2007年12月29日土曜日

<漢字林>稽 書経に始まる『稽古』 阿辻 哲次

(東京新聞 2007年12月26日)

一昔前のお稽古ごとといえば、書道やお茶・お花、ピアノ、料理などが
中心だったが、最近はずいぶんバラエティーにとんでいて、
知り合いの女性の中にはフラダンスやヨガ、
セクシーなベリーダンスにはまっている初老の女性も。
お稽古ごとも、時代とともに大きくさまがわりしつつある。

「稽古」ということばは、成立が非常に古く、
出典は儒学の経典、「四書五経」の一つに数えられる『書経』にある。
『書経』とは、古代中国のすぐれた帝王たちが重要な機会ごとに
発言したことばや行動を記録した書物で、
そこには聖人の教えが数多く記録されているとされるが、
この書物の出だしに、「曰若(えつじゃく)稽古」という四文字があって、
伝統的な解釈では、
「曰(ここ)に若(したが)いて古(いにし)えを稽(かんが)えるに」と訓読。
おそらく昔の物語を語る時の出だしの文句、
「今はむかし」に当たる表現だと考えられるが、
これがほかでもなく現在の日本語で使われる「稽古」の出典。
「稽」には、「考える」という意味があり、
だから「稽古」とは、古代の書物を読んで、
そこから聖人の教えなどを学びとることを意味することば。

しかし現実には、人はなにかの利益が手に入らなければ
なかなか「稽古」をしない。
現代の日本だけでなく、昔の中国でも同様。
神聖な教えを学ぶ儒学の世界でも、学問に向かう動機として
現実的な利益の追求があるのは珍しくなかった。
後漢の儒学者であった桓栄は、
皇太子の家庭教師に任命時、自分の学生たちを呼び集め、
皇帝から頂戴したたくさんの車や馬などを並べて、
「わしが陛下からいただいたさまざまなものは、
すべて『稽古』のおかげ。
だからお前たちもしっかり勉強するように」と訓示。
「稽古」とご褒美は、昔から不即不離の関係に。
お稽古ごととして学ぶ勉強も、それが長続きするかどうかは、
ひとえにゲットできるご褒美の大きさしだいなのかもしれない。

アレルギー反応を制御する重要分子「STIM1」を発見

(理化学研究所 12月3日)

鼻がむずむずして、くしゃみが止まらない。
体中がかゆくて、ついつい引っかいてしまう。
花粉症やアレルギー喘息、食物アレルギーなどと、
日本人の約3割もの人々が、この症状に悩まされ、
アレルギーはいまや国民的病気に

アレルギーには、のど、鼻、腸管等の粘液表面にいる肥満細胞が関与。
アレルギーを引き起こす原因物質の抗原が最初に体内に入り込むと、
この抗原に特異的に反応する抗体IgEが作られ、
肥満細胞のIgE受容体と結合した状態になります(感作)。
そして、再び抗原が侵入すると肥満細胞表面のIgEは抗原と結合し、
肥満細胞を活性化させて化学物質を大量に含んだ顆粒を放出したり、
炎症性サイトカインを生み出したりします。

これらの化学物質が、発疹、かゆみなどのアレルギー反応を引き起こします。
肥満細胞からの顆粒放出には、細胞質内のカルシウム濃度が関係すると
されていましたが、そのメカニスムは不明。

理研免疫・アレルギー科学総合研究センター分化制御研究グループは、
この顆粒放出には、細胞外から細胞質内にカルシウムを流入させる
働きをもつタンパク質「STIM1」が必須であることを明らかに。

実際、STIM1の発現を低下させたマウスでは、アレルギー反応が抑制。
STIM1が関与する新たなアレルギー発症の分子メカニズムが
発見されたことで、STIM1をターゲットとするこれまでにない
治療法が開発できると期待。

http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2007/071203/

最前線:購入者の反応楽しみ--セガ・宮崎浩幸執行役員

(毎日 12月3日)

家庭用ゲーム機市場に人気ソフトを提供し続けているセガ
ゲーム機の特性を引き出す開発力は、業界で高く評価。
毎日新聞などと新作ソフトを製作したセガの宮崎浩幸執行役員に、
市場の最新事情や戦略を聞いた。

--家庭用ゲーム機市場の現状は。

◆任天堂の「Wii(ウィー)」など据え置き型ゲーム機に、
かつてのソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の
「プレイステーション(PS)2」のような勢いがない。
一方、携帯型ゲーム機は任天堂の「ニンテンドーDS」が、
異例の早さで国内販売台数2000万台を突破。
DSは開発費が安いため、ソフト開発メーカーが参入しやすい。
結果的に手軽に遊べるソフトが多数そろい、ゲーム初心者を引き寄せた。
ソフト開発メーカーの主戦場は、既にDSに移った。

--任天堂をパートナーとして初めての共同製作を行いましたね。

◆任天堂の「マリオ」とセガの「ソニック」という両社を代表するキャラクターが
競演するスポーツゲーム「マリオ&ソニック AT 北京オリンピック」を発売。
WiiとDSの2機種に対応し、国内外から予想以上の反響がある。
面白い研究をしている研究機関やブランド力のある企業と組む機会は増えていく。

--毎日新聞と共同製作したDS用ソフト「毎日新聞 1000大ニュース」も
11月29日に発売されました。

◆毎日新聞の創刊から今年までの135年間に掲載されたニュースをクイズにした。
政治や事件、スポーツなどあらゆる分野の知識を問われる。
過去をさかのぼっていく「タイムスリップモード」や、
間違いを探す「添削クイズ」など、初心者が楽しめる仕掛けが満載。
9月に第1回試験が行われた「ニュース時事能力検定」に対応し、
模擬試験として使うこともできる。

--ゲームソフトはこれからどう変わっていくのでしょう。

◆かつて、一番面白いのは家庭用ゲーム機という時代があった。
その後、携帯電話やパソコンなどが登場し、状況は大きく変わった。
今は、ゲームが携帯電話などと時間を奪い合っている。
クリアまでに数十時間かかる大作より、
ちょっとした空き時間に遊べるソフトが人気を集めている。
この流れは加速していくだろう。

--ゲームソフト作りの魅力は何ですか。

◆購入者の反応を予想しながら作るのが楽しい。
ただ、過去に売れたソフトが今後も売れるとは限らない。
毎回ゼロからのスタートになるから大変だ。
だが、成功体験が続かないからこそ、
売上本数など結果が出た時はうれしい。
==============
■人物略歴

東大文学部卒。93年にセガ・エンタープライゼス(現セガ)入社。
海外営業部長、マーケティング統括局長などを経て、
05年から現職。福岡県出身。45歳。

http://mainichi.jp/select/biz/news/20071203ddm008020135000c.html

新しい波/255 スポーツ立国/中 政界と急速に接近

(毎日 12月22日)

