2008年9月6日土曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 石黒浩氏インタビュー

(日経 8月24日)

石黒浩・大阪大教授

―人間そっくりのアンドロイドロボットを研究。その狙いは?

人間の脳みそは、人間に反応しやすくできている。
例えば、ライターには話しかけにくいでしょう。
人間型ロボットを作るなら、用途はコミュニケーションしかない。
どのようなインターフェースが必要なのか、
どこまで人間の形からそぎ落としてもいいのか。
姿形は機能のはずなのに、デザインの理屈がないのはおかしい。

これまで脳がロボットをどう認識するかといった研究が全くなされず、
製作者のポリシーでデザインが決まっていた。
状況を限定すれば、既に(施設の)案内などに
アンドロイドが使えるようになっている。
人間と接するうえで、外観が重要となり、
研究の基盤としてアンドロイドを開発。

―技術面での課題は?

開発途上の要素技術は数多くある。
人間の皮膚に近づけるため、伸び縮みする皮膚センサーを作っている。
有機ELは、薄く曲がるが、伸びたりねじれたりはしない。
シリコンゴムに、伸縮する配線を組み合わせる。
ゴムも特殊な素材を用いるので、大手メーカーではなく、
多品種少量生産ができる地元企業と組んでいる。

人間に近い滑らかな腕関節をつくるため、ギアやモーターではなく、
ピストン運動をするアクチュエーターを開発
三菱重工業と取り組んでいるが、まだ価格が非常に高い。
人間らしいゆらぎを生物から学んだり、細かな動きを制御できる
コンピューターを小さくしたり。
今のロボットの多くは、工場にあるロボットの延長にとどまっており、
人間型ロボットを動かすには極めて多くの技術が必要。

―人間型ロボットは社会にどう導入されるか?

アニメなどの影響から、日本ではロボットは人間の形として実現する
イメージが生まれている。
その印象が強すぎで実感しにくいが、「話す」カーナビや自動販売機など
我々が使っているものも一種のロボットで、日々進化。
人間に似たロボットが、身の回りにあってもおかしくはない。

新しい技術が生まれれば、社会も変わる。
携帯電話もそうだった。
いまの社会からだけでは、ロボットがどのように普及するかは考えられない。
ロボットが生活に浸透する際の危険性を懸念する人もいるが、
普及は、利便性とのトレードオフだろう。
自動車も、事故を起こす危険は高いが、利便性の方が大きいから広がった。
そのときには、社会も変化しているだろう。

<石黒浩氏 略歴>
1963年生まれ。山梨大工卒、大阪大で博士号を取得。
京都大助教授などを経て2003年より現職。
視覚認識の研究を皮切りに、外見が人間にそっくりなアンドロイドロボット研究の
第一人者に。産学協同のロボットベンチャー「ヴイストン」の技術顧問も務める。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2004022082008

子離れできない「ヘリ親」に危機感 米専門家ら

(CNN 8月24日)

頭上を旋回するヘリコプターのように、わが子を常に見守り、
少しでもトラブルがあればすぐに駆けつける。
子どもが成長しても、そんな態勢を変えず、介入を続ける親を、
米国では「ヘリコプター・ペアレンツ」と呼ぶ。
近年特に増える傾向にあることから、専門家らが危機感を募らせている。

わが子が「不公平」な扱いを受けたと、学校へ怒鳴り込む。
教師の配置に目を光らせ、不満があれば「うちの子を別のクラスへ」と要求。
親が子どもを守ろうとするのはごく自然な行動だが、
明らかに「行き過ぎ」のケースが目立つと、専門家は指摘。

ジョージア州の臨床心理学者、ナンシー・ワイスマン氏は、
「子どもが宿題を忘れたり、昼食代を忘れたりするたびに届けに行くのは、
ヘリコプター・ペアレンツの典型例。
子どもは、救助してもらうのが当然だと思うようになってしまう。
自分のことは自分で責任を取れる子どもに育てるために、
この習慣を断ち切るべきだ」

コネチカット州の高校で30年間カウンセラーを務めたリッチ・バーバラ氏は、
「父母が学校に強い関心を持ってくれるのは、歓迎すべきこと。
前向きの提案が、カリキュラムなどの改革につながった経験も」。

