2009年10月17日土曜日

農業に学ぶ(10)都心で膨らむ就農の夢

(読売 10月7日)

朝に夜に、都心で農業を学ぶ講座が活況だ。

新丸の内ビル10階に、男女33人の受講生が集まった。
市民講座「丸の内朝大学」の農業クラス。
8割が女性で、スーツ姿の男性の姿も。

講師は、千葉県流山市で有機農業を営む笠原秀樹さん(35)。
「農家では、濃い付き合いができるが、給料は出ない。
農業生産法人は手当が充実しているが、一つの野菜しか
作っていない場合もある」など、農業の研修先の特徴を説明。

4月に開校した朝大学は、「出勤前の自分磨き」をテーマに、
男性向け家事、ヨガ、環境などユニークな講座から受講、
人気が高いのが農業クラス(全8回、3万8000円)。
春夏秋に開講、夏のクラスは、募集開始2日で定員35人が満員。

クラスの特徴は、全国の若手農業者らでつくる
「農家のこせがれネットワーク」の講師陣が、
農業を始めた経緯や収入、地域との付き合い方など
「生の農業」を語ること。
「本当に有機がいいの」、「女性農家から聞くお茶とキノコの話」
などのテーマで講演し、梨狩りもある。

「土いじりをしたいと思っている都会の人は実は多い」と、
企画した古田秘馬さん。
「こせがれ」の宮治勇輔代表(31)は、
「受講者と同じ目線を持つ若手農業者が、
基本的な生活スタイルから職業の魅力まで語るのが特徴。
誰でも入りやすいような内容になっている」

受講した契約社員宮原正美さん(34)は、
「若い農業者の前向きな話を聞き、農業のイメージが変わった」
就農を考え始めているという会社員佐藤千也子さん(34)は、
「同世代がやっている農業は、新鮮で身近に感じた。
具体的な話に就農のヒントをもらっている」

農業分野の人材づくりに取り組む人材派遣大手
「パソナグループ」は、2007年から
「Agri―MBA農業ビジネススクール農援隊」を開いている。

独立就農希望者や農業分野の起業を目指す人向けで、
4月から週1、2回の全30講座(14万円)。
農業経営者らが、流通販売などの事例を話す。
07年受講者は、予想を大幅に上回る55人。
08年75人、09年84人と増えている。
「地方からも参加したい」という要望を受け、
今年から授業のインターネット配信も始まった。

東京・銀座のビルで、ブランド豚などを手掛ける
農業経営者の講義があった。
会社帰りに受講している会社員梅村貴司さん(35)は、
「あこがれから就農したいと受講したが、
色々な農業経営者の話を聞き、自分の甘さを知った」
パソナ広報は、「将来的に農業にチャレンジしたい人に、
ビジネスとしての農業を学んでほしい」

ビルに囲まれた都心で、農業への夢が、現実に近づいていく。

◆農家のこせがれネットワーク

農家の活性化などに取り組む若手農業者らの団体。
「1次産業を、かっこよくて、感動があって、稼げる
3K産業にする」をキーワードとした新しい農業像を、
東京で働く農家の「こせがれ」や一般向けに発信。
農業体験ツアー、農学校などを展開し、
若い担い手の育成に取り組んでいる。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091007-OYT8T00233.htm

2100年の低炭素社会実現見通し

(サイエンスポータル 2009年10月9日)

「CO2排出削減とエネルギー安定供給を両立させた
低炭素社会の実現は可能」
日本原子力研究開発機構の報告会で、岡崎俊雄理事長
検討結果を引用し、力強く語った。

理事長自ら、低炭素社会実現への意欲とともに、同機構の進める
高速増殖炉、高温ガス炉、核融合開発の重要性をPR。

岡崎理事長が根拠としたのは、同機構内の検討チームが
報告書「2100年原子力ビジョン-低炭素社会への提言-」
2100年にどのような社会を想定し、それまでの社会の変化を
どのように見ているのだろうか?

国際的な目標、2050年CO2排出量50%削減は可能で、
2100年には90%削減も実現可能、としている。

CO2を減らすだけでなく、日本原子力研究開発機構が開発を進める
技術により、製造業重視という日本の基本的生き方を変えず、
エネルギーの安定供給も実現できる、としている。

「化石燃料の可採年数、発電設備や産業分野での大規模製造設備
(高炉や化学コンビナート)等の耐用年数などを考慮すれば、
超長期的に持続可能なエネルギー需給構造への転換には
少なくとも今後100 年間以上を要する」

多くの議論が、2050年まで段階的に削減率を50%に高めることを
目指すのに対し、最初から2100年時点の社会を想定し、
エネルギー供給構造と低炭素社会への道筋を描き出している。

CO2排出量を90%削減できる、とされた2100年の
日本のエネルギー構造とはどのようなものだろうか?

最終的なエネルギー消費は、電力が62%と大幅に増加し、
水素が8%を占める。

自動車も、水素燃料電池自動車か充電式電気自動車に置き換わる。
電力を作り出すエネルギーは、CO2を出さない原子力と
再生可能エネルギーが主となり、化石燃料を使う場合、
CCS(CO2回収・貯留)システムの導入でCO2排出を抑える。

発電電力量に占める原子力のシェアは、軽水炉が18%に低下、
高速増殖炉35%、核融合炉14%、全体の67%を占める。

1次エネルギーとしての化石燃料利用は、
2100年時点でも全体の約30%を占め、埋蔵量の少ない石油は
4%にまで激減、天然ガス15%、石炭11%。

現在、化石燃料の利用は発電用燃料に限らない。
石油や石炭の代替エネルギーとなる水素を、化石燃料から
製造していたのでは解決にならないため、
原子力を利用する高温ガス炉がこの役目を肩代わり。

水素燃料電池車両用のほか、製鉄産業に使われているコークス
(原料は石炭)の代替品、化学コンビナートの原料として水素を供給。
軽水炉を、徐々に高速増殖炉に置き換え、
ウラン資源の利用効率を一挙に高めるシナリオ。

地球環境問題への対応、温室効果ガス削減に、
原子力の活用は不可欠という声は高く、
この報告書の提言の意味は少なくない。

原子力関係者の報告書は、技術的可能性を重視するあまり、
実現性についての幅広い考察、検討に欠ける嫌い。
過去の原子力に関する長期計画のたぐいが、
どれほど現実に合っていたかを考え、
この報告書も、幅広い分野の人々の評価にさらされる必要がありそう。

ひとつ指摘すると、2100年の日本は人口がどのくらいと推定か?
報告書は、厚生労働省・国立社会保障・人口問題研究所の
「日本将来推計人口 平成18年12月推計」の推計値を引いている。
それも出生数が多く、死亡数が中位、多い方の推計値。
6,407千万人と日本の人口は今の半分に減っており、
65歳以上が35.1%を占める。

「製造業を中心とするわが国の現在の産業構造が
基本的に維持される」、
「人口一人当たりのGDP が2004年比2倍に増大している」
といった2100年の日本像が、この報告書の前提。

今から半減する人口構成で、こうした報告書の前提が、
簡単に実現するものか。

実用化にまだほど遠いとみられる核融合はもちろん、
長い開発中断の高速増殖炉の実用化だけを見ても、
これから相当の人材、開発資金を投じなければならない。
低炭素社会の実現は、多くの人々の意識と社会のありようを
変えないとどうにもならない。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0910/0910091.html

ブームを前にLED産業の危機

(日経 2009-10-06)

パナソニックやシャープが、LED(発光ダイオード)電球に
参入するなど、LED市場が急拡大しそう。

青色LEDの製品化に世界で初めて成功した
中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授は、
「赤色LED市場で、台湾ベンチャー企業は瞬く間にシェア競争で
日本メーカーを駆逐し、青色や白色LEDでも攻勢に拍車をかけ、
日本勢は完全に出遅れてしまった。
投資など、大企業は経営決断のスピードが遅すぎる

赤色LEDは、照明用だけでなく、植物工場の光源に採用、
用途を広げている。
赤色LED市場は今年、台湾メーカーがシェア100%。
米IMSリサーチの2008年LEDパッケージメーカーランキングで、
エバーライト・エレクトロニック、キングブライト・エレクトロニック
の台湾2社が初のベスト10に登場。

台湾では、IPO(株式公開)で巨額な資産を得た成功者にあこがれ、
欧米に留学した若い研究者がUターンして毎年、
100社以上のLEDベンチャーが誕生。

激しい生き残り競争が、コストダウンと性能向上の原動力で、
投資資金が内外から競って流入、台湾を短期間でLEDメジャーに。

中村教授は、LEDの光の取り出し効率向上のため、
窒化ガリウム結晶基板の製法開発で成果をあげ、
世界のLEDメーカーから注目。
台湾ベンチャー2社が、開発初期から資金を提供、
次世代技術の獲得にも貪欲で、研究開発力でも国際レースの先頭。

