2010年12月20日月曜日

タイム・カプセルトーク2010~宇宙から見つめる私たちの地球~(その2止)

(毎日 12月14日)

◇はやぶさが運んだ玉手箱--
JAXAはやぶさプロジェクト・マネジャー、川口淳一郎さん特別講演

着陸、離陸に完全に成功したと思っていた直後、
探査機上部のエンジンからの燃料漏れが判明。
数日前には、うまく試料を採取できたと思っていたのに、
弾丸を発射した記録がないこともわかった。
探査機の燃料漏れは深刻化、はやぶさは消息を絶ってしまった。

一番恐れたのは、科学技術はリスクばかりで役に立たないと、
宇宙開発のみならず、科学技術全体の信頼を落としかねないこと。

◇「ゴールは地球」

ゴールは地球だ、というプロジェクトチームの信念はゆらぎなかった。
直ちに、はやぶさの救出運用を開始。
士気が下がらないよう、可能性のある方策を求め、
検討会を増やすなどアクションを出し続けた。

はやぶさに指令を送り続けて7週目、はやぶさからの電波を受信時、
担当者さえ「信じられない」思い。
昨年11月、イオンエンジンが寿命を迎え、これで終わりかと思った。
あと4カ月動いてくれれば、地球に帰れる。運命は残酷だと。
中和器とイオン源の連動運転を試みた結果、奇跡的に動き始めた。

06年の段階で、ロケット燃料は空になっていることがわかった。
カプセルを戻そうとすれば、はやぶさはそれを抱いたまま、
地球に突入する軌道に入り、カプセルを切り離した後、
ロケットエンジンを噴射して脱出する。
燃料がない以上、脱出できない。

打ち上げから7年、しつけをし続けた子どものような存在を
失うのは複雑な思い、
はやぶさのゴールはカプセルを地表に戻すことだと
気持ちを切り替え、運用を続けた。

◇驚異的な精度で

今年6月13日、はやぶさは身をていしてカプセルを守り、
自らは故郷の空に輝いて大気に戻っていった。
大気圏再突入から1時間後、ヘリコプターからカプセルを
確認できたとの情報。
発見場所は、予想地点から500m。驚異的な精度。

はやぶさが返してきたのは、
太陽系50億年のタイムカプセル「玉手箱」。

◇支えは高い目的意識

幾多の困難を切り抜ける努力を支えたのは、
ゴールは地球という高い目的意識の共有。
技術より根性。

幸運に助けられ、飛行を続けることができたが、
ハイリスクハイリターンの活動を締めくくるには、
運を実力に変えて定着させることが必要。
はやぶさの後継機で、この技術を定着させたい。
高い塔を建ててみなければ、新たな水平線は見えてこない。
一歩高いところを目指して背伸びをする。
若い人には、むちゃをしてでも挑戦し続けてほしい。
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◇取り出したこうじ菌で日本酒

元村 (2号機の)2000年の最初の開封では完璧な状態。
保存技術の素晴らしさについて、
開封を担当された大村さん、いかがですか?

大村 1号機は地下15m、2号機は9mのところに埋められている。
カプセルの中には29の容器があり、ビス留めされ、
それを開けるためのドライバーがセットされ、
5000年後の人たちへの気配りを感じた。
気圧や湿度を保つ技術など、当時の技術者の誇りと威信が
かかっているようで、感心しながら一つ一つ開けた。

元村 「はやぶさ」との共通点は?

川口 ターゲットマーカー(着地のための目印として、
イトカワに投下されたソフトボール大のアルミ球体)。
世界から集まった88万人の署名が記録。
誰も盗みには来ないが(笑い)。
しかも、半永久ではない。
地球に近づく小惑星は、地球にぶつかって運命を終える。
だいたい1億年後か。

人類は、地球を防衛するために小惑星へ向かう。
1億年とどまるタイムカプセル。
はやぶさが持ち帰ったカプセル本体の裏側には、紙が張ってある。
カプセル担当のグループが、自分たちの名前を張っていた。
私は、はやぶさが持ち帰って初めて知ったが、
これは7年ぶりに開封されたタイムカプセル。うらやましく思った。

元村 2000年に開封、再埋設した時の裏話は?

大村 入れられていたこうじ菌で、日本酒を作った。
マツも発芽し、松下電器の歴史館の前などで育っている。

八木 日本酒を入れたかったが、結局できず、作り方の文書を入れた。
偽札も入れた。
大阪府警からもらった本物(笑い)。
記者たちはブツブツ言いながらも、面白がって集めた。

元村 収納品を5000年後に見た人は、何を思うか?

吉田 2000年開封時、1970年生まれの学生たちにアンケート。
30年しかたっていないのに、分からないものがいくつかあった。
「国電」、「米穀通帳」、「平凡パンチ」。
考古学者の立場からもシミュレーションしてもらった。
最大の問題は、カプセルの内容と埋設場所の大阪城に関係がないこと。
考古学者は、(遺物が見つかった)場所によっていろいろ考えるから、
解釈が困難になる(笑い)。

◇「文明の転換点」をも伝える

元村 タイムカプセルを今作るとしたら、5000年後に向け何を入れるか?