「五輪のときだけ『勝て勝て』と言われても、ふだんは満足に補助をしてもらえない。
スポーツ振興は国策でやってほしい」。
日本オリンピック委員会(JOC)選手強化本部の福田富昭本部長は、
現場の立場でスポーツの国策化を声高に訴えてきた一人。
今年度、文部科学省のスポーツ関係予算は186億1100万円
文化庁の1016億5500万円(今年度)と比べて、著しく少ない。
福田本部長は、「スポーツは国民の生活に浸透しているのに、この差は何か」。

来年1月末には、東京都北区に初の国営施設となる
ナショナルトレーニングセンターが開設
だが、施設利用料ばかりか、海外遠征など選手強化費も
3分の1を競技団体が負担。
財政基盤の弱い競技団体では、負担に耐えられず、
海外遠征などを返上する例も。
欧米などのスポーツ先進国では、国が全額負担するのが常識。
日本では、北京五輪を目前に控えても強化の現場は危うい。

戦後、日本のスポーツ強化は長く企業に支えられてきた。
しかし、90年代後半以降撤退が相次ぎ、次に切り札として期待されたのが
01年から販売が開始されたスポーツ振興くじ(toto)。
今年度はBIG(ビッグ)効果で、初年度の643億円に次ぐ
486億円(8日現在)に売り上げを伸ばしたが、
昨年度末時点で264億円ある累積赤字が重くのしかかる。
当面は、借金返済に傾斜せざるをえない。
そこで「国にお願いしたい」(福田本部長)との結論に。

福田本部長は、昨年春に国策論をうたったリポートを作成。
その理論を補強したのが、
16年東京オリンピック招致委の河野一郎事務総長(JOC理事)、
JOC情報・医科学専門委員会の勝田隆副委員長ら。
顔ぶれは、自民党の遠藤利明衆院議員の私的懇談会のメンバーと重なる。
その懇談会が8月にまとめた「スポーツ立国ニッポン」は、
自民党スポーツ立国調査会(麻生太郎会長)の議論のたたき台に。
スポーツ界は急速に政治と結びつき、
悲願の強化資金確保に向け歩みを進めている。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/news/20071222ddm035050088000c.html

2007年12月28日金曜日

<漢字林>孟 三遷の故事で知られ 阿辻 哲次

(東京新聞 2007年12月19日)

いまではほとんど使われないことばになったが、
正月のことをまた「孟春」ともいう。
この場合の「」は、「はじめ」という意味であり、
二月を「仲春」、三月を「季春」という(「季」は「すえ」の意)。
「孟春」とか「孟夏」に使われる「孟」という漢字を見て、
まず思いつくのは儒学の聖人とされる孟子。

書物としての『孟子』を読んだことがない人でも、
「孟母三遷」の故事は耳にしたことはあるだろう。

知人が引っ越しをして、住所の案内をくれた。
新居は某有名大学の近くなので、子供が勉強するのにいい環境であると
家内がよろこんでいる、と書かれているのを見て、
「孟母三遷」の現代版かと苦笑。
「教育ママ」ということばが使われるようになったのは、
いったいいつごろからなのだろう。
少なくとも私が高校生だった昭和四十年代前半には、
まだそんなことばはなかったような気がする
(私が知らないだけかもしれないが)。
教育ママの元祖は、孟子のお母さん。
孟子の一家は、はじめ墓地のそばに住んでいた。
墓地では頻繁に葬式がおこなわれるので、
孟子少年は葬式のまねばかりして遊んでいた。
それを困ったことだと考えた孟子のお母さんは、
次に市場のそばに引っ越した。
すると、孟子は商人のまねをして遊びはじめた。
商人のまねをしていったいどこが悪いのかと思うが、
孟子のお母さんにとっては、それはやはり困ったことだったらしい。
今度は学校のそばに転居した。

すると、孟子は「学校ごっこ」をしはじめたので、
孟子の母はたいへん喜んだという。
当時の学校では、国語や算数のような教科を教えていたわけではなく、
実際にはさまざまな儀式のやりかたを教えるところだったので、
孟子はお祭りに使う道具(らしきもの)を並べ、
見よう見まねでお祭りや宴会の時の作法をまねて遊んでいた。
孟子の母はそれで満足したようだが、
現代の教育ママはそんな状況に満足せず、
きっとまた別のところに引っ越しを考えたにちがいない。

新しい波/254 スポーツ立国/上 振興策「欧米並みに」

(毎日 12月15日)

政治が、スポーツ振興に踏み込んできた。
10月30日に、自民党のスポーツ立国調査会が発足
会長に就任した麻生太郎・前幹事長は、
「スポーツは、健全な人間の育成と国民に感動を与えるもので、
もはや関係者に任せておく時代ではない」と
国の責任でスポーツ振興に取り組む姿勢を明確にした。

調査会は、党政務調査会内にあり、国の政策にも大きな影響力を持つ。
ここにスポーツ振興が掲げられたのは、党内でも初めて。
スポーツ界出身議員だけでなく、最高顧問に日本体育協会会長でもある
森喜朗・元首相ら有力者が顔をそろえた。

導火線となったのは、前副文部科学相の遠藤利明衆院議員(自民)の
私的懇談会が8月に発表した、「『スポーツ立国』ニッポン」と題した報告書。
ラグビー選手だった遠藤氏は、昨年のトリノ五輪の厳しい結果を受け、
欧米並みに国を挙げてスポーツ振興に取り組む必要性を痛感。

06年末に東京オリンピック招致委の河野一郎事務総長
日本オリンピック委員会(JOC)情報・医科学専門委員会の勝田隆副委員長
選手強化の現場にいる人々を中心に懇談会を設置。

オーストラリアの現地視察などを経て作成された報告書では、
国が責任を持って取り組む課題として、
(1)スポーツ庁の設置など組織整備
(2)スポーツ振興法(1961年制定)の見直し
(3)財政基盤の確立
(4)国際競技力の向上のためのプログラム--など。

遠藤氏が報告書を手に理解を求めると、森氏、麻生氏が快諾し、
石原伸晃政調会長(当時)も調査会への格上げを了承。

事務局長に就任した遠藤氏は、
「予想以上に関心が高かった。マグマが噴出して一気に広がっていった感じ」。
スポーツ振興は、政治的な対立が生まれにくい。
前向きなイメージも好感された。

調査会は、報告書をたたき台に月2回のペースで、
スポーツ関係者からヒアリング。
09年度のスポーツ庁設置という明快な目標に向け、
来年6月に中間報告をまとめる。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/news/20071215ddm035050086000c.html

21世紀COEプログラム:文科省「目的達成」 初年度事後評価、最低ランクなし

(毎日 11月29日)

世界的な研究・教育拠点の形成を目指した文部科学省の
21世紀COE(卓越した研究拠点)プログラム」で、
初年度(02年度)に採択された国公私立大50校113件について
初の事後評価結果を公表。