韓国・サムスン電子は、LEDバックライトの液晶テレビで
商品化でリード、製造工程が半導体に近いLEDへの本格参入、
持ち前のスピード経営で世界制覇のシナリオを着々実行中。

中国、香港のベンチャーも、LEDビジネスに力を入れ、
LEDがグローバル市場に大量普及前に、
日本はアジアの強敵に行く手を阻まれてしまう。

パナソニックなど大手がLED電球に参入するのは、
白熱電球や蛍光灯が環境規制で市場衰退が必至、
消費電力が少なく、水銀を使わないLED電球に置き換える
社会の要請に、背中を押されたのが実情。

大手は、参入決断が遅れ、量産を開始しても
社内需要対応で精いっぱい。
1万円もした高価なLED電球を普及させるため、
店頭価格を4000円以下に引き下げ、
中国、台湾ベンチャーからLED素子の供給を仰ぐケースが。

LED専業メーカーにとって、新規需要獲得のチャンスだが、
参入メーカーの顔ぶれは日亜化学工業、シチズン電子、
豊田合成など10年前からほとんど変わらず、
ベンチャーは名乗りを上げない。

LEDトップの日亜は、中村教授が在籍時の発明対価を求めて
提訴(2005年に和解)した因縁。
照明の基幹部品である白色LEDで、世界シェア4割。

現在主流の白色LEDは、青色LEDの光を黄色の蛍光体に通し、
白く光らせる方式で、日亜が基本特許を抑えている。
日本メーカーは、日亜の軍門にひれ伏し、これが新規参入を阻害。
中村教授や台湾ベンチャーは、この厚い壁を破る独創技術の開発に
力を入れてトップに戦いを挑む。

日本は液晶、太陽電池でもアジアなどの新興企業に
あっという間にシェアを奪われてしまった。
半導体をはじめ、先端技術分野で世界との競争で
日本が負け続けたのは、新技術で勝負する新興企業が台頭、
価格破壊などで既存勢力を打ち破る下克上がないこと。

米国滞在10年で、起業家精神を尊ぶ風土にどっぷりつかった
中村教授は、「日本の大企業のトップクラスの技術者は、
世界で活躍する実力があるが、会社は頭脳を活かしてない。
実力に見合った収入をもらっていないなど、
処遇の不満があるなら起業すべきと勧めるが、
だれもYesと言わない。

永遠のサラリーマンに満足する日本の技術者は、
生きるか死ぬかにかけるベンチャーのハングリー精神を理解できず、
大企業がベンチャーに負けるのをみて、
赤ちょうちんで、グチを言って憂さを晴らすだけでは情けない」

帰国するたび、ベンチャー不毛の国、日本に失望してきたが、
民主党が大勝し、政権交代したことに希望の芽を感じた。
日本が変わってほしいというのが、国民が示した民意なら、
自信を失ったモノ作り再生のため、
ベンチャー不毛の国から決別する最後のチャンス。

取り組むべきことは、子供の個性を伸ばすと言いながら
知識を詰め込むだけの大学受験を廃止し、
小学生から経済の仕組み、どうすれば稼げるかを教え、
起業家が尊敬される風土を醸成すべき。

台湾などベンチャー先進国が日本のすぐ近くにあることは、
人的交流などでプラスで、中村教授は人脈を活かし、
ノウハウ伝授の仕事にも今後は一役買いたい。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/mono/mon091005.html

本県から3人選出 農水省の「地産地消の仕事人」

(岩手日報 10月14日)

農林水産省の本年度の「地産地消の仕事人」に、
県内から3人が選ばれた。

農林水産物の地産地消活動に貢献した人をたたえる賞で、
加工施設「あぐりちゃや」(紫波町)の細川栄子代表(53)、
農事組合法人「いさわ産直センターあじさい」(奥州市)の
高橋寿子組合長(53)、出崎地区産地直売施設組合(宮古市)の
山崎時男組合長(70)が受賞。
3人は、特産物を生かした地域づくりへの思いを新たにしている。

【細川栄子さん】
紫波町片寄の産直あぐり志和で、しわ黒豚や紫波もちもち牛、
地元農産物を使った料理を食堂「あぐりちゃや」で提供。
食堂を切り盛りする農業女性6人の代表を務め、
農家の家庭料理のおいしさを広く伝えている。

弁当や総菜も手掛け、産直で販売するほか、
紫波もちもち牛の生産者として町内の催しで料理法の講習も行う。
「伝統の味を大事に守り、地元で今取れている農畜産物の良さを
これからも紹介したい」と意欲を新たにする。

【高橋寿子さん】
1999年、任意組合として80平方メートルのプレハブ店舗から
スタートした農事組合法人いさわ産直センターあじさい。
販売目標に基づく栽培管理で業績を上げ、規格外野菜も
有効利用しながら、レストランや総菜加工も展開。
年間売上高を、設立時の3倍の約1億円に伸ばした。
百貨店などでの出張販売や弁当の仕出しも手掛ける。

組合員73人を率いる高橋さんは、
「待ちの姿勢でなく、需要を敏感にとらえ応えていきたい」と笑顔。

【山崎時男さん】
宮古市のシートピアなあどで産直を展開する
出崎地区産地直売施設組合。
設立から組合長として品質管理の指導やホームページ開設による
情報発信など、信頼される産直作りに取り組んできた。
仕事人選定について、「わたしだけではなく、みんなの力。感謝したい」

学校給食への地場産品の利用拡大を提唱するなど、
地産地消を推進。
「現状維持ではなく、新しいことにも挑戦していきたい」と抱負。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20091014_16

2009年10月16日金曜日

20年五輪:広島と長崎の名乗り、「政治利用」に抵抗感も

(毎日 10月11日)

世界で2都市しかない原爆の体験を踏まえ、
五輪の原点でもある「平和の祭典」の実現に向けて
動き出した広島と長崎。
16年五輪を逃した東京の敗因として、理念の希薄さが指摘、
両市が招致に取り組めば、IOCや世界に独自の理念を
示せるのが強みとなる。
広島の秋葉忠利、長崎の田上富久の両市長の期待感も、
そこに根拠がある。

だが、五輪はあくまでもスポーツの大会。
競技施設や宿泊、輸送の整備、
きめ細かな運営などが求められる。
東京は、計画や財政の面で優れていたが、
広島と長崎は「大会開催の能力」という点で不安が多い。
両市長も、「多くの問題があるのは承知している」と認め、
五輪開催の厳しい現実に向き合い、招致の可否を検討。

IOCの姿勢も影響するかもしれない。
IOCは、90年代から00年代初め、
環境や平和への貢献を尊重。
最近は、08年五輪を中国・北京で開いたり、
16年五輪を南米初のリオデジャネイロにもたらしたように、
五輪を世界により広めることが重視される傾向。
五輪が政治的に利用されることへの抵抗感も強く、
核兵器廃絶の訴えが国際政治と密接だと受け止められれば、
逆効果になりかねない。

首都・東京に続いて、広島、長崎という新たな地方都市が
五輪への興味を示したことで、日本国内での関心は高まる。
対照的な性格を持つ都市を比較検討しながら、
真剣な議論が展開されれば、五輪招致の是非やあり方について
改めて考える機会となるに違いない。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/news/20091012k0000m050090000c.html

水ビジネス:水処理、中国と協力合意へ 国際市場、日本勢参入に弾み

(毎日 10月10日)

「日中省エネルギー・環境総合フォーラム」で、
水質浄化などに関する協力で、両国が合意する見通し。
中国は、急激な工業化で水需要が増加する一方、
湖水の汚染が深刻な社会問題。
高い水処理技術を持つ日本は、海外での水ビジネスの展開を
将来の成長分野と位置づけ、両者の利害が一致。

同フォーラムは、経済産業省や財界幹部が訪中し、
海水の淡水化や工場・生活排水の処理などについて、
中国政府や地元企業と具体的な協力方法を討議。

素材メーカーなど、水ビジネスにかかわる日本企業も同行し、
日本の高度な水処理技術を売り込む計画。
政府は、中東・アフリカ地域の22カ国・機関で構成する
「アラブ連盟」との関係強化のため、
「日アラブ経済フォーラム」でも水問題を取り上げる方針、
新興国に対する取り組みを本格化。

