(読売 3月16日)
教室と一体化した外の空間を使い、授業が躍動する。
「これはどこを読めば分かるの」、「鋭いね」
国語科教室とつながった空間に、散らばったホワイトボードの
合間を、江頭久美子教諭(54)が精力的に動き回る。
「走れメロス」を読み、作者の伝えたいことを読み取る授業。
3人1組のグループになった2年2組の生徒たちが、
ボードに文章を書く。
それを読みながら、感想やアドバイスを伝えていく江頭教諭。
授業は、活気に満ちていた。
眼下に太平洋が広がる茨城県大洗町立南中学校の授業では、
生徒も教員もよく動く。
何より、通常の授業で使う空間が広い。
教室の外ばかりでなく、生徒が隣の教室にまで踏み込むことも。
現校舎は、教育に熱心な町長の肝いりで、2000年に完成。
教科ごとの専用教室を設け、時間ごとに生徒が移動して
授業を受ける「教科教室型」の運営が特徴。
数学科教室には、数学の歴史や円周率に関する資料などが
張り出され、教科の魅力を伝えている。
類似する教科教室やオープンスペースを、ひとつのまとまりと見なし、
弾力的に使う「教科センター方式」を採用。
国語科教室は、書写室と隣り合い、両教室の前の空間を
「国語メディア」と命名。
机やイス、ホワイトボードに加え、教科に関連する資料も置かれる。
この空間で、ホワイトボードは、ついたての役割を果たす。
考える機会を重視する江頭教諭は、
「ホワイトボードは、ほかのグループとの間を仕切るので、
話し声で思考が遮断されない」と説明。
隣の書写室に向かう生徒もいるが、それも思考に集中したいがため。
江頭教諭は、「ここの環境は理想的」
教科教室の脇には、3分の2ほどの大きさの部屋。
「ホームベース」(HB)と呼ばれ、生徒がカバンを置いたり、
休み時間を過ごしたりする場所。
教科教室型には、クラスごとに教室が固定されている
通常の方式に比べ、クラス単位のまとまりが薄くなりやすいが、
それを防ぐ意味がある。
同中では、HBも教室の一部に。
数学の授業では、一部の生徒がHBの円形テーブルに集まり、
相談しながら問題を解き始めた。
生徒は、自らの判断で自由に移動。
教科教室型の利点と言われる「能動的な学習姿勢」が
確実に育っている。
東洋大学の長沢悟教授(建築計画学)は、
「教科センター方式は、教科の魅力を伝え、子どもの主体性を
育てるのには非常に有効」
この方式の前提となるのが教科教室型だが、
休み時間に全校生徒が一斉に移動するため、
「人数が多いと、生徒の把握が難しく、機能しにくい」(大洗町立南中)
という懸念は根強い。
山口県では、中学校の新築移転に伴って教科教室型を導入した際、
保護者から「大規模校での毎時間の移動は、生徒に混乱を与える」
などと反対の声。
今年9月、新校舎を使う同志社中学校(京都市、24学級)など、
近年は大規模校でも教科センター方式を採用する例。
長沢教授は、「どういう教育を目指すのか、
保護者も巻き込みながら議論することが大事」
◆日本の学校建築 明治に原型
日本の学校建築は、直線の廊下に沿って教室が並ぶ構造が
圧倒的に多い。
こうした校舎は、「片廊下一文字型」と呼ばれ、
首都大学東京の上野淳副学長によると、原型は明治時代の
1895年に文部省(当時)が示したモデルプラン。
戦後、子どもの増加に伴って、全国で似たような校舎が量産、
知識偏重型の授業には適した面も。
欧米では、教育改革の一環で、1960年代後半から
英国や米国などで教室と廊下の間の壁をなくし、
開かれた空間を持つ校舎が登場。
日本でも、70年代半ばごろから同様の試みがスタート。
同省も84年、多目的スペースを整備した場合、
国庫補助を手厚くする制度を作り、弾力的な活動ができる
校舎の建築を後押し。
現場では、「うるさい」、「落ち着かない」という批判もあり、
間仕切りを設けるケースなどが出た。
上野副学長は、「開放的な空間を作ったはいいが、
授業は旧態依然という所もある」
校舎は、教育理念を具現化するもの。
教室から職員室まで、理想の教育を実現する
学校建築を求めて様々な模索が続いている。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100316-OYT8T00194.htm
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