2010年9月12日日曜日

(島根)都会で学べぬ体験

(2010年9月2日 読売新聞)

地域医療の担い手となるはずの若い人材の多くが、
専門診療の研修制度などの整った都会の大病院に流れてしまう。
中山間地や離島での医療に、関心を寄せる若者もいる。

島根大医学部4年の尾上正樹さん(24)ら、学生サークル
「地域医療研究会」の4人が、浜田市弥栄町の標高900m以上の
山々の谷あいの集落で、住民の健康状態などの調査。

その宿に、医学部OBで付属病院の研修医の飛田憲彦さん(40)ら
3人が訪ねてきた。

3人は、浜田医療センターなどでも1年ずつ研修を積んでいる。
飛田さんは8月中、へき地医療を知るため、弥栄診療所に来ていた。

いろりを囲み、酒を酌み交わしながら、医学生たちは先輩に、
「正直、1度は都会へ出たい」と打ち明けた。

飛田さんは、「僕はいつかは、街中で精神科医として開業する。
それでも、県内で研修する道を選んだ。
あらゆる患者さんに向き合うのは、専門科医になるためのいい経験だ

救急医を目指す別の研修医も、
「地方の病院は、専門科の垣根が低い。
誰にでも相談しやすい」

「講義より、現場をもっと見たかった」
島根大医学部で開かれた地域医療実習の意見交換会で、
参加した医学生からそんな声が上がった。
実習は、県内の6医療圏すべてであり、
今夏は49人が山あいの病院や診療所を訪れた。

隠岐の島町での実習では、隠岐病院の加藤一朗医師(37)が、
「都会の大病院で、先端医療に取り組みたいとの意見もあるが、
地域医療こそ、人の暮らしに近い最先端の医療じゃないか」と、
医学生たちに説いた。

加藤医師は、隠岐諸島でただ1人の産婦人科医。
出産だけでなく、外科手術の手伝いや夜間の救急外来もこなす。
県立中央病院の総合診療科医師だった2004年、
隠岐諸島で産科医がいなくなるのを知り、
かつて内科医として務めた隠岐病院に出向く決意。
「温かい島の人たちともう一度かかわりたい」
産婦人科研修を経て、07年4月に赴いた。

加藤医師は、医学生たちから「やりがいは?」、「都会と何が違う?」と
聞かれ、ここでも議論は夜まで続いた。
日程は2泊3日。
参加した1人は、「短すぎる」と惜しんだ。

離島や中山間地では、専門科の垣根を越えた全人的な医療が必要。
今の大学教育は、専門性を追う傾向が強く、
内科、整形外科など、さまざまな診療科を受け持つ総合医を育てる
カリキュラムは少ない。

隠岐島前病院で、地域医療の“最前線”にいる白石吉彦院長は、
「医学生たちに総合医の大切さを教え、地域医療の良さに
目を向けるきっかけを、もっと与える必要がある」

大学医学部の卒業生たちは、医療機関で2年間の初期研修、
3~5年間の後期研修を経て、1人前の医師となる。

島根大医学部付属病院の初期研修では、付属病院で1年間、
松江市立、浜田医療センターなどの協力病院で1年間、
それぞれ研修する「たすきがけプログラム」も選べる。
専門診療だけでなく、地域医療に欠かせぬ総合診療も
経験できる仕組み。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/9/2/124867/

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