2010年1月10日日曜日

寅年の「科学技術の世界」を占う

(日経 2010-01-01)

過去150年ほど、寅年に国内外で起こった科学技術の
出来事を調べてみた。
北朝鮮ロケット「テポドン」の日本上空通過(1998年)、
チェルノブイリ原発事故(86年)、
原子力船「むつ」放射線漏れ事故(74年)。
いずれも、科学技術の負の側面ばかり目につく。
これらの事故や事件が起こった時、科学技術への関心が
高まったことも事実。

2009年12月、科学技術が引き起こした地球環境の病、
気候変動異常の解決を話し合う
「第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP15)が、
デンマークのコペンハーゲンで開かれた。
10年10月、生態系破壊を議論する
「生物多様性条約第10回締約国会議」(COP10)が
名古屋で開かれる。
新聞やテレビも大きく報じるだろうから、自然と科学技術、
市場経済の調和を皆で考えるよい機会に。

今年、科学技術で何が起こるだろうか?
環境破壊への意識は高いので、使い道や効果、影響が
徹底的に見直され、きっとよい話題が生まれるに違いない。

「まだ太陽光の多くを無駄にしている」、
東京大学の大津元一教授。
現在の太陽電池は、最高でもエネルギーの約40%までしか
電気に変換できない。
大津教授らは、電池の表面に数十nmの微細な凹凸を付け、
変換効率を4割以上向上できる技術を開発。
通常は通り抜けてしまう赤色光や赤外光も、
微細な凹凸で波長が短くなり、電気に変換できるようになる。

ナノ領域で起こる物理現象を使い、発光ダイオード(LED)の
膜の組成を均質にして、厚さを5分の1以下にしても光る。
材料費は、大幅に減らせる。
「ナノテク(超微細技術)をうまく使えば、太陽光を丸ごと
利用できるようになるのも夢ではない」(大津教授)。

大津研究室の成果は、09年12月に論文で発表したばかり。
あまり知られていない。
自然エネルギーを無駄なく使う技術に、今年は注目したい。

「人間以外の生物、中でも小さな虫や植物に学ぶことは多い」、
東北大学の下村政嗣教授。
下村教授らは、工業技術に「バイオミメティクス(生物模倣)」を、
積極的に取り入れようと研究開発を進めている。

科学技術を持たない生物は、厳しい環境の中で生き残り、
最小限のエネルギーで活動できるようになってきた。
乾燥した砂漠でも微量の水を集めるメカニズム、
接着剤無しで壁に吸い付く皮膚、
外敵から身を守り異性をひき付ける自然発色、
いずれもナノ構造が機能している。
博物館は宝の山で、今あちこちで訪問している」(下村教授)。
具体的な成果は今後、新聞紙上で解説。

過去、産業の基盤はまず重厚長大な技術が築いた。
続いて、軽薄短小なITが台頭。
ITには、機器とともに画像・音声のコンテンツや目に見えない
ソフトウエアもある。
サービス産業にも、ITは多用。

巨大なモノ作りに比べ、ITは環境に優しいと考えられがち。
それは必ずしも正しくない。
ITは、大量の電気を使うので、そのための資源が必要。
LEDは、白熱電球より消費電力が小さいと言ってどんどん使う。
結果として、白熱電球を使った時より消費電力が増える。
製品の寸法が大きくても小さくても見えなくても、
地球環境に悪い影響を及ぼしている。

人間は、生活の豊かさを求めて数々の科学技術を生み出してきた。
自然循環への配慮が不足した結果、そのしわ寄せとして
環境破壊が起こっている。
我々は、便利な科学技術を重宝し、もうそれらを使わない時代には
逆戻りできない。

現在使っている科学技術の問題点を抽出し、
自然と調和するよう改良しなければならない。
そのための手段として、生物と非生物を最少のエネルギーで
入れ替えできるナノメートルサイズにあたる
「メソスコピック領域」を操るナノテクが重要。

http://netplus.nikkei.co.jp/ssbiz/techno/tec091225.html

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