2010年3月21日日曜日

またひとつアジアに技術が流出した

(日経 2010-03-02)

液晶、プラズマと異なる日本発の新型薄型ディスプレー技術が、
製造ノウハウも含め、台湾に流出する。

開発したベンチャーが資金調達できず、事業化を断念。
同社は、国内メーカーなどに出資を要請、
どこも支援に名乗りを上げなかったため。

昨年、台湾政府などに相談、動画表示に優れた性能に注目した
台湾メーカーが、技術資産の買収を即決。
新市場に挑戦することに臆病になっている国内の大手メーカーは、
もう頼りにならないと、ものづくりベンチャーの視線は
アジアに向かうしかないのか−−。

このベンチャーは、エフ・イー・テクノロジーズ(FET)。
電子を蛍光体に当てて発光させる電界放出型ディスプレー(FED)
開発してきたソニーの技術者が、投資ファンドと組んで、2006年設立。

ソニーが、次世代薄型ディスプレーの事業化を、
有機ELに絞ったため、行き場所をなくした開発チームが
本社に直訴して起業した経緯。

FEDは、画素を作る最小単位ごとに電子を当てて映像を表現、
動きの速い動画像を鮮明に映し出し、高コントラスト比など
高画質を低電圧で実現。

液晶やプラズマが家庭用テレビなどの量産市場を開拓、
FEDはコストダウンや大画面化で液晶に劣るため、
高品質な画質を求めている放送局や画像クリエーター、
医療機器用モニターといった業務用ディスプレーとしての需要が期待。

FEDはキヤノン、東芝など大手も開発に取り組んでいたが、
根本技術である「表面伝導型」という電子放出源の特許を持つ
米企業とのライセンス供与が難航、事業化を挫折。

FETは、画素ムラを抑制するナノメートルサイズの
円すい状の突起物から電子が飛び出す独自技術を開発、
大手の苦戦を尻目にスピーディーな事業立ち上げ。

FETは、起業2年目の08年、プラズマパネルを生産していた
パイオニアの鹿児島工場の買収を表明、業界を驚かし、
09年、月1万枚(26型換算)規模で生産を開始、
年商250億円を目指すとの事業プランを発表、
「モノ作りベンチャー期待の星」として一躍脚光を浴びた。

このシナリオが狂ったのは、プラン表明直後に起きた米金融危機。
不況の波が日本に及び、100億円超とみられる
工場買収資金の出資をあてにしていた企業から相次ぎ見放され、
量産計画を断念。

09年、会社清算の手続きに入った。
経営陣は、「技術だけは何とか日本に残して、
日本発の新型薄型ディスプレーに日の目を見させたい」、
国内の電機メーカーなど新たなスポンサーを探していた。
だが、国内メーカーから色よい返事をもらえず、
FETは交渉先をアジアに広げた。

一番早く手をあげたのが、台湾の液晶大手メーカー、友達光電(AUO)。
AUOは、台湾内で既存の液晶パネル工場を活用、
年内にもFEDパネルの生産を始める見通し。

買収決断の背景には、技術や市場成長力への高い評価はもちろん、
FETの技術者と共同で事業展開することで、
初期から開発するコストが抑制され、
「(開発のための)時間を買う」ことができる「安い買い物」。

FETが試作品を公開してから、日本の放送局や映像機器メーカーなどが
相次ぎパネル採用を表明、これらの受注も獲得できるという、
したたかなそろばん勘定もうかがえる。

FET設立のため、ファンドを組成した先端技術投資会社、
テックゲートインベストメントの土居勝利代表は、
「金融危機後、国内から資金を集めるのが困難に。
ものづくりベンチャーへの投資は、製造設備など少なくみても
100億円が必要、事業化までに時間がかかる。
ネット系に比べ、投資対象としては敬遠されがち」

この間隙をついて、豊富な資金力を持つアジア勢が、
日本のベンチャーの技術資産買収に意欲、
背景には中国、韓国、台湾の新興ハイテクメーカーの
成長の原動力といわれる「ターンキー戦略」がある。

ターンキーとは、装置のカギを回して動かせば、
すぐに製品が出てくるという意味、
アジアの新興メーカーは株式公開で得た資金力を武器に、
製造ノウハウなど完成した技術を外部から導入、
高い投資効率で短期間に市場参入をなし遂げ、
日本企業の脅威。

技術開発を自社に頼る自前主義が強く、
経営の意思決定スピードが遅い日本企業にはまねできない芸当。
大手企業にはない独創技術を武器に、製造装置や材料開発に
取り組んできたものづくりべンチャーは従来、国内メーカーに
技術を売り込み、採用される成長シナリオを描いて頑張ってきた。
大手が、業績不振や再編で新規事業への挑戦に消極的、
こうした出口戦略が通用しにくい。

有望技術を持つベンチャーが生き残るため、
ターンキー経営を標榜するアジアメーカーにアプローチをする
流れは、もう止めようがない。

台湾政府が半導体、液晶に次ぐ新産業として、
LED(発光ダイオード)素子メーカー育成に乗り出して以来、
LED先進国の日本から製造技術を買いあさり、
台湾にLEDベンチャー設立ブームが起きた。

液晶テレビのバックライトや照明用に、白色素子で日本を追い抜き、
世界シェアトップの座をうかがう勢い。
ベンチャーの優れた技術の流出が、グローバル市場における
国内メーカーの競争力衰退の要因となった一例、
政府も経済団体も危機感は薄く、ものづくりベンチャー支援の
具体的な成長戦略を明確に描き出していない。

技術流出を防ぐナショナルプロジェクトの始動など、
対策を早急にとらなければ、半導体、液晶、太陽電池、
LEDと続く敗北の連鎖は止まらない。

日本のハイテク産業は、いま“ゆでカエル”現象になっている。
ゆっくり熱くなるお湯につかったカエルは、
油断しているうちにゆだってしまうとのたとえ。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon100301.html

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