2010年12月25日土曜日

強い蚊と苦闘、急成長 インドネシアでフマキラー 「アジアビジネス」

(2010年12月17日 共同通信社)

デング熱やマラリアを媒介する蚊が生息する熱帯の国インドネシアに、
日本の殺虫剤メーカーのフマキラー(東京)が進出して20年。
日本に比べ、殺虫薬への抵抗力が非常に強い蚊に悪戦苦闘しつつも、
地道な営業努力などで主力商品である蚊取り線香の売り上げを伸ばし、
経常利益を5年間で18倍に増やした、という急成長ぶり。

「この国の蚊は、日本より5~10倍も薬への抵抗力があり、
日本向けの蚊取り線香はほとんど効かないことが、
2004年に分かった」とフマキラー・インドネシアの山下修作社長。

05年から、薬剤成分の濃度をコスト的に限界となる他社製品の
2倍まで上げた。
「蚊が強すぎて、消費者が実際に蚊取り線香を使う際、
効力の違いをそれほど体感できない」(山下さん)という壁に。

実際、殺虫効果は高いことを知ってもらうため08年から、
同国で最大の人口を抱えるジャワ島内の田舎の露店を
1軒ずつ地道に回るキャラバンセールを開始。
車両約50台を投入し、住民への試供品などきめ細かい営業を
展開し、コスト削減にも力を入れた。

その結果、同国全体の売上高は急増。
15年、売上高をさらに5倍に増やす野心的計画も立てる。

山下さんは、日本の衛生用品大手メーカーで、
インドネシアなどでの事業を立ち上げた経歴を買われ、
同社退職後の03年にフマキラーに部長職で入社。
インドネシアでの成功を高く評価、09年から同社ナンバー3の
東京本社の専務も兼任する。

人口約2億3千万人のインドネシアでは、
内需主導の経済成長が順調。
平均気温が高く、一年中蚊取り線香の需要もある。

山下さんは、「今後、蚊取り線香すら買えなかった貧困層が
買えるようになる。
今、蚊取り線香を買っている人は、電気蚊取りやスプレーを
買えるようになる。
伸び悩む日本市場に比べ、非常に有望だ」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/12/17/129970/

「高いと長生き」巡り論争 コレステロールを考える/上

(2010年12月16日 毎日新聞社)

日本脂質栄養学会が、「コレステロールは、高い方が長生きする」
とする見解をまとめ、波紋が広がっている。
高コレステロールは、心疾患などにリスクがある、
という従来の医学の常識を覆すもので、反論も相次いでいる。
コレステロールをどう考えるべきか?

◇脂質学会、常識覆す見解/動脈硬化学会は批判

現在の診断基準は、日本動脈硬化学会(北徹理事長)が
07年に定め、悪玉のLDLコレステロールが140mg/dl以上を
脂質代謝異常(高脂血症)とする。
多くの医療現場でこの基準に沿い、
治療や生活改善の指導が行われている。

日本脂質栄養学会は9月、
「長寿のためのコレステロールガイドライン」をまとめた。
学会理事長の浜崎智仁・富山大和漢医薬学総合研究所教授ら
15人で策定委員会を構成。
「総コレステロール値あるいはLDLコレステロール値が高いと、
日本では総死亡率が低い」とした。
全体は14章から成り、高コレステロールの方が
脳卒中を発症しにくいことなども記した。

特徴は、「総死亡率」との関連を重視した点で、
ガイドラインの名称にも、「長寿のための」と冠した。
浜崎教授は、「95年以降に公表された日本の五つの大規模な
臨床試験報告を見ると、40~50歳以上の集団では、
コレステロールが高くても、がんや脳卒中、心臓疾患など
総死亡率は増えていない」

大櫛陽一・東海大医学部教授らが解析した、伊勢原市の
「老人基本健診」受診者約2万2000人の追跡調査(95~06年)。
男性は、LDL140~159の群で総死亡率が最も低く、
女性では180以上で最も低かった。
大櫛教授は、「コレステロールが高めの方が、
肺炎やがんの死亡率が低い傾向にある」

浜崎教授は、「LDL140以上でも、たいていは薬を飲む必要はない」、
現在の診断基準が、「コレステロール降下薬の使い過ぎを促している」
と警告。

日本動脈硬化学会は、反論の声明をホームページに載せた。
日本脂質栄養学会が引用する論文を、
「ほとんどが査読(複数の研究者による検証)を受けた論文ではない」、
コレステロール値と動脈硬化性疾患の発症との関係は、
「多くの科学的検証を経た疫学的論文の一致するところ」と記した。

総死亡率との関連づけも、
「年齢や喫煙、高血圧などの要因を考慮して分析する必要がある」
動脈硬化性疾患の疫学を専門とする三浦克之・滋賀医科大教授は、
「肝臓疾患などでコレステロール値が下がることがあり、
コレステロールと総死亡に因果関係があるとするのは無理」と批判。

日本医師会も異議を唱え、
「高いリスクをもつ家族性高コレステロール血症の患者に、
服薬を中止している例があると聞く」などと憂慮を示した。

論争は、疫学データの選択や統計処理の問題も絡み、複雑化。
厚生労働省生活習慣病対策室も、
「学会同士の学問的な論争。国が何かを言う立場ではない」

日本脂質栄養学会のガイドラインを問題視しながらも、
コレステロールについて、さらなる議論を求める意見も。

日本疫学会のウェブ版で、自治医科大の調査データの解析結果が報告。
92年から男女1万2334人(平均年齢55歳)を対象、
約12年間追跡。
最初の5年間の死亡を除いても、総コレステロール値が
160(LDLだと約80)以下で脳出血、心不全、がんが多かった。

同データを解析した名郷直樹・東京北社会保険病院臨床研修センター長は、
脂質栄養学会のガイドラインを、「大きな問題がある」としながら、
「低コレステロールと死亡には関連がうかがわれる。
コレステロール降下薬の使い方を含め、もっと議論すべき」
………………………………………………………………………………
◇コレステロール

細胞膜やホルモンなどに欠かせない脂質。
肝臓で作られ、食事からも吸収される。
結合するたんぱく質の違いによって、善玉のHDLコレステロールと
悪玉のLDLコレステロールに区別、HDLはLDLを減らす働き。
日本動脈硬化学会は、「LDLが140以上」のほか、
HDLが40未満、中性脂肪が150以上も脂質代謝異常としている。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/12/16/129892/?portalId=mailmag&mm=MD101216_XXX

