の検討に。

川上校長が、「宿題は毎日できていますか」と尋ねる。
「たまに、ですね」と学級担任。
「誰にほめてもらいたいのかな」と校長。
時々本人と話をする中堅教師が、
「お母さんが好きらしい。今度お母さんに話をしてみましょう」と応じる。
養護教諭が、「他の児童との関係は、私が様子を見ます」と提案。

支援の内容と分担が決められ、予定の45分間を15分超過して会議は終了。

この会議は、同小が福岡教育大学の西山久子准教授(45)(教育相談)らの
協力を得て、昨年度から始めた「東小サポートプログラム」の一環。

プログラムでは、まず、不登校、暴力、非行などで長期の支援が必要な
子どもを選び、家庭状況などを書いた個人カルテ、学習面や
対人関係などの情報をまとめた援助シートを作成。
会議の参加者は、これらの書類に目を通し、共通理解のもとで会議を進める。

学校で起きる問題は多様化、複雑化し、
担任一人の能力や経験だけでは対応しきれない。
このため多くの学校で、複数の教職員によるチーム援助を導入、
会議に時間がかかり、結果もきちんと引き継がれないことが少なくない。
西山准教授らが、効率の良いプログラムを、
同小の教員の声を取り入れて開発した。

同小で以前、目をつり上げて教師に反抗ばかりする児童がいた。
両親に聞くと、子育てに悩んでいることが判明。
担任とスクールカウンセラーが両親に助言する一方、
徐々に変わる状況を整理するチーム会議を何度か開いた。
2か月後、児童の表情が穏やかになり、教師の指導に従うようになった。
専門職の意見を入れて、総合的に判断できたのが大きかった」と校長。

不登校を、改善に向かわせたことも。
ある学級担任は、「相談できる環境になり、精神的に楽になった」
川上校長は、「あれこれ話すことで、子どもへの思い入れも共有化できる」

◆チーム援助

チーム支援とも呼ぶ。
学校現場で使われる際、子どもに最適な支援をするため、
複数の教職員が一体となって取り組むことを指し、
1990年代後半から各地で活発に。
保護者、地域の参加も求められている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20110128-OYT8T00190.htm

14年に共通番号割り当て ICカードでサービス 社会保障・税、基本方針

(2011年1月31日 共同通信社)

政府の社会保障と税の共通番号制度の実務検討会は、
基本方針案を発表。

2014年6月、国民一人一人に番号を割り当て、
15年1月、段階的な利用開始を目指す。

健康保険証や年金手帳、介護保険証の機能をまとめたICカードを、
新たに国民に配布し、1枚のカードで各種の社会保障の給付や
サービスを受けられるようにする。

政府・与党社会保障改革検討本部で正式決定、
6月に大綱を策定、今秋の臨時国会にも法案を提出する方針。
国民の理解や野党の協力を得ながら、
スケジュール通りに導入できるかは不透明。

与謝野馨経済財政担当相は、
「長年の社会保障制度の課題が、歴史的な第一歩を踏み出した」

利用範囲は、所得などの税務分野や年金、医療、介護、福祉、
労働保険で、行政サービスの効率化や利便性向上を図る。

医療や介護の履歴が一元的に管理されるため、
確定申告は、医療費の控除が領収書なしでできるなど手続きが簡便に。
高額医療費と介護費も合算され、
自己負担の上限額以上の立て替え払いが不要。

年金の支払い状況や、行政から受けられるサービスの情報を、
インターネットで確認できるようになる。

将来、消費税率を引き上げた場合、低所得者への増税分の還付に
利用することも想定。

所管は、「歳入庁」創設の検討を進めるが、当面は総務省が個人、
国税庁が法人を担当。
個人情報が不正に扱われないよう、
政府から独立した第三者機関を設置し、運用状況を監視し、
厳しい罰則も設ける。
番号制度の名称は公募する。

所得や資産状況の把握について、峰崎直樹内閣官房参与は、
「銀行口座は当然入るが、どこまで広げるかは
政府税制調査会で今後検討する」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/31/131783/

生命に適した太陽系外惑星54個発見…NASA

(2011年2月3日 読売新聞)

NASAは、生命に適した環境を持つ可能性がある
太陽系外の惑星54個を、宇宙望遠鏡「ケプラー」で発見。

ケプラーは、銀河系の400分の1をカバーしているに過ぎず、
地球のように生命を宿せる惑星は、予想以上に数多く存在する
可能性が高まった。

NASAエイムズ研究所のウィリアム・ボルーキ研究員は、
「宇宙では、生命はありふれたものだろう」

NASAは、2009年にケプラーを打ち上げ、惑星が前を横切ることによる
恒星の光の微妙な変化を観測。
1235個の惑星候補を特定し、うち54個は熱すぎず冷たすぎず、
液体の水が存在して生命に適していると推定。
特に、5個は地球に近い大きさ。

