2011年2月9日水曜日

(岩手)【一人じゃながんすべ・下】遺族を救う交流会

(2011年1月30日 読売新聞)

1人が自殺したとき、家族や友人、知人など、
少なくとも5人以上が大きな影響を受ける。

10年間で、5000人近くが自殺している県内では、
延べ数万人が近しい人の自殺を経験している。

「何かしてあげていれば、状況が変わったかもしれない」
9年前、弟を亡くした県北の40歳代の男性は、今でもその思いが消えない。

離れて暮らす弟の死は、両親から知らされた。
実感はすぐにわかなかった。
葬式の日、式場の看板に記された弟の名前を見て、
初めて自分の中の何かが崩れていく衝撃に襲われた。

亡くなる数か月前、弟から「少しそっちに行っていいかな」と
お願いをされたが、自身の生活に余裕がなく、遠回しに断った。
何が自殺の原因だったかは、はっきりしない。
それでも、「もしもあの時……」という思いは消えない。

そんな男性の救いになったのは、遺族同士のインターネットの
掲示板に書き込まれた、「あなたの目を通して、世の中のこと、
幸せなことを、弟さんに伝えてあげたら」という言葉。

自責の念や無力感に見舞われる遺族。
うつ的な症状を示す人もおり、後追い自殺を図るリスクも高まる。
同じ悲しみを持つ遺族同士の語らいなら、そうしたつらさが和らぐ。

県内で、遺族同士が悲しみを分かち合う場が持たれたのは5年前。
県精神保健福祉センターが、遺族に呼びかけた。

精神科医でセンターの黒沢美枝所長は、
「すべての遺族が救われるわけではない。
次の一歩、再出発のきっかけにはなる」と強調。
遺族の交流会は、今年度までに全保健所管内に広がっている。

苦しんでいる人のサインを察知するには、意識や技術が必要。
高い自殺率に悩む新潟市では今年度、職員延べ600人を対象に、
自殺リスクの判断やリスクを抱えた人との接し方を学ぶ研修を実施。

窓口サービスの担当者はもちろん、税の徴収や農家への技術指導など、
自治体の職員は住民と接する機会が多い。
知識や対応法を身につけることで、
住民の心の危機を見逃さないようにする試み。

「盛岡いのちの電話」の3台の電話には09年、
1万2000件の相談が寄せられた。
1000件以上に、「自殺」に傾きそうな雰囲気を感じた。

岩手医大の大塚耕太郎医師は、地域作りや救急医療など、
幅広い分野で自殺対策の研究を進めている。
大切なのは、「地域や医療、色んな分野で自殺予防の視点を持つ
人がいて、安心して暮らせる人同士のつながりがあることだ」

県は新年度、自殺防止対策の新たな中期計画を策定。
たとえ一人で暮らしていても、「一人ではない」と感じてもらえるような
社会作りが求められている。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/1/31/131810/

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