2010年1月16日土曜日

夢を紡ぐ:地球に優しい新技術/4 CCS(CO2の分離回収)

(毎日 1月8日)

◇「世界に必要」強く自負--
関西電力環境技術研究センター・八木靖幸さん(46)

天然ガスを燃やす南港発電所(大阪市)の煙突から、白い煙。
「これが、CO2を取り出せる『KS-1』」と八木さん。
発電所に隣接する実証実験プラントに備え付けの蛇口を
ひねると、黄色い液体がフラスコに注がれた。
工場など排ガスから、CO2を9割回収できる化学吸収液。

関電は90年、全国に先駆け、CO2分離・回収技術の研究を、
三菱重工業と始めた。
火力発電所が出す、CO2削減技術開発が急務。

排ガスのCO2回収法は、複数ある。
着目したのは、低温でCO2と結合、高温で分離する性質を持つ、
弱アルカリ性のアミン系水溶液を使う化学吸収法。
発電所の排ガスを回収施設のタンクに引き入れ、
40度で液体を振りかけ、CO2を吸着。
次に、別タンクの蒸気で120度に熱し、CO2を分離・回収。

八木さんら研究員の仕事は、数百種類ものアミンから
CO2の吸収、分離に適した液体を探すこと。
耐久性など、ハードルをクリアした液体とプラントは、
99年マレーシアの肥料工場に導入。
排出されるCO2を回収し、肥料の原料などとして
再利用する技術は、世界9カ所で使われる。

課題は残っている。
CCS(CO2分離回収・貯留技術)のコストは、
全工程でCO21トン当たり約7000円、
排出量取引市場の倍以上。
液の開発競争も激化する中、性能の高い液を探す研究が続く。

膨大な測定作業は、「進んでは壁にぶつかり、家でも悩む日々」
3年前、3項目のデータから液の性能を予測できる計算式を開発。
候補液を早く絞り込め、少ない熱でCO2分離できる液の発見に。
「耐久性などを検証し、早く実用化したい」

昨年12月、国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議
(COP15)で、CCSは途上国への技術協力による削減分を、
先進国の削減にあてる仕組み「CDM(クリーン開発メカニズム)」
の対象に決まった。
「世界の温暖化防止に欠かせない技術。やりがいを感じる」
地球規模で活用を見すえている。
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◇CCS(CO2の分離回収)

「カーボン・キャプチャー&ストレージ」の頭文字、
CO2の分離回収・貯留技術。
工場などの排ガスからCO2を取り出し、地中や海底に埋める技術、
CO2大幅削減が可能。
国際エネルギー機関(IEA)は、50年に年約100億トンの
CO2削減が可能と試算。
日本には、1500億トンが貯留可能とされ、
「日本CCS調査」が貯留候補地を調査中。
政府は、20年の実用化を目指す。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/01/08/20100108ddm008020052000c.html

<究める>一流生む自由な気風 恩師の教え今も

(2010年1月4日 読売新聞)

免疫学の世界的権威 岸本忠三・元大阪大学長

科学技術予算の削減が昨年、検討されたが、
科学技術が我が国の将来を支える礎の一つであることは、
誰もが認める。
日本には、世界に誇れる研究がある。
トップを究め、リードする科学者たちを連載で紹介。

「上の奴は蹴散らかしてええ。下の奴こそ大事にせえ」。
1962年春、一人の男が大阪大に戻ってきた。
九州大から、第3内科教授として母校に来た、山村雄一(1918~90)。
大阪・中之島にあった医学部。
薄暗い研究室に檄が飛んだ。

関節リウマチの治療に道を開いた、免疫学の世界的権威となった
岸本は当時、阪大医学部5年。
その時の衝撃をこう振り返る。「人生変わりましたわ」

医学界の陰を描いた山崎豊子の小説「白い巨塔」の連載が
始まったのは、翌63年。
当時、第1内科と第1外科の教授を頂点にした、
まさに小説の「浪速大学」通りの閉鎖的な階層社会で、
〈出る杭〉は決して許されない雰囲気。

岸本の子どもの頃のヒーローは、野口英世と湯川秀樹。
2人のような研究者を目指したが、講義は暗記ばかり。
入学後、「優秀な若者を平凡にしてしまう学部」との陰口も。

失望の中で出会ったのが、山村だった。
免疫学の草分けだが、旧海軍軍医上がりの豪放磊落な性格。
講義では、世界の最前線を走る自分の研究をいつも熱く語った。
「先生の講義に、ほんまに感動してこの人についていこう」と、
第3内科の門をたたく。
外部から優秀な人材を次々に誘い、若手を育てる山村の下で、
研究者としての力を着実につけた。

大学院修了後、研究活動を本格化させた70年代、
免疫機構の研究は、激しい国際競争を繰り広げていた。

生物が、体内で病原体の侵入をキャッチして排除するうえで、
どんな役割を果たしているのか、よくわかっていなかった
「インターロイキン(IL)6」という物質に注目。
微量しか採取できない試料の精製を繰り返し、
86年、世界に先駆け遺伝子を特定することに成功。
研究開始から15年を経ていた。

「研究室の仲間はよう面倒みてくれたし、競争もした。
自由な気風が結果につながった」
IL6はその後、リウマチの炎症の原因となっているなど、
様々な機能を持っていることがわかった。

79年、岸本は病態病理学教室の教授に就任。
細胞工学センターを経て91年、古巣の第3内科の教授。
医学部長や学長時代には、医学部の古い体質にメスを入れた。
「教授がアホやったら、その下の100人全員がアホになる」、
1人の教授をトップにしたピラミッド形の人事体制を廃し、
教授を増やして専門科ごとに配置。
「白い巨塔のままならアホらしくて、自分はさっさと日本を離れていた」

研究は多忙を極めたが、学生への講義は最優先。
毎回念入りに準備し、全力投球で臨む。
一コマの講義が、学生の人生を決めるほど、
重要な役割を持つことを、身をもって体験。

そんな姿勢に応えるかのように、教室の最前列で聞く
学生が増えてきた。
後に、IL6を共同発見した平野俊夫・現阪大医学系研究科長や、
ノーベル賞有力候補の審良静男・阪大教授ら。

世界を相手に戦っているだけに、教え子には厳しかった。
「マウスの遺伝子をノックアウトでけへんのなら、
お前をノックアウトしたる」。
午前9時を過ぎて研究室に来ようものなら、
「きょうは病気か」、「親が死んだんか」。
研究室に響き渡る大声でどなるのは、一流になってほしいから。
「『重箱の隅をほじるような研究はするな』とよく言われた」
審良は振り返る。

98年2月最終講義で、定員300人の大講堂に
約700人が詰めかけた。
自慢の教え子たちが、顔をそろえていた。
どの顔も、世界に通用する第一線の研究者に成長していたのが
誇らしかった。

今も現役だから、研究の動向には敏感だが、
世間の動きにも目を配り、ベストセラーはほとんど読む。
最近のお気に入りは、テレビドラマ「JIN―仁―」
幕末の江戸にタイムスリップした医師が、当時存在しなかった
点滴や抗生物質を作って、コレラや梅毒の患者らを救う物語。

裏を返せば、今から見れば夢のような医療が50年後、
100年後には普通になっているはず。
それを実現するのが研究。
そやから、学長を辞めた後も研究してますねん」と岸本は笑う。
細くなった目は、100年先を見つめている。

◆自己免疫疾患治療に光

ウイルスや細菌から身を守る免疫機構は、監視役や攻撃役などの
様々な細胞が巧みに連携して、一つの仕事をする。
細胞同士のチームプレーに欠かせない連絡役が、
サイトカインと呼ばれるたんぱく質、「IL6」もその一つ。

岸本教授らは、IL6が病原体の侵入をリンパ球に伝える以外に、
血液を凝固させる血小板を増やしたり、ホルモン分泌を促したり、
過剰になると関節リウマチや骨髄腫などを引き起こしたり、
悪化させたりすることも突き止めた。

免疫が、自分自身を攻撃する自己免疫疾患のリウマチや、
キャッスルマン病などを、IL6の働きを阻害することで治療する新薬
「アクテムラ(一般名トシリズマブ)」を、中外製薬と共同開発。
2008年以降、日本や欧州などで承認、今月には米国で使用。

◆きしもと・ただみつ

1939年大阪府富田林市生まれ。64年大阪大医学部卒。
同大学細胞工学センター教授、医学部第3内科教授、
医学部長などを経て、97~03年に学長を2期務めた。
現在、生命機能研究科教授、千里ライフサイエンス振興財団理事長。
ノーベル物理、化学賞を選考するスウェーデン王立科学アカデミーが
選ぶクラフォード賞(09年)など多数受賞。
1998年に文化勲章受章。70歳。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/1/4/113950/

理系ママを大学が応援 学内保育所、研究補佐も 「国際戦略」の一手に 「ウーマン・アイ」

(2010年1月4日 共同通信社)

理系のママ研究者たちの子育てを支援する動きが、
各地の大学に広がっている。

夜遅くまでかかる実験などとの両立が難しく、
出産を機に退職する例が後を絶たなかった。
大学側の意識も、「福利厚生ではなく、国際競争を勝ち抜く戦略
と変化、優秀な女性を確保する方策に知恵を絞っている。

東京大本郷キャンパスに、2008年4月オープンした大学直営の
学内保育所の利用者は、同大の教員と大学院生。
実験で早く帰れない理系研究者らに配慮し、
午後9時までの延長保育が可能。
子どもを迎えに来た医学系研究科の大学院生柴田彩さん(31)は、
「研究はどんどん進むので、長期間は休めない。
ここがあったおかげで、出産後すぐ復帰できました」

東大男女共同参画室の都河明子特任教授は、
「保育所開設の目的は、福利厚生ではなく、東大の国際戦略」と強調。
「理系を中心に、多くの優秀な女性が子育てを理由に
研究を断念してきた。
子育て支援で、現在9%の女性教員比率を、
世界主要大学並みの20~30%に引き上げたい」

総務省の調査によると、大学や企業などの理系研究者の
女性比率は、08年現在13・0%。
米国34・3%、イタリア29・9%、フランス27・8%などに比べ、
かなり低い。

「優秀な女性研究者を確保しないと、国際競争で後れを取る」と
危機感を抱いた文部科学省は、06年度から、
育児との両立を図る事業に取り組む大学の支援に乗りだした。

それが起爆剤となり、東大のほか東北大、大阪大、九州大など
大学独自の予算で、学内保育所を開設する動きが全国に拡大。
日本大など、発熱時の子どもも預かる病児保育を検討。

