(日経 2010-03-11)
アップルの新型携帯マルチメディア端末「iPad」。
多彩な機能を搭載した魅力的な端末だが、
技術的に最も注目されているのが、米アドビの動画技術
「フラッシュ」に対応しない点。
その代わり、アップルは次世代ウェブ標準の「HTML5」の
進化・普及に賭ける姿勢を鮮明。
「HTML5」は、フラッシュとともにインターネットの
コンテンツ(情報の内容)の表現力を高める技術、
現在はフラッシュが圧倒的に優勢。
携帯端末市場で激しく競合するアップルとグーグルの2社は、
近く実用化されるHTML5を推し、
メディア産業などは動画表示の業界標準の座を巡る競争を注視。
フラッシュは、世界のウェブ上の動画コンテンツの7~8割、
動画を含む広告の9割。
ウェブ上の動画のデファクト・スタンダード(事実上の標準)技術。
アップルは、世界的な大ヒットとなったiPhoneでも
フラッシュ対応を避け、動画対応では国際標準規格の1つ、
「H.264」と呼ばれる技術に限って対応。
同社はこの路線を、映画やビデオ映像など動画の利用が
より多くなる、iPadでも維持。
アップルがしばしば見せる唯我独尊の一例にも映るが、
iPadの人気次第では、次世代技術「HTML5」の普及を
一気に加速させる効果が出る可能性。
「フラッシュは、バグ(プログラム上の欠陥)が多過ぎる。
そのうち誰も使わなくなる。
世界は、HTML5に向かって進んでいる」−−。
スティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)。
グーグルの戦略にも触れ、「我々は、ネット検索市場に
参入しなかったが、彼ら(グーグル)は携帯端末市場に入ってきた。
彼らは、iPhoneを打ち負かしたいようだが、
そんなことは絶対させない」
ジョブズ氏が、敵対心をむき出しにしたグーグル。
同社も、HTML5を最も強力に広めようとしているもう一勢力。
グーグルは、汎用ブラウザーであらゆる情報処理をこなせるよう、
ウェブ技術、クラウド技術を進化させようとしている。
キーとなる技術に、HTML5を選んだ。
携帯端末市場では、完全にライバル関係のアップルとグーグル、
HTML5の開発と普及では、強固にタッグを組んでいる構図。
HTML5は、ウェブページの中身を記述する規格である
HTMLの次世代バージョン。
世界中のIT関連企業が加盟するウェブの技術標準管理団体、
W3Cの中の作業部会が、草案を検討。
動画再生やウェブ上のソフトウエア操作など、
ブラウザーに「プラグイン」と呼ばれるツールを
取り込まないと実行できない。
次世代版では、そうした機能を、ウェブページ側にも
ブラウザー側にも標準装備させる方向。
今の草案では、HTML5が普及すると、ウェブページ上の表示物を
マウスでドラッグ・アンド・ドロップしたり、ウェブページの状態を
端末のブラウザー内のメモリーに記憶させ、
ネット接続がない状態でも閲覧したりといったことが可能。
HTML5は、動画処理機能も含むため、
同規格に準拠したウェブページとブラウザーを組み合わせれば、
フラッシュという特定企業の技術を使わないで、動画が再生。
HTML5の草案に盛られている動画技術は、
まだ未成熟なため、すぐにフラッシュに取って代わることはないが、
グーグルなど関係者は、今後3~5年後には広まっていく。
HTML5普及への最大の障害は、パソコン用ブラウザーで
最大のシェアを握るマイクロソフトが、開発協力に後ろ向き。
2009年夏以降、同社も規格策定に積極的に関与。
3月内にも概要を発表する「インターネット・エクスプローラー(IE)」
の次期バージョンでも、HTML5準拠を前面に打ち出す。
時代の風は、ジョブズ氏の見立て通り、HTML5普及に勢い。
今のところ、世界中の企業がフラッシュを組み込んだ
ウェブサイト作りを進め、広告業界も同じくフラッシュ活用型の動画を
盛り込んだ広告を増やしている。
フラッシュ依存を強めると、気がつくと時代遅れになっている恐れ。
右手で握手をしながら、左手で殴りあうのは、IT業界の常。
愛憎相半ばする関係であるアップルとグーグルの動きを
注視していく必要。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ittrend/itt100309.html
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