2010年4月3日土曜日

谷中に歴史の趣を訪ね1年の福を願う

(日経 2010-01-05)

正月に寺社を巡拝して、1年間の福を願う七福神巡り。
歴史が残る町の散策は、正月休みでなまった
体をほぐすのにちょうどいい。
台東区観光ボランティアガイドの高橋桂介代表(75)の案内で、
東京都内で最古といわれる谷中七福神を回った。

・約50人が登録する台東区観光ボランティアガイドは、
 年間1万人以上を無料で案内。
・長安寺隣の松寿庵の「七福神そば」は、7種の具入りで700円。
 正月は、1日約80杯の注文。
・谷中銀座商店街は、毎月1、15日に全店で1割引きの特売。
 30年以上続く恒例行事。

谷中七福神は、台東、北、荒川の3区にまたがる約5kmのコース。
「田端から歩き始めれば、参拝後に上野で買い物や食事ができる」
田端駅から福禄寿をまつる東覚寺に向かう。

寺に着いたら、七福神の姿が描かれた版画(1枚1000円)を買おう。
各寺で200円納めれば、御朱印を押してもらえる。

七福神には、長寿、富財などの御利益があり、
いわば「開運スタンプラリー」。
七福神の公開と御朱印は期間限定で、今年は1月10日まで。

東覚寺で見逃せないのが、赤い紙を全身に張られた「赤紙仁王」。
体の悪い人が、患部と同じ場所に赤紙を張れば治る、
と信じられている。

民家が立ち並ぶ細い道を約15分歩くと、恵比寿の青雲寺、
道沿いに進むと布袋の修性院に着く。
高さ2mの布袋像は、口を開けて笑った顔が福々しい。

寄り道で、修性院脇の富士見坂を上る。
「七福神巡りをし、富士山も拝めたら最高に縁起がいい」と高橋さん。
通りがかりの女性が、「今朝はきれいに見えましたよ」。

活気ある谷中銀座商店街に続く道を横切って進むと、
寿老人の長安寺に到着。
歩き始めてから約1時間、寒さは厳しいが、体はポカポカ。

著名人が数多く眠る谷中霊園の突き当たりが、
毘沙門天をまつる天王寺。

幸田露伴の小説のモデルになった五重塔があったが、
1957年の火事で焼失。
今は、柵で囲まれた更地が残るのみ。

大黒天の護国院まで約20分。
正月以外は非公開の七福神が多いが、護国院の大黒天は
年間通してお参りできる。
上野動物園の脇を抜けて15分ほど歩くと、ゴールの不忍池弁天堂。
参道には、縁日が並びにぎやか。

「七福神おみくじ」を引くと、結果は吉。
今年もいい年でありますように。
田端駅から4駅分を歩いて、約2時間半。
「谷中をすべて見ようと思ったら、3日はかかる」(高橋さん)。
途中に気になる場所があったら、次の機会にゆっくり訪ねよう。

◆取材を終えて

谷中は、坂の町という印象が強いが、谷中七福神は尾根に沿って
歩くコースなので、意外と上り下りがなく歩きやすい。
谷中には80以上の寺があり、寺と寺の間に昔ながらの
民家が軒を連ねる。
歩いていると、江戸時代にタイムスリップした感覚。

最近は、古民家を改装したカフェや雑貨店が増え、
散策中に退屈することはなかった。
コースの途中、NHKドラマ「ひまわり」の舞台になった
谷中銀座商店街がある。
徳川慶喜ら歴史上の人物が眠る谷中霊園など、見どころが多い。

長さ37mの築地塀がある観音寺は、
「谷中で最も江戸の風情を残している」と高橋桂介さんが一押し。
時間の関係でじっくり見られず、後ろ髪を引かれる思いをした。

道沿いには、老舗の料理店や和菓子店が多く、食べ歩きも楽しい。
昼食で食べたそば店、松寿庵の「七福神そば」は、
おかみの橋本暁美さんが「谷中名物に」と、26年前に考案。
恵比寿を表すエビ、弁財天をイメージした紅白かまぼこなど
7種類の具入りで食べ応えがある。
700円の価格は、「7にこだわったため、値上げできない」と
販売開始から据え置いたまま。
住民に、今も息づく江戸の粋を感じた。

http://netplus.nikkei.co.jp/nikkei/news/expedition/expedition/exp100105.html

生涯スポーツ全国会議2010 出席

(sff 2010.03.24)

【生涯スポーツ全国会議について】

生涯スポーツ全国会議は、文部科学省生涯スポーツ課主管の
会議で、「生涯スポーツコンベンション」が名称を一新。
通算21回目、全国各地で活動する「生涯スポーツ」の担い手が
一堂に会する大規模なもの(今年の参加者数:1,100名)。

会議の構成は、最初に出席者全員が出席する「基調講演」。
その後、4つに分かれての「分科会」。

今年の基調講演者は、『バカの壁』でおなじみの養老孟司さん、
持論である「現代の参勤交代論」を熱弁。
非常に明快で、楽しい講演。

【笹川スポーツ財団(SSF)の参加目的は?】

SSFは、この会議に毎年参加、その目的は主に
「情報の『発信』と『収集』」。

「ブーススペース」で、参加スポーツ関連団体が日頃の活動について
「情報発信」できるようになっており、
SSFからは玉澤(スポーツエイドチーム)、板橋(チャレンジデーチーム)
の2名がブースを設置・運営。

スポーツエイド事業は、ブースでは、
「チャレンジデー2010(2010年5月26日開催!)」についてと、
刊行されたばかりの「子どものスポーツライフ・データ2010」、
「青少年のスポーツライフ・データ2010」の2書籍を中心に情報発信。
当日の反響もなかなかで、立ち寄られた方々から
「子ども達(4~9歳)のスポーツ実態についての情報は貴重」、
「チャレンジデーは面白い取り組み」などの感想。

SSFのもう一つの目的「情報収集」は、午後の分科会。
4つの分科会の内、玉澤はスポーツエイドの助成先団体の中でも
毎年多くを占める「総合型地域スポーツクラブ(以下、クラブ)」
の現状について、板橋は担当するチャレンジデーを各都道府県で
実施する団体に指導を行う立場である
「体育指導委員」の生の声を収集。

【第1分科会:「総合型地域スポーツクラブの設立効果と今後の課題」】

第1分科会で、高知県のクラブ「清流クラブ池川」の若藤GM、
新潟県の「エンジョイスポーツクラブ魚沼」の上村理事長のお話は、
地方の現場で、地域の子ども達や高齢者の方々の健康と暮らしを
支えるサポーターとしての「リアル・ストーリー」で、大変興味深い。

岐阜県の「ごうどスポーツクラブ」の代表、
「総合型地域スポーツクラブ全国協議会」の幹事長、
「現場の声」と国の施策のパイプ役である小倉弐郎さんのお話も、
別の視点から勉強に。

パネリストの皆さんが共感されていたのは、
クラブの効用の一つである「高齢者の集会の場」としての重要性。
医師でもある魚沼の上村理事長は、
「ワンクラブ・ワンドクター」を主張、クラブが病院の代わりに
高齢者の受け皿となることで、「病気になってからの病院」と
「病気にならない体づくりを行うクラブ」は共生し、
医師不足に悩む地域医療問題への「解の一つ」になりえる、との見解。

岐阜でクラブを運営されている小倉さんが、
会場からの「クラブの運営資金捻出」についての質問に答え、
「クラブ側として、参加者が納得して参加料を支払うコンテンツを
提供する姿勢が重要。
コンテンツに自信を持ち、自信を持って参加料を徴収すべき」、
これには大いに賛同。

【第2分科会:「人々のスポーツ機会の拡大に果たす体育指導委員の役割」】

第2分科会は、「人々のスポーツ実施率を高めていくことが、
国や地方公共団体のスポーツ振興策の大きな課題」、
それを高めるには、「地域住民の日常生活における
スポーツ機会の拡大や各地におけるイベント等への参加機会の
一層の拡大化が重要」、との趣旨が、
SSFの実施する「チャレンジデー」に合致、高い関心を持って参加。

「川添なのはなクラブ」(大分県大分市川添地区の総合型地域SC)の
岩本さんのお話では、同クラブでは地区在住の全世帯が会員となり、
クラブハウスから河川敷のグラウンドまでを
多くの住民による自発的参加で整備したとのことで、
チャレンジデー実施自治体にとってもモデルとなる取り組み。

高知の「高知チャレンジドクラブ」運営委員の北村さん、
障がい者の方にスポーツ機会を提供する際、体育指導委員の
「受け入れてみよう」という心のバリアフリーのお話や、
埼玉県春日部市体育指導委員の今井さんが述べた
体育指導委員の新たな役割として、スポーツ指導よりも
高齢者への「健康づくり」に対する取り組みの比重が増してきた
現状などは、『スポーツ・フォー・エブリワン』をスローガンとする
SSFの理念に合致、今後、我々が行う全国のスポーツ現場での
実践に、非常に役立つ情報。

http://www.ssf.or.jp/research/article_100323.html

挑戦のとき/25止 小早川令子さん・高さん

(毎日 3月23日)

ネコを怖がらずに、寄り添うネズミ。
07年、英科学誌ネイチャー(電子版)に発表した写真は、
「まるでアニメ『トムとジェリー』のようだ」と、
世界的な反響を呼んだ・小早川夫妻提供。
ネズミは、小早川夫妻らが誕生させた遺伝子改変マウス。

腐ったにおいを嫌ったり、花や食べ物の香りにひきつけられたり。
ヒトを含め、生物の行動とにおいは密接に関連。
こうした行動は、哺乳類の場合、後天的というのが通説。

小早川夫妻らは、鼻の奥にあるにおいを感じる
嗅細胞の一部が欠けると、においは感じても、
においから受ける情動が生まれなくなることを明らかに。
ネコに寄り添うマウスは、天敵のにおいを感じても、
恐怖は感じなくなっていた。

研究のスタートは95年。
00年ごろ、嗅細胞で発現する遺伝子のうち、
別の部分で発現する二つの遺伝子を見つけた。
働きの違いを調べようと、嗅細胞の片側が欠けた
マウスをつくった。
これによる違いは数年間、確認できなかった。

普通のマウスが、においを嫌って近づかない強い酸のにおいを
かがせる実験をしようとしたところ、
改変マウスは酸の液体に突っ込んで死んでしまった。
「どうして死んでしまうほどの危険が分からないのか、と考え、
『この液体は危険』という意味が分からなくなっているんだ」、
令子さんは振り返る。

令子さんは、「哺乳類を扱った研究をしたい」と、大学院に進んだ。
ここで嗅覚を研究していたのが、学部学生だった高さん。
公私ともにパートナーとなり、嗅覚を通じた脳機能の研究を進めてきた。