2010年12月24日金曜日

小学校受験(3)女子校「理念」で選ぶ

(読売 12月18日)

教室に2列に並べられた机に、母親と女の子が向き合い、
色とりどりの薄紙や割り箸を使って、花束を作っていた。
「次はどの色を使おうか?」と母親、
「このピンクがいいなあ」と娘。
一緒に手を動かしながら目と目を合わせ、にこやかに会話をしていた。

「幼児教育実践研究所・こぐま会」本部のある恵比寿本校での
行動観察の授業。
東京女学館小学校(同)を志望する年長クラスで、
入試で行われる「母子活動」に対応したもの。

年長は週2回、「基本」と「志望校別」の授業を1コマ(90分)ずつ、
計2コマ受けるのが平均的。
費用は、月額8万~10万円。
女学館小のクラスは、「志望校別」の3分の1を母子活動にあてている。

講師の桜井紀子さん(57)は、「女子校は、行動観察や面接で
母子関係の良好さを見る傾向が強い。
その意味で、親子一緒に工作や踊りなどを行う母子活動は
象徴的な試験。
出来不出来でなく、話し合い、協力して取り組めるかが問われる」

こぐま会では、1983年の設立以来、小学校での学習にスムーズに
進むための教育に重点を置く。
独自に開発した指導方法で、物に触れたり体を動かしたりしながら、
前後、左右といった位置関係を認識・言語化するなど、
体験を通した学びを行っている。

「発達段階に応じた教育が基本。
小学校受験は、その成果を試すきっかけに過ぎない」と、久野泰可代表(62)。
都内に展開する3校に通う約8割が女子だが、
「会の教育方針に基づいて指導してきた結果、
女子校受験で実績を上げ、女子が多数を占めるようになった」

進路指導担当の広瀬亜利子・第1教務部長(52)は、
「女子校は、求める家庭環境が明確で、
特に母親の教育参加を重視する学校が多い。
本人の性格や親の考え方が合わないと、学び続けることが困難に。
校風や教育理念を理解して、志望校を選ぶよう指導している

長女が女学館小1年の母親(40)(品川区)は、
「一人っ子で大人しく、男の子と一緒に学ぶのは向いていない」と考え、
女子校受験を決めた。
年中の春からこぐま会に通い、10校ほどの説明会に足を運んだ。
女学館にしたのは、「国際理解や伝統文化教育に共感したし、
何よりも学校の雰囲気が娘に合っていると感じたから」

学校選びの原点が、女子校受験で問われている。

◆メモ


こぐま会によると、雙葉小(千代田区)、聖心女子学院初等科(同港区)
などの名門女子校入試では、ペーパー試験や行動観察などのほか、
両親の面接が実施される。
学校の教育方針、校風理解のほか、しつけや家庭教育、
わが子の性格、成長の把握など、母子関係や母親の役割を聞く
ケースが多い。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20101218-OYT8T00172.htm

100歳食 長生きのコツ、五色の食材 食文化史研究家・永山久夫さん、紹介

(2010年12月14日 毎日新聞社)

長生きのコツは、五色の食材。
古くからの郷土の食事を見直し、大いに笑いながら暮らそう--。
食文化史研究家で、西武文理大客員教授の永山久夫さん(78)が、
健康に生きるための食事の重要性を強調し、
自ら考案した「100歳食」を紹介。

永山さんは、同市内の高齢者ら約150人を前に、
健康維持のためにどんな食事が必要かを説明。
「100歳食」を、参加者全員で試食。

五色は、白=エネルギー源になる米、小麦粉、ソバ粉、雑穀、
黄=たんぱく質の大豆、卵黄、乳製品など、
緑=ビタミンCなどで、ホウレンソウ、ニラ、わかめなど、
赤=動物性たんぱく質など、牛、豚肉、ニンジン、
黒=若さを保って体を浄化する黒ゴマ、ナス、こんにゃくなど。

永山さんは、「人口の半分以上を65歳以上が占める限界集落が、
20年後には国中に広がり、日本全体が『限界国家』になる

日本人の平均寿命が男79歳、女86歳に対し、
自立して生活できるとされる「健康寿命」は男72歳、女78歳。
その差の男性7年間、女性8年間に発生する医療費が、
日本の財政を悪化させていると説明、
高齢者の健康が単に個人の問題ではないことを指摘。

誰の世話にもならず健康に暮らしたい、
と願う高齢者の切実さを反映し、聴衆は熱心にメモを取った。
「ストレスが免疫力の大敵」と言う永山さんは、
くよくよと悩んだり生真面目であるよりも、
細かいことにとらわれずよく笑い、
積極的に地域と交わる生き方を推奨。
健康で新たなことに挑戦する“大老人”たれ、と参加者を激励した。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/12/14/129796/

2010年12月23日木曜日

小学校受験(2)働く母のため週末授業

(読売 12月17日)

「今日は、忍者の動きをしましょう。先生をよく見てくださいね」
忍者のお面をかぶった講師が、ゴムひもを跳び、
マットの上で転がってみせる。
その後、4、5歳児が1人ずつ、手本を懸命にまねしてゴールを目指す。

「アンテナ・プレスクール」原宿本校の年中クラスでは、
「指示行動」のグループレッスンが行われていた。

2002年開校、渋谷区内に2校を展開。
首都圏私立小で最難関とされる慶応義塾幼稚舎(同)や
早稲田実業学校初等部の合格実績で、知名度を上げてきた。
両校の11年度入学の出願倍率は10倍を超え、
中でも慶応幼稚舎の女子は20倍に近い。

「アンテナ」の石井至校長(45)は、
「過去問(過去に出された問題)を徹底的に分析し、
短時間で効率的に楽しく受験準備ができるよう工夫している」

「指示行動」や「行動観察」は、5~8人程度のグループで、
絵画・工作は原則、講師と一対一の個人レッスンで行う。
絵画・工作では、慶応幼稚舎や早実初等部対策として、
美術大学出身者が講師を務める。
3年保育の年少の秋から通い、年長は週1回、グループ、
個人レッスンを、各1コマ(50分)の計2コマ受講が多く、
費用は月額10万円程度。

