(読売 9月29日)
田畑を教室にして、知恵や心を育む小学校がある。
学校の近くにある畑で、小学5年の児童14人が、
地元農家の指導を受けながら白菜の苗を植えていた。
「これ、何?」
突然、男子児童が、かけらをつまみ上げて、農家の1人に聞いた。
「カニの殻。土にいる微生物の餌になるんだよ」
畝の上にトンネル型の枠を組み立て、目の細かいネットで覆う。
質問が飛んだ。「なんで網をかぶせるの?」
「風よけと、虫よけのため。
チョウチョが卵を産み、枯らしてしまうこともあるんだ」
児童たちは、新しい発見をして学校に戻っていった。
ラーメンによる街おこしで有名な福島県喜多方市。
田園地帯にある市立慶徳小学校は、
今年度から農業の授業を始めた。
喜多方市は2007年度、政府の教育特区として、
小学校では全国初の「農業科」を設けた。
3~6年の児童が年間を通して田畑に立ち、土作りや除草といった
農業のイロハのほか、自然とのかかわりを学ぶ。
18校のうち14校が導入済み、2年後すべての小学校で実施。
きっかけは、白井英男市長(66)が3年前、
たまたま目にした新聞記事。
生命科学者で、JT生命誌研究館館長の中村桂子さん(73)が、
農業を小学校の必修にするべきだと唱えた内容。
「これは特区でできるのではないか」
白井市長のひらめきに、教育委員会の職員たちは
最初こそ「本当にできるのか」と戸惑った。
指導計画も副読本もなく、一から授業の準備をしなければならない。
いくつか農業高校を視察しているうちに、可能性を感じた。
中学校で不登校だった生徒が、高校で農業と出会い、
1日も休まず学校に通い続けたという話を、何度も聞いた。
農業教育の必要性を説く中村さんは、
「農業のいいところは、思い通りにならないこと。
いくら素晴らしい農業をしても、台風が来たら、かなわない。
自然の力はすごくて、あるときは負けても仕方ないと思うことで、
人間らしい気持ちが育つ」
08年度、農業科を導入した市立上三宮小学校でも、
1年間で、小さな変化があった。
全校のドッジボール大会を企画するとき、6年生が率先して
ルールづくりを提案。
児童数68人の同小では、学年混合でチームを組む。
6年生が低学年にボールを投げる場合、力の差は歴然。
そこで、利き腕とは反対の腕で投げる決まりを考えた。
周りに泥がはねないよう、静かに田んぼに足を入れる。
下級生がたくさんの稲を抱えていたら、上級生が持ってあげる。
児童は、思いやる行為を農業で自然と学び、
田畑の外でも行動に移していた。
「農業の授業を通して、チームワークで働く喜びと気配りの大切さを
体で覚え、その姿勢が学校現場にも広がりつつある」と、
小関れい子校長(53)は実感。
先駆的な授業に、喜多方市が挑んで2年半。
耕し、まいた種は、少しずつ芽生えている。
◆教育特区
地域限定で、規制を緩和する構造改革特区制度を活用し、
教育分野で認定を受けた特区。件数は109件。
小学校での英語教育や小中一貫教育の内容が多い。
学習指導要領の改定で、2009年度から総合的な学習で
農業を学べるようになり、喜多方市は特区から外れた。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20090929-OYT8T00321.htm
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