2010年9月18日土曜日

外国人看護師 試験の見直しはまだ不十分

(2010年9月7日 読売新聞)

国と国の約束で受け入れを決めた以上、漢字を読めないことが
障壁となっている現状は、政府の責任で改めなければならない。
引き続き、改善策を探るべきだ。

厚生労働省の検討会が、外国人の受験者でも
試験問題を理解できるよう、看護師の国家試験を見直す指針。

見直しのきっかけは、経済連携協定(EPA)に基づいて、
インドネシアとフィリピンから受け入れた看護師希望者の
試験合格率が、極端に低かったこと。
1年目は1人も合格せず、2年目の合格率もわずか1%。

「漢字の読解能力で不合格、というのはおかしい」という批判が高まり、
厚労省が3月から見直しを進めていた。

新たな指針では、病名には英語を併記し、カルシウムは「Ca」など、
国際的に認定されている略語を記載。

EPAで来日した人たちは、母国で看護師の資格を持っている人たち。
英語や略語の併記は、助けとなる。

指針は、難解な漢字にルビを振ることも容認、
床ずれの意味の「褥瘡」や、あおむけの「仰臥位」など、
医療・看護の専門用語は対象外とした。
平易な表現への言い換えも見送った。

日本看護協会が、重大な医療事故を防ぐには、
日本人スタッフとの意思疎通のため、専門用語の漢字読解能力が
不可欠と主張、検討会もこれに沿った形。

医療上の安全を確保するのは当然だが、日本人でも読めないような
漢字にルビを振ることも、許されないのか。

新指針は、来年2月の試験から適用。
問題は、これに不合格なら、帰国を余儀なくされる人たちが
100人近くいること。

本来なら、見直しが十分かどうか検証してから実施すべき。
再来年も受験可能とするなど、特例措置の検討も必要。

医療や介護の人手不足は依然、深刻。
意欲も能力もある人材を、「漢字の壁」を設けて
締め出すべきではない。

政府は、がん検診などの分野で、外国人患者を日本の病院に
積極的に受け入れていく方針。
英語を話せるフィリピン人看護師などは、
外国人患者とコミュニケーションを図る上で役立つ。

看護師や介護福祉士の受け入れは、ベトナムやタイも求めており、
いずれEPA改定の議論が出てくる。
最初の受け入れでつまずくことのないよう、
政府は受け入れ環境の整備に努めてほしい。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/7/125192/

学習塾は今(3)IT駆使 指導を効率化

(読売 9月8日)

終わったばかりのテストの答案用紙が、
次々にパソコンに取り込まれていく。

中学進学塾「日能研」の十日市場校。
スキャナーを前に、教室スタッフがしていたのは、
06年導入した「DI(デジタルイメージ)学習支援システム」の入力作業。

スキャンした答案用紙の原本は、その場で子どもたちに返され、
テストに向き合った気持ちが残っているうちに、
ふり返りをすることができる。
デジタル化された答案は、採点スタッフに転送され、
早ければテストの翌日に、結果が専用サイトにアップ。

塾生は、自宅のパソコンで、コメント入りの採点結果のほか、
他の塾生の模範解答も見ることができる。

日能研は、中学受験専門塾として全国に拠点を構える唯一の塾で、
教室数は135に上る。
従来にない「DI」の新技術は、日能研が進める教育の独自性を
より鮮明にするためのツール。
「塾生の弱点や解答方法の癖などを詳細に把握でき、
的確な指導をするのに役立っている」(日能研広報部)。

教育理念に掲げるのが、「高等教育へつながる学び」。
高木幹夫代表(56)は、「志望校合格のための支援はもちろん大切だが、
中学進学後にさらに意欲を持って自ら学び続けることのできる、
伸ばす教育が根底にある。
志望校に合格したものの、中学段階で燃え尽きてしまっては
元も子もない」

弁当を2個持参して、塾に通う――。
日能研は、かつては授業時間が長いことで知られていた。
今は、他の中学進学塾と比べてもさほど変わらない。
小学6年生は、3時間半の授業が週に3日から4日、
日曜日に約3時間のテストが加わるが、もっと長い大手塾もある。

「受験勉強は、教室で行うことを基本に、学習指導は全般的に
塾に任せてもらう」と、日能研の広報。
宿題は出さない。
復習用の家庭学習用テキストは渡すが、
自主的に取り組んでもらう程度。
この結果、子どもたちは家で長々と勉強しなくてもいい。

「長い短いで、良しあしをはかれるものではない。
指導方針に沿って全体のシステムを考え、
必要な時間を確保してプログラムを組む。
それを実現するための仕掛けが、IT」と同広報。

ITを使って苦手分野を把握し、適切な教え方を見つけ出す。
受験指導の効率化が、加速度的に進んでいる。

◆メモ

近年、大手塾を中心に、ITを活用した指導が活発化。
インターネットやDVDを使い、自宅で授業を引き出せる
ビデオ・オン・デマンド(VOD)方式の映像授業をはじめ、
ネットを利用したテレビ電話を通じて、離れた教室にいる講師と
やりとりするシステムなども。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100908-OYT8T00376.htm

2型糖尿病、日本人発症リスク1.2倍 東大チーム、遺伝子を発見

(2010年9月6日 毎日新聞社)

小太り程度でも、日本人が欧米人に比べ、
2型糖尿病を発症しやすくなる遺伝子を、
門脇孝・東京大教授(糖尿病学)の研究チームが発見。

この遺伝子に変異があると、発症の危険性が1・2倍高くなる。
早期発見や予防薬開発に役立つと期待。
5日付の米科学誌ネイチャージェネティクス(電子版)に発表。

2型糖尿病は、運動不足や食べ過ぎなど生活習慣が引き金となり、
国内で約890万人いる患者全体の大半。

研究チームは、糖尿病患者約4500人と健康な人約3000人の
遺伝子を解析し、糖尿病と関係のある二つの遺伝子を発見。
「UBE2E2」と呼ばれる遺伝子では、遺伝子を構成する塩基配列が
健康な人と異なると、糖尿病の危険が1・2倍高くなると推定。
日本人患者の15%がこのタイプと考えられる。

他国の遺伝子データを調べたところ、韓国や香港などでは
同様の関係が認められ、フランスやデンマークでは糖尿病と関連がない。

東洋人は、欧米人のように明白な肥満でなくても発症する人が多い。
血糖値を制御するインスリンの分泌量が、欧米人の半分しかなく、
今回の遺伝子は、インスリンを分泌する細胞内で働いている。

門脇教授は、「東洋人が糖尿病になりやすい体質を持つ理由を、
遺伝子で初めて説明する成果。
今後、遺伝子が働く仕組みを解明し予防薬開発に貢献したい」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/6/125053/

2010年9月17日金曜日

うつなどで損失2.7兆円 「企業の対応、不十分」復職支援医師ら訴え

(2010年9月7日 毎日新聞社)

自殺やうつ病による経済的な損失が、09年で約2・7兆円に上る
との厚生労働省の発表について、自殺者の遺族から、
「人の命をお金に換算しないと、重大さが伝わらず、
世の中が動かないのは悲しい」との嘆き。

うつ病で、仕事を失ったり休職した人たちは、
復職を支援する精神科医の下で、懸命にリハビリを続ける。
現場の医師は、「この数字は決して大げさではない」、
「復職に向けた企業側の協力が不十分だ」と問題点を指摘。