ここの特徴は、働く母親のため、週末の授業を開講していること。
同校に通う子どもの母親の約4割が、フルタイムで働く。
「母親が仕事を持つと、お受験に不利と言われたのは過去のこと。
働く母親の方が時間を合理的に使い、集中できる面もある」と石井校長。
「家でお母さんが、何時間も勉強を見なくてもすむよう、
教室で力がつくようにしている」

大手企業に勤める東京都内の母親(41)は、
現在、早実初等部3年の長男を1年弱、同校に通わせた。
「最初は不安だったが、教室からアドバイスをもらい、
親子で頑張って、志望校に合格することができた。
母親としての自信にもつながった」と振り返る。

子育てや家庭教育に詳しい川島隆太・東北大学教授(51)(脳科学)は、
「今のお母さんは、忙しく、ストレスをためている場合が多いため、
子どもとのかかわりが表面的になっている」
子どもと過ごす時間の長さよりも、中身が重要。
遊びや料理などの共同作業で感動を共有したり、
勉強を見てあげてほめたり、ということを続けていくことが重要」

◆メモ

小学校の入試は、数量・図形や言語などから出題される「ペーパー試験」、
集団行動や遊びから仲間とのコミュニケーションができるかなどを
評価する「行動観察」、洋服をたたむなど身の回りのことができるかを見る
「生活習慣」、絵画・工作、「指示行動」などの運動、面接など。
どれを実施、重視するかなどは、学校によって異なる。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20101217-OYT8T00178.htm

ノーベル賞:化学賞・根岸さんインタビュー 受賞確率1000万分の1、努力で高まる

(毎日 11月28日)

効率よく有機化合物を製造する手法を開発した業績で、
今年のノーベル化学賞に選ばれた
根岸英一・米パデュー大特別教授(75)。

現在、妻すみれさん(73)と帰国。
受賞確率は、「1000万分の1」と分析、
「努力で高められるので、宝くじと違う」と主張。
「人工的な光合成を実現したい」と意欲を示した。

「50年の夢がかなった」。
受賞発表直後、喜びをこう表現した。
渡米した60年秋、日本人受賞者は故湯川秀樹氏のみで、
ノーベル賞は「雲の上の存在」。
後に恩師となった米パデュー大のハーバート・ブラウン博士の
講演を聴き、「この人はノーベル賞をとる」と確信、門戸入り。
予想は、79年に現実となった。
授賞式に同行し、「ノーベル賞が目標として近くなった」と感じた。

20世紀に生きて死んだ人の数と過去の受賞者数から、
ノーベル賞に選ばれる確率は、「1000万分の1」に。
「低過ぎて宝くじに当たるような確率に思えるが、
1000万は10を7回かけ合わせた数。
10人中1位になる経験を、7回繰り返すと考えればいい」と
努力を継続する大切さを強調。

今後の研究テーマとして、「人工的な光合成の実現」を挙げた。
「食料やエネルギー問題の解決になり、地球温暖化対策で
炭酸ガスの排出をなくそうとするのもナンセンスになる。
論理的には可能なはずで、今世紀中にできなかったらおかしい」

ブラウン博士とは、たびたび意見が対立し、
「お前みたいに、自分に反論する日本人は初めて」と言われた。
他の著名研究者の論文の誤りを何度か指摘し、
その正しさが証明されるにつれ、次第に信頼を寄せられるようになった。
若手研究者には、「人のまねから本質的に抜け出すよう、
心がけてほしい」と助言。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/11/28/20101128ddm041040055000c.html

2010年12月22日水曜日

小学校受験(1)幼児教室 親も子も成長

(読売 12月16日)

横浜市内の私立小学校入試開始まで1週間に迫った10月中旬、
「ジャック幼児教育研究所」横浜元町教室では、
年長クラスの最終日の授業が行われていた。

大半が、名門私立中学への進学実績で知られる
精華小学校を受験するクラス。
工作の授業で子どもたちは、参観席で保護者が見守る中、
青やオレンジ色のビーズなどをひもに通し、ネックレスを作っていた。

1969年に設立された「ジャック」(本部・世田谷区)は、
都内と神奈川、埼玉の両県に計15教室を展開。
ペーパー試験から運動、面接対策まで各種授業をそろえ、
年長ではそれらを組み合わせた志望校別クラスがメーン。
多くが、週1日3コマ(1コマ50分)か週2日5コマ通い、
月額7万3500円~9万4500円。

ジャック理事の大岡史直・横浜元町教室長(48)は、
子どもに達成感を持たせることを指導の柱。
「努力してできたという実体験を、積ませることが大切。
『お受験』合格だけでなく、小学校以降の学ぶ意欲や自信にもつながる」

小学校受験は、「親の受験」とも言われる。
ジャックでは、父母向けに講座を開くなど、親の「教育」にも力を入れる。
授業参観を求めているのも、その一環。
「入試では、季節の動植物や公衆道徳を問うなど、
かつては家庭でのしつけや体験から自然と身につけていた力を見る
問題も少なくない。
教室が代わりに教えている面もある」と、大岡教室長。

背景には、家庭環境の変化がある。
山田昌弘・中央大学教授(53)(家族社会学)は、
「核家族化や地域のつながりの希薄化が進む中、
母親同士のネットワークもうまく機能しなくなっている」
「家庭教育の術を、お金を払って教室に教えてもらうのも時代の流れ」

現在精華小1年の長男が、ジャックに約2年間通った
横浜市の母親(38)は、家庭で毎日2時間、宿題を見たほか、
絵本の読み聞かせを続けた。
週末は、家族でハイキングや昆虫採集に出掛け、
自然に接するよう努めた。
「教室で学んだおかげで、子育てや家庭教育のあり方を再認識し、
母子ともに成長できた」

首都圏を中心に、小学校受験熱が高まっている。
お受験レッスンはどのように展開され、子どもの成長にどんな影響を
与えるのかを考える。

◆メモ

東京私立初等学校協会によると、東京都内には、
全国の私立小学校の約25%にあたる、54校が集中。
応募者総数(2010年度入学)は1万8451人、
1999年度から2285人(14%)増。
公立校不信のほか、中学受験を避けて子どもの負担を軽くしたい
などの思いもある。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20101216-OYT8T00202.htm

日本のスポーツ政策を考える

(sfen)