日本は、汚れた水をろ過するフィルターなど、
個別技術では世界トップレベルにあるが、
プラントの設計、建設、運用といった一貫したサービスを
提供するノウハウに乏しく、海外の水市場に参入できず。
人口減少で、国内の水需要が頭打ちになる中、
政府は水ビジネスの国際展開に向けた体制を
早急に整える必要があると判断。
民主党政権も、「政権交代にかかわらず、
(水ビジネスは)前に動かしていく」(前原誠司国土交通相)
として引き続き、支援に力を入れる方針。

経産省は、企業の水ビジネスを支える専門部署を省内に新設。
上水道の運用ノウハウを持つ地方自治体もメンバーに加えた
「水ビジネス国際展開研究会」の初会合を開き、
海外市場の調査や有力事業の絞り込みに入る。

◇25年には100兆円規模 米、独など相次ぎ参入

水質浄化などの世界の水ビジネス市場は、現在約60兆円規模、
途上国の経済発展と都市化に伴う水需要の急増で、
2025年には100兆円超に拡大。
砂漠化が進むアジア、アフリカ地域では水不足が深刻化、
貧困国支援の側面からも水ビジネスに対する関心が高い。

海外市場は、スエズ(仏)、ヴェオリア(同)、
テムズ・ウオーター(豪)など「水メジャー」と呼ばれる
少数の欧州系企業がシェアを独占、
水ビジネスの成長力に目をつけた米国やドイツ、
インドネシアなどの企業が相次ぎ参入。
政府の全面的な支援を受けた日本勢も加わり、
国際競争が激化。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/10/10/20091010ddm008020095000c.html

農業に学ぶ(9)女子学生 畑で知る命

(読売 10月6日)

女子学生が、農園体験を通して変わっていく。

埼玉県鶴ヶ島市にある女子栄養大学の農園。
女子学生が、“マイ畑”に植えられたサツマイモの草取り。
「根っこを切らないと、草はまた、すぐ伸びてきちゃうのよ」
農園担当の女性職員からのアドバイスに、
麦わら帽子をかぶった学生たちは「なるほど」とうなずく。
3年今田聡子さん(25)は、「雑草も虫もすごい」と驚き、
ツルをひっくり返して草取り作業に没頭。

大学農園は、キャンパスから徒歩10分の住宅街にあり、
広さは約3000平方メートル。
選択科目「農園体験」を履修する学生は、この一画を与えられ、
職員の助言を受けながら野菜作りに挑戦。
決まった時間はなく、授業の合間や放課後に訪れる。

昨年から農業大学校での指導経験を持つ職員が
スタッフに加わり、畑を開墾しなおした。
農園施設に交流スペースも設け、
今年度の履修者は約270人と、昨年度より100人近く増えた。

農作業とは無縁だった女子学生には、強烈な体験。
2年黒木あゆみさん(20)は、「チョウチョも怖くて逃げるぐらい」の
大の虫嫌い。
畑に虫がいるというイメージも少なく受講したが、
野菜に付いた虫が怖くて収穫できず、ほとんどを捨ててしまった。

「育てたものを無駄にしてしまった」
罪悪感から一念発起し、再び挑戦。
虫にも慣れてきた冬のある日、意外な発見。
冬キャベツが、長雨のしばらく後、一部が腐っていた。
葉の間に水がたまっていた。
「雨が降るのは野菜に良い事だと思っていたし、
畑にある限り腐らないと思っていた」
マメな手入れなくして、うまく育たないと知った。

「これまでは、天候不順で野菜の値段が上がると不満だったけど、
農家の苦労が身近になって、納得して買えるようになった」
大根の収穫体験を通して感動したという黒木さんは、
「野菜がどうできているのか、知らない子どもたちが多い。
将来は、食育ボランティアをやりたい」

「園芸」を教育理念の一つとする恵泉女学園大学では、
野菜作りをする「生活園芸」が、
1988年の開学当初からの必修科目。
1年生約450人は1年間、週1回90分、
キャンパスの隣の農場で、牛ふんを使い、草取りなどの
多くの作業が求められる有機栽培に汗を流す。

樋口幸男准教授(47)は、「スーパーの野菜が、
なぜこんなに安いのかと疑問に思うはず。
食の安全安心が問題になるのは、手間暇を惜しんだツケが
回ってきたと気付いてくる」
「自分がいないと育たない命があると感じ、
受け身だった学生が積極的に学ぶようになる」

畑との出会いが、女子学生に大きな財産を残している。

◆農園体験

女子栄養大学では選択科目で、1年間、自分の畑
(1メートル×2メートル)で畑作り、栽培、収穫した農産物の
加工調理まで行う。
農園職員の助言を受けながら、好きな時間に訪れ、
ジャガイモやサツマイモ、白菜、ダイコンなどを育てる。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091006-OYT8T00187.htm

高速料金上限1,000円の景気対策効果

(サイエンスポータル 2009年10月5日)

財団法人運輸調査局が、5人の大学教授・准教授から成る
「高速道路料金引き下げに関する研究会」による報告。

4月1日から8月までの土、日、祝日に遠出した人に、
ウェブアンケートに答えてもらったデータ(28,791サンプル)と、
7月28日-9月15日間に公共交通、物流関連、観光などの
事業者、業界団体27社、6団体、44法人と
都道府県観光担当部局(回答29都道府県)に質問票を郵送、
回答を得たデータをもとに、流動量とCO2排出量舳の影響を試算。

高速道路料金「土、日、祝日上限1,000円」施策を
年間通して実施した場合、年204万トンのCO2が排出増。

日本の運輸部門が、年間に排出するCO2量の0.82%に相当。
高速道路の自家用乗用車利用者数は36.0%増えたと試算、
鉄道利用から替えた人が2.2%、バスから0.4%、航空機からは0.3%、
いつもの一般道路から高速道路利用に替えた、という人は8.4%。
これら振り替え組を除く新規誘発率は24.5%、
4人に一人が「土、日、祝日上限1,000円」施策による
高速道路利用者の“純増”分という結果。

CO2排出増の見返りとなるメリットはどうだったのか?
「景気刺激策としては一定の効果があった」としているものの、
「全国各地の観光地がその恩恵を享受したわけではなく、
地域的に偏りが見られる」、

「観光客が増加した場所も多くは日帰りで、
宿泊消費には必ずしも結びついていない。
客単価もあまり高くない」と、必ずしも高い評価は与えていない。

「一定の効果があった」とする根拠として、
ゴールデンウイーク中に高速道路ETCを利用した人の
一人あたり消費金額が11,663円、

この施策がなかったとした場合に比べ、宿泊施設、商業施設、
観光施設、サービスエリア・パーキングエリア、その他の場所で
いずれも消費金額が上回ったという数字を挙げている。

ガソリン代やレンタカー代も当然増えたので、
施策がなかった場合の消費金額試算値9,949円に比べ、
一人あたり1,714円多くのお金を使ってくれた。
11,663円と9,949円の違い。
これが「相当の」とは言わず、「一定の」効果という評価になった
理由と思われるが、ひとつ気になる点。

消費金額には、道路料金が含まれていること。
料金引き下げで、道路料金は一人あたり1,028円の支出で
収まっており、施策がなかった場合の1,781円より753円少ない。

景気対策(高速料金引き下げ)の効果を見る数字として、
報告書が示した1,714円ではなく、この753円も加えた額、
2,467円が一人あたりの実質的な消費金額増という
比較法はありえないのだろうか。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0910/0910051.html

2009年10月15日木曜日

インタビュー・環境戦略を語る:TDK・上釜健宏社長

(毎日 10月5日)

ハードディスク駆動装置(HDD)用磁気ヘッドや
電圧変換機など、数多くの電子部品を手がけるTDK。
環境に対する15年度までの中長期的な行動計画をまとめた
「TDK環境活動2015」に従い、製品がもたらす環境負荷を
最小化する環境配慮型製品の創出に取り組んでいる。
同社の環境戦略を、上釜健宏社長に聞いた。

--電子部品メーカーとして環境負荷低減に
どのように取り組んでいるか?

TDKには、部材の調達から製品の製造、流通、使用、廃棄、
リサイクルまで含めた「製品ライフサイクル」の各段階ごとに、
「消費エネルギーの削減」、「有害化学物質の排除」、
「資源の有効利用」の観点で評価・採点するための社内基準を設け、
98年から自主的な製品アセスメントを行っている。

--具体的な成果は?