観測した恒星のうち、地球から約2000光年離れた「ケプラー11」には、
最多の6個の惑星が密集し、惑星の成り立ちを解明するのに役立ちそう。

こうした「候補」を惑星と断定するには、
追加観測による確認作業が必要だが、これまでの研究結果から、
80-90%は本物の惑星とみられている。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/2/3/131985/

2011年2月9日水曜日

荒れない学校(2)「非暴力」は小学校から

(読売 1月27日)

不服そうなチャッド君の表情が、
教室前面のスクリーンに大きく映し出された。

ブルース君に、バスケットボールを横取りされてしまった。
「チャッド君はどんな気持ちかな?」
中台生美教諭(35)が聞くと、児童からは「やな気持ち」、
「許せない」と声が上がる。

品川区立第二延山小学校2年3組で行われた、
暴力防止教育プログラム「セカンドステップ」の授業。

中台教諭は、「『怒り』のサインが出ている。
怒ることは、人間にとって当たり前」、
「『やられたらやりかえす』だと解決にならない。
『ケンカを避ける』ためには、どうすればいいかな?」と問いかけた。

「落ち着きのステップ」と男子児童が発言したのに続き、
「前に習ったよ」と次々に意見が出る。
「数字を逆から数える」、「深呼吸する」、「その場を離れる」――。
安全か、フェアかなど話し合い、
「ブルース君に、『一緒に遊ぼう』って言ってみようかな」という
解決案も最後に出た。

品川区は、2009年度から、同プログラムを区立全小学校38校に導入。
1、2年で計20時間。
「気持ちは変わる」、「フェアとは」などの相互理解、
「立ち止まって、落ち着いて、考えよう」という問題解決法と
「独り言」など怒りの扱いを順に学ぶ。

和気正典・同区教育委員会小中一貫教育担当課長(57)は、
「家庭の教育力が低下すると共に、集団遊びや大人と接する機会が減り、
相手の表情から心理を読み取ったり、トラブルが起きた時、
感情をコントロールしたりする方法がわからない子どもが増えている。
どう対応すればいいかを、小さいうちから教える」と狙い。

「『死ね』、『殺すぞ』と、簡単に口にする。
子ども同士で、すぐ殴り合う。これはあかん。
何かを間違って覚えたのか」

数年前、兵庫県のある小学校に赴任した校長は、
子どもの状況にがくぜんとした。
早速、「社会で生きる力」などの授業を導入、
すぐかっとなる子が数か月で落ち着いた。

校長は、「暴力をふるいそうになった時、『その場を離れる』などの
方法を積み上げて学んでおけば、中学、高校と上がっても役に立つはず」

子どもたちが、荒れる主な舞台は中学校。
相手を思いやり、暴力をふるわない気持ちを育てる教育は、
小学校でも徐々に始まっている。

◆セカンドステップ

NPO法人「日本こどものための委員会」が、
シアトル市で開発されたプログラムを翻訳し、日本に紹介。
試行時に調査した山形大学の宮崎昭教授によると、
攻撃する態度が減るなどの効果があった。
「ファーストステップ」は、暴力の被害者にならないためのプログラム。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20110127-OYT8T00302.htm

(岩手)【一人じゃながんすべ・下】遺族を救う交流会

(2011年1月30日 読売新聞)

1人が自殺したとき、家族や友人、知人など、
少なくとも5人以上が大きな影響を受ける。

10年間で、5000人近くが自殺している県内では、
延べ数万人が近しい人の自殺を経験している。

「何かしてあげていれば、状況が変わったかもしれない」
9年前、弟を亡くした県北の40歳代の男性は、今でもその思いが消えない。

離れて暮らす弟の死は、両親から知らされた。
実感はすぐにわかなかった。
葬式の日、式場の看板に記された弟の名前を見て、
初めて自分の中の何かが崩れていく衝撃に襲われた。

亡くなる数か月前、弟から「少しそっちに行っていいかな」と
お願いをされたが、自身の生活に余裕がなく、遠回しに断った。
何が自殺の原因だったかは、はっきりしない。
それでも、「もしもあの時……」という思いは消えない。

そんな男性の救いになったのは、遺族同士のインターネットの
掲示板に書き込まれた、「あなたの目を通して、世の中のこと、
幸せなことを、弟さんに伝えてあげたら」という言葉。

