(毎日 9月29日)
4月、世界保健機関(WHO)の研究者ネットワークの
メンバーが、参加する緊急の電話会議が開かれた。
数日前、メキシコで新型インフルエンザの流行が始まった。
インフルエンザに詳しい各国の研究者が、
研究すべき内容と方針を議論。
メンバーの一人、西浦さんは専門の理論疫学を使い、
流行のメカニズムの把握と予測、ワクチンなど
公衆衛生対策の有効性の解析に取り組むことに。
感染症の理論疫学は、実際の流行データと数理モデルを
組み合わせ、流行の規模や範囲を推定し、
必要な対策を科学的に提示する研究。
流行中の新型インフルエンザでは、ウイルスの感染力や
致死率などに関する成果が次々公表、
WHOや各国政府の判断に役立っている。
中学生のころ、核融合などの次世代エネルギーに関心を持ち、
神戸市立工業高等専門学校電気工学科に進学。
2年のとき(1995年)、阪神大震災に遭遇。
電気は止まり、夜はやみに包まれた。
「自分が勉強していた電気工学の無力さを痛感。
人々の役に立っていたのが医者だった。
医者はすごい、と率直に思った」
翌年、医大に合格。
途上国支援に取り組む非政府組織(NGO)に参加、
ワクチンの計画的な接種など地道な活動によって、
感染症を封じ込める医師たちを知った。
これをきっかけに臨床現場での治療より、
予防医学の研究にのめり込んだ。
感染症研究で有名なタイの大学へ留学中、
感染症理論疫学の第一人者の英国人研究者に直談判。
「あなたの本を読んで勉強した。私を使ってください」
内心震えながら、1枚の履歴書を手渡した。
その熱意は通じた。
「欧州はこの分野の研究の中心で、
次々と社会に成果を還元している。論文もすきがない」
負けないため、専門ではない数学や統計学を必死で勉強。
今回の新型インフルエンザでは、事前に構築していた
モデルに基づき、致死率や水際対策などの効果について、
次々と論文を発表。
ワクチンの優先順位や、医療体制整備など、
厚生労働省が検討する施策の参考にもなった。
10月から、過去の感染症の記録をひもとき、
新型インフルエンザを含む感染症対策に生かす研究に取り組む。
サンスクリット語などで書かれた古い資料も研究対象。
「英語も得意ではありませんが、あきらめずに資料と向き合えば、
何が書いてあるかが見えてくる。
どこまでも注意深く、あきらめないことです」
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◇にしうら・ひろし
1977年、大阪市生まれ。02年宮崎医科大卒。
タイ・マヒドン大などを経て、07年から現職。
今年10月から、科学技術振興機構さきがけ研究員。
http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090929ddm016040124000c.html
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