港区にある精神科診療所「メディカルケア虎ノ門」。
午後8時の診察終了間際になっても、
待合室にはスーツ姿の男性患者が目立つ。

同院が治療に加え、復職支援に取り組み始めたのは、05年。
五十嵐良雄院長は、「働き盛りの30代を中心に、
うつで休職しなければならない人が増えてきたことがきっかけ。
症状が落ち着いて復職しても、すぐに休職する患者も多く、
『なんとかしなければ』と思った」

早期の復職を焦る患者が多い一方、長期休職後の復職で
出勤するだけで疲れてしまったり、同僚とうまくコミュニケーションが
とれずに再び休職に追い込まれるケースも。

患者はプログラマーや公務員、医師などあらゆる職種に及ぶ。
「憂うつだけど、早く治して出社したい」、
「今度は確実に復職したい」。
その訴えは切実。

復職支援のプログラムはまず、心理療法やストレッチなどの
簡単な運動をして体を慣らす。

徐々に回復すると、職場の業務に近い作業をこなしながら
職場復帰の準備を進める。
こうした医療機関は全国で増え始め、80カ所に上る。

五十嵐院長は、「復職後、すぐに残業させられる患者もいる。
企業側の職場復帰の取り組みは不十分。
主治医が職場の労働環境を把握できるようにしたり、
会社と連携して復職支援を進める必要がある」

働き盛りの夫を亡くした家族も、職場の支援の必要性を訴える。
大阪市の女性(40)の夫は、社員約100人の建設コンサルタント会社
に勤め、01年、河川事業の仕事から未経験のダムの担当に
換わった約2カ月後、34歳で自ら命を絶った。
忙しさから健康診断を受診せず、精神科にも通院していなかった。

女性は、「お金に換算しないと、重大さが伝わらないのは悲しい」と
嘆きつつ、「うつ病の早期発見だけでなく、
企業は発症させないための職場環境づくりにも力を入れ、
行政はそれを支援してほしい」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/7/125202/

学習塾は今(2)低学年から「囲い込み」

(読売 9月4日)

全国一斉に実施された「全国統一小学生テスト」。
主催した中学進学塾「四谷大塚」のお茶の水校舎に、
朝早くから小学生が続々と詰めかけた。
中には、保護者に手を引かれた低学年の児童も。

「さあ、競争だ。」という宣伝コピーで、07年11月に始まった
受験料無料のこのテストは、学力上位者の発掘と受講生集めが目的。
首都圏の直営校19校と提携塾約500校のほか、
全国の500余りの塾が会場提供などで協力。
6回目の今回は、全47都道府県の約2000会場で、
小学2~5年生の計約9万1000人が受験。

四谷大塚を運営する「ナガセ」(武蔵野市)
市村秀二・上級執行役員広報部長(48)は、
「横並びの公教育では、有能な人材は発掘できない。
競争に勝ち抜き、社会に貢献できる未来のリーダーを
育てるのが、塾の役目。
全国統一テストは、それを広くアピールする挑戦でもある」

テストの成績上位者には、夏休みアメリカ名門大学訪問ツアーや
iPadなど様々なごほうびを用意し、将来の夢を見つける手助けをする。
一定以上の成績を上げた者は、入塾テストを免除し、
直営校に通えない場合、映像配信授業を提携塾で受けてもらうなど、
様々な方法で囲い込みを図る。

小学校低学年に力を入れる中学進学塾が、
10年ほど前から大手を中心に目立っている。
受験に備え、学習習慣や学びへの興味を早くから
身につけさせるのが狙いだが、懸念も少なくない。

「公立不安から、子どもの将来を考えると中学受験かと思うが、
親が誘導していいのか迷ってしまう」(小2男子の40歳父親)、
「競争から刺激を受け、能力を伸ばしてほしい。
でも、娘が受験に向いているのかどうか……」(小3女子の37歳母親)。
テスト会場で、塾生以外の父母を対象に開かれた説明会では、
戸惑いを漏らす保護者もいた。

塾・予備校産業に詳しい「大学通信」
安田賢治・情報調査・編集部ゼネラルマネージャー(54)は、
小学校低学年からの囲い込みは、少子化や業界の再編を
背景にした塾の経営戦略。
早期序列化によって、本人の意思に反した進路や
無意味な挫折を招く危険性もある」。

◆メモ

予備校の東進ハイスクールを運営するナガセが2006年、
四谷大塚を買収。
通信教育のベネッセホールディングスも、07年までに、
予備校のお茶の水ゼミナールと、東京個別指導学院を買収。
昨年から今年にかけ、サピックス小学部と同中学部・高校部の
運営会社が、代々木ゼミナールのグループ傘下に入るなど、
業界のM&A(企業の合併・買収)が本格化。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100904-OYT8T00230.htm

異種動物の体内で臓器作製 受精卵にiPS細胞注入 移植への応用に一歩

(2010年9月3日 共同通信社)

さまざまな細胞になる能力があるiPS細胞を使い、
マウスの体内で、異種の動物であるラットの膵臓を作ることに
成功したと、東京大医科学研究所の中内啓光教授ら
3日付の米科学誌セルに発表。

この方法を応用すれば将来、動物の体内で人間の臓器を作り、
臓器移植に使える可能性がある。

中内教授は、「試験管の中で臓器を作ることは難しくあきらめていたが、
動物の体内で、しかも種を超えて臓器ができた。
入り口の段階だが、臓器作りは夢ではなくなってきた」

チームは中内教授、科学技術振興機構の小林俊寛研究員ら。
マウスやラットなどの受精卵は分割を繰り返し、
3、4日後には「胚盤胞」という状態に。

中内教授らは、遺伝子操作で生まれつき膵臓がないマウスを作り、
その胚盤胞の内部に、正常なラットから作ったiPS細胞を注入。
これを、代理母のマウスの子宮に移植。

生まれたマウスには、ラットの膵臓ができていた。
欠損した臓器が、iPS細胞由来の細胞によって補われた。
こうした方法は、「胚盤胞補完法」と呼ばれている。

マウスは、成体まで発育し、体内のラットの膵臓は
インスリンを分泌するなど正常に機能。
ラットの胚盤胞に、マウスのiPS細胞を注入する方法でも子が生まれた。
ラットとマウスという異種の細胞が、全身に混じり合った
キメラの作製は世界初。

現在、iPS細胞を使う再生医療は、臓器の作製よりも、
損傷した臓器や組織を分化させた細胞で修復する
細胞治療の研究が主流。

マウスの体内に、ラットの膵臓を作るという方法を、
人間に応用するには技術的、倫理的な課題解決が必要。

今回は本来、マウスの膵臓ができるべき場所にできず、
そこを埋めるように、胚盤胞に注入したラットのiPS細胞から
膵臓が作られた。

受精から間もない胚盤胞と、分化が進んでいないiPS細胞は、
似たような段階にあり、その組み合わせにより、
組織が形成される発生の過程を利用して、臓器作製を実現。

大型動物での実験を経て、最終的にはブタの体内で
サルの臓器を作り、人間にも応用できることを示したい。

この方法では、人間のiPS細胞を異種の動物の胚に注入し、
混ざり合って正常に成長する能力(キメラ形成能)が不可欠。

先行する胚性幹細胞(ES細胞)の研究結果から、
現時点では、人間のiPS細胞はキメラ形成能を持たないと予想、
技術的な課題となる。

クローン技術規制法に基づく指針では、
人間のiPS細胞を入れた動物の胚を、人や動物の子宮に
移植することは、人間と動物のキメラ作りにつながるとして禁止、
倫理的課題もある。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/3/124904/