現状では、すべての販売製品がこの基準を満たす
環境配慮型製品になっていて、08年度から基準をさらに厳格化。
基準をクリアした製品を、優良環境製品「ECO LOVE製品」として
認定し、マークを付けて社内外にPR。
「ECO LOVE製品」は、今年4月時点で売上高の15%を
占め、11年度までに倍の30%以上に引き上げる。

--中期経営方針で、「地球環境と人のくらしを豊かにする
特長ある電子材料・部品の提供」を柱に。

具体的には、ハイブリッド車などエコカー向けに
需要が伸びているコンバーター(電圧変換機)。
変圧時、電力が熱となって逃げるのを防ぐ高効率構造で、
同じ性能の他社製品より小型・軽量。
TDKのコンバーターを搭載した車は、重量が軽くなるため、
燃費が向上し、CO2排出量の削減に。
風力発電の風車などにも使われているモーター用の磁石や、
携帯電話などモバイル機器向けのバッテリーも環境性能が高く、
TDKが強みを発揮できる製品。

--今後の課題は?

電子部品メーカーとして、製品そのものの環境性能を
さらに高め、TDKの製品を使うことによって、
納入先の顧客企業のCO2削減にも貢献できる製品を開発し、
PRしていくことが重要。
自社製品の特徴として差別化につながり、収益にもつながる。
政府が掲げる「20年までに温室効果ガス排出量を
90年比25%削減」との目標が議論を呼んでいるが、
善しあしではなく、まずはできるところから
積極的に環境負荷低減に取り組んでいきたい。
==============
◇かみがま・たけひろ

長崎大卒、81年TDK入社。
記録デバイス事業本部技術戦略部長、
ヘッドビジネスグループゼネラルマネジャーなどを経て、
06年6月から現職。鹿児島県出身。51歳。

http://mainichi.jp/select/science/news/20091005ddm008020031000c.html

スポーツ21世紀:新しい波/319 ハンドボールの挑戦/下

(毎日 10月3日)

愛知・枇杷島スポーツセンターで、
ハンドボールの日本リーグが開幕。
昨季王者の大同特殊鋼対湧永製薬の好カード。
観客数はわずかに513人。
翌日も含めた7試合で、1000人を超えたのは3試合、
日本リーグ機構の関係者は「出足が悪いねえ」と不安。

ここ数年、日本リーグの観客数は右肩上がり。
06年、日本のエースの宮崎大輔が運動能力を競う
テレビ番組で、総合優勝したのが転機。
昨年、北京五輪のアジア地区予選で、疑惑の判定とされる
「中東の笛」問題で試合がやり直しになり、
日本で開催された再試合は6000枚のチケットが
即日完売するほど注目。
日本リーグの観客数も、08~09年シーズンは約11万人。
前年よりも2万5000人増加。

しかし、今季は苦戦が予想。
宮崎がスペインリーグのチームに移籍。
宮崎以外にはスター選手はおらず、
川上憲太・日本ハンドボール協会専務理事は、
「お客を呼べるヒーローを育てなければいけない」
集客増を担ってきた中高生が、新型インフルエンザの影響で
試合観戦を自主規制しているのもマイナス要因。

ハンドボールの日本リーグ加盟チームには、地域的な偏り。
男子は、大崎電気が埼玉県に本拠地を置く以外、
7チームが愛知県以西。
女子は、HC名古屋が最も東のチーム。
現在では東京、大阪の2大都市で試合が組めない状態。

逆風の中、協会は今季のプレーオフの会場を
昨年までの駒沢体育館から東京体育館に変更。
収容能力では倍以上に膨らむ。
日本リーグ機構の茂木均事務局長は、
「プレーオフは、観客がまだ見込める。
できるところからチャレンジしていくしかない」と意気込む。

新リーグ「チャレンジ・ディビジョン」の設置や、
プレーオフの会場変更。
「バレーやバスケットと違って、マイナー競技だから、
手をこまねいている時間はない」(協会幹部)。
競技を取り巻く環境に揺れながら、
試行錯誤の挑戦は今後も続く。

http://mainichi.jp/enta/sports/21century/

世界大学ランキング:東大22位、京大25位…英教育誌

(毎日 10月9日)

英教育専門誌、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)は、
今年の「世界大学ランキング」を発表、
日本では東京大が22位(昨年19位)、
京都大が25位(同25位)など計11校が上位200位に入った。

1位は米ハーバード大で、2004年の開始以来
6年連続トップを維持。
2位以下は英ケンブリッジ大、米エール大、
英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の順。

アジアの大学では、香港大が24位(同26位)、
中国の清華大が49位(同56位)などで、東大がアジアのトップを維持。
同誌は、アジアの大学が昨年よりランキングを上げたと指摘。

ランキングは、世界の大学関係者、企業の人事担当者の評価や、
研究論文の引用回数、スタッフ1人当たりの学生数など、
教育力と研究力を総合的に分析して決める。

日本の大学では、大阪大43位(同44位)、
東京工業大55位(同61位)、名古屋大92位(同120位)、
東北大97位(同112位)、慶応大142位(同214位)、
早稲田大148位(同180位)、九州大155位(同158位)、
北海道大171位(同174位)、筑波大174位(同216位)。

http://mainichi.jp/select/science/news/20091010k0000m040036000c.html

農業に学ぶ(8)農村の再生 現場実習

(読売 10月3日)

農学部の学生が、農村に飛び出した。

ビニールハウスには、収穫期を迎えたトマトが並んでいた。
愛媛県の中央に位置する久万高原町。
着古した作業着姿の愛媛大学2年、日野輝将さん(19)が、
ひもで茎を支える作業を手際良くこなしていた。

「トマトが病気になりそうか、弱っていないか。
見逃さないように集中する」と、真剣なまなざしで話す日野さんは、
同大農学部の農山漁村地域マネジメント特別コースの1期生。

同コースは、農山漁村の再生を担う人材育成に特化し、
昨年度から始まった。
地域学や起業論などの講義と並び、農家やJAといった現場や
関係団体での実習を、計34週間も組み込んでいるのが特徴。
今年は、2年生となった同コースの1期生たちが、
本格的な現場実習に初めて参加。
10人が6月から6週間、週5日、県内の農家などに通い、
農作業の手伝いをしたり地域の農家の交流会に参加。

日野さんを受け入れた農家の山之内章さん(45)は、
「農家のありのままの姿を見てほしい」と、
経営状態も隠さず伝えた。
同町出身の日野さんは、「寂れていく地元を何とかしたいと、
このコースを志望した。
生産や流通の課題が具体的に見えてきた」と手応えを感じた様子。

疲弊する地域にどう貢献できるか?
人材育成という大学の使命から考えた」と、
制度設計した前農学部長の泉英二・副学長(62)。
「誇りを持って地域に住み、農家でも役所でも企業でも、
内部から革新できる人材に育ってほしい」と期待。

静岡市葵区の山の急斜面に連なる茶畑。
静岡大学農学部1年の鈴木良子さん(18)が、
黙々とクワで土を掘り起こしていた。
「しっかり育つように掘り起こさないと」と額の汗をぬぐった。

静岡大は、2007年から学生が中山間地域の解決策を探る
「農業環境教育プロジェクト」を進めている。
土日や長期休みを中心に、3年間で約30日、
農村に泊まり込んで生活。
茶摘みなどの農作業を手伝い、運動会などに参加する中、
地域の課題を考える。現在、1~3年73人が参加。

学生が訪れる大代地区は、標高700メートル超の山間部に
12世帯45人が住み、その多くは50歳代以上。
こうした過疎地区が抱える問題について、
「炉ばた環境ゼミ」と題した勉強会も開かれ、
住民、教員、行政担当者らと議論。

担当する鳥山優教授(51)は、
「手間をかけて茶を育てても、農家が価格を決められない
現実を知る。中山間地域の問題はどこでも同じ。
ここでの経験が将来生きるはずだ」と期待。

研究が細分化し、原点である農業から離れていった農学部が、
再び農村と向き合い始めた。

◆農山漁村地域マネジメント特別コース

1学年の定員は10人。
地域を担う意欲がある者を要件にAO方式で選抜。
農業高校の元教員や元市役所職員など、
大学畑ではない教員陣が特徴。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091003-OYT8T00258.htm

2009年10月14日水曜日

五輪:「次はアフリカ」膨らむ夢 全体会議で議論

(毎日 10月6日)

スポーツの課題について議論する
IOC「五輪コングレス」(全体会議)が日程を終えた。
15年ぶりの開催で各国のオリンピック委員会、
国際競技団体などから1249人が参加、
五つのテーマを15の分科会で議論。