静岡大、神戸大、金沢大、広島大など、女性研究者が育児の時間を
確保できるよう、研究を補佐する支援員を配置。

神戸大大学院で、生物学を専攻する研究員、日下部りえさん(38)は、
小学校と保育園に通う3人の子どもがいる。
二人三脚で、研究に取り組む支援員の大学院修士課程2年、
谷沙織さん(25)がいるおかげで、実験の途中でも後を託し、
夕方に帰宅することができる。

「谷さんがいないと、研究と子育ての両立は不可能」、
「日下部さんと接し、子どもがいても研究はできると、
将来に希望がわきました」

女性研究員の支援に尽力してきた小舘香椎子・
日本女子大名誉教授は、「出産後も、研究を続ける女性の実例を
増やすことが、将来の人材確保につながる。
そのことに気付いた大学が、次々に支援の流れに加わっている。
国も、この流れをさらに後押ししないと、
科学技術立国を目指す日本の未来はありません」と断言。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/1/4/113932/

慢性疲労、診断できる血液中のたんぱく質発見

(読売 1月7日)

原因不明の激しい疲労が半年以上も続く、
「慢性疲労症候群(CFS)」を診断できる血液中のたんぱく質を、
大阪市立大の木山博資教授(解剖学)らが発見。

CFSには、自覚症状を中心に判定する診断基準はあるが、
血液の検査値など客観的な指標(マーカー)はなく、
今回の発見は健康診断などに活用できそう。

木山教授らは、5日連続の運動で極度に疲労させた
ラットの脳下垂体の中葉と呼ばれる部分を分析。
「α―MSH」というたんぱく質が異常に分泌され、
血液中のα―MSHの量も上昇していく。

α―MSHの分泌は、神経伝達物質ドーパミンが抑制し、
ラットでは疲労がたまるにつれ、ドーパミン産生能力が低下。

CFSと診断された患者57人と、健康な30人の血液を使い、
α―MSHの量も測定。
その結果、発症後5年未満の37人の平均値は、
健康な人に比べ、約50%も高かった。

一晩徹夜した人の血液を調べても、α―MSHの量に変化はない。
短期間の疲労とは関係がないこともわかった。

CFS患者は、潜在する人も含め、国内に200万人以上。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20100107-OYT1T00046.htm

2010年1月15日金曜日

転換期を迎える栄養指導 求められる積極的な食への介入

(日経ヘルス 12月8日)

現在、健康な人が栄養相談を受ける“場”が、
整備されていない。
インフラを整備することが、地域住民の健康情報への
アクセス強化、健康意識の向上につながっていく。
その結果、地域住民が自主的に参加する
健康づくり支援システムが構築できるのではないか。

具体的には、病気になってからではなく、病気になる前に
食生活に介入し、健康づくりを支援していくことが、
これからの栄養指導には求められている」。

北里大学保健衛生専門学院管理栄養科学科長の
多賀昌樹氏は、こう問題提起し、健康づくりにおける
栄養指導のあり方は大きな転換期にある。

新潟県南魚沼地域でスタートした、地域密着型の
健康支援プログラム「天・地・健康人コンソーシアム」では、
地域資源をテーマに、健常者に対する新たな健康づくりの
取り組みが進んでいる。

管理栄養士の立場から、同コンソーシアムの
「食生活改善プログラム」を主導する多賀氏に、
栄養指導の課題・方向性とともに、コンソーシアム活動の
意義や期待について聞いた。

――栄養指導の現状をどのように見ているか?

(多賀) 日本の栄養学は、「足りない栄養素を補う」という
考えから出発、病気になってから指導するアプローチが一般的。
昔だったら栄養失調、飽食となった現在では糖尿病、
脂質異常症(高脂血症)、高血圧などの解消のため、
管理栄養士による栄養指導が行われている。
病気になるのを待っている状況であり、
治療の一環として行われることが主流。

予防や健康増進といった健康づくりの場合、
治療とはアプローチが異なる。
「必要な栄養素を効率的に摂取する」という考えに転換し、
病気になる前に積極的に食生活に介入していくことが求められる。
栄養の偏りや不規則な食生活、過度な痩身願望などを是正し、
心身の健康を増進する健全な食生活を実践することを目的とした
「食育基本法」が2005年施行、
「健康づくりにおける栄養指導のあり方」は、
大きな転換期に差し掛かっている。

――健康づくりに見合った栄養指導のアプローチや考えを
構築することだが、具体的な実施はどのように進めるべきか?

(多賀) これまでのように病人ではなく、健常な人を対象とし、
参加へのハードルを下げ、間口を広げておく必要。
病気の場合、栄養指導の目的は「治療」であり、
患者の自主性も高い。
対象者は限定され、「糖尿病患者のための栄養指導」と
看板を掲げれば、自覚のある人を呼び込むことができる。

健康づくりの場合、対象者が幅広く、その目的も多彩。
治療ほど、明確な目的意識を持って臨む参加者は少なく、
自主性が低い。
栄養指導をはじめとする健康づくりのサービスメニューに
興味を持ってもらい、継続的に実施させるためには、
楽しく気軽に参加できる枠組みを整備する必要。

「メタボ解消」、「アンチエイジング」、「デトックス(解毒)」など、
消費者の関心の高いテーマ設定、
スタンプラリーの実施や認定証の発行など
“テーマパーク”的な要素を導入、
ゲーム感覚や楽しさを強調していく必要。
呼称も、栄養指導ではなく、栄養カウンセリングとすることで
親近感を高めていきたい。

http://nh.nikkeibp.co.jp/article/nhpro/20091208/105189/

三内丸山遺跡の衰退は寒冷化が原因

(サイエンスポータル 2010年1月4日)

縄文文化の常識を覆したことで知られる三内丸山遺跡を、
当時の縄文人が放棄せざるを得なかった理由は、
寒冷化による植生の変化であることが、
東京大学の研究者たちによって突き止められた。

川幡穂高・東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
(同大学海洋研究所教授)らは、日本最大級の縄文集落跡、
三内丸山遺跡の当時の気候を調べるため、
遺跡から20キロ離れた陸奥湾の堆積物(水深61m)を採取。

海底の堆積物は、環境の変化を連続的に記録、
正確な年代や水温決定ができる。
この結果、三内丸山遺跡が栄えた約5,000年前、
遺跡付近の海水温は今より2.0℃ほど温かったが、
4,200年前に突然寒冷化した。

2.0℃の水温差は、当時の遺跡付近の気温・海水温が230キロ南、
今の仙台あるいは酒田付近の気温・水温。
現在、大きな実のなるクリ林は、山形県、宮城県南部以南に限られ、
当時は三内丸山遺跡付近でも大きなクリが採れたことを裏付ける
これまでの遺跡発掘調査結果とも符合。

川幡教授らは、三内丸山の集落が成立したと言われている
約5,900年前に陸の気温が急に上昇、
特にドングリやクリなどが繁茂、海産物も豊富に採れるように
なったことが、三内丸山のような大集落を可能に。

日本全体の人口は、縄文時代最初期(12,000年前)の
約2万人から、三内丸山遺跡が存在した縄文時代中期には
ピーク(約26万人)に達し、晩期には再び減少(約8万人)。
これは、三内丸山遺跡の盛衰と合う。

三内丸山遺跡付近が、急に寒冷化したのと
ほぼ同時期(4,000-4,300年前)には、中国の長江周辺や
西アジアのメソポタミアなどの文明も衰退、
アジアの中緯度域でほぼ同時に見られたこれらの現象は、
寒冷化、乾燥化などの影響が原因かもしれない。

現在、地球温暖化対策では、世界の平均気温上昇を
約2.0℃以内に収めることが大きな目標、
年平均気温での2.0℃という気温変化、速いスピードでの変化は
一次産業などが主体の共同体に大きな衝撃をもたらすことが
懸念される、と川幡教授らは指摘。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/1001/1001041.html

教員養成(3)「教える」意識 現場で培う

(読売 1月7日)

実践教育を進めるうえでカギとなるのが、地域との連携。

昨年11月、秋田市立保戸野小学校5年2組、
「工業の種類を知る」をテーマに行われた社会の授業。
教壇に立つ担任の斉藤哲仁教諭(48)が、
「自分の興味のある工業について、ノートに書いてごらん」と
指示すると、傍らにいた女子学生が、教室内の巡回を始めた。

「何か分からないことはある?」
「インフルエンザで、人が死なない薬をつくりたいんだけど……」
ある児童が尋ねると、「それは製薬っていうのよ」とやさしく教える。

この学生は、秋田大学教育文化学部の学校教育課程3年、
宇梶有佳里さん(23)。
秋田大の「学校ボランティア」として、
昨年5月から毎週1回、同小に通い、1限目から4限目まで
指導補助を務めた後、給食時間も児童とともに過ごしている。

秋田大が、学生を地域の小学校などに派遣する活動を
始めたのは2003年。
最初は、文部科学省の委嘱事業として、
その後は秋田県教育委員会との連携事業として実施。
08年度、1~4年生約70人が、秋田市など県内6市の
公立小・中学校29校に派遣、
放課後の学習指導や授業の指導補助にあたった。

「約1年間、同じクラスの子どもたちと接するので、
それぞれの理解度や性格に合わせた指導方法を
考えることができ、いい経験になります」と宇梶さん。

同小の八柳久夫校長(60)も、
地域の学校が、大学に協力して有能な教師を育てるのは
重要なこと。
教師が多忙を極めるなか、学習指導面でも助かっている」と評価。

同学部の姫野完治准教授(33)は、
「多様な子どもたちに対応できる指導力を身につけるため、
長期間にわたり児童と接する活動は効果がある」と解説。

高知大学教育学部でも1998年度から、
教員養成課程1年次の必修科目として、
学生が地域の小学生たちと環境ボランティア活動などを通して
交流する「フレンドシップ事業」を展開。

高知市教育委員会や同市青少年育成協議会と協力、
小学校周辺のゴミ拾いやシャボン玉などの遊びを、
学生が子どもたちに指導。
同学部の上野行一教授(57)は、
「教員養成の早い段階から児童と接し、
教えられる側から教える側へと、意識を転換することが大切」

実践教育に詳しい横須賀薫・宮城教育大学名誉教授(72)は、
「実践的学習は、付属校での教育実習だけでは十分とはいえない。
多様な子どもたち、学校現場を幅広く体験して理解するためにも、
地域連携は不可欠だ」

課題もある。
秋田大の姫野准教授は、「学校現場での体験だけで、
教師像を安易に理解してしまいかねない面もある」
理論も踏まえて、教師のあるべき姿を考える必要性を強調。