一方で、「生徒本人が進学を希望していないのに、
親が試験の申し込み書を取りに来たり、
本人に代わって大学出願書類を記入、提出したりするケース。
親の判断で何もかも進めてしまっては、子どもの決断力が育たない。
自分でさまざまな結果を想定し、選択肢を見極めたうえで
問題を解決すれば、それが自信につながるはず」

セントルイス大医学部の小児科医、ケン・ホーラー准教授も同意見。
「子ども自身が判断を下せるよう、手助けするのが親の役目」と強調。
ホーラー氏によれば、子どもは中学生くらいになると、
親よりも友人の声に共感し、親の介入を恥ずかしがる場面も多いのが普通。

「いつまでも親の助けを求めてくるようなら、
親は自らの態度を反省してみる必要がある」。
「子どもの話だけを聞いて、学校などに怒鳴り込むのは考えもの。
まずは、教師側の話にも耳を傾け、交渉する姿勢を見せることで、
問題解決の手本を示してあげるべき。
解決方法について、親子でよく話し合うことも大切」。

一方で、「子どもはただ聞いてほしかっただけ、ということもあり得る。
その場合は、何も行動を起こさないのがベスト」。

http://www.cnn.co.jp/science/CNN200808240018.html

バイオエタノール:ゴルフ場の芝から製造--岐阜大が新技術

(毎日 8月26日)

ゴルフ場で刈り取られた芝から、バイオエタノールを製造する新技術を、
岐阜大の高見澤一裕教授(環境微生物工学)らが開発。

1カ所のゴルフ場から、車2台の1年分の燃料を生産でき、
秋にはベンチャー企業が実証プラントの運用を始める。
日本生物工学会で発表。

バイオエタノールは、トウモロコシやサトウキビを原料に実用化。
食料用作物と競合し、価格高騰を引き起こしたため、
世界で非食用植物の利用が研究。

研究チームは、ゴルフ場で使うコウライシバ、ベントグラスなどの芝に着目。
セルロースなどの繊維が多いため、酵素で繊維を糖に変えた後、
発酵させる必要がある。

チームは、数十種類の酵素からアクレモニウムセルラーゼ、
エンドグルカナーゼという2種類の組み合わせで、
高効率で糖に変換する方法を開発。
芝1グラムから、約0・15グラムのエタノールを生産することに成功。

18ホールのゴルフ場で1年間に刈る芝は、乾燥重量で約18トン、
試算ではガソリン約2300リットルに相当する
2・7トン以上のエタノールが作れる。
年間1万~1万5000キロを走る車2台分の1年間の燃料を賄える。

事業化を担うベンチャー企業、トゥービー(三重県亀山市)は、
農水省などが掲げる目標単価1リットル100円を下回る
1リットル90円以下と見込む。
ゴルフ場1カ所ずつに小型プラントを置く案や、数カ所のゴルフ場で
共同運営プラントを設置する案を検討中で、
自治体が収集した道路の雑草の利用も視野に入れる。

高見澤教授は、「芝を廃棄物として焼却すると、最大で年に1000万円かかる。
廃棄物を処分しつつ、バイオエタノールも生産できる」。

http://mainichi.jp/life/ecology/news/20080826ddm012040067000c.html

釜石・大船渡シニアネットが連携 三鉄活性化とPRで

(東海新報 8月31日)

三陸沿岸地区のシニアネット・リアス連絡協議会の仲間たちが連携し、
三陸鉄道活性化事業で、釜石・大船渡間の利用客増に向け、
このほどお互いの見どころを紹介したポスターやチラシを作成。

この事業は、マイレール三鉄・沿岸地域30万人集客支援事業として、
NPO法人eネット・リアス(川洋一理事長)が主体、
県三陸鉄道強化促進協議会の助成を受けて実施。

プラス30万人運動、三陸鉄道と沿線観光のPRが主な事業内容。
このうち、南リアス線の釜石・大船渡間の利用客増をネライに、
両市でそれぞれ開催される秋から冬のイベント情報を盛り込んだ
PRチラシやポスターを作成し、振興局、市、商工観光関係団体などに配布。

ポスターには、「行楽の秋、味覚の秋をぜひ三陸鉄道で」と銘打ち、
三陸鉄道のお得な切符情報や「三陸大船渡さんままつり」(9月14日)、
「碁石海岸観光まつり」(10月5日)、「三陸大船渡浜一番まつり」(11月下旬)、
「釜石まつり」(10月17~19日)、「釜石まるごと味覚フェスタ」(10月25~26日)、
「釜石冬の味覚まつり」(12月6~7日)などを紹介。

