2008年10月25日土曜日

考える力(1)読解力の育成へ 討論や発表重視

(読売 10月21日)

読解力育成を全校共通の目標にした学校に、変化が生まれた。

6年生に最初に見せたのは、昔の東京を描いた2枚の絵。
松山市の住宅地にある市立北久米小学校の森田幸恵教諭(52)による
社会科の授業は、「明治維新」を迎えた。
「どこが違うかな?」
「和服が洋服になっている」、「刀を持った人がいない」、「馬車や乗り物がある」
やがて、描かれた年が記されていることに気づいた子が、「20年しか差がない」。
他の子からも驚きの声が上がる。

「明治維新について知りたいことをまとめよう」という指示で、
4~5人の班ごとに「服装が変わったのはなぜか」、
「なぜ急な変化が起きたのか」などとテーマを決めた。

子供たちは教科書や資料集から、「西南戦争」、「大久保利通」、「廃藩置県」
といった、テーマと関係しそうな言葉を拾い出し、
付せんに書いて模造紙に張っていく。
歴史上の事件や人物、政策など、拾い出した言葉の共通点を見つけて
付せんを並べ替え、さらに関連性を探していく。
森田教諭は、「ここの班は、明治で世の中が変わった理由を文章でまとめているよ」
と、好例を引き合いに出して、討論や作業を活性化させた。

北久米小は、2005年から3年間、国の学力向上拠点形成事業の指定を受け、
中学校と連携した系統的な読解力の向上指導に取り組んだ。
経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査(PISA)で、
日本の子供の読解力低下が指摘された翌年から。
授業改革の中心になった森田教諭らは、
子供自身が学習課題を見つけて解決をめざす授業作り、
グループによる話し合いや、書くこと、発表することを重視した授業作りを、
学校全体の目標にした。

班に分けても、一部の子供だけが発言するなど、狙い通りにいかない面も。
考える習慣をつけるには、性急に教師の解答を求めがちな
子供に教えすぎないこともポイントだが、加減が難しい。

森田教諭は、「授業で意見が出ない時や、学習の狙いと違う方向に
話が進みそうになった時、子供に『なぜそう思うの』、『こういう考えはどう』などと
上手に質問し、修正する技術が必要。
教科の専門知識を基にした教師の指導力が問われる」

3年の担任、三好京子教諭(46)は、
算数で割り算の余りに関する問題を出した。
「31人の子供が4人1組でゲームをします。
みんながゲームをするには何組が必要?」

子供たちは班ごとに話し合い、ホワイトボードに書いて発表。
「8組だと思います」という発表に、三好教諭は「理由は?」、
「疑問に思う人はいない?」と質問を重ねていく。
「7組だと思っている子もいるよ。君だったら、どうやって説明する?」。
困っている子供には、「図を書いた子もいるよ」と助言する。

子供は、「4人1組」と「みんながゲームをする」という
二つのルールの間で揺れ動く。
「7組で3人が遊べなくなるのは、かわいそう」という意見から、
「8組作って1度遊んだ人を入れればいい」という結論に至るまでに、
算数の「余り」や「切り上げ」にも様々な意味があることを学んでいく。
「こうした問題を出すと、子供は運動会の時に自分はどうしたかなど、
日常生活を手がかりに解答しようと頭を働かせる」と三好教諭。

取り組みを始めて4年目。
「授業がわかる」、「土日に読書をする」という子の割合が5~10%上がるなど、
成果は少しずつ上がっている。

それ以上に、教師の学力観が大きく変わった。
知識があっても、頭の中で結びつけられない子、
情報の引き出し方はうまいが知識が少ない子、発表や作文が苦手な子など、
「できない子」にも様々なタイプがあるということが、教師たちの共通認識に。
一見、遠回りな学習法は、
「結果的に、子供の個性に合った効率的な指導に役立つ」(森田教諭)
という効果をもたらしている。

◆PISAショックで危機感

OECDによるPISAは15歳が対象で、2000年から3年ごとに実施、
前々回は04年12月に公表。
前回、読解力が8位だった日本は14位に下がり、PISAショックとも呼ばれた。
06年の調査も15位にとどまっている。

この調査が求めるのは、文章や表、グラフなど複数のテキストを組み合わ、
分析して解答を導いたり、自分の行動を決めたり、
意見を表明したりすることも含めた総合的な読解力。
知識や情報を基に、「自分の頭で考える力」が欠かせない。
PISAの結果に危機感を強めた文部科学省は、
05年、読解向上プログラムを策定し、全学年・全教科で
読解力をはぐくむ授業作りを提案。
小中学校の新しい学習指導要領でも、読解力に深くかかわる言語能力を、
国語だけでなく各教科で育成するよう求めている。
同省の田中孝一・主任視学官は、「個々の教師の努力だけではなく、
学校全体で教育力を発揮し、評価される時代。
教師は、国語の授業で理科や社会の話題を出すなど、
他教科との関連に目を配ることも必要」。

【文部科学省が求める読解力】(「読解力向上のための指導事例集」より)
ア テキストを理解・評価しながら読む力を高める
(ア)目的に応じて理解し、解釈する能力
(イ)評価しながら読む能力
(ウ)課題に即応した読む能力
イ テキストに基づいて自分の考えを書く力を高める
(ア)テキストを利用して自分の考えを表現する能力
(イ)日常的・実用的な言語活動に生かす能力
ウ 文章や資料を読む機会や自分の意見を述べ書く機会を充実
(ア)多様なテキストに対応した読む能力
(イ)自分の感じたことや考えたことを簡潔に表現する能力

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081021-OYT8T00217.htm

免疫応答の強弱を決定する分子メカニズムを解明

(理化学研究所 10月10日)

「免疫」とは、体内に入り込んだ病原体や花粉などの異物を認識して
排除する防御システムのことで、体の危機管理を担当。
体内に異物が侵入すると、抗原提示細胞が異物をそれと認識して飲み込み、
「これが異物(抗原)だ」、とT細胞に提示。
提示を受けたT細胞は、免疫の司令塔としてさまざまなサイトカインを放出したり、
侵入してきた細胞を殺したり、B細胞に抗原と結合する抗体を産生させる。

この重要な働きを担うT細胞が、抗原提示細胞から抗原の情報を受け取る際、
T細胞と抗原提示細胞は強固に接着し、「免疫シナプス」という構造を作る。
しかし、免疫シナプスができあがる前に、T細胞受容体からなる
微細な集合体「ミクロクラスター」が形成され、T細胞の活性化のユニットとして
働いていることが最近わかってきた。

免疫・アレルギー科学総合研究センターの免疫シグナル研究グループは、
T細胞の補助刺激受容体CD28を含む「ミクロクラスター」を発見、
CD28が特異的な酵素「プロテインキナーゼCθ」を呼び寄せ、
T細胞の活性化を劇的に増大させることを明らかにした。

ミクロクラスターは、接着後5~10分と進むにつれて接着面の中心部に集まり、
T細胞受容体自身は不活性化され、CD28とプロテインキナーゼCθは
T細胞受容体から解離してその周辺に集まり、T細胞の活性化を維持。

CD28からのシグナルを増減させることで、T細胞の活性化を調整。
今後、アレルギー疾患やアトピー性皮膚炎などに用いられる
免疫抑制剤やがん治療に対する免疫賦活剤などの開発に貢献すると期待。

http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2008/081010/index.html

子供の食物アレルギー増加 米保健当局が調査

(共同通信社 2008年10月23日)

米疾病対策センター(CDC)は、米国では昨年、約300万人の子どもが
食物アレルギーを発症、10年前に比べ割合が18%増。

CDCによると、食物アレルギーに対する親の意識が高まり、
よく報告されるようになったのも一因とみられるが、
増加の原因を突き止める研究が必要。

数字は、全米の約1万人の子どもを対象にした調査を基に推計。
07年は、18歳未満人口の3・9%に当たる約300万人が
何らかの食物アレルギーを発症。
1997年は、3・3%に相当する約230万人。

原因としては牛乳、卵、ナッツ類、魚類、大豆、小麦で
発症全体の9割を占める。

5歳未満では4・7%、5歳以上では3・7%が発症し、成長に従って減る傾向。
食物アレルギーを発症した子どもは、そうでない子どもに比べ、
アトピー性皮膚炎やぜんそくの発症が2~4倍多い。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=81847

2008年10月24日金曜日

新人教員300人、教壇去る 5年で2.7倍、07年度

(朝日 2008年10月18日)

採用されて教壇に立ったものの、1年のうちに学校を去った新人教員が
301人に及ぶことが、文部科学省の07年度の調査でわかった。
5年前の2.7倍に増えており、うち3人に1人が

精神疾患を中心にした「病気」を理由。
文科省は、「教育現場を取り巻く環境が厳しくなっているのが一つの要因」。

教員は、最初は「条件付きの採用期間」で、1年後に正式に採用。
07年度の調査では、全採用者2万1734人のうち、
1.4%の計301人が依願退職などで1年のうちに学校を去った。
5年前は111人(0.6%)で、増加ぶりが目立つ。

原因をみると、「病気」という人が103人、5年前の10人から10倍以上に急増。
自己都合、理由不明などを合わせた「その他」が178人。

病気で辞めた人の多くが、ストレスから来る神経症やうつなどの精神疾患
1年目から担任を持って対応しきれず、追いつめられたケースや、
親や社会のニーズが複雑化している中で、うまく適応できないケース。