◆日本のスポーツ基本法の「現状・今後」について

佐野:中国・広州ではアジア競技大会が開かれている。
日本の総メダル獲得数は、中国に次いで第2位。
金メダルは、韓国に遠く及ばない。
アジアナンバー1のスポーツ大国といわれた日本が、
年月を追うごとに、その面影を失っていくのではないか。

トップアスリートの国際競争力を高めていかなければならない、
一方、真っすぐに走れない子どもがいたり、
でんぐり返しができない子どもがいたりなど、運動能力の欠如も問題。

わが国では、野球やサッカーといった競技スポーツが非常に盛ん。
テレビの視聴率は別にしても、“観るスポーツ”はとても盛んに。
皇居周辺のランナーなど、“するスポーツ”も活発。
一方で、スポーツをするための施設は充分なのか、
きちんと指導する人たちが充分いるのか。
そうした問題も内在している。

12月、FIFAワールドカップの2018年と2022年の開催国が決定。
日本が2022年の開催国に立候補していることを、
日本国民のどれだけの人が認識しているのか?
昨年、2016年夏季オリンピックの開催地として、
東京が立候補していたときと同じような状態になっているのでは。
そういった危惧もある。

今、日本のスポーツ界の現状を挙げたが、若干支離滅裂のような感じ。
この支離滅裂感が、これまでスポーツ政策について、
きちっと対応してこなかったことの証なのではないか。

鍵となるのが、基本法。
基本法というのは、国のスポーツ規定の大本。
基本法を基準にしなければならない。
今日は、スポーツ基本法について先生方にお話を伺いたい。
まずは、諸外国のスポーツ基本法に詳しい筑波大学の齋藤先生に、
専門のフランスを中心に解説していただく。

齋藤 : 私は、フランスのスポーツ法と政策を専門、
諸外国のスポーツ法と政策全体を比較した中で、
何がポイントなのかを解説したい。

一つ目は、『スポーツの理念及びスポーツにおける規範価値に基づく、
スポーツ基本法の制定とスポーツ政策を実施すべき』という点。
このような理念及び規範的価値には、まずスポーツをする、
スポーツに参加する、アクセスする機会を保障すること。
スポーツの自由、スポーツにおける無差別平等、公正、安全、保護
といった観点を中核に、スポーツ基本法の内容を理念に基づいて、
もう一度スポーツ基本法というものを作っていくべき。

2つ目は、『スポーツの定義とスポーツ法及び政策の射程範囲』について。
諸外国と比べ、スポーツの定義や内容は各国で非常に異なるが、
基本的には運動競技だけでなく、身体活動も含めた余暇や
レクリエーションまで、スポーツの定義に含んでいる。
諸外国では、スポーツ基本法及びスポーツ法は、
アメリカのように競技者を中心としたスポーツ法、
フランスのようにスポーツと身体活動を含めてスポーツと定義している
スポーツ基本法、
カナダのように身体活動とスポーツのそれぞれを分けたスポーツ基本法、
という3つの形態に分類。

現代的な傾向として、スポーツの定義が拡大しているので、
身体活動とスポーツの両者をどのように規定し、
いかに政策の対象を組み合わせて両立させることが出来るか、
というのが今後のスポーツ基本法の立法の重要な課題。
わが国のスポーツ政策は、競技スポーツを重点に置いているが、
未組織あるいはレクリエーショナルな身体活動についてまで、
いかにスポーツ基本法の射程範囲を広げて立法できるか、
ということも重要。

3つ目は、『スポーツ基本法の立法論の3類型』。
立法論には、施策型つまり国が定めるトップダウン型の基本法と、
実践型つまり実践者の立場を規定してスポーツ基本法を作る
ボトムアップ型、その混合型も考えられる。

今の日本のスポーツ振興法は、どちらかというと施策型。
国が行うべき内容を規定し、スポーツをする人、支援する団体を
中心とするのであれば、実践型つまりボトムアップ型の
スポーツ基本法の構成を考えることが重要。
一つ目に挙げたスポーツ法の理念を重視した立案と関連する。

4つ目は、これまでスポーツ振興法、自民党スポーツ基本法案、
スポーツ立国戦略などであまり明確でない点、
同時に諸外国と大きく異なる点について説明。
スポーツに参加する人、団体、組織をどのように捉えるか、
いかに定義するかということ。

諸外国では、それらについて厳密に定めながら、
スポーツ政策やスポーツ立法というものを定めている。
National Governing Bodies、Federation、Association、Commission
などの専門用語が存在。
わが国でも、スポーツをする組織を明確に規定しながら、
スポーツ立法政策を進めるべき。
国、地方公共団体を含めたネットワークを、いかに形成していくか。
以上4点を、諸外国のスポーツ基本法の総括。

佐野 : 齋藤先生ありがとうございました。
私は、日本のスポーツ基本法は、立法論の3類型でいうところの
施策型になると思う。
昨年7月、自民党が単独で出したスポーツ基本法案が、
衆議院の解散で廃案、そのことがじっくり審議する機会を設けることに。
スポーツ基本法をあわてて作る必要はない。
日本のスポーツ界について、多様な立場の方たちに発言する、
いい機会になったのではないか。

今年、スポーツ立国戦略ができ、自民党公明党両党による
スポーツ基本法案が継続審議。
わが国のスポーツ基本法がどうなっていくのか、
遠藤さんと鈴木さんにお話を伺いたい。

遠藤 : 4年前、今の鈴木さんと同じポストである文部科学副大臣で、
スポーツ担当をしたが、トリノオリンピックが開催、日本は散々な結果に。
幸い、荒川静香さんが金メダルを獲ったが、
活躍を期待されたほとんどの種目で、思うような結果が残せない。
なぜこうなったのか?
文部科学省の中に、スポーツ振興に関する懇談会を設立、かなり議論をした。
わが国はなぜ、力が落ちたのだろうかと。

韓国や中国が、どんどん力を伸ばしていることがあるが、
日本ではまだ、スポーツは遊びの延長としか見られておらず、
国が責任を持って推し進める、という体制や認識が
定着していないという結論。

昭和36年に制定されたスポーツ振興法を見たが、
プロとアマのスポーツが整理されず、
障害者のスポーツや国際貢献についての記述もない。
スポーツ振興法を基本としながら、法を改正し、
時代に合った法案を作りたい。