作成に当たっては、シニアネット・リアス連絡協議会のメンバーとなる
大船渡市、陸前高田市の団体と連携して活動。
今後、車窓から眺める景観や地域の伝統芸能を編集した
「車窓の旅」CD―ROMや、三鉄と景観、史跡を組み込んだ乗車記念カード
などの作成も計画。沿線観光のPRと三鉄利用を呼びかけていく。

http://www.tohkaishimpo.com/

教師力08(4)部活動で感動体験を

(読売 8月29日)

部活動の活性化について、研究を始めた教師がいる。

宮城県栗原市立栗駒中学校の武道館相撲場。
まわしを締めた10人の部員が、総監督の伊藤和裕教諭(39)相手に
ぶつかり稽古を始めた。「よし、こいっ」。
自らもまわしを締め、生徒を受け止める。
ぐいぐい頭を押しつける生徒のパワーに、思わず歯を食いしばった。

6月の宮城内陸地震で、十分な練習ができないまま臨んだ県大会でさえ、
3年生4人が上位を独占した強豪校。
伊藤教諭の指示を待たずに、黙々と練習メニューをこなしていく部員を眺め、
伊藤教諭は、「苦しくても逃げ出さない。本当に偉いと思います」

県教委からの派遣命令を受け、宮城教育大教職大学院に進学。
現在は週に1度、車で片道1時間半かけて
同中相撲部を訪れ、部員と汗を流す。

教員になって18年、合宿や大会などで、週末にゆっくり休んだ記憶がない。
担当の社会科でも、「教えたいことが次から次へと出てくる。
とにかくいつも、時間が足りなかった」。
部員の千葉大介君(15)は、「自分にも僕らにも厳しい先生。
大学院に行くと聞いた時は、本当に寂しかった」

同中が母校で、中学、高校と相撲部だった。
選手として大きな結果を残した訳ではないが、
「部活でしか得られないうれしさや悔しさを体験できた」。
教え子にも感動を味わわせたいと願ってきた。

5年前、県中学校体育連盟相撲専門部の委員長に就任。
保護者や知人から、「通っている中学校に相撲部はないが、
相撲大会に出場したいという生徒がいる」と聞けば、
出場できるよう便宜を図ってほしいと学校側に頼んで回った。

だが、反応は冷たかった。
「出せない」、「出してやりたいが、引率する教師がいない」。
後ろ向きな教員の言葉に、「なんで生徒の気持ちに応えてくれないんだ」

大勢の部員が必要なサッカー部や野球部が、部員不足で次々と廃部に。
バレーボール部、バスケットボール部など、比較的人数が少なくても
成り立つ競技でさえ、「指導が大変」、「将来部員が増える見込みがない」
などの理由で休部する。
自分の専門外の部の顧問になった教員が、
部活にほとんど出てこないケースも。
「もっと意欲を持って、部活に臨まなければならないのは教員だ」。
部活の意義をしっかり説明できない自分自身にも、悔しさが募った。

大学院での研究には、「部活の活性化」を選んだ。
部活に関する研究は乏しく、大学院の指導教授とともに探したが、
過去の研究文献は数冊しかない。
それでも、「部活をもっと多くの生徒に経験してほしい」との信念で、
新たな研究に挑む。
「顧問に、専門的な技術は必要ない。
子供たちをどうまとめ、どうやって一つの目標に向かわせるかの指導が重要
という主張を柱に、指導プログラムを作るのが夢だ。

◆部活動の位置づけ

これまでの中学校の学習指導要領では、教育課程外とされてきたが、
文部科学省が2008年3月に告示した新指導要領では、
初めて「学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり、
学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるように留意すること」と明記。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080829-OYT8T00232.htm

2008年9月5日金曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 橋本和仁氏インタビュー

(日経 8月24日)

橋本和仁・東京大学教授

―どんな技術分野に注目しているか?

日本が期待される分野は、エネルギーや環境。
環境技術は、これまではなかなか利益に結びつかなかったが、
二酸化炭素(CO2)の排出がコストと見なされ、見直される。
日本は、環境に関する基本的な技術がたくさんある。

エネルギー分野も注目。
5~6年前まで、バイオ、ライフサイエンスばかりだった
米国の科学技術研究も、ブッシュ大統領が2年前に一般教書演説の中で、
エネルギー分野への注力を表明して以降、状況が変わった。
今では、エネルギーに関連しないと研究予算がつかない雰囲気。
日本でも、エネルギー関連技術の研究が加速。

―個別に注目する技術は?

