2010年1月10日日曜日

北の国からのメッセージ:バンクーバー冬季五輪/4 反対意見表明、可能に

(毎日 1月5日)

「モントリオールの二の舞いになる」。
2003年、プラハでのIOC総会で、バンクーバー五輪の開催が
決まったとき、バンクーバー市内に住む
ジョゼフ・ジョーンズさん(62)は、巨額の赤字を生み、
市民に負担を強いた76年夏季五輪の悪夢を思い出した。
「公金の使われ方として、五輪は正しいのか」。
ジョーンズさんは、五輪開催に反対する運動を始めた。

03年まで、地元ブリティッシュコロンビア大に司書として勤めた
ジョーンズさんは、仕事の傍ら、ベトナム反戦運動など
平和活動に携わってきた。
現在、五輪に反対する市民組織「五輪レジスタンスネットワーク
で広報を担当。
昨年3月、約400人を集めて、市内で五輪反対のデモを行った。

先月28日オンタリオ州で、聖火ランナーを五輪に反対する
女性が殴る事件が起きたが、ジョーンズさんたちは
過激な活動は行わない。
仲間内では、警察に逮捕されないために、
合法的な抗議活動のやり方を記した「指南書」も読んでいる。

ジョーンズさんは、「スポーツ自体に反対する考えはない」。
問題は、税金の使われ方。
州政府など、五輪に向けて空港と市街地を結ぶ鉄道を
敷設するため、20億カナダドル(約1720億円)を使った。
市内とスキー会場のウィスラーを結ぶ高速道路も整備。
ジョーンズさんは、「これらの事業に、本来なら教育関連に
使われた予算が回されている」と主張。

五輪組織委員会(VANOC)が掲げる「先住民参加」や
「環境保護」など、一見当たり前のテーマにすら、
反対する勢力がある。
五輪を政治利用するものだ、という理屈。

国が成熟するほど、国民の意見は多様化する。
「スポーツの祭典」の御旗の下に、過剰な税金の投入が
行われていないか、政治的な思惑が紛れ込んでいないか、
敏感に反応するのは自然。
IOCは、五輪の開催地を決める際、地域住民の支持率を
熱意の表れと見るが、成熟した国家では
圧倒的多数の賛成を得ることは考えにくい。
住民の支持率を見ると、バンクーバーは招致前で64%。
16年夏季五輪招致で、ブラジルのリオデジャネイロは86%、
東京は56%。

97年、バンクーバーでAPECが開かれた際、
市の警備当局は会議への反対運動を、催涙ガスなどで鎮圧、
国や世論から「暴力的だ」と批判。
その反省を生かし、今回の五輪期間中は市内に
「フリースピーチゾーン」を設け、反対を含む自由な意見を
表明する場とさせる意向。
過去の五輪にはない動きだったが、
「ゾーンに、反対運動を封じ込めるつもりでは」との批判。
現在は、五輪関連施設内でも自由に意見表明をさせる
方法を探っている。
そんな懐の深さも、今回の五輪から発信される新しい動き。

http://mainichi.jp/enta/sports/general/general/archive/news/2010/01/05/20100105ddm035050029000c.html

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