盛り上がりを見せたのが、「オリンピック大会」のテーマのもと
開催された「国際性と発展途上国」の分科会。
リオデジャネイロ(ブラジル)が、2016年に南米初の五輪開催を
勝ち取ったことで、大陸で唯一残されたアフリカ諸国にも
五輪開催の期待が広がった。

座長を務めたゴスパー・IOC委員(オーストラリア)は、
「すべての国に開催する権利があるが、
アフリカはまだ行われていない。
現在の招致方法は魅力的かもしれないが、
大陸ローテーションシステムを導入すれば、
すべての国にチャンスが広がる」

アフリカ・オリンピック連盟のパレンフォ会長(コートジボワール)は、
「リオデジャネイロが選ばれたことは、
アフリカにとって夢を与えてくれた」

アフリカ勢の一番の課題は、財政面。
パレンフォ会長は、五輪開催能力を持つ国は
現在南アフリカのみで、規模の小さいユース五輪であれば、
エジプト、アルジェリア、ナイジェリア、セネガル、モロッコ
などが可能と自身の見解を示した。

アフリカでは、五輪運動を推進する活動が広がっている。
ケニアでは、高校で文化や音楽とともに、
ボールゲームや水泳など五輪競技の授業も行っている。
セネガルでは、アフリカ各国から子どもを集めて
さまざまなスポーツを学ぶ「スポーツ文化プログラム」を展開。

パレンフォ会長は、「南アフリカが10年に開くサッカーのW杯
次第では、再び五輪招致の動きが出るかもしれない」
南アフリカのリゾート地ダーバンでは、11年にIOC総会が開かれる。

分科会に出席した猪谷千春IOC副会長は、
今回は、計画よりも期待でリオデジャネイロに決定した。
こうした選び方になれば、アフリカにもチャンスがある。
まずユース五輪などを開催して、それを足がかりにする国も
出てくるかもしれない」

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/news/20091006k0000e050066000c.html

挑戦のとき/16 ユトレヒト大、理論疫学研究員・西浦博さん

(毎日 9月29日)

4月、世界保健機関(WHO)の研究者ネットワークの
メンバーが、参加する緊急の電話会議が開かれた。
数日前、メキシコで新型インフルエンザの流行が始まった。
インフルエンザに詳しい各国の研究者が、
研究すべき内容と方針を議論。

メンバーの一人、西浦さんは専門の理論疫学を使い、
流行のメカニズムの把握と予測、ワクチンなど
公衆衛生対策の有効性の解析に取り組むことに。

感染症の理論疫学は、実際の流行データと数理モデルを
組み合わせ、流行の規模や範囲を推定し、
必要な対策を科学的に提示する研究。

流行中の新型インフルエンザでは、ウイルスの感染力や
致死率などに関する成果が次々公表、
WHOや各国政府の判断に役立っている。

中学生のころ、核融合などの次世代エネルギーに関心を持ち、
神戸市立工業高等専門学校電気工学科に進学。
2年のとき(1995年)、阪神大震災に遭遇。
電気は止まり、夜はやみに包まれた。
「自分が勉強していた電気工学の無力さを痛感。
人々の役に立っていたのが医者だった。
医者はすごい、と率直に思った」

翌年、医大に合格。
途上国支援に取り組む非政府組織(NGO)に参加、
ワクチンの計画的な接種など地道な活動によって、
感染症を封じ込める医師たちを知った。
これをきっかけに臨床現場での治療より、
予防医学の研究にのめり込んだ。

感染症研究で有名なタイの大学へ留学中、
感染症理論疫学の第一人者の英国人研究者に直談判。
「あなたの本を読んで勉強した。私を使ってください」
内心震えながら、1枚の履歴書を手渡した。
その熱意は通じた。
「欧州はこの分野の研究の中心で、
次々と社会に成果を還元している。論文もすきがない」
負けないため、専門ではない数学や統計学を必死で勉強。

今回の新型インフルエンザでは、事前に構築していた
モデルに基づき、致死率や水際対策などの効果について、
次々と論文を発表。
ワクチンの優先順位や、医療体制整備など、
厚生労働省が検討する施策の参考にもなった。

10月から、過去の感染症の記録をひもとき、
新型インフルエンザを含む感染症対策に生かす研究に取り組む。
サンスクリット語などで書かれた古い資料も研究対象。
「英語も得意ではありませんが、あきらめずに資料と向き合えば、
何が書いてあるかが見えてくる。
どこまでも注意深く、あきらめないことです
==============
◇にしうら・ひろし

1977年、大阪市生まれ。02年宮崎医科大卒。
タイ・マヒドン大などを経て、07年から現職。
今年10月から、科学技術振興機構さきがけ研究員。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090929ddm016040124000c.html

科学者ランキング評価の副作用

(日経 2009-10-02)

科学者の研究内容を評価する指標の1つとして、
「H指数」の利用が少しずつ広がっている。

ノーベル賞発表を間近に控え、受賞者の事前予測が
かまびすしいが、そこでもH指数の影がちらつく。
数値で評価が分かりやすくなる半面、研究費の配分などに
安易に使われるようになると、学界に悪影響を及ぼすとの指摘。

H指数は、米カリフォルニア大学の物理学教授、
ジョージ・ハーシュ教授が2005年に開発。
科学者が発表した論文の数とその被引用度をもとに、
研究内容の高低や他の科学者への影響度を定量的に示す。
「H指数が10」は、「10回引用された論文が10本ある」という意味。
論文のデータベース整備とネットの普及がもたらした産物。

掲載が難しい有力誌でなくても、よく引用される論文を
たくさん書いていれば、H指数は高くなる。
引用回数が多くても、論文数が少ない場合や
多くの論文を発表しても引用回数が少なければ、
H指数は低くなる。

自己引用による重複や人数の多い研究分野の方が
有利に働くなどの問題点を含みながらも、
比較的客観的な評価指標として受け入れられ、
トムソン・ロイターやエルゼビアといった有力学術サービス会社が
有償でH指数を提供。

科学が細分化・専門化して、その評価は難しくなっている。
H指数をもとに、研究者のランキングを作れば、
素人でも簡単に誰が優れた研究をしているのかを判定できる。
米国の研究機関では、雇用や昇格の際の判断材料に。

しかし、快く思わない科学者は多い。
「政府や助成機関の関係者は、どうしてこれほどまでに
研究者の数値評価を重視するのか。
そんなに好きなのなら、自分たちの指数を出したらいい」

ノーベル化学賞受賞者の野依良治・理化学研究所理事長は、
研究幹部が集まった会合でこう講演。
聴衆から、思わず賛同の拍手がわき起こった。

プロジェクトへの登用や研究費配分などで、
“客観的”な評価指標を求める風潮は強く、
H指数はそれをさらに加速する。

科学者は、引用されやすい論文を書くことに意識が向き、
腰を落ち着けたテーマに取り組みにくくなる。
研究の最前線では、人物評価をないがしろに行政主導で進める
科学研究に歯止めをかけたい思いは強い。

ノーベル生理学・医学賞を受賞した
利根川進・米マサチューセッツ工科大学教授も、
「論文の被引用度で、研究者の格は分からない。
向かい合って30分言葉を交わせば、それで十分」

かつて、有力科学者の声を採り入れると、
「ボス支配」と批判を受けた。
そんな意見が素通りする大物は、現代の日本にはほとんどいない。
責任を持って人物を評価できる研究リーダーが、
もっと増えてもいいように思う。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec091001.html

2009年10月13日火曜日

敗北の衝撃:16年招致/下 サッカー界も打撃 W杯招致基準「8万席会場」

(毎日 10月8日)

「東京の五輪開催を信じていただけに残念」
2018年、22年W杯招致を目指す日本サッカー協会の
犬飼基昭会長にとって、東京の落選は人ごとではなかった。

理由があった。
国際サッカー連盟(FIFA)は、決勝と開幕戦を、8万席以上の
会場で行うように求めている。
この規模の会場は日本に存在しない。
東京が16年五輪招致に成功すれば、晴海地区に建つ予定の
10万席のメーン会場をW杯にも使える。

協会は、独自にサッカー関係のIOC委員へ
ロビー活動を行うほど、五輪に期待。
今後、約7万2000席ある横浜・日産スタジアムの拡張や
別の方法を模索するが、不況のなか代案は簡単ではない。

FIFAのブラッター会長は、「今の横浜でも決勝は可能」と
助け舟を出すが、施設基準を満たせない計画案では
勝利はおぼつかない。首都で決勝を行えないのもマイナス。

先月、メキシコが資金難を理由にW杯招致から撤退。
「2050年までのW杯単独開催」を公約に掲げる
日本協会は、簡単には手を下ろせない。
「W杯開催地は、直近2大会の開催大陸以外から選ぶ」という
新ルールが作られたため。

