2009年1月17日土曜日

理系白書’09:挑戦のとき/1 次代を築く、若手研究者たち

(毎日 1月11日)

科学技術創造立国を目指し、昨年はノーベル賞受賞ラッシュにわいた日本。
その足もとの研究現場を支えているのは、若手研究者たち。
先人の背を追い、追い越し、そして次代を築く才能が花開いている。
新たな分野、技術に挑戦する若手研究者たちの素顔に迫る。

◇生命のドラマを見つめ--
理化学研究所発生ゲノミクス研究チームリーダー・杉本亜砂子さん(43)

単細胞の受精卵から自分はどうやってできたのだろう。
細胞の運命は、どのように決まるのだろうか--。

杉本さんが、生命の解明のパートナーに選んだのは「線虫」。
線虫は、959個の細胞から成る体長約1ミリの生物。
受精から3日で成虫に。卵は透明で、細胞分裂のすべてを観察できる。
日々、顕微鏡越しに生命発生のドラマを見つめる。

小さいころから科学の本に親しんだ。
「暗記が苦手で、理詰めで一つの答えを導く理数科目が性に合った」。
生物の魅力に出合ったのは、15~16歳のとき。
授業でメンデルの遺伝法則とDNAの二重らせん構造を学び、
「生物も法則に従って、理詰めで考えられる。
遺伝子を使って、生命を論理的に説明できるってすごい」と感動。

生命が始まる受精卵には、DNAが1セットあるだけ。
それが分裂を繰り返し、さまざまな器官に変化する。
その一連の仕組みは、どの種でも解明されていない。
杉本さんは世界に先駆け、線虫が受精卵から成虫になるのに、
約2万の遺伝子のうち4分の1が不可欠であることを明らか。

生きた細胞中のたんぱく質の動きを観察し、細胞分裂や細胞の運命を
決める遺伝子グループを突き止めた。
「自分が知りたいこと、世の中の人が知らないことを知ることができる
研究者には、やめられない魅力がある」と笑う。

理化学研究所でも、女性のチームリーダーは1割に満たない。
研究を始めたころは、「自分の研究室を持つ自信がなかった」が、
今は約10人のチームを率いる。
「これから社会を目指す女子学生は、やりたいことをやってほしい。
『今、女性が少ないからチャンスはない』と考え、
自分の可能性を自ら狭める必要はありません」

◇子どもも簡単に立体図--東京大准教授・五十嵐健夫さん(35)

クマやヘビなど、パソコン画面上に手書きするだけで、
三次元の立体図に早変わり。
ペンの操作で回転させたり、駆け出させたりもできる。
「子どもも簡単に操作できることが大事です」。笑顔で語った。

パソコン画面に描いた二次元の絵を、立体化するソフト「Teddy」を、
博士課程2年の時に作った。
ノーベル賞候補などが名を連ねる科学技術振興機構の
大型プロジェクトリーダーにも、34歳で抜てき。

子どものころから、絵が好きだった。
父親が購入したコンピューターにのめり込み、簡単なお絵かきプログラムを
自ら作って、好きなクマの絵を描いて遊んだ。
人が円滑に操作できるコンピューターに興味を持った。

「人よりモノを相手にするのがよかった」と大学で理系に進学したが、
研究者になるつもりはなかった。
就職活動をして、「どの企業も考えていることが同じ。面白くなかった」。
博士課程の時、米ブラウン大を訪れ、三次元の形を手書き風に表示する
コンピューター技術を知り、逆転の発想からTeddyが生まれた。

若者の理科離れが問題になっているが、五十嵐さんは
「『理系か文系か』ではなく、社会を生き抜くには、
クリエーティブ・マインド(創造する心)を身に着けることこそが重要」

Teddyは、「お絵かきソフト」として市販され、高校の地理の授業で
使われるなど、社会に広がっている。
「人に役立つ仕事がしたい。コンピューターと人とをつなぐ懸け橋になりたいから」

◇水星の磁場の謎に迫る--宇宙航空研究開発機構准教授・松岡彩子さん(43)

太陽系の最も内側を回る水星は、灼熱の環境などの理由から
探査が進まず、謎に包まれている。
その一つが、磁場(磁石のような性質)の存在。
磁場は、液体の核がない天体では保てないため、
小さな水星には存在しないと考えられてきた。

だが1970年代、米国探査機が磁場の存在を確認、
「なぜ磁場があるのか」が、新たな謎として浮上。
その水星に向け、2013年に日本と欧州が共同で水星探査機
「ベピ・コロンボ」を打ち上げる。
水星磁場の謎を解明する主要観測機器の一つ、
磁力計の開発を率いるのが松岡さん。

学生時代から地球の磁気圏などの研究を続けてきたが、
観測装置を作るのは初めて。
「ハンダごての持ち方を習うことから始めた」。
これまでの衛星では、外国製の磁力計を使うことが多かったが、

松岡さんは「開発段階のノウハウが大事」と、自力開発にこだわった。
水星は太陽に近いため、熱や放射線への耐久性や重量の制限が厳しいが、
「外国製と見劣りのないものを作る」と意気込む。

子どものころにプラネタリウムを見て、宇宙の不思議に魅せられた。
「一つのことをずっと考え続けるタイプで、試験はできなかったけど、
高校時代の教師からは『研究者向き』と言われた」

磁力計は、小型ロケットによる試験などで、ほぼ性能を発揮できる手応えを得た。
「ちゃんと原理に従い、考えた通りにモノが動いた瞬間が一番うれしかった」。
縁の薄かったものづくりの世界で、最初のゴールが見え始め、
「時には向こう見ずさも必要」

◇量子コンピューターへ光--京都大特定准教授・青木隆朗さん(34)

ごく狭い空間に光を入れ、反射や屈折の応用で、
入った光が出ないように閉じ込める。
その空間で、光子(光の粒子)1個と原子1個が互いにどう影響しあうかを研究。
青木さんの専門分野で、「キャビティQED(共振器量子電気力学)」と呼ばれる
最先端物理学。俗世とは無縁に思えるが、実は光を閉じ込めた状態を使うと、
大量の計算を並列的にこなす「量子コンピューター」が作れると期待。

青木さんは、小さなドーナツ形のガラス(直径100分の4ミリ)に
光を閉じ込めて実験した。
光がわずかに外ににじみ出たところに、セシウム原子1個を置き、
光との相互作用を観測。
06年に英科学誌ネイチャーに発表。
量子コンピューターの実現に一歩近づいた実験だと注目。

量子コンピューターは、大量の計算を同時に行う。
従来なら解読に数千万年かかる暗号を数十秒で解く、新薬開発につながる
たんぱく質の反応解析を高速で行うなどが期待。

小学生のころから理科好き。
不思議に思える現象が、法則で説明できるのにひかれた。
「風呂に水を張ると、底が浅く見えるのは光の屈折のためと知ってうれしかった」。
東京大では工学部物理工学科に進み、純粋物理の研究と同時に、
先端技術の開発も味わえると期待。
「世界のだれもやっていない研究をやっているのに充実感を感じる」

今後は、半導体内の電子と光子の相互作用も研究し、
新分野を開拓したいと意気込む。
趣味は、21歳で始めたピアノ。
「ピアノが置ける部屋を借りました」

◇野心的な研究、国が161億円補助 大胆な発想に期待

博士号を取得しても、なかなか研究ポストにつけないなど、
日本の若手研究者を巡る環境は必ずしも明るくはない。
昨年、塩谷立・文部科学相が歴代ノーベル賞受賞者らを招いて開催した

基礎科学力強化懇談会でも、「上から押さえつけず、自由に研究できる
資金的裏づけが必要」など、若手研究者の育成に多くの注文がついた。

こうした指摘を受け、文科省は09年度予算案で、
若手向けの科学研究費補助金を前年度比11億円上積みし、305億円確保。
一定期間の任期付きポストで自立して研究し、その後の審査で認められれば
終身職が得られる「テニュア・トラック」制度の拡充など、
若手研究者の養成システム改革に98億円を盛り込んだ。