スポーツ振興に関係する省庁は、文部科学省、厚生労働省、
経済産業省、国土交通省など、多岐に。
これらを一つにしたスポーツの中核組織を作れないかなどなど、
少なくとも10数回は議論を重ね、報告書をまとめた。
副大臣退任後、その具現化を目指し、さらに検討するため、
自民党内に全ての政党の中で初めてとなるスポーツ立国調査会を設立。

自民党だけでは成立しないし、スポーツは思想や信条を超えるので、
スポーツ振興法改正プロジェクトチームという組織を、
超党派のスポーツ議員連盟の中に設置。
鈴木さんにも入っていただき、1年にわたり議論。

アドバイザリー・ボードとして、体育や、選手の強化、ドーピングなど、
各分野の専門家20名の方々に参加。
自民党と公明党で、スポーツ基本法を取りまとめた。
残念ながら廃案になったが、あらためて修正を加え、
再度今年の6月にスポーツ基本法の法案として国会に提出。
来年、スポーツ振興法ができ、ちょうど50年目の節目の年、
1日でも早く成立させたい。

鈴木 : 遠藤さんとは、超党派のプロジェクトチーム時代から共に活動。
一番仲のいい超党派のメンバー。
民主党の主たる主張は、50年振りにスポーツに関する基本法を作る以上、
齋藤先生が理念を述べられたように、スポーツ権を盛り込むべき。

自民党はトップスポーツ、民主党は地域スポーツを重視していると

いわれるが、これは非常に不毛な議論。
トップを高めようとするなら、裾野を広げなければならない。
裾野を広げようとすれば、トップが活躍できなければならない。

私は15年前頃から、熟議の民主主義を研究のテーマに。
スポーツ政策こそ、国民の皆さんに熟議をしていただくのにふさわしい内容、
基本法ができるのが望ましいのでは。
私は、スポーツ立国戦略をまとめる中、大勢の皆さまと熟議をした。
今後さらにスポーツについての議論を、国民的に深めていただきたい。
文部科学省として、来年の通常国会でスポーツ基本法案を出せるよう、
しっかりと準備を進めている。

基本法ができるまでの過程も重要だが、できた後はもっと大切。
基本法に基づいて、基本計画を策定していくから。
基本計画において、地域に根差したスポーツ環境の拠点となる
総合型地域スポーツクラブを、全国300カ所くらい選定、
そこに引退後のトップアスリートに常駐し、
コーチング、クラブマネージメントをしていただきたいと考えている。
具体的な施策は、基本計画の中で一つひとつ位置付けながら実施。

縦横無尽の強化体制が、トップアスリートの強化に大事。
FIFAワールドカップ南アフリカ大会で、日本は大活躍し、第9位。
選手の心肺機能を高めるため、運動生理学の専門家が協力し、
標高差を乗り越えて十分戦えるようになったことが、要因の一つ。
専門や分野を越えた、縦、横、斜めの協力は、
基本計画においてはより具体的になっていく。

日本のスポーツ政策を、誰が担っていくのかをきちんと議論して
いかなければいけない。
中国や昔のソビエトのように、全部国が担うというのは、
日本ではなかなか難しい。
アメリカのように、民が全部担うパワーがあるかというと、それも難しい。

わが国では、企業が選手をサポートしている例も多いが、
経済状況の中、従来のようなサポートを継続していくのは難しい。
企業、政府、自治体、地域、学校の社会総ぐるみで
担っていく方向に進むべき。
ジュニアやユースといった層をどうするのか、
競技によって競技人口の比率が違うので、
それをどのようにしていくかという議論も深めていく必要。

http://www.ssf.or.jp/sfen/sports_policy/sports_policy1.html

2010年12月21日火曜日

フロンティア:世界を変える研究者/12 前近畿大水産研究所長・熊井英水さん

(毎日 11月30日)

◇試行錯誤のマグロ養殖--熊井英水さん(75)

「うちで生まれたマグロが産卵しました」
02年6月、出張先で受けた電話に、
「間違いないか?隣のいけすから、
タイの卵が流れてきたんじゃないな?」と何度も念を押した。
32年にわたる挑戦が実を結び、世界で初めて
クロマグロの完全養殖に成功した瞬間。

研究所が設立された48年当時、学会では、
「(養殖は)学問でなく技術だ」と批判。
「海を耕す」をモットーに、研究所はヒラメやタイなどの養殖を次々成功。
58年、就職した熊井さんの目は、自然と「海のダイヤ」クロマグロに向いた。

70年に研究が始動。
しかし、マグロの生態はなぞだらけだった。
ある漁師が、「(幼魚の)ヨコワはすぐ死ぬ」と警告したとおり、
ヨコワを1年以上生存させられるようになるまでに5年。
その幼魚が初めて産卵したのは、さらに4年後。
その卵がふ化して育ち、産卵する「完全養殖」を目指したが、
ふ化後47日で全滅した。

成熟を促すビタミンEを餌に混ぜたり、空気銃を使って
ホルモン注射も試してみたが、産卵は途絶えてしまった。
「来年こそ、と期待しては失敗の繰り返し」が続いた94年、
ようやく産卵が再開。
しかし今度は共食いを始め、いけすの網にぶつかって全滅した。

マグロは、水中の酸素を取り込むため、猛スピードで泳ぐ。
調べた結果、進むための尾びれより、ブレーキ役の胸びれや
腹びれの発達が遅いことが分かった。
沿道の車のライトが当たるだけで、パニックを起こして
網に激突することも判明。
「試行錯誤のおかげで、マグロの生態研究が進んだ。
ただでは転びません」

パニック防止に常夜灯を設置し、共食い防止のため、
体長別にいけすを分けるなど工夫した結果、
翌95年以降の卵は、ふ化して生殖能力を持つ大きさまで成長。
完全養殖に大きく前進した。

「近大マグロ」のブランドで04年から出荷し、
07年には養殖業者向けのヨコワ販売をスタート。
今では、全国の養殖用ヨコワの1割に当たる約4万匹を出荷。

海のない長野で育った。
高校2年の時、学校の部活動で三重県・答志島を訪れ、
プランクトンや甲殻類を観察した。
「すべてが珍しく、海に恋した」。これが原点だ。
研究所のマグロは、一匹一匹顔が分かる。
立場上試食する時以外、「愛着がありすぎて」口にしない。