評価は4段階で、最低ランクの「目的は十分には達成されなかった」と
判断された拠点はなく、文科省は「COEの目的はおおむね達成された」。
評価は、同プログラム委員会
(委員長=江崎玲於奈・茨城県科学技術振興財団理事長)が実施。
計画全体の目的達成度のほか、論文数や学会での発表数などで審査。

第3ランクの「目的はある程度達成された」と評価された拠点は14件(12・4%)、
大半は「十分達成され、期待以上の成果があった」、
「おおむね達成され、期待どおりの成果があった」と評価。

04年に公表された中間評価で、計画の大幅縮小を求められた
九州大と法政大の拠点も最低ランクの評価は免れた。

5分類の分野別では、人文科学の5件(25・0%)が3番目の評価となり、
自然科学系などの0~14・2%よりも厳しい評価に。
初年度の113件には、5年間で総額714億6200万円が投入。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2007/11/29/20071129ddm012040068000c.html

特集:超高齢社会を生きる/シリーズ1 地域で認知症患者を支える

(毎日 12月2日)

世界一の長寿国であるわが国は、高齢者(65歳以上)が総人口の
21%以上を占める超高齢社会を迎えている。
現在、年間死亡者は100万人を超え、85歳になれば4人に1人、
120歳まで生きれば全員が罹患するといわれる認知症患者は160万人に。
2025年には、死亡者は160万人、認知症患者は300万人に。

介護保険制度はスタートしたが、こと認知症に関しては、
さらなる支援システムの構築が求められている。

新田國夫さんは1990年、国立市に「地域に根ざした医療」を
実践したいと開業。大学病院時代に消化器がんを専門、
末期がん患者の在宅医療を目指した。
しかし、認知症高齢者の家族からの往診依頼が多く、
認知症患者の在宅医療を行わなければならなかった。

住民の高齢化が、この傾向に拍車をかけた。
国立市の場合、要介護度2の認知症患者の84%、5でも50%が在宅、
どうしても家に引きこもりがちに。

新田さんは、積極的に外出する場を提供することが重要と、
宅老所やデイケア施設を開設したところ、たちまち交流の場となり、
利用者の療養意欲を高めることができた。
「寝たきりだった人の表情が、日に日に豊かになり、動作も活発になる。
認知症による行動障害も見られなくなった」。

現在では、新田さんは自ら“高齢者を診る総合診療医”と名乗り、
認知症を中心に在宅で過ごしている約50人の要介護者、要療養者の治療、
通院可能な認知症患者の電話での対応などに24時間体制。
「高齢者医療は、生活の中で診ることが大切。
在宅医療の成否は、基本的に生活を支える介護力にかかっている」。

この10年、認知症ケアの進展には目を見張る。
自然や地域とのふれあいが大切にされるようになった。
自分らしく暮らし続けることを支援するグループホームは、
介護保険のスタート時、全国で300に満たないが、現在は6000超。
新田クリニックが例にあげられるが、診療所を核に通所施設などが用意され、
患者、家族が交流する機会も増えている。
それを支えるための街づくりが、各地で進められつつある。

東京都は7月、認知症対策推進会議を発足。
東京都は、住民の流動化が激しく、高齢者の独居、
夫婦のみ世帯も急増し共助・自助の低下が著しい。
しかし、退職する団塊の世代を含めて人的資源には恵まれている。
地域社会に根ざしたNPOも多数ある。
商店街、交通機関、金融機関など日常生活を支える社会資源も身近に存在。

モデル地区として練馬区と多摩市を選定、
認知症になっても安心して暮らせる街のあり方を探る。
介護サービス事業者の地域支援へのかかわり方を探るモデル事業をスタート。

村田由佳・都高齢社会対策部在宅支援課長は、
「認知症を隠さなくてもすむ社会を目標に、地域の中で、
患者と家族を面で支えていく方法を考えたい」。

認知症・身体症状の双方の症状に応じ、
初期(軽度)の混乱期から終末期(みとり)まで、
QOL(生活の質)を維持する医療のあり方を検討。

新田さんは、「意思表示ができない認知症患者の身体の異常を
正しく診断することが、何よりも大切」。
例えば身体症状が、脱水症状や感染症によって引き起こされていることを
見落としてしまうと、回復の機会を逸するばかりか、
そのまま終末期に入ってしまう危険がある。

上川病院理事長の吉岡充さんは、
「高齢者のみとりには安らぎが求められるので、ユニット型医療施設が不可欠」。
ユニット型医療施設は個室が原則で、プライベート空間が確保。
看病に来た家族も泊まることができる。
医療スタッフも十分に配置され、10人程度の少人数単位の患者をケアし、
患者とスタッフの親密な交流も維持。
「終末期にはベッドからおりようとしたり、衣服を脱いで裸になるなどの
行動障害に対する適切な治療とケアが求められる。
食事・排せつのケア、清潔さを保ち抑制しないケアも必要。
両方に対応でき、最期まで患者のQOLの維持ができるのがユニット型医療施設」。

認知症300万人時代に備え、介護力を高めるための第一歩が踏み出され、
認知症の医療も新しい時代を迎えようとしている。
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◇「介護家族へも支援を」

アルツハイマー病と診断されてから8年、鈴木孝子さん(仮名)は娘と孫娘が介護。
過去には療養型の病院、介護老人保健施設を利用したこともあったが、
環境の変化からか暴れ、ベッドや車椅子に拘束されてしまい、
結局、娘宅に落ち着いた。

娘宅には、毎日午前、ヘルパーが訪れる。
週1回訪問診療を受け、週2回入浴サービスとデイケアを利用。
しかし介護度が5のため、孫娘は仕事をやめた。
鈴木家では、長期介護の経験から、家族介護に対する経済的支援や、
光熱費などを介護保険でカバーしてほしいと考えるようになった。
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◇人間性は、変わらない--記録映画『終りよければすべてよし』演出、記録映画作家・羽田澄子さん

『終りよければすべてよし』には、「人間らしく生きたい」という願いが集約。
オーストラリア、スウェーデンのケアと対比し、
今の日本に欠けているものが何かを教えてくれる。

演出の羽田澄子さんは、1986年作品の『痴呆性老人の世界』以来、
「高齢者が安心して暮らせる社会」をテーマに。
「認知症になって、たとえ知能が破壊されても、情緒は破壊されない。
だから、人間性は変わらない」。

ワンカットに含まれるメッセージ量は膨大で、
文章では表現できないことを伝えてくれる。

岐阜県にあるサンビレッジ国際医療福祉専門学校では、
羽田さんの『安心して老いるために』を教材に、介護のあり方を教えている。
「死は敗北ではないこと、人は死ぬということを理解して、
初めて人を救うことができる」。
羽田さんは、医学部の学生に、特に作品を見てほしい。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2007/12/02/20071202ddm010100064000c.html

医学博士号謝礼 国公立大、65%は調査・注意せず

(毎日新聞 2007年12月25日)

