(読売 10月18日)
ものづくりのベテランを再教育する試みがある。
シャープ、TDK、キヤノン、アサヒビール、パナソニック、
ダイキン工業、三菱重工業。
大手メーカーで、ものづくりの前線に立ってきたベテラン社員7人が、
東京・本郷のビルにある東京大学ものづくり経営研究センターに集った。
「ものづくりインストラクター養成スクール」4年目の初授業。
センター長で経済学研究科の藤本隆宏教授が、
トヨタやフォードの例を挙げながら、製品競争力を説明。
「原材料がどう加工されていくか、モノの流れを時間と空間で
書いて把握することが大切」。
現場で改善指導する時の要点を、受講生はうなずきながらノートに書き込む。
佐藤裕三さん(47)は、TDKでカセットテープの製造に携わってきた。
現在は、生産技術開発センターの課長。
テープづくりで得た効率的な生産方式を、他事業へ移植できないか模索中で、
社命による受講。
「内容はわかっていても、整理して説明してもらうことで、
ものづくりをより理解できる。会社に戻って説明しやすい」
斉藤茂さん(60)は、キヤノンでプリンターの組み立て・加工現場の管理職。
今春、定年退職してキヤノンに再雇用され、様々な生産拠点の支援に回る。
「受講生の会社やつくってきたものが皆違うので、参考になることも多い」
週末中心に2か月余りで20回、朝から夕方まで開講し、
コストや生産性、工程管理、コンサルティングなどの基本を学んだ後、
現場での改善指導実習を経て討論。
スクールの開講は2005年度。
団塊世代が退職を始める、2007年問題への危機感が背景に。
ものづくりに熟練した団塊層が再雇用されても、
安い給料でかつての部下の下で働くことになると、士気が上がらない。
ライバルの外国企業で、<先生>と遇される例も。
一方、生産工程の改善指導を期待する中小企業は少なくない。
大企業でものづくりの現場が長い人は、品質や納期などの生産性の改善を
無意識に進めてきたが、自分たちの経験や知識に無自覚な場合も多い。
自社でしか通用しない用語で動いてきたことで、一般化して説明することも苦手。
そんな潜在的な<先生>を、インストラクターに育てるのが、スクールの役目。
修了生42人は、個人でコンサルタントになったり、社内で後輩に指導したり、
数人で中小企業の工場に改善策を提案したり、活躍を始めた。
2年目まで国の助成があって無料だったスクールは、
3年目から受講料(300万円)が必要。
今年の受講生は、最多の年の半分以下。
「企業は、中高年への投資に二の足を踏むかもしれないが、
長期的には日本のものづくりのためになる」と藤本教授。
その目的達成には、企業や行政の協力がいる。
◆2007年問題
第1次ベビーブーム(1947~49年)に生まれた団塊世代が
07年から定年を迎えるため、蓄積された技術やノウハウ、人脈が失われたり、
技能・技術の質が低下したりするといった問題が指摘。
経営への影響を軽減させるため、企業は再雇用制度の導入や、
「ものづくり塾」による技能伝承などの対策を取っている。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20081018-OYT8T00214.htm
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