2008年10月21日火曜日

ものづくり(8)伝統建築守る即戦力に

(読売 10月17日)

日本の伝統建築を通じて、ものづくりの奥深さを教える学校がある。

富士山のすそ野に広がる校内の実習棟には、
木材が所狭しと積み上げられていた。
静岡県富士宮市の日本建築専門学校。
日本の伝統建築を受け継ぐ人材を育てる、国内でも数少ない学校。

「真上からしっかりにらんで、線を引かないと駄目だぞ」。
ヒノキに定規をあて、切り落とす部分にペンで線を書き込む学生に、
担任の長谷川幸基教諭(40)が声をかける。

実習棟の隅では、建物の骨格部分が組み上がりつつある。
学生6人が木を切ったりカンナをかけたりしていた。
授業の一環で行われている社の建築。
市内の浅間大社から依頼を受け、今年度中の完成をめざしている。

リーダー役は3年生の加藤靖さん(20)。
木材は、湿度や気温の影響を受け、微妙に伸縮してしまう。
「図面通りに行かないことも多いが、そこが面白い」。
畳屋の次男。兄は家業を継いでおり、「自分が建てた家に兄の畳を入れたい」

同校の創立は、1987年。
同県清水市(現静岡市)内で建築会社を営んでいた
菊池安治・初代理事長(故人)が私財を投じた。
大学で建築を学んできた新入社員が、木材の種類すら知らず、
「このままでは、日本の伝統建築は廃れる」と強い危機感があった。

4年制で、ほとんどの学生が寮生活をしながら、設計や構造力学など、
木造建築に必要な知識と技術の習得に励んでいる。
大工を目指す学生が多いが、これまで600人を超える卒業生には、
建築士もいれば文化財の保全などに携わる人も。

カリキュラムの中には、日本建築の良さを実感させる
茶道の授業や造園の実習も。
木造校舎には茶室も備えられ、1、2年の茶道は必修。
「建築は、器を造るだけの作業ではない。周囲とのかかわりを理解し、
人が住む空間としての建築を学んでほしい」と長谷川教諭。

だが、伝統建築を志す学生の数は伸び悩んでいる。
同校の在校生は、定員160人(1学年40人)に対して86人。
建築業界の不景気も影響して、ここ数年は定員割れが続く苦しい状況。

しかし、「第一線で活躍できる技術者の育成」という学校の目標に変わりはない。
今年からは、学生たちの競争意識を高めるため、
建物の設計図をコンペ形式で競い合う取り組みを始めた。

テーマは、「9坪(約30平方メートル)の家」。
若い夫婦が新婚生活を始める一戸建て賃貸住宅で、
子供が成長した時のために増築しやすいことなど、細かな条件が設定。
2年生18人が設計図を作り、最優秀作は、
来年、1、2年生が建てる家の設計図になる。

「人より秀でたものを作ろうとする意識が、技術を向上させてくれる」と、
学校の1期生でもある長谷川教諭。
知識と技術を兼ね備えた即戦力たちが、これからも日本の伝統建築の
将来を支える存在になる。

◆建築大工技能士

職業能力開発促進法に基づく国家資格で、1~3級がある。
2004年から、3級は建築科などに在籍する高校生や専門学校生も
受験できるようになった。2級は、3級取得後に受験できる。
日本建築専門学校では昨年度、117人中72人が3級、
うち27人は2級も取得。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081017-OYT8T00254.htm

0 件のコメント: