2009年10月14日水曜日

科学者ランキング評価の副作用

(日経 2009-10-02)

科学者の研究内容を評価する指標の1つとして、
「H指数」の利用が少しずつ広がっている。

ノーベル賞発表を間近に控え、受賞者の事前予測が
かまびすしいが、そこでもH指数の影がちらつく。
数値で評価が分かりやすくなる半面、研究費の配分などに
安易に使われるようになると、学界に悪影響を及ぼすとの指摘。

H指数は、米カリフォルニア大学の物理学教授、
ジョージ・ハーシュ教授が2005年に開発。
科学者が発表した論文の数とその被引用度をもとに、
研究内容の高低や他の科学者への影響度を定量的に示す。
「H指数が10」は、「10回引用された論文が10本ある」という意味。
論文のデータベース整備とネットの普及がもたらした産物。

掲載が難しい有力誌でなくても、よく引用される論文を
たくさん書いていれば、H指数は高くなる。
引用回数が多くても、論文数が少ない場合や
多くの論文を発表しても引用回数が少なければ、
H指数は低くなる。

自己引用による重複や人数の多い研究分野の方が
有利に働くなどの問題点を含みながらも、
比較的客観的な評価指標として受け入れられ、
トムソン・ロイターやエルゼビアといった有力学術サービス会社が
有償でH指数を提供。

科学が細分化・専門化して、その評価は難しくなっている。
H指数をもとに、研究者のランキングを作れば、
素人でも簡単に誰が優れた研究をしているのかを判定できる。
米国の研究機関では、雇用や昇格の際の判断材料に。

しかし、快く思わない科学者は多い。
「政府や助成機関の関係者は、どうしてこれほどまでに
研究者の数値評価を重視するのか。
そんなに好きなのなら、自分たちの指数を出したらいい」

ノーベル化学賞受賞者の野依良治・理化学研究所理事長は、
研究幹部が集まった会合でこう講演。
聴衆から、思わず賛同の拍手がわき起こった。

プロジェクトへの登用や研究費配分などで、
“客観的”な評価指標を求める風潮は強く、
H指数はそれをさらに加速する。

科学者は、引用されやすい論文を書くことに意識が向き、
腰を落ち着けたテーマに取り組みにくくなる。
研究の最前線では、人物評価をないがしろに行政主導で進める
科学研究に歯止めをかけたい思いは強い。

ノーベル生理学・医学賞を受賞した
利根川進・米マサチューセッツ工科大学教授も、
「論文の被引用度で、研究者の格は分からない。
向かい合って30分言葉を交わせば、それで十分」

かつて、有力科学者の声を採り入れると、
「ボス支配」と批判を受けた。
そんな意見が素通りする大物は、現代の日本にはほとんどいない。
責任を持って人物を評価できる研究リーダーが、
もっと増えてもいいように思う。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec091001.html

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