名古屋市立大大学院元教授の汚職事件を機に、
医学博士の学位申請者からの審査担当教授らへの謝礼が問題。
医学系大学院を持つ全国の国公立大学法人にアンケートを実施、
65%にあたる30校が、謝礼について実態調査も注意喚起も
行ったことがないと回答。

各大学OBの複数の医師は、謝礼の慣習を認めており、
大学院側の問題意識の低さが浮かんだ。

調査は、全50校の医学系研究科長らに
謝礼の慣習の有無、実態調査や注意喚起の有無などを択一式で尋ね、
46校から回答を得た。

謝礼の慣習について、「ない」と答えたのは39校。
和歌山県立医大だけが「ある、または聞いたことがある」を選んだが、
開始時期や内容は「分からない」。
九州大は「お菓子程度の謝礼はある」、
名市大は「謝礼があると聞いたことがある」と答えたが、
いずれも慣習としての謝礼は否定。
「未把握」、「調査中」も計4校。

実態調査を実施したのはいずれも事件後で、
名市大、名古屋大、岐阜大の3校にとどまった。
教授らに謝礼を受け取らないよう注意喚起を行っているのは12校で、
うち4校は事件後に実施。
調査も注意もしていない大学院は30校で、
うち29校が謝礼の慣習を「ない」と言い切った。

大阪大で博士号を取得した30代医師は、
審査の主査に10万円を払ったことを認め、
「全国の医学系大学院の慣習で、払うのは当たり前だ」。
東北大で博士号を取得した40代医師は、
担当教授に数万円の謝礼を払い、食事の接待もしたといい
「100万円を学位取得者の頭割りで払う教室もあった」。

◇明治以来の慣習--医事評論家の水野肇さんの話

学位への謝礼は、「税金のかからない収入」として明治以来の慣習で、
全国で続いているのが実情。
大学医局は、一国一城のあるじとして教授一人に権力が集中しており、
外からチェックできない特殊な世界だ。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=65056

2007年12月27日木曜日

ヒューマンファクター 失敗は創造の源?

(東京新聞 2007年12月11日)

スイッチの切り忘れ、弁の操作ミス、排水ホースのつなぎ間違い…。
厳密な運転や保守管理が求められる原子力発電所で、
人のミスがなくならない。
重大事故につながる“芽”だけに、電力事業者は対策に懸命だ。

「ヒューマンファクター(人的要因)」をテーマに、
福井県で開かれた国際シンポジウムでは、
個人のミスに目を向けるだけでなく、組織全体の取り組みや
安全文化を育てることの大切さが強調された。

「発生件数、発生率(放射線管理区域内一万時間あたり)ともに
減る傾向にあるんですが、なかなかゼロというわけには」。
東京電力原子力品質・安全部の福良昌敏部長は、
人的ミスをなくすことの難しさを明かす。

東電は、柏崎刈羽と福島第1、第2の3つの原子力発電所(17基)を持つ。
2004年からとりはじめたデータによると、全体的には減少しているが、
今年に入ってやや増加傾向。

最近でも、機器洗浄装置の排水ホースをつなぐ場所を間違えたり、
ポンプのスイッチ操作を誤ったりして放射能を含む水が漏れるなど、
作業員のミスが起きている。

原因をみると、最も多いのがコミュニケーション不足

指示を徹底しなかったため別の作業をしてしまう。
リスク予測不足も目立つ。
作業をやる前にこれをやればどういう影響が出るか、
という危機予知が不十分なケース。
この二つで、人的ミスの半分くらいを占めるという。

その背景には、「手順書の不備や人手不足、研修不十分など、
個人では対応できない要因がある」と福良さんは説明。
「人的ミスが発生しても、重大事故につながらない仕組みづくりが必要」。

これまで、ヒューマンエラー(人的ミス)は、
個人の資質や能力に起因するとみられがち。

しかし、最近では組織の問題や企業の安全文化にまで踏み込み、
ヒューマンファクターとして分析や対策に取り組むようになっている。

福井県美浜町にある原子力安全システム研究所で開かれた
国際シンポジウムでは、ヒューマンファクターについて
内外のさまざまな分野の専門家が報告や意見交換。

パリ鉱山大のエリック・ホルナゲル教授は、
安全性との関係でヒューマンファクターを見る場合、
「人間はマイナス要因」との見方から、
「有用な要因」という見方に変化してきた、と説明。

人のパフォーマンスには、効率性がいいときも悪いときも(変動性)あるが、
「失敗の原因となるだけでなく、工夫や創造性につながる成功の源でもある」。
「変動性をおさえ込むのでなく、組織として受け入れることが大切」と、
組織に柔軟さを求める。

吉田道雄熊本大教授(集団力学)は、
「安全の実現は、知識だけではできない。
意識が必要で、さらにそれが行動になって初めて可能になる。
ちょっとおかしいと現場の人間が感じたときにものを言える職場環境や
人間関係があることが重要」。

フランス原子力庁長官付顧問のジャック・ブシャール氏は、
ヒューマンファクターへの対応として「安全文化を醸成する」、
「経験をフィードバックして生かす」、
「小さなミスもきちんと分析して対策をたてる」、
「現場から管理者までそれぞれ責任を持って仕事をする」。

そして、「原子力の安全性は、社会的に極めて高い受容性が求められる」
として「最も重要なのは(企業の)透明性」と強調。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/technology/science/CK2007121102071251.html

大学院で医学専門家育成へ 札幌医大が"非医師"課程

(共同通信社 2007年12月20日)

札幌医大は、2008年4月から、医師以外の医学・医療の専門家を
育成する修士課程を大学院医学研究科に新設。

修了後の進路に、製薬会社の研究職や介護施設のスタッフ、
医療ジャーナリストなどを想定。
医療系単科大学の大学院でのこうした課程の開設は珍しい。

同大は、「医師以外にも多くの分野で医学的知識が必要とされている。
それらの分野で働こうとする人を教育することで、
医療全体の底上げを目指す」。

新課程は、2年間の医科学専攻修士課程で募集人数は10人。
出身学部に制限を設けず、医療系大学出身者以外も対象。

1年目の前期は、医学を社会的視点から考察する社会医学などの講義が中心。
その後、大学院各講座で医療薬学や
ゲノム(全遺伝情報)医科学などの研究を行う。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=64799

あしたのかたち/82 強い関大/6止

(毎日 6月23日)

「関大北陽高」の誕生は、兄貴分となる関大一高にも刺激に。
豊島光男校長は、「ともに伸びていきたい。
野球やサッカーは全国でも実績があり、ノウハウを教えてもらえれば」。
「大学も、能力の一つとして運動を評価するので、それに対応したい」。

これまで野球とサッカーで、毎年10人程度が監督推薦などで入学、
来年度以降は枠を2倍程度に増やす予定。

関大北陽高の募集定員は、280人。
既存の男子の総合進学コース(80人)、スポーツコース(40人)、
新たに男女共学の「関大連携コース1類、2類」(各80人)が設けられ、
関大やその他の難関私大、国公立大学への進学を目指す。