研究資金の配分では、政府の総合科学技術会議が失敗のリスクは
高くても野心的な研究を促す「大挑戦研究枠」の創設を提言し、
文科省が計161億円を計上。

同会議議員の相沢益男・元東京工業大学長は、
「初年度は若手を中心に選びたい。無難なことをやるのではなく、
トップに立つんだという意気込みを持って、
大胆な発想で大いにチャレンジしてほしい」とエールを送る。
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◇すぎもと・あさこ

東京都町田市出身。
92年、東京大大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程修了。
米ウィスコンシン大マディソン校博士研究員、東京大助手を経て、01年から現職。
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◇いがらし・たけお

神奈川県茅ケ崎市出身。95年、東京大工学部卒。
米ブラウン大の博士研究員や、東京大大学院工学系研究科の講師を経て、
05年から現職。日本IBM科学賞(04年)など受賞。
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◇まつおか・あやこ

静岡市出身。94年、東京大大学院理学系研究科博士課程を単位取得退学、
文部省宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構=JAXA)助手。
05年から現職。
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◇あおき・たかお

北九州市出身。01年、東京大大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。
同大学院助手、米カリフォルニア工科大研究員などを経て、08年12月から現職。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/11/20090111ddm016040040000c.html

お年寄りの脳、過去はバラ色? 米大が記憶消す働き分析

(朝日 2009年1月13日)

お年寄りは若い人に比べ、嫌な記憶を消すのが上手らしいことが、
米デューク大の研究でわかった。

お年寄りは、つらい記憶を処理するとき、若い人とは別の脳の部分を
使っていて、過去がバラ色に見えやすいらしい。
米専門誌サイコロジカル・サイエンス電子版に発表。

平均年齢70歳と24歳の15人ずつの協力者グループに、
30枚の写真を見てもらった。
写真には、普通の図柄に加え、ヘビがかみつこうとしているところや
暴力シーンなど、見るのが嫌な図柄も含まれていた。

その後、写真の図柄を覚えているかどうかを尋ねるテストを実施。
普通の図柄では、お年寄りと若い人で成績に差はなかったが、
嫌な図柄の写真では、若い人は52%が覚えていたのに対し、
お年寄りが覚えていたのは44%。

協力者が写真を見ている間、機能的磁気共鳴断層撮影(fMRI)で
脳を観察したところ、お年寄りは若い人に比べ、記憶に関連し、
感情をつかさどる部分より高度な思考をつかさどる部分が活発に働いていた。

人間は、年齢によって脳の使い方の戦略を変えているらしい。
チームのロベルト・キャベザ教授は、
「若い人は、いい記憶もつらい記憶も正確に記憶する必要がある。
年配の人はつらいことの多い世界に生きているので、
つらい記憶の衝撃を減らし、記憶するようになったのだろう」

http://www.asahi.com/science/update/0113/TKY200901130082.html

5分で結果、500円健診 若者向けに初の出店

(共同通信社 2009年1月13日)

「時間がない」などの理由で敬遠しがちな健康診断。
サブカルチャー関連の店が集まる東京都中野区の商業施設
「中野ブロードウェイ」に、血糖値などが5分程度で分かる
日本初のワンコイン健診ショップ「ケアプロ」がオープン。

約13平方メートルの細長いスペース。
検査メニューはほかに総コレステロール、中性脂肪、骨密度や血圧などの
セットで全4種類。

医療行為にならないため健康保険証は要らず、各500円。
全部受ければ1500円。

自分で採血する必要があるが、使い捨ての簡易採血器具を指先に当てるだけ。
結果がその場で出る上、携帯電話の会員サイトでも閲覧できる。

社長の川添高志さん(26)が、看護師として東大病院で糖尿病患者を
担当していた際、健診の大切さを実感したのが設立のきっかけ。
「若者が立ち寄れるように、1号店の立地条件を考えた。
今後3年間で、ドラッグストアと提携するなどして
首都圏で200店を目指します」

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=86152

2009年1月16日金曜日

インタビュー・環境戦略を語る:富士重工業・森郁夫社長

(毎日 1月12日)

スバルブランドの自動車メーカーとしてファンの多い富士重工業が、
環境対応を加速。
09年、三菱自動車と並んで電気自動車(EV)を市場投入。
主力車「スバルレガシィ」などの燃費向上にも取り組む。
航空機メーカーでもある同社は、「航空技術を生かした風力発電システムを
量産し、自然エネルギーでEVを動かす」究極のエコを目指す。

--自動車の環境対応は?

◆スバルはどちらかというと「走り」は良いが、燃費はあまり良くないという
イメージがあったが、燃費はかなり向上。
走りの良さを維持しながら、どう環境対応していくかが一番のポイント。

--具体的には?

◆いくつかの段階があるが、次期モデルに新しい「水平対向エンジン」を開発、
10年には投入。
高効率のCVT(無段変速機)も、09年に投入し、
現行車より少し大きな車体でも、燃費を10~20%良くする。

--09年はEV元年になりそう。

◆100台を超える軽のEVを、自治体や民間企業などに提供。
我々は将来的に、近距離を走る軽はEVになると見ており、力を入れている。
三菱自動車と切磋琢磨するのはよいこと。

--ガソリン車の軽から撤退しても、EVは進めるのか?

現行の軽の生産は、09年から徐々に撤退するが、
当面は自社の車体を使ってEVを完成。
その先は未定だが、自社か提携先の車体を使うにしても、
スバルのEVの技術は生き残ることに。
提携先のトヨタ自動車やダイハツ工業に、
EVのシステムを提供することも考えられる。

--ディーゼルなどとのすみ分けは?

◆欧州で先行発売したディーゼルのレガシィは、満タンにすると1000キロ走る。
もしも1000キロ走るEVを作るなら、ものすごい量の電池を積まないといけない。
長距離はディーゼル、近距離はEV、中間がハイブリッドというすみ分けになる。

--風力発電とEVを両方進める狙いは?

◆抵抗が少なく、台風などにも強い風車を航空技術を生かして開発。
社会貢献として、電気を使うだけでなく、作る方にも取り組む。
風力で発電してEVを動かし、走行エネルギーを減速時に回収するのが理想。
水平対向エンジンのハイブリッド車の開発も、トヨタと進めている。
世界ラリー選手権(WRC)から撤退するが、
ディーゼルやEVなどで戦うモータースポーツが始まれば、参戦する可能性も。
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◇もり・いくお

早稲田大理工卒、70年富士重工業入社。
米国駐在、海外生産推進部長、海外営業本部長、常務執行役などを経て
06年6月から現職。高知県出身。61歳。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/12/20090112ddm008020009000c.html

牛ふん活用の燃料電池を開発、将来は“トイレ発電機”も

(読売 1月10日)

牛のふん尿から抜き出したアンモニアを電気分解して、
燃料電池に活用する技術を、帯広畜産大の高橋潤一教授(循環型畜産科学)
と、住友商事の研究グループが世界で初めて開発。

人間のし尿にも応用できる。
小型化しやすい燃料電池の特性を生かせば、
一般家庭用の“トイレ発電機”の開発につながる可能性も。

「牛ふんアンモニア燃料電池」は、ふん尿を無酸素状態で発酵させて取り出した
アンモニアを水素と窒素に電気分解し、水素を大気中の酸素と
反応させて電気を取り出す仕組み。

高橋教授らは、約200万円かけて実験装置(縦2メートル、横1メートル)を製作、
発酵させた約20キロのふん尿から0・2ワットの電力を取り出すことに成功。

試算では、発電効率を高めることにより、北海道の平均的な牧場で
1日に排出されるふん尿6~8トンで、一般家庭3日分の電力を賄える。

燃料電池は、水素と酸素を化学反応させて発電する装置。
国内メーカーが家庭用機器の実用化を急いでいるが、
現在は都市ガスやプロパンガス、灯油、メタノールから水素を取り出し、
いずれも二酸化炭素(CO2)を排出。