自責の念や無力感に見舞われる遺族。
うつ的な症状を示す人もおり、後追い自殺を図るリスクも高まる。
同じ悲しみを持つ遺族同士の語らいなら、そうしたつらさが和らぐ。

県内で、遺族同士が悲しみを分かち合う場が持たれたのは5年前。
県精神保健福祉センターが、遺族に呼びかけた。

精神科医でセンターの黒沢美枝所長は、
「すべての遺族が救われるわけではない。
次の一歩、再出発のきっかけにはなる」と強調。
遺族の交流会は、今年度までに全保健所管内に広がっている。

苦しんでいる人のサインを察知するには、意識や技術が必要。
高い自殺率に悩む新潟市では今年度、職員延べ600人を対象に、
自殺リスクの判断やリスクを抱えた人との接し方を学ぶ研修を実施。

窓口サービスの担当者はもちろん、税の徴収や農家への技術指導など、
自治体の職員は住民と接する機会が多い。
知識や対応法を身につけることで、
住民の心の危機を見逃さないようにする試み。

「盛岡いのちの電話」の3台の電話には09年、
1万2000件の相談が寄せられた。
1000件以上に、「自殺」に傾きそうな雰囲気を感じた。

岩手医大の大塚耕太郎医師は、地域作りや救急医療など、
幅広い分野で自殺対策の研究を進めている。
大切なのは、「地域や医療、色んな分野で自殺予防の視点を持つ
人がいて、安心して暮らせる人同士のつながりがあることだ」

県は新年度、自殺防止対策の新たな中期計画を策定。
たとえ一人で暮らしていても、「一人ではない」と感じてもらえるような
社会作りが求められている。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/31/131810/

カレーや牛乳で水素増加 ユニーク研究、続々

(2011年1月31日 共同通信社)

カレーを食べると、水素が急増-。

生体ガスの長期調査を始めた国立循環器病研究センター
チームは、水素に着目し、ユニークな研究を欧米医学誌などに発表。
水素は、老化に関わる活性酸素を消失させる効果がある。
生体ガス中の水素は、腸内の細菌が食べ物を発酵させる際に増加。

チームは、男女8人に普通のカレーと、香辛料のターメリックが
入っていないカレーを食べてもらい、水素量を測定。
普通のカレーでは、30分後に水素量が約1・5倍に増えたが、
ターメリックがないものでは、こうした急増が起きなかった。
ターメリックで腸の運動が活発になり、細菌による発酵が促進された。

牛乳を飲むと、水素量が1時間後から徐々に増加。

水素添加水を飲んだ場合、15分で急増し、すぐに減少したのに比べ、
9時間たっても効果が続き、水素量は水素添加水の40~50倍に。

センターの下内章人室長は、
「生体ガスの存在は、以前から分かっていたが、
採取法や分析技術の問題があった。
長期調査を通じて有用性を示したい」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/31/131773/

2011年2月8日火曜日

荒れない学校(1)教員7割入れ替え再生

(読売 1月26日)

「おはようございます」、「こんにちは」。
福岡県内のある中学校では、あいさつの言葉が頻繁に飛び交う。
校舎の窓や廊下は、ぴかぴかに磨き上げられ、
生徒の髪や服装に乱れはない。

朝7時から、有志で校舎周りを掃除しているという3年男子は、
「みんなでやるから楽しい。
だらだらしたら先生に失礼だから、きちんとしたい」
「以前は、どんより重苦しい雰囲気だった」と、教諭の一人は振り返る。

授業中、生徒が勝手に歩き回る。
給食の時間に、ほかの生徒から奪ったパンや牛乳が宙を飛ぶ。
教室や廊下はゴミだらけ。
非常ベルが鳴り、爆竹が鳴り、窓ガラスが割れる。
暴力、いじめも起きた。
教師が、次々に倒れて休職した。

荒れるきっかけは、一部の保護者のクレームに対し、
学校全体が弱腰になったこと。
ほかの生徒や保護者への対応も後手後手になり、
立て直しを図ったが、止まらなかった。

2007年春、荒れの加速を重大視した教育委員会が、
校長と教員の約7割を異動で入れ替えた。

新しく来た校長は、教職員を前に、情報の共有とチームでの対応を宣言。
「スカートの丈が短い」などと注意する時、生徒で差を付けないようにし、
バラバラだった指導を一本化。
「信頼を取り戻すため、教師全員が毅然とした態度を取ることから始めた」
悩みを分かち合うため、勤務時間外の食事会も頻繁に開いた。

