2010年3月24日水曜日

三菱ケミカルが描く「新炭素社会」

(日経 2010-03-08)

「『低炭素社会』、『脱・炭素社会』という日本語は間違っている」−−。
三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長。
このコラムの否定にもつながりかねない発言だが、
彼の言い分はこうだ。

化学産業は、炭素を加工して付加価値の高い製品を作り出す、
いわば“練炭術”。
リチウムイオン電池も太陽電池も炭素繊維も、
温暖化ガス排出削減につながるイノベーションは、
すべて炭素を使った技術。
英語では、『Low carbon society』などとは言わない。
『新炭素社会』と言うべきでは

三菱ケミカルは、傘下の三菱化学を中心に、
石油化学事業に依存した事業構造から、
環境・エネルギーなど新事業に経営資源をシフト。

小林社長が目指す「新炭素社会」の三種の神器は、
「太陽電池」、「固体照明」、「リチウムイオン電池」

太陽電池では、後発の三菱化学だが、次世代の本命とされる
「有機薄膜太陽電池」の実用化に、メドを付けた。
有機薄膜とは、軽量で折り曲げが可能、
衣服や自動車の車体に張って使える。

現在主流の太陽電池の原料であるシリコンを使わず、
炭素や窒素など、安価な有機材料を原料に使うので、
将来の製造コストがシリコン系の10分の1程度。
光エネルギーを電気に変える変換効率の理論上の限界が
36%と、シリコン系の29%より高い。

三菱化学は、東京大学と共同で、
変換効率で世界最高レベルの7.4%を達成。
電池の寿命も、10年以上を実現。

光を受けて電子を放出する有機材料と、「フラーレン」と呼ぶ
球状炭素分子を電極で挟んだ構造。
2010年度中に、実用化レベルの10%の変換効率を目指し、
12年度にも商品化する計画。
これまでの世界最高は、住友化学の6.5%。
実用化に向けて開発競争が加速。

三菱化学は、有機薄膜太陽電池の実用化を待たずに昨年、
太陽電池事業に参入。
他社からシリコン系太陽電池を調達し、発電システムの設計や
施工まで手がけるシステム・インテグレーター事業

4月から、アモルファスシリコン太陽電池を組み込んだ
屋上の防水シートや外壁用のアルミ建材も販売。
「本命の薄膜太陽電池が出てくるまで、様々な用途を開拓する」と
星島時太郎執行役員は狙い。
15年度、500億円の売り上げ目標を掲げる。

個体照明は、LED(発光ダイオード)照明と
有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)照明という、
2つのキーデバイスを持つ二正面作戦で展開。

高効率の白色LED素子を武器に、今春から欧米で
照明器具事業に参入。
有機EL照明は、基礎技術を持つパイオニアに出資し、
共同開発で11年中の量産を目指す。

リチウムイオン電池は、正極材、負極材、セパレーター、電解液
という4つの主要材料を持つ世界唯一の企業であることを強みに、
環境車向けの電池開発を加速。

「低炭素」、「脱・炭素」という言葉は、地球温暖化ガスの象徴である
CO2排出削減や化石燃料への依存脱却をうたったもの。
人間の体にも、自然界のほとんどの物質にも、炭素は含まれ、
日々の生活や文明の進化には必要不可欠な元素。

小林社長の「脱・炭素という言葉への違和感」を紹介。
これからは、炭素をうまく活用する知恵が
地球温暖化にストップをかける技術や事業を生み出し、
強い企業を作り上げるのだろう。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/tanso/tan100305.html

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