有機物を使った太陽電池。
色素によって、光エネルギーを利用する色素増感型太陽電池
長いこと研究され、技術的にかなりのレベル。
これまではシリコン系の太陽電池、薄膜系の太陽電池に対して、
どれだけ有利なのか、はっきり見極められない状況だったが、
最近、ソニーが色素増感型太陽電池に注力すると発表。
ソニーの技術は優れているようだ。

色素増感型は化学メーカーをはじめ、シャープ、新日本石油、
アイシン精機など日本の企業の多くが研究。
桐蔭横浜大学からベンチャーも生まれており、面白くなりそう。

もう一つは、すべて有機物からできている太陽電池で、
三菱化学が2010年までの3カ年計画の重点分野と位置づけ。

サイエンスとしても、有機物を使った新しいデバイスは大きな流れ。
有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)が代表例。
20世紀は、物理学と半導体の時代。
半導体は無機だが、21世紀は有機の世界になる。
有機ELは、電気で発光させる。
有機太陽電池は、光で電気を発生させる。
反応が逆なだけで、ほとんど物質も同じものが使われている。

―なぜ有機の時代なのか?

廃棄物や資源枯渇の問題から。
無機物のなかにはシリコンをはじめ、ガリウムなど希少金属(レアメタル)がある。
レアメタルは、地球上に幅広く存在するわけではなく、偏在。
レアメタルを使わず、どこにでもあるカーボンなど
一般的な元素を使ったものに置き換えていかないと、資源は枯渇。

有機ELは、以前はものにならないと思われてきた。
有機物は電気を流さないし、耐久性が弱く、安定性もない。
湿気、水分にも弱い。
だが、有機物も電気を通すことがわかり、研究で耐久性も向上し、
今ではパネルができるまでになった。
21世紀の科学技術は、自然に回帰する方向に進む。
自然と共生しないと、社会の持続は不可能だ。

―酸化チタンなど光触媒やナノテクノロジーが専門だが、今の関心は?

ナノテクを、いかに農業分野に応用していくかというのが長期的なテーマ。
ばかげていると思うかもしれないが、水田に生える稲の根から
エネルギーが取れないか実験。
微弱ながら、電力は得られた。
この分野は研究する人が少ないので、発見があるかもしれない。
でも、すぐにおカネにするのは無理な研究(笑)。

<橋本和仁氏 略歴>
1978年東大理学部化学科卒。
光触媒材料やナノテク、有機太陽電池の開発などが専門。
2004年から3年間、東大先端科学技術研究センター所長。
現在、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻教授。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2003022082008

産学研究ナマコ養殖 大船渡の北里大と県内2社

(岩手日報 8月29日)

中国で、高級食材として人気のナマコの養殖技術を確立しようと、
大船渡市の北里大海洋生命科学部と民間企業2社が共同研究に着手。

種苗生産で、課題となっている有害プランクトンの除去装置の
開発が目的で、成功すれば安定生産につながる。
県北・沿岸振興の柱として、ナマコ輸出は漁業関係者の期待も
大きいだけに、関係者は「ぜひ成功させたい」と意気込んでいる。

共同研究を行うのは、同学部の高橋明義教授(海洋分子生物学)と
奥村誠一准教授(水産遺伝育種学)、ナマコの種苗生産に取り組む
養殖業の北日本水産(大船渡市、古川季宏社長)、
水処理技術を持つKM環境技研(一関市、村上圭佑社長)。

2カ年の研究期間で財団法人さんりく基金から本年度、120万円の助成。
種苗生産は、養殖場に海水をくみ上げて行うが、
ろ過してもプランクトンなどの微生物が混入する。

エビなどの甲殻類に属する「コペポーダ」(体長1ミリ、卵径0・08ミリ前後)は、
生後1カ月程度で数ミリに成長する稚ナマコを食べるなどして
大量死を引き起こす。
いったん増殖すると、水槽のナマコが全滅するケースも。
養殖の盛んな中国では薬品で駆除しているが、日本では使用が不可能。