生徒に対して、給食、あいさつ、掃除をきちんとできるように
することから着手。
掃除では、教師らが朝6時半に登校、模範を示した。

2年目から、歯車が回転し出した。
生活指導だけでなく、学習指導も軌道に乗った。

ある教諭は、「悪い子は、エネルギーの持って行き場がないから、
学校をはけ口にする。
『おまえたちが学校を変えていくんだぞ』と言い続けていたら、
子どもたちもツボにはまってきた

3年目の体育祭。
ある保護者は、整然と行動する子どもたちを見て、涙を流した。
「前は荒れに荒れた学校だった。感激しました」

今では、保護者や地域からの信頼を取り戻しつつある。
学力も、地域で上位になった。
この状態をどう定着させるか?
教師たちの努力は続く。

文部科学省の問題行動調査によると、09年度の暴力行為は、
中学校4万3715件、小学校7115件で、いずれも過去最多。
昨年10月、桐生市で自殺した小学6年女子児童が通っていた学校では、
学級崩壊が起きていた。
成長の過程で、大半の子どもが経験する心の揺れを、
「荒れ」に変えないためにはどうすればいいのか?

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20110126-OYT8T00160.htm

(岩手)【一人じゃながんすべ・中】心も治療 社会復帰へ

(2011年1月29日 読売新聞)

岩手医大の高度救命救急センターには、
年間に自殺未遂者が約250人運ばれてくる。
「再び自殺に向かわせない」と、精神科医やソーシャルワーカーが
連携し、精神的、社会的な支援を続けている。

「何か困ったことがあったの?」
センターに勤務する精神科医の三條克巳医師は、
薬を大量に飲んで自殺を図った患者に尋ねた。
口調は穏やかだが、自殺の話題は避けない。
単刀直入に、患者の心に迫る。
治療の初期段階で、「誠実で温かな対応を受けた」と感じてもらえば。
その後の治療の成否を左右するのは、人のぬくもりだ。

センターには、2人の精神科医が所属し、24時間態勢で患者に対応。
自殺未遂をした人は、体だけでなく、精神的にも「重傷」を負っている。
精神科医が常駐すれば、体と心の傷を同時並行で
治療を進められるため、2002年から取り組みが続けられている。

自殺未遂者は、社会的な「治療」も求められるケースも多い。
多重債務や家庭問題、生活苦など、
患者が抱える生活上の問題が絡み合っている。
三條医師は、「医療的な治療だけでは限界もある」

こうした社会的な問題の解決を支援するのが、
8人のソーシャルワーカーらが集まる、同病院の医療相談室。

普段は病院内で、外来や入院患者らの相談を受けているが、
救急の精神科医から要請があれば、治療現場に駆けつける。
医師に助言するだけでなく、直接患者自身に語りかけることも。
「大丈夫です。しっかりと相談に乗りますよ」

問題を1人で抱え込み、視野が狭まって自殺を図った患者に、
解決の糸口を示す。
ソーシャルワーカーの存在が、混乱した患者の心を落ち着かせる働きも。
センターに勤務する精神科医の工藤薫医師も、
「頼もしい存在」と信頼を寄せる。

治療に当たった精神科医と患者の情報を交換し、
多重債務問題であれば弁護士につなぎ、生活が困窮していれば
生活保護の申請を手伝う。
解決に近づくと、少しずつ患者や家族の表情も明るくなる。
「死ななくて良かった」
そう感謝の言葉を述べ、社会復帰する患者もいる。

救急治療から、自殺の引き金となった問題の解決、
そして患者が社会生活と復帰するまで、支援は続く。

三條医師や工藤医師、ソーシャルワーカーの青木慎也さんは、
「患者が戻る地域での支援も重要」と強調。
患者が、再び孤立すれば、再発の恐れが強まる。
自殺未遂をしなければ、救いのない社会であってはならないという思いも。
自殺と向き合う医師やソーシャルワーカーだからこそ、
自殺のない社会を切望している。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/31/131806/

血管の老化メカニズム解明 動脈硬化の治療に道

(2011年1月31日 共同通信社)

老化を制御するホルモンが欠乏すると、
血管の壁にカルシウムが流入して動脈硬化を引き起こすメカニズムを、
京都府立医大の松原弘明教授らのチームが突き止めた。
高齢者や糖尿病患者などの動脈硬化の治療法につながる可能性がある。

チームは、腎臓などから分泌されるホルモン「クロトー」が欠乏すると、
動脈硬化や骨密度の低下など、老化に伴って起こる現象が
見られることに着目。

マウスでクロトーを働かないようにすると、
血管内皮細胞の結合が緩んで、血管の壁が脆弱になり、
ここからカルシウムが流入。
血管の石灰化を招き、動脈硬化を引き起こすことを突き止めた。

クロトーには、老化を予防する効果があるとされてきたが、
仕組みはよく分かっていなかった。

松原教授は、「クロトーの分泌を促す薬を開発できれば、
動脈硬化などの治療や老化予防に役立てられる可能性がある」
成果は、米科学アカデミー紀要電子版に発表。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/31/131797/

2011年2月7日月曜日

国語力を鍛える(11)考えさせる授業が必要

(読売 1月23日)

◆横浜国立大学教授 高木展郎さんに聞く

今回の連載では、国語力の育成に力を注ぐ実践を10例報告。
言語活動の充実をうたった新学習指導要領の全面実施が迫る中、
国語の授業はどうあるべきか?

