2010年12月25日土曜日

「高いと長生き」巡り論争 コレステロールを考える/上

(2010年12月16日 毎日新聞社)

日本脂質栄養学会が、「コレステロールは、高い方が長生きする」
とする見解をまとめ、波紋が広がっている。
高コレステロールは、心疾患などにリスクがある、
という従来の医学の常識を覆すもので、反論も相次いでいる。
コレステロールをどう考えるべきか?

◇脂質学会、常識覆す見解/動脈硬化学会は批判

現在の診断基準は、日本動脈硬化学会(北徹理事長)が
07年に定め、悪玉のLDLコレステロールが140mg/dl以上を
脂質代謝異常(高脂血症)とする。
多くの医療現場でこの基準に沿い、
治療や生活改善の指導が行われている。

日本脂質栄養学会は9月、
「長寿のためのコレステロールガイドライン」をまとめた。
学会理事長の浜崎智仁・富山大和漢医薬学総合研究所教授ら
15人で策定委員会を構成。
「総コレステロール値あるいはLDLコレステロール値が高いと、
日本では総死亡率が低い」とした。
全体は14章から成り、高コレステロールの方が
脳卒中を発症しにくいことなども記した。

特徴は、「総死亡率」との関連を重視した点で、
ガイドラインの名称にも、「長寿のための」と冠した。
浜崎教授は、「95年以降に公表された日本の五つの大規模な
臨床試験報告を見ると、40~50歳以上の集団では、
コレステロールが高くても、がんや脳卒中、心臓疾患など
総死亡率は増えていない」

大櫛陽一・東海大医学部教授らが解析した、伊勢原市の
「老人基本健診」受診者約2万2000人の追跡調査(95~06年)。
男性は、LDL140~159の群で総死亡率が最も低く、
女性では180以上で最も低かった。
大櫛教授は、「コレステロールが高めの方が、
肺炎やがんの死亡率が低い傾向にある」

浜崎教授は、「LDL140以上でも、たいていは薬を飲む必要はない」、
現在の診断基準が、「コレステロール降下薬の使い過ぎを促している」
と警告。

日本動脈硬化学会は、反論の声明をホームページに載せた。
日本脂質栄養学会が引用する論文を、
「ほとんどが査読(複数の研究者による検証)を受けた論文ではない」、
コレステロール値と動脈硬化性疾患の発症との関係は、
「多くの科学的検証を経た疫学的論文の一致するところ」と記した。

総死亡率との関連づけも、
「年齢や喫煙、高血圧などの要因を考慮して分析する必要がある」
動脈硬化性疾患の疫学を専門とする三浦克之・滋賀医科大教授は、
「肝臓疾患などでコレステロール値が下がることがあり、
コレステロールと総死亡に因果関係があるとするのは無理」と批判。

日本医師会も異議を唱え、
「高いリスクをもつ家族性高コレステロール血症の患者に、
服薬を中止している例があると聞く」などと憂慮を示した。

論争は、疫学データの選択や統計処理の問題も絡み、複雑化。
厚生労働省生活習慣病対策室も、
「学会同士の学問的な論争。国が何かを言う立場ではない」

日本脂質栄養学会のガイドラインを問題視しながらも、
コレステロールについて、さらなる議論を求める意見も。

日本疫学会のウェブ版で、自治医科大の調査データの解析結果が報告。
92年から男女1万2334人(平均年齢55歳)を対象、
約12年間追跡。
最初の5年間の死亡を除いても、総コレステロール値が
160(LDLだと約80)以下で脳出血、心不全、がんが多かった。

同データを解析した名郷直樹・東京北社会保険病院臨床研修センター長は、
脂質栄養学会のガイドラインを、「大きな問題がある」としながら、
「低コレステロールと死亡には関連がうかがわれる。
コレステロール降下薬の使い方を含め、もっと議論すべき」
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◇コレステロール

細胞膜やホルモンなどに欠かせない脂質。
肝臓で作られ、食事からも吸収される。
結合するたんぱく質の違いによって、善玉のHDLコレステロールと
悪玉のLDLコレステロールに区別、HDLはLDLを減らす働き。
日本動脈硬化学会は、「LDLが140以上」のほか、
HDLが40未満、中性脂肪が150以上も脂質代謝異常としている。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/12/16/129892/?portalId=mailmag&mm=MD101216_XXX

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