地域を巻き込みながら、試行錯誤が続いている。

◆学校ボランティア

地域住民らが、登下校の安全パトロールや花壇の整備、
学習アシスタントなどさまざまな活動によって、
学校を支援する取り組みを指す。
教員養成大学・学部が、教員養成教育の一環として
学生を学校に派遣する場合、教育委員会が大学と連携し、
調整役となる場合が多い。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100107-OYT8T00225.htm

夢を紡ぐ:地球に優しい新技術/3 燃料電池車 「未来カー」へ、今9合目

(毎日 1月7日)

◇本田技術研究所上席研究員・藤本幸人さん(52)

スタートボタンを押すと、「ウイーン」という小さな音で始動、
振動もなく滑らかに加速。
車内メーターに、水素が電気に変わる様子が電子表示……。
ホンダの燃料電池車「FCXクラリティ」は、
ガソリン車とは中身が異なる「別世界のクルマ」。

「どうだった。燃料電池車を欲しいと思った?」
東京・青山の本社ビル。
藤本幸人さんが語りかけると、子どもたちから
「僕も作ってみたい」と笑顔。
07年から月1回、「部活」と称して開く子ども向け
クラリティ体験イベント。
「面白さを、未来を担う子どもたちに知ってもらいたい」と
楽しみにしている。

「アコード」のエンジン開発に携わっていた98年、
開発チームに移ったが、初めて原型を見た時の衝撃が
忘れられない。
水素タンクや燃料電池がむき出しで積まれた姿は、
まるで「実験プラント」。

周囲から「次世代のシンボル事業」と激励されたが、
「車」にするには、燃料電池の小型・軽量化や耐久性向上など
課題山積。
4年がかりで改良を重ね、02年にクラリティの先代の
「FCX」を首相官邸に納車。
1回の水素補給で走れる距離は、500キロに満たず、
燃料電池が大きく、室内が狭く、外観もさえなかった。

「エコだけではダメ。
乗り心地やデザインも備えていないと、未来のクルマと言えない」

クラリティ開発に着手したが、技術的ハードルは高く、
開発チームは疲弊。
「激励もなく、叱咤ばかりだ」
部下の指摘もこたえた。
自信を失い、05年ごろ開発現場を離れた。

「部下のアイデアに意見したら、開発や技術は止まる」、
「数値目標ばかりではダメ」。
どう開発に取り組むか、悩み抜いた。
その間も、「世界初の実用的な未来カー」の夢は捨てられなかった。
3カ月後、上司や部下の求めに応じ、チームに復帰。
電池の改善で、距離を600キロ超に伸ばし、
室内も広いセダンのクラリティを07年11月に完成。

08年7月以降、日米でリース販売を開始。
今は、1台1億円程度の価格引き下げに奮闘。
「燃料電池車普及という目標に向け、9合目まで来たが、
登り切るのは今まで以上に大変」。
栃木県には専用製造ラインもでき、
夢は実現に確実に近づいている。
==============
◇燃料電池車

ガソリンの代わりに、水素を燃料に使う燃料電池で
駆動する自動車。
圧縮した水素を、タンクから燃料電池に送り込み、
酸素と化学反応させて電気を取り出し、電動モーターを回す。
排気管から水が出るだけで、排ガスは一切出さない。
1回の水素補給で620キロ走れ、現行の電気自動車に比べ、
走行距離は約4倍に達する。
燃料電池の量産化と低価格化が課題。
ホンダは、2020年までの普及を目指す。

http://mainichi.jp/select/science/news/20100107ddm008020027000c.html

2010年1月14日木曜日

アジア研究圏の創設提言 スマート・ソサエティ目指し

(サイエンスポータル 2010年1月1日)

グローバル化によるひずみを改善し、アジア諸国が連携して
新たな社会像の構築を目指す「アジア研究圏」の創設を、
公益法人、大学などの専門家、研究者からなる研究会が提言。

武田計測先端知財団「科学技術の国際連携戦略研究会」
(有本建男・科学技術振興機構 社会技術研究開発センター長)
がまとめた政策提言「アジア研究圏の創設」 によると、
アジア研究圏は「研究者、情報、資金の自由な移動と、
地域全体としての人材育成により、地域が抱えるさまざまな
技術的・社会的課題の解決に向けた体制を構築する」ことを目的。

「アジア共同体」の目指す姿としては、
地球環境にやさしく、生活を豊かにする仕組みを持つ
「スマート・ソサエティ」という新しい社会像を提言。

「アジア研究圏」が進めるアジア域内の連携は、
「科学技術政策とODA・外交政策の連携を土台に、
国境を越えた研究者・政府・民間非営利セクター・企業が
参加する重層的なネットワーク」を重視。
共同研究の成果から、新しい技術や制度を生み出す。

欧米に向かっている人材流出の流れを止め、
アジアが持続的に成長できるよう人材の育成と
ネットワーク化を共同で行う仕組みを構築。

豊かな社会は何かを再定義し、今までのような量的な豊かさの
追求ではなく、地球環境に負荷をかけず、格差拡大を助長せず、
質的な豊かさを追求する社会をつくりあげる。

「アジア研究圏」創設にあたって、日本が率先してイニシアチブを
取ることを求め、アジアからの有能な人材を積極的に受け入れ、
定着させるための外国人受け入れ政策の転換を急ぎ、
高等教育制度に加え、専門的知識を持つ外国人が働ける
体系的な制度の確立や、民間企業での税制優遇や
職能資格共通化に向けた取り組みを行うことを提言。

EUは、既に研究者・知識・技術の移動を自由にするため、
欧州研究圏(ERA)構築を進めている。

http://www.scienceportal.jp/news/daily/1001/1001011.html

60代以上の多くに免疫か 新型と過去のウイルス分析

(2010年1月8日 共同通信社)

現在の新型インフルエンザと、過去に流行したスペイン風邪など、
同じ「H1N1型」のインフルエンザウイルスの遺伝子分析から、
60代以上の人の多くが新型への免疫を持っている
可能性があるとの研究結果を、
科学技術振興機構の西浦博さきがけ研究者(理論疫学)
米国の研究者らのグループがまとめ、英科学誌に8日発表。

グループは、11の国と地域で新型感染者の年齢分布を検討。
75%以上が30歳未満に集中、10~19歳がピークで、
65歳以上は3%未満と少ないことを確認。

1918年以降に流行したH1N1型のウイルスについて、
人の免疫反応にかかわるウイルス表面のタンパク
「ヘマグルチニン」の遺伝子配列を分析。

18年以降、40年代までに流行したウイルスと新型との間に、
タンパクに付いている「糖鎖」と呼ばれる構造が一部脱落している
共通点があることを突き止めた。
77年以降に流行したウイルスには、この特徴がなかった。

グループは、この流行時期によるウイルスの違いが、
年齢による免疫の差が生じた理由とみており、
60代以上には新型への免疫があるが、
77年以降に生まれた人には免疫がないと考えた。

日本での流行を分析し、年齢によって新型への感染のしやすさの
違いがあることも判明。
20~39歳を基準に、0~5歳は2・77倍、6~12歳は2・67倍、
13~19歳は2・76倍感染しやすく、40~59歳は0・56倍、
60歳以上は0・17倍と感染しにくかった。

※「Theoretical Biology and Medical Modelling」と
「BMC Infectious Diseases」

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/1/8/114131/

教員養成(2)「子どもと1000時間」必修

(読売 1月6日)

子どもたちとの触れ合いを重視し、4年間で1000時間の
体験型学習を必修で課す。

教室の床に並べられたひらがなのカードで、
小学3~6年生の11人が単語作りを楽しんでいた。
「よくできたね」、「難しい言葉を知っているね」。
学生たちが優しく話しかける。
四字熟語やことわざを当てるクイズもあり、
子どもたちは大はしゃぎ。

島根大学教育学部で開かれた「島大ビビットひろば」。
市内の小学生を大学に招き、遊び体験を通して
学習してもらおうというもの。
メニューは、英語遊び、スポーツ教室など五つ。
参加した約100人の子どもたちを、言語教育や
健康・スポーツ教育を専攻する学生50人が指導。

同学部は2004年度から、教育実習の380時間を含め、
学生に講義以外に4年間で1000時間の子どもとの
教育体験活動など必修として課す「1000時間体験学修」を導入。
「ビビットひろば」は、この活動の一環。

活動メニューは、小・中学校での学習援助、学校行事の運営補助、
社会教育施設が主催するキャンプの指導補助から、
生徒指導や学級運営のためのコミュニケーションスキルや
カウンセリング方法を実習で学ぶ
「臨床・カウンセリング体験」まで様々。
学校などからの派遣要請を受け、学生が参加を申し込む。

高岡信也・教育学部長(56)は、「今日の教育課題にうまく対処
できる教師を育てるため、従来の講義科目だけでは不十分。
学生には負担だが、体験型学習はとても重要」と狙いを明かし、
「学生たちは、長い時間かけて子どもや保護者と交流することで、
講義で学んだことの理解を深めている」

高岡学部長によると、1000時間体験学修は、
教員を目指して学ぶモチベーションの向上にもつながっている。
毎週土曜日、島根県出雲市内の小学校で、
自習時間の指導をする学校教育課程言語教育専攻1年の
塚本晃弘さん(20)は、「最初は戸惑いもあったが、
少しずつ性格や個性を理解しながら話しかけられるようになり、
自信にもなった」と表情を引き締めた。

山陰2県の公立学校教員の採用倍率は高く、
学生の地元での教員就職は厳しい。
島根大では、教員需要が比較的高い大阪府や広島県など、
他地域への教員就職支援にも力を注いできた。
この結果、卒業生で教職に就いた者の割合は、
04年度に30%台まで落ち込んだが、今では50%台に回復。

1000時間体験学修で養った能力が、即戦力を求める
学校現場のニーズにうまく合ったのが、教員就職率の上昇という
いい結果につながったのではないか。
県内をはじめ、広島など近隣県や関西で卒業生が
活躍してくれているのはうれしい」と高岡学部長。

◆公立学校教員の採用倍率

09年度(08年度実施)公立学校教員採用選考試験の
都道府県・政令市別の競争倍率は、鳥取県が20.4倍で最も高く、
沖縄県(17.0倍)、長崎県(15.1倍)の順。
島根県は7.5倍で、平均(6.1倍)より高かった。
低かったのは、大阪市(3.4倍)、川崎市(4.1倍)、東京都、
愛知県、滋賀県、横浜市(いずれも4.2倍)。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100106-OYT8T00238.htm

夢を紡ぐ:地球に優しい新技術/2 音力発電 子供時代の発想、形に

(毎日 1月6日)