研究では、KM環境技研のステンレス製フィルターを活用。
網目が0・1ミリから0・03ミリという4段階のフィルターを取り付けた
除去装置の試作機を、北日本水産の給水施設に設置。
目の細かいフィルターで、コペポーダを取り除く。

同学部は、フィルターの除去効率のデータを分析し、
試作機の性能を評価。
稚ナマコの生存率を調べて、有効性を確認する。

日本の昨年の乾燥ナマコ輸出額は、3年前の約3倍の166億円に拡大。
北海道や青森県などが主産地。
本県は、今年からナマコ種苗の放流試験を始めたが、出遅れ気味。

奥村准教授は、「岩手の地場産業として、根付かせる大きなチャンス。
民間企業と連携した研究を通じて、地域産業に貢献できれば」。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080829_16

職員室もゆとりなく 増加する県内教職員精神疾患

(岩手日報 8月31日)

年々、増加の一途をたどる県内の教職員の精神疾患。
目まぐるしく変わる学習指導要領、対応が難しい子どもの増加、
父母との関係など、昨今の子どもたちと同様、
「職員室」もゆとりをなくしている。

教職員の悩みに長年耳を傾けてきた県立南光病院(一関市)の
山家均院長は、「精神疾患の大多数は、仕事の悩みや対人関係のストレス。
日々、人間的対応が迫られる教職員の特徴だ」

山家院長によると、教職員の精神疾患は1999年ごろから予兆、
2002年ごろに急増。
「地方公務員全般にそうだが、機構改革や大合併など、
さまざまな社会的変化が影響しているのではないか」

山家院長が相談を受けた教職員の悩みは、
①教科指導、②生徒指導、③校内外の雑務、④保護者対応、の順。
本県においては、へき地勤務による単身赴任の問題も。

「頭痛が続き、眠れず、体もだるくなり、まったく意欲がわかなくなってしまった」
県内の中学校に勤める30代の男性教諭。
うつ病と診断され、今年1月から休養。

昨年春、大規模校から小規模校に転勤。
職場環境が一気に変わり、職務内容に慣れることも、
同僚とうまくコミュニケーションをとることもできなかった。

「みんな毎日忙しそうにしていたので、話し掛けづらかった」。
1人で悩みを抱え、通院し、薬を飲みながら仕事を続けたが、限界だった。

今、振り返ると、「とにかく忙しかった」。
土日も部活で休めず、自分の健康管理などできない状態。
「業務量に比べ、教職員数は絶対的に少ない。
生徒とかかわれる時間は本当に少ない」と訴える。
間もなく復帰する予定だが、
「すぐに100パーセントの力で働くことができるだろうか」。

岩教組の豊巻浩也委員長は、
「病休前の100パーセントを求められてしまい、
また自信を喪失してしまうケースも見受けられる」と復帰後の問題点を指摘。
「同僚が完治するまで、長い目で見守ることが大事」と
職場のサポート体制の充実を呼び掛ける。

教職員の精神疾患の増加は、子どもたちへの影響も懸念。
県PTA連合会の小野寺明美会長は、
「子どもたちにも影響してくることなので、憂慮している」、
「多忙な中で、一生懸命ゆえのこと。
先生が1人で抱え込まないよう学校全体で理解し、
協力し合う工夫が必要だと思う」と改善を願う。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080831_8

教師力08(3)「宇宙人」に伝える英語

(読売 8月28日)

小学校独自の英語活動を追求する教師がいる。

夏休み中の浜松市立北浜小学校に、小中学校の教師、
児童英語教室の主催者ら14人が、静岡県内各地から集まった。
鳴門教育大教職大学院で、小学校の英語教育について学ぶ
池田勝久教諭(44)が、4年前から主宰する学習会。
年5、6回、小学校の英語活動をテーマに情報交換をしてきた。

まもなく必修化される小学校高学年の英語活動のカリキュラム作りを、
誰が担うかが話題に上った。
「たまたま英語の免許を持っていた臨時採用の教員が1人でやっている」、
「学校全体で取り組む雰囲気がない」などと、打ち明ける教師が相次いだ。

過去には、「Thank you」を、嫌みっぽく言ったり、
心をこめて言ったりすることで、表現の大切さを話し合ったことも。

国語の教科書にある、「すがたをかえる大豆」をテーマにした英語活動も紹介。
大豆がきなこや煮豆、納豆などに変化することを、
どういうジェスチャーで表現すれば良いかを考えさせる。
言葉を使わないコミュニケーションの重要性に気づかせる。
池田教諭が目指すのは、伝えようとする気持ちの大切さを教える授業だ。

