2010年9月14日火曜日

スポーツ政策を考える:黒須充・福島大教授(スポーツ社会学)

(毎日 9月4日)

文部科学省がまとめた「スポーツ立国戦略」の方向性は
間違っていない。

客観的なデータに裏付けられた政策にはなっていない。
政策立案を、調査研究という側から支援していかねばならない
我々大学関係者にも責任がある。

立国戦略では、私が調査研究を続けている
総合型地域スポーツクラブを中心にした環境整備が、重点戦略の一つ。
その社会的な効果を検証、評価することが急務になっているが、
客観的なデータが整理されていない。

そのことに、じくじたる思いがあり、
今回、ケルン・スポーツ大学のクリストフ・ブロイアー教授が
ドイツのスポーツクラブの公共性を具体的、客観的なデータで
証明している報告書を翻訳。

タイトルは、「ドイツに学ぶスポーツクラブの発展と社会公益性」(創文企画)。

彼の調査研究のベースになっているのが、「正当化のための知」。
クラブは、公的な支援という恩恵にあずかっているのに対し、
商業的なスポーツ施設は、なぜ同様の恩恵を受けられないのか。

その問いに対し、彼は具体的なデータで答えている。
州や市町村などからの助成金は、ドイツ全体で年間5億ユーロ。
納税者として、年間8億2000万ユーロを納めている。
差し引き、3億2000万ユーロ(約350億円)、
クラブが経済的な主体として社会に存在していることが分かる。

スポーツ参加の機会を提供しているだけでなく、
移民の社会的統合、健康増進や雇用につながる場の提供、
青少年の社会教育、女性の社会参加などの面でも
クラブの存在は大きく、さまざまな社会政策の中で
重要な役割を果たしている。

ドイツにおけるクラブは、参加しない第三者、社会全体に対しても
公共の福祉を促進するという社会公益性を有している。

クラブを通したスポーツ活動は、単なる私的な活動ではなく、
社会的な機能を持っている。

日本では、総合型クラブに限らず、スポーツの正当性が
確立されていない。
政策立案に関しても、具体的な数値で国民を説得できるだけの
科学的なアプローチがまだ弱い。

今回の立国戦略の弱点で、今後、具体的なデータに裏付けられた
政策になっていないという問題を、どう解決していくか。
クラブ先進国であるドイツから学ぶ点は多い。

社会全体でスポーツを支える基盤の整備、全国民がスポーツする
機会を享受する社会の実現を、国任せにするのではなく、
その一翼を地域のクラブが担うというシナリオを描いていく。

実現は難しいだろうが、その目標に向かって努力していくことで、
クラブは「新しい公共」の担い手になることができる。
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◇くろす・みつる

1958年生まれ。筑波大大学院修了。
NPO法人クラブネッツ理事長として、
全国各地の総合型クラブを訪れ、アドバイスを行っている。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/09/04/20100904dde035070042000c.html

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