今回の新技術は、CO2は発生せず、原料コストもゼロ。
燃料電池に詳しい工学院大の雑賀高教授は、
「新エネルギーとして実用化に期待したい」

http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20090110-OYT1T00035.htm

JOC、五輪招致を支える組織設立へ 加盟競技団体と連携

(日経 1月14日)

日本オリンピック委員会(JOC)は、加盟競技団体と連携して
2016年夏季五輪の東京招致を支援する独自組織をつくる方針。

責任者は遅塚研一専務理事が就き、国内の機運を盛り上げたり、
国際オリンピック委員会(IOC)委員との人脈を活用する態勢を築く。
活動費用は今後、東京都と交渉する予定。
JOCの古橋広之進顧問や名誉委員の協力も得て、招致活動を支える。

JOCは、これまでも加盟競技団体の招致担当者や東京招致委員会と
協力して、IOC委員との関係構築を図ったが十分に機能せず、
組織化が必要という意見が上がっていた。

遅塚専務理事は、「各競技団体の人脈を利用し、最も効果的な形で
最後の追い込みに入りたい」

http://sports.nikkei.co.jp/index.aspx?n=SSXKC0595%2013012009

2009年1月15日木曜日

霜降りもクッキリ…牛の肉質、MRIで生きたまま予測可能

(読売 1月12日)

磁気共鳴画像(MRI)の検査が高級和牛の必須条件――。
そんな時代がくるかもしれない。

放射線医学総合研究所の池平博夫チームリーダーらが、
MRIの断層画像で、生きている牛の肉のおいしさを予測できることを確認。

池平さんらは、雄牛のロース肉を人間用のMRIで撮影。
肉質を左右する「霜降り」の度合いや脂肪の粒の大きさが、
肉質検査に使う写真と同程度の鮮明さで映り、
霜降りの面積を自動的に算出できた。

撮影データの解析で、多く含まれるほど肉をおいしくする
「不飽和脂肪酸」の量も確認できた。
こちらは、実際の肉質検査では鑑別できない。

肉質の良い牛を作るのは、運試し。
見込みを付けた雄牛の精子を複数の雌牛に人工授精し、
生まれた子牛の肉質から、親の品質を推定。数年がかりの作業になる。

MRIを使えば、優秀な雄牛を数分で確実に見つけられそうだ。
実用化には、生きた牛を丸ごと撮影できる大型装置が必要だが、
同チームはすでに装置の設計案を完成。
「後はスポンサーを待つだけ」(池平さん)。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20090111-OYT1T00745.htm

現場再訪(4)教員版FA制じわり

(読売 1月10日)

教師が働きたい学校に異動できる制度は定着したのだろうか。

「私の場合は非常にうまくいったケースでしょう」
昨春から、横浜市立八景小学校の副校長を務める重田英明さん(46)が
「教員版FA(Free Agent)制」の経験を振り返る。
教師が異動希望を宣言し、受け入れ先の校長と交渉の末に異動できる制度。
重田さんは、横浜市が制度を取り入れた最初の年に当たる2005年度、
市立下野谷小学校に移った。

外国籍の児童らを指導する国際教室を受け持ち、若手の研修も担当したが、
最も力を注いだと言えるのが、校長の指示で取り組んだ校内組織の見直し。

個々の教師の校務を大胆に整理。
全教職員を、学習に関連する「自分部会」、学級運営や人権教育にかかわる
「友だち部会」、地域行事や環境教育を担当する「まち部会」の
いずれかの所属にした。
担任も、低・中・高学年ごとに1人か2人が各部会に所属、
他のメンバーには持ち帰って情報を伝える形にした。
組織の簡素化で会議の数が減り、子供と触れ合う時間が増えた。

この経験で、学校運営の大切さを体感し、視野が広がったというが、
現在は、FAの経験が話題になることはない。
「『FA』は、あくまで異動の手段。ずっと背負う看板ではない。
要は、どれだけ制度を生かして仕事が出来たかです」と重田さんはクギを刺す。

初年度にFA宣言した56人中、異動が成立したのは41人。
08年度も90人中85人。
市教委は、FA制が定着しつつあるとみる。
現在では、佐賀県と大阪市も導入。

FA制を最初に導入したのは、04年度からの京都市。
最初は、FA宣言した178人中110人が異動。
08年度は86人が宣言、56人が成立と半減。
逆に、FA制と同じ年に始めた「公募制」は、
13校から08年度には100校まで広がった。
校長が求める教員像を示し、異動希望者を募る制度。

全国的には、約30教委にまで広がっている。
「FA制は、手を挙げても採用されない可能性がある。
公募制は、必要とされる人材像が明確で、手を挙げやすいのではないか」と
京都市教委は指摘する。

両制度とも、校長が欲しい人材像を明確にするなど
リーダーシップを発揮する必要性がある。
校長の能力も問われ、人材の偏りを招く可能性もある。
人事上の混乱を防ぐため、欠員が出た場合に限定して公募を続けている
三重県のような教委もある。

一方、4年前にFA制で京都市立伏見中に異動し、
生徒指導部長として活躍する岡本直教諭(52)は、
「自分が必要とされる場所で、出来る仕事を思い切りさせてもらっている。
制度を利用して良かった」

そもそも、教師の希望をかなえるという点で、両制度は相関関係にある。
二つの制度を車の両輪と考えれば、適材適所を促す制度として
浸透しつつあると言えそうだ。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090110-OYT8T00248.htm

エネルギーの地産地消を 環境エネルギー政策研究所所長 飯田哲也さん

(毎日 1月5日)

――日本は、京都議定書で約束したCO2排出削減を達成できるか?

京都議定書で、日本は2008~12年の年平均で、
1990年に比べて6%減らすと約束したが、07年度の速報値は8・7%の増。
このままでは、目標達成は無理でしょう。
最大の原因は、CO2排出量が多い石炭などを使う
火力発電の発電量が増えていること。
中越沖地震などの影響で、CO2を基本的に排出しない
原子力発電の稼働率も下がっている。

――削減するにはどうすればいいのか?

原発は、地元の同意を得るのに時間がかかり、
建設ラッシュだった70年代と同じペースで作り続けるのは難しい。
CO2を排出しない太陽光や風力、地熱など自然エネルギーを
思い切って増やすしかない。
ドイツやスペインでは、電力会社が高い価格で太陽光発電の電力を
買い上げる政策を導入し、発電量を爆発的に増やした。
自然エネルギーの業界が発達し、技術革新が進めば、次第にコストも下がる。
自然エネルギーを増やせば、海外に依存しているエネルギーの「自給」に
つながり、新しい雇用や産業を生み出す効果も。

――我々市民にできることは何か?