日本の食卓に上るマグロをすべて養殖で賄うのも、
夢ではなくなりつつある。
卵から成魚に育つ確率はまだ0・5%だが、
「将来的に遺伝解析で問題ないと分かれば、自然放流もしたい」
と夢は広がる。
==============
◇くまい・ひでみ

1935年長野県生まれ。58年広島大水畜産学部卒。
91~08年、近畿大水産研究所長。現在は近畿大教授。
専門は水産増殖学。
国の「グローバルCOEプログラム」で、
「クロマグロ等の養殖科学の国際教育研究拠点」リーダーを務める。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/11/30/20101130ddm016040033000c.html

岩手っ子、依然ぽっちゃり傾向 11歳男子は全国1位

(岩手日報 12月10日)

文部科学省の2010年度学校保健統計調査で、
本県の子どもは依然肥満傾向であることが明らかに。

小学6年に当たる11歳男子は、肥満傾向児の出現率が
全国1位になるなど、ほぼ全ての年齢で全国平均を超えた。

車での送迎などによる運動不足が原因とみられ、
学校現場でも、スクールバスを途中下車させて歩かせるなど、
「脱ぽっちゃり」へさまざまな取り組みが進む。

調査は今年4~6月、県内の幼稚園児から高校生まで
1万2935人を抽出、発育状態を調べた。
特に顕著なのは、本県の肥満傾向児の出現率。
男子は、5~17歳まですべての年齢で、
女子も、13歳を除くすべての年齢で全国平均を上回る。

11歳男子の出現率は17・93%と、全国平均11・09%を
大きく上回り1位。
この年代の男子は10歳時は13・69%、9歳時は14・72%、
8歳時は15・17%と高めで推移。

小学校男子の出現率は、6歳以外全て全国4位以内に入り、
小学校女子も同2~5位と高い出現率が続いている。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20101210_2

2010年12月20日月曜日

タイム・カプセルトーク2010~宇宙から見つめる私たちの地球~(その2止)

(毎日 12月14日)

◇はやぶさが運んだ玉手箱--
JAXAはやぶさプロジェクト・マネジャー、川口淳一郎さん特別講演

着陸、離陸に完全に成功したと思っていた直後、
探査機上部のエンジンからの燃料漏れが判明。
数日前には、うまく試料を採取できたと思っていたのに、
弾丸を発射した記録がないこともわかった。
探査機の燃料漏れは深刻化、はやぶさは消息を絶ってしまった。

一番恐れたのは、科学技術はリスクばかりで役に立たないと、
宇宙開発のみならず、科学技術全体の信頼を落としかねないこと。

◇「ゴールは地球」

ゴールは地球だ、というプロジェクトチームの信念はゆらぎなかった。
直ちに、はやぶさの救出運用を開始。
士気が下がらないよう、可能性のある方策を求め、
検討会を増やすなどアクションを出し続けた。

はやぶさに指令を送り続けて7週目、はやぶさからの電波を受信時、
担当者さえ「信じられない」思い。
昨年11月、イオンエンジンが寿命を迎え、これで終わりかと思った。
あと4カ月動いてくれれば、地球に帰れる。運命は残酷だと。
中和器とイオン源の連動運転を試みた結果、奇跡的に動き始めた。

06年の段階で、ロケット燃料は空になっていることがわかった。
カプセルを戻そうとすれば、はやぶさはそれを抱いたまま、
地球に突入する軌道に入り、カプセルを切り離した後、
ロケットエンジンを噴射して脱出する。
燃料がない以上、脱出できない。

打ち上げから7年、しつけをし続けた子どものような存在を
失うのは複雑な思い、
はやぶさのゴールはカプセルを地表に戻すことだと
気持ちを切り替え、運用を続けた。

◇驚異的な精度で

今年6月13日、はやぶさは身をていしてカプセルを守り、
自らは故郷の空に輝いて大気に戻っていった。
大気圏再突入から1時間後、ヘリコプターからカプセルを
確認できたとの情報。
発見場所は、予想地点から500m。驚異的な精度。

はやぶさが返してきたのは、
太陽系50億年のタイムカプセル「玉手箱」。

◇支えは高い目的意識

幾多の困難を切り抜ける努力を支えたのは、
ゴールは地球という高い目的意識の共有。
技術より根性。

幸運に助けられ、飛行を続けることができたが、
ハイリスクハイリターンの活動を締めくくるには、
運を実力に変えて定着させることが必要。
はやぶさの後継機で、この技術を定着させたい。
高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない。
一歩高いところを目指して背伸びをする。
若い人には、むちゃをしてでも挑戦し続けてほしい。
==============
◇取り出したこうじ菌で日本酒

元村 (2号機の)2000年の最初の開封では完璧な状態。
保存技術の素晴らしさについて、
開封を担当された大村さん、いかがですか?

大村 1号機は地下15m、2号機は9mのところに埋められている。
カプセルの中には29の容器があり、ビス留めされ、
それを開けるためのドライバーがセットされ、
5000年後の人たちへの気配りを感じた。
気圧や湿度を保つ技術など、当時の技術者の誇りと威信が
かかっているようで、感心しながら一つ一つ開けた。

元村 「はやぶさ」との共通点は?

川口 ターゲットマーカー(着地のための目印として、
イトカワに投下されたソフトボール大のアルミ球体)。
世界から集まった88万人の署名が記録。
誰も盗みには来ないが(笑い)。
しかも、半永久ではない。
地球に近づく小惑星は、地球にぶつかって運命を終える。
だいたい1億年後か。

人類は、地球を防衛するために小惑星へ向かう。
1億年とどまるタイムカプセル。
はやぶさが持ち帰ったカプセル本体の裏側には、紙が張ってある。
カプセル担当のグループが、自分たちの名前を張っていた。
私は、はやぶさが持ち帰って初めて知ったが、
これは7年ぶりに開封されたタイムカプセル。うらやましく思った。

元村 2000年に開封、再埋設した時の裏話は?

大村 入れられていたこうじ菌で、日本酒を作った。
マツも発芽し、松下電器の歴史館の前などで育っている。

八木 日本酒を入れたかったが、結局できず、作り方の文書を入れた。
偽札も入れた。
大阪府警からもらった本物(笑い)。
記者たちはブツブツ言いながらも、面白がって集めた。

元村 収納品を5000年後に見た人は、何を思うか?