10年W杯は南アフリカ、14年W杯はブラジルと決まっており、
その後はアジアにも可能性がある。
犬飼会長は、「立候補できる機会が限られる以上、
チャンスすべてに手を挙げていく」と強調。

来年12月の開催国一括決定へ向け、
いよいよ走り出すが、その道のりは険しい。

19年ラグビーW杯の日本開催が決まっているラグビー界でも、
落胆が広がった。
日本ラグビー協会の真下昇専務理事は、
「16年東京五輪が決まれば、一番いい形だった」と残念がった。

東京五輪が決まれば、国立競技場はラグビーやサッカーの
専用スタジアムに改修する方向で検討が始まっていた。
16年五輪は、7人制ラグビーの実施が有力視。
ラグビーでも、五輪は競技場改修の起爆剤として期待。

収益的にも、観客席は大きいほどいいという真下専務理事は、
「東京が20年五輪に再挑戦してくれれば、
19年に間に合うかもしれない」と期待。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/archive/news/2009/10/08/20091008ddm035050053000c.html

挑戦のとき/15 理化学研究所・上田泰己さん

(毎日 9月8日)

私たち人を含む生物は、24時間で1周期の体内時計を持つ。
構成するのは、約20種類の「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子。
これらが複雑に作用しあい、細胞レベルで正確な時を刻む。
上田さんは、遺伝子が互いにどう影響を与え、
組織立って動いているのかを研究。

通常の化学反応は、温度が上がれば反応速度も上がる。
体内時計は温度が上がっても、リズムは変わらない。
半世紀以上前から、「最大の謎」と考えられてきた。
上田さんは最近、この謎がある種の酵素によるものだと明らかにし、
米科学誌に発表。
「生命の持つ不可思議なことを、自分なりの言葉で語れるように
なりたいと思って研究してきた。今までで一番いい論文」

「生命の不可思議」を意識し始めたのは、サッカー少年だった
小学5年生のころ。
「夕方家に帰ると、ふともの悲しくなる。
なぜなんだろう、と寝る時によく考えていた」

東京大医学部へ進んだのも、「人間の生命の不可思議を、
物理や数学の手法を使って表現したい」と思ったから。
その冷静な語り口は、芸術家のよう。

今の体内時計の研究は、大学3年から取り組む。
大学院では薬理学講座の教授に、
「講座の研究テーマとは違うけれど、この教室は放任主義と聞きました」
と頼み、研究を続けた。
それが実を結び、在学中に理化学研究所から誘いを受け、
今は約20人の研究者を束ねる。
「研究対象の近い人に、学生のころから目をかけてもらい、
いい環境を与えてもらった。恩返ししなきゃと思っています」

学会などで海外へ出かけると、美術館を巡る。
「自分と違うやり方で表現した作品を見るのが面白い」との理由。
そんな表現者の次なる目標は、ずばり「細胞を作ること」

「体内時計の研究を10年ほど続け、答えを出せつつある。
細胞が、どういう物質で構成されているかもわかってきた」
それらを組み合わせて細胞を作れるかと言うと、まだ「できない」

生命科学の限界を超えられないか?
物理や工学、生物学などの若手研究者が集まって、
研究会を05年に設立。
まずは細胞の機能の一部を作ろうと模索。
上の世代の人と同じことをやっても、チャレンジじゃない。
でも細胞を作るのは誰もできなかったこと。希望に満ちています」
どんな結果になるのか、これからも目が離せない。
==============
◇うえだ・ひろき

1975年、福岡市生まれ。
東京大医学部在学中から山之内製薬などで研究員を兼務。
03年から神戸市にある同センターへ。
04年に東京大大学院医学系研究科を修了。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090908ddm016040107000c.html

慢性疲労症候群:マウス白血病「XMRV」ウイルスが原因

(毎日 10月9日)

原因不明の強い疲労が続く「慢性疲労症候群」の患者は、
マウスの白血病ウイルスに近い「XMRV」に
極めて高率で感染していることが、
米国立がん研究所などの分析で分かった。
9日付の米科学誌サイエンスに発表。

同症候群の原因に、ウイルスの過剰増殖による
免疫反応の異常があり、研究チームは
「XMRVが関与している可能性が出てきた」と説明。

血液検査の結果、米国の患者101人のうち68人(67%)で、
XMRVが陽性反応を示した。
健康な人の陽性は218人中8人(3.7%)。

同症候群は、1980年代に米国で確認され、
世界に約1700万人の患者がいると推定。

これまでの研究で、さまざまなストレスにさらされ続けると、
免疫や神経の働きが乱れて発症することが分かっている。

http://mainichi.jp/select/science/news/20091009ddm002040099000c.html

農業に学ぶ(7)育てて実感技術と苦労

(読売 10月1日)

中学校で、作物などの生物の育成を学ぶ授業が必修化。

校庭の隅にずらりと並んだ土入りの米袋。
畑代わりのこの袋に、3年生約30人がそれぞれ
ダイコンやカブの種をまいていた。
大阪府大東市立諸福中学校で行われた
技術・家庭科「作物の栽培」の授業。

授業では、種をまいてから収穫までを学ぶ。
肥料を与えた作物と、与えない作物とを比較して育て、
人が手を加えることで作物が良く育つことを学んだりもする。
生徒らは種をまいた後、作業の説明や感想をプリントに書き込んだ。

木村直哉君(15)は、1学期にはトウモロコシ作りに取り組んだ。
「作物がどうやって育つか知らなかった。
自分で作って食べたものはおいしい」

「栽培」は、現在は技術・家庭科の選択授業だが、
2012年度から施行される新学習指導要領で、
「生物育成に関する技術」と名前を変えて必修化。
選択だと、取り組む学校が少ないこと、
05年に行われた国の意識調査で、「栽培」に対する生徒の意欲が
必修科目に比べて低かったことなどが背景。

「今の子どもたちは、生まれた時から野菜は買ってくるという発想で、
育成過程がブラックボックス化。
体験を通して、そこに込められた技術や苦労を知ることが必要」と
文部科学省の担当者。

作物は、農薬や肥料、バイオテクノロジーなどの技術を使い、
計画的に育てられる。
そうした技術を子どもたちが知り、興味を持てば、
新たな担い手育成につながる。
技術には、環境破壊などの負の側面もあり、
生産者、消費者とも理解を深めることは必須。

無農薬は1個300円、通常栽培は1個30円。
ジャガイモの栽培を通じ、技術について考える授業を行ったのは、
北海道立教育研究所研究研修主事の大西有さん(43)

大西さんは、北海道教育大学付属旭川中学校で、
生徒一人一人に通常栽培と無農薬の二通りで
ジャガイモを育てさせた。
無農薬にすると、雑草が生え、休み時間にも草取りが必要で
手間暇がかかる。
かかった材料費や人件費などを金額に換算したら、
通常に比べて無農薬は約10倍の価格。

「本当に安全な作物を栽培するのはかなり大変」、
「農薬に頼らなくてもたくさん収穫できる技術を開発する必要」
生徒たちは、野菜が安く手に入るのは、
技術のおかげだということを実感。

「農薬も一概に悪いとばかり言えないし、使いすぎてもいけない。
『健康』と『経済性』という二律背反の中で、最適な答えを求める
考え方を、中学校で身に着けることは意義がある」

育てる技術を使いこなすにも、まずは学ぶことが第一歩。

◆生物育成に関する技術

技術・家庭科の選択「作物の栽培」が、名前を変えて必修化。
従来は作物の栽培だったが、対象は魚や動物などの
生物一般にまで拡大。
そうした生物の育成体験を通じて、基本的な知識や技術の習得、
技術を評価し活用する能力を養うことを狙い。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20091001-OYT8T00286.htm

2009年10月12日月曜日

敗北の衝撃:16年招致/中 強化費増額に暗雲 JOC構想「大義」失い

(毎日 10月6日)

IOC総会で、東京五輪の招致に失敗したことは、
スポーツ界にとって、トップ選手強化の「大義」が失われた。

JOCは6月、「強化費を将来性のある選手に特化して配分する」
方針を打ち出した。

上村春樹・選手強化本部長は、
「16年五輪の国別メダル数で3位以内に入るには、
12年ロンドン五輪で5位になっておく必要がある」

ロンドンでは14~16個、幻となった東京で25~30個の金メダルが
必要と具体的な目標も掲げた。
JOCの強化構想は、16年東京五輪を前提に動き出していた。

08年北京五輪で、日本が獲得した金メダルは9個、
国別ランキング8位。

北京五輪までの1年間に各国が投じた選手強化費は、
日本27億円、米国165億円、韓国106億円
(国立スポーツ科学センター、JOC調べ)。
当然、16年東京五輪に向けた強化費増額への期待があった。