自然エネルギーの発電にかかる割高な費用の一部を、
企業や自治体のほか、市民が負担するグリーン電力証書という仕組みがある。
洞爺湖サミットで温暖化問題への関心が高まり、
昨年は証書の販売量が大幅に増えた。
住民出資で風力発電を設置する「市民風車」も各地にできている。
「エネルギーの地産地消」こそ、資源のない技術立国・日本が
目指すべき道ではないか。
自然エネルギーの導入促進に予算を重点投入するなど、
国は大胆に政策の舵を切るべき。

飯田哲也さん

環境省中央環境審議会臨時委員。
電力中央研究所やスウェーデン・ルンド大学の研究員を歴任し、
環境エネルギー政策の提言を続ける。

http://www.yomiuri.co.jp/eco/kikitai/20090105-OYT8T00473.htm

2009年1月14日水曜日

農業ロボットスーツ:大根抜き、労力半減 東京農工大、実演

(毎日 1月10日)

大根抜きなど負担の大きな農作業を手助けする「農業ロボットスーツ」を、
東京農工大が開発し、東京都府中市のキャンパスで実演。

スーツの重さは約25キロだが、今後半分に軽量化し、
2年後には50万~100万円で市販する計画。
公開された作業は、イチゴ摘み、ポンカンの剪定、大根抜き--の3種類。

長時間、腕を上げている剪定作業や腰を曲げるイチゴ摘みは
体への負担が大きい。
大根抜きでは腰に約30キロの力がかかる。

ロボットは肩やひじ、腰、ひざの関節に計8個のモーターを付け、
作業者を補助する。
大根抜きではスーツの装着で半分以下の力で済み、
他の2種類でもほとんど負担を感じずに作業できた。

現在、農業従事者の約4割が65歳以上で、
補助ロボット開発を期待する声が高まっている。

http://mainichi.jp/select/science/news/20090110ddm041040040000c.html

現場再訪(3)「夢」の教職 さらに一歩

(読売 1月9日)

教員養成を意識したコースを設けた高校の1期生が巣立つ。

「保護者と良い関係を築くために必要なことは?」、
「いじめへの対応で、特定の児童をえこひいきしているように
見られるかもしれない。どうすればよいか」

奈良県立平城高校「教育コース」の3年生が、
教師のような質問を投げかけた。
昨年11月末に開かれた、事実上、締めくくりとなる授業は、
教員養成課程を持つ京都市の佛教大、京都女子大と、奈良教育大から
教員を招いて意見交換会になった。
質問に答える大学教員は、生徒の成長ぶりに驚きを隠さない。

1期生の3年生41人は、大学教員の指導を受けながら、
「学級崩壊を止めるには」、「『学力低下』の実態」といったテーマを
自分で決めてリポートにまとめた。
生徒を小学生に見立てた授業も経験。
近隣の小学校で行事を手伝ったり、教師に張り付いて授業の補助役も。
そんな体験も報告書にまとめて発表。

教育コース主任の岩崎俊哉教諭(50)は、
「現実を見てきたから、必要なことをもっと学びたいと思うようになったようだ」

同時期に教育コースを設けた県立高田高校(大和高田市)
1期生39人も同じ。

「教職は『夢』だった。でも、教師の仕事を実際に見て大変さを知った。
自分の意見を子供たちにしっかり伝えて、信頼関係を作ることが大切だとわかった」
と大阪教育大に推薦入学が決まった藤本志帆さん(18)。
担任の吉田祥子教諭(50)は、「最初は、『あこがれ』だった意識を、
どう変えて持続させるかが課題だった」というが、
生徒の意識は着実に高くなっている。

両校1期生の進路が決まろうとしている。
すでに80人中25人が、教育系大学に推薦で合格。
高田高は、全員が教員志望。
平城高は、10人が他の進路を選ぶことになりそうだ。

両校の1期生は、3月実施の一般コースとは別に、2月入試で入学。
平城高の谷垣康校長(53)は、「教職にこだわらずに平城高を目指す生徒が、
教育コースを受験したことも影響したのではないか」

だが、「教職とのミスマッチ(不釣り合い)を防ぐ意味もある。
教員コースで身につける人との接し方やコミュニケーション能力は、
どの世界でも必要な能力で、生徒にはプラスだ」

「確かに、『教員は自分に向いていないのでは』と訴える生徒も。
高校段階で、教師の仕事を真剣に考える経験を積むこと自体、意味がある」と
3年間、出張講義も担当してきた京都女子大発達教育学部の田井康雄教授(58)。

平城高の教育コースから推薦で4人を受け入れる佛教大教育学部の
原清治教授(48)も、「教員養成課程の大学が、高校と協力して
良い教師を育てていく、そのモデルの基礎はできたと思う」と評価。
バトンを受け取る大学に注目が集まろうとしている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090109-OYT8T00227.htm

がん対策:一貫した患者支援で注目、島根方式 悩みや不安を分かち合う場

(毎日 1月9日)

人口10万人当たりのがん死亡者数が346・1人と、
秋田県(352・5人)に次ぐ全国ワースト2位の島根県。
島根で行われている一貫した患者支援の取り組みが注目。

国立病院機構京都医療センター(京都市)に08年3月、
府内初の院内がん患者サロン「うずらプラナスの会」が開設。
待合ロビーの一角のついたてで仕切られた空間に、毎週金曜日、
患者や家族が集まる。
悩み相談や情報交換が目的で、他病院の患者も訪れる。
夫婦で顔を見せた肺がんの男性(78)は、「こういう場所を探していた。
患者同士がつらさも分かちあい、先輩患者の体験も参考になる」

患者の思いをセンターが受けて実現。患者や家族が運営する。
世話人で大腸がん患者でもある大東和子さん(70)は、
「みな話せない不安や悩みを抱えている。
『サロンでしか泣けない』と涙を見せる人もいる。
『がん=死』ではないと伝えたい」と訴える。

参考にしたのは、島根県の患者サロンの取り組み。
05年12月、都会と地方との情報格差を感じたのがきっかけで、
患者の心のケアや患者が主体的に治療にかかわる体制作りを目指している。
現在までに、病院や公民館など計21カ所にサロンがあり、患者の要望で実現。
誰もがどのサロンにも参加できる。
全サロンが連携し、情報を県がホームページで公開するなど
行政や医療機関も支援を行う。

島根のサロンには全国から視察が相次ぎ、取り組みは約20府県に。
京都で院内サロンの開設を進めるNPO法人「京都がん医療を考える会」
佐藤好威理事長(65)は、「京都は、高度な医療機関はあるが、
患者への支援は遅れている。サロンに興味を示さない病院も多い。
がん医療の向上のためにも、もっとサロンが必要だ

06年6月、国や自治体などの責務を示し、がん対策に取り組む
「がん対策基本法」が成立
この動きに呼応するように、島根県では患者らの声を受け、
同年9月に全国初の「県がん対策推進条例」が成立。
条例の存在が、行政の患者サロン支援や、
関係機関の連携と取り組みを強力に促進。
条例策定の動きはその後、高知県、神奈川県、新潟県、長崎県にも。

島根県では07年7月、がん治療・検診などで使う高度医療機器の
早期整備を目的に、財団法人島根難病研究所が運営する
「がん対策募金」が始まった。
3年間で7億円を集める目標。
企業の協力で、売り上げの一部を寄付する商品も登場し、
バナナや緑茶など11商品に拡大。
消費者も、対象商品を買うことでがん対策に参加することになり、
これまでに約3億1000万円の募金が集まった。

「病院や行政は、患者の支援にどう関与すべきか」。
島根県には、行政や病院関係者の視察や講演依頼が相次ぐ。
県医療対策課は、「島根には、患者や市民の盛り上がりがあった。
行政主導では長続きしない。
まずは、患者さんの取り組みに耳を傾けたことが成功につながった」

08年11月30日、全国のがん患者や家族らが参加する
「第4回がん患者大集会」が全国9会場で開かれた。
各会場は同時中継で結ばれ、パネリストでがん対策に詳しい
埴岡健一・東京大特任准教授が、
患者、医療、行政の三位一体でなく、島根はメディア、企業、議会などの
政治を合わせた『六位一体』で取り組み、それがうまく機能している」と、
島根方式の特徴を評価。

一方、がん対策基本法に基づき各都道府県は、
がん対策推進計画を策定。
5大がんの検診率を、10年度以内に70%に(宮城県)、
在宅ターミナルチームを300カ所構築して患者在宅みとり率を5年以内に
12%以上に拡大(兵庫県)、
公共施設の全面禁煙化(静岡県)など、独自の施策を打ち出している。

http://mainichi.jp/life/health/news/20090109ddm013100145000c.html

環境の旗手たち:/5 東京ガス・松井徹さん

(毎日 1月9日)

◇焼却困難な海藻からメタンガス--松井徹さん(41)