高さんは、「脳の中枢では、情報が統合されてしまうので、
はっきりとした定義が難しいが、末梢は機能を明確に定義できる」。
令子さんも、「記憶はコンピューターでもできるけど、
好きや嫌いという情動はコンピューターは感じない。
生物らしさは情動が担っている

令子さんは、大阪バイオサイエンス研究所の研究者公募に応じ、
神経機能学部門室長に就いた。
夫婦で研究パートナーを組むことに否定的な意見もあるが、
「不足を補いあえるし、思いついた時に議論できるのも都合がいい」

嗅覚系の遺伝子改変マウスは、今では数十種類にまで増えた。
「どの部分がどの情動に対応しているのか。
その全体像を明らかにしたい」と声をそろえる。
==============
◇こばやかわ・れいこ

東京都生まれ。東京大工学部化学生命工学科卒。
09年、大阪バイオサイエンス研究所神経機能学部門室長。
==============
◇こばやかわ・こう

愛知県生まれ。東京大理学部生物化学科卒。
09年、同研究所研究員。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20100323ddm016040133000c.html

変わる校舎(5)施設と同居 異世代交流

(読売 3月23日)

校舎と一つ屋根の下の施設で、大人と交流する。

1日約40人が入浴介助などのデイサービスを利用する
東京都品川区立戸越台在宅サービスセンター。
10階建てビルの8階、裁縫などをするお年寄りのもとに、
紺色のジャージーを着た区立戸越台中学校8年(中学2年)
生徒たちがやって来た。
「よろしくお願いします」。
元気なあいさつがフロアに響いた。

「市民科」の授業の一環で、生徒は一緒にクレヨンで色塗りをしたり、
座って行う風船バレーを手伝ったり。
テーブルで折り紙を折っていた女性(81)は、
「若いうちは、努力と勉強ですからね。頑張ってね」と
両隣の生徒に声を掛ける。
50分間の交流を終えると、古賀さおりさん(14)は、
「歌を歌っている時など本当に楽しそうで、こちらも楽しくなる」と笑顔。

同中の校舎は、同センターの真下、ビルの低層階にある。
老朽化による建て替えで、福祉施設との複合施設として
1996年に現校舎が完成。
地下1階~地上4階が中学校、5~10階が同センターを含む
戸越台特別養護老人ホーム。

教育と福祉を組み合わせる計画には当初、地域住民から
反対が相次ぎ、完成まで20回を超える説明会が重ねられた。

完成後、同中は「長続きする交流」を目指し、両者に
区の担当者などを加えた交流部会で、具体的な交流方法を検討。
その結果、同中の全クラスが各学期1回ずつ同ホームを訪問、
七夕交流会や運動会などでも、お年寄りと触れ合っている。

夏と冬の長期休暇、希望者を募り、昨夏は49人の生徒が
同ホームでボランティア活動に汗を流した。
校内の菜園で収穫したホウレンソウなど、生徒が同ホームに
届けることもあり、自然な触れ合いが根づいている。

3年間交流が続くのが特徴。
利用者にとって、世代を超えた交流が生きがいにつながる
同ホームの山口由美子施設長(52)、
同中の権藤善成校長(60)も、「生徒には、思いやりや優しい心が
育っている」と利点。

交流は、在学中だけにとどまらない。
高校に進学してからも、同ホームを訪れる生徒が少なくない。
同ホームで働く介護士の高橋祐人さん(21)は、同中の卒業生。
在学中、放課後にたびたび上の階を訪れ、
利用者の昔話に耳を傾けていた。
「人の役に立つ介護の仕事に興味がわいた」と振り返る。

埼玉県志木市立志木小学校は、市立図書館、
公民館との複合施設。
昼休みになると、市民がくつろぐ脇で本を抱えた児童が
カウンターに列を作り、公民館では、茶道サークルのメンバーから
茶の作法を学ぶことも。
大人と言えば、親と先生しか知らないようではいけない。
人は、様々な人間関係の中で生きていくことを学んでいる」と
八巻公紀校長(55)。

校舎がもたらした異世代との交流は、
成長途上の子どもにとって、得難い財産になる。

◆市民科

道徳、総合学習、特別活動の時間を使った品川区独自の教科。
2006年度、区立の全小中学校で導入、
8、9年生では年間105~120時間。
社会で生きていくうえで、必要な能力を身につけさせるのが狙い、
「座右の銘を考える」などユニークな内容も。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100323-OYT8T00164.htm

2010年4月2日金曜日

変わる校舎(4)空き教室に古民家 再現

(読売 3月20日)

空き教室が再び学びの場になる。

教室に足を踏み入れると、屋根が付いた古民家の居間が現れた。
室内に家がある、不思議な感覚。
社会科の授業で昔の暮らしを学ぶ3年生は、
上履きを脱いで畳に上がり、「これ、何だろう?」と
興味深そうに古い足踏みミシンなどを指さしては、
その名前を紙に書き込んだ。

横浜市立俣野小学校は2005年、児童数の減少で
使わなくなった教室に、昭和初期の農家を再現。
地域の財産を残そうと、当時の校長が大工を招き、建ててもらった。
居間の中央に囲炉裏が据えられ、大正から昭和中期にかけ、
実際に使われたテレビや柱時計が置かれている。
後方のロッカーは、陳列棚に変わった。
教室は、「俣野ふるさと資料館」と名付けられた。

市郊外の俣野地区は、農業を営む家が多く、学校が呼びかけると、
約50人から数百点の民具や農具が集まった。
隣の空き教室にも、脱穀機や唐箕など、
使われなくなった農具が所狭しと並ぶ。
3年生が社会科の授業で使うほか、学習発表会では
古民家を舞台に劇を上演。

地域には、ほかにこうした施設はない。
西田義明副校長は、「資料館がなければ、
ビデオや写真を見て学ぶしかない。
俣野の伝統文化や暮らしぶりを実体験でき、いい学習になっている」

同小の児童は、1983年度を境に減り続け、
現在はピーク時の4分の1以下の176人。
その結果、20以上の教室が空いた。
文部科学省によると、子どもの数の減少により、昨年5月時点で
全国の公立小中学校の余裕教室は、約6万1000室。
99・1%が、少人数教育などに活用、
学校以外の施設に変わるケースも。

福岡市早良区にある次郎丸中学校。
子育て支援に力を入れる市は、空いていた1階の2教室を改装、
親子交流施設「次郎丸中子どもプラザ」を開設。
平日は、保育士を含む3人のスタッフが常駐、
1日平均20~25組の親子が訪れる。
室内には、カーテンで区切られる授乳スペースも。

周辺には同様の施設がなく、週1、2回利用する
波多江奈穂美さん(44)が、「寒い日は公園で遊ぶことも
できないので、とても助かる」、利用者に好評。

昼になると、生徒が窓越しに赤ちゃんをあやしたり、
抱っこしたりする姿も。
「幼い子と接することで、自分の過去を振り返り、
現在や未来について考えを深めるきっかけになる」と
毛利一孝校長(59)。

来年度は、利用している母親を講師として招き、
子育ての喜びや悩みを話してもらったり、職場体験を
子どもプラザで行ったりすることも計画。
空き教室は、部活動などでたまに使っていたこともあり、
当初、学校側は開設に賛成していなかったが、
現在では「生徒の情操教育に非常にプラス」との評価。

現状を逆手に取った知恵と工夫が、机上では得られない
経験を、子どもたちに与えている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100320-OYT8T00198.htm

養老孟司さんに聞く 「エコの壁」(下)「ほどほどの成長」に参勤交代を

(日経エコロミー 2007年6月4日)

都会のサラリーマンは、1年に数カ月、田舎へ「参勤交代」すべき。
東大名誉教授の養老孟司氏は、自然と共生するために、
どのくらいの成長が適当なのかという感覚を、
自然のなかで体で実感することが大事だと説く。
環境問題の根本は、人の脳の仕組みにあるとする養老氏に、
「エコの壁」を超える方策を聞いた。
 
――環境問題は、部分最適ではダメだと主張。

環境問題を、生物で例えるとわかりやすい。
生物は、細胞1つ1つが複雑に絡まり合って、
数万の化学物質が集まって、1つのシステムを構成。
外からエネルギーを取り込んで、自分自身を再生産。
それが生きているということ。社会も同じだ。

1つの細胞を動かして、全体がなんとかなるかというと、
そうはいかない。
だから、僕は薬を飲まない。
根本的にはシステム問題だから、対処療法ではだめ。

本当に大切なのは、生き物と同じように、
環境問題もちゃんとそのシステムを理解すること。
残念ながら、全体を把握するための学問は存在しない。

人間が陥りがちな、「ああすれば、こうなる」式の思考は、
限られた条件の実験室のなかでは成り立つが、
自然を相手にした複雑系の世界には当てはまらない。
「あちらを立てれば、こちらが立たない」ということばかり。
単線的に考えて、局所最適を追求しても意味がない。

ホリエモンもそういった人物のいい例。
株価総額という、単純なことを目指して徹底的に追求していく、
というのは得意。
社会全体からみて、自分のやっていることが役に立っているのか、
ということの判断ができない。
全体から考えるのは面倒だからと、思考を止めてしまう。

――どうすれば理解できるようになるか?

文明は、秩序を維持するということ。
地球全体で考えた場合、文明社会は秩序を一方的に
維持することはできない。

熱力学の第2法則、「エントロピーは増大する」という法則通り、
「秩序は、同量の無秩序をどこかに作る」ことに。

部屋を掃除することを考えてみてほしい。
床の上が汚れているということは、床の上に無秩序に、
ランダムにゴミがちらばっている。

掃除すれば当然、床の秩序は高くなる。
掃除したことで、「世界全体の秩序が増したことになるのか」
掃除機の中も視野に入れると、秩序は増していない。

掃除機を使うには、エネルギーを消費する。
エネルギーを使うということを物理的に説明すると、
高分子を低分子に変換していること、きちんと並んだ分子が
勝手に動き出すことを意味。
そこに、無秩序が生まれる。
部屋を秩序立てて片付けたように見えても、
世界の無秩序を増やしているということ。

掃除機にたまったごみを捨て、最後に燃やす。
ランダムに運動する分子がさらに増えて、空気が温まる。
温暖化につながる。
その関係に、普通は気づかないのだが、掃除をすれば
温暖化につながっているとも言える。

秩序のかたまりである都会で生活していると、
秩序だけの世界を実現できると思い込むが、そうではない。

――目の前が片付いたということだけを見ていてはわからない。

悪いことに、われわれの意識というのは、秩序的にしか働かない。
無秩序的に考える、ということはできない。
無秩序にしゃべることはできない。
五十音をランダムに言ったり、まったくランダムな数字を
言ったりすることができない。

意識は、秩序そのものだとわかる。
意識がある間中、脳は無秩序をどこかに発信しているはず。
ごみの掃除と一緒で、脳の中に無秩序はどんどんたまる。

人間は、夜になると意識がなくなる。
眠るというのは、脳のなかにたまったエントロピーを片付ける、
脳の無秩序を元へ戻すという作業。

――眠っている間、脳は休んでいないのか?

