2010年9月15日水曜日

外国人研究者に手厚い支援制度 ドイツ、ポスドク30歳で研究室主宰

(毎日 8月10日)

イノベーション(革新)を目指し、「知の大競争」が
世界規模で繰り広げられる中、優秀な研究者の獲得に
各国がしのぎを削っている。
日本と同様、科学技術を基盤とした国家の成長戦略を描き、
「人材の国際化」を進めるドイツの首都ベルリンで、
一人の日本人研究者と会った。

◆1億8000万円支給

「この年で自分の研究室を持てるなんて、日本では考えられなかった。
ドイツでは、外国人にもチャンスがある」

ポストドクターとして、ベルリン工科大化学科で研究する井上茂義さんは、
30歳になったばかりの今年12月に研究室を作る。
ポスドクの立場で研究室を主宰することは、日本ではありえない。

資金は、独政府の研究資金を外国人研究者に配分している
「アレクサンダー・フォン・フンボルト財団」が支援。
井上さんは、同財団の若手向け支援プロジェクトに応募、
日本人で初めて選ばれた。
研究室の運営費として、5年間で165万ユーロ(約1億8000万円)支給。

井上さんは、福島県新地町出身。
筑波大で理学博士号を取得後、日本学術振興会の海外特別研究員に
選ばれ、ドイツへ渡った。
「日本では博士号を持っていても、終身の研究職に就くのは難しい。
キャリアアップするには、外国に出る方がいい」

ドイツに決めたのは、先輩の勧め。
テーマは、ケイ素を使った新規化合物の研究。

◆奨学金、家族手当も

実際に訪れて、支援の手厚さに驚いた。
フンボルト財団からは、生活費として月額約25万円の奨学金に加え、
家族手当、国内外への旅費、ドイツ語講座の受講費まで支給。
支援は2年間、その後は新たに獲得した運営費から自分の給与が出せる。

大学院生として同じ研究室に所属する妻、知香さん(28)には、
研究室から月約15万円の「報酬」が出ている。

井上さんは、「設備は日本の一流研究室に劣るが、
研究に専念できる環境が整っている
週末は学内のエレベーターが止まるなど、研究者たちの働き方は
全体的にのんびりしている。

「でも、論文発表のペースは落ちていない」
研究室の顔ぶれも多様で、約25人の出身国は米、スペイン、
中国など10カ国以上に上る。

12月に作る研究室は、5年間の期限付きだが、
成果を出せば、大学で終身ポストを得られる可能性も。

「いずれ日本に帰って研究したいと思っていたが、
今の生活は充実しているし、将来も見えてきた。
ドイツに残るのもいいかなと思い始めている」

◆国際化に本腰

ドイツの大学は、留学生や外国人研究者を積極的に受け入れ、
活性化を図っている。

有力な公立大学の一つ、ベルリン自由大は07年、
国際化促進に関する重点モデル校に指定。
学生(約3万2500人)の外国人比率は15%、博士課程では25%。
国際基準に合わせたカリキュラム改革など、
毎年2000万ユーロ(約22億6000万円)の特別予算が配分。

学内の「ウエルカムセンター」は、外国人の大学院生を
家族ごと支援する拠点。
家や保育所探し、外国人登録の申請などの相談に応じる。

自然科学分野の博士号取得を目指す院生には、
ドイツ語ができなくても、英語だけで研究できる体制を整え、
イスラム教徒から要望が強かった礼拝室の設置まで検討する徹底ぶり。

北京やニューデリー、モスクワなど海外7カ所に事務所を開設、
研究者が地元の学生や研究者をスカウトする活動も始めた。

同大国際協力センターのヘルベルト・グリーショップ副センター長は、
潤沢な研究資金を得るには、海外とのパートナーシップが
欠かせないが、留学生や外国人研究者を受け入れることによって
人脈ができる。
国際化を進め、世界の注目を集める大学にしたい」

◇日本は受け入れ体制に課題 長期滞在は研究者の1.3%

文部科学省によると、日本の研究機関(大学含む)が受け入れた
外国人研究者は、07年度で約3万6000人、
3分の2は「30日以内の短期滞在」。

腰を落ち着けて研究する外国人は約1万1000人、
研究者全体の1.3%に過ぎない。

大学教員の外国人比率は3.5%(07年度)、
米国や英国が20%近いのに比べると、極めて低い。

第3期科学技術基本計画(06~10年度)は、
イノベーション実現のための人材育成に力点を置いており、
「外国人研究者が活躍できる環境整備」は、その大きな柱。

日本学術振興会は、日本への渡航費や滞在費(月額36万2000円)
などを支給する「外国人特別研究員」制度を、
今年度は300人分用意して呼び込みに懸命。

しかし、組織で回覧される文書が日本語だったり、
図書館での検索システムや職員が英語に対応できないこと、
住居など、受け入れ体制には課題が多い。

文科省は解決のため、子どもの教育や配偶者の職探しなど、
外国人研究者の生活環境整備事業に2億円を昨年夏、
10年度予算の概算要求に盛り込んだ。

その後の行政刷新会議の事業仕分けで、
「各大学がやればいい」、「効果が期待できない」などの
意見が出て「廃止」判定、予算化を断念。

各国の科学技術政策に詳しい角南篤・政策研究大学院大准教授は、
「競争に勝つため、国際化は避けられない。
地域として外国人をどう受け入れるか、という点も含め、
外国人研究者の生活環境整備は重要だ

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20100810ddm016040119000c.html

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