2009年10月13日火曜日

挑戦のとき/15 理化学研究所・上田泰己さん

(毎日 9月8日)

私たち人を含む生物は、24時間で1周期の体内時計を持つ。
構成するのは、約20種類の「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子。
これらが複雑に作用しあい、細胞レベルで正確な時を刻む。
上田さんは、遺伝子が互いにどう影響を与え、
組織立って動いているのかを研究。

通常の化学反応は、温度が上がれば反応速度も上がる。
体内時計は温度が上がっても、リズムは変わらない。
半世紀以上前から、「最大の謎」と考えられてきた。
上田さんは最近、この謎がある種の酵素によるものだと明らかにし、
米科学誌に発表。
「生命の持つ不可思議なことを、自分なりの言葉で語れるように
なりたいと思って研究してきた。今までで一番いい論文」

「生命の不可思議」を意識し始めたのは、サッカー少年だった
小学5年生のころ。
「夕方家に帰ると、ふともの悲しくなる。
なぜなんだろう、と寝る時によく考えていた」

東京大医学部へ進んだのも、「人間の生命の不可思議を、
物理や数学の手法を使って表現したい」と思ったから。
その冷静な語り口は、芸術家のよう。

今の体内時計の研究は、大学3年から取り組む。
大学院では薬理学講座の教授に、
「講座の研究テーマとは違うけれど、この教室は放任主義と聞きました」
と頼み、研究を続けた。
それが実を結び、在学中に理化学研究所から誘いを受け、
今は約20人の研究者を束ねる。
「研究対象の近い人に、学生のころから目をかけてもらい、
いい環境を与えてもらった。恩返ししなきゃと思っています」

学会などで海外へ出かけると、美術館を巡る。
「自分と違うやり方で表現した作品を見るのが面白い」との理由。
そんな表現者の次なる目標は、ずばり「細胞を作ること」

「体内時計の研究を10年ほど続け、答えを出せつつある。
細胞が、どういう物質で構成されているかもわかってきた」
それらを組み合わせて細胞を作れるかと言うと、まだ「できない」

生命科学の限界を超えられないか?
物理や工学、生物学などの若手研究者が集まって、
研究会を05年に設立。
まずは細胞の機能の一部を作ろうと模索。
上の世代の人と同じことをやっても、チャレンジじゃない。
でも細胞を作るのは誰もできなかったこと。希望に満ちています」
どんな結果になるのか、これからも目が離せない。
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◇うえだ・ひろき

1975年、福岡市生まれ。
東京大医学部在学中から山之内製薬などで研究員を兼務。
03年から神戸市にある同センターへ。
04年に東京大大学院医学系研究科を修了。

http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090908ddm016040107000c.html

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