スポーツ界は、曲がり角を迎えている。
今夏、日本体育協会やJOCが希望するスポーツ庁の設置などを
盛り込んだ自民、公明両党のスポーツ基本法案が
衆院解散に伴い廃案に。

与党になった民主党のスポーツ振興策は、
「底辺の積み上げでトップ強化を実現する」と、
自民の基本スタンスとは異なる。

JOCの福田富昭副会長は、
「これまでは火山の爆発で溶岩を流れさせ、
底辺を広げようという考え方だった。
この方が『ボトムアップ』の方法より、コストがかからない」と
持論を展開、新政権のスポーツ政策に注目。

JOC内には、政権交代が招致活動に微妙な影響を与えたのでは、
という見方も。
皇太子ご夫妻や鳩山由紀夫首相に、
IOC総会出席を要請する事務折衝を巡って、
瞬時に動けたかという反省。
あるJOC幹部は、「スタート時点で出遅れがあったことは否めない」

政権与党とのパイプ作りという大きな課題を抱えているなかでの
五輪招致失敗は、JOCの強化策にも暗い影を落とす可能性。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/archive/news/2009/10/06/20091006ddm035050135000c.html

農業に学ぶ(6)田舎に宿泊 たくましく

(読売 9月30日)

小学生全員に農山漁村を体験してもらう試みが、
本格的に始まろうとしている。

「うわっ、痛っ」
ナスのとげが指に軽くささり、男の子が声を上げる。
新潟県上越市安塚区の農業滝沢恵さん(66)の畑で、
横浜市立中川西小学校の男子児童4人が、
ナスやキュウリを収穫。
4人は前夜、滝沢さん宅に泊まり、ぎこちなさもとれた様子。
青木祐輔君(12)は、「田舎の人は、助け合って暮らしている」

同小は、上越市でこの「越後田舎体験旅行」を始めて7年目。
今回は、6年生男女168人が参加。
1日目は、宿泊施設に団体で宿泊。
2日目はささだんご作り、ソバ打ちなどの食体験や山歩きの後、
メーンイベントの民泊。

3~4人ごとに、51軒に分泊。
夕朝食を一緒に食べ、田んぼや畑の作業を手伝ったり、
野山を見て回ったりした。
中田亘成君(12)は、「いつもゲームばかりなので、
野菜の収穫など面白かった。
お米も水もおいしいし、泊まった家の人は優しかった」

同行した渡辺文子校長(53)も、「昔ながらの人間関係のある地域で、
自然とともにコミュニケーションを学んでくれたのでは」

小学生が農山漁村に1週間程度、宿泊する政府の
「子ども農山漁村交流プロジェクト」の準備が進められている。
農家か漁家に最低1泊し、人間関係を築く力を
高めてもらおうというもので、2013年度開始が目標。

田舎での宿泊体験は、中川西小のように長年、独自行事として
取り組んできた学校も多い。
東京都武蔵野市は、1995年度から「セカンドスクール」として、
最長で9泊10日の生活体験学習を長野県などで実施。

同プロジェクトの本格開始に先立ち、08年度で178校、
09年度は現時点で約300校が試験的に参加。

今年7月、長野県飯田市で4泊5日の体験宿泊を実施した
横浜市立上大岡小学校では、親元を離れた生活で、
食事、言葉、トイレなどを心配する声。
実施後は、保護者から「自分のことが自分でできるようになった」、
子どもたちの成長ぶりを喜ぶ感想が集まった。

10年以上、子どもたちを宿泊させている上越市の
自営業中島勝義さん(66)は、
「子どもたちの声が響くのは楽しいし、いまだに連絡をくれる子もいる」

生活体験受け入れ実績が11年間に及ぶ
「越後田舎体験推進協議会」の小林美佐子事務局長(49)は、
「春に体験で来て、夏に家族で再訪してくれるケースも。
住民が減り、元気を失いつつある農村が活性化する」

費用面の問題点を挙げる声も多いが、
子どもたちのたくましい成長は、金には換えられない価値を持つ。

◆子ども農山漁村交流プロジェクト

文部科学省が小学校、農林水産省が受け入れ地域の農山漁村、
総務省が特別交付税措置などを担当。
体験に参加するのは、主に5年生の予定。
試行段階の5年間では、委託を受けた推進校の負担は
原則食費のみだが、本格実施以降は自治体の補助割合など、
地域により負担差が出る。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090930-OYT8T00207.htm

25%削減で一般家庭の年間負担36万円とは

(サイエンスポータル 2009年10月1日)

政府の地球温暖化問題に関する閣僚会議が、
温室効果ガス削減目標達成に必要な具体策や費用負担の
試算などにあたる作業チームの設置を決めた。

温室効果ガスを2020年までに25%削減した場合、
家計にどの程度の負担がかかるか再試算する、ことを見出し。
麻生前政権は、「25%削減したら、一般家庭の年間負担は
36万円に上る」という試算を理由の一つに挙げ、
25%削減目標を批判。

鳩山政権は、この批判が的を射たものでないことを
再試算によって示す意向と見られるが、
では年36万円という金額の根拠とはいかなるものか?

日経新聞の塩谷善雄論説委員の記事
「『官』数字を読み解け 役所依存が生む“ご都合”試算」から、
経産省がまとめたというこの試算の中身を見てみた。

「試算では、まず2005年を起点として、
毎年1.3%ほどGDPが伸びると想定し、
排出削減策を全く何も講じなかった場合の2020年のGDP、
可処分所得、光熱費、失業率を予想。
その数字と、25%削減に必要な策を講じた場合に予測される
2020年の数字と比較する。
すると何もしない場合に比べ、25%削減した場合は
20年の可処分所得に22万円の差ができると予想」

この22万円と、光熱費の負担増14万円を加えると、
2020年の一般家庭の負担増は36万円に、
というのが試算の内容。

これがいかに誤解や曲解を広げやすい試算であるかを、
塩谷論説委員は次のように書いている。
「(試算は)毎年1.3%ずつGDPが伸びるという前提なので、
現在と比べ、25%排出削減しても可処分所得の絶対額は
70万円以上増える勘定」

ここまで解説されれば、「それを先に言ってよ」と思う人は多い。

http://www.scienceportal.jp/news/review/0910/0910011.html

2009年10月11日日曜日

敗北の衝撃:16年招致/上 JOC、世界で動けず 五輪の夢、都庁頼り

(毎日 10月5日)

「JOCがもっと強くならないとダメだ。
推進力のある若手を、IOC中枢に送り込まなければ」
16年五輪開催都市を決めるIOC総会から帰国した
石原慎太郎東京都知事は、JOCを痛烈に批判。

52年ぶりの夏季五輪開催を目指した今回の招致活動で、
主体的な役割を担ったのは、東京都。
JOCの役割分担は、「都の手が回らない部分」
(市原則之JOC専務理事)で、あくまで東京都の活動を
補完する役割にとどまっていた。

実際、「最後のお願い」となったコペンハーゲンでのロビー活動は、
石原知事や河野一郎・招致委員会事務総長らが中心。
石原知事は、「開催地選考に必要なのは、(IOCが求める)
いくつかの条件を備えることだけではない。
かつての自民党総裁選のような、
目に見えない政治的な動きがある」

市原専務理事は、石原知事の指摘について、
「(国際舞台での発言力は)我々も課題だと感じている。
今回、招致活動の過程で、リオデジャネイロに風が吹いてきた、
と感じる場面があった。
そういう風を、起こしたり止めたりする場所に、人材がいなければ」

98年開催された長野冬季五輪の招致活動では、
スポーツ界に強い影響力があった堤義明氏や
国際卓球連盟会長だった故荻村伊智朗氏らが、
IOCのサマランチ会長(当時)とパイプを持っていた。

日本の五輪実施競技団体の中で、
「国際競技団体要職への足掛かりになる」(JOC関係者)という
アジア連盟の会長を出しているのは現在、カヌーだけ。
豊富な資金力を背景に、中東勢が力をつけるなか、
日本の国際的な地位が低下していることは否定できない。

「20年五輪に再挑戦してほしい」という声が
早くも起こり始めたスポーツ界は、
コペンハーゲンで「次」を目指すための課題を
突きつけられたことを忘れてはならない。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/archive/news/2009/10/05/20091005ddm035050141000c.html