<異常繁茂した海藻は、浜辺に漂着して腐臭を放つ。
海藻は、9割が水分で焼却しにくく、埋め立てなどの処分に
年間数千万円をかけている自治体も。
東京ガスは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との
共同研究で、この厄介者の資源化を目指し、
メタンガスを回収する世界初のプラントを07年に開発

10年前、「バイオマスを研究してみよう」と集まったのは約10人。
正式な研究テーマとして会社に認められたのは、その後のこと。有志の集まり。
「海藻に困っている自治体がある。使えないか」と、
メンバーから寄せられた情報が、海藻に関心を持つきっかけに。

<微生物を使って海藻を発酵させて糖を生成し、
さらに発酵させてメタンガスを取り出す。
海藻に適した微生物探しがポイント

土や食品にすむ微生物を数十種類、試した。
海藻の糖は、陸上生物の糖とは分子構造が異なっているようで、
効率よく分解できる微生物探しに1年ほどかかった。
しかも、1種類見つければいいわけではない。
海藻を分解して糖にする、その糖をさらに分解するなど、
いろいろな役割の複数の微生物を共生させる必要。
海藻には、ごみも混じるので、雑多な環境に強くなければ。

<02年度から5年間、実証実験を繰り返し、
1日1トンの海藻から約20立方メートルのメタンガスを回収することに成功。
出力を安定させるために天然ガス(都市ガス)と混合し、
1時間当たり10キロワット時(一般家庭20世帯分)の発電量を得られる。
一部はカスとして残るが、肥料にできる。
水産関係者から説明を求められる機会も増えている>

バイオマスの利用は、地球環境をよくすることにつながる。
プラントの建設や稼働、海藻の回収などで雇用を創出し、
地域を活性化する効果も期待。
人に自慢できる仕事っていいもの。
==============
◇バイオマス

食品廃棄物や動物のふん尿、下水汚泥、間伐材など生物由来の資源。
堆肥化したり、発酵や燃焼により、メタンガスやエタノールなどの
燃料に替えることができる。
海に囲まれた日本は、海藻利用も期待。
国は06年、石油などの化石燃料からの脱却や二酸化炭素(CO2)
排出量削減のため、バイオマス・ニッポン総合戦略を決定し、
開発や利用を促進。
==============
◇まつい・とおる

東京工業大工学部化学工学科卒。91年、東京ガス入社。
基盤技術部技術研究所で、学生時代からの触媒研究を生かし、
排ガス浄化技術の開発に携わる。
06年4月から環境システムチーム主幹。東京都生まれ。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/09/20090109ddm008020059000c.html

2009年1月13日火曜日

糖尿病は脳機能を低下させる

(WebMD 1月5日)

厳格にコントロールされている場合でも、軽度糖尿病により
精神機能が低下することを、カナダの研究が示している。

この認知障害は、大きなものではないものの、
2型糖尿病の早期に出現するようである。
幸いにも、軽度~中等度の糖尿病患者であれば、
この障害が経時的に悪化することはない。

この知見は、「比較的軽度の」2型糖尿病患者41例を含む53~90歳の
成人570例を対象とした研究、被験者は3年毎に精神機能検査を受けた。

いくつかの研究で、糖尿病と精神機能の低下との関連性が示されているが、
アルバータ大学(カナダ、エドモントン)のRoger A. Dixonらは、
すべての精神機能が等しく障害されるわけではないことを明らかに。

糖尿病患者の反応時間と認知速度は、共に正常であったが、
新しい言語情報を迅速かつ正確に処理する必要のある課題については
遅れがみられた。
この障害は速度には影響するが、言語の流ちょう性には影響しなかった。

Dixon博士は、「早期で適切に管理されている糖尿病患者には、
こうした機能低下を代償する何らかの経路があると考えられる」

糖尿病患者とそれ以外の人の精神機能における差が、
加齢により拡大しなかったことは朗報。
Dixon博士らが検出したこの障害は、「臨床的に重大」ではないものの、
一部の患者ではこうした軽微な障害が精神機能のさらなる低下の前兆と
なっている可能性のあることが示唆。

『Neuropsychology』1月号に掲載。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=SPECIALTY&categoryId=580&articleLang=ja&articleId=86000

現場再訪(2)全寮制自主性の芽生え

(読売 1月8日)

開校4年目を迎える全寮制中高一貫校の生徒たちが変わり始めた。

午後8時。校舎から見える三河湾は、すっかり闇に包まれた。
食事と洗濯を済ませた生徒たちは、校舎隣の寮で、
誰に指示されることもなく自習を始めた。
自室にこもったり、ラウンジで教え合ったり。
寮内は張りつめた空気でいっぱいだ。

全寮制の中高一貫校、海陽中等教育学校(愛知県蒲郡市)では、
3年生までの男子338人全員が、消灯30分前まで2時間の
「夜間学習」に取り組む。
しかも、生徒の疑問に答えられるよう、教員が交代で待機する。

この日が当番の鈴木裕子教諭は、「生徒が自ら学んで成長している。
夜の表情は昼と違うので、何に困っているかもよくわかり、適切な指導ができる」。
当番以外の教員も、気になる生徒がいれば適宜、寮を訪れる。

同校は2006年、英国で指導者を輩出してきたパブリックスクールの
イートン校をモデルに、トヨタ自動車、JR東海、中部電力など
80を超える企業・団体の寄付で開校。
自由と規律を学び、独立心と協調性を育てるという建学精神の下、
生徒の生活には細かいスケジュールがある。

起床は6時30分、授業は8時10分に始まる。
放課後も、自習や補習の時間が決まっている。
校内にはコンビニエンスストアがあり、生活用品は電子マネーで買う。
小遣い帳と日誌は毎日、企業が派遣した若手社員が担う
フロアマスターに提出。ゲーム機の持ち込みや個室での飲食は禁止。

「洗濯の順番や時間決めなどで、自主的に寮を運営し始めた。
最初はこうはいかなかった」。
寮全体を束ねるハウスマスターとして寝食を共にしてきた
篠崎高雅さん(49)は、生徒の変化を口にする。

渡辺誠副校長(59)も、「生徒同士の衝突も先輩が調整するなど、
リーダー意識が芽生えてきた」。
生徒からも、「自分のことは自分でできるようになった。後輩も育てたい」

授業は、「高校までの内容を4年で終える」としてきただけに密度が濃い。
1期生の3年生は、昨春から高1のカリキュラムに入った。
生徒の習熟度に多少の差があり、きっちり4年で終えるかどうかは未定だが、
5~6年は、4年間の復習と受験準備のため演習中心の授業にし、
大学レベルの教材も用意する。

今年度から教員の進路指導研修が始まり、外部の講師から、
大学受験の動向、受験生への授業の進め方などの話を聞いた。
だが、「大学受験対策で成績に一喜一憂せず、社会のリーダーになることを
イメージできる指導を心がけたい」と渡辺副校長。
黒川清・前日本学術会議会長、浅島誠・東京大副学長など、
日本のトップリーダーを講師に招いた特別講義も続けてきた。

「これまでは学校が与えたレールに乗っていればよく、恵まれすぎていた。
何を学びたくて、何をやりたいのかを考えさせ、
自ら学校に働きかける生徒を育てていきたい
リーダーの卵をどう育てるか、本格的な挑戦が始まる。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090108-OYT8T00228.htm

スポーツ21世紀:新しい波/289 武道の必修化/7

(毎日 1月10日)

剣道を、正課の授業に取り入れている私立小学校がある。

大阪城の天守閣を間近に望む追手門学院は、昨年創立120周年を迎えた。
前身の大阪偕行社付属小学校は、明治21(1888)年、
薩摩藩出身で後に陸軍大臣や明治天皇の侍従などを務めた
高島鞆之助によって創設

高島は、大阪鎮台司令官に着任した際、礼儀作法を心得ない子どもたちに驚き、
礼節としつけを重視した教育の必要性を感じた。
だが、規律一辺倒ではなく、国際化を見据え、
創立当時から英語を取り入れてもいる。