月に2回開かれる関大と北陽高の合併推進協議会では、
北陽高の学力レベルをいかに引き上げるかという教育面に議論が集中。
「北陽に入って、関大に進学することが一番大事」と
合併推進協議会事務局の北田伸治・総合企画室長。

河田悌一学長も、「(関大)一高と並ぶような学生を養成する。
それは短期戦でなければならない」。
関大一高は大阪府下屈指の難関校だけに、課題は多い。

合併に当たって、北陽高の鈴木清士校長は、
昨年新設したばかりのスポーツコースの廃止を関大側に打診。
だが、関大側からは維持を要請。
「(スポーツは)北陽の存在感でしょうと言われた。本当にありがたかった」。
北陽のスポーツに対する、関大側の期待感が垣間見える。

ただし、学力の基準を上げるという条件はついた。
北田室長は、「差が開きすぎると、教育システムそのものが難しくなる。
将来、関大で能力を発揮したいのなら、当然、生徒の確保の方法も変わる」。

現段階では、関大進学を希望するスポーツコースの生徒は
スポーツフロンティア入試などを受験することに。

北陽ブランドを生かしながら、いかに文武両道を充実させていくか?
新1期生が卒業する11年春に、一つの答えが出る。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/archive/news/2007/20070623ddn035070023000c.html

2007年12月26日水曜日

最前線:夢ある商品売り出す--第一フロンティア生命保険・高野茂徳社長

(毎日 11月26日

12月22日に全面解禁を控えた保険の銀行窓口販売。
巨大販売チャンネルの登場を前に、大手各社が「次の一手」を模索するなか、
業界第2位の第一生命保険の窓販専門会社として
10月1日に営業開始したのが第一フロンティア生命保険

国内の生保会社が全額出資の生保子会社を新設するのは史上初。
戦略を、高野茂徳社長に聞いた。

--窓販専門会社設立の背景を教えてください。

◆第一生命の主力商品は、死亡保障性商品。
これを営業職員で売るという伝統的スタイル。
しかし、窓販となるとチャンネル(販路)が違う上に売る商品も変わる。
全面解禁後も、しばらくは変額年金が売れ筋。
リスクの面でも、死亡保障性商品は文字通り死亡リスクに対し、
変額年金は投資リスク。
売れている年代層も変額年金は50代以上がほとんど、
と全く違うことに気付いた。

--窓販専門子会社の強みはなんですか。

◆変額年金のライバルは、投資信託や株などの金融商品。
金融商品の「賞味期限」は短い。
市場の変動に応じ、商品を発売できるよう機動性を高める。
とりわけ、変額年金の販売では機動性がキーになる。

--元本保障型変額年金以外の商品発売も考えているのですか。

◆単純に、第一生命と同じものを出す気は全くない。
ただ、お年寄りの関心事の一つに老後の健康というのがどうしてもある。
だから、変額年金の付加価値として(医療保険など)
第3分野商品が必要なら、そういうものも視野に入れていく。

--販路に関する今後の戦略は。

◆販売してもらえるのなら、どこの銀行でも歓迎。
第一段階として考えているのは、第一生命の代理店を
そっくり引き継ぐことだが、(系列外の金融機関であっても)誰でも歓迎。

--販売後の顧客ケアも重要です。

◆入ってもらった後のフォローは最も大事。
他社が我々をまねできないのはそこ。
人数をできるだけ減らし、コストを落とす。
一方で、例えば苦情を受け付けるコールセンターだけは自前でやる。
顧客の声を聞き、内容を分析してサービス向上に役立てたい。

--今後の目標は。

◆5年で預かり総資産1兆円。
親会社の第一生命には資産規模では追い付けないが、
夢のある商品を売り出すことでは負けないようにしたい。
例えば、近い将来、外貨建て年金を売り出すとして、
為替変動リスクを回避するために1年に1度、
夫婦で海外に行ってもらうようにするとか。
いずれは、第一フロンティアがグループの両輪の一方を担いたい。
==============
■人物略歴

東北大法学部卒。72年第一生命保険入社。
06年11月、同社専務執行役員を退任、12月第一フロンティア社長、
07年8月第一フロンティア生命保険社長。57歳。

http://mainichi.jp/select/biz/news/20071126ddm008020121000c.html

あしたのかたち/81 強い関大/5

(毎日 6月16日)

来春、「関大北陽高」が誕生。
関大は、北陽高(大阪市)を経営する学校法人福武学園との合併を発表。
関大一高に次ぐ2番目の併設校。

近年、私立大学が従来の付属校とは別に、
中学、高校を提携・系列化する動きが顕著に。
少子化が進む中、早くから学生を確保しようというのが狙い。
高校側にとっても、大学のブランドを利用して生徒を集めやすくなるメリット。

関西では、立命大が宇治高(京都)、守山女子高(滋賀)と合併、
関学大も三田学園(兵庫)など中高3校と提携関係を締結、
龍大は来春、平安中・高(京都)を付属校化。

「ゆがんだ受験のシステムがあるから、学問とスポーツが両立しない。
系列中学、高校ならばスポーツも楽しみ、勉強もできるというシステムは可能」。

「関西大学スポーツサミット」で、早大学事顧問の奥島孝康氏は、
スポーツ強化における一貫教育の重要性を説いた。

現在、早大には高校5校、中学2校の付属・系属校がある。
代表的なのが、硬式野球部が昨夏の甲子園で優勝した早実。
エースの斎藤佑樹は、早大でも主力となり、春季リーグ優勝に貢献。
高校の強化が、大学の成績に直結した典型例。

奥島氏は、「大学クラブの正選手の半分は、付属校出身者で賄うのが目標」、
佐賀県に中高一貫校を新設する構想。

合併発表の記者会見で、関大の森本靖一郎理事長は
「知名度のある北陽高を併設校とすることで、さらに強い関大を作りたい」。

定員割れの続く北陽側からの申し入れを受け入れる形だが、
北陽高は野球で春夏通算14回の甲子園出場、
サッカーは2度の全国制覇などを誇るスポーツの強豪校。
スポーツ推進を掲げる関大にとって、そのブランドは魅力。
理事でもある小坂道一・体育OB会長は、
「サッカー、野球はより強固になる」。

現在、両者の代表者による合併推進協議会(永田眞三郎座長)が
月2回のペースで開かれ、高大連携の骨格作りが進められている。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/archive/news/2007/20070616ddn035070037000c.html

9・11後ビザ規制の影響から米国の大学院教育は復活したが、国際競争でどれほどの才能が流出したか?