ノーベル賞:化学賞、3氏に たんぱく質合成、リボソーム構造解明

(毎日 10月8日)

09年ノーベル化学賞を、英MRC分子生物学研究所の
ベンカトラマン・ラマクリシュナン博士(57)、
米エール大のトーマス・スタイツ教授(69)、
イスラエルのワイツマン科学研究所のアダ・ヨナット博士(70)
3氏に授与する。

授賞理由は、「リボソームの構造と機能の解明
賞金1000万スウェーデン・クローナ(約1億3200万円)が
3氏に等分で贈られる。

ヨナット博士は70年代から、X線を使ったリボソームの
構造解明に取り組んだ。
当時、解析に向いた結晶を作ることは非常に困難と考えられ、
同博士が解決の糸口を見いだし、研究者の競争が活発化。

3氏は、ほぼ同時に細菌のリボソームの構造を
原子レベルで特定し、2000年に発表。
細菌のリボソームに抗生物質が結合し、
その働きを阻害する様子を解明。

抗生物質は繰り返し使うと、細菌が抵抗力を持つので、
新型の抗生物質をより簡単に設計することに貢献。

リボソームでは、酸素を運ぶ血中のヘモグロビンや、
血糖値を調節するインスリンなど、生命活動の維持に
不可欠な物質が合成。

渡辺公綱・東京大名誉教授(分子生物学)は、
「巨大な構造を、X線で解き明かした意味は大きい。
遺伝子からたんぱく質が作られる過程の、
最後の部分の謎が解明された」
==============
◇リボソーム

あらゆる生物の細胞内にある小器官。
大きさは約25ナノメートル(ナノは10億分の1)で、
DNAにある遺伝情報を「mRNA」と呼ばれる分子がコピーし、
それを基にリボソームの中でさまざまなたんぱく質が合成。
「たんぱく質の合成工場」とも呼ばれる。

http://mainichi.jp/select/science/news/20091008ddm003040146000c.html

農業に学ぶ(5)田畑で育む思いやり

(読売 9月29日)

田畑を教室にして、知恵や心を育む小学校がある。

学校の近くにある畑で、小学5年の児童14人が、
地元農家の指導を受けながら白菜の苗を植えていた。

「これ、何?」
突然、男子児童が、かけらをつまみ上げて、農家の1人に聞いた。
「カニの殻。土にいる微生物の餌になるんだよ」

畝の上にトンネル型の枠を組み立て、目の細かいネットで覆う。
質問が飛んだ。「なんで網をかぶせるの?」
「風よけと、虫よけのため。
チョウチョが卵を産み、枯らしてしまうこともあるんだ」
児童たちは、新しい発見をして学校に戻っていった。

ラーメンによる街おこしで有名な福島県喜多方市。
田園地帯にある市立慶徳小学校は、
今年度から農業の授業を始めた。

喜多方市は2007年度、政府の教育特区として、
小学校では全国初の「農業科」を設けた。
3~6年の児童が年間を通して田畑に立ち、土作りや除草といった
農業のイロハのほか、自然とのかかわりを学ぶ。
18校のうち14校が導入済み、2年後すべての小学校で実施。

きっかけは、白井英男市長(66)が3年前、
たまたま目にした新聞記事。
生命科学者で、JT生命誌研究館館長の中村桂子さん(73)が、
農業を小学校の必修にするべきだと唱えた内容。

「これは特区でできるのではないか」
白井市長のひらめきに、教育委員会の職員たちは
最初こそ「本当にできるのか」と戸惑った。
指導計画も副読本もなく、一から授業の準備をしなければならない。

いくつか農業高校を視察しているうちに、可能性を感じた。
中学校で不登校だった生徒が、高校で農業と出会い、
1日も休まず学校に通い続けたという話を、何度も聞いた。

農業教育の必要性を説く中村さんは、
農業のいいところは、思い通りにならないこと。
いくら素晴らしい農業をしても、台風が来たら、かなわない。
自然の力はすごくて、あるときは負けても仕方ないと思うことで、
人間らしい気持ちが育つ」

08年度、農業科を導入した市立上三宮小学校でも、
1年間で、小さな変化があった。
全校のドッジボール大会を企画するとき、6年生が率先して
ルールづくりを提案。
児童数68人の同小では、学年混合でチームを組む。
6年生が低学年にボールを投げる場合、力の差は歴然。
そこで、利き腕とは反対の腕で投げる決まりを考えた。

周りに泥がはねないよう、静かに田んぼに足を入れる。
下級生がたくさんの稲を抱えていたら、上級生が持ってあげる。
児童は、思いやる行為を農業で自然と学び、
田畑の外でも行動に移していた。

「農業の授業を通して、チームワークで働く喜びと気配りの大切さを
体で覚え、その姿勢が学校現場にも広がりつつある」と、
小関れい子校長(53)は実感。

先駆的な授業に、喜多方市が挑んで2年半。
耕し、まいた種は、少しずつ芽生えている。

◆教育特区

地域限定で、規制を緩和する構造改革特区制度を活用し、
教育分野で認定を受けた特区。件数は109件。
小学校での英語教育や小中一貫教育の内容が多い。
学習指導要領の改定で、2009年度から総合的な学習で
農業を学べるようになり、喜多方市は特区から外れた。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090929-OYT8T00321.htm

女性の体重は健康な加齢に関連

(2009年10月7日 WebMD)

女性にとって、70歳のときに健康である確率は、
18-50歳の間に体重があまり増加せず、
50歳のときに肥満していない人たちが最も高い。
『BMJ』オンライン早版に掲載。

過体重や肥満の中年女性はきわめて多数に上り、
過去に戻って体重を変えることはできない。

ハーバード大学公衆衛生学部栄養科のQi Sunは、
これらの女性たちに、健康に年を取る可能性を諦めてほしくない。

「我々の論文の重要なメッセージは、まだ長い健康な人生を
楽しむため、女性たちは成人期を通じて健康的な体重を
維持する必要がある」

「健康に生存する可能性を最大にするため、
(安全かつ健康的な方法で)減量に取り組むのに遅すぎることはない」

Sun博士は、体重に関係なく、身体をよく動かすことは
健康的な習慣であると指摘。
「重要なのは、現在の体重にかかわらず、後の人生で素晴らしい
健康状態を維持する確率を高めるため、
既に50歳の女性でも身体活動が有効である

「健康な生存の確率を最大にするための最善の方法は、
成人期を通じて少なくとも適度の身体活動の水準と
健康的な体重を維持すること」

Sun博士は、この研究で「健康な生存者(healthy survivors)」に
焦点を当てている。
健康な生存者とは、以下の項目に該当せず、
70歳まで生きた被験女性のためにSun博士らが作った言葉。

・癌(非黒色腫皮膚癌を除く)
・糖尿病
・心臓発作
・冠動脈バイパス術
・うっ血性心不全
・脳卒中
・腎不全
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・パーキンソン病
・多発性硬化症
・筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリック病)
・知的技能(mental skills)の大きな損傷
・身体機能の大きな制限
・良好ではない精神保健(精神保健調査のスコアに基づく)

データは、米国の女性看護士121,700名の長期健康調査による。
女性たちは、年齢が30-55歳であった1976年から10年間、
2年に1回、身長、体重、健康状態、生活習慣に関する質問に答えた。
約17,000名の女性が、70歳の時点で依然として生存、
Sun博士の研究チームが研究するためのデータは十分。

これらの女性のうち、健康な生存者と評価されたのはわずか10%。
50歳のとき肥満だった女性は、50歳のときBMIが
正常の女性と比べ、健康な生存者である確率が79%低い。
これらの女性では、18-50歳の間の体重の変化が
(その後の健康な生存にとって)最も重要。

18歳のとき過体重(必ずしも肥満ではない)で、
50歳までに10kg(約22ポンド)以上増加した女性は、
健康な生存者となる確率が最も低かった。

これらの女性のうち、健康な生存者になったのはわずか18%。
18-50歳の間に増加した体重が多いほど、
女性は健康な生存者になる可能性が低かった。

この研究では、体重が女性の延命に影響を及ぼすことは
証明されていない。
観察的研究では、原因や効果を証明することはできない。
対象とした看護士は、全ての女性を代表していない可能性がある。

この結果は、次のような因子について補正すれば有効。
研究参加時の女性の年齢、教育水準、配偶者の有無、
夫の教育水準、閉経後のホルモン使用、喫煙、
種々の食生活パターン、心疾患・糖尿病・癌の家族歴、身体活動。

womens-weight-tied-to-healthy-aging

http://www.m3.com/news/SPECIALTY/2009/10/7/108845/