子どもたちと適切な関係が築けないなどとして、
都道府県や指定市の教育委員会から
「指導が不適切」と認定された07年度の教員の数は371人。

認定されると、教壇を離れて研修を受けねばならないが、
こちらはピークだった04年度(566人)から減少傾向。
文科省は、実際の人数が減ったとはみておらず、
「先手を打って、市町村教委や学校が独自の研修などをすることが多くなった」

http://www.asahi.com/edu/news/TKY200810170412.html

スポーツ21世紀:新しい波/280 ビデオ判定/3

(毎日 10月18日)

フェンス上部に当たった打球が、グラウンドへとはね返った。
一塁塁審は、ファンが触ったとみて二塁打と判断したが、
ゲームは4分余り中断。ビデオ判定の末、本塁打に変更。
9月19日、米大リーグのレイズ-ツインズ戦で、聖域はあっけなく侵された。

「審判の判断に基づく裁定は最終のもので、異議を唱えることは許されない」。
これは、球界の常識だ。
だが、米大リーグは今年8月下旬、本塁打かどうかの判断に限定して
ビデオ判定を導入。
米球界でルール改正があると、日本球界も同調するケースは多いが、
セ、パ12球団で結論には至っていない。
あるセ・リーグのベテラン審判は、「導入しても、判定は別の人にしてほしい。
私たちは一度判定したんだから」

一方、ビデオ判定と審判の権威を両立させた競技もある。
15人制ラグビーは、専任のビデオレフェリーが、ゲームの流れ、
会場の雰囲気による先入観に影響されないように、
グラウンドから隔離された場所で待機。
判定の要請があると、テレビのディレクター、レフェリーとやりとりし、
トライを見極めるための映像を指定して繰り返し見る。
ビデオレフェリーの報告を受けたレフェリーが判定を下す。
国際舞台で活躍する国内初のプロレフェリー、平林泰三さん(33)は、
「ビデオで正しい判定を下すという意味で、審判の権威は逆に守られた」

ただ、ハイテク機器の行き過ぎた導入を警戒する声も強い。
スポーツライターの玉木正之さん(56)は、
「レフェリーは、元々両チームの主将が仲裁を依頼した人。
お願いする相手が、機械になっていいのか。
判定しにくい球場の構造を改善するとか、他にやることはある。
スポーツは本来、遊び。おおらかさを残してほしい」

多くの競技で定着する流れにあるビデオ判定だが、
レフェリーが頼り切るようになれば、「見る目」が成長しない恐れも。
その利点を取り入れつつ、いかにレフェリーの威厳を維持していくのか。
運用のバランスが問われる段階に入っている。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

理系白書’08:第2部 かけ橋として/3 出会い、学ぶ広場作る

(毎日 10月19日)

科学館などの学芸員、研究機関の広報担当者、マスコミ関係者、
一般市民、そして研究者自身……。
科学や技術と社会の橋渡しに関心を持つ人たち数千人が、
一堂に会するイベントが11月22~24日、
東京都江東区青海の国際研究交流大学村で開かれる。
06年に始まり、3回目を迎える「サイエンスアゴラ」。

アゴラとは、ギリシャ語で「広場」の意味。
科学の面白さを伝える実験ショーや研究者との対話、日本の科学技術力や
人材育成をテーマにした討論会など、100以上の催し物が繰り広げられる。

「各地でさまざまな活動をしている人が出会い、情報交換する場として定着」。
サイエンスアゴラの発案者の一人で、当時、日本科学未来館副館長だった
美馬のゆり・公立はこだて未来大教授(48)は言う。

美馬さんはもともと、コンピューターの研究者を目指していた。
中学時代から数学好き。
高校で入部した数学部で、日本IBM本社を見学、
まだそれほど普及していなかったコンピューターに触れた。
「この機械は世の中を変える」と直感し、大学は計算機科学科に進学。

大学時代、米国の大学の教育用ソフトウエアを
日本語のマシンに移植するプログラマーのアルバイトをしたことが転機。
「コンピューターは、学校や教育も一変させる」と考え、
大学院では教育学に転じた。

「学び」を研究するうち、コミュニケーションの大切さに気づいた。
「人と人がコミュニケーションし、違う分野同士がつながることによって、
人は学ぶ。その楽しい学びを、みんなで共有したい」と美馬さん。
その思いが、サイエンスアゴラに結びついた。

今、美馬さんはアゴラのような試みを、
地域に根ざした形で日本各地でできないか、と考えている。
まずは、地元の北海道からだ。
函館市と連携し、科学教育イベントを企画・実施できる人材育成を目指した
はこだて科学寺子屋」、地元の大学や高専の科学イベントや出前授業などの
情報を発信する「はこだて科学網」などの事業を計画。

来年からは毎年、「はこだて国際科学祭」を開く構想。
美馬さんは、「函館の街全体を巻き込んで、科学を文化にしたい」と張り切っている。

http://mainichi.jp/select/science/news/20081019ddm016040030000c.html

地域からアジア考える 県立大で環境フォーラム

(岩手日報 10月18日)

県立大(谷口誠学長)のアジア地域開発・環境フォーラム
「アジア地域における環境の社会経済的影響」は、
食の安全や地域財産の保全、環境を考慮した開発について理解を深めた。

達増知事、元環境庁長官で参議院議員の広中和歌子さん、
インド・バンガロー大社会事業学科長のガンディ・ドスさんが基調講演。

達増知事は、「いわてにおける地域コミュニティーの現状と将来」と題し、
「岩手の心や文化を世界に発信したい」と述べた上で、
過疎化や高齢化などでコミュニティー維持が難しくなっている現状にも触れ、
「行政の政策を入れて守っていきたい」と強調。

広中さんは、「環境立国、日本からの発信『医職住』の充実を通じて」、
ドスさんが「社会福祉を中心としたアジア地域開発における環境の与える影響」
と題し講演した。

前葛巻町長の中村哲雄さんや、国連大や大連交通大などの関係者らに
よるラウンドテーブルディスカッションも行われた。

盛岡市津志田の新田秀雄さん(64)は、
「地域から地球まで、幅広く環境問題を考えることの大切さを実感した」

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20081018_5

2008年10月23日木曜日

脳の損傷で失われた視覚も回復

(サイエンスポータル 2008年10月16日)

視覚野と呼ばれる脳の損傷で失われた視覚機能が、
リハビリで回復することを、自然科学研究機構・生理学研究所の
研究チームがサルを使った実験で確かめた。

大脳皮質障害による「視覚欠損」と診断されてあきらめていた患者も、
トレーニングによって視覚機能を回復させる可能性があることを
示した成果として注目。

生理学研究所の伊佐正・教授と吉田正俊・助教は、
脳の後頭葉にあって目の網膜からの情報が集まる視覚野に注目し、
片方の視覚野を損傷させたサルを使って、
視覚障害とその回復の可能性を調べた。

サルは、損傷した視覚野によって片側の視野が見えなくなる状態となるが、
光の点を示すトレーニングを続けた結果、
徐々に光の方向を感じ取ることができるようになった。

正常の視覚を持つ場合の、光の位置を突き止める眼球の動きと異なり、
直線的な眼球の動きしかできない
(正確な位置を確実・効率的にとらえにくい)ことも分かった。
これは、損傷した視覚野とは別の脳の部位が、
視覚野の機能を代替していることを意味。

サルが視覚機能を回復するのに数カ月を要したことから、
粘り強いトレーニングが必要だが、大脳皮質障害により視覚欠損になった
患者も機能回復が期待できる。
その際、目の動きをモニタリングすることが、
リハビリテーションの効果や回復の判定に役立つ、と伊佐教授らは言っている。

この研究成果は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業チーム型
研究(CREST)の一環として得られた。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/0810/0810161.html

2050年に世界の原子力発電1.5-3.8倍に

(サイエンスポータル 2008年10月17日)

原子力発電は、2050年には現在の1.5-3.8倍に増加するとの見通しを
経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)が公表。

NEAの『原子力エネルギーアウトルック2008』は、
原子力発電がほとんど炭素を放出しないことや、
化石燃料に比べ健康影響が無視できるくらい小さいことなどの
長所を持つことを挙げ、今後のエネルギー源として大きく貢献すると評価。

ウラン資源は、再処理を行わなくても、少なくとも2050年までは
増大する全世界の原子力発電の燃料として十分な量があり、
再処理と高速増殖炉を導入すれば、ウランからの取り出すエネルギーを
60倍に増やすことができることから、
ウラン資源を何千年も保つことが可能。

今後は、輸送分野に燃料を供給するため、原子力の熱を利用して
水素を製造する研究開発が重要になるとの見通し。

高レベル放射性廃棄物の処分計画の遅れや失敗が、
原子力のイメージ悪化をもたらしている現実を挙げ、
政府と原子力産業界が安全な処分を実現させるため、
一丸となって取り組むことを求めている。

核拡散やテロリストによる放射性物質の使用を防ぐため、
国際的な取り組みの重要性も指摘。

将来のエネルギー源とみなされている核融合については、
まだ実験段階で、今世紀の後半でも商業発電として
利用される可能性は低い、と評価。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/0810/0810171.html