川口 5000年後、天文現象で顕著なのは地軸の変動。
現在の星図など、記録すべきこと。

吉田 今の大阪の生活の縮図を作ってみたい。
私の目から見たミクロコスモス(小宇宙)を作り封入してみたい。

大村 土と水と空気を入れたい。
1970年にタイムカプセルを作った人は完璧だ、と次の開封の
100年後に伝え、「100年後もよろしくお願いします」と言いたい。

八木 この40年の経過で入れなきゃいけないのは、携帯電話。
環境問題の高まりは70年以降のこと、
(EXPO’70のタイムカプセルに)環境問題のデータが入っていない。

元村 はやぶさが持ち帰ったカプセルは、46億年前にできた
太陽系の記録を残した微粒子が入っていた点で、まさにタイムカプセル。

川口 おっしゃる通り。

元村 5000年後の宇宙、地球、人類はどうなっているか?

八木 5000年後の人がカプセルを開け、首をかしげる様子を
思うとおかしくて。
トイレットペーパーが、何の説明もなしに入っている。
ぐるぐるほどいてみても、何も書いてない。
京都市の職業別電話帳も入っている。
京都の職業が日本一多いだろうという理由。

大村 70年当時、生駒山から眺めたら大阪城は、スモッグで見えなかった。
70年は、環境問題の重要性に気づき、行動を起こし始めた年、
そして実を結びつつあった転換点だったと分かってもらえる。

吉田 我々は、文明の大きな転換点に立っている。
中心とされる側が、周縁とされる側を一方的に支配した時代は終わり、
双方向の接触と交錯が起こっている。
5000年後、2000年前後は、力学の転換点だったと見えるのでは。

川口 宇宙飛行を考える時、すぐ直面する壁が人間の寿命。
数百年、数千年先、人類は、信じられない領域の活動をしている。
5000年は、その時代(数百年後、数千年後)には
「長いスケール」と言っているのかどうか。

大阪万博のタイムカプセルの一つは、100年ごとに開封。
ある面、将来の人類を当てにせず、自己完結している。
将来を当てにしていいと考えるなら、ピラミッドで言えば
第何王朝というように、タイムカプセル第何王朝、
そういう連鎖的な活動が存在し得る。
5000年伝えるなら、100年ごとに作ってもせいぜい50個、
タイムカプセル50王朝。

元村 はやぶさのドラマを通し、夢を見ることは大切だな、
夢を見させてくれる何かがあるって幸せだな、と皆さん感じた。
タイムカプセルも、大きな夢を見せてくれる、
人類共通の財産として伝えたい。
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◇トーク参加者

毎日新聞客員編集委員・八木亜夫さん/
元松下テクノリサーチ取締役・大村卓一さん/
国立民族学博物館教授・吉田憲司さん/
宇宙航空研究開発機構教授・川口淳一郎さん/
毎日新聞科学環境部・元村有希子副部長
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◇ネットでも反響

イベントは、インターネット「ユーストリーム」で生中継、
1万1791人が視聴。
視聴を中断、再視聴した人を含めると2万679人、
延べ視聴時間は1865時間、高い関心を集めた。
視聴者からの反響は、イベント進行とともにツイッターで寄せられた。
「日本がものづくりにいちずに取り組み、輝いていた時代」、
「タイムマシンがあったら、当時に行ってみたい」、
「(はやぶさは)諦めず、可能性にかける姿勢がすごい!」、
中継終了までに約900件。
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◇伊藤芳明・毎日新聞社常務取締役大阪本社代表

記録ビデオを見て、改めてすごいプロジェクトだと感心。
5000年という時間軸でとらえたこと。
文明発祥が5000年前、5000年後なら今が、人類文明史のまん中にあたり、
どんな技術があったかを記録する貴重な資料に。

我々は小粒になっていないか?
5000年という夢のある発想を、次の世代に伝えていきたい。

◇大澤英俊・パナソニック株式会社役員、コーポレートコミュニケーション本部長

「タイム・カプセルEXPO’70」は、当社の創業50周年(68年)記念事業の
一つとして実施。
人類がどのような文化を創造し、未来への理想を掲げ、
生活していたか、5000年後へ残すという夢のあるプロジェクト。
創業者、松下幸之助も、著作の中で熱い思いを書いている。
タイムカプセルへの理解を深め、サポーターとして温かく
見守っていただきたい。
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◇やぎ・つぎお

1934年、大阪府出身。同志社大卒。
毎日新聞大阪本社学芸部長、編集局次長などを歴任。
万博取材班キャップ、タイムカプセルにも企画段階から携わった。
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◇おおむら・たくいち

1945年、広島県出身。70年、広島大大学院(応用化学専攻)修了、
松下電器産業入社。2000年、1回目のタイムカプセル開封・点検を指揮。
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◇よしだ・けんじ

1955年、京都府出身。京大文学部卒、阪大大学院修了。
国立民族学博物館教授、総合研究大学院大学教授。
文化人類学、博物館人類学専攻。
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◇かわぐち・じゅんいちろう

1955年、青森県出身。京大工学部卒、83年東大大学院修了、
旧文部省宇宙科学研究所へ。
JAXA教授、はやぶさプロジェクト・マネジャー。
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◇もとむら・ゆきこ

1966年、福岡県出身。九州大卒。
ノーベル賞や科学技術政策などを取材。
連載「理系白書」報道で、06年日本科学ジャーナリスト大賞受賞。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/12/14/20101214ddm010040071000c.html

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