剣道の授業は、大正4(1915)年から始まった。
第二次大戦後、武道を禁止したGHQ(連合国軍総司令部)の方針で中断、
昭和30年代に復活。
現在は5、6年生の男子を対象に週1回実施、成果を試す場として、
1月の寒げいこ、9月の暑中げいこと剣道大会、10月の体育大会がある。

昨年末、5年生の授業を見学。
約80人がはかまに防具をつけ、大きな声を出しながら、
竹刀を振りかぶってメン打ちを繰り返す。

最初のうちは、防具のひもを自分で結べず、打たれて泣き出す子も。
指導する林英男教諭は、「しんどい思いをして、自分の限界を知ることで
心が強くなり、たくましくなる」

子どもたち数人に感想を聞いた。
「スポーツと違って剣道は礼儀がある。
相手を敬い、一本をとってもガッツポーズをしたりしない」。
優等生的な答えだと思いつつ、感心もした。
岩渕正文教諭は、「強い剣士を作ることが目的ではないので、
技術だけにならないようにしている」

21世紀の今、小学生に剣道を教える意義は何なのか。
「時代遅れかもしれないが、今までやってきたことを、
次の時代につないでいるだけ。
一つのことをやり抜くことが、生きる自信になる。
そんな力を剣道を通して子どもたちにつけてあげたい」。
それが森義和教頭の答えだった。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

環境の旗手たち:/4 東レ・峯岸進一さん

(毎日 1月8日)

◇耐用年数2倍の浄水膜を開発、峯岸進一さん(40)

<中東やアフリカ、中国など世界では6人に1人が、
安全な水を飲めないでいる。
ストロー状の浄水用ろ過膜「中空糸膜」の新製品「トレフィル」が、
従来の製品より耐久性や汚れに強い点が評価され、
07年度の化学工学会技術賞を受賞。
峯岸進一さんが中核となって開発し、02年に実用化>

トレフィルは、全体に0・05マイクロメートルの無数の穴が開き、
汚れや微生物を除去して水をきれいに。
これを束ねた円柱形の部材を長さ約2メートル、直径約20センチと
世界最大にし、耐用年数を従来品の2倍以上の7年に延ばした。
汚れによる機能低下が小さくなり、処理能力が高まった。
東京都世田谷区の国内最大の膜ろ過浄水施設やインドネシアで使われ、
今年は韓国で採用。世界の多くの人に使ってもらえてうれしい。

<02年4月、大津市の研究所。実験室では生産に成功したのに、
愛媛工場ではうまくいかない。国内向けの1号機の納期が8月に迫っていた>

工場に2カ月間泊まり込み、考え続けた。
できないとは言いたくなかった。
温度や湿度など細かな生産条件を一つ一つクリアし、
最後のひとつになったのは6月。
実験室と異なる大型設備では、条件が異なることを知った。
実用化は大変だと実感。

<研究者が開発から製品化までかかわれる機会は少なく、
「幸せ者」と上司は言う>

子供のころの夢は、ロボットを作ること。
世の中の人が欲しいと思うものを作りたかった。
人に役立つ膜への思いは強くなり、ライフワークに。

<大津市内で、妻と子ども4人の6人暮らし。
子どもたちは「パパの仕事は水をきれいにすること」と言ってくれる>

入社当時は、水処理膜を知っている人はほとんどいない。
蛇口をひねれば、水が出る日本では難しいかもしれないが、
排水の再利用など水源の多様化が進み、それに対応した膜が必要。
研究に終わりはない。
==============
◇水処理膜

溶かしたプラスチック化合物でできており、大腸菌など除去物質によって
穴の大きさが異なる複数の膜がある。
淡水化に用いる膜の穴は、0・001マイクロメートル。
東レは日東電工、東洋紡、米ダウと並ぶ水処理膜の世界メーカーで、
市場規模は推定約1000億円弱(07年)。
水不足の深刻化による海水淡水化や浄水需要の増加で、
25年には7倍になるとの予想。
==============
◇みねぎし・しんいち

東工大大学院修士課程修了。93年、東レ入社、一貫して膜研究に従事。
浄水処理で北大との共同研究にも携わり、北大大学院博士後期課程修了(工学)。
05年4月から地球環境研究所主任研究員。埼玉県出身。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/08/20090108ddm008020042000c.html

2009年1月12日月曜日

元祖飛騨牛のクローン誕生 16年前の冷凍細胞から 岐阜県畜産研究所など

(共同通信社 2009年1月7日)

岐阜県特産の飛騨牛の元祖とされ、16年前に死んだ後に
冷凍保存されていた雄牛の細胞を使って、クローン牛が誕生。

県は、長期冷凍した牛の細胞からクローン牛を誕生させたのは
世界的にも珍しいとしている。
より肉質の良い牛の復活につながる可能性もあるが、
安全面から直ちに食用にすることへの問題点も指摘。
県畜産研究所と近畿大学の共同研究で、クローン技術の開発に成功。

1993年に死んだ雄牛「安福(やすふく)号」から取り出し冷凍保存していた
精巣から細胞核を抽出して、その核を遺伝子レベルで操作。
受精していない雌牛の卵細胞の核と入れ替える手法を使った。

2007年11月に初めてこのクローン牛が誕生。
これまで生まれた4頭のうち3頭が生存している。
安福号は「飛騨牛の父」と呼ばれ、さらに全国の黒毛和牛の3割以上の
ルーツとされている。
直接血を引く牛は全国で約150頭誕生。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=85882

新大船渡魚市場整備 総事業費50億円超

(東海新報 1月9日)

20年度内に着工となる新大船渡魚市場整備で、
大船渡市は建物の建築、電気設備、給排水・空調の各工事において
市内業者を中心に発注することを決めた。

整備費は、総額で50億円超、大部分が今回発注の工事費となる。
数十億円規模の大型事業を地元業者に限定した形で発注するケースは
市内では珍しく、整備における経済効果も注目。

入札は27日に行われ、議会などでの承認を経て、年度内に着工。
新施設の営業開始は22年内を目指し、その後の展示施設工事などを経て、
最終的な整備完了時期は23年となっている。

整備には、人工地盤などの工事で一部県事業も含まれているが、
市が一括して発注、施工を行う。
工事発注は、
魚市場施設などの建築、電気設備、給排水・空調――の3種類。

建築工事は、市営建設工事参加者名簿に登録している業者のうち、
建築工事A級(標準発注額3600万円以上)の8業者を対象とし、
2業者でのJV(特定共同企業体)を組んでの参加。
最大4企業体による入札となる。

電気設備工事は、同じく電気工事A級(同1000万円以上)に登録している
6業者(共同企業体を含む)が対象。
一業者ごと単独で入札に参加できる。

給排水・空調については、東北管内の大手1社と地元業者2社でのJVとなる。
地元業者は水道工事名簿に登録し、配水設備工事指定などを受けている
11業者が対象で、最大で5企業体による競争。

入札にあたって、市では市営建設工事入札資格者審査委員会などを開き、
選考方法を協議。地元企業の育成や技術力向上といった考えのほか、
市内業者も整備実績があり、施工できると判断。
JVとなっても競争性が確保できるため、市内業者を中心とした入札方針。

整備における総事業費の概算は、50億円超。
市では詳細を明らかにしていないが、総事業費のうち大部分が
今回の工事費に回るとみられる。

市内で数十億円規模の工事が行われる際、大手ゼネコンが主導する形が
多い中、市内業者が中心となった事業としては過去に例がない大規模なもの。

魚市場整備については、大船渡商工会議所が昨年8月、
市に対して魚市場事業を含む市発注工事を地元業者に優先発注するよう
要望書を提出。
資材価格高騰や発注量減に伴う建設業界の厳しい情勢を訴え、理解を求めた。