東北の生産拠点目指す トヨタ系・関東シート製作所

(岩手日報 10月17日)

トヨタの自動車内装部品メーカー・関東シート製作所
(北上市、資本金3億3200万円、柴田和民社長、従業員554人)は、
トヨタが東北を国内第3の生産拠点に位置付けたことを受け、
事業拡充を進めている。

主要取引先は、金ケ崎町に岩手工場を置く関東自動車工業(横須賀市)と
セントラル自動車(相模原市)だが、
2010年のセントラル自動車の宮城県移転、稼働に伴い戦略を強化。
プラスチック射出成形による内装部品を重点化し、東北の生産拠点を目指す。

同社は、主力の北上工場(従業員308人)が、
ドア内部のトリム(内張り)やシート内部の樹脂、ウレタンなどを生産。
プラスチック射出成形機を5台保有し、ピラー、インパネなど
自動車内装の部品生産の増強を図っている。

同社の本社敷地内には、完全出資子会社の関東シート北上
(北上市、資本金3000万円、柴田社長、従業員160人)
シート縫製工場もあったが、セントラル自動車の宮城移転を見据え、
奥州市江刺区のトヨタ紡織敷地内に移設。
8月から江刺工場(102人)として本格稼働。

縫製前のシートの裁断は、関東シート北上・仙人作業所
(北上市、従業員22人)が担当。
これらのシート部品を、関自岩手工場敷地内にある
関東シート製作所金ケ崎工場(146人)が完成品に仕上げる。

裾野市の関自東富士工場、相模原市のセントラル自動車向けは、
関東シート製作所相模原工場(100人)、関東シート北上・御殿場工場
(御殿場市、36人)が生産供給。

関東シート製作所は、トヨタの内装部品メーカー大手の
トヨタ紡織(刈谷市)の関連会社。
柴田社長は、「セントラルが宮城に移転すれば、(関東シート製作所の)
相模原工場は撤退し、宮城のセントラルに特化することになる」

世界経済低迷に伴い、自動車業界は厳しい環境にあるが、
柴田社長は、「(業況の)上がり下がりは世の常。
多少下振れするかもしれないが、東北はチャンスであり、
今は将来に向け会社の足腰を鍛える」と意気込む。

◆関東シート製作所とは

57年横浜市に設立。関東自動車工業東富士工場(裾野市)、
セントラル自動車(相模原市)に、シートなど自動車内装部品を生産供給。
93年、東北初の完成車組立工場の関自岩手工場操業に伴い、
北上工場(北上市)を設置、02年に本社を北上市に移転。

生産台数(1台=8部品)は、北上市に本社を移転した02年から
右肩上がり成長を続け、07年度は47万台(前年度比14%増)。
関自向けは34万台(同19%増)、セントラル自動車向け12万台(同1%増)。
07年度売上高269億円。

http://www.iwate-np.co.jp/economy/e200810/e0810171.html

岩手に残るスローな手仕事・ホームスパン みちのくあかね会

(毎日 10月14日)

あたたかい日が続いているが、朝夕はめっきり冷え込んできた。
北のほうでは、もう冬を意識しているだろう。
こんな季節には、毛糸ものがだんだん気になってくるもの。

明治時代、イギリスの宣教師によって伝えられたホームスパンという
毛織産業がある。
羊の毛を染めて手でつむぎ、手で織るざっくりとした風合いの織物。
スコットランドやアイルランドなどの離島で継承。
明治時代に、スコットランドと気候が似ているということから、
政府によって北海道や岩手、長野県がその産業の候補地に選ばれ、
農家の副業として導入。
昭和50年代の最盛期には服地、ネクタイなど3万6千メートルもの生産量。
今では生産は落ち込み、岩手県の東和町と盛岡市内にいくつか工房があるだけ。

岩手県盛岡市にある「みちのくあかね会」(岩動麗代表)は、
ホームスパン工房として昭和37年、女性たちの手によって創立。
現代では、女性起業家も少なくないが、このころには相当珍しかった。
今でも、十数人の女性たちで運営や製作が行われている。
もともとは、太平洋戦争で夫を失った女性たちの働き場所を提供するための活動。
当時は、子供や家族がいて出来る仕事といえば内職くらい。
子供を抱えても働けるのでは、とホームスパンに女性たちが目を付けた。
出勤時間も、今で言うフレックス制にして働きやすい環境を作っていった。
このシステムは、今でも続いている。

ホームスパンでつくられる毛織物の工程は、とにかく手作業。
材料となる羊毛は、イギリスから輸入。
国産の羊毛だと、汚れやゴミが多く、服地にしたとき、こしが出にくい。
この原毛を広げて、ゴミをとりながら用途に応じて仕分けていく。

原毛を石けんでよく洗い、染色にかかる。
染めた毛を解いた毛の繊維を、カーディングという作業できれいに整える。
アンティークの足踏み式つむぎ機で調整しながら糸をつむぎ、
できた糸を織り機で織っていく。
機織りで実際に織るのは最終作業で、その前段階の羊毛から糸をつくるまでの
作業に、よりベテランの手と目と勘が要求される仕事。

みちのくあかね会の作品で、一番目を奪われたのは、その色。
鮮やかな青、シックな茶系、深みのあるグリーンなど、
昔から今に続くまで根強い人気があるのもうなずける。
鮮やかな色でも派手にならないのは、糸を染めるのではなく、
原毛の状態で染めたものをいくつか混ぜて1本の糸につむいでいるから。
こうした糸を使うことで、他ではあまり見る事のできない
上品な色合いに仕上がっている。

化学繊維では味わえないふんわりとしたやわらかさも、手作業ならではのもの。
織る人の個性が出るのも、手織りの魅力のひとつ。
大量生産では味わう事のできない風合いが実感できる。

本来は、寒い東北地方の人のためにと考えられたホームスパンだが、
首都圏の人たちからの支持が圧倒的。
たくさんの在庫があるわけではないので、注文してからつくられることも多い。
その貴重な作品を心待ちにする根強いファンに支えられている。
値段は、マフラーで1万6000円くらい。
この手間ひまを考えると、決して高くない。
とっておきの一品として、大切に使える品となるはず。

昔のようにたくさんの量をつくれるわけではないけれど、
岩手の手仕事として地道に残っているホームスパン。
働きたいという若い人からの希望も最近増えた。
欠員があれば入れるが、そんなにたくさんは受け入れることをしていない。
ほんとうにやりたい人が、こじんまりだけどよいものをつくり続けている。
かたかたと手動の機械が回る音を聞けば、気持ちが安らぐ。

遠くで雷がなった。わあっと工房にいるみんなで驚く。
そのあとみんなでくすくす笑った。こんなゆっくりした職場があってもいい。

みちのくあかね会 http://www.michinoku-akanekai.com/

http://mainichi.jp/life/ecology/mottshiritai/news/20081014org00m040015000c.html

2008年10月22日水曜日

運動のガイドライン:ジムを減らし、楽しみを増やす

(WebMD 10月7日)

新しい米国連邦の運動ガイドラインによれば、
小児・青少年は毎日1時間以上、大人は週2回、1回1時間半以上の
運動を行うべきである。

このガイドラインは米国人に対し、体重減少、慢性疾患予防、
長生きのために身体を動かすことを推奨。

これまでの取り組みとは異なり、ジム運動の重要性が低下し、
人々がもっと楽しめる運動を支持する内容。

「生活に採り入れやすい運動を選ぶべき」とこのガイドラインを発表した
米国保健福祉省長官であるMichael O. Leavittは、
「身体を動かしさえすれば、何でもよい」

諮問委員会は、小児・青少年は毎日1時間以上運動し、
週に少なくとも3日はより強度の高い運動を行うべき。
代理長官であるSteven Galsonは、
「木登りをしたり、公園に行ったり、飛んだり跳ねたりするゲーム
(hopping and skipping games)をすればよい」

米国の成人の3分の1以上は、運動量が推奨された量に満たず、
4分の1は定期的な余暇時間の運動をまったく行っていない。
糖尿病、心疾患等の慢性疾患および早死のリスクが高くなる。

本ガイドラインでは、1週間につき2.5時間の中強度の運動または
1時間15分の激しい運動を行うことを推奨。
成人に対し、活動と強度を「うまく組み合わせる」ことを推奨、
最低でも1日10分の運動を推奨。
成人は、すべての主要筋群の筋力強化運動を週2日以上実施すべき。

中強度の有酸素運動の例として、社交ダンス、早足のウォーキング、
10マイル(約16km)/時未満の速度での自転車こぎ、水中エアロビクス、
ガーデニングがあげられる。
激しい運動としては、ジョギング、ランニング、なわとび、
上り坂または重いリュックを背負ってのハイキング、
10マイル(約16km)/時間以上の速度での自転車こぎがあげられる。

本ガイドラインでは以下の事項も推奨:
健康な妊婦:妊娠中および産後期の2.5時間以上の中強度の運動
身体障害のある成人:週に2.5時間の運動(可能な者)
65歳以上の成人:能力に応じて週に2.5時間。
転倒リスクが高い高齢者にはバランスを保つのに役立つ運動。

