2008年10月22日水曜日

ものづくり(9)熟練社員「先生」に変身

(読売 10月18日)

ものづくりのベテランを再教育する試みがある。

シャープ、TDK、キヤノン、アサヒビール、パナソニック、
ダイキン工業、三菱重工業。
大手メーカーで、ものづくりの前線に立ってきたベテラン社員7人が、
東京・本郷のビルにある東京大学ものづくり経営研究センターに集った。
「ものづくりインストラクター養成スクール」4年目の初授業。

センター長で経済学研究科の藤本隆宏教授が、
トヨタやフォードの例を挙げながら、製品競争力を説明。
「原材料がどう加工されていくか、モノの流れを時間と空間で
書いて把握することが大切」。
現場で改善指導する時の要点を、受講生はうなずきながらノートに書き込む。

佐藤裕三さん(47)は、TDKでカセットテープの製造に携わってきた。
現在は、生産技術開発センターの課長。
テープづくりで得た効率的な生産方式を、他事業へ移植できないか模索中で、
社命による受講。
「内容はわかっていても、整理して説明してもらうことで、
ものづくりをより理解できる。会社に戻って説明しやすい」

斉藤茂さん(60)は、キヤノンでプリンターの組み立て・加工現場の管理職。
今春、定年退職してキヤノンに再雇用され、様々な生産拠点の支援に回る。
「受講生の会社やつくってきたものが皆違うので、参考になることも多い」

週末中心に2か月余りで20回、朝から夕方まで開講し、
コストや生産性、工程管理、コンサルティングなどの基本を学んだ後、
現場での改善指導実習を経て討論。

スクールの開講は2005年度。
団塊世代が退職を始める、2007年問題への危機感が背景に。
ものづくりに熟練した団塊層が再雇用されても、
安い給料でかつての部下の下で働くことになると、士気が上がらない。
ライバルの外国企業で、<先生>と遇される例も。
一方、生産工程の改善指導を期待する中小企業は少なくない。

大企業でものづくりの現場が長い人は、品質や納期などの生産性の改善を
無意識に進めてきたが、自分たちの経験や知識に無自覚な場合も多い。
自社でしか通用しない用語で動いてきたことで、一般化して説明することも苦手。
そんな潜在的な<先生>を、インストラクターに育てるのが、スクールの役目

修了生42人は、個人でコンサルタントになったり、社内で後輩に指導したり、
数人で中小企業の工場に改善策を提案したり、活躍を始めた。

2年目まで国の助成があって無料だったスクールは、
3年目から受講料(300万円)が必要。
今年の受講生は、最多の年の半分以下。
企業は、中高年への投資に二の足を踏むかもしれないが、
長期的には日本のものづくりのためになる」と藤本教授。
その目的達成には、企業や行政の協力がいる。

◆2007年問題

第1次ベビーブーム(1947~49年)に生まれた団塊世代が
07年から定年を迎えるため、蓄積された技術やノウハウ、人脈が失われたり、
技能・技術の質が低下したりするといった問題が指摘。
経営への影響を軽減させるため、企業は再雇用制度の導入や、
「ものづくり塾」による技能伝承などの対策を取っている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081018-OYT8T00214.htm

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