◇ベンチャー企業を経営、慶応義塾大学博士課程・速水浩平さん(28)

NECやエアバスも、その将来性を注目する
日常の振動音を電力に変える発電技術。
「きっかけは、小学校高学年で、モーターの原理を教わった
理科の授業でひらめいた、あるアイデアだった」。
速水さんはそう振り返る。

先生から習ったのは、モーターが回ると電気が起き、
スピーカーから音が出る仕組み。
「逆に、音から電気を作れないか」と考えた。

中学生や高校生になってもその思いは消えず、03年、
慶応大2年のころから本格的な研究を始めた。
周囲は、誰も見向きもしない。
「やめた方がいい」と言われた。
音から電気を起こそうと、素子や回路などの形状や組み合わせを
さまざまに工夫し実験を繰り返したが、
ほとんど発電せず、失敗の連続。

それでもめげずに実験を続けると、振動や圧力、騒音を
電圧に変える「圧電素子」に行き着いた。
スピーカーの音質を高める用途に使われているが、
発電に応用された事例は無かった。
実験で、わずかながらも発電が確認、「これが転機」と考えた
速水さんは、貯金や銀行借り入れなど100万円を元手に、
06年9月、ベンチャー企業「音力発電」を設立。

圧電素子に共振する膜や振り子を組み合わせて、
振動を増幅することで、音から出るエネルギーの
発電効率の向上に成功。
今では、半導体大手NECエレクトロニクスなど、
多くの企業と「未来の発電技術」として共同開発を進める。

夕暮れ時、首都高速中央環状線の荒川にかかる五色桜大橋
白色LEDで美しく照らされる。
電力の一部は、振動力発電技術を活用、橋を通過する
車の振動から生じたも。
07年12月、橋脚部分に取り付けられた縦50cm、横20cm、
幅10cmの箱型の「振動力発電装置」がその証し。

装置1個当たりの発電力は、0・01w。
橋脚に設置されている10個すべてを合わせても、
家庭用100w電球をともすのに必要な電力の1000分の1程度しか
発電しないが、現在の最新装置は発電効率を約10倍に向上。
首都高の総延長295キロに取り付ければ、
火力発電所2~3基分を発電できる。

小学生時代から思いつくままノートに書きとめたアイデアは、
1000件以上。
「『お気に入り』は、音力発電を入れて5つ。
どれも実現すれば、生活をがらりと変える新技術ばかり。
もちろん秘密です」と笑う。
==============
◇音力発電

振動や騒音が加わると、電圧を生じる性質を持つ
「圧電素子」(ピエゾ素子)と呼ばれる特殊な素子を使って、
車の振動や、人が押したりする圧力から電気を生み出す仕組み。
振動力発電の一種で、エネルギー源として
空気の振動である音を利用。
振動や騒音のエネルギーを電気に変えるため、
建造物に取り付けた場合の免震効果も期待。
他の自然エネルギーに比べ、発電効率の低さが課題。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/01/06/20100106ddm008020119000c.html

2010年1月13日水曜日

教員養成(1)知識と実践力 6年かけて

(読売 1月5日)

6年間かけ、即戦力となる教員を育てる取り組みを始めた
教員養成大学。

東京学芸大学の講義棟内の一室は、活気に満ちていた。
民間出身の中学校長として注目、今では同大の客員教授を
務める藤原和博さん(54)が、「新教員養成コース」で
教員を志す学生約30人を前に、「コミュニケーション型」の
授業の進め方について熱く説いていた。

「一方的な『講義型』では、子どもたちはついてこない。
教員と子ども、子ども同士がコミュニケーションをとりながら
展開する授業じゃないといけない

学生たちは、児童・生徒役になり、ハンバーガー店の
出店計画や自殺抑止をテーマに、3人ずつのグループで
意見を出し合う。
と同時に、もし自身が教師だったらどう授業を進めていくかを考えた。
受講した初等教育教員養成課程2年の小松由さん(20)は、
「児童とうまくコミュニケーションをとりながら授業をするのは
難しいと思っていたが、自分でも何とかできるのでは、
とやる気がわいてきた」

2008年度にスタートした同大の新教員養成コースは、
学部と大学院の6年間を通した教育により、
高度な知識と実践力を兼ね備えた教員の育成を狙う。
従来は、不十分だった生徒指導や学級運営などを、
学部段階から実践的に学ぶカリキュラムを組み、
藤原さんの授業もその一環。
民主党政権は、教員養成6年制構想を明らかにしているが、
同大では約10年前から検討を重ねてきた。

村松泰子副学長(65)は、「教育問題が多様化するなか、
学部4年間だけの教育では、不安を抱えたまま
学校現場に出ていく者も少なくない。
6年かけて質の高い、即戦力となる教員をじっくりと
育てていくという選択肢も必要だと考えた」

即戦力重視の背景には、学校教員の人員構成上の問題。
先輩教員が、経験をもとに知恵や技を若手に伝えてきたが、
一時期の採用抑制によって、30~40歳代の中堅教員が少なく、
十分な伝承ができていない。

学生のモチベーションの問題も。
「様々な教育問題に接するうちに、自信をなくし、
進路を変更する学生も。
早い段階から課題への対処法などを学ぶことで、
教員を志す意欲の向上にもつながる」と、
新教員養成コース運営部会長の中島裕昭教授(52)。

新コースで特に力を入れているのが、「教職コミュニケーション」。
学級崩壊やいじめ、保護者対応といった具体的な問題について、
ロールプレイングやカウンセリングなどの手法を
取り入れながら学んでいく。
4年生になると、通常の教育実習以外に、学生それぞれが選んだ
テーマに即した研究実習も行う。

同時に開設された教職大学院でも、学部新卒者と現職教員を
対象に、実習を重視した学校経営や指導法などの教育。
新コースでは、教職大学院での教育手法を
学部段階で先取りした面も。

現在、新コースに在籍する学生は、2、3年生合わせて33人。
教員養成課程2学年の学生数の2・4%に過ぎない。
中島教授は、「教員養成大学には今、教育の充実に向けた
創意工夫が求められている。
学生はまだわずかだが、ひとつの挑戦として、
教員養成教育のあり方を考えるきっかけに」
教員養成大学の摸索は続く。

◆民主党政権の教員養成6年制構想

マニフェストで、教員の資質向上のため、
「養成課程を6年制(修士)とする」と明記。
学部4年間と大学院2年間の連続した教育か、学部卒後、
いったん教員を経験した後の2年間の再教育かなど、
詳細は明らかになっていない。

◆24大学に教職大学院

学級崩壊やいじめ、学ぶ意欲の低下など、
教育問題の深刻化を背景に、教員養成大学・学部に求められる
役割は、ますます重要性を増している。

教員養成大学・学部は、小・中学校などの教員になるための
専門教育を行い、教員免許取得を卒業要件とする。
国立44大学(うち単科大学11)と、私立4大学。
文部科学省によると、全国の国公私立小学校の教員
(臨時的採用は除く)は、約42万人(2009年度)。
約6割(07年度)を、教員養成大学・学部出身者が占め、
教員養成の中心的な役割を担っている。

学部での4年間では、主に教育学、指導法などの基礎や理論が
中心で、実習時間も十分に確保されていない。
今日の学校現場での課題に対処し得る、
実践的教育を行うのは不十分。

08年度、専門職大学院である「教職大学院」がスタート。
従来型大学院が研究中心なのに対し、教職大学院は実習重視で、
指導方法や学校経営などを実践的に学ぶ。
現在、教員養成大学を中心に24大学に設けられている。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100105-OYT8T00237.htm

夢を紡ぐ:地球に優しい新技術/1 エコシップ 熱意で「不可能」突破

(毎日 1月5日)

◇日本郵船グループの技術会社「MTI」技監・信原真人さん(58)

平べったい個性的な船体から、白い帆がにょっきりと生えている。
現実離れしたとも言えるデザインだが、「2030年までに
開発可能な技術ばかりを盛り込んだ結果。
決して、『夢』ではない」。開発責任者の信原真人さん。

日本郵船のコンテナ船「NYKスーパーエコシップ2030」。
08年4月に発足した環境特命プロジェクトの目玉として、
半年間の構想が実を結んだ。

重油を燃料とする従来のディーゼル機関の代わりに、
燃料電池を採用。
風力、太陽光の自然エネルギーも活用、船底には、サメの肌を
参考に、水の抵抗を低減する特殊塗装も施した。
現在のコンテナ船に比べ、CO2を69%も削減。

どこまでの技術進化が、30年までに期待できるか?
燃料電池の性能がアップしなければ、搭載数が増え、
船体重量が増えてしまう。
船体の素材は軽量でありながらも、十分な強度が必要。
開発チームは、国内外の電池、機械、造船メーカーの
技術者らと議論を重ねた。

「『開発不可能だ』とする専門家を説得に、骨を折った」と信原さん。
「商船は採算性が重要で、通常は18カ月先の引き渡しを
前提に設計。20年後を前提にした議論など、現実離れだった」

本人も、30隻を超える新型船に携わった元三菱重工業の
ベテラン設計技師。
「既成概念」にとらわれがちだったと告白。
そんな時、一回り以上も下の若手の熱意と工夫が
プロジェクトを推し進めた。
「積み荷が少ないとき、船体の空荷部分を取り外し、
船を縮めて、軽量化につなげる」とのアイデアも一例。
船の根幹たる強度面で、技術的なハードルは残されている。
「強度を考える従来の技術者では、絶対考えつかない」と舌を巻く。

世界のCO2排出量のうち、国際海運は約2・7%を占め、
「エコシップで、日本は大きな国際貢献を果たせる」
本船をてこに、2050年を目標にCO2を排出しない
「ゼロエミッション船」の実現も目指している。

昨春のエコシップの社内お披露目で、喝采を浴びたのは
船体縮小のアイデア。
信原さんは語った。
「人の熱意は、『夢』を『現実』にする。
20年後を楽しみにしていてください」
==============
◇NYKスーパーエコシップ2030

全長353mで、標準的なコンテナ(約38m3)を8000個積載。
満載時の船速は25ノット(時速約46キロ)。
新エネルギーや新素材などの先進技術を採用、
船内に木を植え、精神的な安らぎの場を設けるなどの
アイデアも凝らす。建造費は未定。
日本郵船は、10年にCO2排出量を30%削減した船を開発予定。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/01/05/20100105ddm008020115000c.html

所得格差、健康に関係 地域の信頼感も薄れ 日本福祉大調査

(2010年1月6日 毎日新聞社)