本ガイドラインでは、ジムおよび運動クラスの重要性が低下し、
多くの米国人にとって継続が容易な運動を支持する内容。
「好きな運動を選んで」とGalson代理長官は述べる。

コロラド大学人間栄養センター(Center for Human Nutrition)長である
James O. Hillは、本ガイドラインを運動に関する初めての
包括的かつ国家的勧告であると称賛。
「重要なのは、『多いほどよい』ということ。
人々がどのように達成し、どのように運動を増やすかを理解する
手助けをしているにすぎない」。
Hill博士は、米国栄養学会(American Society for Nutrition)会長も務める。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=SPECIALTY&categoryId=580&articleLang=ja&articleId=81409

プロ野球組織がCO2排出権購入へ、試合時間短縮目標に届かず

(読売 10月16日)

日本プロ野球組織(NPB)は、今季から地球温暖化防止活動に
本格的に取り組み、試合時間を短縮することで使用電力量を抑えよう
というキャンペーンを張ってきたが、
平均試合時間が目標に届かなかったため、
その分の二酸化炭素(CO2)排出権を購入。

NPBでは、京都議定書で定めた日本の温室効果ガス削減目標6%にちなみ、
過去10年の1試合平均試合時間3時間18分の6%にあたる
約12分間の時短を目標に掲げてきた。

しかし、今季のレギュラーシーズン全864試合の平均試合時間は、
3時間13分だった。
目標に届かなかった7分間を、使用電力量に換算すると、
21万9000キロ・ワット・アワー、CO2換算すると約122トンになる。

NPBは、122トン分のCO2排出権を51万2400円で購入。
平均試合時間の最短は巨人の3時間8分、最長はソフトバンクの3時間21分。

http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20081016-OYT1T00716.htm

創造力を伸ばす知的交流を

(日経 2008/10/17)

◇江崎玲於奈(横浜薬科大学長、茨城県科学技術振興財団理事長)

今年のノーベル賞の日本の受賞者4人に共通しているのは、「若さ」だ。
物理学賞の南部さんが39歳、小林さんが28歳、益川さんが33歳、
化学賞の下村さんが32歳のときに授賞理由となった研究成果を上げた。
私が(1973年の物理学賞の授賞理由となった)半導体のトンネル効果を
発見したのも32歳。

若さこそが伝統にとらわれず、境界や限界を無視する
自由と果敢な実行力の源であり、創造力が発揮される。
年とともに、既成の枠を飛び出す勇気を失う。

◆創造力開花の条件

私は戦後すぐ、半導体物理の研究に取り組んだ。
今でこそIT(情報技術)社会の基本技術として花開いているが、
当時はその揺籃期。
基本原理である量子力学を理解できる人は、ごくわずか。
量子力学を応用した電子デバイスの開発を目指した。
これは、大変新しい試み。

新しい分野なら、創造力さえあれば、恵まれない研究環境であっても、
大きなハンディにはならない。
若手がこうした新分野を開拓できれば、今後も日本のノーベル賞受賞者が
途切れることはないだろう。

創造力を伸ばす条件は、3つある。
伝統を打ち破る大胆な気風、他者との自由な知的交流、
評価が公正に下される競争的環境。

特に、リーダーが自分たちを乗り越える若手を育てることが大事。
日本は、95年に立案した科学技術基本計画で、
膨大な資金を投じて研究環境の整備に努めているが、
創造力開花の条件はまだ満たされていない。
日本の大学教育にしても、創造力よりは知識力を重視している。

◆産業界との結び付きを強めよ

科学技術基本計画は、日本の科学技術の強化を狙い、
「50年間に30人のノーベル賞受賞者」を掲げている。
これも1つの目標だが、産業界との結び付きを無視してはいけない。

日本の博士号取得者の約20%が、企業に身を置く。
米国の比率は約40%、しかもダイナミックで有能な人材が企業で働く。
日本でも、博士号取得者がもっと企業に進み、
そこで創造的な仕事ができるように環境整備すべき。

“知の世紀”に、博士号取得者の就職難があってはならない。
20世紀最大の発明の1つ、トランジスタは米AT&Tベル研究所で生まれた。
そこでは、基礎と応用の双方で異なる専門分野の研究者たちが
一堂に会し、総合力を発揮した。
一国一城の主が集まる大学では、こうした発明は難しい。
日本でも、日立製作所やNECのような企業は創造的な技術開発を重視。
企業だからこそできる発明に、もっと挑んでもらいたい。

◆「頭脳流出」の要因、検証を

今回気になったのは、南部さんと下村さんの「頭脳流出」組。
キャリアを積む過程で、産業界はもちろん、大学でも自由に研究できる
ポジションが日本になかった。

オワンクラゲから緑色蛍光たんぱく質(GFP)を見つけた下村さんは、
「日本では、たぶんGFPを発見できなかった」。
これはかなり手厳しい発言。
自由な研究を阻害する要因が何だったのか、
今はどうなっているかを検証すべき。

私の場合、半導体のトンネル効果の仕事が認められ、
60年に渡米してIBMワトソン研究所に入った。
そこで自然を超える人工物質、半導体量子ナノ構造である「超格子」を提案。
高度な技術が求められるので、多大な研究費を要する。
実用に直結する課題ではなかったが、関心を示してくれたのは米国防総省で、
資金を提供してくれた。
ナノスケールの厚さを制御するので、ナノテクノロジー(超微細技術)、
ナノサイエンスの嚆矢といわれる。

IBMワトソン研には、多くのアジア系研究者が働き、
この人たちが私の研究室でも活躍してくれた。
米国の大学で博士号を取得後、米企業に高給で就職し、米国市民となる。
日本では、こんなことは容易にできないだろう。

◆基礎と応用、バランスが重要

いったんは「頭脳流出」した私が、日本に戻ってきたのは、
筑波大の若手教官らの熱心な勧誘があったから。
IBMでは、ノーベル賞受賞者に特権があり、研究を続けることは可能だった。

しかし、研究生活よりも、米国での経験を生かして若手の創造力を伸ばす
手助けをしたいという気持ちがまさった。
2000年に、国の教育改革国民会議の座長を引き受けたのも、
2つの大学の学長職に就いたのも同じ理由。

あちこちで説いて回っているのは、基礎と応用のバランスの重要性。
「基礎偏重・応用軽視」も、その逆もよくない。
創造性のある基礎研究と実用性のある応用研究に資金を供与する。
全体のバランスを考えたうえで、研究にも教育にも力を入れる。
これらが今後の日本の科学技術政策の枢要と考える。

◆えさき・れおな

47年(昭22年)東大卒。東京通信工業(現ソニー)、米IBMなどを経て、
92年筑波大学長、98年茨城県科学技術振興財団理事長、
00年芝浦工大学長。06年から横浜薬科大学長。
米国での研究成果「超格子」で日本人初の2度目のノーベル賞受賞の期待。

http://netplus.nikkei.co.jp/forum/science/t_366/e_1508.php

ものづくり(9)熟練社員「先生」に変身

(読売 10月18日)

ものづくりのベテランを再教育する試みがある。

シャープ、TDK、キヤノン、アサヒビール、パナソニック、
ダイキン工業、三菱重工業。
大手メーカーで、ものづくりの前線に立ってきたベテラン社員7人が、
東京・本郷のビルにある東京大学ものづくり経営研究センターに集った。
「ものづくりインストラクター養成スクール」4年目の初授業。

センター長で経済学研究科の藤本隆宏教授が、
トヨタやフォードの例を挙げながら、製品競争力を説明。
「原材料がどう加工されていくか、モノの流れを時間と空間で
書いて把握することが大切」。
現場で改善指導する時の要点を、受講生はうなずきながらノートに書き込む。

佐藤裕三さん(47)は、TDKでカセットテープの製造に携わってきた。
現在は、生産技術開発センターの課長。
テープづくりで得た効率的な生産方式を、他事業へ移植できないか模索中で、
社命による受講。
「内容はわかっていても、整理して説明してもらうことで、
ものづくりをより理解できる。会社に戻って説明しやすい」

斉藤茂さん(60)は、キヤノンでプリンターの組み立て・加工現場の管理職。
今春、定年退職してキヤノンに再雇用され、様々な生産拠点の支援に回る。
「受講生の会社やつくってきたものが皆違うので、参考になることも多い」

週末中心に2か月余りで20回、朝から夕方まで開講し、
コストや生産性、工程管理、コンサルティングなどの基本を学んだ後、
現場での改善指導実習を経て討論。

スクールの開講は2005年度。
団塊世代が退職を始める、2007年問題への危機感が背景に。
ものづくりに熟練した団塊層が再雇用されても、
安い給料でかつての部下の下で働くことになると、士気が上がらない。
ライバルの外国企業で、<先生>と遇される例も。
一方、生産工程の改善指導を期待する中小企業は少なくない。

大企業でものづくりの現場が長い人は、品質や納期などの生産性の改善を
無意識に進めてきたが、自分たちの経験や知識に無自覚な場合も多い。
自社でしか通用しない用語で動いてきたことで、一般化して説明することも苦手。
そんな潜在的な<先生>を、インストラクターに育てるのが、スクールの役目

