(毎日 9月8日)
私たち人を含む生物は、24時間で1周期の体内時計を持つ。
構成するのは、約20種類の「時計遺伝子」と呼ばれる遺伝子。
これらが複雑に作用しあい、細胞レベルで正確な時を刻む。
上田さんは、遺伝子が互いにどう影響を与え、
組織立って動いているのかを研究。
通常の化学反応は、温度が上がれば反応速度も上がる。
体内時計は温度が上がっても、リズムは変わらない。
半世紀以上前から、「最大の謎」と考えられてきた。
上田さんは最近、この謎がある種の酵素によるものだと明らかにし、
米科学誌に発表。
「生命の持つ不可思議なことを、自分なりの言葉で語れるように
なりたいと思って研究してきた。今までで一番いい論文」
「生命の不可思議」を意識し始めたのは、サッカー少年だった
小学5年生のころ。
「夕方家に帰ると、ふともの悲しくなる。
なぜなんだろう、と寝る時によく考えていた」
東京大医学部へ進んだのも、「人間の生命の不可思議を、
物理や数学の手法を使って表現したい」と思ったから。
その冷静な語り口は、芸術家のよう。
今の体内時計の研究は、大学3年から取り組む。
大学院では薬理学講座の教授に、
「講座の研究テーマとは違うけれど、この教室は放任主義と聞きました」
と頼み、研究を続けた。
それが実を結び、在学中に理化学研究所から誘いを受け、
今は約20人の研究者を束ねる。
「研究対象の近い人に、学生のころから目をかけてもらい、
いい環境を与えてもらった。恩返ししなきゃと思っています」
学会などで海外へ出かけると、美術館を巡る。
「自分と違うやり方で表現した作品を見るのが面白い」との理由。
そんな表現者の次なる目標は、ずばり「細胞を作ること」
「体内時計の研究を10年ほど続け、答えを出せつつある。
細胞が、どういう物質で構成されているかもわかってきた」
それらを組み合わせて細胞を作れるかと言うと、まだ「できない」
生命科学の限界を超えられないか?
物理や工学、生物学などの若手研究者が集まって、
研究会を05年に設立。
まずは細胞の機能の一部を作ろうと模索。
「上の世代の人と同じことをやっても、チャレンジじゃない。
でも細胞を作るのは誰もできなかったこと。希望に満ちています」
どんな結果になるのか、これからも目が離せない。
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◇うえだ・ひろき
1975年、福岡市生まれ。
東京大医学部在学中から山之内製薬などで研究員を兼務。
03年から神戸市にある同センターへ。
04年に東京大大学院医学系研究科を修了。
http://mainichi.jp/select/science/rikei/news/20090908ddm016040107000c.html
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