働いている。
わかりやすい比喩は、図書館だ。
朝、客が入って、昼間にたくさん本が読まれると、
最後は本棚が空になって、机の上に本が散らばる。
夕方に閉館すると、司書たちが元の本棚の位置に本を戻す。
朝と同じ状態まで本を戻せば、また図書館を開けられる。

脳も、同じようにしているから、目を覚ますことができる。
寝ているとき、脳は休んでいると思われているが、
実は休んでいない。
脳の中の無秩序を片付けている時間なのだ。

この脳の働きを裏付けている最大の証拠は、
寝ていても起きていても、脳が使っているエネルギー量は変わらない。
脳の中にたまった無秩序は、寝れば元に戻る。

人間は起きているあいだ、頭を働かせて
「脳の外の世界に」秩序を作る。
文明や都市は、こういった意識の結果なのだ。

脳の外に作られた秩序の反動で、世界のどこかにたまった無秩序は、
寝ても元に戻るはずがない。

文明や都市の秩序が増えるほど、エントロピーがどんどん増えていく。
その典型が炭酸ガス、温暖化問題だ。

――エントロピー増大を抑える方法は?
 
われわれが、タダでたくさん手に入れることができている
エネルギーがある。太陽だ。
植物は、それを上手に使って生産。

経済成長が大事だというが、植物は黙っていたってずっと成長。
一番効率のいい太陽エネルギーの変換の仕組み。
生物は、これに依存して生きてきた。
この仕組みの全体を、生態系。
人間の社会システムも、そこに組み込まれざるを得ない。

経済の成長至上主義は、おかしい。
植物は放っておいても、社会システム全体に負担をかけず成長。
どれだけの成長が適切なのか。

「ほどほどの成長」というバランスが、自然に取れている。
エネルギーを使えば、社会の秩序が上がり、
必ず自然界に無秩序を生み出す。
無秩序を減らすには、秩序を減らすしかない。

自然界をありのままに任せる、ということが必要。
人間は、それでは納得しない。
行くところまで行って、ぶっ倒れる。
石油も同じで、なくなるところまで使い切る。
もっと植物を見習えといいたい。

――日本は、自然と共生できる社会に戻ることが可能か?

日本は本来、世界中でもっとも有利な国。
最も重要な資源、水がとても豊かにある、自給自足しやすい国。
本気で日本が食糧生産を始めたら、十分食べていける。

石油をたくさん使わなくても、社会を回していける知恵を
本来持っていることを、もっと見つめなおす時期。

江戸時代が典型的だが、モノがうまくシステムのなかで
循環していれば良い。
それが持続可能性ということ。

今は、江戸時代に比べ、人口が多すぎる。
自然環境を、できるだけ破壊しないで人口を維持するには、
相当な無理が出ても当然。
自然との調和を考えれば、人口は減らざるを得ない。
現に減っている。本能的に、みんなわかっている。

――養老さんは、著書で「サラリーマンは参勤交代せよ」と。

このままの社会が続くわけがない、と理解することが大切。
都会に住んでいては、生態系とバランスの取れた
「ほどほどの成長」がどういうことか、実感としてわからない。

私は、1年に何カ月か田舎で生活を送る「参勤交代」を、
強制的にすればいいと思っている。

都会にいると、冷暖房完備で、歩くところはどこも平らで硬い地面。
階段のピッチも決まっている。
銀座に石が落ちていて、つまづいて転んで怪我したら、
東京都を訴える人もいるだろう。
山の中で虫を取っていて転んだら、転んだ方が悪い。

「ああすれば、こうなる」とはいかないことがよくわかる。
田舎に行くと、山道や田んぼのあぜ道など地面は複雑ですべて違う。
歩くだけでも、そのつど頭を使っている。
都会は面倒だから、頭を使わないで歩けるようにした。
それでは、人間が鍛えられず、劣化するとしてもやむをえない。

――田舎暮らしに慣れることができない人もいそう。

人間は、自然から発生してきたんだから、
自然は気持ちいいと必ず感じるはず。
田舎暮らしがいやで、週末にゴルフに行っているとしたらおかしい。

アメリカに面白い小噺がある。
ビジネスマンが成功して重役になり、休暇をとって南の島のビーチで
のんびり昼寝をしている。
島の若者が、周りでうろうろしている。
そのビジネスマンは、彼らに向かって説教を始めた。
ビジネスマン:「お前らもちゃんと働かないとだめだ」
島民:「働いたらどうなりますか」
ビジネスマン:「俺みたいにそのうち成功して、
最後には休暇とってこういうところで休んで・・・」
島民:「俺たち最初から休んでる・・・」

――個人や経済至上主義社会にも、「エコの壁」がある。

みんなが自然に気がついていることばかり。
こういう世界が長続きしないのは、
日本人の8割が本当はわかっている。

数年前、自分たちが生きている時代より、子供たちの方が
悪い時代を生きる、と答えた人が8割いた。
現在のような状況が続かないだろう、ということは気づいている。

日本の国民は、民度が高い。
「変わらなきゃ」という認識は強い。

http://eco.nikkei.co.jp/interview/article.aspx?id=MMECp1022029052007&page=3

養老孟司さんに聞く 「エコの壁」(上) 環境問題はなぜ理解できないか

(日経エコノミー)

◆養老孟司

東大医学部解剖学教室教授を務め、95年退官。
「唯脳論」、「バカの壁」など著書多数。
昆虫好きの自然派で環境問題に造詣が深い。
政府の環境関連委員も歴任。

環境問題は、なぜ理解しにくいのか?
国際的な政治のテーマとなった温暖化対策で、
日本はどうして存在感を示せないのか?

東大名誉教授の養老孟司氏は、
「環境問題を世界全体のシステムで考えるべきだ」と主張。
石油に依存した米国社会、日本での都会暮らしが失わせる
人間性など、環境問題への見えない壁の数々。
「バカの壁」ならぬ、「エコの壁」を乗り越えるヒントを、
養老氏に聞いた。

――環境問題はなぜ理解しにくいのか?

環境問題は、システムの問題だから。
社会システム全体を考えないとだめ。
部分的に解決しようとしてもうまくいかないから、
環境保護の推進派もその反対の人も、時々ヒステリックに反応。

問題点が集約されているのが、地球温暖化問題。
日本の炭酸ガスの排出量は、世界の総量のわずか数%。
日本人がまったく出さなくても、数%しか改善されない。
改善に効果を見込める米国、中国の2つは、
京都議定書に参加していない。
日本では、温暖化問題は精神運動に終わるしかない。

国民1人あたりの排出量は、確かに多い。
1人当たりの排出量を大幅に削ることは、日本人ならば十分できる。
日本の省エネは、かなり限度に近づいている。

いまでも非常に効率がいい社会。
これをさらに進めるのは、コストが高くついてしまう、
ということをどう考えるのか。
「環境が商売になる」とも。
あるところまではなるが、あるところから先は難しい。

原発があるじゃないかという議論。
廃棄物処理問題など、さまざまな環境への影響があり、
安全対策の問題も。
「原発だけで、原発を作れるか」という問題も。
大型トラックが動かない状況で、原発は作れない。
全体として採算が合っているかというと、ちゃんと計算できない。

システム全体としてみた場合、
どのくらい社会全体の利益になるかがわからない。

社会は、システム全体が絡み合っているから、
ごまかしながら上手に動かしていけている。
環境問題は、非常にやっかいな問題だということがわかる。

――「できることから始めよう」ではダメ?

環境に配慮した生活を送ることも大切。
しかし、それは生き方の問題。

一人ひとりがどれだけがんばっても、
社会システムにはあまり関係ない。
そこをはっきり言わないと、かえって悪い影響がある。

――アメリカも、環境問題に積極的になってきているが。

アル・ゴア「不都合な真実」は、一番大事なことを隠している。
炭酸ガスの温暖化問題は、アメリカ文明そのものの問題。
そこを言っていない。

彼は、環境問題は倫理問題だというが、石油に依存してきた
アメリカ文明そのものが倫理問題に引っかかる。

20世紀に入って、テキサスから大量に石油が出た。
石炭に替え、石油の可能性をいち早く利用したのがアメリカ。
フォードが大衆車を世に出したのは、そのすぐあと。

アメリカの本質は、自動車文明ではなく、石油文明。
アメリカが主導してきた自由経済と呼ばれる
グローバルシステムには、1つ制限がかかっている。
その暗黙の制限は、「原油価格一定」ということ。
同じ価格で無限に原油が供給されるという前提の上に、
米経済は成り立っている。

米国産の石油が足りなくなったから、
アメリカは世界中から石油を探した。
アメリカが石油に敏感なのは、原油価格が上がれば、
米経済を直撃する。
石油供給に関する安全保障を、徹底的に考えてきている。

――エネルギーに依存した便利な生活の方向転換は大変。
 
文明とは、「生活を便利にすること」だと思われている。
それは表層的な理解にすぎない。
本質的には、文明は「秩序の維持」なのだ。

現代文明は、社会秩序を保つために、石油を使っている。
部屋の温度は、自然に任せていると勝手に変化する。
一定の秩序を保たせるため、冷暖房を入れる。
その仕組みを維持しているのが、石油エネルギー。
電車が時間通りに来るのも、石油が足りなくなれば、
あっという間に不可能。

古代にも文明はあったが、このとき使える資源は
石や木材しかなかった。
秩序を維持するため、彼らは何をやったかというと、
むしろ人間を訓練した。
そうする中で、「偉い人」が生まれた。

石油文明は、人間を訓練しない。
だから、マニュアル主義となる。
根本的には、エネルギーが秩序を支えてくれる。
人間は役に立たないという前提で、
それでも社会が成り立つようにシステムができている。

その結果、何が起きたか?
人間の質が劣化したのだ。
「なぜ日本人は劣化したか」という最近の本。
面白いことに、「なぜ劣化したか」はひとことも書いない。
劣化したのは、実は本来人間がやるべきことを
石油にやらせているのが理由だった。

昔は、「努力・辛抱・根性」という言葉があった。
よりよい生活をするためではなく、根本的には、
社会秩序を維持するためにこそ「努力・辛抱・根性」は必要。
それを消しちゃった。
それでも秩序が保てるのは、エネルギーを大量に使っているから。

この仕組みを維持できなくなってきた。
それが、地球温暖化と石油埋蔵量問題。
米国は、京都議定書に入らなかった。
日本は、大変なコストをかけて議定書を守るだけでは、
国際競争上、大損をすることに。
日本がいくら節約したところで、温暖化にはほとんど関係ない。