修了生42人は、個人でコンサルタントになったり、社内で後輩に指導したり、
数人で中小企業の工場に改善策を提案したり、活躍を始めた。

2年目まで国の助成があって無料だったスクールは、
3年目から受講料(300万円)が必要。
今年の受講生は、最多の年の半分以下。
企業は、中高年への投資に二の足を踏むかもしれないが、
長期的には日本のものづくりのためになる」と藤本教授。
その目的達成には、企業や行政の協力がいる。

◆2007年問題

第1次ベビーブーム(1947~49年)に生まれた団塊世代が
07年から定年を迎えるため、蓄積された技術やノウハウ、人脈が失われたり、
技能・技術の質が低下したりするといった問題が指摘。
経営への影響を軽減させるため、企業は再雇用制度の導入や、
「ものづくり塾」による技能伝承などの対策を取っている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081018-OYT8T00214.htm

岩手大、大連企業と研究 3次元技術テーマに

(岩手日報 10月18日)

中国・大連市の大連理工大と学術交流協定を締結している岩手大は、
大連市の情報技術(IT)関連企業DAICOMと
3次元ものづくり技術をテーマに共同研究を始める。
11月に正式調印する見通し。

同社が来春から社員を岩手大に派遣し、同社が取り組む
アニメーション技術と岩手大の3次元ものづくり技術を融合し、
新たな付加価値を創出する。

DAICOMは、1994年創業したコンピューター、
移動体通信用ハード・ソフトウエア開発企業。
ゲームエンジンや携帯ゲームを開発し、
日本や米国の企業と取引実績がある。

同社の戴維社長らは昨年10月、岩手大や県内企業を訪れ、共同研究を模索。
調整を重ね、今年9月下旬に来県し、共同研究を進める方向を確認。

共同研究テーマは、「自然現象のリアルタイムアニメーション技術」。
岩手大工学部の千葉則茂教授(メディアシステム学)の研究技術を活用し、
独自のゲームエンジン技術を開発する計画。

岩手大は2003年、大学と大学、地域と地域が産学官連携を深め、
国境を超えたビジネスチャンスを創出する「UURRプロジェクト」のチームを設置。
05年に大連理工大と学術交流協定を締結。

日本貿易振興機構(ジェトロ)盛岡貿易情報センターの支援も受け、
今年3月には岩手大と大連理工大、大連四達鋳造有限公司が
金型、鋳造、ITの3分野で協定締結するなど産業交流が活発化。

大連四達鋳造有限公司、DAICOMそれぞれの協定調印は11月11日、
大連理工大で行われる国際産業連携シンポジウムで予定。

小野寺純治・岩手大地域連携推進センター所長は、
「現在継続中の案件も含め、鋳造は2件、IT関連で3件の産業交流が進んでいる。
他分野にも広がる動きが出てきた」と成果を喜ぶ。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20081018_1

2008年10月21日火曜日

緑茶カテキンで再発を予防 大腸ポリープ切除後1年で

(共同通信社 2008年10月14日)

緑茶成分のカテキンを含む錠剤を飲み続けると、
大腸ポリープの再発が抑えられることを、
岐阜大医学部の清水雅仁助教、森脇久隆教授らが臨床試験で確かめた。
日本癌学会で発表。

大腸がんのもとになるポリープの再発予防が、
緑茶錠剤の臨床試験で実証されたのは初めて。
手軽な緑茶錠剤によるがん予防の可能性をうかがわせる成果。

臨床試験には、岐阜大病院など岐阜県内の4病院が参加。
大腸ポリープを内視鏡で切除した125人のうち、
60人に緑茶錠剤3錠(計1.5グラム、6杯分)を毎日飲んでもらい、
飲まない65人と、1年後に大腸を内視鏡で検査して、ポリープ再発率を比べた。

再発率は、緑茶錠剤を飲まなかった人では31%に対し、
錠剤を飲み続けた人たちでは15%と明らかに低かった。
再発したポリープのサイズも、錠剤を飲んだ人で小さい傾向。

緑茶錠剤を飲んでも、1日に緑茶を飲む量が3杯以下と少ない人の
再発率は60%と高かった。
毎日飲む緑茶が多いほど、ポリープの再発が抑制されることも裏付けた。

森脇教授は、「薬ではなく、日常生活で取りうる物質で
大腸ポリープ再発予防効果が確かめられた意義が何より大きい。
緑茶をよく飲むという生活習慣で予防できる可能性もある」

▽緑茶のがん予防効果

緑茶を大量に飲む埼玉県の住民を対象にした
埼玉県立がんセンターの調査で見つかった。
ほかの疫学調査で異なる結果も出ているが、
カテキン摂取量で1日10杯以上が必要。

埼玉県農林総合研究センターが緑茶抽出物を固めた錠剤を作った。
「緑茶サプリメント」として市販もされ、
岐阜大の大腸ポリープ再発予防試験に使われた。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=81269

大漁旗一緒に振ろう 釜石SWが私設応援団募集

(岩手日報 10月15日)

社会人ラグビーの釜石シーウェイブス(SW)RFCは、
「みんなでつくる釜石シーウェイブス応援団」と題した
私設応援団の募集を15日から開始。

団員5人以上で結成でき、20人以上なら応援用の大漁旗を
無料で製作してもらえるなどの特典がある。
大漁旗を使う応援は、日本選手権で7連覇を達成した
新日鉄釜石時代から変わらないスタイル。

国立競技場を沸かせた大応援団を復活させ、トップリーグ昇格を後押し。
応援団は、年会費1人1000円。

特典として、団員は商標登録しているチームロゴを営利目的以外で
自由に使用できるほか、20人以上の応援団は、
釜石SW事務局が無料で大漁旗1枚を製作する。
複数枚作る場合や人数が20人に満たない場合でも、1枚1万5000円で製作。

大漁旗は、見本2種類と自由製作から選べ、
応援団名や応援メッセージを載せる。
ロゴはTシャツや帽子など、自主製作する応援道具にも使用。

私設応援団は、釜石市や盛岡市などに5団体ある。
プロ野球やサッカー・Jリーグでは主流となっている複数の私設応援団だが、
社会人ラグビーでは珍しい。
得点を決めた時に翻る大漁旗は、釜石ラグビーのシンボルで選手を鼓舞。

釜石SW事務局の増田久士事務局長は、
「応援する気持ちはあるが、表現できる仕組みが少ないとの声もあり、
企画した。職場仲間や友人同士で気軽に結成してもらい、
ロゴや大漁旗などを応援団のシンボルにしてほしい」
と多くの参加を呼び掛ける。

私設応援団同士の交流もあり、SW釜石応援団の福成和幸団長は、
「旗があれば、グラウンドで応援したくなるはず。
迫力のある応援をするために、一緒に旗を振ってくれるとうれしい」。

応募方法は、釜石SWの公式ホームページから書類を印刷し、ファクスで送信。
問い合わせ:釜石SW事務局(0193・22・1173)、ファクス(0193・22・1183)

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20081015_13

ものづくり(8)伝統建築守る即戦力に

(読売 10月17日)

日本の伝統建築を通じて、ものづくりの奥深さを教える学校がある。

富士山のすそ野に広がる校内の実習棟には、
木材が所狭しと積み上げられていた。
静岡県富士宮市の日本建築専門学校。
日本の伝統建築を受け継ぐ人材を育てる、国内でも数少ない学校。

「真上からしっかりにらんで、線を引かないと駄目だぞ」。
ヒノキに定規をあて、切り落とす部分にペンで線を書き込む学生に、
担任の長谷川幸基教諭(40)が声をかける。

実習棟の隅では、建物の骨格部分が組み上がりつつある。
学生6人が木を切ったりカンナをかけたりしていた。
授業の一環で行われている社の建築。
市内の浅間大社から依頼を受け、今年度中の完成をめざしている。

リーダー役は3年生の加藤靖さん(20)。
木材は、湿度や気温の影響を受け、微妙に伸縮してしまう。
「図面通りに行かないことも多いが、そこが面白い」。
畳屋の次男。兄は家業を継いでおり、「自分が建てた家に兄の畳を入れたい」

同校の創立は、1987年。
同県清水市(現静岡市)内で建築会社を営んでいた
菊池安治・初代理事長(故人)が私財を投じた。
大学で建築を学んできた新入社員が、木材の種類すら知らず、
「このままでは、日本の伝統建築は廃れる」と強い危機感があった。

4年制で、ほとんどの学生が寮生活をしながら、設計や構造力学など、
木造建築に必要な知識と技術の習得に励んでいる。
大工を目指す学生が多いが、これまで600人を超える卒業生には、
建築士もいれば文化財の保全などに携わる人も。

カリキュラムの中には、日本建築の良さを実感させる
茶道の授業や造園の実習も。
木造校舎には茶室も備えられ、1、2年の茶道は必修。
「建築は、器を造るだけの作業ではない。周囲とのかかわりを理解し、
人が住む空間としての建築を学んでほしい」と長谷川教諭。

だが、伝統建築を志す学生の数は伸び悩んでいる。
同校の在校生は、定員160人(1学年40人)に対して86人。
建築業界の不景気も影響して、ここ数年は定員割れが続く苦しい状況。

しかし、「第一線で活躍できる技術者の育成」という学校の目標に変わりはない。
今年からは、学生たちの競争意識を高めるため、
建物の設計図をコンペ形式で競い合う取り組みを始めた。