2010年9月16日木曜日

学習塾は今(1)中学受験「先取り」対策

(読売 9月3日)

「入試まであと半年、暑さに負けず気を引き締めていこう」。
講師の呼びかけに、子どもたちが真剣な表情になる。

小学校が夏休みに入って間もない、7月26日。
学習塾「サピックス小学部」東京校の小学6年生クラスでは、
この日から夏期講習が始まった。

サピックス小学部は、首都圏1都3県に41教室を展開、
開成、麻布、桜蔭など、「男女御三家」をはじめとする
難関校に強い、と定評のある中学受験専門塾。
最近は、不況などで教育費を抑える傾向が強まっているが、
この塾では1989年の創設時以来、定員割れしたことがない。

指導の特徴は、「先取り教育」を徹底している点。
全学年、オリジナルのテキストを使い、通常は小学4年から
5年の末までに、小学校で習う単元を学び終える。
6年生は、志望校の過去問(過去に出された問題)に取り組むなど、
受験対策に集中する。
授業は、平日2日の午後5~9時で80分が3コマ、
土曜日は午後2~7時で75分が4コマ。
9月以降は、日曜日のクラスが加わる。

「中学入試で出題される問題は、小学校で学ぶ内容とは異なる。
早くから難問への挑戦を積み重ねていく中で、
論理的思考力や記述力、表現力を高めていくことは、
特に難関校受験には不可欠。
家庭学習を重視し、他の塾に比べるとゆとり授業です」、
同小学部教育情報センターの広野雅明部長(43)。

中学受験のための先取り教育は、入試問題が特殊な
難関校受験のため、大半の大手塾で導入。

とはいえ、小学校での学びに悪影響を与えるとの見方も根強い。

学習塾の教育に詳しい白鴎大学の結城忠教授(65)は、
「初めて知る時の疑問や感動などが、学ぶ面白さにつながっていくもの。
塾で先に学んでいると、小学校での授業に新鮮味が持てず、
学ぶ意欲の低下を招きかねない」

東京学芸大学の三石初雄教授(62)は、
「算数だと、なぜ通分しなくてはいけないのかなど、
原理やしくみを含めて教えることを重視。
塾で、すでに暗記的に頭に入れていると、先々まで興味を持って
勉強を続けていく姿勢に支障が出る可能性がある」と懸念。

中学進学塾を中心とする学習塾では、どんな教育が展開され、
子どもたちはどう学んでいるのか?
様々な塾の現状を紹介する。

◆メモ

日能研進学情報室によると、首都圏1都3県の中学受験者を
小学6年生の人数で割った受験率は、ゆとり教育への不安を
背景にした2000年(13.0%)から上昇。
今年は、20.3%(前年比0.9ポイント減)と減少に転じたが、
私立中高一貫校を中心に受験熱は続いている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100903-OYT8T00191.htm

難病・障害の子、地元の学校へ…大阪、進む「医療的ケア」

(2010年9月3日 読売新聞)

難病や障害を抱え、たんの吸引などの「医療的ケア」を受けながら、
健常者と地元の小中学校に通う児童・生徒が、大阪府内で急増。
府が、独自で看護師資格を持つ介助員を配置したため、
今年度は計109人と、制度開始時の3倍。

全国的には同様の児童は、7都県で29人しかいないことも判明。
医療的ケアを巡る地域格差が浮き彫りになった形で、
支援者グループは、「特別支援学校だけでなく、
誰もが健常者と一緒に学べる環境を整えてほしい」と訴えている。

医療的ケアは、〈1〉たんの吸引、〈2〉経管栄養、〈3〉導尿補助、
の三つの介助行為で、医師や看護師、保護者が行える。

厚生労働省は2004年、看護師が配置された特別支援学校に限り、
看護師の指導による教員の実施を認めた。
府は、医療的ケアが必要な児童が、地元学校への就学を
望むことが多いことから、06年、看護師資格を持つ介助員を
一般の学校に配置する制度を導入。
初年度の利用者は、14市町で36人。

府内では、健常者と同じ学校に通う児童が今年度、
豊中市で16人、吹田市で11人、堺、箕面、茨木市が各7人など、
25市町で109人に増えていた。

豊中市では、市立豊中病院と連携して救急搬送に備え、
同病院の松岡太郎・小児科部長は、
「医療的ケアは、適切に行えば誰にでもできるが、
地域の病院などのバックアップ体制が重要」

大阪府以外の都道府県には同様の制度はなく、
市町村単位で介助員を配置するケースがあるものの、
利用者は仙台市の11人や埼玉県東松山市の4人など、
全国15市町で計29人。

医療的ケアを巡る支援態勢の遅れについて、
東北地方の担当者は、「地元学校を望む児童が増えれば、
財政負担も増える。介助員の確保も難しく、対応しきれないのが実情」

「人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)」(箕面市)の
折田みどり事務局長は、「地元学校の教員にも、
一定の条件下で医療的ケアの実施を認めるなど、
国レベルの支援態勢を検討すべきだ」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/3/124935/

セカンドキャリア:シンクロ五輪銅メダル・田中さん、引退選手の「第二の人生」支援

(毎日 9月1日)

シンクロナイズドスイミングの88年ソウル五輪銅メダリスト、
田中ウルヴェ京(みやこ)さん(43)が、引退したアスリートの
セカンドキャリア(第二の人生)支援事業に取り組んでいる。

これまでもセミナーなどで指導していたが、
今回新たに奨学生制度を導入。
書類選考や面接を通過した元アスリートの、
民間資格の取得費用を負担する。

日大4年でメダリストとなり、卒業とともに現役を引退した田中さん。
「メダルを取ることがすべて。
その先のことは何も考えていなかった」と振り返る。
シンクロ指導の傍ら、留学した米国の大学で学んだ心理学で、
目からうろこが落ちた。
アスリートに対するセカンドキャリア支援が確立されていたから。

「自己をどれだけ認識できるかがカギ」と田中さん。
元アスリートは、ずっとスポーツに打ち込んできたため、
同年代の人々と同じ仕事のスキルがあるとは限らない。
過度なプライドを持ったまま就職すると、
「なぜメダリストがこんな仕事をしなくてはならないのか」との
失望感を抱く羽目に。

アスリートや一般人を問わず、そんなストレスへの対処法が
「コーピング」。
「問題に対処する」という意味の英語「コープ(COPE)」が語源、
田中さんが留学した米国では広まっているが、
日本ではまだなじみが薄い。
田中さんは、06年から独自にそのコーチを認定、養成。

これまでは主に、コーピングを通してセカンドキャリアを支援、
「実際の職を用意することも必要」と、
コーチへの道を開く奨学生制度を導入。
コーピングコーチ資格取得(約21万円)のほか、
米ネバダ州立大認定のピラティス指導者資格取得(約32万円)の
費用を全額負担するコースも。

対象は、国体か全国高校総体以上の出場経験を持つ
35歳以下の元アスリート。
毎年2回の募集を予定、今回の締め切りは今月15日。
田中さんは、「何かに打ち込んだ経験がある人は、ポテンシャルも高い。
次の人生を切り開くきっかけとして、この制度を利用してほしい」

