(読売 10月17日)
日本の伝統建築を通じて、ものづくりの奥深さを教える学校がある。
富士山のすそ野に広がる校内の実習棟には、
木材が所狭しと積み上げられていた。
静岡県富士宮市の日本建築専門学校。
日本の伝統建築を受け継ぐ人材を育てる、国内でも数少ない学校。
「真上からしっかりにらんで、線を引かないと駄目だぞ」。
ヒノキに定規をあて、切り落とす部分にペンで線を書き込む学生に、
担任の長谷川幸基教諭(40)が声をかける。
実習棟の隅では、建物の骨格部分が組み上がりつつある。
学生6人が木を切ったりカンナをかけたりしていた。
授業の一環で行われている社の建築。
市内の浅間大社から依頼を受け、今年度中の完成をめざしている。
リーダー役は3年生の加藤靖さん(20)。
木材は、湿度や気温の影響を受け、微妙に伸縮してしまう。
「図面通りに行かないことも多いが、そこが面白い」。
畳屋の次男。兄は家業を継いでおり、「自分が建てた家に兄の畳を入れたい」
同校の創立は、1987年。
同県清水市(現静岡市)内で建築会社を営んでいた
菊池安治・初代理事長(故人)が私財を投じた。
大学で建築を学んできた新入社員が、木材の種類すら知らず、
「このままでは、日本の伝統建築は廃れる」と強い危機感があった。
4年制で、ほとんどの学生が寮生活をしながら、設計や構造力学など、
木造建築に必要な知識と技術の習得に励んでいる。
大工を目指す学生が多いが、これまで600人を超える卒業生には、
建築士もいれば文化財の保全などに携わる人も。
カリキュラムの中には、日本建築の良さを実感させる
茶道の授業や造園の実習も。
木造校舎には茶室も備えられ、1、2年の茶道は必修。
「建築は、器を造るだけの作業ではない。周囲とのかかわりを理解し、
人が住む空間としての建築を学んでほしい」と長谷川教諭。
だが、伝統建築を志す学生の数は伸び悩んでいる。
同校の在校生は、定員160人(1学年40人)に対して86人。
建築業界の不景気も影響して、ここ数年は定員割れが続く苦しい状況。
しかし、「第一線で活躍できる技術者の育成」という学校の目標に変わりはない。
今年からは、学生たちの競争意識を高めるため、
建物の設計図をコンペ形式で競い合う取り組みを始めた。
テーマは、「9坪(約30平方メートル)の家」。
若い夫婦が新婚生活を始める一戸建て賃貸住宅で、
子供が成長した時のために増築しやすいことなど、細かな条件が設定。
2年生18人が設計図を作り、最優秀作は、
来年、1、2年生が建てる家の設計図になる。
「人より秀でたものを作ろうとする意識が、技術を向上させてくれる」と、
学校の1期生でもある長谷川教諭。
知識と技術を兼ね備えた即戦力たちが、これからも日本の伝統建築の
将来を支える存在になる。
◆建築大工技能士
職業能力開発促進法に基づく国家資格で、1~3級がある。
2004年から、3級は建築科などに在籍する高校生や専門学校生も
受験できるようになった。2級は、3級取得後に受験できる。
日本建築専門学校では昨年度、117人中72人が3級、
うち27人は2級も取得。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081017-OYT8T00254.htm
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