文部科学省のコミュニケーション教育推進会議委員を務める、
高木展郎・横浜国立大学教授に話を聞いた。

――いま求められている国語力とは何か?

国語力とは、コミュニケーション力。
文章を読み取った上で根拠を示し、自分の体験を交えながら表現できる
PISA(国際学習到達度調査)型の読解力が求められている。
表現には、『考える力』が不可欠で、そのためには言語活動を通して、
言語能力を身につけないといけない」

――言語能力をつけるには、何が必要か?

「まずは小学校低学年から、『聴くこと』を徹底的に鍛えるべき。
あたたかな聴き方ができると、優しい話し方もできるようになり、
子どもたちの自己肯定感が高まる。
そうなれば、学校に子どもの居場所ができ、不登校もなくなっていくはず」

――国語の授業をどのように変えていけばいいか?

文章を読み、解釈するだけの授業から、
考えさせる授業に転換しなければならない。
そのためには、教師の意識改革が必要。
『わかる人?』と問うのではなく、本来は『わからない人?』と
聞かなければならない。
クラスの中にわからない子がいたら、
『どうしたら○○君がわかるようになるだろうか』と子どもたちに問いかけ、
考えさせる授業を行うのも一つの方法」

「ただ単に交流活動をするのではなく、
子どもが文章を読んで一人学びをし、自分の考えを持つことが重要。
その上で、隣の子に説明し、次にグループの話し合いに移行する。
最後は、教室の前に出て発表することで、自己相対化もできるようになる」

――学力観も変わらなければいけない。

「これまでの日本の教育は、知識を持っている子を優秀としてきたが、
これからの国際社会では、知識の暗記だけでは通用しない。
暗記だけならば、コンピューターでもでき、
『考える力』が求められている。
その土台となるのがコミュニケーション力で、授業の中で、
双方向の情報のやり取りができる仕掛けを、
たくさん作っていかなければならない

◆たかぎ・のぶお

専門は国語科教育学。
横浜国立大学教育人間科学部付属教育デザインセンター長。
文部科学省のコミュニケーション教育推進会議で、
教育ワーキンググループ主査を務める。60歳。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20110122-OYT8T00217.htm

生体ガスで病気診断を 国循、千人を10年調査 数千種類を分析

(2011年1月31日 共同通信社)

息や皮膚から発散される「生体ガス」で体調を調べ、
病気の診断もできるようにしようと、
国立循環器病研究センター(吹田市)のチームが、約千人を対象に
10年間、ガスと体の状態との関係を見る調査に乗り出した。

こうした規模の調査は、国内初。
センターの下内章人循環病態生理研究室長は、
「ガスの採取は、採血と違い体への負担がほとんどない。
疾患の判断ができれば、健康診断で広く使われるようになるだろう」

生体ガスに含まれる気体は、窒素や酸素のほか水素、一酸化窒素、
一酸化炭素、アセトンなど数千種類に上る。
ガスの種類や量は、生活習慣や疾患の有無が影響し、微妙に変わる。

チームは、健診に来た人に依頼し、ガスの採取を開始。
2年に1度採取し、成分の変化と病気、体調との関係を解析。

息は、樹脂製のバッグに吹き込んでもらい、
手から発生するガスは密閉した手袋でとる。
息と、手のひらから発生したガスを同時に採取し、
直接分析できる高感度装置も独自に開発。

生体ガスは近年注目され、国内外で研究が進行中。
エタノールは飲酒、アセトアルデヒドは食道がんや咽頭がん、
アセトンは糖尿病と関係することが分かってきた。

腸内細菌の発酵作用で発生する水素を測って、食べ物が消化される
時間を調べたり、禁煙外来では喫煙すると増える一酸化炭素量を
測定したりするのに利用。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/31/131772/

(岩手)【一人じゃながんすべ】上

(2011年1月28日 読売新聞)