残念ながら、石油はなくなる。
短い計算では、あと40年。
石油がなくなるとき、日本はどうするのか?
シミュレーションをやってみるべきだろう。

わかっていても、手を打てない。
「死の壁」でも書いたように、「あなたは死にますよ」と言われても、
本気で死ぬことについて考えることは難しい。
それぐらい、人間はバカで、そこに大きな壁がある。 
 
――これからポスト京都議定書に向けた駆け引きが本格化。

日本政府が掲げる「2050年に炭酸ガス半減」という目標は、
日本だけでやるなら、十分に可能な数字。
温暖化防止を本気で考えるなら、アメリカ、中国が
コミットしなければ、もはや意味がない。
大切なのは、相手の土俵に乗らないということ。

「不都合な真実」は、確かに温暖化の危機を提示した。
米国が今回も正しい、というところから始めるのは得策ではない。
アメリカには、「脱石油社会は、あなた方の問題でしょう」と問い、
中国には、「温暖化で困るのはあなた方でしょう」と説得すべき。
私のように、とことんラディカルに考えておかないと負けてしまう。

日本は、もともと石油無しで文明を作ってきた歴史がある国。
人間をいかに訓練しないといけないか、もわかっていた。
「モッタイナイ」という言葉もそうだが、
新しい社会のモデルは実は日本にこそある。

――地理的に近い中国は運命共同体でも。

越境汚染など、問題は一国にとどまらない。
中国の植林などの支援は、徹底的にやるべき。
利害は一致しているはずだ。

http://eco.nikkei.co.jp/interview/article.aspx?id=MMECi3028029052007&page=1

体の動きと触覚、一目で 東大が特殊スーツ開発

(2010年3月24日 共同通信社)

歩いたり、座ったり、スポーツをしたり-。
人間の体が動くときに、体のどの部位がほかの人や家具など、
ほかの物に触れているかの詳細な触覚を動きと同時に
検出できる全身スーツを、東京大の原田達也准教授らが開発。

大掛かりな実験室は要らず、着るだけでどこでも計測できるのが特長。
介護のプロが、体の接触を利用していかに力を使わず、
人を抱き上げるかを解析し、効率の良い介護方法を調べたり、
ゲームやアニメーションの作成などに応用したりできそう。

開発したスーツは、化繊と厚さ約5mmのウレタン製。
内部に圧力を感じる縦3mm、横4mmのセンサー1856個と、
姿勢を把握する15個のセンサーを埋め込んでいる。
腹部にある計算機にデータを集約し、体の姿勢やどの部位が
ほかの物に接触しているかをモニターに表示。

原田准教授は、「人は、さまざまな環境で全身の接触を巧みに
利用して運動している。
ロボットのより良い動作の開発に活用したい」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/3/24/117870/

2010年4月1日木曜日

異常DNA見分ける仕組み解明…修復たんぱく質の構造分析

(2010年3月22日 読売新聞)

DNAを修復するたんぱく質「RecJ(レックジェイ)」が、
異常を示したDNAだけを見分けて分解していく仕組みを、
理化学研究所のグループが解明。

DNA修復の異常が原因で起きる、がん化の解明や治療などに期待。
26日の米科学誌ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー。

すべての生物には、DNAの損傷を修復する機構がある。
これまで、RecJがDNAの異常個所を取り除く働きがあることは
知られていたが、なぜDNAの異常を見分けられるかに
ついてはわかっていなかった。

大型放射光施設「スプリング8」を使い、X線結晶構造解析を行った
結果、RecJがDNAの異常を示す信号をキャッチして
結合する役割があることがわかった。
RecJは、四つのかたまりからなり、異常なDNAを包み込むような構造。
今後、さらに詳細に分析し、
なぜ特定のDNA異常ががんになるのか解明を進める。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/3/23/117814/

激やせ激太り注意 体重5キロ以上の変化、死亡リスク1.3-1.7倍

(2010年3月23日 毎日新聞社)

中年期以降に、体重が5kg以上増減した人は、
変化が小さい人に比べ、死亡の危険性が1・3~1・7倍高まる
ことが、厚生労働省研究班の大規模調査で分かった。

体重が大幅に増減する背景には、病気の前兆や
代謝機能の変化があると考えられる。
長寿には、体重をある程度維持することが鍵に。

10都府県に住む40~69歳の男女約8万人を対象。
5年間の体重変化を調べ、その後の約9年間の生存状況を追跡。

その結果、5年間で体重が5kg以上減った人は、
体重増減が2・4kg以内の人に比べ、
死亡リスクは男性で1・4倍、女性で1・7倍高い。
5kg以上増えた人では、男女とも2・4kg以内の増減の人に
比べ、1・3倍。

がんによる死亡リスクは、5kg以上減った人で男女とも1・5倍、
循環器疾患では5kg以上増えた女性で1・9倍に上昇。

調査対象者は、体重を調べた時点で、がんや循環器疾患を
発症しておらず、体重の変化は病気が直接の原因ではない。
もともとの体格、喫煙の有無や年齢に関係なく、
体重変化が大きいほど、死亡の危険性を高める傾向。

国立国際医療センター研究所の南里明子研究員は、
「特に大幅な体重減の人で、死亡リスクが高い。
体重の変化に気を配ってほしい」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/3/23/117855/

変わる校舎(3)「わかる」を助ける機器

(読売 3月18日)

最新機器が配備された教室が授業を変える。

薄暗くした教室。
プロジェクターを通して大きな立方体が、
ホワイトボードに映し出された。
「では、行くよ。よく見ててよ」。
森本幸宏教諭(37)がパソコンを操作すると、
立方体は解体されるように、平面の展開図に変化。
森本教諭は、展開図の各頂点にペンで番号を振り、
再び立体に戻して、どの頂点が重なり合うかを示して見せた。

東京都目黒区立目黒中央中学校には、各教室にパソコンや
プロジェクターなどのICT機器が配備。
1年生の授業で森本教諭が使ったのは、市販のデジタル教材。
「言葉だけでわからない子が、実際に図を開いて見せると理解する」
従来なら模型を作るところだが、手間がかかるうえ、
理解しやすさでも及ばない。
授業は生徒から、「スムーズだし、よくわかる」と好評。

デジタル教材は、自作が多い。
英語の佐野文仁教諭(31)は、ホワイトボードに自由の女神像など
さまざまなものを二つ並べて映し出した。
佐野教諭が、約8時間かけて作った教材。
「as…as」を使った同等比較の表現を教える授業で、
「どちらが大きい?」という意味の英文が添えられ、
ゲーム感覚で考えさせる。
目の錯覚を利用したものもあり、「右側だと思う」、
「実は同じなんじゃない」と、授業は大いに盛り上がった。

区立の3校が統合してできた同中は、2008年に新校舎が完成。
各教諭が自分の教室を持ち、教室のパソコンを自由に設定でき、
授業の効率がいい。
教材は、学校のサーバーに一括して保管、
どの教師でも使うことが可能。

英語の岸裕子主任教諭は、「教材を一度作れば繰り返し使え、
手を加えるのも簡単」
いい教材を作ろうと、教師同士が意見交換し、
切磋琢磨する土壌が生まれている。

教室で、もう一つの“武器”となるのが、実物投影機。
生徒のノートや答案など、立体物も映し出せる。
理科の解剖や書道で、手元を映して手本を見せたり、
体育のマット運動で動画撮影し、手足の伸び具合を
確認したりするなど、活用法は幅広い。

実物投影機を製造・販売するエルモ社によると、
価格が当初の1台80万円程度から9万円前後まで下がり、
わかりやすさを求める小学校低学年を中心に、需要が急増。
全国の教育委員会から、数百台単位の注文が相次いでいる。
「近い将来、各教室に1台が当たり前になるだろう」

伊藤俊典校長(53)は、「『わかる』ことは、授業の中ですごく大事。
何より生徒が授業に集中するようになった」と手応え。
区の担当者も、「電子黒板ではできない芸当がたくさんできる。
効果は予想以上に高い」
わかる授業とICTのある教室は、今や切り離せない関係。

◆ICT

情報通信技術の略。
学校で代表的な機器は、デジタルテレビ、電子黒板、パソコンなど。
文部科学省によると、日本の小中高では、
1人当たりのパソコン台数、構内情報通信網(LAN)整備率、
高速インターネット整備のいずれも米英韓に後れを取っている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100318-OYT8T00216.htm

インタビュー・環境戦略を語る:ブリヂストン・荒川詔四社長

(毎日 3月15日)

「走る、曲がる、止まる」という自動車の3大機能を
足元から支えているタイヤ。
世界最大手のメーカーであるブリヂストンは、
「ナノレベルから、世界を変える」を合言葉に、
性能アップのための研究開発を続けている。
自動車メーカーが繰り広げるエコカー開発競争に、
タイヤはどのように貢献できるのか?
ブリヂストンの環境戦略を、荒川詔四社長に聞いた。

--省エネ時代のタイヤ開発にとって、大事なことは何か?

タイヤの性能は、走行時の抵抗(転がり抵抗)に左右される。
表面をツルツルにするほど抵抗がなくなり、燃費は向上。
停止性能は低下してしまう。
この両立が難しい。
素材であるゴムの配合率をどうするか、路面に接する
表面部分の溝(トレッドパターン)の最適な模様は何か。
その開発研究の成果が、今年1月に発表した
「エコピア」シリーズの最新型EX10。

--具体的な省エネ効果は?

従来品に比べ、「転がり抵抗」を25%低減。
ぬれた路面での制動距離は、14%も短くなった。
タイヤの場合、原材料から廃棄までのCO2全排出量のうち、
「自動車に装着して使用している段階」の排出量が87・0%。
転がり抵抗を抑えれば、使用段階のCO2が減るので、
EX10を従来品と置き換え、CO2を約10万トン削減。
これは、ブナの木に換算すれば、
約910万本の年間吸収量に匹敵。

--タイヤ業界でも、省エネ化の競争は激しい。

◆パンクをしても、一定距離は走行できる「ランフラットタイヤ」は、
スペアタイヤやジャッキの搭載を不要にし、
車体重量と燃費の軽減をもたらす。
従来は、乗り心地に問題があり、今はパンクに気付かないほど改良。
07年、買収した米バンダグ社の技術を活用し、
廃タイヤの再生にも積極的に取り組む。
エコピアシリーズを年内にも中国市場に投入し、
新興諸国のCO2削減につなげたい。

--スペアタイヤ不要だと販売減になり、経営上マイナスでは?