テーマは、「9坪(約30平方メートル)の家」。
若い夫婦が新婚生活を始める一戸建て賃貸住宅で、
子供が成長した時のために増築しやすいことなど、細かな条件が設定。
2年生18人が設計図を作り、最優秀作は、
来年、1、2年生が建てる家の設計図になる。

「人より秀でたものを作ろうとする意識が、技術を向上させてくれる」と、
学校の1期生でもある長谷川教諭。
知識と技術を兼ね備えた即戦力たちが、これからも日本の伝統建築の
将来を支える存在になる。

◆建築大工技能士

職業能力開発促進法に基づく国家資格で、1~3級がある。
2004年から、3級は建築科などに在籍する高校生や専門学校生も
受験できるようになった。2級は、3級取得後に受験できる。
日本建築専門学校では昨年度、117人中72人が3級、
うち27人は2級も取得。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081017-OYT8T00254.htm

日本の大学が国際評価で見劣りするのは

(サイエンスポータル 2008年10月14日)

英国のザ・タイムズ紙系列の専門誌
「ザ・タイムズ・ハイヤー・エデュケーション・サプリメント」が発表した、
ことしの「世界のトップ200大学」に、
東京大学など日本の10大学が入っている。

日本の大学を上位から並べると(かっこ内が世界の順位)、
1位が東京大学(19)、2位京都大学(25)、3位大阪大学(44)、
4位東京工業大学(61)、5位東北大学(112)、
6位(120)名古屋大学、7位(158)九州大学、8位(174)北海道大学、
9位(180)早稲田大学、10位(199)神戸大学の順。

昨年の世界ランクと比較すると、順位が変わらない、下がった大学が大半で、
ランクを上げたのは、90位から61位まで上昇した東京工業大学と、
46位から44位に上がった大阪大学だけ。

トップ10にランクされたのは、1位から順にハーバード大学、イェール大学、
ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、カリフォルニア工科大学、
インペリアル・カレッジ・ロンドン、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、
シカゴ大学、マサチューセッツ工科大学、コロンビア大学で、
米、英両国の大学で占められている。

日本の大学は、国際的に見て何が劣っているのだろうか?
最も目立つのは、外国人スタッフの数。
もっともよい大学を100とした場合、東京大学が27、京都大学が30、
大阪大学が25、東京工業大学が25、東北大学が38。
世界のトップ5、ハーバード大学、イェール大学、ケンブリッジ大学、
オックスフォード大学、カリフォルニア工科大学の数値が、
87、89、98、96、100であるのと比べ、どうしようもない差。

次に数値が低いのは、外国人学生の数。
世界のトップ5大学が81、71、95、96、93に対し、
日本の上位5大学は40、26、28、45、31。

スタッフ当たりのサイテーション(論文被引用率)指数では、
日本の上位5大学が、78、91、70、87、63、
世界のトップ5大学(100、98、89、85、100)に対して、まずまず健闘。

「Peer Review」(同分野の専門家による評価)でも、
日本の上位5大学が、100、99、90、77、63と世界のトップ級ないし
そこそこのレベルにあり、足を引っぱっている要因が何かは明らか。

大学に対するこの種の評価に対しては、
「客観性を重んじているというものの、一面しかとらえていない。
主要な評価になるのは疑問」(ノーベル物理学賞受賞、
小林誠・高エネルギー加速器研究機構名誉教授)といった声も聞かれるが。

「ザ・タイムズ・ハイヤー・エデュケーション・サプリメント」の世界大学ランキング
http://www.timeshighereducation.co.uk/hybrid.asp?typeCode=243&pubCode=1

http://www.scienceportal.jp/news/review/0810/0810141.html

2008年10月20日月曜日

スポーツ薬剤師制度を創設

(共同通信社 2008年10月15日)

日本アンチ・ドーピング機構は、ドーピング防止規則や
スポーツ知識に精通した薬剤師を養成する
「公認スポーツファーマシスト制度」を創設すると発表。

日本では、ドーピング違反は知識不足や不注意から、
禁止薬物を使用してしまう例が目立つため、
競技者や指導者に対して適切な情報提供と啓発活動を実施できる
専門家の育成を目指す。

来年3月から薬剤師の資格を持つ希望者を募集、
同年4月から約1年の間に講習会を受講、認定証を発行。
問い合わせは同機構、電話03(5963)8030。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=81329

手放しで喜べないノーベル賞ラッシュ 日本に「狭く深く」の軽視はないか

(日経 10月14日)

理科系研究者のノーベル賞ラッシュにわいた日本だが、
日本人の受賞者の数をめぐり、国内外の評価が分かれた。
日本の多くの新聞は、「ノーベル物理学賞に日本人3氏」と1面を飾ったが、
世界の有力紙は「米国人が1人、日本人が2人」と報道。
物理学賞の選考にあたるスウェーデン王立科学アカデミーの発表でも、
日本国籍は2人。

日本国籍の益川敏英氏、小林誠氏は、留学経験のない「純国産コンビ」だが、
米国籍の南部陽一郎氏は、物理学の研究を続けるために米国に帰化し、
シカゴ大学で半世紀に渡り研究に打ち込んで、シカゴ大学名誉教授に。
ノーベル化学賞を受賞した下村脩氏は、日本国籍だがプリンストン大、
ウッズホール海洋生物学研究所等で研究生活を送り、
現在はボストン大名誉教授。

南部氏、下村氏ともに、自身の研究のために米国に拠点を移し、
米国での研究成果が今回の受賞につながった。

今回の日本人受賞者は、日本の報道によれば4人、
日本国籍を基準とすれば3人。
しかし、本来は、受賞の対象となった研究業績がどこで生まれたかを
基準とすべきであり、「日本」の受賞者は2人に。
外国人が、国内の研究拠点での業績で受賞すれば、
日本の受賞にカウントすべき。

国内外の報道をきっかけに、「頭脳流出」に対する問題意識が高まり、
よりよい研究環境を求めて国境を越える研究者を念頭に、
世界の頭脳が日本に集まる「頭脳循環」の実現のために
魅力的な研究環境を整えるべきとの議論が高まりつつある。

日本人が海外で活躍することよりも、日本という「場」が生み出す価値を
高めるための「GDP的発想」がより重要。
世界の先端研究者を惹きつけるべき大学をみると、
日本の競争力は実に心許ない。

国際的な高等教育情報機関であるイギリスのQS(Quacquarelli Symonds)は、
2008年版「世界大学ランキング」を発表。
研究者による評価、論文の引用数など研究力を中心に、
教育力、企業からの評価、留学生比率なども加えたうえでの総合評価。

1位は米ハーバード、2位は米エール、3位は英ケンブリッジ、
4位は英オックスフォードで、15位までは米英が独占。
20位までに米国が13校、英国が4校入るなか、
日本からは東京大の19位が最高、100位以内でも京都大(25位)、
大阪大(44位)、東京工業大(61位)の計4校。

この種のランキングは、総合評価ではなく専門分野ごとに評価すべきだが、
そのような評価を行えば、理系では日本の大学の評価がより高く、
文系ではより低くなる傾向が予想。

筆者の専門である経済学であれば、ノーベル賞受賞者数の実績と同様、
米国のランキング独占がますます強まり、受賞者がゼロの日本は
目を覆いたくなる結果となるだろう。

筆者は、日米双方の大学院に在籍したが、教員・学生双方の観点から、
日本の大学には改善の余地が多いと感じている。
大学改革のための処方箋リストは別の機会にゆずるとして、
日米の大きな相違は、雇用の仕組み。

米国には、教授としての終身雇用に向けた
厳しい競争システム(tenure制度)があり、
その間に査読論文の質と量、教育への貢献等さまざまな評価が加えられるが、
日本ではそのような仕組みが広がらない。
いったん採用されれば、やがては教授に昇進するのが原則。
国内競争がうまく機能しなければ、国外との競争に打ち勝つことは難しい。

専門課程のあり方にも違和感がある。
大学・大学院での新設学科・研究科が目白押しだが、
学際、融合、超領域等の名前を冠し、専攻する学問領域が
的確に想像しにくいものが多い。

筆者の関係する政策分野でも、「公共政策」、「総合政策」といった
政策系の学部・大学院が広がっている。
しかし、「政策」は学問ではない。
利害関係者との調整や国民への説明等を要する、優れて実践的な作業。
この「政策」がどうあるべきかを分析するのが、政策科学とも言うべき学問で、
その性質上、理系・文系にまたがる複合領域となる。

政策系の学生と接すると、ある種の傾向を感じる。
専攻を聞くと、「環境が専門です」などと言う。
「環境」は学問の対象であって、それ自体が学問ではない。
理学、工学、医学、法学、経済学など、様々な専門的アプローチがあるはず。
そこまで尋ねると、満足な答えはなかなか返ってこない。
クールビズやヒートアイランド、洞爺湖サミットなど、
ジャーナリスティックな意味で関心を呼ぶ政策の話題で饒舌になる。

専門家が集う学会にも、同様の傾向がある。
境界領域を標榜し、響きはよいが学問的基礎のあいまいな名称の学会が
次々に発足し、日本の学会は乱立気味。
主導権争い等により、同じ専門領域に2つも3つも学会が存在する。
国際的に通用する質を維持した査読付の学会誌を備えた学会は数少ない。