問い合わせは、MJコンテス(03・3447・2890)へ。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/09/01/20100901dde035050065000c.html

2010年9月15日水曜日

外国人研究者に手厚い支援制度 ドイツ、ポスドク30歳で研究室主宰

(毎日 8月10日)

イノベーション(革新)を目指し、「知の大競争」が
世界規模で繰り広げられる中、優秀な研究者の獲得に
各国がしのぎを削っている。
日本と同様、科学技術を基盤とした国家の成長戦略を描き、
「人材の国際化」を進めるドイツの首都ベルリンで、
一人の日本人研究者と会った。

◆1億8000万円支給

「この年で自分の研究室を持てるなんて、日本では考えられなかった。
ドイツでは、外国人にもチャンスがある」

ポストドクターとして、ベルリン工科大化学科で研究する井上茂義さんは、
30歳になったばかりの今年12月に研究室を作る。
ポスドクの立場で研究室を主宰することは、日本ではありえない。

資金は、独政府の研究資金を外国人研究者に配分している
「アレクサンダー・フォン・フンボルト財団」が支援。
井上さんは、同財団の若手向け支援プロジェクトに応募、
日本人で初めて選ばれた。
研究室の運営費として、5年間で165万ユーロ(約1億8000万円)支給。

井上さんは、福島県新地町出身。
筑波大で理学博士号を取得後、日本学術振興会の海外特別研究員に
選ばれ、ドイツへ渡った。
「日本では博士号を持っていても、終身の研究職に就くのは難しい。
キャリアアップするには、外国に出る方がいい」

ドイツに決めたのは、先輩の勧め。
テーマは、ケイ素を使った新規化合物の研究。

◆奨学金、家族手当も

実際に訪れて、支援の手厚さに驚いた。
フンボルト財団からは、生活費として月額約25万円の奨学金に加え、
家族手当、国内外への旅費、ドイツ語講座の受講費まで支給。
支援は2年間、その後は新たに獲得した運営費から自分の給与が出せる。

大学院生として同じ研究室に所属する妻、知香さん(28)には、
研究室から月約15万円の「報酬」が出ている。

井上さんは、「設備は日本の一流研究室に劣るが、
研究に専念できる環境が整っている
週末は学内のエレベーターが止まるなど、研究者たちの働き方は
全体的にのんびりしている。

「でも、論文発表のペースは落ちていない」
研究室の顔ぶれも多様で、約25人の出身国は米、スペイン、
中国など10カ国以上に上る。

12月に作る研究室は、5年間の期限付きだが、
成果を出せば、大学で終身ポストを得られる可能性も。

「いずれ日本に帰って研究したいと思っていたが、
今の生活は充実しているし、将来も見えてきた。
ドイツに残るのもいいかなと思い始めている」

◆国際化に本腰

ドイツの大学は、留学生や外国人研究者を積極的に受け入れ、
活性化を図っている。

有力な公立大学の一つ、ベルリン自由大は07年、
国際化促進に関する重点モデル校に指定。
学生(約3万2500人)の外国人比率は15%、博士課程では25%。
国際基準に合わせたカリキュラム改革など、
毎年2000万ユーロ(約22億6000万円)の特別予算が配分。

学内の「ウエルカムセンター」は、外国人の大学院生を
家族ごと支援する拠点。
家や保育所探し、外国人登録の申請などの相談に応じる。

自然科学分野の博士号取得を目指す院生には、
ドイツ語ができなくても、英語だけで研究できる体制を整え、
イスラム教徒から要望が強かった礼拝室の設置まで検討する徹底ぶり。

北京やニューデリー、モスクワなど海外7カ所に事務所を開設、
研究者が地元の学生や研究者をスカウトする活動も始めた。

同大国際協力センターのヘルベルト・グリーショップ副センター長は、
潤沢な研究資金を得るには、海外とのパートナーシップが
欠かせないが、留学生や外国人研究者を受け入れることによって
人脈ができる。
国際化を進め、世界の注目を集める大学にしたい」

◇日本は受け入れ体制に課題 長期滞在は研究者の1.3%

文部科学省によると、日本の研究機関(大学含む)が受け入れた
外国人研究者は、07年度で約3万6000人、
3分の2は「30日以内の短期滞在」。

腰を落ち着けて研究する外国人は約1万1000人、
研究者全体の1.3%に過ぎない。

大学教員の外国人比率は3.5%(07年度)、
米国や英国が20%近いのに比べると、極めて低い。

第3期科学技術基本計画(06~10年度)は、
イノベーション実現のための人材育成に力点を置いており、
「外国人研究者が活躍できる環境整備」は、その大きな柱。

日本学術振興会は、日本への渡航費や滞在費(月額36万2000円)
などを支給する「外国人特別研究員」制度を、
今年度は300人分用意して呼び込みに懸命。

しかし、組織で回覧される文書が日本語だったり、
図書館での検索システムや職員が英語に対応できないこと、
住居など、受け入れ体制には課題が多い。

文科省は解決のため、子どもの教育や配偶者の職探しなど、
外国人研究者の生活環境整備事業に2億円を昨年夏、
10年度予算の概算要求に盛り込んだ。

その後の行政刷新会議の事業仕分けで、
「各大学がやればいい」、「効果が期待できない」などの
意見が出て「廃止」判定、予算化を断念。

各国の科学技術政策に詳しい角南篤・政策研究大学院大准教授は、
「競争に勝つため、国際化は避けられない。
地域として外国人をどう受け入れるか、という点も含め、
外国人研究者の生活環境整備は重要だ

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20100810ddm016040119000c.html

コレステロール値 「高い方が死亡率低い」

(2010年9月3日 毎日新聞社)

動脈硬化の原因の一つとされるコレステロールについて、
日本脂質栄養学会(理事長=浜崎智仁・富山大学和漢医薬学
総合研究所教授)が、「総コレステロール値または
LDL(悪玉)コレステロール値が高い方が、総死亡率が低い」とする
研究成果をまとめた。
第19回日本脂質栄養学会で発表。

日本では、狭心症などの持病がない場合、
血中のLDLコレステロール値が140mg以上で、高脂血症と診断。
日本動脈硬化学会が07年に定め、
厚生労働省や多くの医療現場が基準値として採用。

浜崎教授らは、東海大学が伊勢原市の老人基本健診受診者
(男性8340人、女性1万3591人)を、平均7・1年間追跡した
調査などを分析。

男性では、LDLコレステロール値が79以下の人より、
100~159の人の方が死亡率が低く、女性ではどのレベルでも
ほとんど差がないとの結果。

茨城県などが、冠動脈疾患や脳卒中の既往歴のない男女約9万人
(40~79歳)を対象、平均10・3年間追跡した調査でも、
冠動脈疾患死とコレステロール値との因果関係はみられなかった。

脂質栄養学会は昨秋、浜崎教授を委員長に、
「長寿のためのコレステロールガイドライン策定委員会」を設置。
「特別な場合を除き、動脈硬化性疾患予防に、
(コレステロール値)低下目的の投薬は不適切」などとする内容を
盛り込むことを検討。

特に、投薬治療を受けている患者の約6割を占める女性は、
閉経後に30~40mgは上昇するとされ、
基準値に男女差がないことも問題視。

今後、各方面の意見を聴き、来年度に学会として
正式なガイドラインを発表する予定。

浜崎教授は、「日本でコレステロール値を下げる薬の売り上げは、
年間約2500億円。
関連医療費も含めると、7500億円を上回る。
この中には、多額の税金も投入され、無駄と思われる投薬はなくすべき