吉田 2000年開封時、1970年生まれの学生たちにアンケート。
30年しかたっていないのに、分からないものがいくつかあった。
「国電」、「米穀通帳」、「平凡パンチ」。
考古学者の立場からもシミュレーションしてもらった。
最大の問題は、カプセルの内容と埋設場所の大阪城に関係がないこと。
考古学者は、(遺物が見つかった)場所によっていろいろ考えるから、
解釈が困難になる(笑い)。

◇「文明の転換点」をも伝える

元村 タイムカプセルを今作るとしたら、5000年後に向け何を入れるか?

川口 5000年後、天文現象で顕著なのは地軸の変動。
現在の星図など、記録すべきこと。

吉田 今の大阪の生活の縮図を作ってみたい。
私の目から見たミクロコスモス(小宇宙)を作り封入してみたい。

大村 土と水と空気を入れたい。
1970年にタイムカプセルを作った人は完璧だ、と次の開封の
100年後に伝え、「100年後もよろしくお願いします」と言いたい。

八木 この40年の経過で入れなきゃいけないのは、携帯電話。
環境問題の高まりは70年以降のこと、
(EXPO’70のタイムカプセルに)環境問題のデータが入っていない。

元村 はやぶさが持ち帰ったカプセルは、46億年前にできた
太陽系の記録を残した微粒子が入っていた点で、まさにタイムカプセル。

川口 おっしゃる通り。

元村 5000年後の宇宙、地球、人類はどうなっているか?

八木 5000年後の人がカプセルを開け、首をかしげる様子を
思うとおかしくて。
トイレットペーパーが、何の説明もなしに入っている。
ぐるぐるほどいてみても、何も書いてない。
京都市の職業別電話帳も入っている。
京都の職業が日本一多いだろうという理由。

大村 70年当時、生駒山から眺めたら大阪城は、スモッグで見えなかった。
70年は、環境問題の重要性に気づき、行動を起こし始めた年、
そして実を結びつつあった転換点だったと分かってもらえる。

吉田 我々は、文明の大きな転換点に立っている。
中心とされる側が、周縁とされる側を一方的に支配した時代は終わり、
双方向の接触と交錯が起こっている。
5000年後、2000年前後は、力学の転換点だったと見えるのでは。

川口 宇宙飛行を考える時、すぐ直面する壁が人間の寿命。
数百年、数千年先、人類は、信じられない領域の活動をしている。
5000年は、その時代(数百年後、数千年後)には
「長いスケール」と言っているのかどうか。

大阪万博のタイムカプセルの一つは、100年ごとに開封。
ある面、将来の人類を当てにせず、自己完結している。
将来を当てにしていいと考えるなら、ピラミッドで言えば
第何王朝というように、タイムカプセル第何王朝、
そういう連鎖的な活動が存在し得る。
5000年伝えるなら、100年ごとに作ってもせいぜい50個、
タイムカプセル50王朝。

元村 はやぶさのドラマを通し、夢を見ることは大切だな、
夢を見させてくれる何かがあるって幸せだな、と皆さん感じた。
タイムカプセルも、大きな夢を見せてくれる、
人類共通の財産として伝えたい。
==============
◇トーク参加者

毎日新聞客員編集委員・八木亜夫さん/
元松下テクノリサーチ取締役・大村卓一さん/
国立民族学博物館教授・吉田憲司さん/
宇宙航空研究開発機構教授・川口淳一郎さん/
毎日新聞科学環境部・元村有希子副部長
==============
◇ネットでも反響

イベントは、インターネット「ユーストリーム」で生中継、
1万1791人が視聴。
視聴を中断、再視聴した人を含めると2万679人、
延べ視聴時間は1865時間、高い関心を集めた。
視聴者からの反響は、イベント進行とともにツイッターで寄せられた。
「日本がものづくりにいちずに取り組み、輝いていた時代」、
「タイムマシンがあったら、当時に行ってみたい」、
「(はやぶさは)諦めず、可能性にかける姿勢がすごい!」、
中継終了までに約900件。
==============
◇伊藤芳明・毎日新聞社常務取締役大阪本社代表

記録ビデオを見て、改めてすごいプロジェクトだと感心。
5000年という時間軸でとらえたこと。
文明発祥が5000年前、5000年後なら今が、人類文明史のまん中にあたり、
どんな技術があったかを記録する貴重な資料に。

我々は小粒になっていないか?
5000年という夢のある発想を、次の世代に伝えていきたい。

◇大澤英俊・パナソニック株式会社役員、コーポレートコミュニケーション本部長

「タイム・カプセルEXPO’70」は、当社の創業50周年(68年)記念事業の
一つとして実施。
人類がどのような文化を創造し、未来への理想を掲げ、
生活していたか、5000年後へ残すという夢のあるプロジェクト。
創業者、松下幸之助も、著作の中で熱い思いを書いている。
タイムカプセルへの理解を深め、サポーターとして温かく
見守っていただきたい。
==============
◇やぎ・つぎお

1934年、大阪府出身。同志社大卒。
毎日新聞大阪本社学芸部長、編集局次長などを歴任。
万博取材班キャップ、タイムカプセルにも企画段階から携わった。
==============
◇おおむら・たくいち

1945年、広島県出身。70年、広島大大学院(応用化学専攻)修了、
松下電器産業入社。2000年、1回目のタイムカプセル開封・点検を指揮。
==============
◇よしだ・けんじ

1955年、京都府出身。京大文学部卒、阪大大学院修了。
国立民族学博物館教授、総合研究大学院大学教授。
文化人類学、博物館人類学専攻。
==============
◇かわぐち・じゅんいちろう

1955年、青森県出身。京大工学部卒、83年東大大学院修了、
旧文部省宇宙科学研究所へ。
JAXA教授、はやぶさプロジェクト・マネジャー。
==============
◇もとむら・ゆきこ

1966年、福岡県出身。九州大卒。
ノーベル賞や科学技術政策などを取材。
連載「理系白書」報道で、06年日本科学ジャーナリスト大賞受賞。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/12/14/20101214ddm010040071000c.html

三陸地質の魅力確認 宮古地域でセミナー・見学会

(岩手日報 12月9日)  

