2010年9月12日日曜日

インサイド:ユース五輪 未来への礎/2 教育の意義大きく

(毎日 9月1日)

シンガポールで開かれたユース五輪の陸上女子走り高跳びで
銀メダルを獲得した17歳のアレシア・トロスト(イタリア)は、
競技の翌日、選手村のブースでパソコンと向き合った。

ドーピング(禁止薬物使用)の危険性を理解してもらおうと、
世界反ドーピング機関(WADA)が設置した
シミュレーションゲームに取り組んでいた。

アスレチックコースの通過タイムを競うゲームだが、
競技の間に「ドーピングをしますか?」、「どんな練習をしますか?」、
「何を食べますか?」などの設問に答え、
その結果がキャラクターの能力に反映。

ドーピングをした選手は、競技後の検査で違反がみつかり、
優勝トロフィーが粉々になる。
不正をすれば何も得られない、メッセージが込められている。

陸上の09年世界ユース選手権優勝者で、ドーピング検査には
慣れていたトロストだが、「今までは検査をやらされているという意識。
自分を守ることになるし、なぜ必要かが分かった。
ドーピングをしているアスリートは、本当のアスリートじゃない」と
真剣なまなざしで話した。

◆反ドーピング学ぶ

ブースを運営していたWADAの教育担当マネジャー、
デビッド・ジュリアンさんは、「トップ選手になれば、
厳しいドーピング検査を求められる。
その時に教育をしても遅い。
若い選手にこそ、ドーピングの怖さを学んでほしい

若者がなじみやすいように、簡単なゲームやタッチパネルを
利用したものが目立った。

選手村を視察した日本アンチ・ドーピング機構アスリート委員会の
田辺陽子委員長も、「若い選手には、ゲーム形式の方がとっつきやすい。
日本も、年代別に啓発の方法を変えている」

従来の五輪とは異なり、ユース五輪では、自分の競技を終えた後も、
閉幕まで選手村に滞在するよう求めた。
競技への理解、人間性をはぐくむ教育プログラムを
経験してもらうため。

大会組織委員会は、選手村に反ドーピングや五輪の精神、
歴史的経緯を学ぶブースなどを設置。
選手村外での活動も含め、50の文化・教育プログラムを用意。
選手は、競技の合間や終了後に興味のあるプログラムに参加。

◆チャンピオンと会話

特に盛況だったのは、「チャンピオンとの会話」と題した
トップ選手との交流会。

約300席用意した会場に入り切らず、隣室のモニタールームにも
選手を入れ、1回に600人ほどの選手が参加。

陸上男子200mの本間圭祐(神奈川・橘高)は、
棒高跳びの世界記録保持者、セルゲイ・ブブカさん(ウクライナ)から、
敗戦後に、次の目標に向けて全精力を注ぎ込む気持ちの
切り替えの大切さを学んだ。

今年の全国高校総体では、優勝候補に挙げられながら
左太もも痛が響いて7位。
「インターハイでの負けを引きずっていたけど、
ブブカさんの言葉で吹っ切れた」と、見事に銀メダルを獲得。

ブブカさんは、次代を担う選手たちについて、
「将来、オリンピックムーブメント(五輪精神を広める運動)の
偉大な大使になる」と期待。

教育プログラムの現場を見ると、
パソコンのマウスの使い方が分からない途上国の選手や、
言語の違いでコミュニケーションを取りにくいような選手もいた。
それでもスタッフのアドバイスを受けながら、次第に理解し、
打ち解けていく光景が見られた。

世界各国、育った環境はさまざまで、まだ14~18歳の若者たち。
だからこそ、国際大会で交流し、教育を受ける意義は、大きい。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/news/20100901ddm035050062000c.html

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