2010年3月28日日曜日

挑戦のとき/24 筑波大准教授・三谷純さん

(毎日 3月9日)

折り目のついた正八角形の紙を、両手で包み込むように
折りたたむと、八つのひだのある不思議な球体ができた。

三谷さんが、最近考案した新しい立体折り紙。
記者も挑戦したができない。
5分ほどで断念した。

「折り目をつけてあっても、初めてで折れる人はほとんどいない。
難易度は星五つです」と、三谷さんはいたずらっぽく笑った。

折り紙は、子供の遊びにとどまらない。
人工衛星の太陽電池パネルや自動車のエアバッグは、
折り紙の理論でたたみ込まれ収納。

三谷さんは、数学とコンピューターを駆使し、
幾何学的な新しい立体折り紙を生み出している。
普通の折り紙では難しい曲面も、コンピューターを使えば
比較的簡単に設計できる。

自己表現であり、アート。
新しい立体を作り出すのが楽しいから、研究している。
世の中になかった形をたくさん考えたい。
ひょっとしたら、ランプのかさや包装、衣装デザインに
使ってもらえるかもしれない」

子どものころ、父親にもらった本がきっかけで、
紙工作(ペーパークラフト)にのめり込み、
小学1年からパソコンに親しんだ。

「ロボットでも作ろうと思って」
大学は、精密機械工学科に進んだが、ちょうど普及し始めた
インターネットに衝撃を受け、学科の中で最もソフトウエア寄りの
研究室を選んだ。

三次元コンピューターグラフィックス(3DCG)で、
立体を変形させるソフト開発に取り組んだ。

自動車のボディーの設計などに使われる技術。
本来の研究の傍ら、紙工作の展開図を自動的に作ってくれる
ソフトを、「遊びで作った」ところ、教官から「面白い」とほめられた。

技術を買われ、大学院の博士課程を1年休学して、
ITベンチャーのエンジニアとして働いた。
紙工作ソフトの研究論文が、著名な学術雑誌に載り、
「自分の好きなことが研究として認められ、
やっていく自信がついた」

ベンチャーが、大手のヤフーと合併したのを機に大学に戻った。
切り張りする紙工作より、制約の多い折り紙に研究対象を変え、
立体折り紙を簡単に設計できるソフト開発や、
折り紙の展開図から最終形を推定する
アルゴリズム(計算手法)の開発などを進める。

普通の折り紙は、あまりやらない。
「折り紙で、精巧な動物などを作るのは職人技。
私は、幾何学的なルールにのっとって、コンピューターで設計し、
『これは、誰も作ったことがない形でしょう』とやりたい」と三谷さん。

家でも、あまり折り紙をしないのに、長女が3歳のとき、
きれいな折り鶴を折った。
「これは、将来有望かなと思った」。
2人の娘の父の顔も見せた。
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◇みたに・じゅん

75年、静岡県富士市生まれ。
東京大大学院工学系研究科修了。09年から現職。
昨年、作品を集めた「ふしぎな球体・立体折り紙」(二見書房)を出版。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20100309ddm016040084000c.html

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