(nature Asia-Pacific)

2001年9月11日のテロ攻撃の余波で、米国はビザ規制を強化。
この厳重な警戒体制のために、米国の専門大学・総合大学に応募し
入学が許可された海外からの大学院生の数が減少。

実際に米国大学院審議会(CGS)の調査によると、
2003~2004年の間に海外からの留学希望者は28%減少し、
入学許可者数は18%減少。

米国大学院プログラムの活力源とみなされる、海外からの才能を失うことは
教育機関および就職に悪影響を及ぼすと危惧した人は多い。

新たな手続き方法が整備され、ビザ発給遅延の多くには対応が施され、
海外からの応募学生数は増加し始めた。

しかし、海外からの応募を阻んでいるのはビザ問題だけだろうか?
国際的な競争が高まる中、関心が薄らいでしまったためだろうか?
これらの要因が共に働き、ビザ問題によって才能の流出が加速した。
CGSの最新の数字に、その答えに対するヒントがある。

米国の大学院が留学希望者に与えた入学許可の件数は、
2006~2007年までに全ての分野で8%増加。

昨年の12%の増加からは減少したものの、3年連続の増加。
生命科学分野の応募は18%増加し、入学許可は11%増加、
物理科学分野の応募は12%増加し、入学許可は8%増加。
ある程度まで大学は立ち直ったように思われ、
つまりビザ規制は確かに有能な人材の流れを阻んでいた。

米国の大学と国際大学との間の合同プログラムおよび
二重専攻(dual degree)プログラムに関するCGSの報告では、
実に30%もの大学院がこのプログラムに取り組んでいる。

競争は、大学院教育の国際化にある。

現時点では、米国の大学院教育の制度はその魅力を失っていない。
だがCGSの結果においては、海外からの学生は学位取得後、
母国へ戻る可能性が高いという事実は考慮されていない。
入学希望者だけではなく、仕事を求める修士やPhDの修了者にとっても
国際競争は高まっているのである。

Nature Vol. 449, P. 109, September 2007

http://www.natureasia.com/japaz/tokushu/detail.php?id=46

2007年12月25日火曜日

万能細胞研究は2位に 米科学誌が今年の10大成果

(共同通信社 2007年12月21日)

米科学誌サイエンスは、2007年に達成された科学の10大成果を発表、
第2位に山中伸弥京都大教授らがヒトやマウスの皮膚からつくった
万能細胞「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を選んだ。

受精卵(胚)を壊してつくる胚性幹細胞(ES細胞)とは異なり、
倫理面での問題が少なく、同誌は
「科学的にも政策的にもブレークスルー(大きな進展)だ」と評価。

第1位は、個人によって全遺伝情報(ゲノム)の塩基配列が
わずかに異なる「ヒトの遺伝的多様性」の研究。

病気に関連する遺伝子の研究を大きく進めた点が評価されたが、
選考責任者は「(iPS細胞と)どちらを第1位に選ぶか迷った」。


http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=64855

あしたのかたち/80 強い関大/4

(毎日 6月9日)

200字を書くのに苦労している学生がいるかと思えば、
400字詰めの原稿用紙を催促する学生もいた。
スポーツフロンティア(SF)入試で入学してきた学生を対象に、
関大が実施した「文書作成能力向上講習会」のひとコマ。

課外教育として計6回開かれ、1、2年生の希望者延べ100人が受講。
テーマは、サッカーW杯や五輪など。
指導した文学部の吉田永宏教授(今春定年退職)は、
「体力不足」を感じたという。

「文章を書くことが習慣になっていない。
まず、何を考え、何を認識しているかを身につけさせることが大事。
文章表現は次の段階」。

学業との両立に向けた支援策の一つで、河田悌一学長が提案。
プロ野球選手がインタビューで、「頑張りました」、
「応援、よろしくお願いします」などと繰り返すのを見て、
河田学長には思うところがあった。

品格のあるスポーツ選手になってほしい
スポーツだけで卒業していく学生では困る。
社会に出ても通用する人材を育てたい。
文章が書ければ、人前できちっとあいさつできるようになる」

スポーツクラブに所属している学生には、ジレンマがある。
技術が上がれば上がるほど、レギュラーとして試合に出る機会が増え、
講義に出席したくても、大会出場や遠征のために欠席せざるを得ない。
学力不足というより、単位取得が困難な状況に陥りがち。

今年は内容、回数とも拡充される予定で、
一人でも多くの学生が出席できるよう各クラブの部長、監督にも協力要請。
文章力の低下は、一般学生にも当てはまる。

吉田さんは、「今年はカリキュラムを作って指導したい。
答案やリポートを書けるようになることが当座の狙いだが、
論理を発展させて主張するためにも、文章力は大事。
ゆくゆくは単位認定してもらえるように」。

SF入試組を、河田学長は期待を込め、「学生文化のフロントランナー」と。
文武両道に加え、判断力や決断力をも兼ね備えたアスリート。
彼らこそが真の意味での「フロントランナー」に。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/archive/news/2007/20070609ddn035070034000c.html

研究室恋愛の別れと出会い:読者の反応

(nature Asia-Pacific)


全ての人と同じように科学者にとっても、
真の愛が順調な経過を辿ることはめったにない。

しかし、経歴重視の研究者がロマンチックな恋愛を追い求める時に
直面する困難について議論した後で(Nature 446, 463; 2007)、
恋愛と研究室を両立することがいかに困難かを強調する手紙が殺到。
幸い、その全てが失恋話という訳ではなかった。

夫婦共々専門家への大志を持っているにもかかわらず、
結婚生活が続いている内容の手紙もあった。
その夫婦が、恋愛の賭けに踏み切るまでには10年かかった。


仕事と同時進行の恋愛となると、状況が極めて厄介になると案じていた。
やはり結婚してみると、状況は大変厄介になった。
勤務地は遠く離れ、別々に暮らし、会うために頻繁に飛行機を使うことになり、
彼らの銀行預金はみるみる空になっていった。

研究室恋愛(lab relationship)に関するデータを求めて、
別の読者は52名の科学者に対して非公式調査を行った。
14名が同じもしくは違う研究室の科学者と結婚、ほぼ同数が独身、
約7名が科学者と交際中、2~3名が離婚、という結果。

別の話では、研究室生活がいかに煩わしいものであるかが見て取れた。
ある上司が崩壊してしまった家庭生活を嘆きつつも、
最高の科学は午後5時から真夜中の間に生まれると主張。

旅行し、人生を愛する大学院生らは成功する科学者にはならない、
と書いている人もいた。

ある読者は、成功の秘訣を示してくれた。
彼とその妻は、応用物理と機械工学のPhD候補生で、1歳の子供がいる。
彼は、自分達の成功の理由を、
期限付き契約で仕事をしていること(これが先の計画を立てやすくする)、
人間的・仕事的に支えあっていること、
仕事と家庭生活が手に負えないと思われる時には
自分の恵まれている点を数えるのを忘れないこと。

恋愛に対する仕事関係の障害は、もちろん科学に限ったことではない。
しかし、とりわけ仕事に打ち込む専門家の間では、
恋愛を求めることはあらゆる点で自らが解き明かそうとする
自然の神秘と同じくらい厄介なものであり得るということを認識しておくとよい。

Nature Vol. 448, P. 723, August 2007

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=41

2007年12月24日月曜日

最前線:生活の変化に柔軟対応--エステー・小林寛三社長

(毎日 11月5日)

芳香剤や防虫剤のトップメーカーのエステーは、
「エステー化学」の社名から8月1日に「化学」を外して再スタート。
昨年、創業60周年を迎え、化学以外に事業を展開していく姿勢。
創業家以外から初めて経営トップに就任した小林寛三社長に、
新生エステーの経営戦略を聞いた。

--新社名の狙いは、「化学にとらわれない」ということですか?