業界のリーダーとして、高い意識を持たなければならない。
目先の利益を考えていてはいけない。
昨年7月、「未来のすべての子供たちが、『安心』して
暮らしていくために」として、地球環境の保全をうたった
「環境宣言」も発表。

今ほどには、環境意識が高くはない20年ほど前から、
ブリヂストンはエコピアの開発に取り組んできた。
この伝統を糧に、技術革新に取り組む。
==============
◇あらかわ・しょうし

東京外大外国語学部卒、「文化活動にあこがれた」ことを
志望動機に68年入社。06年3月から現職。山形県出身。
誕生日が「タイヤの日」(4月8日)というのも奇縁。65歳。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/03/15/20100315ddm008020177000c.html

2010年3月31日水曜日

目黒の五百羅漢寺 個性豊かな等身大の仏像

(日経 2009-12-29)

「ゴーン……」。
やや高めの鐘の音が余韻を引くように、
冬の冷たい空気を震わせる。
東京・目黒にある五百羅漢寺でも、
心地よい除夜の鐘が響く時期が近づいてきた。

・五百羅漢寺の除夜の鐘をつく参加者は、200~300人。
・江戸時代の仏師、松雲が彫った羅漢像500あまりのうち、
寺に現存するのは約300体。
・ほぼ毎月各1回ずつ、写経会や詠歌の詠唱会、法話の会を開く。

「何十、何百という羅漢さんは、いろんな顔をしている。
にっこりしていたり、しかめ面や斜めに構えていたり。
いかにも人間らしい雰囲気がいいですよね」、
お参りにきたという目黒区内に住む男性。

五百羅漢寺に、何体もまつられている等身大の像は、
それぞれが個性的な姿。
「羅漢とは、シャカの教えをじかに聴いた仏弟子たちのこと」と
斎藤晃道住職。

江戸時代の仏師、松雲が彫り上げた500体以上の羅漢像を
納めた五百羅漢寺は、かつて本所にあり、
江戸の庶民らの絶大な人気を集めた。
「身近な人々をモデルに。
うちの父親に似ている羅漢さんがいる、などと評判を呼んだ」と住職。

両国を経て、明治時代に目黒に移った寺は、
一時荒れ放題だったが、今は地上3階建ての近代的な建物になり、
像もゆったりと眺められる。

個性的な像とともに、この寺の鐘の音は良い響きで知られる。
元禄年間につくられ1774年に改鋳、
1951年、日比谷公園で開いた戦死者の慰霊大会で突かれてから、
平和の鐘と呼ばれている。

寺の建物の屋上にある鐘の前に立って眺めると、形も興味深い。
通常の鐘は、上の部分に丸い「乳」という突起があるが、
この寺の鐘は、梵字が浮き出している。
縁の部分が波打っている。
「鐘の形が、音にも個性を与えるのかな」とつい想像。

大みそかになれば、一般客でも自ら突いて音を確かめられる。
午後11時ごろ、本堂の前で仏具や古くなった位牌などを燃やす
おたきあげが始まり、甘酒の振る舞いがある。
11時40分ごろ、寺の人たちに続き、参詣客が鐘を突ける。
鐘つき券は、年越しそば、お守り付きで1000円。

予約は当日でもいいが、「だいぶ申し込みも入っています」。
近くに目黒不動尊、目黒駅周辺には歩いて10分ほどの間隔で
山手七福神が点在。
初詣でや散策コースとして楽しめる。

◆取材を終えて

五百羅漢寺は、都会らしいビル仕立ての寺。
お堂に入ると、みけんにしわを寄せたほっそりとした顔、
穏やかなほほ笑み、あばらの浮き出た座り姿などの
羅漢さんが目に飛び込んでくる。

羅漢さんの像には、「善意は報酬を求めない 善意尊者」、
「すがすがしい声 水潮声尊者」とか、説明付きの名が記されている。
親しみ深い姿とともに、このキャッチフレーズのような
各人の特徴がほほ笑ましい。

本所にあった五百羅漢寺は、羅漢像の見せ方でも大いに工夫。
当時の状況を描いた図絵を見ると、草履を脱ぐか脱がないかで、
急いでいる旅行客と、ゆったり参詣する客とを分け、
常に一方向へ進みながら五百羅漢を眺められるよう、
立体交差する通路を作っている。

「今の美術館の観覧の方式を、すでに実行していた」
斎藤晃道住職の言葉に、当時の寺を見てみたいと思った。

http://netplus.nikkei.co.jp/nikkei/news/expedition/expedition/exp091229.html

変わる校舎(2)見える教室 磨く授業力

(読売 3月17日)

「見える教室」が、教師の授業力を高める。

授業が終わる直前、3年1組担任の斉藤豪教諭(39)が、
隣の3年3組担任の多田拓也教諭(28)に、
歩み寄って声を掛けた。
「ネタを、5個はなかなか思いつかん。
少ない子には、質を良くしていくように確認しよう」
多田教諭は、「はい」と応じた。

福岡市立博多小学校で、2クラスの児童が取り組んでいたのは、
博多弁でテンポよく掛け合う「博多にわか」のネタ作り。
地域の伝統芸能を学ぶ、総合学習の一環。
斉藤教諭は17年目の中堅、多田教諭は1年目の新任。
この時間の授業内容は同じで、授業の冒頭、2人は
「五つはネタを作る」と、課題を子どもたちに伝えた。

児童は、フリールームの壁に張り出された博多弁の一覧表を参考に
2人1組で頭をひねったが、かなり難しそうな様子。
作品の出来栄えを見て回りながら、そう感じ取った斉藤教諭は、
多田教諭に、授業のまとめ方をアドバイス。

この時を含め、斉藤教諭は45分間の授業中に3回、
多田教諭と細かな打ち合わせを行った。
こうした意思疎通を可能にするカギは、
1組と3組の教室の位置関係。

同小は、教室と廊下の間に壁がなく、両クラスは横並びではないため、
互いに教室の様子が見通せる。
「博多小に来て、こんなに人の授業が見えるのかと驚いた」と斉藤教諭。
多田教諭は、「授業が先に進んでいる斉藤先生の板書を見て、
自分の授業に生かすことは多い」、
「盗んでやろうという気持ちはある」と授業力向上に意欲を燃やす。

2001年、新校舎が完成した同小には、
「見える授業」を象徴するもう一つの存在。
職員室の代わりに、先生たちの拠点として各階の中央にある
教師コーナー。
3、4年の教室がある3階では、教師コーナーから3年2組と4年1組の
教室内がよく見え、多田教諭は、「教材研究の合間に、
ほかの先生の授業を見ることもできる」

裏を返せば、各階で中央寄りの2教室は、
最も同僚から見られやすい教室。
同小は、6学年のうち4学年で、この場所を一番の若手や
初めて同小に赴任した教員のクラスとし、
学校全体で指導する姿勢を鮮明に。

市教委から拠点校指導教員に任命されている
同小の坂田麻由美教諭(48)は、
学校によっては、初任者の教室が孤立していることも。
特に(窓を閉め切る)冬場は、教室内のことが分からなくなりやすい」
こうした懸念を、同小は構造と人員配置で払拭している。

授業力は、教育の質に直結する。
大阪府教委は08年、指導力のある小中学校の教員の授業を撮影し、
動画をインターネットで各校に配信する取り組みを始めた。
団塊の世代の大量退職もあり、現場の危機感は強い。

見て見られる機会が多いほど、授業力を磨くチャンスに。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100317-OYT8T00314.htm

睡眠障害の自殺危険28倍、飲酒3倍…厚労省調査

(読売 3月16日)


睡眠障害や飲酒行動に問題がある人は、
自殺する危険性が通常よりそれぞれ28倍、3倍も高い、

厚生労働省研究班(研究代表者=加我牧子・
国立精神・神経センター精神保健研究所長)の調査で明らか。
研究班は2007年12月~09年12月、
自殺した76人(15~78歳)の生前の様子について、
遺族から聞き取り調査を実施(複数回答)。
49人について、一般人145人と比較検討。

その結果、睡眠障害などのほか、うつ病などの気分障害は
通常より6倍、死に関する発言をした人は同4倍、
不注意や無謀な行為のあった人は同35倍も、
自殺の危険性が高かった。

国内での年間自殺者は、1998年以来12年連続で3万人超。
研究班でデータ分析にあたった松本俊彦・同研究所室長は、
「自殺のサインを見逃さないよう、国民への啓発活動が必要。
かかりつけ医や精神科医の診断能力の向上も求められる」

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20100316-OYT1T01070.htm

日本HPの岡副社長「PC販促策、学校や学生を軸にブランド浸透図る」

(日経 3月18日)

日本ヒューレット・パッカード(HP)が、
パソコン市場でのシェアを高めている。
これまで比較的強かった企業向けに加え、個人を主なユーザーに
想定する「コンシューマー向け」機種の品ぞろえを充実。
HPブランドを浸透させ、顧客のすそ野を広げる戦略。
どんな点に力を入れ、市場を開拓していくのか。
パソコン事業を統括する岡隆史副社長に聞いた。

——コンシューマー向けに力を入れる背景は?

日本HPは、国内では企業向け製品を供給する
『BtoB』のIT企業として知られ、コンシューマー向けでは
ブランド力が弱かった
世界のHPグループ全体でみると、コンシューマー向け
製品のほうがむしろ強い。
豊富な製品群を、国内市場で生かせていないということに。

パソコンについて顕著なことだが、消費者は知らない
ブランドの製品は購入しない。
HPのパソコンを選んでもらえるほど、ブランドが広く知られれば、
BtoB市場での存在感も高まる」

「2007年12月、小出伸一社長が就任してから2年ほど、
米HPがITサービスの米エレクトロニック・データ・システムズ(EDS)を
買収したことに伴う、日本法人同士の統合などの懸案が重なった。
日本HPの対外的アピールも、後回しにせざるを得ない面。
これまでも、徐々にコンシューマー向けは強化しているが、
ここにきてブランド戦略を本格化する余裕がでてきた」

——具体的な戦略のポイントは?

まず、『おもしろい会社』であることを発信。
そうでなければ、消費者には選んでもらえない。
学生の就職活動を支援したり、テニスのクルム伊達公子選手の
スポンサーになったりする活動を通し、
ブランドの認知度を高めることを目指す。
まだITを使いこなしている層が中心だが、当社のブランドが
消費者の間に広まってきている」

社内では、営業要員の人事交流制度を設けている。
企業向けとコンシューマー向けの部署を、
数年で行き来する制度で、顧客層を広げる上で役立つ。
現在、コンシューマー向けを担当している要員の2割程度は、
ここ2年の間に企業向けから異動。
こうした考え方の基礎は、HPグループ全体でも持っているが、
日本HPでは一歩踏み込んで具体化」

——どんな機種を投入するのか?

昨年、重点領域を『女性』、『大学生』に定め、
就職活動支援なども手掛けてきた。
今年は、『学校』への浸透も図る。
著名デザイナーがデザインを担当したノートパソコンを2機種、
主に女性向けに販売、今後はさらに増やす。
1台のパソコンを、最大10人の生徒が同時に使えるシステムを発売。
学校やパソコン教室などの需要を開拓できると期待。
昨年8月、日本通信と提携し、高速データ通信サービスを付帯した
ノートパソコンをビジネス向けに投入、コンシューマー向けにも展開」

海外で発売している中でも、おもしろさをアピールできるような
製品は、積極的に投入する。
販売経路では、これまで手薄だった量販店をどう開拓するかがカギ。
店員が、パソコン初心者にHP製品を勧めるといった
口コミでの拡販も重視し、マーケティングを展開したい。
自社のウェブサイトで、インターネット通販も手掛けているが、
このインフラも活用する」

——コンシューマー向け市場での目標は?