気仙3市町の建設業者53社で構成する県建設業協会大船渡支部の
金野健支部長は、「市内業者としては、かつてないほどの大型事業。
請け負った業者だけでなく下請け、資材業者などへの波及効果もあり、
公共事業が削減している今日においてはとても喜ばしい」。

市財政課は、「規模が大きく、要求される技術度も高いが、
地元業者も実績を積み重ねており、施工できると判断した。
地元経済への良い効果も期待している」

http://www.tohkaishimpo.com/

現場再訪(1)英語漬け授業 国語力も向上

(読売 1月7日)

「英語漬け」の一貫校は、開校から4年がたつ。

正月休みを神奈川県相模原市の自宅などで過ごした会社員
前田英典さん(45)は、妻の美雪さん(43)、長女の美理愛ちゃん(10)、
次女の侑理愛ちゃん(8)を、群馬県太田市に送った。
2人は、大半の授業を英語で行う同市の私立ぐんま国際アカデミー(GKA)
4年生と2年生。8日から学校が始まる。

開校以来、英典さんは相模原、妻子は太田で生活を続けてきた。
月10万円を超える授業料に加え、二つの自宅のローンがある。
2人は水泳教室に、美理愛ちゃんは昨夏から算数の塾にも通い始めた。
美雪さんはパートの仕事に就いた。
「いつまでやりくりできるか不安もあるが、家族で話し合って決めたことだから
後悔はない」と英典さん。

GKAは、政府の構造改革特区制度を使ってできた一貫校。
3年間、1年生と4年生を受け入れ、昨春、初等部を終えた1期生60人のうち
51人が中等部に進んだ。
7年生(中学1年)までの児童生徒552人に、教員は47人(うち外国人21人)。
今秋には、車で10分ほどの公立小移転跡で高等部の校舎建設が始まる。

初等部の授業は日本語と英語が3対7だが、
中等部では日本語での授業がやや増えた。
初等部では、算数と理科がすべて英語なのに対し、
中等部では数学と理科の1コマずつを日本語で行い、補習に充てている。

「英語で学んだことは十分理解できているが、内容も高度になり、
専門的な言葉も多い。日本人として、日本語に置き換えて説明できないと、
将来困ることも出てくるはず」と7年生の学年主任、山田ヘイ美由紀教諭(48)。

フィリピン人教師が担当する理科を先月初旬にのぞくと、
水溶液の性質を学ぶ授業で、「硝酸カリウム」「再結晶」といった
英単語が飛び交っていた。
生徒たちは水に溶かした物質を取り出し、その形を顕微鏡で確認、
教師の質問に答えながら、英語で書かれた板書をノートに書き写した。

子供たちの学力はどうか。
7年生は昨秋、国際的な英語テストTOEICを任意で受けた。
受験者25人の平均点は、477点(990点満点)。
英語や英文学専攻の大学1年生の平均点を上回った。
6年生はこの2年、国の全国学力テストを受けている。
国語、算数とも、基礎を見る「A問題」でほぼ国の平均を上回り、
活用力を見る「B問題」では平均より10点以上高かった。

読書感想文コンクールでも、今年度の市代表6作品中、4作品が
GKA初等部の児童。
「国語も英語も、1年生から、調べてまとめたことを発表させる作業が多い。
それが作文の質につながっている」と井上春樹副校長(64)。
英語で学ぶことが多いからこそ、日本語の思考力が重要だと、
初等部では教師への国語の研修に力を入れ始めた。

一方、地元の塾にはGKA向け予習コースができた。
美理愛ちゃんが通うのもこの塾。
初等部4年以上の算数、中等部の国語、数学が週1回ずつあり、
各クラスに4、5人が通う。
「長期的に見れば、英語で学んでも学力は大丈夫。
でも、保護者の不安を取り除く必要がある」と井上副校長。

日本語とのバランスに配慮しながら、「英語で考える」子供を育てる――
GKAの理想に向けた模索が続く。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090107-OYT8T00183.htm

環境の旗手たち:/3 eスター・赤沢輝行さん

(毎日 1月7日)

◇「廃熱」を新たな力に--赤沢輝行さん(41)

<1816年に、スコットランドで発案されたスターリングエンジンの
普及が近づいてきた。燃料を爆発させて運転するガソリンエンジンなどに比べ、
多様な熱源から動力を得られ、静かで二酸化炭素(CO2)も出さない。
廃熱を再利用する製品を開発>

スターリングエンジンは、シリンダー内部の気体に外から熱を加え、
膨張・圧縮させてピストンを動かし、動力に。
工場や発電所から出る廃熱で、このエンジンを動かし、発電機で電気をつくる。
これまで、ガスなどを燃やした時の1000度以上の高熱で動かす
タイプはあったが、廃熱の97%を占める500度以下で発電できないか。

<パナソニックの技術者出身。05年、社内ベンチャー制度を活用して起業。
スターリングエンジンは、高出力を得る仕組みや採算性が課題>

「すごい技術に挑戦すべきだ」と言われた。
それなら2世紀も実現していない難攻不落の技術に、
思い切って残りの人生を懸けてみよう、と清水の舞台から飛び降りた。

海上技術安全研究所(東京)との共同研究に着手。
07年8月、船舶のディーゼルエンジンから出る400度の廃熱で
発電機を動かすことに成功>

廃熱を取り込む熱交換器に、熱を伝えやすい銅を使い、
強度不足は銅の周囲をステンレスで覆って補った。
熱を動力に換える性能も向上させ、油を差さなくても動く仕組みにして
コスト削減に役立てた。基本技術は確立。

<今月末から奈良県で、実際に工場で使う試験を始める。
2年後には、1キロワット(ドライヤー1台分)の電力を賄う製品を
約100万円で発売する計画>

将来は、価格を下げる予定。もっと低い温度での稼働も課題。
200度前後でも動けば、廃熱の3割を活用できる。
「もったいない」という意識を根付かせ、「環境革命」を起こす
一員になれれば、と願っている。
==============
◇廃熱

1年間に国内の産業活動で発生する量は、
原油換算でドラム缶約1億4500万本分。
大部分が捨てられている。
試算では、国内全工場にスターリングエンジンを設置して
廃熱を可能な限り再利用すると、大量の電気を賄い、
CO2排出量を年2602万トン削減できる。
太陽光発電を全世帯など、日本で最大限(全土の12%の面積)に
普及した場合のCO2削減量2523万トンを上回る。
==============
◇あかざわ・てるゆき

熊本大大学院修了(資源開発工学)。
92年、松下電器産業(現パナソニック)入社、コンプレッサー開発に携わる。
05年4月、社内ベンチャー、eスターを一部出資して設立、社長就任。
従業員8人。福岡県出身。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/01/07/20090107ddm008020092000c.html

2009年1月11日日曜日

三陸大津波を小説に 気仙沼の山内さん

(岩手日報 1月8日)

宮城県気仙沼市のリアス・アーク美術館の主任学芸員、
山内ヒロヤス(本名宏泰)さん(37)は、
明治三陸大津波を題材にした小説「砂の城」を出版。

実際に発行された雑誌「風俗画報」の記録を基に被災状況を描き出し、
津波の恐怖を現在に伝えている。

物語は岩手、宮城県境付近にある街が舞台。
小学校教師が、お年寄りに津波体験を聞く形で展開。
1896(明治29)年6月の夜、予期せぬ津波にのみ込まれる囚人や
漁師一家、被災地を取材する記者らを描く。

現在の写真週刊誌の先駆けともいえる風俗画報は、1879(明治12)年創刊。
明治三陸大津波の直後には臨時増刊号3冊を発行し、
絵画と記事で惨状を伝えた。

山内さんは、美術館学芸員として風俗画報の絵画に着目。
2006年に同館で特別展「描かれた惨状」を開催。
特に、子どもたちに津波の様子を伝えたいと考えていたが、
学校単位での観覧は1校にとどまった。