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/3/124948/

インサイド:ユース五輪 未来への礎/5止 「本家」改革の試金石

(毎日 9月4日)

ユース五輪(シンガポール)では、将来の五輪改革につなげようと、
競技内外で実験的な試みが行われた。

若者のスポーツ離れを防ごうと、遊びの要素を取り入れた
3人制バスケットボールのスリーオンスリー。
メダル争いによる勝利至上主義に陥らないよう、
国や地域を超えて男女混合チームの種目を採用した
トライアスロンや柔道などは、そのいい例。

◆混合種目に好意的

ユニークな種目を実際に観戦して回ったIOCジャック・ロゲ会長は、
「スリーオンスリーはとても興奮する。
ルールも分かりやすい」と評価。

五輪で採用することには、選手の人数が増えて肥大化につながる
可能性もあるため、まだ慎重姿勢だが、
国や地域を超えた男女混合種目は、「とても面白い。
将来の夏季五輪に加えることも考えている」と好意的。

競技外での文化・教育プログラムについても、
「五輪に組み込めるものも、あるのではないか。
異なる年代に、どう適応させるかを考えなければ」と
実現の可能性を感じさせた。

ロゲ会長の思いを、五輪開催を控える関係者は
どう受け止めているのか?

12年ロンドン五輪組織委員会のセバスチャン・コー会長は、
「改革を恐れてはいけない。
私たちは、時代と共に変化しなければならない」と賛同。

12年の第1回冬季ユース五輪(オーストリア・インスブルック)では、
ノルディックスキーで女子ジャンプが採用。
本家の五輪では、競技人口不足などで慎重論が強いが、
試験的な実施で成果を見極めようと、改革は進んでいる。

16年リオデジャネイロ五輪組織委員会のカルロス・ヌズマン会長も、
「五輪の原点を見つめ直す趣旨には賛成だ。
教育を大事にする理念も素晴らしい」、
「未来のオリンピアンは、シンガポールから生まれる。
すべての選手に、リオはドアを開いて待っている」と笑顔。

◆消えない政治の壁

今大会は、選手村などの競技外だけでなく、
試合の場での交流も話題に。

近代五種の男女混合リレー種目では、米国の男子選手と
キューバの女子選手が、国家間の政治対立の壁を越えてペアを組み、
笑顔で健闘をたたえあった。

テコンドー男子48kg級決勝では、
イラン選手が準決勝での負傷を理由に棄権。
決勝の相手、イスラエル選手の側は、政治的対立を理由に
戦うのを拒んだと訴えた。
真相は不明だが、後味の悪さが残り、
政治とスポーツの壁が完全には消えていないことも実感。

トップ選手の参加方針も、国ごとに対応は分かれたが、
日本オリンピック・アカデミー(JOA)理事で、五輪運動に詳しい
首都大学東京の舛本直文・大学教育センター教授は、
「ユース五輪は、IOC委員になるような国際的視野を持った
アスリートを育成する場になるだろう。
日本のトップ選手も、高い意識を持って参加してほしい」と期待。

大会そのものだけで、ユース五輪の価値は測れないだろう。
将来を担う若者たちが、2週間の経験を財産に変え、
どう生かしていくか?

この大会を経験した“若きオリンピアン”が、五輪改革に携わるころ、
本当の評価がなされるはずだ。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100904ddm035050066000c.html

2010年9月14日火曜日

スポーツ政策を考える:黒須充・福島大教授(スポーツ社会学)

(毎日 9月4日)

文部科学省がまとめた「スポーツ立国戦略」の方向性は
間違っていない。

客観的なデータに裏付けられた政策にはなっていない。
政策立案を、調査研究という側から支援していかねばならない
我々大学関係者にも責任がある。

立国戦略では、私が調査研究を続けている
総合型地域スポーツクラブを中心にした環境整備が、重点戦略の一つ。
その社会的な効果を検証、評価することが急務になっているが、
客観的なデータが整理されていない。

そのことに、じくじたる思いがあり、
今回、ケルン・スポーツ大学のクリストフ・ブロイアー教授が
ドイツのスポーツクラブの公共性を具体的、客観的なデータで
証明している報告書を翻訳。

タイトルは、「ドイツに学ぶスポーツクラブの発展と社会公益性」(創文企画)。

彼の調査研究のベースになっているのが、「正当化のための知」。
クラブは、公的な支援という恩恵にあずかっているのに対し、
商業的なスポーツ施設は、なぜ同様の恩恵を受けられないのか。

その問いに対し、彼は具体的なデータで答えている。
州や市町村などからの助成金は、ドイツ全体で年間5億ユーロ。
納税者として、年間8億2000万ユーロを納めている。
差し引き、3億2000万ユーロ(約350億円)、
クラブが経済的な主体として社会に存在していることが分かる。

スポーツ参加の機会を提供しているだけでなく、
移民の社会的統合、健康増進や雇用につながる場の提供、
青少年の社会教育、女性の社会参加などの面でも
クラブの存在は大きく、さまざまな社会政策の中で
重要な役割を果たしている。

ドイツにおけるクラブは、参加しない第三者、社会全体に対しても
公共の福祉を促進するという社会公益性を有している。

クラブを通したスポーツ活動は、単なる私的な活動ではなく、
社会的な機能を持っている。

日本では、総合型クラブに限らず、スポーツの正当性が
確立されていない。
政策立案に関しても、具体的な数値で国民を説得できるだけの
科学的なアプローチがまだ弱い。

今回の立国戦略の弱点で、今後、具体的なデータに裏付けられた
政策になっていないという問題を、どう解決していくか。
クラブ先進国であるドイツから学ぶ点は多い。

社会全体でスポーツを支える基盤の整備、全国民がスポーツする
機会を享受する社会の実現を、国任せにするのではなく、
その一翼を地域のクラブが担うというシナリオを描いていく。

実現は難しいだろうが、その目標に向かって努力していくことで、
クラブは「新しい公共」の担い手になることができる。
==============
◇くろす・みつる

1958年生まれ。筑波大大学院修了。
NPO法人クラブネッツ理事長として、
全国各地の総合型クラブを訪れ、アドバイスを行っている。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/09/04/20100904dde035070042000c.html

基礎研究か課題解決型研究か

(サイエンスポータル 2010年9月6日)

日本学術会議が勧告「総合的な科学・技術政策の確立による
科学・技術研究の持続的振興に向けて」 をまとめ、
金澤一郎会長から菅直人首相に手渡された。

「科学技術基本法」の見直しを求め、同法の対象から外されていた
人文・社会科学も含めた科学・技術政策を確立すること、
科学技術とひとくくりにされている表記を「科学・技術」に改め、
政策が出口志向の研究に偏るという疑念を一掃することなど提言。

同会議は、金澤一郎会長以下副会長、部長、幹事16人の
連名による声明を発表、「出口としての技術をもっぱら重視する
科学技術政策から、基礎研究をしっかりと位置付ける
総合的な学術政策への転換」を求めている。

提言「日本の展望-学術からの提言2010」を、
川端達夫・科学技術政策担当相に手渡し、
「『科学を基礎とする技術』を主とする、応用志向の強いこれまでの
『科学技術』に代えて、より広範な『学術』の概念が
政策体系の中心に位置づけられるべきである」ことを、
提言の最初に掲げた。