所得格差が大きい地域ほど、地域の絆を示す他人への信頼感が
低下し、自分の健康状態が悪いと思う人の割合も高くなる--

知多半島の高齢者を対象にした日本福祉大などの大規模調査。
経済的な格差と住民の結びつきの深さや健康が相互に
関係していることを示す結果。

調査は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの
市田行信研究員(地域計画)らが、
日本福祉大健康社会研究センターなどと協力。

知多半島の10自治体に住む65歳以上の高齢者約3万4000人を
対象に郵送で実施、半数の約1万7000人から回答。
1950年時点の自治体で分けた計25地区ごとに、
所得格差を示す「ジニ係数」と、地域の絆を示す
「他人への信頼感」の程度や、自分の健康状態をどう思うか
(主観的健康感)などとの関係を分析。

その結果、25地区のジニ係数は0・26~0・41と開き。
ジニ係数が、0・01高くなり格差が大きくなるごとに、
健康状態を「悪い」とする回答が平均0・6%ずつ増え、
「人は信用できる」と他人への信頼感を肯定的に示す回答は
1・4%ずつ低下。

他人への信頼感を示す回答が1%上がれば、
自分の健康状態を「悪い」とする回答は、平均で0・9%ずつ
下がることも分かった。
健康状態が良いと思う人が多ければ、実際に長生きする人も多いなど、
主体的健康感は死亡率に関係。

市田さんは、今回の調査結果から「所得格差が拡大すると、
地域の絆の低下を通じて、住民の健康に悪影響を及ぼす
可能性が示された」
…………………………………………………………………………
◇ジニ係数

所得を基に、不平等度がどれだけあるかを計算した数字。
0~1で表し、0は平等で格差がない状態、
1はただ一人に所得が集中している状態を意味。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/1/6/114033/

武道に「回復効果あり」 高次脳機能障害の患者

(2010年1月6日 共同通信社)

交通事故などで大脳に損傷を受け、言葉や記憶に障害が生じる
高次脳機能障害の人たちが、武道に取り組み、
「頭がすっきりしてきた」、「症状が軽くなった」と効果。

医学的な裏付けはないが、専門家は、
「姿勢や呼吸など、体の基本機能を整える武道のスタイルに、
効能があるのかもしれない」

通信販売業長谷川正さん(51)は2003年、歩いていて
車にはねられ、2カ月入院する大けが。
強打した頭は、くも膜下出血と低酸素脳症を起こしていた。

事故から3カ月後、つえをついて歩けるようになり、仕事に復帰。
銀行に行くと、通帳を忘れる。
慣れ親しんだはずの道や電車の乗り換えに迷う。
顧客の顔を忘れ、簡単な計算もできなくなったため、
営んでいた眼鏡店は廃業に追い込まれた。
04年、高次脳機能障害と診断。

05年、小学生の長男と一緒に空手教室に通い始めた。
子どもの習い事に選んだつもりだったが、
事故以降うつうつとした生活が続き、
気持ちの切り替えになればと自身も取り組んだ。

汗をかくさわやかさと、道場の張り詰めた緊張感に新鮮さを感じた。
週1回のけいこに励むうち、師範の形をまねして
手足を動かせるようになった。
頭の中で物事を整理できるようにも。
今、道場には週2回通う。

長谷川さんは、「すべてが完全にはよくならないけど、
よくなる手掛かりをつかんだような気がする」

国立成育医療センターの橋本圭司リハビリ科医長は、
「高次脳機能障害のリハビリは、いきなり記憶や言語の訓練から
始めるより、呼吸や姿勢などを整えることが大切。
気力や体力をつける上でも、武道は理にかなったリハビリ法だ」と評価。

国際武道大の松井完太郎教授は、
「道着を着ることで、気が引き締まる心理的効果もあるだろう」

※高次脳機能障害
事故や病気などで、大脳の一部が損傷して現れる後遺症の総称。
言語や記憶などの知的機能に障害が出る、
計画を立てられないなどの症状がある。
損傷を受けて、しばらくしてから突然現れ、
症状は損傷個所によって異なる。

厚生労働省によると、患者は全国に約7万人(高齢者を除く)。
リハビリテーションには、運動機能回復訓練や職能訓練など。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/1/6/114040/

2010年1月12日火曜日

県、上海万博に南部鉄瓶出展 国際市場で「岩手」PR

(岩手日報 1月5日)

県は、5月から中国上海市で開幕する上海万博に
南部鉄瓶を出展する。

同市の上海大可堂有限公司と共同出展し、
同社が製造販売する高級プーアル茶と、プーアル茶に適した
南部鉄瓶をPRする。
県として、国際的な万博に公式出展するのは初めて。
達増知事も、出席する方向で検討中。

同万博は、世界約200カ国が参加、約7千万人の入場を目標とし、
急成長する中国市場で南部鉄瓶を売り込み、
県産品の販路拡大、本県への観光客誘致につなげる。

県産業経済交流課によると、上海大可堂はプーアル茶の器として、
保温性や耐久性、デザインなどから南部鉄瓶を評価。

昨年9月、南部鉄器製造販売の及源鋳造(奥州市)と
販売契約を締結。
達増知事はその際に同行し、上海万博事務局を訪ね、
共同出展の可能性を検討。

共同出展スペースは約50平方メートル。
大半は、上海大可堂の出展スペースで、南部鉄瓶はその一部。
産地の盛岡市、奥州市を中心とした県南部鉄器協同組合連合会の
協力を受け、出展作品を製作し、数十点を出展する計画。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20100105_2

環境汚染「ワースト1」の街は今――中国・山西省

(CNN 12月26日)

もやに覆われた太陽、どんよりとした空。
車も建物もかすんで見える。
山西省南部の臨汾市は、06年に世界銀行の報告書で、
世界一環境汚染の深刻な街。
その後、当局が大規模な汚染防止対策を進めてきたものの、
スモッグに包まれた住民の暮らしは相変わらず。

同省は、中国の石炭産業の拠点。
その中核となる臨汾には、多くの炭鉱や製鋼所が集中。
ヒツジ飼育農家のシュエさん(78)が、
この街にやって来たのは40年前。
大きな工場が建ち始める前。
今、シュエさんのヒツジは、ばい煙を吐き出す煙突の陰で育つ。
「工場の近くの草を食べさせると、生まれるヒツジに
先天異常が出る」と、シュエさんは訴える。
「だが、われわれの声に耳を傾けてくれる人はだれもいない」

環境汚染の「ワースト1」という汚名を返上しようと、
当局は過去数年間、環境浄化事業に力を入れてきた。
数百カ所の炭坑や工場が閉鎖された結果、
07年の市内総生産(GDP)は約270億円も減少。

残った工場にも、厳格な環境基準が課せられた。
近郊のある製鋼所では、約1億8000万円の費用をかけ、
汚染物質の排出を抑えるシステムを導入。
煙突には、当局が排出物を監視するための
巨大な装置が取り付けられている。

街を覆うスモッグは今も、住民の生活の一部。
「われわれにとってはもう慣れたこと」と、シュエさん。
「製鋼所は、雇用を提供してくれる。
私の息子も雇ってもらっている。
働く場所があれば、お金がもらえるのだから、住民も助かる」

外からこの街を訪れた者は、しばらく屋外にいるだけで
目やのどが痛み出す。
路上で風船を売る女性は、上空のもやを気にも留めず、
「以前よりはずいぶん良くなったのよ」と、明るい表情。

http://www.cnn.co.jp/science/CNN200912260014.html

夢を紡ぐ:地球に優しい新技術(その2止) 未来のエコ最前線

(毎日 1月3日)

火力発電所や製鉄所の排ガスから、CO2を9割カット--。
そんな夢の技術が、CCS(CO2の分離回収・貯留技術)。

CO2と結合する液体を使い、排ガスからCO2だけを
取り出す技術が実用化。
CO2を、岩盤の下にある地下1000メートル程度の地層に
封じ込める研究も進み、日本では電力会社などが出資する
「日本CCS調査」が貯留場所の調査を始めた。
政府は、20年までの実用化を目指す。

国際エネルギー機関(IEA)は、20年に世界の約100カ所に
貯留施設が造られ、年間約3億トンのCO2貯留が可能。
50年の貯留量は、年間100億トンに達する。

◇燃料電池車--排ガス、ゼロ

ホンダやトヨタ自動車、日産自動車が開発中の燃料電池車は、
ガソリンに代わり、水素を燃料に酸素と化学反応させて
電気を生み出し、電動モーターを動かす未来のクルマ。
走行中、CO2など排ガスを全く出さず、出すのは水だけ。
電気自動車と違い、1回の水素充てんで長距離走行が可能。

ホンダが20年以上かけて開発する「FCXクラリティ」は、
08年7月から日米で官公庁向けなどにリース販売。
燃料電池の量産化で、現在1億円程度(非公開)と言われる
価格を2ケタ以上引き下げることや、
水素ステーションの整備など普及には課題も残るが、
「究極のエコカー」として期待を集めている。

◇微生物混合飼料--牛、羊のげっぷ抑制

牛や羊などの反すう動物のげっぷに含まれるメタンガスが、
地球温暖化の一因。
メタンの温室効果はCO2の二十数倍、その15%程度が
牛などのげっぷによるものとの研究結果。

大手商社の丸紅は、乳酸菌など数種類の微生物を混合した
飼料BLCS(微生物利用の家畜清浄システム)の技術を持つ
ベンチャー企業と提携、農家への販売を進めている。
飼料は、げっぷを抑制するほか、体内での消化改善などで、
ふんに含まれる窒素などの有害物質を減らす効果があることが、
帯広畜産大学の研究室が行った調査などからも示された。

◇サトウキビからエタノール--エネルギー循環

アサヒビールは、沖縄本島に隣接する小さな島「伊江島」で、
サトウキビを使ったエタノール生産の研究を進めている。
ガソリンにエタノールを混ぜることで、化石燃料の使用量を減らし、
CO2排出量削減につなげるとともに、
島内でのエネルギー循環を目指している。

通常の約4倍に上る20本程度の茎が育つサトウキビを栽培。
砂糖の生産量を減らさず、砂糖製造から出る残りかすの
「糖みつ」や、搾りかすの「バガス」を使ってエタノールを生産。
このエタノールをガソリンに混ぜる。
サトウキビの葉は、畜産用の肥料として活用。

◇エコシップ--風や太陽光をフル活用

コンテナ船「NYKスーパーエコシップ2030」は、
海運最大手の日本郵船が構想した近未来船。
同社の技術子会社MTIとフィンランドのコンサルタント会社、
イタリアのデザイン会社が半年間かけ、共同設計。
完成予想模型を昨年4月に発表。