◆社名に「化学」がつき、試験管を振って開発した商品でなければいけない
雰囲気が社内にありました。
生活環境の変化は早く、新築マンションにはウオークイン・クローゼットが
ついているのに、洋服ダンス用の防虫剤しかなかった。
家庭の消費者を理解するのに、「化学」はなくてもいい。
柔軟に自由に発想し、いろいろな事業にチャレンジしたい。

--社名変更後に発売した商品には、どんなものがありますか。

◆温水洗浄便座のノズルを泡で洗う「パワーズ ノズルウォッシュ」も、
生活の変化に対応した新商品。
トイレの消臭芳香剤では、コンパクトなキューブ(立方体)型を出しました。
いかにもトイレの消臭剤といったものでなく、デザイン性を高めました。
すねやふくらはぎを引き締め、スリムに見せる女性用の立体着圧ソックスは、
これからの方向性を占うものです。
「化学」が取れて、美容と健康をサポートする幅広い商品が出しやすい。

--これまでの商品はどう強化しますか?

◆防虫剤で創業し、においのしない「ムシューダ」をヒットさせ、
除湿剤「ドライペット」を日本で初めて作りました。
消臭芳香剤「消臭力」シリーズは、年間4000万個以上を売るメガヒット商品。
使って楽しいとか、癒やされるとか、情緒に訴える商品を出していきたい。
付加価値の高い商品でないと、後発品に追いつかれ単価も下がります。
品種を削減して強い商品を育てます。

--海外展開はどうですか。

◆昨年から米ウォルマートの約3200店舗で、除湿剤や脱臭炭を販売。
水がたまったり、炭が減ったりして効果が見て分かりやすいので、
米国でも受け入れられました。
韓国では、今春に家庭用品第2位のメーカーと合弁会社を設立し、
消臭芳香剤などを販売。

--どのように商品開発をしていますか。

◆全社員から意見募集するイベント「アイディアのたまご」を8月に行いました。
555件の応募があり、生活に密着した商品のアイデアが集まっています。
==============
■人物略歴

80年中央大商学部卒、エステー化学工業(現エステー)入社。
専務執行役製造部門担当兼R&D部門担当などを経て、
07年4月から現職。東京都出身。50歳。

http://mainichi.jp/select/biz/news/20071105ddm008020057000c.html

科学者として「研究の誠実性」の教育は重要

(nature ASia-Pacific)

著者資格としての不適切性からデータ偽造に至るまで、
科学における不正行為の事例は驚くほど日常的に発生。
新進の研究者に対し、何が許され何が許されないことであるのかを
確実に理解させるために手を尽くすべき。

ポスドクは、まだ指導下にありながら同時に指導するという
職業的立場にあることから、このような教育が特に重要。

特に、米国ポスドク協会(NPA)が指摘するように、
ポスドクは所属機関において、たいてい正式な地位にないため、
例えば誰が論文の筆頭著者になるべきであるとか、
いつどのように共同研究を行うべきであるとか、
自分が研究室を離れた場合のデータの扱い方のような問題を考える際に、
過労状態の(期待に応えてくれない、信頼できない)指導者に
頼らざるを得ない場合がある。

このような話題を切りだすのはおかしいと思われるかもしれないので、
多くのポスドクは日々の研究活動を優先させ、避けて通っている。

しかし、これらは研究の誠実性を損ないうる問題。
この問題に取り組むため、
NPAは、責任ある研究行為についての認識を向上させ、
教育を推進するためのプログラムに着手。

本プログラムにおける最初のシード助成金を発表。
12の大学およびポスドク協会に、研究の誠実性を狙いとした
率先的活動の支援を目的として、1,000ドルが支給。

例として、ボストンのマサチューセッツ総合病院ポスドク協会は、
指導者とポスドクの間で行われるランチ討論会の支援に、この資金を利用。

ペンシルベニア州のピッツバーグ大学は、この助成金を
「責任ある行為」に関する様々な問題についての協議を促す一助に。

このような議論は、問題に対してほとんどうわべだけの対処となり、
新たな実用的な勧告を生み出さないという危険性を常に孕んでいる。
しかし、あってはならない状況になっても、重要な成果は得られる。
それは、問題含みの領域に関する話題を人々に提供すること

この問題に取り組み始めなければ、
著者の決定や共同研究の計画といった問題が、
科学そのものと同じくらい複雑で困難なものになりうるため、
極めて大事なことかもしれない。

Nature Vol. 450, P. 129, 31 October 2007

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=59

あしたのかたち/79 強い関大/3

(毎日 6月2日)

「千里凱風寮」は、阪急千里山駅から徒歩数分の住宅街に。
スポーツフロンティア(SF)入試で入学した学生用に、04年に完成。
入寮期間は原則1年間で、約50人が暮らす。
食堂はなく、夜になると、コイン式ガスコンロの前に学生が並ぶ。
柔道部の河津一也さん(2年)は、
「練習で疲れて帰ってきてから食事を作るのは、少しつらい」。

寮は、栄養を管理して、戦う体を作る場。
「食事がなくては意味がない」と野球部の土佐秀夫監督。
森本靖一郎理事長は、「(業者と)提携するような形でやっていきたい」
しかし、改善のめどは立っていない。
1室12平方メートルと手狭のうえ、浴室もないなど課題は山積み。

スポーツの強化、振興について、森本理事長は三つの柱を挙げる。
素質のある学生の獲得が第一。二番目はいい指導者、三番目はいい施設」。

だが、数十億円を投じてアイスアリーナ、柔道場や射撃場などが入る
「養心館」など専用の施設が次々と建設される一方で、
人工芝グラウンドはサッカー、アメリカンフットボール、ラグビーなどの共用。
体育の授業でも使用されるため、利用時間は午後2時半以降となり、
早朝練習で補っているクラブも。

昨夏から人気スポーツの野球、サッカー、アメフットに、
大学の特色を生かした競技としてアイススケート、アイスホッケー、陸上を
加えた6クラブが重点強化指定され、
学長任命制の指導者も常勤職員や嘱託という形で雇用して
フルタイム指導ができる体制を整えた。
今後は、準重点強化クラブも導入する予定。

