2008年10月24日金曜日

スポーツ21世紀:新しい波/280 ビデオ判定/3

(毎日 10月18日)

フェンス上部に当たった打球が、グラウンドへとはね返った。
一塁塁審は、ファンが触ったとみて二塁打と判断したが、
ゲームは4分余り中断。ビデオ判定の末、本塁打に変更。
9月19日、米大リーグのレイズ-ツインズ戦で、聖域はあっけなく侵された。

「審判の判断に基づく裁定は最終のもので、異議を唱えることは許されない」。
これは、球界の常識だ。
だが、米大リーグは今年8月下旬、本塁打かどうかの判断に限定して
ビデオ判定を導入。
米球界でルール改正があると、日本球界も同調するケースは多いが、
セ、パ12球団で結論には至っていない。
あるセ・リーグのベテラン審判は、「導入しても、判定は別の人にしてほしい。
私たちは一度判定したんだから」

一方、ビデオ判定と審判の権威を両立させた競技もある。
15人制ラグビーは、専任のビデオレフェリーが、ゲームの流れ、
会場の雰囲気による先入観に影響されないように、
グラウンドから隔離された場所で待機。
判定の要請があると、テレビのディレクター、レフェリーとやりとりし、
トライを見極めるための映像を指定して繰り返し見る。
ビデオレフェリーの報告を受けたレフェリーが判定を下す。
国際舞台で活躍する国内初のプロレフェリー、平林泰三さん(33)は、
「ビデオで正しい判定を下すという意味で、審判の権威は逆に守られた」

ただ、ハイテク機器の行き過ぎた導入を警戒する声も強い。
スポーツライターの玉木正之さん(56)は、
「レフェリーは、元々両チームの主将が仲裁を依頼した人。
お願いする相手が、機械になっていいのか。
判定しにくい球場の構造を改善するとか、他にやることはある。
スポーツは本来、遊び。おおらかさを残してほしい」

多くの競技で定着する流れにあるビデオ判定だが、
レフェリーが頼り切るようになれば、「見る目」が成長しない恐れも。
その利点を取り入れつつ、いかにレフェリーの威厳を維持していくのか。
運用のバランスが問われる段階に入っている。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

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