6年前までは中学校の英語教師だった。
「文法を説明し、単語を調べ、教科書を読んで訳す」という
昔ながらの中学校の授業を変えるには、
生徒の意識を変えることが重要だと思い、小学校に転じた。

すでに小学校での英語活動のノウハウが求められていた時期だけに、
大歓迎を受けた。
まず6年生を受け持ち、絵カードを用意して、
様々な単語やフレーズを練習させた。
中学の内容をかみ砕いた楽しい授業にしたつもりだったが、
子供の反応はいま一つ。
中学校の英語を前倒しして持ち込んでは、
英語嫌いを低年齢化させるだけだと気づいた。

「では、何を教えればいいのか」と悩んだ。
転機は、校内ではしゃぐ低学年を見た瞬間。
「しゃべっているのは、まるで宇宙語。
不可解な言葉で通じ合う子供たちにショックを受けた」。
担任は、“宇宙人”たち相手にどうやって授業しているのか。
むくむくと興味がわき、空き時間に授業を見に行くようになった。

ジェスチャーや声のトーン、声色で意図を伝える算数や国語の授業に、
小学校の英語活動が目指すべき姿を見た思いがした。
たどり着いたのが、話すことを強制せず、文字を教えないスタイル。
ほかの教科にも通じる力をはぐくもうと、授業を組み立てた。

北浜小の卒業生を受け持った経験のある中学校教諭は、
「特別に英語の知識があるわけではないが、
話を聞こう、伝えようとする力に優れ、ぐんぐんのびる」と評価。
大学院では、こうした授業の効果を検証し、
小学校教員に向けた英語活動の研修プログラムの開発を目指す。
自身の苦い経験が、研究の原動力だ。

◆小学校の英語活動

1998年告示の学習指導要領で、小学校の総合的な学習の時間の
活動の一つに、国際理解教育が例示され、
これを機に英語活動が広がった。
今年3月に告示され、2011年度から実施される新指導要領は、
小学校5、6年で各35コマの「外国語活動」が必修化。
コミュニケーション能力の素地を養うことが、目標として明示。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080828-OYT8T00192.htm

釜石SWに応援パン ローソンと白石食品工業

(岩手日報 9月2日)

「ラガーパン」いかが。
ラグビー社会人地域リーグ・イースト11の釜石シーウェイブスRFCを
応援しようと、チームのスポンサー企業ローソンと白石食品工業は、
共同企画のパンを発表
5日から県内で限定販売。
ラグビーボールをかたどった楕円形のパンは、
紫波町産小麦の「ゆきちから」を使用。
あんマーガリンとチョコチップの2種類で、
パッケージには釜石のロゴマークを印刷。価格は135円(税込み)。
ローソンの県内165店舗で、リーグが終わる12月まで販売予定。

県庁でローソン、白石食品工業、釜石シーウェイブスの三者が
そろって商品をお披露目。
釜石の増田久士事務局長によると、試食した選手にも好評で、
店頭でのPR活動を展開するという。

2008年9月4日木曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 黒田玲子氏インタビュー

(日経 8月24日)

黒田玲子・東京大学教授

―将来、どんな技術が有望か?

幹細胞技術や遺伝子技術のさらなる発展が挙げられる。
肝臓などの臓器や、これまで不可能と思われていた
神経や歯などの再生につながり、病気の克服に役立つ。
発生がある程度進んだ段階の胚では、アクチビンといった
化学物質の濃度を調節することで、皮膚になったり、肺になったり、
心筋のように拍動する細胞に分化することが動物細胞で明らかに。

臓器のそのものの再生は難しいとしても、発生生物学、分子生物学、
細胞生物学などの融合分野で、臓器の役割をする様々な細胞群が出てきて
治療に使われることはそんなに遠い将来ではない。
医学と工学の融合領域でも、特に脳の働きに関しては目覚しい進展が予想。

―米国女性が韓国企業に依頼し、愛犬の体細胞クローンを作ったことが話題に。

体細胞クローニング技術は、一般市民に対するビジネスになりつつある。
体細胞クローニングの技術は、生命に対する考え方を大きく変えてしまった。
大切なのは、負の面への配慮。
科学の進歩は、必ずプラス面とマイナス面があり、
進歩するほどグレーゾーンが広がる。
生命科学は、ITや物作りとは異なり、内なる自分を研究する。
怖さを認識して、社会に応用していくことが大切。