それでも、現場からは不備を指摘する声が出る。
部員が100人を超えるサッカー部の場合、
常時指導できるのは島岡健太コーチだけ。
レベルに応じて4班に分けることで対応しているものの、
限界があり、一般入試組の入部受け入れを保留せざるを得ない。

「SF組が、トップ選手であり続ける保証はない。
いい素材をきちんと育成する環境を整えなければ、好成績は維持できない」。

SF入試導入から5年。
現場の要望は、受け入れ側の充実にシフトし始めている。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/archive/news/2007/20070602ddn035070060000c.html

2007年12月23日日曜日

大豆:毎日食べれば脳・心筋梗塞の死亡率低下 女性で顕著

(毎日 12月3日)

大豆をほぼ毎日食べる女性は、あまり食べない女性に比べ、
脳梗塞や心筋梗塞など循環器病の死亡率が約7割も低下。

厚生労働省の研究班(津金昌一郎・国立がんセンター予防部長)
による大規模な疫学調査で分かった。

大豆に含まれるイソフラボンの摂取量が多いほど、
特に閉経後の女性で脳梗塞や心筋梗塞の発症率や死亡率が下がった。
研究成果は、11月27日付の米専門雑誌「サーキュレーション」に掲載。

調査は、岩手、秋田、長野、沖縄の4県に住み、調査開始当初、
心臓病やがんになっていなかった40~59歳の男女約4万人が対象。
90~02年まで、13年間にわたって追跡調査。

その結果、大豆を週5日以上の頻度で食べる女性は、
2日以下に比べ、脳梗塞や心筋梗塞による死亡率が0.31倍と低い。
イソフラボンの摂取量で比較すると、一番多い女性グループは、
一番少ないグループに比べ、発症率が0.39倍。

また、閉経後の女性の場合、摂取量が一番多いグループは、
一番少ないグループに比べ、発症率が0.25倍と特に低い。
一番多いグループの一日当たりの摂取量は、
豆腐3分の1丁か納豆小パック(約50グラム)1個程度。
一方、男性には同様の傾向は見られなかった。

小久保喜弘・国立循環器病センター予防検診部医長(循環器疫学)は
「イソフラボンを含む大豆を無理なく食べ続ければ、
女性は脳梗塞や心筋梗塞を予防できる可能性がある。
ただ大豆にはイソフラボン以外の成分もあるので、
イソフラボンだけ取っても予防できるかは分からない」。

http://mainichi.jp/select/science/news/20071203k0000e040013000c.html

あしたのかたち/78 強い関大/2

(毎日 5月26日)

女子フィギュアスケートで期待される高校生トリオが、関大に入学。
沢田亜紀、北村明子、金彩華。

3人とも、5年目を迎えたスポーツフロンティア(SF)入試
呼ばれるスポーツ推薦で合格。
高槻キャンパスに昨夏完成した専用アイススケートリンクで、
SF入試の先輩、高橋大輔、織田信成と「世界」を目指す。

体育会クラブの愛称「カイザー」には、「皇帝、王者」の意味。
体育OB会の小坂道一会長が在籍した昭和20年代は「カイザー関大」時代。
しかし、大学紛争を契機に1970年、体育推薦入試制度が途絶えると、
64年東京五輪前後の「第2次黄金時代」の余韻は消え去った。
全共闘が体育会活動を、
「大学当局に加担する右翼」と攻撃したのが廃止の理由。

スポーツ強化にかじを切ったのは、羽間平安理事長時代(2000~04年)。
アメリカンフットボールのQBとして活躍した羽間氏には悔しい思い出が。
就任前、隣接する関大一高のアメフット部が2年連続日本一。
だが、中心選手は進学先に関大を選択しなかった。
98年センバツで準優勝した野球部のエースらも
社会人や関東の大学に進んだ。

羽間氏は、「スポーツにはリサーチ、リクルート、リフレッシュの3Rが大切。
いい人材が入って来なければ、クラブのリフレッシュも進まない」。
ほぼ30年の空白を経て03年度、SF入試を導入。
その方針は、森本靖一郎理事長に引き継がれている。

SF入試の合格者は05年度112人、06年度130人、07年度151人と
年々増え、サッカー部が2年前の総理大臣杯で
38年ぶりの日本一になるなど成果は表れつつある。

大学理事でもある小坂会長は、
「僕のベースは200人。それでもまだ足りない」。
今年度の合格者は、募集定員(全10学部で計86人)の倍近い。

河田悌一学長は、「各学部にお願いして採ってもらっているが、限界に」。
スポーツや健康を扱う新学部の設立が検討されている。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/archive/news/2007/20070526ddn035070047000c.html

ビジネス教育の必要性を示したバイオサイエンス業界求人の短期調査結果

(nature ASia-Pacific)

1970年代のバイオテクノロジーの興隆以来、
バイオサイエンスの世界とビジネスの世界との距離は
これまでになく近くなっている。

しかし、バイオサイエンス業界に関心を抱く求職者にとっての
ビジネス教育のメリットとはどれほどのものであろうか?

いくつかの利点があげられるだろう。
例えば、製薬業界は深刻な人員削減にあえいでいる(Nature 448, 965; 2007)。

しかし、まだ仕事の場がなくなってしまった訳ではなく、
ビジネス教育もその足掛かりの1つ。
ビジネス教育が、どの程度の機会拡大につながるかは測りがたいが、
ビジネススキルを取り込んだバイオサイエンスの学位を取得できる
カリフォルニア州クレアモントのKeck Graduate Instituteは、
この実情を評価する報告書を発表(http://www.kgi.edu/x6503.xml)。

Molly Schmid氏とHelen Liu氏は、
製薬企業の収益上位5社(ファイザー社、グラクソスミスクライン社、
サノフィアベンティス社、メルク社、ジョンソンエンドジョンソン社)、
バイオテクノロジー企業の上位4社(アムジェン社、ジェネンテック社、
バイオジェンアイデック社、ジェンザイム社)において、
公募されていた3,790件の求人について調査。

研究開発(R&D)の求人は、全体のおよそ17%であり、
残りはビジネス関連業務の求人。
内訳は、7%が製造、24%が管理(情報技術、財務、法務などの業務)、
25%が規制関連業務(品質管理、テクニカルライティング、統計解析)、
27%が販売・営業。

この結果は、ちょっとした警鐘に。
「通常、学者達は産業界で得られる職種がどんなものかについて
調べたり考えたりしていません。多くの人は本当に驚くことでしょう。
R&Dは、もっと多いと考えていたはず。」

この調査は、1ヶ月間という短期的なものに過ぎないが、
この数字は多様なスキルを持つことの重要性を示している。
「学生達は、科学教育を受けたことによって手に入れることができる
職種について理解する必要があります。
有機化学の研究室では、そのようなメッセージは得られない」。

Nature Vol. 448, P.1077, August 2007

http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=45