(サイエンスポータル 2009年10月9日)
「CO2排出削減とエネルギー安定供給を両立させた
低炭素社会の実現は可能」
日本原子力研究開発機構の報告会で、岡崎俊雄理事長が
検討結果を引用し、力強く語った。
理事長自ら、低炭素社会実現への意欲とともに、同機構の進める
高速増殖炉、高温ガス炉、核融合開発の重要性をPR。
岡崎理事長が根拠としたのは、同機構内の検討チームが
報告書「2100年原子力ビジョン-低炭素社会への提言-」
2100年にどのような社会を想定し、それまでの社会の変化を
どのように見ているのだろうか?
国際的な目標、2050年CO2排出量50%削減は可能で、
2100年には90%削減も実現可能、としている。
CO2を減らすだけでなく、日本原子力研究開発機構が開発を進める
技術により、製造業重視という日本の基本的生き方を変えず、
エネルギーの安定供給も実現できる、としている。
「化石燃料の可採年数、発電設備や産業分野での大規模製造設備
(高炉や化学コンビナート)等の耐用年数などを考慮すれば、
超長期的に持続可能なエネルギー需給構造への転換には
少なくとも今後100 年間以上を要する」
多くの議論が、2050年まで段階的に削減率を50%に高めることを
目指すのに対し、最初から2100年時点の社会を想定し、
エネルギー供給構造と低炭素社会への道筋を描き出している。
CO2排出量を90%削減できる、とされた2100年の
日本のエネルギー構造とはどのようなものだろうか?
最終的なエネルギー消費は、電力が62%と大幅に増加し、
水素が8%を占める。
自動車も、水素燃料電池自動車か充電式電気自動車に置き換わる。
電力を作り出すエネルギーは、CO2を出さない原子力と
再生可能エネルギーが主となり、化石燃料を使う場合、
CCS(CO2回収・貯留)システムの導入でCO2排出を抑える。
発電電力量に占める原子力のシェアは、軽水炉が18%に低下、
高速増殖炉35%、核融合炉14%、全体の67%を占める。
1次エネルギーとしての化石燃料利用は、
2100年時点でも全体の約30%を占め、埋蔵量の少ない石油は
4%にまで激減、天然ガス15%、石炭11%。
現在、化石燃料の利用は発電用燃料に限らない。
石油や石炭の代替エネルギーとなる水素を、化石燃料から
製造していたのでは解決にならないため、
原子力を利用する高温ガス炉がこの役目を肩代わり。
水素燃料電池車両用のほか、製鉄産業に使われているコークス
(原料は石炭)の代替品、化学コンビナートの原料として水素を供給。
軽水炉を、徐々に高速増殖炉に置き換え、
ウラン資源の利用効率を一挙に高めるシナリオ。
地球環境問題への対応、温室効果ガス削減に、
原子力の活用は不可欠という声は高く、
この報告書の提言の意味は少なくない。
原子力関係者の報告書は、技術的可能性を重視するあまり、
実現性についての幅広い考察、検討に欠ける嫌い。
過去の原子力に関する長期計画のたぐいが、
どれほど現実に合っていたかを考え、
この報告書も、幅広い分野の人々の評価にさらされる必要がありそう。
ひとつ指摘すると、2100年の日本は人口がどのくらいと推定か?
報告書は、厚生労働省・国立社会保障・人口問題研究所の
「日本将来推計人口 平成18年12月推計」の推計値を引いている。
それも出生数が多く、死亡数が中位、多い方の推計値。
6,407千万人と日本の人口は今の半分に減っており、
65歳以上が35.1%を占める。
「製造業を中心とするわが国の現在の産業構造が
基本的に維持される」、
「人口一人当たりのGDP が2004年比2倍に増大している」
といった2100年の日本像が、この報告書の前提。
今から半減する人口構成で、こうした報告書の前提が、
簡単に実現するものか。
実用化にまだほど遠いとみられる核融合はもちろん、
長い開発中断の高速増殖炉の実用化だけを見ても、
これから相当の人材、開発資金を投じなければならない。
低炭素社会の実現は、多くの人々の意識と社会のありようを
変えないとどうにもならない。
http://www.scienceportal.jp/news/review/0910/0910091.html
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