基本コンセプトは、「2030年に実現可能な技術を盛り込む」
重油を使用する従来のディーゼル機関に代わり、
液化天然ガス(LNG)の燃料電池を主動力源とする。

収納可能な帆8枚(計4000m2)、甲板カバーと帆を覆う
太陽光パネル(計3万1000m2)など、
自然エネルギーをフル活用。
ナノテクノロジーを駆使した疎水性・はっ水性の高い塗装を
船底に施し、船腹に空気を放出することで、摩擦抵抗も軽減。
現在運航中の同級船に比べ、CO2排出量を69%削減できる。

◇NPOバンク--市民の出資募り融資

市民などの出資を元手に、銀行が手がけにくい環境事業などに
融資する「NPOバンク」が、環境技術の育て役として注目。

音楽家の桜井和寿さんや坂本龍一さんらが出資する
「ap bank」もその一つ。
年1%の低利で、最大500万円を融資。
03年の設立以来、約90件に3億円以上を融資。

見山謙一郎さん(42)は、メガバンクを退職後の05年11月から
約3年間、ap bankで融資先企業の財務などを審査する
理事を務め、紙おむつを乾燥させて固形燃料に転換する装置を
開発した中小企業への融資などを手がけた。
取引先銀行が融資に難色を示したため、持ち込まれた案件、
東京都内の社会福祉法人などへの納入にこぎ着けた。

◇音力(振動力)発電--走ってライトアップ

車や機械の「振動」や会話など日常生活で生じる「音」を
エネルギーに変え、発電する「音力(振動力)発電」。
生活空間そのものが発電所となる「夢のエコ発電社会」を
実現する技術として、NECエレクトロニクスなど大手企業も注目。

車の振動を活用した高速道路のライトアップや、
電池がなくても指でボタンを押すわずかな振動で動く
「電池レス」リモコンなど一部実用化。
空気の振動である音という微弱なエネルギーを電気に変えるのは
難しかったが、試行錯誤のすえ発電効率は上昇。
将来は、通話する音声やメールボタンを押す振動で
充電できる携帯電話や、歩くだけで発電する靴が登場するかも、
と夢は膨らむ。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/01/03/20100103ddm010040014000c.html

免疫パトロールの機構解明 リンパ球が炎症を抑制

(2010年1月6日 共同通信社)

異常な免疫反応に伴う炎症を抑えるリンパ球の働きを、
徳島大の林良夫教授のチームがマウス実験で解明、
米科学誌プロスワンに5日発表。

このリンパ球は、「制御性T細胞」と呼ばれ、
リンパ節から各臓器に広がって炎症を抑える
"パトロール活動"をしていた。
この働きには、CCR7というタンパク質が必要なことも発見。

林教授は、「この仕組みを制御できれば、免疫機構が誤って
自分自身の体を攻撃する自己免疫疾患の治療に役立つかも」

CCR7をつくれないように遺伝子操作したマウスで実験。
通常のマウスは、制御性T細胞が血流に乗って体内に
広がっていくが、遺伝子操作マウスはほとんどが
リンパ節にとどまったままになり、
目の炎症などの自己免疫疾患が起きるのを確かめた。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2010/1/6/114013/

2010年1月11日月曜日

働く喜びに出会う職場

(日経 2010年1月1日)

企業が成長し続けるには、「企業は人なり」という原点に
立ち返ることが欠かせない。
従業員が、やりがいや達成感を持ちながら働ける環境は
どうすればつくれるか?
「創造」、「貢献」、「連帯」、「成長」の喜びを
生み出す職場を探った。

◆「創造」王将フードサービス

2010年3月期まで、4期連続で純利益が過去最高を更新する
見通しの王将フードサービス。
鈴木和久専務は、同社躍進の理由について、
「本部は何もしてない。従業員の自発的努力に依存」

同社では、ギョーザなど基本メニューを除き、
各店舗がどんな料理をいくらで売っても自由。
本部は、各店のバックアップに特化。
仕入れから企画、販促に至るまで現場に任せている。

大盛りメニューを格安で提供したり、住宅街で子ども向けメニューを
100円にし、家族客を呼び込んだりするといった取り組みは、
すべて現場の判断。
利益が出ていれば、本部は口を出さない。

現場で働く人に、考える喜びを与える仕組みが生まれた
きっかけは、創業当初のあるできごと。
約40年前、売り上げが伸び悩んだ時期。
創業者は、テコ入れのため、従業員に細かく指示したが、
料理人などが反発、業績は下降の一途をたどった。

創業者は、半年悩んだ末、「家賃だけ(こちらに)くれれば、
店はみんなに任せる。もうけは山分けすればいい」と宣言。
これで、店長らの目の色が変わり、3カ月後には売り上げが倍。
これが、現在の報奨金制度の原型。

チェーン店では、マニュアルを徹底するのが普通だが、
従業員の創意工夫は封じられ、店の付加価値が
マニュアルに制限される」(鈴木専務)。
王将では、現場が自ら考えることに喜びを見いだし、
次々と新たなアイデアを実現。
常に変化し続けることが、競争力の源泉に。

◆ 「貢献」シンフォニア

屋根や柱が壊れたらすぐに駆けつけ、手際よく直す。
工場に舞い込んだハトがふんの被害を起こせば、捕獲する——。
シンフォニアテクノロジーの伊勢製作所の工機保全部は、
工場で起きるあらゆるトラブルに対応する「何でも屋」。

同部の設立は2002年。
余剰になったり、生産ラインになじめなかったりした社員でも
活躍できる場をつくれないかと、当時社長の佐伯弘文相談役が発足。
佐伯氏は、神戸製鋼所専務からシンフォニアテクノロジーの社長に
転じ、生産改革を断行して赤字体質を改善した立役者。
修理や電力管理、設備保全など外注していた業務を取り込めば、
コスト削減と余剰人員活用の一挙両得に。

草むしりや塗装など、工場美化から始まった。
「草刈りまでして、会社にしがみついてるのか」と、
心ない言葉を投げかけられた社員も。

台車・治具・生産装置の製作や、プレス機の法定点検などの
補佐作業や雑務に対応していくうちに、仕事の幅が広がった。
今では、「何かあったら工機保全に」が合言葉として定着。
各部門から、生産改善の相談にも応じている。

工機保全部を現場でまとめる辻田和敏職長は、
「依頼主に『ありがとう』と言われることが、やりがいに」
貢献しているという喜びが、働きがいとなり、
頼られる存在に彼らを変えたのだ。

底流にあるのは、一部の優秀な社員が活躍して
会社を引っ張ればいい、という考え方の否定。
それぞれが持つ能力を生かして役割を果たす
「全員野球型」の経営を志向。
同部には09年5月、新入社員2人が初めて配属。
川村洋文工機保全部長は、「あらゆる生産分野に対応できる
人材を育成する段階まで来た」と意気込む。

◆ 「連帯」サイボウズ

「君の日報を読みました。一言アドバイスさせてください」。
グループウエアソフトを販売するサイボウズに、
新卒で2009年4月に入社した森信一郎さんのパソコンには、
ほぼ毎朝、社内の誰かから助言や励ましのメールが届く。

同社では、約30人の新入社員が業務の成果や悩み、
疑問を記入する日報を、社内ネットで公開。
新入社員への助言の内容までわかる。
「ある先輩の助言を読んだ別の先輩が補足してくれることもある」
同社が重視している「社員の連帯」を示す場面。

「(販売実績など)数字だけで社員を評価することはもうしない」。
青野慶久社長には苦い記憶。

株式上場から6年目の06年1月期、過去最高益を更新したが、
当時の人事考課は、実績を最も重視する内容。
営業担当の社員を、販売実績をもとに1位から最下位まで
順位付けし、昇給に差を付けた。

社員を奮起させる効果があった一方、社員同士が
手助けしないことが起こり始めた。
青野社長は、「手伝うと、相対的に自分の評価が下がる恐れがあると
社員に思わせる仕組みになってしまっていた」と振り返る。

現在は、社員が掲げた目標の達成度を評価の尺度に。
過去の反省に立ち、販売額など数値目標の申告は求めない。
社員は、緊急時の代役引き受けや新人育成など、
自分にできる仲間への貢献を目標にできる。

◆「成長」太陽パーツ

ビジネスに失敗はつきもの。
業務で失敗をした従業員をしかるのではなく、
表彰している企業がある。
表彰された従業員は、失敗から学んだ教訓を次に生かし、
成長の喜びを感じている。

金属部品加工を手掛ける太陽パーツには、仕事で大失敗した
社員を、「大失敗賞」として表彰する制度。
導入の契機は、1993年に新事業部立ち上げで5千万円もの
損失を出したこと。
それ以来、ビジネス上の困難に前向きに挑戦する
企業風土を醸成しようとしている。

2009年も、表彰された大失敗が。
ある金属素材に難易度の高い加工を施そうと
果敢に取り組んだものの、素材に関する知識などが不足、
多大な損失を出した従業員がいた。
この社員は決してあきらめず、新たな加工技術の取得に挑戦。

数カ月後、この従業員が会得した新しい加工技術は、
中国・上海の関連会社での生産に生かされる。
大失敗をバネにして会社に貢献することで、
「この従業員は、成長した喜びを実感している」(太陽パーツ)。

◆仕事や職場への意識「能力発揮できる」6割

日本経済新聞社と日本能率協会、NTTレゾナントの
「gooリサーチ」は、ビジネスパーソンの
仕事や職場への意識を調べた。
「能力を発揮できる」、「仕事を通じて成長できる」は約6割。
「なりたいと思える人がいる」は3割に満たず、
「相談できる人がいる」も5割に届かなかった。

能率協会の杉本守孝・経営研究主幹は、
「多くのビジネスパーソンが、仕事で能力を発揮したり、
成長したりしている実感を持っている。
働く喜びを感じている人が、これだけいるのは心強い」

気掛かりは、目標となる人がいないという回答が多かった点。
相談できる人がいない人も多かった。
働く人が職場で孤立しているのは、経済環境の影響も。
賃金が増えにくくなると、誰かに厚めに配分すれば、
別の誰かが割を食う。
ゼロサムゲームが続くと、集団としての強みが失われかねない

経営者がやるべきなのは、皆を一つにする目的を掲げること。
自社のあるべき姿や、社会にどのように貢献して
利益を伸ばしていくのかを説く。
プラスサムへの道筋を示す

「管理職は、部下を長い目で見てほしい。
結果を出せない部下には、苦労を認めたうえで
どうすべきかを助言する。
この姿勢を貫けば、先輩が後輩の面倒を見る雰囲気が生まれる」