応用より、基礎を重視してほしいとまで言っているわけではない。
「日本の展望-学術からの提言2010」でも、
「多様性・継続性を担保する基礎研究を確実に推進しつつ、
社会・経済的価値創造を目指す応用研究推進との両立を
担保するため、それぞれの研究資金枠とその審査基準を
明確化・適正化することが必要」も提言。

両者をバランスよく、ということだろう。
これがなかなか難しい問題で、雑誌「科学」が公開している
「ウェブ広場」に掲載された市川淳信・東京工業大学名誉教授の寄稿
「『科学と科学的知識の利用に関する世界宣言』の解釈」
を読んでもよく分かる。

市川氏が取り上げているのは、雑誌「日経サイエンス」9月号に
載った科学技術振興機構提供の記事。
同機構低炭素社会戦略センター上席フェローの談話を批判。

1999年、世界科学会議で「科学と科学的知識の利用に関する
世界宣言」が採択されたのを引用、
「研究者は、科学の負の遺産を清算しながら、
次世代を切り開くシーズを模索するという大きな責任を背負った」
としている上席フェローの認識に、市川氏はまず異論を唱える。

世界科学会議の宣言は、ブダペスト宣言として有名。
上席フェローの談話のように、
「社会における科学と社会のための科学」という文言によって、
科学者の社会的責任が明確に指摘されたことが、よく引用。

市川氏は、この宣言が挙げた科学の使命は4つあり、
「知識のための科学:進歩のための科学」、
「平和のための科学」、
「開発のための科学」という従来から言われていた3つに、
「社会における科学と社会のための科学」が付け加わった。

上席フェローが主張するように、
「科学は、あくまでも社会のためにあることが再確認された」のではない。
「戦略的な科学研究を、国の成長に結びつける明確なビジョンを
持つこと」、「研究者自身が、社会の存在を肌で感じながら
研究を行うことが重要で、科学技術を精査し、課題解決のための
最適解とも言うべきシナリオを描くこと」
という上席フェローの談話に対し、次のように厳しい批判。

「新たな知識自体が、社会の人々の人格陶冶に役立ち、
より良き社会への進展を支えている。
宣言を見ても、『知識のための科学:進歩のために科学』は
最初に掲げられている。
…シナリオに沿った研究開発が必要な領域もある。
低炭素社会の実現を目指す研究領域は、
そのような領域に属すのかもしれない。
すべての科学の領域に拡大しようと、宣言の一部を強調し、
発見の時代は終焉した科学は、工学プロジェクトを
指向すべきとするのは専横であり、
ソ連時代、食糧生産の拡大を目指して、獲得形質の遺伝の研究を
強制したソ連科学アカデミー会員の行為を連想させる」

市川氏に、やり玉に挙げられた形の科学技術振興機構が
力を入れているのは、確かに「課題解決型研究」への支援。

「知識のための科学:進歩のための科学」ではなく、
「社会における科学と社会のための科学」という使命に沿うもの。
両者は本来、並立すべきものなのだろうが、
科学・技術予算といった話になると、そうもいかない。

ブダペスト宣言が採択された世界科学会議にも参加し、
この宣言の意義を高く評価する吉川弘之・元国際科学会議会長は、
「宣言の採択は、科学は社会から影響を受けず、
独立していなければならないとされた長い歴史を軌道修正する、
重大な瞬間。

この決定の意味は、科学研究の重点が基礎から
応用へ移るということではない。
科学研究が、知的好奇心に導かれて行われることを
決して否定するものでもない。

新しい困難な課題を抱えた現代は、従来は考えつかなかった
独創的視点での科学の展開が期待され、
ますます研究者個々人の関心に基づく自由な基礎研究が必要

http://www.scienceportal.jp/news/review/1009/1009061.html

インサイド:ユース五輪 未来への礎/4 トップ派遣、各国で差

(毎日 9月3日)

米国は、ユース五輪(シンガポール)での成績不振に
危機感を抱いている。

従来の五輪では、国・地域別の金メダル数でトップ争いを
演じてきたが、今大会の金メダル数は4個。
トップの中国(30個)に大きく水をあけられ、全体でも12位と低迷。

教育や交流を重視する大会の趣旨に照らせば、
メダルの数を気にする必要はない。
シンガポール最大の英字新聞「ストレーツ・タイムズ」によると、
米国オリンピック委員会の強化担当者は、
「今後はユース五輪の位置づけを高め、プランを修正していく」。

◆米は他大会を優先

真夏に開催された新設大会は、複数の競技で
他の国際大会と日程が重複。
トップ選手の参加が危ぶまれ、
「二流選手のサマーキャンプになるのでは」との見方さえあった。

特に競泳は、ジュニア・パンパシフィック選手権
(米国・ハワイ、8月26~30日)を重視する向きが強かった。
ユース五輪の競泳は8月20日に終了、
選手は26日の閉幕まで選手村への滞在を義務づけられ、
両大会の掛け持ちはできなかった。

米国のトップ選手はジュニア・パンパシを優先、
過去の五輪で金メダルを量産した競泳は、
ユース五輪で金メダル1個と苦戦。

今大会は、競泳の自由形やリレー種目で、計6個の金メダルを
獲得した中国の唐奕(17)、体操女子個人総合で圧勝した
ロシアのビクトリア・コモワ(15)、「次世代のボルト」と呼ばれ、
陸上男子100mを制したジャマイカのオデイン・スキーン(16)ら
才能豊かな選手が数多く出場。

サッカーなど一部競技は、トップ選手が参加しなかった。
IOCジャック・ロゲ会長は、「サッカー選手の派遣方針について、
国際サッカー連盟と協議したい」

◆日本も調整に苦慮

日本水泳連盟も、「(ユース五輪は)手探りの大会で、
選手に参加を強制できない」と判断。

全国高校総体など、国内大会の日程とも重複する事情を踏まえ、
選手の希望を最優先に代表を選んだ。
結果的に、トップ選手の多くは参加しなかったが、
将来を見据えて決断した選手も。

男子200m個人メドレーで8位に入った堤貴大(17)=市川高=は
「インターハイ(全国高校総体)が、僕の最終目標じゃない。
次へのステップになる」と力強く語った。

国内では、女子バレーボールの代表選考も苦労。
5月、アジア予選を勝ち抜いたトップ選手は、
千葉国体の予選出場などのため、誰も今大会に参加しなかった。

日本は、国体予選を免除された千葉県選抜で出場。
大柄な外国選手を相手に健闘したが、結果は4位。
チームに同行した日本バレーボール協会の
成田明彦強化事業本部長は、「一時は選手の派遣辞退も考えた。
選手には貴重な経験になったし、行って良かった」

今大会は17、18歳の選手が出場、成田本部長は、
「高校1年の選手を中心にチームを組めれば、選手を出しやすい」
と、出場年齢の変更を希望。

米国の態度が変化したように、日本オリンピック委員会関係者は、
「今後、さらにトップ選手が集まる大会になる」とみる。

各国の対応が分かれた第1回大会。
ユース五輪の理念である教育、交流を重視しながら
競技レベルをどう保つか?