基礎の弱いうちから、いきなり境界領域に飛び込んで成果を挙げるのは無理。
水は、最初はチョロチョロ流れて細く地面を刻み、水量が増してくるにつれて
深さを増し、やがて勢いを得て幅を広げて川となる。
最初から幅の広い地面を覆おうとすれば、水が浅くなり、
時には干上がってしまう。

自分の軸となる学問的な分析ツールが確立してこそ、
境界領域という他流試合にも臨める。
自分と相性の良い「狭い」学問領域をできるだけ早く選択し、
「深く」掘ることで自然と水量が溢れ、幅を広げて境界を侵食していく。
伝統的な学問領域でアイデンティティーを確立するのは古臭く、頭が固くなり、
最先端の学際領域に対応できなくなるというのは全くの誤解。

創造は、知識の企図しない融合であり、
先人の知識を消化しなければ何も生まれない。

理解に努力を要する専門知識がないがしろにされがち。
組織内では、調整に長けたジェネラリストが重用され、
入門書が得意で視聴者に簡単に面白く伝えられる学者が引っ張りだこに。
政治家も、得意分野をつくれば族議員と批判され、
小選挙区制で年金、食品、税制、道路から拉致問題まで
何でもカバーしなければならない。

討論番組や記者会見などでも、勉強不足の質問者やコメンテーターが、
攻撃は最大の防御とばかりに専門家の話を遮って、
まるでクイズのように「白なのか、黒なのか」と迫る光景をよく目にする。
「分かりにくい」と一刀両断して思考停止する前に、
もう少し辛抱強く専門家の話を聞き、理解しようと努力できないか。

新しい理論や技術を生み出し、社会を進歩させるのは専門家の役割。
政策に新たな潮流や手法をもたらすのも、「薄く広く」の評論ではなく、
「狭く深く」の専門知識である。
ノーベル賞ラッシュで思い出した世界級の専門家に対する畏敬の念を、
もう少し身の回りの「本物」の専門家にも振り向け、
じっくり耳を傾けてもいいのではないだろうか。

-筆者紹介-
今川 拓郎(いまがわ たくお)
総務省 情報通信国際戦略局 情報通信経済室長

http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT2I000014102008&landing=Next

ものづくり(7)現場経験 教師を変える

(読売 10月16日)

高校の工業科の教師が、ものづくりの現場で長期研修を積む。

ヘルメットに作業服姿の男性2人が、工作機械メーカー中村留精密工業
(石川県白山市)の工場で、組み立てが終わった
最新型の複合旋盤機の精度検査に取り組んでいた。
県立羽咋工業高校電子機械科の宮前信彌教諭(31)と
七尾東雲高校テクニカル工学科の一谷直人教諭(39)。

社員の指導を受けながら、宮前教諭は、マイクロ・メートル単位で
機械が正確に動くかどうかを確かめるため、測定器を機械の中に取り付ける。
一谷教諭は、機械が削った金属が、仕様どおりの寸法かどうかを確かめる。
温度によってサイズが変わらないように、
工場内の室温は常に23度に設定。

2人は9月から11月末までの3か月間、同社で研修を受けている。
作業の流れを教わるだけでなく、コンピューター制御の複合旋盤や
昔ながらの旋盤を使い、実際に金属を加工する実習の時間もある。

旋盤技術を教師になってから独学で身につけた宮前教諭は、
「知らないことだらけ。
学校ではミリ単位の精度を出すのも大変だが、
せめて100マイクロ・メートルの精度で作れるようにしたい」

石川県教委が、工業高校教諭を企業研修に派遣し始めたのは昨年度から。
対象は、機械系の学科がある8校の若手、中堅教諭。
日進月歩で変化する専門的な技能を身につけてもらうとともに、
その基礎となる旋盤の職人技を教わり、学校で生かすのが狙い。

2人ずつ年3回、中村留に通わせる。
3年間の事業で計18人が受講。
研修中は、臨時講師が授業を受け持つ。

受け入れ側の中村留の負担は大きい。
指導役には、専任の社員がつく。
少なくとも1年に9か月は社員が取られることに。
県教委と一緒に、研修カリキュラム作りに知恵を絞り、
教師が試作する金属模型の材料費も会社負担。

それでも受け入れるのは、「今の教育に風穴を開けたいからだ」と
村本英二工場長(58)。
「大学に進学できないから働く、という工業高校の生徒が増えてきているが、
企業は優秀で意欲を持った技能者が欲しい。
先生にはその気になってもらわないと困る」と語気を強める。

村本さんに言わせると、「学校の先生には教養はあるが、
品質やコスト、納期を念頭に置いた実際のものづくりの知識がない。
ペーパードライバーが運転を教えているようなもの」。
現場経験から、社会がどのような人材を求めているかを体感させたい。

これまでの研修修了者からは、「今の企業がどうなっているか、
体験をもとに授業ができるので指導しやすくなった」、
「就業規則や現場での服装、安全についての指導など、
体験した実社会の厳しさを進路指導で役立てたい」といった感想。

「先生の考えが変わってくれれば、研修は成功」(村本さん)。
長期研修は、教師の意識改革にもつながっている。

◆工業科の教員免許取得

文部科学省が認定する大学の学科で、特定の科目を履修することが必要。
機械システム工学、電気電子工学、生命工学など、
様々な学科が科目を開設。
旋盤操作など、学習指導要領にある内容は、
少なくとも2単位以上の履修を課しているが、
実際に旋盤に触れて実習を行っているかどうかは大学によって異なる。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081016-OYT8T00170.htm

太陽光、次代照らす〈環境元年 太陽ウオーズ1〉

(朝日 2008年10月6日)

「欧州のフライパン」と称されるほど、スペイン南部の
アンダルシア地方は日差しが強い。乾いた荒れ地を太陽が焦がす。
セビリア郊外に、一辺10メートルの巨大な鏡が624枚並んでいる。
角度を変えて太陽の動きを追い、高さ115メートルの塔に反射光を集める。
光が集中する一点は、まぶしくて直視できない。

総合テクノロジー大手アベンゴアグループが造った「PS10」と呼ばれる
集光型の太陽熱発電所(1万キロワット)。
世界初の商業プラントで昨年、始動。
太陽熱で水を蒸気に変え、タービンを回す。火力発電と同じ仕組み。
担当の技術者フェルナンデス氏は、
「この地域は快晴が多く、年間280日も運転できる」。

すぐ横にある2倍規模のPS20も近く運転を始め、
太陽熱によるさまざまな発電方式の施設を建設し、
12年には8平方キロの敷地に計30万キロワットの総合発電所をつくる。
日本の黒部第四発電所級の大型水力発電所の出力に相当し、
太陽電池のパネルを10万軒の住宅につけた量にあたる。

太陽熱発電は、太陽利用の幅を広げる先端技術。
スペインは、光を電気に換える太陽電池による発電でも急伸し、
世界を驚かせている。

太陽電池の累積導入量は、05年には6万キロワットだったのが、
07年には68万キロワットと増え、今年末には180万キロワット、
全発電量の0.5%ほどになる見通し。

05年にドイツに抜かれて導入量世界2位となった日本では今年、
20万キロワットほどの増加にとどまるとみられ、
スペインでの増え方は日本の約5倍。

スペインは、風力発電が約10%を占める風力大国。
欧州では、風力が拡大して一般的な電源の一つとなる一方、
立地の制約も出てきたため、支援の力点は太陽光に移りつつある。
日差しに恵まれたスペインは、その流れの最前線。

発電での二酸化炭素(CO2)排出量は、太陽電池の場合、
製造過程で出る分を含めても石炭火力の18分の1。
地球温暖化対策として有効なのに加え、原油の高騰もあり、
最近の世界の太陽電池市場は年40%の伸び。
07年の生産量は370万キロワットで、03年の5倍。

日本のトップメーカーであるシャープの浜野稔重副社長は、
「石油が枯渇する時代に、欧州は太陽光発電を『現代の油田』と考えている」。

欧州には、日差しの強い北アフリカ諸国で発電して南欧に電気を送る
「スーパー送電網」計画も。次に狙うのは、「サハラ砂漠の太陽」。

石油にどっぷりつかってきた米国でさえ、
エネルギー省が太陽電池の技術開発支援などに乗り出した。
エネルギー資源の中東依存からの脱却という意味も。
州レベルでも、「100万戸ソーラー・ルーフ計画」(カリフォルニア州)
といった強力な支援策を設ける動きが続く。

欧州の業界団体などの推計では、世界の発電量のうち太陽光は
30年には最大14%を占め、関連産業の市場規模は、
デジタルカメラや携帯電話などデジタル家電全体に匹敵する約70兆円。
市場は爆発前夜にある。

http://www.asahi.com/eco/TKY200810050204.html

2008年10月19日日曜日

スポーツ21世紀:新しい波/279 ビデオ判定/2

(毎日 10月11日)

序盤から優勢だった試合は、誤審と疑われた判定で、
王座陥落の危機へと一変した。

今年1月の世界ボクシング評議会(WBC)バンタム級タイトルマッチ。
チャンピオンの長谷川穂積(27)は、試合中に右目の上を切って出血。
テレビの再生映像は、イタリア選手の頭突き(バッティング)を
明確に伝えたが、レフェリーの裁定では「パンチによるカット」。

