(日経 2010-03-15)
政財界の要人が一堂に会す
世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)。
人口1万人のスキーリゾート地が格好の「密室」となる
1月のこの1週間は、世界中の企業トップにとっては密会の場にも。
自動車業界も、今年は日米欧の大手首脳が多数集い、
親しげに言葉を交わす光景。
トヨタ自動車の豊田章男社長が、ある首脳に言葉をかけられたのも、
そんなダボスでの午後。
「こんな時期に、弱みにつけ込もうなんて思っていませんから」
カルロス・ゴーン・日産自動車社長。
話題は当然のように、トヨタの米国でのリコール問題。
ゴーン社長としては、「真っ正面から話題に切り込むことで、
あえて重苦しい空気が漂うのを避けようとしたのが半分。
トヨタ問題に対する日産の姿勢を、暗に伝えようとしたのが半分」
ゴーン社長は、こうも言っていた。
「あれは、トヨタだけの問題じゃない。
日産やルノーにも教訓が多いし、突きつけられた問題は同じ。
だれかがこの場に乗じて、トヨタの顧客を奪ってやろうなどと
考えるのが、そもそもおかしい」
2月の米新車販売の実績をみると、トヨタは大手メーカーで
1人負けを強いられている。
他のメーカーの動き方はこの1カ月、2つに割れた。
日産などは、インセンティブと呼ばれる値引き販売には
あまり手をださなかった。
GMとフォード・モーターは、トヨタ車からの乗り換えを決めた
顧客に対し、1000ドル(約9万円)を値引きするキャンペーンを
大々的に実施し、シェア奪回を目指した。
競争だから仕方はない。
追い込まれている企業としては、当然かもしれない。
GMは、連邦破産法の活用で、有担保債務が大幅に軽減、
年金・医療費負担も減ってはいる。
経営危機の間に失われた顧客の数は、世界で数百万人、
それを取り戻すには何かきっかけをつくらないといけない。
同社再建には、米政府が低利融資やデット・エクイティー・スワップで
1兆円を超す資金をつぎ込み、失敗したらオバマ政権の出口戦略
そのものに影響が出る。
GMにとっては、なりふり構っていられない状態。
日産は、2010年3月期の営業利益が2900億円と、
当初の予想より1700億円も上の水準に行く。
新興国市場、特に中国大手と組んだ同国での合弁事業が好調、
米国市場への依存度は、逆に低下傾向。
ゴーン社長が、豊田社長に余裕の表情を見せたのも、
そうした経営状態を反映。
だが、こんな風にも考えられないか。
ハイブリッド車技術が弱い日産は、ハイブリッドの次をにらみ、
電気自動車へと一気にカジを切った。
年末には、トヨタに先んじて専用車「リーフ」の量産も開始。
トヨタの出方は、日産の命運を左右する可能性がある。
トヨタは、まだ電気自動車で明確な戦略を打ち出していない。
あらゆる先端技術で、蓄積が大きいトヨタの一挙手一投足は、
世界の自動車メーカーの命運をも左右。
リコール問題を克服し、電気自動車への戦略を明確にする時、
日産はインフラを含めた技術の標準化で
世界をリードしていけるのか?
そのカギを握っているのは、トヨタを合わせ、日本連合で
協力していけるのかどうか。
次世代技術を巡る思惑が、多分に絡んでいるとされるトヨタ問題。
米国はトヨタの勢いをそぎたいと考え、日本勢は困った時にこそ
良好な関係を築きたい——。
ダボスの社交の場は、そんな一端を浮き彫りにしていた。
http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan100312.html
0 件のコメント:
コメントを投稿