「たぐきり」。
久慈地域で、「世間話」を意味する言葉。

県内で自殺率が高い同地域では、「たぐきり」に着目し、
自殺予防の取り組みを進める。

「夜中、どうしても足元が寒い」、
「足元だけ、横向きの毛布をかけてみたら。暖かさが違うよ」。
久慈市中心部の一角にある「サロン・たぐきり」では、
高齢者ら7人がソファでくつろぎ、窓からの陽光を浴びながら、
穏やかな「たぐきり」を続けていた。

サロンは5年前、保健師の関合征子さん(69)が中心となり、
「誰でも気軽に集まれる場所が必要だ」と開設。

月、木曜の週2回、年間に延べ約1500人が集まる。
かつての井戸端会議のような存在。
地域の人と人のつながりを再構築し、高齢者や悩みを抱える人が
孤立するのを防ごうという狙い。

市内で独り暮らしをする80歳代の女性は、
「ここで皆に元気をもらっているんだ」とほほ笑む。
7年ほど前に夫を亡くし、子どもは市外で暮らす。
話し相手はおらず、孤独な日が続いていた。

「当時は、不安なことばかり考えていた」と振り返る。
最近は、次のサロンが楽しみで、体の不調とも、
うまく付き合えるようになった。

運営には、精神科医も携わり、自分の思い出や気持ちを語り、
相手の話にも耳を傾けることで、自尊心を持てるように導くよう助言。
こうした活動は、自殺率が突出して高い地区で大きな成果を上げた。

久慈市、洋野町、野田村、普代村の4市町村が含まれる久慈地域は、
自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)が、
10年以上前から毎年のように40を超え、
県平均を20ポイントほど上回る状況が続いていた。

特に地域内の一部地区では、2005年までの10年間の自殺率の
平均が300を超えた。
調査に対し、住民の半数に自殺した親族や知人がいると答えている。

岩手医大と県立久慈病院の医師や久慈市の保健師が、
05年からこの地区に密着。
月1回のペースで、住民同士の語らいの場を公民館などに設け、
住民に参加を呼びかけた。
自殺の主な原因となる「うつ」の講習会なども開いた。

活動に参加していた保健師は、
「自殺は仕方がないと話す人や、働けなくなった自分の存在を
否定するような人が少なくなかった」と、かつて地域を覆っていた
暗い雰囲気を思い出す。

それだけに、住民の変化は新鮮だった。
「うちの人、病院で見てもらうようになった」。
そんな一言にも、保健師は意識の変化を感じた。
取り組みが始まってから、この地区の自殺者は1人もいない。

地域の自殺予防に携わる岩手医大精神科の大塚耕太郎医師は、
「医療資源が限られている地域では、
住民同士での支え合いが自殺予防につながる」

大塚医師は、こんな警鐘も鳴らす。
「少子高齢化で、地域のつながりは弱まる。
自殺が多発する事態は、どこでも起こり得る」

◇4728人

この10年間の県内の自殺者数だ。
小さな自治体の人口に匹敵する人が、自ら命を絶っている。
県の自殺予防の中期計画が最終年度を迎え、
県は新たな計画を模索。

自殺予防の最前線に立つ人々は、
「一人じゃながんすべ(一人ではないよ)」という言葉を胸に、
医療や地域の現場で奔走している。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/28/131713/

2011年2月6日日曜日

特集ワイド:伝来100年 今も楽しいスキー場

(毎日 1月31日)

今年は、日本にスキーが伝えられて100年。

若者がゲレンデにあふれた90年前後のスキーブームは
遠い昔となり、近年のスキー場は寂しい風景も。
だが、復活の兆しも見えてきた。
最近のスキー場は、どう進化しているのか?

野沢温泉村の野沢温泉スキー場。
土曜日の午前10時、ゴンドラで着いた標高1400mの
上ノ平ゲレンデは、氷点下6度。

緩やかな斜面なので、スタートする顔ぶれはさまざま。
カラフルなウエアのスノーボードの若者たち、壮年のスキーヤーたち、
後ろ向きで滑りながら、わが子に手ほどきする父親。

東京都福生市の女性看護師(33)は、
「同世代の仲間は、もうスキー場に来なくなりました」

日影ゲレンデで、村に住む野明初子さん(74)と会った。
58年、61年と全日本スキー選手権アルペンで3冠に輝き、
62年、仏シャモニーでの世界選手権に女子で初めて出場。

「4歳くらいからスキーを履いた。
車もほとんど走らなかったから、家の前の道路でも滑っていた。
選手時代、同じ板を3シーズン使い、全種目に出た。
板が体の一部みたいになりましたね」