関心の低さに落胆した山内さんは、調査研究の成果を展覧会とは
別の形でまとめたいと考え、明治三陸大津波をモチーフにした
「再現ドラマ」として小説を執筆。

山内さんは、「今後も津波の襲来は予想されている。
大量の車やコンクリートが海中に流され、養殖をはじめとした漁業が
壊滅的な被害を受けることも考えられる。
今考えなければならないことは多いのではないか」と警鐘を鳴らす。

同書は近代文芸社刊。B6判、153ページ。1785円。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20090108_11

街なか再生へ循環バス 奥州市水沢区

(岩手日報 1月8日)

奥州市は、市街地再活性化の一助にしようと、
水沢区で「街なか循環バス」の試験運行を始める。

試験運行は約1年間実施し、利用状況などを踏まえ、本格運行を検討。
同市は、市街地再生策を模索し、試験運行もその一環。
「市民の足」として、新たな人の流れを生み出せるか注目。

街なか循環バスは、奥州市水沢区の県立胆沢病院を発着点に、
総合水沢病院との直線距離約3キロを40分程度で往復する。
始発時間は午前9時半。

水沢駅通りやメイプル、横町の商業区域、川端、南大鐘の住宅街など
往復で28カ所の停留所を経由。
1日7便運行し、土、日曜と祝日は運休。
1回の乗車につき150円の定額運賃制で、通院や買い物の
気軽な「足」としての利用が期待。運行は県交通に委託。

2009年12月末まで試験運行し、利用状況や市街地への人の流れを
生み出す効果を調査、この結果を検証し、本格運行に向けた課題を探る。
循環バス事業は、水沢区中心部を対象に人の定住と回遊を促す
市中心市街地活性化基本計画に盛り込まれている。

同計画は国から認定されると、事業補助が受けられる。
早ければ、今月中にも申請する方向。
市まちづくり推進課の及川克彦課長は、
「市街地活性化の各事業に先駆け、『市民の足』としての機能を検証したい」

奥州市水沢区の主婦千葉恵さん(38)は、
「気軽に使える運賃だ。商店街の魅力が高まれば、
バスで人を呼び込めるはず。(午前9時半の)始発時間がもっと早ければ、
通院利用も進むと思う」
バス出発式は13日朝、県立胆沢病院敷地内で行う予定。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20090108_14

山村再生支援センター:間伐材で排出量取引、林野庁が仲介組織 鉄鋼、電力など想定

(毎日 1月6日)

林野庁は、09年度に林業分野の二酸化炭素(CO2)排出量取引などを
推進する「山村再生支援センター」を設立。

CO2削減につながる間伐材を活用し、併せて林業振興を図ることを狙う。
当初予算案に、運営費3億5000万円を盛り込んだ。
運営は、特定非営利活動法人(NPO)などの民間団体に委託する方針で、
1月下旬に公募して3月までに運営主体を決める。

森林は、CO2の吸収源だが、生育の悪い樹木を間引き(間伐)して
森林全体の成長を促せば、更に吸収量は増える。
最近は間伐材や、製材所から出る木くずをチップ化した木質バイオ燃料の
利用が、地球温暖化対策としても注目。

同センターは、木質バイオ燃料を生産する業者に、
燃料を使う地元企業や温泉施設、公共施設などを紹介。
削減されたCO2排出量を算定し、排出枠購入を希望する
企業への売却を仲介する。
購入企業としては、CO2排出量の多い鉄鋼、電力業界を想定。

排出量取引は、政府の地球温暖化対策の一環として
昨年10月に試験的にスタート。
排出量を単独で削減することが難しい企業が、
排出量を大量削減した企業から余剰分を購入できる。

排出量の相場は、CO21トン当たり2000~3000円、
間伐材の利用で森林組合や製材業者などの収益が増えれば、
安い輸入木材に押されてきた国内林業の活性化も期待。

センターは、森林を活用した健康産業や、間伐材を素材とした製品開発など
新ビジネスの振興も担う。
森林浴による癒やし効果を生かした「森林セラピー」を、
社員の研修活動に活用する企業も増えており、
企業と地元自治体との橋渡しも行う。

http://mainichi.jp/select/science/news/20090106dde007040044000c.html

雇用創出は医療・介護重点に…政府がニューディール計画

(読売 2009年1月1日)

雇用情勢の急激な悪化に対応して政府が策定する
「雇用ニューディール(新規まき直し)計画」(仮称)の全容が明らかに。

人手不足が指摘される医療・介護分野の資格取得を支援するなど、
職業別に雇用創出を図る。
失業の急増が問題化している非正規雇用者については、
職業訓練にかかる費用の給付と訓練期間中の生活資金支援の拡充に取り組み、
労働条件などを巡る権利を守るための法制度の見直しを検討。

国、地方自治体の行政機関で臨時雇用を増やす一方、
林業の担い手を養成する「緑の雇用」を再開・拡充する。
失業急増の主因である企業倒産を防ぐため、企業の事業再生を支援し、
失職した労働者に対する雇用保険による職業訓練費用の給付も
対策に盛り込む。

仕事と育児の両立を支援するため、日本では最長1年半、
給与の30%にとどまっている育児休業者への所得補償を
段階的に引き上げ、育児休業制度の充実を目指す。

産業再生機構の設置と一体的に実施され、2008年9月に終了した企業や
失業者向けの「雇用再生集中支援事業」の再開も検討

政府は、08年12月に140万人の雇用を下支えするための対策を
打ち出したが、新対策は戦略的な雇用創出が特徴。

政府は、七つの成長分野に重点投資する「未来開拓プラン」(仮称)
具体策を、経済財政諮問会議(議長・麻生首相)でまとめる方針で、
新たな雇用対策はその柱になる。

財源は、09年度予算案に盛り込んだ「経済緊急対応予備費」(総額約1兆円)
などを活用し、一部は09年度補正予算での手当ても検討。

「雇用ニューディール計画」の骨子
〈1〉医療、介護、農業など職種別に雇用創出計画を策定
〈2〉リストラに伴う失業者の再就職を助ける「雇用再生集中支援事業」を再開
〈3〉林業就業を促す「緑の雇用」事業を再開・拡充し、
国や自治体、関係機関も臨時雇用の場を提供
〈4〉非正規雇用者の権利保護法制を検討
〈5〉育児休業者への所得補償を段階的に引き上げ、
世界最高水準の育児休業制度を目指す
〈6〉起業後の法人税軽減や家庭菜園への農地貸与で高齢者を支援

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=85824

細胞内小器官、増殖を制御 千葉大など「定説」覆す発見

(朝日 2009年1月9日)

葉緑体やミトコンドリアといった細胞内の小器官は、
進化の過程で細胞に取り込まれた微生物の名残で、
細胞核に支配されている、と考えられてきた。
だが細胞の増殖過程を調べてみると、
逆に葉緑体などが細胞核に信号を送り、
DNAの複製を促していることが、千葉大や東京大などの研究でわかった。
従来の「定説」を覆す成果で、米科学アカデミー紀要(電子版)に発表。

使ったのは、シゾンという原始的な単細胞藻類
研究グループの田中寛・千葉大教授(分子遺伝学)によると、
シゾンの増殖過程では、まず小器官のDNAが複製され、
その後、細胞核のDNA複製が行われていた。
小器官のDNA複製を阻害する薬剤を与えると、細胞核のDNAも増えなかった。

だが、小器官のDNA複製の際にできるテトラピロール類と呼ばれる
物質を与えると、細胞核でのDNA複製が進み始めた。

葉緑体などが、この物質を通してDNA複製の信号を送り、
細胞増殖を制御していたことに。
まるで寄生体(パラサイト)のようにも見えることから、
グループはこの信号を「パラサイトシグナル」と名付けた。
タバコの細胞を使った実験も行い、
この信号が種子植物でも働いていることがわかった。

田中教授は、「ヒトや動物でも、この信号が働いていることを示せれば、
医学的に重要な知見が得られる可能性もある」