夏場は、世界のスポーツカレンダーが埋まっている。
大会日程の問題も含め、課題は多い。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100903ddm035050075000c.html

2010年9月13日月曜日

観光+医療で外国人誘致…独協医大と日光東照宮

(2010年9月2日 読売新聞)

観光と医療をセットにして、外国人旅行者を呼び込む
「医療ツーリズム」の広がりを受け、独協医科大が、
観光客誘致に力を入れる日光東照宮と共同で、
社団法人「国際観光医療学会」を発足。

全国の観光地にある大学や医療機関、観光施設に参加を呼びかけ、
患者とのトラブル防止、地域医療との両立、観光施設との連携など
について議論。
医療体制を整備することで、外国人観光客をさらに呼び込もうという狙い。
日光市内で開かれる設立総会には、複数の大学や病院が参加する予定。

世界遺産の東照宮などを擁する日光市には、
年間約6万人の外国人宿泊客が訪れる。
同大は、日光医療センターに全国でも珍しい「観光医療科」を新設。
鬼怒川温泉のホテルと提携し、国内外の観光客を対象に、
宿泊と人間ドックをセットにした医療サービスを始めた。

中国人看護師を常駐させ、帰国後のケアのため、
上海の大学病院と連携協定を結んだ。
中国や韓国の旅行会社から、「10人まとめて受け入れられるか」などの
問い合わせが相次いでいる。

同大日光医療センターの中元隆明院長は、
「外国人とは、言葉も文化も違うので、トラブルも起きかねない。
各地の医療機関が学会で取り組みを報告し、情報交換していきたい」

日光東照宮も、日本の高度な医療を外国人観光客らにPRし、
誘客につなげたい。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/2/124868/

“死の谷”克服で文科、経産両省が協調支援

(サイエンスポータル 2010年9月1日)

大学、公的機関の基礎研究成果を、イノベーション創出に
結びつけるため、文部科学省と経済産業省が協力して支援。

科学技術振興機構の北澤宏一理事長と産業革新機構の
能見公一社長が、中川正春・副文部科学相、
近藤洋介・経産政務官立ち会いの下、協力協定書に署名。

科学技術振興機構が、大学や公的研究機関とのネットワークを
活用して収集、整理した特許と、産業革新機構が投資あるいは
運営する知財ファンドを連携させ、知的財産の活用を図る。

大学や公的研究機関の数多い研究成果と、
この中から産業に発展した限られた成功例との間には、
両者を隔てる“死の谷“と呼ばれる深い溝が存在。

この“死の谷”克服は、文部科学、経済産業両省と両省傘下の
研究開発機関の大きな課題となっている。

科学技術振興機構によると、大学の特許取得数は2000年ごろから
急増、大学と企業との共同研究も増えている。

逆に、日本企業の研究開発投資意欲は冷え込んでおり、
韓国をはじめとする新興国の方が、日本の基礎研究成果や特許に
関心が深く、実用化にも熱心。

産業革新機構は、「産業活力の再生及び産業活動の革新に
関する特別措置法」により、政府出資820億円、
民間(19社2個人)出資100億1,000万円で、
昨年7月設立された株式会社。

従来の業種や企業の枠にとらわれず、
次世代の国富を担う産業を創出することを目的に、
「中長期の産業資本」を提供したり、取締役派遣などを通じた
経営参加型支援を実践。

小規模案件から大規模案件(数百億円単位)に
対応可能な投資能力を持つ。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/1009/1009011.html

インサイド:ユース五輪 未来への礎/3 浸透した「交流重視」

(毎日 9月2日)

選手間の交流を促すユース五輪(シンガポール)で、
選手に好評だったプログラムは、近隣の島で冒険体験をする
「アイランドアドベンチャー」。

舞台は、シンガポール北岸から船で10分程度のウビン島。
選手は国籍や文化、宗教の違いを超えて、
15人程度のグループに分かれて活動。
ドラム缶などを使って、即席のいかだ作りに励み、
海へとこぎ出すと歓声が沸いた。
1日の定員は144人、選手の希望が殺到して、
200人が参加した日も。

◆語学の壁歯がゆさも

先月22日、日本からテニスの男女3選手が参加。
プエルトリコ、アルゼンチン、スペインなどの11人と親交を深めた。

米国留学経験があり、社交的な性格の牟田口恵美(16)=JITC=は、
「同じグループの選手は、スペイン語ばかり。
英語が通じなかった」と少し残念そうだったが、
英語を勉強中という石津幸恵(17)=土浦日大高=は、
「外国の選手と話すのは面白いし、みんなフレンドリーで楽しかった」と
すがすがしい顔をのぞかせた。

確かに「語学の壁」はある。
自転車競技男子の山本兆(18)=ダンガリー=は、
「みんなもっとストイックな人たちかと思ったけど、
友好的で心を開くことができた」と笑ったが、
「僕の英語は、ボディーランゲージ程度。
もっと話せたら、本当の交流ができるのに」と歯がゆさも。

外国選手にも、英語が話せない人が多く、
フランス語、スペイン語のみの選手も目立った。

◆国籍を超えた競技

言葉の違いを乗り越えた「交流重視」の姿勢は、
競技にも浸透していた。

トライアスロンや陸上、競泳、アーチェリーなどで、
大陸別や男女混合のユニークな種目が実施。

フェンシングは、政治的に対立する米国とキューバの選手が
同じ「アメリカ大陸チーム」でプレー、話題を呼んだ。

特に目を引いたのは、柔道の混合団体戦。
過去の世界選手権開催地の名前を取って、12チームを編成。
戦力が均等になるよう、今大会の男女8階級のメダリストを割り振り、
同一国・地域の選手が同じチームにならないようにも配慮。
メダリストではない選手も含め、1チームは7~8人。

女子63kg級優勝の田代未来(16)=淑徳高=は、
チーム「エッセン」(ドイツ、87年開催地)のメンバー。
準々決勝で、男子100kg級優勝の五十嵐涼亮(17)=国士舘高=を
擁した「千葉」(95年開催地)を破り、そのまま優勝。

試合中は、スペインの男子選手と一緒に声を振り絞って応援した
田代は「みんなで『ファイト!ファイト』って声を出し合い、
いい雰囲気で戦えました」とにこやかだ。

チーム戦では、多くの国の選手たちが初めて表彰台へ上がった。
エッセンのメンバーで、個人戦では男子81kg級で
早々と敗退したコンゴ共和国の選手は、全4試合で一本勝ち。
「金メダルを取ったのは初めて。
友人もたくさんできたし、みんなと五輪で再会できればいいな」
と感慨に浸った。

柔道混合団体の表彰式に、国旗、国歌は存在しなかった。
本来は、開閉会式に流れる五輪賛歌をバックに、
4本の五輪旗が掲げられた。
優勝、準優勝、3位の2チームの選手30人は、
表彰台で身を寄せ合うように並び、胸を張った。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100902ddm035050064000c.html

2010年9月12日日曜日

(島根)都会で学べぬ体験

(2010年9月2日 読売新聞)

地域医療の担い手となるはずの若い人材の多くが、
専門診療の研修制度などの整った都会の大病院に流れてしまう。
中山間地や離島での医療に、関心を寄せる若者もいる。

島根大医学部4年の尾上正樹さん(24)ら、学生サークル
「地域医療研究会」の4人が、浜田市弥栄町の標高900m以上の
山々の谷あいの集落で、住民の健康状態などの調査。