「2年前、ほとんど無名だったコンシューマー向け事業も、
今では着実に伸びている。
12年、国内シェアの7%、14年には10%を狙う。
デスクトップパソコンでは、すでに7%を達成、
ノートパソコンが今後の課題。
現段階では、期待値の6~7割程度しか達成できていない。
小型・低価格の『ネットブック』と、高機能携帯電話の
『スマートフォン』の中間に位置する『スマートブック』の投入も検討、
シェア拡大に生かす方針」

「国内のパソコン市場は、時として供給過剰になることが。
ノートパソコンの店頭価格は、乱れているといってもいい。
そうした市場で、どう勝負するかが課題。
世界で屈指のシェアを獲得しているスケールメリットを生かすが、
安売りメーカーとは見られたくない。
ブランドイメージを大切に育て、顧客への浸透を目指したい」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/interview/int100317.html

2010年3月30日火曜日

変わる校舎(1)開かれた教室 授業に躍動感

(読売 3月16日)

教室と一体化した外の空間を使い、授業が躍動する。

「これはどこを読めば分かるの」、「鋭いね」
国語科教室とつながった空間に、散らばったホワイトボードの
合間を、江頭久美子教諭(54)が精力的に動き回る。
「走れメロス」を読み、作者の伝えたいことを読み取る授業。
3人1組のグループになった2年2組の生徒たちが、
ボードに文章を書く。
それを読みながら、感想やアドバイスを伝えていく江頭教諭。
授業は、活気に満ちていた。

眼下に太平洋が広がる茨城県大洗町立南中学校の授業では、
生徒も教員もよく動く。
何より、通常の授業で使う空間が広い。
教室の外ばかりでなく、生徒が隣の教室にまで踏み込むことも。

現校舎は、教育に熱心な町長の肝いりで、2000年に完成。
教科ごとの専用教室を設け、時間ごとに生徒が移動して
授業を受ける「教科教室型」の運営が特徴。
数学科教室には、数学の歴史や円周率に関する資料などが
張り出され、教科の魅力を伝えている。

類似する教科教室やオープンスペースを、ひとつのまとまりと見なし、
弾力的に使う「教科センター方式」を採用。

国語科教室は、書写室と隣り合い、両教室の前の空間を
「国語メディア」と命名。
机やイス、ホワイトボードに加え、教科に関連する資料も置かれる。

この空間で、ホワイトボードは、ついたての役割を果たす。
考える機会を重視する江頭教諭は、
「ホワイトボードは、ほかのグループとの間を仕切るので、
話し声で思考が遮断されない」と説明。
隣の書写室に向かう生徒もいるが、それも思考に集中したいがため。
江頭教諭は、「ここの環境は理想的」

教科教室の脇には、3分の2ほどの大きさの部屋。
「ホームベース」(HB)と呼ばれ、生徒がカバンを置いたり、
休み時間を過ごしたりする場所。
教科教室型には、クラスごとに教室が固定されている
通常の方式に比べ、クラス単位のまとまりが薄くなりやすいが、
それを防ぐ意味がある。

同中では、HBも教室の一部に。
数学の授業では、一部の生徒がHBの円形テーブルに集まり、
相談しながら問題を解き始めた。
生徒は、自らの判断で自由に移動。
教科教室型の利点と言われる「能動的な学習姿勢」が
確実に育っている。

東洋大学の長沢悟教授(建築計画学)は、
「教科センター方式は、教科の魅力を伝え、子どもの主体性を
育てるのには非常に有効」

この方式の前提となるのが教科教室型だが、
休み時間に全校生徒が一斉に移動するため、
「人数が多いと、生徒の把握が難しく、機能しにくい」(大洗町立南中)
という懸念は根強い。
山口県では、中学校の新築移転に伴って教科教室型を導入した際、
保護者から「大規模校での毎時間の移動は、生徒に混乱を与える」
などと反対の声。

今年9月、新校舎を使う同志社中学校(京都市、24学級)など、
近年は大規模校でも教科センター方式を採用する例。
長沢教授は、「どういう教育を目指すのか、
保護者も巻き込みながら議論することが大事」

◆日本の学校建築 明治に原型

日本の学校建築は、直線の廊下に沿って教室が並ぶ構造が
圧倒的に多い。
こうした校舎は、「片廊下一文字型」と呼ばれ、
首都大学東京の上野淳副学長によると、原型は明治時代の
1895年に文部省(当時)が示したモデルプラン。
戦後、子どもの増加に伴って、全国で似たような校舎が量産、
知識偏重型の授業には適した面も。

欧米では、教育改革の一環で、1960年代後半から
英国や米国などで教室と廊下の間の壁をなくし、
開かれた空間を持つ校舎が登場。
日本でも、70年代半ばごろから同様の試みがスタート。
同省も84年、多目的スペースを整備した場合、
国庫補助を手厚くする制度を作り、弾力的な活動ができる
校舎の建築を後押し。

現場では、「うるさい」、「落ち着かない」という批判もあり、
間仕切りを設けるケースなどが出た。
上野副学長は、「開放的な空間を作ったはいいが、
授業は旧態依然という所もある」

校舎は、教育理念を具現化するもの。
教室から職員室まで、理想の教育を実現する
学校建築を求めて様々な模索が続いている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100316-OYT8T00194.htm

青魚に多い脂肪酸、うつの改善などに効果

(読売 3月15日)

魚を食べると、心が落ち着く?
食物に含まれる脂肪の種類が、精神面の健康に影響するという
研究報告が、国内外で積み重ねられてきた。

とくに注目されているのは、サバなど青魚に多い「ω-3系脂肪酸」
うつの改善や攻撃性の低減などに効果があるという
報告が相次いでいる。

効果がなかったとする報告もあり、科学的な検証はまだ途上だが、
うつ病患者が国内で100万人を超える中、
食事の見直しが心の健康対策に役立つかも知れない。

代表的なω3系脂肪酸はサンマ、イワシ、ブリなど魚に多く含まれる
EPA、DHAと、シソ油などに多いαリノレン酸。

中性脂肪を減らし、動脈硬化を防ぐ効果がわかっている。
精神面への影響の研究は、1990年代後半から始まった。
魚をよく食べる人は、自殺企図が少ない(日本、フィンランド、米国)
といった疫学調査のほか、被験者にω3系の油と偽薬(植物油など)を
無作為に割り当て、どちらかわからない形で服用してもらって、
効果の有無を見る実験的な研究も各国で行われてきた。

その結果、攻撃性や衝動性が減る(日本)、
うつが改善する(米国、英国、台湾)といった報告、
産後うつや認知症の予防効果を示唆する研究も。

一般の植物油に多いリノール酸など、
「ω6系脂肪酸」との相対的な量に着目し、うつの高齢者は
血液中のω3系の比率が低いとした調査(オランダ)。

関連や効果が見られなかったとの報告も、複数ある。
各種の研究を分析した米国の昨年の論文は、
「うつ病の治療手段になる可能性があるが、
大規模な試験が求められる」

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20100315-OYT1T00834.htm

ロジカルシンキング(11)説得への「ストーリー」 内容順序づけ手段加味

(日経 3月16日)

相手を説得するための論理的説明の仕上げは、
伝える手段を考慮しながら、説明の流れを作ること。

伝えたい内容が完成していても、時間が足りなくなるなど、
さまざまな問題が起こる。
こうした問題を無視してしまうと、分かりやすい内容でも、
相手を説得するという目的を達成できない。

伝える内容と手段を加味した「説明のストーリー」を用意。
「ストーリー」とは、何をどの順序で説明するかを決定すること。

ストーリーの作り方は、次の4つのステップ。
最初のステップは、伝えたい内容の優先順位をつけること。
「結論」、「根拠」、「説明の背景」、「付随する情報」に分けられる。
どの優先順位が高いのかを決める。
説明の背景や付随する情報は、受け手によって優先順位が変わる。
根拠が複数ある場合、どれを優先するのかを考えておく。

2つ目は、伝えたい内容をどの程度伝えられるかの判断。
説明のため、与えられた時間をもとに、どの程度まで
説明できるのか把握。
優先順位にしたがって、伝えるべき内容の目星をつける。
数分の立ち話で説明しなければならない場合、
内容を大幅に削らなければならない。

このステップで、注意すべきことは、「何を使って伝えるのか」。
資料を使って説明するのと、口頭のみとでは要する時間が変わる。
対話を通じてなのか、一方的な説明なのかによっても、
同じ時間内で伝えられる量は異なる。

ステップ3は、説明する順序を決定すること。
伝える順序には、まず結論から伝えるパターンと、
根拠から説明し、最後に結論を伝えるパターンの2つが代表的。

どのような順序が、最も効果的なのかを考慮することが必要。
一部のプレゼンテーションの書籍で見られるような
「結論先行が望ましい」という考え方が、常に通用するわけではない。
聞く気のない受け手に、結論をいきなりぶつけても、
その内容が受け手に残ることはない。
相手の理解が十分でない事柄を説明する場合、
まず背景や事実を丁寧に説明する方がよい。

逆に、持ち時間がほとんどないとき、結論を先に言ってしまった後、
時間の許す限り、理由を加えていくという順序が有効。

最後のステップは、メッセージの修正。
伝える順序が変われば、同じメッセージでもニュアンスは変わる。
そうした点を考慮しながら、メッセージの位置づけや内容を修正。

ストーリーを考えるとき、心がけたいのは、
どれだけ受け手の理解につながるか、ということ。
自分が説明できたとしても、受け手が説明内容を
すべて理解できるとは限らない。
中途半端な理解は、誤解や納得感の欠如に結びつく。
ときには、説明内容を大胆に絞り込んでみたり、
説明の順序を変更したりする工夫も必要。

こうして完成したストーリーは、説明したい内容、受け手の状況、
伝える手段をバランスよく反映したもの。
より説得力のあるコミュニケーションの実現を可能に。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz100316.html

英ソニー・エリクソンの坂口副社長「高機能携帯、誰もやっていないものに挑戦」

(日経 3月11日)

英ソニー・エリクソンは、2.6インチの小型タッチパネルを搭載した
「エクスペリアX10ミニ」など、手のひらに収まる大きさの
スマートフォン(高機能携帯電話)3機種を一斉に発表。
2010年内に、世界各国で順次発売。

これまで、画面の大型化や情報処理速度の高速化を
競ってきたライバルとは逆の発想で、
スマートフォンの新たな需要を掘り起こす考え。
坂口立考副社長に、開発の狙いや同社の商品戦略を聞いた。

——なぜ小型化にこだわったのか?

