2010年1月15日金曜日

夢を紡ぐ:地球に優しい新技術/3 燃料電池車 「未来カー」へ、今9合目

(毎日 1月7日)

◇本田技術研究所上席研究員・藤本幸人さん(52)

スタートボタンを押すと、「ウイーン」という小さな音で始動、
振動もなく滑らかに加速。
車内メーターに、水素が電気に変わる様子が電子表示……。
ホンダの燃料電池車「FCXクラリティ」は、
ガソリン車とは中身が異なる「別世界のクルマ」。

「どうだった。燃料電池車を欲しいと思った?」
東京・青山の本社ビル。
藤本幸人さんが語りかけると、子どもたちから
「僕も作ってみたい」と笑顔。
07年から月1回、「部活」と称して開く子ども向け
クラリティ体験イベント。
「面白さを、未来を担う子どもたちに知ってもらいたい」と
楽しみにしている。

「アコード」のエンジン開発に携わっていた98年、
開発チームに移ったが、初めて原型を見た時の衝撃が
忘れられない。
水素タンクや燃料電池がむき出しで積まれた姿は、
まるで「実験プラント」。

周囲から「次世代のシンボル事業」と激励されたが、
「車」にするには、燃料電池の小型・軽量化や耐久性向上など
課題山積。
4年がかりで改良を重ね、02年にクラリティの先代の
「FCX」を首相官邸に納車。
1回の水素補給で走れる距離は、500キロに満たず、
燃料電池が大きく、室内が狭く、外観もさえなかった。

「エコだけではダメ。
乗り心地やデザインも備えていないと、未来のクルマと言えない」

クラリティ開発に着手したが、技術的ハードルは高く、
開発チームは疲弊。
「激励もなく、叱咤ばかりだ」
部下の指摘もこたえた。
自信を失い、05年ごろ開発現場を離れた。

「部下のアイデアに意見したら、開発や技術は止まる」、
「数値目標ばかりではダメ」。
どう開発に取り組むか、悩み抜いた。
その間も、「世界初の実用的な未来カー」の夢は捨てられなかった。
3カ月後、上司や部下の求めに応じ、チームに復帰。
電池の改善で、距離を600キロ超に伸ばし、
室内も広いセダンのクラリティを07年11月に完成。

08年7月以降、日米でリース販売を開始。
今は、1台1億円程度の価格引き下げに奮闘。
「燃料電池車普及という目標に向け、9合目まで来たが、
登り切るのは今まで以上に大変」。
栃木県には専用製造ラインもでき、
夢は実現に確実に近づいている。
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◇燃料電池車

ガソリンの代わりに、水素を燃料に使う燃料電池で
駆動する自動車。
圧縮した水素を、タンクから燃料電池に送り込み、
酸素と化学反応させて電気を取り出し、電動モーターを回す。
排気管から水が出るだけで、排ガスは一切出さない。
1回の水素補給で620キロ走れ、現行の電気自動車に比べ、
走行距離は約4倍に達する。
燃料電池の量産化と低価格化が課題。
ホンダは、2020年までの普及を目指す。

http://mainichi.jp/select/science/news/20100107ddm008020027000c.html

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