五輪選手14人を輩出した村には、日本のスキー史が脈打つ。

日本のスキーは、1911(明治44)年、
オーストリア・ハンガリー帝国(当時)の軍人、レルヒ少佐
新潟県上越市で日本人に教えたのが最初、
同村にスキーが伝わったのは、翌12(明治45)年。

大正時代にスキー場が開設、50年、木造のリフトが完成。
時代と共にリフト数は20を超え、若者でにぎわった。

91年度、利用者110万人に達した後は下り坂、
06年度、30万人にまで落ち込んだ。

全国の傾向も同様。
レジャー白書(日本生産性本部)によると、スキーの参加人口は、
93年の1860万人がピーク、07年、560万人にまで落ち込んだ。
背景に、不景気などを挙げる関係者は多いが、
新潟県観光振興課は、「金がかかるというイメージがある。
リフト代など、料金に見合うサービスを怠った部分もある」

スキー専門誌「ブルーガイドスキー」の阿部雅彦編集長は、
「まずいラーメンを出しても人が来て、てんぐになっていた時代も。
今は、どうしたらお客が来るか真剣に考え、進化したスキー場もある」
09年、スキー人口は720万人、回復基調に。

野沢温泉スキー場も、復活を模索。
05年、経営効率化のため、村営から民営に転換。
取り組みの一つが、家族向けのサービスで、雪遊びのできる
キッズパークやそりのコースを開設。
一昨季、託児所と離れたゲレンデの間の送迎サービスも始め、
今季、ブーツを脱いで休める親子専用の休憩所も設置。

「育った子供も、しっかりもてなしたい」(運営会社の河野博明社長)、
中学生のリフト代を子供料金に。

妻(29)と2歳の長男と来た男性(30)は、
「子育てなどがあったため、5年ぶりのスキー。
野沢はゲレンデがよく、キッズパークもあるため選んだ」

家族向けサービスに、力を入れる施設は多い。
若い頃、スキーを楽しんだ層に子連れで戻ってきてもらい、
子供にもスキー好きになってもらうため。

福島県磐梯町のアルツ磐梯は、会員になれば、
大人1人と小学生1人分の1日リフト券が5500円、
別々に買うより2900円得。
巨大遊園地(小学生以上有料)やスキーで巡るフィールドアスレチックを設け、
託児所、家族専用レストランなどを集中させた「ファミリーフロア」もある。

阿部編集長は、「道具も進化し、スキーは楽しくなっている」
十数年前に登場したのが、カービングスキーと呼ばれる
短くて、前後の幅が広い板。
初心者でも簡単に曲がれるのが特長。

格安ツアーも多く、関東から北海道のスキー場への2泊3日のツアーでは、
飛行機代、ホテル宿泊、リフト券込みで2万円台から販売。
信越方面への関東発日帰りバスツアーなら、
リフト券付きで数千円からある。

◇心も体も鍛えて--13回目を数える冠大会もある俳優・神田正輝さん

スキー場が快適になっても、滑りに胸が躍らなければ意味がない。
野沢温泉で会ったベテランスキーヤー(60)は、
スキー離れを、「寒くて風邪を引く。
家でゲームの方がいいということなのか」と嘆いた。
スキー上手で知られる俳優の神田正輝さん(60)に、魅力のありかを聞いた。

「決まったコースを滑れるわけでない。
風が吹き、雪も降っている。
スキーは、一秒たりとも同じ状況がない。
全身の神経を、敏感に使わないといけないところがいい

初めて滑ったのは、小学6年生。
中学生の頃、土曜の夜行列車でスキー場に通った。
大学ではスキー漬け。

米国メーカーの新製品を試すテスターの仕事もした。
卒業後、俳優になり、休みが取れずに中断した時期もあったが、
娘が幼い頃、せがまれてゲレンデに。
「ここ十数年は、ずっと続けている」

一番よく滑った志賀高原では、ホテルなどが実行委員会をつくり、
毎年「神田正輝カップ」と名付けたスキー大会を開き、今年で13回目。
「晴れた日の遠くの雪山を見るのが好き。
志賀高原なら、黒姫山が見えて絵のよう。
こんなに雪が降る国に住んでいるんだから、スキーで体も心も鍛えてほしい」

日本のスキー場の良さは、今や外国人が注目。
野沢温泉の外国人の宿泊客は、09年は約6500泊と、05年の4倍近く。
多くをオーストラリア人が占める。
地元は長野、新潟両県などでつくる誘致委員会に参加し、
豪州でのPR活動にも参加。