「従来のスマートフォン市場は、高機能な携帯電話を求める
消費者のためだけに開発しているという印象が強かった。
米アップル「iPhone」のように、大画面で機能が豊富な商品の
ニーズはあるが、携帯電話に求められる特徴はそれだけではない。
誰にでも使いやすい操作性を持たせつつ、
他のスマートフォンとの違いをアピールできるのが、
X10ミニなどの小型商品

「我々の商品開発の背景には、誰もやっていない、誰もが欲しいと
思ってもらえる商品を、世界中の人々に届けたいという思い。
当然、高価格帯の商品だけで実現するのは難しい。
今回の小型商品では、コミュニケーションをエンターテインメントにする
という当社のブランド哲学を込めつつ、
普及価格帯に抑えることに力を注いだ」

——X10ミニでは、米グーグルの携帯電話向け基本ソフト(OS)
「アンドロイド」を採用。

「アンドロイドは、『Gメール』などグーグルの豊富なネットサービスを
手軽に利用できる半面、OSの設計情報が公開され、
どのメーカーでも比較的簡単に搭載端末を作れてしまうという
デメリットもある。
OSが、メーカーの競争力を左右するわけではない。
X10ミニでは、よく使うアプリケーションソフトのアイコンを、
画面の四隅に自由に配置できるようにするなど、
独自の機能を加えることで、他のアンドロイド搭載端末との違いを
打ち出している」

——韓国・サムスン電子などアジア勢の台頭で、
ソニー・エリクソンのシェアは低下傾向が続いている。

「グローバルで事業を手掛ける限り、ある程度の出荷台数を
稼がなければ、商品開発は成り立たない。
携帯電話市場で、シェアを追求するということは、
非常に安い商品を品ぞろえすることを意味。
シェア拡大を目的にすると、商品開発面で
挑戦できなくなってしまうことも多い。
ソニー・エリクソンでは、価値ある商品を作り続けて、
世界中で存在感を発揮するという目標は持ち続け、
シェアが0.1%上がったり、下がったりするのを気にしてはいない

——今後、携帯電話以外の商品を手掛ける計画はないか?

「消費者の間では、1つの情報端末ですべてを済ませるのではなく、
ネットブックやスマートフォンなど、複数の端末を組み合わせて使う
ライフスタイルが定着しつつある。
単純に、ノートパソコンと携帯電話を足して2で割ったような
商品を手掛けるつもりはないが、インターネットの操作性を高めて、
人間同士のコミュニケーションをより円滑にする
新たな領域の商品作りには常に意欲を持っている

——日本市場の位置づけは?

「日本が先進的な市場で、ソニー・エリクソンにとっても
重要な市場であることに変わりはない。
当社は、日本市場も世界市場の一部分ととらえている。
日本でしか販売できない商品を作り込むのは、負担が大きいし、
当社のブランド哲学にも合わない」

「当社には、資金的にも人材的にも限界があり、
商品群は1つしかない。
その中から、なるべく多くの商品が日本でも売られるように
努力していきたいし、日本の携帯電話事業者にも
その点を理解してもらいたい」

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/interview/int100310.html

2010年3月29日月曜日

「やる気」家で簡単に測定、5月に発売

(読売 3月14日)

東芝は、集中力の高さやリラックスの度合いを
脳波から手軽に測定できる機器を、5月に発売。

親が子どものやる気を確かめながら勉強に取り組ませたり、
スポーツ選手が試合前に精神状態を安定させたりするのに
活用できる。

ヘッドホン型の機器を頭に付けるだけで、
センサーが脳波のデータを読み取り、無線でパソコンに送る。
それを専用ソフトで分析すれば、パソコン画面上で、
集中度や緊張度がメーターやグラフなどで、
分かりやすく表示される仕組み。
価格は、専用ソフト込みで2万円前後になる見通し。

東芝は、この機器をヘアバンド型にして、
眠りの深さを調べることができる医療用装置も、年内に商品化。

眠りが浅くて、日中も眠気が消えないとされる「睡眠時無呼吸症候群」など
睡眠障害の治療に役立つと見られる。
現在、病院などで脳波を測定すると、長期間の検査の場合は
費用が数十万円に上ることもあるが、
東芝は新装置の価格を数万円前後に抑える方針。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20100314-OYT1T00004.htm

口腔崩壊:子供の虫歯、貧困で悪化!? 放置続出、医師「全国調査を」

(毎日 3月21日)

家庭が貧しくて虫歯の治療に行けず、かみ合わせが悪くなったり、
歯が抜け落ちたりする子供の「口腔崩壊」が問題化。

東京都のある歯科医院の調査では、
口腔崩壊の子供の家庭の半数がm経済的困窮を訴えた。

専門家は、「継続した治療を続けさせないネグレクト(育児放棄)」
指摘するが、実態は不明で、「全国調査が必要」という声。

東京都立川市の相互歯科。
2月にやって来た小学4年女児は、永久歯10本すべてが虫歯。
3歳ごろから通院、「ちゃんと診察に来なさいよ」と言っても、
次は半年~1年後。
治療した歯が虫歯になっていることも。
母親は、「母子家庭で生活が苦しく、子供の面倒も見切れていない」

この歯科は08年、治療した口腔崩壊の子供の家庭24例の
経済状況を口頭で聞いた。
半数が苦しさを訴え、3割は失業中や1人親。

「乳歯で生え変わるから」と、虫歯を放置すると、
歯が抜け落ちた後、膿ができ、生え変わる永久歯も虫歯になったり、
歯並びが悪くなったりするケースが多い。

放置が続けば、かみ合わせが悪くなって十分に食べ物をかめず、
心身の発達に影響するだけでなく、虫歯の菌であごの骨に
炎症が起き、発音などに影響する。

文部科学省の虫歯調査では、12歳児の1人平均が
98年度の3・06本から、08年度は1・5本に改善。

相互歯科を含む全国1700の医療機関が加盟する
「全日本民主医療機関連合会」には、各地の歯科医から
「子供に口腔崩壊が広がっている」との声。

同連合会の江原雅博歯科部長(55)は、
「実態調査も検討している」
総務省の家計調査(07年度)では、年収5段階の最も低い層の
歯科診療代は、最も高い層の約5分の1。

相互歯科の歯科衛生士の清田真子さん(31)は、
「親に余裕がなく、甘いものを与えて黙らせる傾向。
親が口腔崩壊しているケースも多い」

http://mainichi.jp/select/science/news/20100321ddm041040056000c.html

ロジカルシンキング(10)相手が納得する説明〜理解・関心度に配慮を

(日経 3月9日)

私たちは、相手によって説明の仕方を変える。
事情をよく知らない人には詳しく説明し、
背景を分かっている人には要点をかいつまんで話す。

このようなことを日常的にできるのは、
説明を聞く相手(受け手)のことを、無意識のうちに考慮。
それには、受け手への理解が欠かせない。

受け手のことを理解するとき、まず思いつくのが
受け手の性格や感情。
「あの人は気難しいから、丁寧な言葉遣いを心がけよう」、
「今日は機嫌が悪そうだから、話しかけるのは別の日にしよう」
などと考えられるのは、相手の性格や感情をよく知っているから。
こうした配慮は、受け手を意識したコミュニケーションへの第一歩。

それだけでは、相手を納得させられる説明はできない。
最初のポイントは、「受け手は、伝える内容をどの程度知っているか」
相手が、自分の伝えようとしているものをすでに知っているか、
それとも知らないのかによって、説明する内容は変わる。

受け手が伝えようとするものを知らないのなら、
内容そのものをしっかり説明する。
すでに知っているなら、内容に触れる必要があるのか考え直す。
説明内容の信頼性を高めるメリットがあるなら触れる、
そうでなければ話さなくてもよい。

2つめのポイントは、「これから伝えようとする内容に関する背景を、
相手はどの程度理解できているか」
受け手が、事情をよく知らないなら、最初からこまごまと説明する。
よく知っている人には、本題に直接入る。

3つめのポイントは、「これから伝えようとする内容に対し、
相手の関心の度合いはどの程度なのか」
関心や興味の強さによって、説明の仕方を変える。
関心の深いテーマなら、単刀直入に伝えたい内容を説明する。
受け手が興味を示さないなら、自分の伝えたいことが
相手にとって、いかに重要かがわかるように工夫。

注意しておきたいのが、「受け手にとって、自分がどう見えるか」
同じような指示でも、上司に言われれば納得できるが、
同僚から聞くとすんなりと受け入れづらくなる。
指示の内容だけでなく、指示を出す相手によって、
納得の度合いが変わってくる。
自分が、受け手にどのように見えるかも、
伝える内容や伝え方を変える。

自分の説明内容を、納得性を持って伝えるには、
これらの点に注目し、受け手について理解する。
受け手の理解が深まれば、重点的に説明すべき内容が見える。
どの順序で説明すれば、相手の理解や納得感が
高まるのかも想定できるようになる。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/bizskill/biz100309.html

怪しい「神経神話」と戦う脳科学者

(日経 2010-03-19)

脳を巡る怪しい研究成果や根拠の乏しい説、
いわゆる「神経神話」を撲滅していこうとする動き。

誤った知識が広まれば、脳科学全体の信頼を損ない、
学術の健全な発展や成果の社会還元に支障を来すとの
危機感が背景。

日立製作所の小泉英明フェローによると、
脳科学は誤解の生まれやすい分野。
人々の関心は高いが、分野横断的な研究が必要で、
簡単に実証できない問題が多い。

“脳科学者”と称する専門家が、「最近の研究からすると……」と
解説し始めれば、一般の聞き手は「そうなんだ」と、
たやすく受け入れてしまう素地がある。

経済協力開発機構が、2007年にまとめた報告書
「脳の理解:教育科学の誕生」には、定説のように扱われるが
根拠の乏しい神経神話に注意を払おうと、
特別に1章が設けられた。
この作成にかかわった小泉フェローは、
「脳の成果を発表するとき、研究者は慎重にならなければいけない」

◆神経神話の事例
1 脳に重要なすべては、3歳までに決まる
2 学習には最適な時期がある
3 私たちは脳の10%しか利用していない
4 右脳型の人と左脳型の人がいる
5 男性の脳と女性の脳は違っている
6 記憶力は改善できる
7 眠りながら学習できる
(経済協力開発機構の報告書より作成)

神経神話を語るとき、1960年前後のグルタミン酸ナトリウム騒動
よく引き合いに出される。
イヌの大脳皮質に注射し、興奮性の作用が見つかり、
情報伝達物質として注目された研究が、
「グルタミン酸ナトリウムを食べると、頭がよくなる」という迷信に発展。