生命の世界は、DNA(デオキシリボ核酸)やたんぱく質など
右型と左型のどちらか一方の分子でできており、
私の研究では分子や分子の集合体の右と左を測ることができる
分光装置を作ってきた。
普通の分光器は溶液でしか測れないが、固体でも測れたり、
時間変化を追えるようにしたりするなど、世界で唯一の機能を持っている。
科学技術のフロンティアとなる研究は、装置や新型万能細胞(iPS細胞)
作製技術などの“ツール”作りから始める必要。
誰かが作ったツールで研究していては、2番せんじになる場合が多い。

―科学技術研究の課題は?

フロンティアを開拓するには、時間も必要。
最近は、3年や5年で成果がでる研究を求められるようになっているが、
それでは先端の科学技術が生まれにくい。
国や企業も一歩引いて、世界の研究がどうなっていくのか、
見つめ直す時期にきているのではないか。

<黒田玲子氏 略歴>
1970年お茶の水女子大卒、英ロンドン大助教授などを経て、
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系教授。
専門は、分子の世界の右と左の研究。
国の科学政策の方向性を議論する総合科学技術会議議員を務めた。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2002022082008

数学克服の重い宿題 全国学力テスト結果

(岩手日報 8月30日)

全国学力テストで、本県の中学3年生の数学平均正答率は
知識に関するA問題が45番目、応用力を調べるB問題が44番目と、
最下位クラスに低迷。

数学は、「日々の積み重ねが大事」とされるが、
本県中学生の授業以外の学習時間は「1時間未満」の割合が半数近い。
自宅学習が定着していないのも一因。

2005年度から3年間、文科省の学力向上事業の指定校となった
盛岡市の乙部中(今野庄校長、生徒275人)。
校区の手代森小、都南東小と連携し、学力向上へ実践を続ける。
算数・数学の学力分析は、「応用する力」の不足が浮き彫りに。

同校研究主任の大越千晶教諭は、
「教科書をかみ砕いて、『考える授業』を目指す」と改善に取り組む。
一方で、「中学生は、自習の定着が大事。
目に見える形の成果には、相当な時間がかかる」と本音ものぞかせる。

昨年のテストで、本県の中学生は数学Aが44番目、Bが42番目。
県教委は、調査分析委員会を設置。
報告書を全小中学校に配布して、授業の改善策を提示した。
「分からない」子どもを減らす努力もした。
しかし、結果は昨年より後退した。

数学の低迷は、長年の課題とされる。
「首都圏のような高校受験の競争が少ない」、
「教科免許のない教諭が授業する小規模校が多い」という関係者の見方も。

隣県・秋田は、同様の状況でも今年も全国トップ級の正答率。
盛岡市・巻堀中の伊藤好男校長は、
「学校、家庭、地域が一体となり、30年かけて地道に取り組んだ
秋田の姿勢は見習わなければならない」

中学校教諭でつくる県教育研究会数学部会の
富谷行雄会長(盛岡市・河南中校長)は、
「数学は毎日の積み重ねが大切」と、自宅学習の習慣付けを課題。
今回の調査で、「授業以外の1日の学習時間」は1時間未満が46・3%、
30分未満の割合は小学校6年生より中学校3年生が多かった。

県教委の小岩和彦義務教育担当課長は、
「英語、数学では指導主事が全校を巡回指導するなど支援。
授業と結びつけた家庭学習の一層の強化に取り組みたい」

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080830_12

合併協設置議案提案へ 大船渡市と陸前高田市

(岩手日報 8月30日)

大船渡市と陸前高田市との合併協議会について、
甘竹勝郎大船渡市長は、中里長門陸前高田市長に、
議会提案する意向を伝え、
両市議会への合併協設置議案の提案が決まった。

住民の直接請求による同議案の提案は、合併新法下では県内初。
焦点となる陸前高田市議会の全議員に対し、
現時点で過半数が反対。今後の動向が注目。

甘竹市長が陸前高田市役所を訪れ、中里市長に対し
「議会に提案させていただきたい」と伝えた。
中里市長は、「法の定めに従って対応したい」。

甘竹市長は、「懇談会などを通じて、提案すべきとの声が圧倒的」。
陸前高田市への回答書に、「住田を含めたまちづくりの検討」を
盛り込んだことに触れ、「合併協の中で住田を含めた議論もしたい」。