ゲレンデで、家族4人で休暇を楽しむダイモン・バードさん(43)は、
「とてもいい雪質だ」と満足そう。

午後のゲレンデ。
野明さんは、「けがをすると大変だから、今はなかなかできない。
天気が良ければ、滑りたいなと思う。
風を受けて、思う通りに滑るのは楽しい」

今シーズンの初滑りをせがむとカービングスキーで、
軽やかに下りてきて、「気持ちよかった」と笑った。

スキーはいいな。
板さえ履けば、風になれる。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2011/01/31/20110131dde012040014000c.html

国語力を鍛える(10)読んだ感想 自由に発言

(読売 1月21日)

茅ヶ崎市立円蔵小学校5年3組。

子どもたちの手元には、詩「おおぞらのこころ」を読んで、
各自が書いた感想文がある。
ボランティアの講師で、元小学校長の青木照明さん(82)が、
「対話を始めてください」と言うと、子どもたちは詩の情景や
自分の気持ちを語り始めた。

「自由に飛んでみたい気持ちになる」、
「大空の神様のもとに行く様子だと思う」。
指名なしに思い思いの発言を続ける子どもたち。
青木さんは、ほほ笑みながらじっと耳を傾け、内容を板書するだけ。

青木さんは8年前から、文学作品の世界に入り込んで理解を深める
独自の指導法で、国語を教えている。
読み取ったイメージや直感を語らせる。
想定した答えや主題と違う発言でも、否定しない。
この手法を「融合読み」と名付け、「イメージを全員で共有でき、
新たな発想や議論も生む。
教師は正解を言いたくなるが、ぐっと我慢です」

このクラスでは昨年11月以降、青木さんが計17時間授業を担当。
担任の船木章吾教諭(27)は、「年が明けた頃から、
班で朝のスピーチのテーマを決める際、誰もが考えを自由に
発言できるようになり、決まるまでの時間も半減した。
全員参加型の学級運営にもつながっている」

かつては、一つの正解を求める発問と数人だけを指名する
授業をしてきた。
定年間近に、文学作品は読み手が作るという考え方に出会い、
教師の介入なしに、子どもが理解を深める方法の模索を開始。

退職後、依頼を受けて始めたボランティアの授業で、
子どもたちに自由に話し合わせたところ、予想以上の効果があった。

青木さんが口を挟んだのは、一度きり。
詩の中の「白鳥」は、ハクチョウか否かで議論が行き詰まった時。
「音読する時、『しらとり(白い鳥)』と読んでもいいと言ったよね」と
にっこりすると、子どもたちは「あっ」とひらめいた表情に。
「ハクチョウでもサギでもいい。
作者は、読んだ人に決めてほしいと考えている」という発言に、皆が納得。

「先生は、最後まで話を聞いてくれるから、
みんなが発表できる」と菊地航平君(11)。

明治学院大学の下田好行教授は、
「子どもの素直な思いを肯定して、信頼を得ている。
ひらめきや心の声を大切にして、読む力を育む優れた指導方法だ」と評価。

教壇に立って、60年以上。
たどり着いた答えは、子どもの心を肯定するという原点だった。

◆青木さんが推奨する「融合読み」の大まかな流れ

〈1〉全員の感想を読み、読み深めたい部分に赤線を引く
〈2〉赤線の部分から課題を絞る
〈3〉課題に対する自分の考えをまとめ、発表する
〈4〉友だちの発表を聞き、新たな共感やひらめきに気付く
〈5〉意見の全体を確認してまとめ、趣旨をとらえる
〈6〉まとめの感想を書いて話し合い、文意の多様さに気付く

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20110121-OYT8T00118.htm

ソーラー電力セイル実証機『IKAROS』任務完了

(サイエンスポータル 2011年1月27日)

太陽光の圧力で進むソーラー電力セイル実証機「IKAROS」は、
打ち上げ後、約半年間に予定されたすべての目的を達成した、
と宇宙航空研究開発機構が発表。

「IKAROS」は、昨年5月21日に金星探査機「あかつき」と一緒に
種子島宇宙センターからH-ⅡAロケットにより打ち上げられ、
同年12月8日に金星に再接近した。

ソーラーセイルという世界で初めての航行技術を実証し、
同時に将来の「ソーラー電力セイル」というハイブリッド推進に備えた
薄膜太陽電池での発電を確認する任務を負っていた。

宇宙航空研究開発機構によると、太陽光を受ける差し渡し20mの
大型膜面(セイル)の展開、セイル上の薄膜太陽電池システムによる発電、
ソーラーセイルによる加速、軌道制御などの作業を予定通りこなし、
予測通りの性能が確認できた。

「IKAROS」は、2012年3月末ごろまで、後継機の開発に役立つ
技術の実証と観測を続ける。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/1101/1101272.html