グルタミン酸ナトリウムは、調味料「味の素」の主成分。
当時、ごはんにかけて食べる人も現れた。
もちろん科学的な根拠はない。

その後、神経毒として作用する可能性がある報告も出て、
流行は去った。
今では、これを食べても脳に届かないことが分かり、
ブーム再来はなさそう。

現在の脳科学ブームは、似た危うさをはらんでいる。
心理学実験で、集中力を高める効果が分かっているゲームを、
「脳が活性化する」とうたってみたり、栄養学で健康維持によいと
される食事を「脳によい」と言い飾ったり。
消費者の関心を引き寄せるために、脳科学が乱用。

自然科学の研究者は通常、専門の討論の場以外で、
研究に関する批判や評価はしてこなかった。
場合によっては、特定の研究者を非難せざるを得なくなり、
「研究に関係のない発言は慎むべきだ」という“美徳”を
尊重するこれまでの学界なら、
神経神話も黙殺するだけにとどまったかもしれない。

最近、日本神経科学学会が拡大解釈した情報発信に
注意を促したり、脳ブームに警鐘を鳴らす出版物が
相次いで登場したりと、見過ごしておけないと主張する
研究者が増え始めている。

その要因は、脳科学全体があやしい研究分野と
思われ始めている状況を、社会に感じ取ったからだろう。
科学・技術が、社会と密接につながる現代では、
専門家の意見はいろいろな局面で重要な指針になる。

健全な議論は大いに歓迎すべきで、今後の研究者の
意識改革が成否を左右する。
市民も、興味本位で見聞きするのではなく、
ともに考える理屈っぽさが必要。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec100317.html

2010年3月28日日曜日

放送電波のすき間に眠る「埋蔵金」

(日経 2010-03-18)

電波の有効利用で、経済の活性化を促す議論が熱を帯びてきた。

政府は、今国会で放送と通信の融合に向けた
放送法改正案の成立を目指す。
総務省の内藤正光副大臣は、7月をめどに
「ホワイトスペース特区」を創設。

放送目的の電波を、通信などにも利用可能にする
仕組みの検討が、本格的に始まる。
新たな電波政策は、斬新なITサービスの登場を促し、
日本経済を浮揚させる「埋蔵金」となるか?

「驚いた。画期的だ」
「電波の有効利用に関する国際シンポジウム」で、
内藤副大臣がホワイトスペース特区の早期設置を言明、
会場の推進派からは評価する声が上がった。

ホワイトスペースとは、テレビ局向けに割り当てられている
電波の周波数のうち、普段は使われていないすき間帯域。
本来、電波の混信を防ぐための「緩衝帯」のようなもの。
技術の進歩で、放送や通信での利用に道が開けつつある。

テレビ用の周波数は、VHFとUHFのアナログ放送用に
計62チャンネル分が割り当てられているが、
実際に使われているのは、首都圏でも10前後にすぎない。
通信業界や一部の学者らは、2011年7月の放送完全デジタル化を
機に、ホワイトスペースの“解放”を訴えていた。

総務省の姿勢が、ホワイトスペース活用に傾斜し始めたのは、
民主党への政権交代後。
「新たな電波の活用ビジョンに関する検討チーム」を立ちあげ、
ホワイトスペース問題を俎上に上げた。

年明け後、与党も一段と積極的に。
政権に、「成長戦略」を求める声が強まるなか、
巨額の財政出動を伴わず、内需をてこ入れする具体策として、
電波政策に注目。

総務省は、ホワイトスペースの活用案を募集。
計54の企業などから、103件の提案。
地域限定の携帯端末向け地上デジタル放送である
「エリアワンセグ」や、「デジタルサイネージ」と呼ぶ電子看板への
データ送信など、新規ビジネスのアイデアが含まれる。
米国では、大学構内のインターネット接続など、
地方都市の無線通信の環境充実に、
ホワイトスペースを利用する動き。

日本の放送界は、「ホワイトスペースなど存在しない」と主張。
すき間帯域を、空想上の「埋蔵金」扱いするなど、
慎重姿勢を崩していなかった。
ここに来て、軟化の兆し。
広告市場の低迷など、悪化する地方局の経営を、
電波の積極利用に転じることで打開しようとの議論が浮上。

放送法などの改正により、1つの免許で放送と通信サービスの
双方を展開できる“融合免許”が、制度として盛り込まれる方向。
慶大の中村伊知哉教授は、「地方局が深夜、余った電波で
通信サービスを提供できるようになる」
技術的な課題解決も含め、すき間電波の利用には曲折も予想。
米欧など、海外でも検討は進み、
電波の隠れた価値を顕在化させる動きは加速しそう。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt100317.html

新しい波/336 女子サッカーの育成/3

(毎日 3月20日)

女子サッカーの全国高校体育連盟加盟が
認められたのは、08年5月。

それまで各校の女子サッカー部は、地方の高体連に所属、
全国組織には入っていなかった。
全国高体連サッカー専門部の女子部会が承認され、
高校年代最高峰のスポーツ大会である
高校総体(インターハイ)への道が開けた。

「女子サッカーを、なんとか正式な部活動として
認められるようにしたい」。
07年、全国高体連加盟に動いた東京・文京学院大女高の監督、
床爪克至教諭は、そんな思いを持っていた。

加盟条件は、「全国30都道府県以上の高体連に
加盟していること」だったが、07年度は33都道府県の約290校が
地元の高体連に加盟、規定をクリア。

現在、12年に北信越で開かれる高校総体から
実施される方向で話し合いが進んでいる。

高校の女子サッカー部が出場できる大会としては、
全日本高校女子選手権や全日本女子ユース選手権など、
日本サッカー協会主催の大会がある。

こうした高体連主催以外の大会は、学校側が
「公的な課外活動」として認めない場合があり、
選手は「公欠扱い」ではなく「欠席扱い」、
教員も「出張扱い」にならず休みを取らざるを得ないのが実情。
進学の推薦基準でも、高校総体の成績を条件に挙げる大学は多い。

全国高体連への加盟は、このような問題の解消にもつながる。
床爪教諭は、「正式な教育活動として認定されるようになると、
教員のかかわり方も違ってくる。
全国高体連加盟は、『公的な活動』としての後ろ盾になる」

指導を引き受ける教員が増えれば、
選手を取り巻く環境も変わってくる。
今年度の登録校数は、36都道府県の308校。
加盟前に比べ、女子サッカー部のある学校は徐々に増えてきた。

日本サッカー協会の上田栄治女子委員長も、
「インターハイの見通しが付くと、子どもたちの一つの目標になる」、
高校年代の広がりを歓迎している。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/news/20100320ddm035050062000c.html

バイオ燃料:アオコから高効率抽出 従来の70倍に成功--電力中央研

(毎日 3月21日)

湖や池の水面を埋めるアオコから、
簡単に安くバイオ燃料を生み出す新技術の開発に、
電力中央研究所エネルギー技術研究所が成功。

従来の方法より、約70倍も生産性が高く、
製造時の環境影響も少ない。

日本化学会で発表し、水の浄化と地球温暖化対策の
一石二鳥になる「緑の原油」として、数年後の実用化を目指す。

同研究所の神田英輝主任研究員は、
スプレーの噴射ガスに使われる無害な溶剤ジメチルエーテルを、
20度で5気圧に加圧して液化し、アオコと混ぜ合わせる方法を考案。

溶剤の性質からアオコに自然に染み込み、
乾燥・粉砕して細胞組織を壊さなくても、
油分を溶かし出せることを確認。

溶剤は、減圧すれば蒸発するため、分離・回収も簡単で、
製造過程のエネルギー使用も激減する。

京都市内の池のアオコを使った実験では、
従来の方法ではアオコの乾燥重量の0・6%相当しか
油分を抽出できなかったのに対し、
新技術では約70倍の40%相当が抽出できた。

神田研究員は、「6000種類以上の化学物質を調べて、
唯一目的にかなうのがジメチルエーテル。
今後、大規模実験を行い、実用化を急ぎたい」

http://mainichi.jp/select/science/news/20100321ddm003040133000c.html

挑戦のとき/24 筑波大准教授・三谷純さん

(毎日 3月9日)

折り目のついた正八角形の紙を、両手で包み込むように
折りたたむと、八つのひだのある不思議な球体ができた。

三谷さんが、最近考案した新しい立体折り紙。
記者も挑戦したができない。
5分ほどで断念した。

「折り目をつけてあっても、初めてで折れる人はほとんどいない。
難易度は星五つです」と、三谷さんはいたずらっぽく笑った。

折り紙は、子供の遊びにとどまらない。
人工衛星の太陽電池パネルや自動車のエアバッグは、
折り紙の理論でたたみ込まれ収納。

三谷さんは、数学とコンピューターを駆使し、
幾何学的な新しい立体折り紙を生み出している。
普通の折り紙では難しい曲面も、コンピューターを使えば
比較的簡単に設計できる。

自己表現であり、アート。
新しい立体を作り出すのが楽しいから、研究している。
世の中になかった形をたくさん考えたい。
ひょっとしたら、ランプのかさや包装、衣装デザインに
使ってもらえるかもしれない」

子どものころ、父親にもらった本がきっかけで、
紙工作(ペーパークラフト)にのめり込み、
小学1年からパソコンに親しんだ。

「ロボットでも作ろうと思って」
大学は、精密機械工学科に進んだが、ちょうど普及し始めた
インターネットに衝撃を受け、学科の中で最もソフトウエア寄りの
研究室を選んだ。

三次元コンピューターグラフィックス(3DCG)で、
立体を変形させるソフト開発に取り組んだ。

自動車のボディーの設計などに使われる技術。
本来の研究の傍ら、紙工作の展開図を自動的に作ってくれる
ソフトを、「遊びで作った」ところ、教官から「面白い」とほめられた。

技術を買われ、大学院の博士課程を1年休学して、
ITベンチャーのエンジニアとして働いた。
紙工作ソフトの研究論文が、著名な学術雑誌に載り、
「自分の好きなことが研究として認められ、
やっていく自信がついた」

ベンチャーが、大手のヤフーと合併したのを機に大学に戻った。
切り張りする紙工作より、制約の多い折り紙に研究対象を変え、
立体折り紙を簡単に設計できるソフト開発や、
折り紙の展開図から最終形を推定する
アルゴリズム(計算手法)の開発などを進める。

普通の折り紙は、あまりやらない。
「折り紙で、精巧な動物などを作るのは職人技。
私は、幾何学的なルールにのっとって、コンピューターで設計し、
『これは、誰も作ったことがない形でしょう』とやりたい」と三谷さん。

家でも、あまり折り紙をしないのに、長女が3歳のとき、
きれいな折り鶴を折った。
「これは、将来有望かなと思った」。
2人の娘の父の顔も見せた。
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◇みたに・じゅん

75年、静岡県富士市生まれ。
東京大大学院工学系研究科修了。09年から現職。
昨年、作品を集めた「ふしぎな球体・立体折り紙」(二見書房)を出版。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20100309ddm016040084000c.html