◆杉本守孝

81年早大大学院商学研究科博士前期課程修了。
83年日本能率協会に入職。
MI(マネジメント・インスティチュート)・人材育成事業本部長などを
経て、00年に理事に就任。09年から経営研究主幹。

▼調査の概要

民間企業に勤務している20歳以上の正社員(役員は除く)を対象、
2009年12月に実施。502人が回答。男性の比率は79.1%。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/ssresearch/ssr091226_4.html

「ナザレのイエス」時代の住居跡を発掘、イスラエル

(CNN 12月22日)

イスラエル考古庁は、イスラエル北部の都市ナザレで、
イエス・キリストの生誕前後の時代の住居跡を発掘。
この時代の住居跡が、ナザレで見つかったのは初めて。
当時のナザレを知る大きな手がかりになると期待。

考古庁によると、この時代の墳墓は数多く見つかっているが、
住居などは見つかっていなかった。
発掘場所は、ナザレの新市街地にある受胎告知教会のすぐ近く、
現在建設が進められている、イエス・キリストの母マリアの生涯を
紹介するナザレ国際マリア・センター建設予定地。

建設に先立つ発掘調査で見つかった住居には、部屋が2つあり、
中庭と雨水を貯める貯水池跡があった。
紀元1~2世紀頃の陶器片なども見つかった。

受胎告知教会は、マリアがイエス・キリストを身ごもったことを
天使から知らされた場所に建てられ、
かつてはマリアが夫ヨセフと暮らしていたとされている。

マリア・センター建設を進めるナザレ当局は、この住居跡を保存し、
同センターで展示することを計画。

http://www.cnn.co.jp/science/CNN200912220022.html

北の国からのメッセージ:バンクーバー冬季五輪/5止 資金不足、IOCが補う

(毎日 1月6日)

「世界的な経済危機に向き合った、初めての五輪。
我々は、多くの新しい取り組みをしなければならなかった」
バンクーバー五輪組織委員会(VANOC)の
ジョン・ファーロング最高経営責任者(CEO)。

昨年10月、IOCに報告した大会予算では、
運営費は17億5000万カナダドル(約1505億円)。
2008年時点の16億3000万カナダドル(約1402億円)から、
1億カナダドル以上増えた。
ウィスラーで、表彰式会場の建設を取りやめたり、
運営に大量のボランティアを集めるなどで
経費抑制を図っているが、大会運営費は
3700万カナダドル(約32億円)不足。

助け舟を出したのは、IOC。
昨年8月、「運営費の収支が赤字となった場合、
IOCが補てんする」と約束。

IOCは、バンクーバー五輪と12年ロンドン五輪とをセットにした
公式スポンサー契約を、当初12社見込んでいた。
現在までに契約できたのは、9社。
不足分も、VANOCの財政に響いていた。
IOCは、現在の公式スポンサー収入の配分比率を変更し、
VANOCに手厚くする意向。
VANOCの財政担当、デーブ・コッブ副CEOは、
「IOCは、不況の影響を考慮したと思う」

IOCは、東京も立候補した16年夏季五輪開催地選考において、
大会で赤字が出た場合、政府が負担する「財政保証」を
各都市に強く求めている。
今回のVANOCへの対応は、それと正反対。
異例の配慮と言っていい。

ここまでのVANOCの準備状況は、「優等生」。
04年アテネ夏季大会は、直前まで会場建設がずれ込み、
06年トリノ冬季大会は、スピードスケート会場が
完成したのが開幕2カ月前。
今回は、開幕2年前までにすべての競技施設を完成。
「環境」や「先住民の参加」をうたった大会理念も、
IOCの意向に沿う。
03年の開催地決定から大会関連取材を続ける地元紙
「バンクーバー・サン」のジェフ・リー記者は、
IOCの配慮について、「個人的な意見だが、
VANOCがIOCから信頼を得た結果だ」

だからといって、赤字は許されない。
カナダには、76年モントリオール夏季五輪という苦い過去。
当時の額で10億米ドルの大赤字を出し、市民の税金による
穴埋めを余儀なくされた。
赤字を完済したのは、大会から30年後の06年。
今回、モントリオールの再現となり住民に負担を強いれば、
猛反発は必至。
今後、カナダで五輪を開催することは難しくなる。

コッブ副CEOは、「赤字は出さない」と強い口調で言い切る。
現在の世界的不況下で、健全運営を実現すれば、
「五輪史上に残る失敗」とされる“モントリオールショック”を
カナダは一掃したと、世界に伝えられる。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/01/06/20100106ddm035050103000c.html

夢を紡ぐ:地球に優しい新技術(その1) 期待募る「創エネ」の家

(毎日 1月3日)

温室効果ガスの排出を抑制、地球温暖化を食い止めることが、
喫緊の課題として注目。
環境技術分野で、日本は世界をリードしている。
国内では、どのような環境技術が開発途上にあり、
これらが実現すれば、われわれの近未来の生活は
どう変わるのかを紹介。
技術開発の現場で課題に取り組む人々に、
技術の特長や開発を巡る創意工夫を聞いた。

◇温暖化対策、家庭から

地球温暖化対策で、家庭部門の技術革新に期待。
2008年度のCO2排出量は、工場など産業部門が
1990年比13・0%減、家庭部門は同34・7%増。
排出量は、産業部門の約5分の2にとどまるものの、
家庭部門の削減は温暖化対策に不可欠。

こうした状況を商機ととらえた企業は、「省エネ」にとどまらず、
「創エネ」の技術革新を急ぐ。
▽「太陽光パネル」で発電
▽都市ガスを使った「燃料電池」で給湯と発電
▽効率のよい「直流配電」で、家庭内に無駄なく電気を配電
▽家庭用コンセントから充電する電気自動車のバッテリーを
家の蓄電池として活用
▽省エネ家電で余った電力をため込む「蓄電池」の常設
▽次世代送電網「スマートグリッド」を通じた家庭外への売電

パナソニックは「エコアイディアハウス」、
シャープは「DCエコハウス」、
大阪ガスは「スマートハウス」の名称で、近未来の家造りを掲げ、
住宅を発電所化し、CO2排出ゼロを目指している。

◇実用近い簡便蓄電池

パナソニックが開発したのは、パソコンなどに使われる
円筒形のリチウムイオン電池(直径1・8cm、長さ6・5cm)を
140本組み合わせた「電池モジュール」と呼ぶ蓄電池
重さは約8キロ。
家庭の「発電所化」の核になりうるもので、
早ければ2010年中に実用化。

太陽光で発電した電力や、電力会社から購入した夜間の
安い電力をこの蓄電池にため、電気代を抑えられ、
CO2排出量削減にもつながる。
将来的には、ためた電力の売電なども考えられる。

モジュール1個で、1・5kw時の容量。
一般家庭では、1日5kw時程度あれば通常の生活ができ、
モジュールが4個でほぼまかなえる。

特長は、必要な数を自由に組み合わせて使えること。
軽自動車なら12~13個、電動バイクなら1~2個で走れる。
太陽光発電の電力を、電気自動車で使うことも夢ではない。
80個集めれば、オフィスのバックアップ電源に。

◇集落、地域に蓄電所

温室効果ガス対策で、普及が進む家庭用太陽電池パネル。
最大の弱点は、昼間しか発電できないことにあり、
設備利用率は12%にとどまる。
弱点克服の鍵を握るのが、高性能の蓄電池。

昼間発電した電気を蓄え、夜に使うことができる。
一軒一軒の容量は小さくても、集落、地域単位で
さらに大容量の蓄電所(大規模な蓄電池の集合体)を設置、
大規模な発電所に近い役割を担いうる。
電力の質の維持や向上、行楽施設の需要変動には、
スマートグリッドで対応。

◇直流配電で無駄省く

家庭の創エネ実現に、大きな役割を果たすのが直流配電。
電力会社が配電する電気は現在、交流(AC)。
家電製品のうち、ファクス付き電話やミニコンポ、
パソコンなどは直流(DC)。
ACアダプターは、電気を交流から直流へ変換。
変換で、5~10%の無駄が発生。

家庭用太陽電池パネルが生み出す電気や、
蓄電池の充電、放電も直流。
直流配電実用化で、家庭内の省エネは飛躍的に進み、
余った電力を社会へ供給することも可能。

マイカーの電気自動車のバッテリーを、家庭用の蓄電池に使え、
昼間は太陽光パネルで発電し、マイカーに充電。
夜は、マイカーから家庭内に電気を流し、照明をつけ、
テレビを見ることもできる。

◇燃料電池で効率高く

ガスなどから取り出した水素と空気中の酸素を反応させて
発電する「燃料電池」。
CO2排出がほとんどなく、発電時の廃熱からお湯を作るなど、
クリーンで効率の高いシステム。

大阪ガスは、燃料電池と太陽光パネル(太陽電池)、
蓄電池を「電池3兄弟」と命名。
三つの電池を組み合わせた「スマートハウス」の
実証実験を始める。

燃料電池で昼夜を通して発電し、家庭で使用しない分は
蓄電池にため込む。
昼間は、太陽光パネルで発電し、余った分は売電。
電力消費が増え、太陽光パネルが発電できない夜間は、
蓄電池の放電と燃料電池でまかなう。
電気の配分などの調整は、家庭のホームサーバーで
集中管理し、省エネとCO2の排出量を削減。

こうした組み合わせは、太陽光パネルで発電した電気の質を
安定させ、売電することができる。
家庭から社会全体のエネルギー効率を高められる
「スマート・エネルギー・ネットワーク」として、大阪ガスは提唱。
==============
◇スマートグリッド

情報通信と配電を統合した新技術。
明確な定義はないが、オバマ米大統領が環境技術を中心とした
経済政策「グリーン・ニューディール」と同時に提唱し、広まった。
太陽光や風力など、再生可能エネルギーで発電した電気を、
既存の送電網に効率よく、安定して流す技術にも使われる。

米国は、国土が広大なため既存の送電網への設備投資が
少なく、この新技術への期待は大きい。
日本の電力業界は、すでに高度な送電網があるとして、
太陽光の大量買電を想定した「日本型スマートグリッド」を検討。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/01/03/20100103ddm010040003000c.html

2010年1月10日日曜日

寅年の「科学技術の世界」を占う

(日経 2010-01-01)

過去150年ほど、寅年に国内外で起こった科学技術の
出来事を調べてみた。
北朝鮮ロケット「テポドン」の日本上空通過(1998年)、
チェルノブイリ原発事故(86年)、
原子力船「むつ」放射線漏れ事故(74年)。
いずれも、科学技術の負の側面ばかり目につく。
これらの事故や事件が起こった時、科学技術への関心が
高まったことも事実。