出血は徐々に悪化し、試合続行不可能となれば、長谷川はTKO負け。
結局、判定勝ちを収めたものの、ビデオ判定の必要性を
改めて印象づける契機になった。
WBCは6月から、バッティングかどうかの判断について、
ビデオ判定を試験的に導入。
ラウンド間などに映像のリプレーで確認。

技術の多様化と高速化が進むボクシングで、
レフェリーへの負担は年々増え、一人で対処するのは難しくなった。
スロー再生など映像技術の高度化を背景に、
見る側の目も厳しさを増している。
日本ボクシングコミッション(JBC)事務局長の安河内剛さん(47)は、
「昔は(誤審も含めた)人間臭さを許してきたんだけど……。
ファンは公平性、透明性を強く求めるようになった」と時代の変化を感じている。

近年、世界的にジャッジへの不信感が強まり、
WBCは06年11月、四、八回の終了後に採点の途中経過の公開を始めた。
ビデオ判定も含め、正確さが問われる風潮への対応。

ラグビー・トップリーグは昨季から、レフェリーがプレーを止めたときに
時計をストップさせるタイムキーパー制を採用。
数々のドラマを生んだ「ロスタイム」は消え、試合時間は、
レフェリーの時計と連動して電光掲示板などに明確に表示。
今季からは、国際基準に合わせるなどの理由で、
一部の試合でトライの認定にかかわるシーンでのビデオ判定を導入。

ビデオ判定は、ジャッジに説得力を持たせる手段でもある。
あいまいさを許容しない欲求が、観客と競技のかかわり方さえ変えている。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

インタビュー・環境戦略を語る:東京海上日動火災保険・隅修三社長

(毎日 10月13日)

地球温暖化に伴う環境の激変は、台風や豪雨などの自然災害の
保険業務を取り扱う損害保険会社にとっても重大な問題。
国内トップの東京海上日動火災保険は、
99年から東南アジアなどでマングローブ植林活動を続けている。
隅修三社長に取り組みを聞いた。

-マングローブ植林活動を始めるきっかけは?

◆99年に会社創立120周年を記念して、社員からアイデアを募ったところ、
1000ほどのアイデアが寄せられた。
世界で活動する企業として、地球環境保護のために植林をすることに。
年1~2回、社員や代理店の職員とその家族からボランティアを募り、
タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、フィジーの6カ国で
現地の人々と植林。

-2月にタイを訪れたが、植林を通してどんなことが見えたか?

◆植林する海岸線は、エビの養殖のために伐採して荒れていた。
植林すると、地元の人たちの環境に対する認識が高まり、
経済の活性化にもつながる。
子供たちの素直で明るい笑顔には、心洗われた。
昔の日本にあった風景。

-社員の意識にも変化があるか?

◆ボランティア旅行は、基本的に自費だが、参加希望者が列をなす。
参加者は帰国後、さらに意識が高まり、小学校で子供たちに
植林の模様を伝える講師などもしている。

-07年に発表した会社の環境戦略のコンセプトは?

◆これまで社内で個別に取り組んできた対策を、系統立ててまとめた。
災害リスクを保険商品に組み込んで販売している我々にとって、
気候変動のリスクを減らすことは最大のテーマで、
東京大学や名古屋大学などと共同研究。

-保険の契約書に当たる約款を発行せず、インターネット上で閲覧する
「ウェブ約款」はユニーク。

◆保険は、商品が複雑なこともあり、説明に大量の紙を使う。
約款を、インターネットで閲覧してもらうようにした。
来年から、「紙は不要」と申し出てもらうと、マングローブを2本植林。
二重、三重に、温暖化防止の効果が生まれる。

-今後の環境問題への取り組みは?

植林活動は、100年続けることを目指す。
10年継続すると、植林面積は5300ヘクタールと大きなスケールになり、
年間3万トンの温室効果ガスを吸収。
あと2年もすれば、東京海上グループで年間に排出する7万トンを吸収。
子供、孫の時代に、どれだけいい環境を残せるかは重大な責務で、
地道な活動で貢献したい。
==============
◇すみ・しゅうぞう

早稲田大理工卒、70年東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)入社。
07年社長、ミレア(現・東京海上)ホールディングスの社長も兼務。
山口県出身。61歳。

http://mainichi.jp/select/science/news/20081013ddm008020021000c.html

合併協の設置議案採決へ 大船渡市と陸前高田市

(岩手日報 10月15日)

大船渡市は市議会全員協議会で、陸前高田市との合併協議会の
設置議案について、27日に臨時会を招集、同日採決する方針。
陸前高田市議会も同日、採決を行う見通し。
合併協設置は、両議会での可決が条件。

陸前高田市議会内は、依然として賛否両論があり、可決されるかは微妙。
甘竹勝郎大船渡市長は、市議会全員協議会の冒頭、これまでの経過を説明、
27日の提案を表明。
「合併協では合併の是非を含めて話し合いたい」と、可決に理解を求めた。

市は、▽両市の合併に関する協議、▽新市基本計画の作成―などの
事務を定めた合併協規約案を説明。
一部議員が、陸前高田市議会内で合併協設置に反対があることに触れ、
「将来の合併に遺恨を残すことがあってはならない」と意見する場面も。

陸前高田市は、20日に臨時会を招集。
初日に合併協設置議案を提案し、27日に採決する見通し。
同市議会(20人)では、合併への世論が盛り上がっていないことや、
住田町を除く2市の「先行合併」への反発なども根強い。

大船渡市議会(26人)は、合併協設置自体には大半の議員が賛成、
陸前高田市議会の動向を踏まえ、
「大船渡だけが簡単に賛成とも言いにくい」との声。

陸前高田市の市民有志の直接請求で始まった今回のケースでは、
両市議会が否決すると協議は終了。
仮に、大船渡市議会だけが可決すると、
陸前高田市長または同市の有権者の6分の1以上の署名(3442人以上)
による請求で住民投票が実施され、合併協設置の可否を決める。

両市議会では今後、各会派などで意見調整が行われる見通しで、
議論の行方が注目。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20081015_1

ものづくり(6)高専と連携 教科特設

(読売 10月15日)

小中学校と高専の連携が始まった。

「3・5、0・1……」
中学生が、細かい数字をパソコンに打ち込んでいた。
パソコンに、タイヤ付きの小さなロボットをつなぎ、
タイヤがプログラム通り動くように入力していた。
ロボットを廊下に持っていって走らせる。
箱の周りを半周させるのが課題だが、ロボットの動きを見た生徒は
「0・2秒長かったか」とつぶやき、再びパソコンの前に座った。

東京都品川区八潮地区の区立小中学校5校を統合して、
4月にできた小中一貫校「八潮学園」の7年生(中学1年生)にできた
教科「ものづくり」の時間。「技術・家庭」とは別に、週1時間設けられた。

八潮地区の近くに、東京都立産業技術高等専門学校品川キャンパスがある。
これまでも小中学校と交流はあったが、八潮学園ができるのを機に、
都教委と品川区教委が、「ものづくり教育モデル」プログラム開発・実施の
基本協定を締結した。
7年生が、4月からロボットの組み立てや、紙飛行機製作に取り組んできたほか、
中学3年にあたる9年生には、毎週金曜に高専に出向き、
高専の設備を使って授業を受ける選択科目もできた。

ロボット製作を担当する高専の黒木啓之准教授(40)は、
「単純にこれをやれという授業では、ロボットで遊んで楽しいだけ。
ヒントを与えながら、何でそうなるのかを考えさせることを意識している

「普通は、授業でロボットなんて使えないので、新鮮。
何度もやり直すのも悔しいけど、楽しんでいる」と7年生の相原陵介君(13)。

学園では小学生でも、ものづくり教育に力を入れる。
1~4年は、図工や理科の時間のうち年間5~10時間程度、
ものづくりを意識した時間とし、うち半分は高専の教員が授業を担当。

7日には、2年生が風車などを作った。
高専の教員には、「風をうまく取り込むために、どう切り込みを入れればいいか」
といった、理論的な指導も期待。

5、6年生にも週1時間、特設教科を作り、うち10時間程度は
高専の教員が指導することになった。
細かい授業の中身は現在、両者で話し合いながら詰めている段階。

9年間を通じて、ものづくりを重視したカリキュラムについて、
「小学校の教諭だけでは、ものづくりと言っても
限られたものしかできないので助かっている」と西島勇校長(53)。

都教委のものづくり教育推進検討委員会が昨年8月にまとめた報告書は、
ものづくり人材開拓のため、
小中学校と工業高校、高専の連携強化も打ち出した。
八潮学園の取り組みは、その先駆け。
学校選択制をとる品川区で、ものづくりを重視する方針にひかれて、
他の地区から入学する生徒も出始めた。
これまでのつながりもあって、学園から高専への受験生も増えている。
滑り出しは順調と言えそうだ。

◆品川区の小中一貫教育

9年間の義務教育を4年・3年・2年に分けたカリキュラムを作り、
全区立小中学校で2006年から導入。
一貫校の形をとるのは、八潮学園、日野学園、伊藤学園の3校。
13年までにさらに3校新設する計画。
日野学園では英語教育を重視するなど、区教委の方針に沿って、
各校が特色を出そうとしている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081015-OYT8T00260.htm