いわて三陸地質・地形セミナー&現地見学会
(県、浄土ケ浜ビジターセンター主催)が行われた。

参加者は、岩泉町のモシリュウ化石発掘現場や
洋上から田野畑村の断崖の地層を見学し、
地球が刻んだダイナミックな歴史を学んだ。
本県沿岸地域の地質資源を生かした
「ジオパーク」(地質遺産)認定に向け、弾みをつけた。

現地見学会には、宮古市などから13人が参加。
北上山地(北上高地)を中心とする古生代から中生代の研究、
古生物のアンモナイトとオウムガイ研究で、
国内第一人者の永広昌之東北大名誉教授が現地で解説を行った。

岩泉町小本では、約1億1千万年前の地層から、
国内で初めて発見された白亜紀の恐竜「モシリュウ」の
化石発掘現場や小本層植物化石産地を見学。

1億2千万から1億3千万年ほど前の植物化石産地で、
参加者が現場の石を手に取り、シダ類とみられる植物の化石を見つけた。
地元の小本中の生徒も、見学に加わった。

田野畑村では、サッパ船に乗り込み、ハイペ・コイコロベ化石産地などを
洋上から観察し、海岸段丘の成り立ちを学んだ。

県は、いわて三陸ジオパーク研究会を立ち上げるなど、
「世界ジオパーク」認定も視野に、地質資源の活用を摸索。
セミナーと見学会は初めての開催、宮古市の浄土ケ浜ビジターセンターで
セミナーが行われた。

同研究会委員も務める永広名誉教授は、
宮古-田野畑間の地質資源について、
「白亜紀前期の地質の激しい構造運動が見られる地域」とし、
本県沿岸の地質資源については、
「日本列島の中でも、特に古い地層も見られ、国内で一番大切な地域」

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20101209_9

2010年12月19日日曜日

総合学習を生かす(15)テーマ 地域に必ずある

(読売 12月15日)

今回、効果的な総合学習を行っている全国各地の実践を報告。
探究的な学びの場として、より良い総合学習を進めていくには
どうしたらよいか?
日本生活科・総合的学習教育学会の嶋野道弘会長
(文教大学教育学部教授)に話を聞いた。

――総合学習の授業を視察して感じることは何か?

総合学習についての認識は、学校間でかなりの温度差がある。
受け身ではなく、探究的な学習などを通して、主体的に考えさせる
授業を行って、学力を向上させた学校もある一方、
いまだに知識を覚えさせることだけに力を注ぐ学校もある」

総合学習は、知識を活用して問題を解決する思考力や判断力、
表現力など、生きていく上で必要な能力を育成する場。
各学校には、万難を排して取り組む姿勢が必要。
体験や調べ学習をして発表する、といった形だけの学びになっていないか、
教師たちはもう一度、総合学習の意義を見つめ直してほしい」

――総合学習で身に着く能力は見えにくい。

子どもをよく見てほしい。『人間力』が高まっている。
人ごとではなく、自分のこととして社会を考える厚みのある人間に育っている。
小学生であっても、さびれた地域を活性化するにはどうしたらいいか、
自分たちにできることは何かなど、
様々な情報や知識を得て意見を言い、行動する」

――とはいえ、学習テーマに悩む学校も多い。

総合学習を通して、どんな子どもを育てたいか。
学校や教師側に、その目標が定まっていれば、テーマは地域に必ずあり、
知識を詰め込むだけの学習にもならないはずだ。
東京都墨田区のある小学校では、『伝統』というテーマで
地域の花火大会を調べた。
戦争などで過去に2度中断され、復活されたと分かった。
子どもたちは、伝統とは『単に昔からあるものではなく、
なくなりそうになりながらも今に続くもの』と新たに考えた。
裏で支える地域の人々の存在も知り、
『伝統をなくさない人になりたい』と、自己の生き方につながる学びになった」

――教師に必要な視点は何か?

「算数のテストの答えは一つかもしれないが、
世の中には答えが一つでない問題が多い。
『なぜ働かなければならないのか』、『なぜ学ぶのか』など、
一人一人の答えがあっていい。
総合学習では、子ども同士で様々な角度から考え、
課題にぶつかって再び考える、という繰り返し。
その中で考える力が養われ、自ら学び続ける人にもなれる。
子どもが、自分なりの答えを出した過程も大切にして、
学びを深める努力をしてほしい

◇しまの・みちひろ

専門は総合学習教育。公立小学校教諭、
文部科学省主任視学官などを経て、現在は文教大学教授。64歳。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20101215-OYT8T00190.htm

魅力向上へ農家が知恵 花巻のグリーンツーリズム

(岩手日報 12月9日)

花巻市のグリーンツーリズム受け入れ農家を対象とした研修会
(はなまきグリーン・ツーリズム推進協議会など主催)は、
湯本のホテルで開かれた。
同市の受け入れ実績は近年、他地域との競合を背景に減少傾向。
受け入れ農家の意欲は高く、地域活性化にもつながる取り組みだけに、
花巻の魅力、特色の発信が課題。

同協議会は市や県、農協、観光協会、受け入れ農家の会の
代表者らで組織。
研修会は年1回で、今回は農業者約30人を含む約50人が参加、
意見交換や衛生講習会に励んだ。

同市のグリーンツーリズムは、全国の小・中・高校生が教育旅行として
農山村生活を体験するのがメーン。
本年度の教育旅行は、市内農家延べ466戸が、
日帰りと宿泊付きを合わせ、児童生徒計1976人を受け入れた。

学校の所在地域は、北は北海道から南は大阪府に及んだ。
教育旅行は近年、受け入れ要請が減っており、
本年度の受け入れ者数は、ピークだった2007年度(3034人)に比べ、
1千人超の減。
特に、宿泊付きが減っている。

受け入れ数減少の背景には、県内外の他都市や沿岸部との競合や
高齢化、介護などによる受け入れ農家の確保難が挙げられる。

同日の意見交換は、参加者から「別れるときは、
子どもたちが涙を流してくれ、やって良かったと感じる」、
「農産物を一生懸命に作っていることが伝わると、
嫌いなものでも食べてくれる」など、
充実した交流の様子が数多く報告。

同協議会長の菊池俊雄花巻農協生活福祉部長は、
「花巻の農業、観光、文化をマッチングし、
地域そのものをPRしていく必要がある」

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20101209_11