2009年12月、科学技術が引き起こした地球環境の病、
気候変動異常の解決を話し合う
「第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP15)が、
デンマークのコペンハーゲンで開かれた。
10年10月、生態系破壊を議論する
「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)が
名古屋で開かれる。
新聞やテレビも大きく報じるだろうから、自然と科学技術、
市場経済の調和を皆で考えるよい機会に。

今年、科学技術で何が起こるだろうか?
環境破壊への意識は高いので、使い道や効果、影響が
徹底的に見直され、きっとよい話題が生まれるに違いない。

「まだ太陽光の多くを無駄にしている」、
東京大学の大津元一教授。
現在の太陽電池は、最高でもエネルギーの約40%までしか
電気に変換できない。
大津教授らは、電池の表面に数十nmの微細な凹凸を付け、
変換効率を4割以上向上できる技術を開発。
通常は通り抜けてしまう赤色光や赤外光も、
微細な凹凸で波長が短くなり、電気に変換できるようになる。

ナノ領域で起こる物理現象を使い、発光ダイオード(LED)の
膜の組成を均質にして、厚さを5分の1以下にしても光る。
材料費は、大幅に減らせる。
「ナノテク(超微細技術)をうまく使えば、太陽光を丸ごと
利用できるようになるのも夢ではない」(大津教授)。

大津研究室の成果は、09年12月に論文で発表したばかり。
あまり知られていない。
自然エネルギーを無駄なく使う技術に、今年は注目したい。

「人間以外の生物、中でも小さな虫や植物に学ぶことは多い」、
東北大学の下村政嗣教授。
下村教授らは、工業技術に「バイオミメティクス(生物模倣)」を、
積極的に取り入れようと研究開発を進めている。

科学技術を持たない生物は、厳しい環境の中で生き残り、
最小限のエネルギーで活動できるようになってきた。
乾燥した砂漠でも微量の水を集めるメカニズム、
接着剤無しで壁に吸い付く皮膚、
外敵から身を守り異性をひき付ける自然発色、
いずれもナノ構造が機能している。
博物館は宝の山で、今あちこちで訪問している」(下村教授)。
具体的な成果は今後、新聞紙上で解説。

過去、産業の基盤はまず重厚長大な技術が築いた。
続いて、軽薄短小なITが台頭。
ITには、機器とともに画像・音声のコンテンツや目に見えない
ソフトウエアもある。
サービス産業にも、ITは多用。

巨大なモノ作りに比べ、ITは環境に優しいと考えられがち。
それは必ずしも正しくない。
ITは、大量の電気を使うので、そのための資源が必要。
LEDは、白熱電球より消費電力が小さいと言ってどんどん使う。
結果として、白熱電球を使った時より消費電力が増える。
製品の寸法が大きくても小さくても見えなくても、
地球環境に悪い影響を及ぼしている。

人間は、生活の豊かさを求めて数々の科学技術を生み出してきた。
自然循環への配慮が不足した結果、そのしわ寄せとして
環境破壊が起こっている。
我々は、便利な科学技術を重宝し、もうそれらを使わない時代には
逆戻りできない。

現在使っている科学技術の問題点を抽出し、
自然と調和するよう改良しなければならない。
そのための手段として、生物と非生物を最少のエネルギーで
入れ替えできるナノメートルサイズにあたる
「メソスコピック領域」を操るナノテクが重要。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec091225.html

キリスト時代の埋葬布発見 トリノ聖骸布の真偽に結論?

(CNN 12月17日)

イエス・キリストの時代、遺体を覆っていた埋葬布とみられる布が、
エルサレム旧市街で初めて発見。
研究者グループが16日発表。
キリストの遺体を包んでいたとされる「トリノの聖骸布」に、
新たな疑問を投げかける可能性が高い。

埋葬布の発見場所は、2000年に旧市街の外れで確認された
1世紀の集団墓所。
聖書に記述がある「血の土地」とみられている。
現地の湿度の高さを考慮した場合、こうした有機物が
原型をとどめていたのは極めて珍しい。

埋葬布の織り方は非常に単純で、
より複雑なトリノの聖骸布とは異なる。
研究者らは、聖骸布がキリストの処刑当時のものではなく、
後世のものであることの有力な証拠。
埋葬布の下にあった遺骨は、頭部と胴体の部分が別々に包まれ、
当時行われていた埋葬方法と一致。
墓の位置と併せて考慮すると、エルサレムの富裕層の男性。

遺骨を科学的に分析、この男性がハンセン病を患い、
結核で死亡した可能性が高いことが判明し、研究者らを驚かせた。
確認されたハンセン病の事例として最古、
結核が当時貧困層から富裕層まで、幅広い階層に
打撃を与えていた病気である。

http://www.cnn.co.jp/science/CNN200912170017.html

北の国からのメッセージ:バンクーバー冬季五輪/4 反対意見表明、可能に

(毎日 1月5日)

「モントリオールの二の舞いになる」。
2003年、プラハでのIOC総会で、バンクーバー五輪の開催が
決まったとき、バンクーバー市内に住む
ジョゼフ・ジョーンズさん(62)は、巨額の赤字を生み、
市民に負担を強いた76年夏季五輪の悪夢を思い出した。
「公金の使われ方として、五輪は正しいのか」。
ジョーンズさんは、五輪開催に反対する運動を始めた。

03年まで、地元ブリティッシュコロンビア大に司書として勤めた
ジョーンズさんは、仕事の傍ら、ベトナム反戦運動など
平和活動に携わってきた。
現在、五輪に反対する市民組織「五輪レジスタンスネットワーク
で広報を担当。
昨年3月、約400人を集めて、市内で五輪反対のデモを行った。

先月28日オンタリオ州で、聖火ランナーを五輪に反対する
女性が殴る事件が起きたが、ジョーンズさんたちは
過激な活動は行わない。
仲間内では、警察に逮捕されないために、
合法的な抗議活動のやり方を記した「指南書」も読んでいる。

ジョーンズさんは、「スポーツ自体に反対する考えはない」。
問題は、税金の使われ方。
州政府など、五輪に向けて空港と市街地を結ぶ鉄道を
敷設するため、20億カナダドル(約1720億円)を使った。
市内とスキー会場のウィスラーを結ぶ高速道路も整備。
ジョーンズさんは、「これらの事業に、本来なら教育関連に
使われた予算が回されている」と主張。

五輪組織委員会(VANOC)が掲げる「先住民参加」や
「環境保護」など、一見当たり前のテーマにすら、
反対する勢力がある。
五輪を政治利用するものだ、という理屈。

国が成熟するほど、国民の意見は多様化する。
「スポーツの祭典」の御旗の下に、過剰な税金の投入が
行われていないか、政治的な思惑が紛れ込んでいないか、
敏感に反応するのは自然。
IOCは、五輪の開催地を決める際、地域住民の支持率を
熱意の表れと見るが、成熟した国家では
圧倒的多数の賛成を得ることは考えにくい。
住民の支持率を見ると、バンクーバーは招致前で64%。
16年夏季五輪招致で、ブラジルのリオデジャネイロは86%、
東京は56%。

97年、バンクーバーでAPECが開かれた際、
市の警備当局は会議への反対運動を、催涙ガスなどで鎮圧、
国や世論から「暴力的だ」と批判。
その反省を生かし、今回の五輪期間中は市内に
「フリースピーチゾーン」を設け、反対を含む自由な意見を
表明する場とさせる意向。
過去の五輪にはない動きだったが、
「ゾーンに、反対運動を封じ込めるつもりでは」との批判。
現在は、五輪関連施設内でも自由に意見表明をさせる
方法を探っている。
そんな懐の深さも、今回の五輪から発信される新しい動き。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/01/05/20100105ddm035050029000c.html

安全・安心野菜の里確率へ 広がるか独自の認証制度開始初年度は4者が登録

(東海新報 1月1日)

耕作面積の狭い中山間地における農業振興を
目指している住田町。
その一環として、今年度スタートしたのが、
「安全安心農産物認証制度」。

制度に登録した生産者の農産物を、
「農薬・化学肥料不使用栽培」、
「農薬不使用・化学肥料節減栽培」といった栽培過程に応じて
格付けを行い、これに基づく金、銀、銅の各シールを
生産者に交付。
生産者が出荷時に袋などにはり付け、その安全性をPR。
初年度は、モデル的生産者として、3個人1団体が登録。
「安全野菜イコール住田」のブランド化につなげようと、
意欲的に取り組んでいる。

日本国内の一農家平均耕作面積が、およそ1ヘクタール、
中山間地にあり森林面積が約9割という同町での平均は
約60アールと狭い。
農業が基幹産業の一つだけに、他産地と競合するには
「量より質」の考え方が鍵を握る。

昭和40年代後半から50年代、町役場や農協、農家が一体となり、
労働力を集約して、収益性の高いキュウリやイチゴの畑作と畜産を
組み合わせて生産する集約・複合経営を推進。
農業振興と農家所得向上に大きな成果をあげ、
「住田型農業」として全国から脚光を浴びた。

全国的な例に漏れず、従事者の高齢化や後継者不足の影響から、
キュウリ、イチゴとも生産額は往時に比べて大幅ダウン、
昨今においてはその輝きは失われつつある。

こうした状況下でスタートした町独自の野菜認証制度。
対象は、町内の生産者で、農産物は米を除く野菜が中心。
農産物の栽培過程によって金、銀、銅の三種にランク付け。

金の条件は、「化学合成農薬、化学肥料または
化学合成土壌改良資材を使用していない」、
銀は「化学合成農薬を使用せず、化学肥料を県慣行栽培の
50%以下に減らしている」、「化学肥料を使用せず、
化学合成農薬を県慣行栽培の50%以下に減らしている」、
銅は「化学合成農薬や化学肥料を県慣行栽培の
50%以下に減らしている」。

審査は、農業関係機関でつくる町農業振興協議会が実施。
シール交付希望の生産者が申請書や栽培計画を提出し、
これを受けた町が町農振協に書類や現地審査を依頼。
結果報告を受けて、生産者に登録通知書を交付。
栽培スタート後、町農振協による現地調査を経て
ランク付けに至る。
シールは出荷に合わせて交付。

昨年9月、初の認定証書交付式では、3個人1団体が
キュウリやサツマイモなどの品目で登録。
認証野菜は、町内の産直やイベントでも販売、
消費者の関心を集めている。
買い物の目安の一つにしてもらうことで、安全安心ブランド確立を
目指し、同時に誘致企業を窓口とした全国展開も視野に、
すそ野の広がりを目指している。

http://www.tohkaishimpo.com/