(読売 1月5日)
6年間かけ、即戦力となる教員を育てる取り組みを始めた
教員養成大学。
東京学芸大学の講義棟内の一室は、活気に満ちていた。
民間出身の中学校長として注目、今では同大の客員教授を
務める藤原和博さん(54)が、「新教員養成コース」で
教員を志す学生約30人を前に、「コミュニケーション型」の
授業の進め方について熱く説いていた。
「一方的な『講義型』では、子どもたちはついてこない。
教員と子ども、子ども同士がコミュニケーションをとりながら
展開する授業じゃないといけない」
学生たちは、児童・生徒役になり、ハンバーガー店の
出店計画や自殺抑止をテーマに、3人ずつのグループで
意見を出し合う。
と同時に、もし自身が教師だったらどう授業を進めていくかを考えた。
受講した初等教育教員養成課程2年の小松由さん(20)は、
「児童とうまくコミュニケーションをとりながら授業をするのは
難しいと思っていたが、自分でも何とかできるのでは、
とやる気がわいてきた」
2008年度にスタートした同大の新教員養成コースは、
学部と大学院の6年間を通した教育により、
高度な知識と実践力を兼ね備えた教員の育成を狙う。
従来は、不十分だった生徒指導や学級運営などを、
学部段階から実践的に学ぶカリキュラムを組み、
藤原さんの授業もその一環。
民主党政権は、教員養成6年制構想を明らかにしているが、
同大では約10年前から検討を重ねてきた。
村松泰子副学長(65)は、「教育問題が多様化するなか、
学部4年間だけの教育では、不安を抱えたまま
学校現場に出ていく者も少なくない。
6年かけて質の高い、即戦力となる教員をじっくりと
育てていくという選択肢も必要だと考えた」
即戦力重視の背景には、学校教員の人員構成上の問題。
先輩教員が、経験をもとに知恵や技を若手に伝えてきたが、
一時期の採用抑制によって、30~40歳代の中堅教員が少なく、
十分な伝承ができていない。
学生のモチベーションの問題も。
「様々な教育問題に接するうちに、自信をなくし、
進路を変更する学生も。
早い段階から課題への対処法などを学ぶことで、
教員を志す意欲の向上にもつながる」と、
新教員養成コース運営部会長の中島裕昭教授(52)。
新コースで特に力を入れているのが、「教職コミュニケーション」。
学級崩壊やいじめ、保護者対応といった具体的な問題について、
ロールプレイングやカウンセリングなどの手法を
取り入れながら学んでいく。
4年生になると、通常の教育実習以外に、学生それぞれが選んだ
テーマに即した研究実習も行う。
同時に開設された教職大学院でも、学部新卒者と現職教員を
対象に、実習を重視した学校経営や指導法などの教育。
新コースでは、教職大学院での教育手法を
学部段階で先取りした面も。
現在、新コースに在籍する学生は、2、3年生合わせて33人。
教員養成課程2学年の学生数の2・4%に過ぎない。
中島教授は、「教員養成大学には今、教育の充実に向けた
創意工夫が求められている。
学生はまだわずかだが、ひとつの挑戦として、
教員養成教育のあり方を考えるきっかけに」
教員養成大学の摸索は続く。
◆民主党政権の教員養成6年制構想
マニフェストで、教員の資質向上のため、
「養成課程を6年制(修士)とする」と明記。
学部4年間と大学院2年間の連続した教育か、学部卒後、
いったん教員を経験した後の2年間の再教育かなど、
詳細は明らかになっていない。
◆24大学に教職大学院
学級崩壊やいじめ、学ぶ意欲の低下など、
教育問題の深刻化を背景に、教員養成大学・学部に求められる
役割は、ますます重要性を増している。
教員養成大学・学部は、小・中学校などの教員になるための
専門教育を行い、教員免許取得を卒業要件とする。
国立44大学(うち単科大学11)と、私立4大学。
文部科学省によると、全国の国公私立小学校の教員
(臨時的採用は除く)は、約42万人(2009年度)。
約6割(07年度)を、教員養成大学・学部出身者が占め、
教員養成の中心的な役割を担っている。
学部での4年間では、主に教育学、指導法などの基礎や理論が
中心で、実習時間も十分に確保されていない。
今日の学校現場での課題に対処し得る、
実践的教育を行うのは不十分。
08年度、専門職大学院である「教職大学院」がスタート。
従来型大学院が研究中心なのに対し、教職大学院は実習重視で、
指導方法や学校経営などを実践的に学ぶ。
現在、教員養成大学を中心に24大学に設けられている。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20100105-OYT8T00237.htm
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