その宿に、医学部OBで付属病院の研修医の飛田憲彦さん(40)ら
3人が訪ねてきた。

3人は、浜田医療センターなどでも1年ずつ研修を積んでいる。
飛田さんは8月中、へき地医療を知るため、弥栄診療所に来ていた。

いろりを囲み、酒を酌み交わしながら、医学生たちは先輩に、
「正直、1度は都会へ出たい」と打ち明けた。

飛田さんは、「僕はいつかは、街中で精神科医として開業する。
それでも、県内で研修する道を選んだ。
あらゆる患者さんに向き合うのは、専門科医になるためのいい経験だ

救急医を目指す別の研修医も、
「地方の病院は、専門科の垣根が低い。
誰にでも相談しやすい」

「講義より、現場をもっと見たかった」
島根大医学部で開かれた地域医療実習の意見交換会で、
参加した医学生からそんな声が上がった。
実習は、県内の6医療圏すべてであり、
今夏は49人が山あいの病院や診療所を訪れた。

隠岐の島町での実習では、隠岐病院の加藤一朗医師(37)が、
「都会の大病院で、先端医療に取り組みたいとの意見もあるが、
地域医療こそ、人の暮らしに近い最先端の医療じゃないか」と、
医学生たちに説いた。

加藤医師は、隠岐諸島でただ1人の産婦人科医。
出産だけでなく、外科手術の手伝いや夜間の救急外来もこなす。
県立中央病院の総合診療科医師だった2004年、
隠岐諸島で産科医がいなくなるのを知り、
かつて内科医として務めた隠岐病院に出向く決意。
「温かい島の人たちともう一度かかわりたい」
産婦人科研修を経て、07年4月に赴いた。

加藤医師は、医学生たちから「やりがいは?」、「都会と何が違う?」と
聞かれ、ここでも議論は夜まで続いた。
日程は2泊3日。
参加した1人は、「短すぎる」と惜しんだ。

離島や中山間地では、専門科の垣根を越えた全人的な医療が必要。
今の大学教育は、専門性を追う傾向が強く、
内科、整形外科など、さまざまな診療科を受け持つ総合医を育てる
カリキュラムは少ない。

隠岐島前病院で、地域医療の“最前線”にいる白石吉彦院長は、
「医学生たちに総合医の大切さを教え、地域医療の良さに
目を向けるきっかけを、もっと与える必要がある」

大学医学部の卒業生たちは、医療機関で2年間の初期研修、
3~5年間の後期研修を経て、1人前の医師となる。

島根大医学部付属病院の初期研修では、付属病院で1年間、
松江市立、浜田医療センターなどの協力病院で1年間、
それぞれ研修する「たすきがけプログラム」も選べる。
専門診療だけでなく、地域医療に欠かせぬ総合診療も
経験できる仕組み。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/2/124867/

カツオだし、健康増進に!? コレステロール酸化抑える 調味料会社が研究

(2010年9月1日 毎日新聞社)

カツオのだしに、コレステロールの酸化を抑える働きがあることが、
焼津市の調味料製造・販売会社、
焼津水産化学工業(坂井和男社長)の研究で分かった。

人体で同様の効果が得られるか、調べる。
同社広報室は、「人体でも効果が見られれば、
各種疾患の予防につながり、カツオだしでおいしく健康になれる」

これまでカツオだしには、EPA(エイコサペンタエン酸)と呼ばれる
脂質の酸化を抑制する働きがあることが分かっていた。
今回は、動脈硬化などの疾患を招くとされるコレステロールの酸化を
抑制するかどうか、カツオだしを鶏肉に加えて実験。

鶏肉に液体のカツオだしを混ぜて作ったつくねを2週間冷凍し、
コレステロール酸化物の生成量を調べた。
カツオだしを加えたつくねは、つくねの油分1gに対し、
生成量は30・9ug、加えていないものの49・2ugに比べ、
37%減っていた。

同社は、「日本調理科学会」で研究結果を発表。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/1/124808/

インサイド:ユース五輪 未来への礎/2 教育の意義大きく

(毎日 9月1日)

シンガポールで開かれたユース五輪の陸上女子走り高跳びで
銀メダルを獲得した17歳のアレシア・トロスト(イタリア)は、
競技の翌日、選手村のブースでパソコンと向き合った。

ドーピング(禁止薬物使用)の危険性を理解してもらおうと、
世界反ドーピング機関(WADA)が設置した
シミュレーションゲームに取り組んでいた。

アスレチックコースの通過タイムを競うゲームだが、
競技の間に「ドーピングをしますか?」、「どんな練習をしますか?」、
「何を食べますか?」などの設問に答え、
その結果がキャラクターの能力に反映。

ドーピングをした選手は、競技後の検査で違反がみつかり、
優勝トロフィーが粉々になる。
不正をすれば何も得られない、メッセージが込められている。

陸上の09年世界ユース選手権優勝者で、ドーピング検査には
慣れていたトロストだが、「今までは検査をやらされているという意識。
自分を守ることになるし、なぜ必要かが分かった。
ドーピングをしているアスリートは、本当のアスリートじゃない」と
真剣なまなざしで話した。

◆反ドーピング学ぶ

ブースを運営していたWADAの教育担当マネジャー、
デビッド・ジュリアンさんは、「トップ選手になれば、
厳しいドーピング検査を求められる。
その時に教育をしても遅い。
若い選手にこそ、ドーピングの怖さを学んでほしい

若者がなじみやすいように、簡単なゲームやタッチパネルを
利用したものが目立った。

選手村を視察した日本アンチ・ドーピング機構アスリート委員会の
田辺陽子委員長も、「若い選手には、ゲーム形式の方がとっつきやすい。
日本も、年代別に啓発の方法を変えている」

従来の五輪とは異なり、ユース五輪では、自分の競技を終えた後も、
閉幕まで選手村に滞在するよう求めた。
競技への理解、人間性をはぐくむ教育プログラムを
経験してもらうため。

大会組織委員会は、選手村に反ドーピングや五輪の精神、
歴史的経緯を学ぶブースなどを設置。
選手村外での活動も含め、50の文化・教育プログラムを用意。
選手は、競技の合間や終了後に興味のあるプログラムに参加。

◆チャンピオンと会話

特に盛況だったのは、「チャンピオンとの会話」と題した
トップ選手との交流会。

約300席用意した会場に入り切らず、隣室のモニタールームにも
選手を入れ、1回に600人ほどの選手が参加。

陸上男子200mの本間圭祐(神奈川・橘高)は、
棒高跳びの世界記録保持者、セルゲイ・ブブカさん(ウクライナ)から、
敗戦後に、次の目標に向けて全精力を注ぎ込む気持ちの
切り替えの大切さを学んだ。

今年の全国高校総体では、優勝候補に挙げられながら
左太もも痛が響いて7位。
「インターハイでの負けを引きずっていたけど、
ブブカさんの言葉で吹っ切れた」と、見事に銀メダルを獲得。

ブブカさんは、次代を担う選手たちについて、
「将来、オリンピックムーブメント(五輪精神を広める運動)の
偉大な大使になる」と期待。

教育プログラムの現場を見ると、
パソコンのマウスの使い方が分からない途上国の選手や、
言語の違いでコミュニケーションを取りにくいような選手もいた。
それでもスタッフのアドバイスを受けながら、次第に理解し、
打ち解けていく光景が見られた。

世界各国、育った環境はさまざまで、まだ14~18歳の若者たち。
だからこそ、国際大会で交流し、教育を受ける意義は、大きい。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100901ddm035050062000c.html