中里市長は、「合併そのものは否定しないが、(2010年3月末の)
新法期限内に合併をする世論になっていない」と、
あらためて「当面単独」の考えを示した。
両市は今後、事務レベルで合併協設置議案の提案時期や内容を詰める。

合併協設置について、大船渡市議会(26人)の佐藤丈夫議長は、
「大半は賛成だが、相手のある問題。陸前高田市議会の出方を見たい」。

陸前高田市議会議員に行った調査では、採決に参加しない議長を除く
19人のうち、反対は過半数の10人。賛成は6人。3人が態度を保留。

現時点で、合併協設置議案は否決の可能性が高いが、
同市議会の西條広議長は、「重要な案件であり、議論を深めたい」

住田町の多田欣一町長は、「両市の問題なので、言及する立場にない。
当面自立の方針は変わらない」

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080830_8

教師力08(2)地域から「ゲスト教師」

(読売 8月27日)

地域の力を学校に生かしたいと、大学院で学ぶ教師がいる。

東京都目黒区の商店街にある米店「愛米家本舗」を、
区立不動小学校の上田享志教諭(35)が訪れた。
店主の高柳良三さん(57)が、
「先生のおかげで、今もあちこちで授業してますよ」と笑顔で迎える。
上田教諭は、昨年春から兵庫教育大の大学院で学んでおり、
店を訪ねたのは1年半ぶり。

2人の出会いは、1999年春。
店に入ってくるなり、「一番うまい米と、一番まずい米を下さい」と言われて、
高柳さんは仰天した。
「社会の授業で農業について学ぶのに、
米の品種による味の違いを実感させたい」。
上田教諭が理由を説明すると、高柳さんは思わず
「おれが教室に行って話をしようか」と申し出ていた。

水田の益虫・カブトエビの話、休耕田で育てたそばの実を使ったそばうち体験……。
高柳さんは、何度も不動小に足を運ぶようになり、
話を伝え聞いた近隣小学校からも、お呼びがかかるようになった。

上田教諭の大学院での研究テーマは、「地域の声をどう学校運営に生かすか」。
「地域と協力すれば、もっと学校は良くなる」との思いからだ。
学校評価などを通して学校に寄せられた地域の要望を、
次年度の運営に生かしているかを検証。
積極的な管理職や教員がいる時だけでなく、地域の人に、
変わらずに学校にかかわって協力してもらうには、何が必要かを探る。

その原点は、伊豆諸島の青ヶ島村にある。
上田教諭は、東京から358キロも離れた人口200人足らずの
小さな島で教員生活を始め、地域の力を実感した。

「畑があったら、面白い授業ができるのになぁ」。
きっかけは、島の飲み屋での何気ない発言だった。
翌日には、学校の隣の空き地に重機が持ち込まれ、
住民が荒れ地を掘り起こし、あっという間に畑を作り上げた。
運動会や文化祭でも、畑の作物の育て方でも、
何かにつけて村人が協力してくれた。

転勤先の目黒でも、地域に溶け込むことを第一に考えた。
買い物は、とにかく地元の商店街で。
放課後や土日に学校を利用する地元サークルにも、できる限り顔を出す。
地域の行事にも必ず参加。知り合いは、あっという間に増えた。

仲良くなった人に「こんな授業がしたい」と話すと、
必ずといってよいほど協力してくれる。
地域で俳句を教えているおばあさんが、子供の俳句を批評しに来校するなど、
次々とゲストが教壇に立った。
「地域の人は学校に協力したいと思っている。
その思いをシャットアウトしているのは、学校ではないか」
との思いは強くなるばかりだった。

「教員は異動するし、児童もいつかは卒業する。
ずっと学校を守っていけるのは地域の人なんです」。
学校が「地域の宝物」として輝くよう、
これからも努力を惜しまないことは言うまでもない。

◆学校評価

教育活動や学校運営の達成度を評価する制度。
教職員による自己評価、保護者や地域住民らによる学校関係者評価、
専門家による第三者評価がある。
学校教育法施行規則の改正で、2007年から、
自己評価の実施と結果の公表が全国の小中高校に義務づけ。
学校関係者評価の実施と結果の公表も努力義務となったが、
実施率は06年度調査で49.1%。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080827-OYT8T00203.htm

色づく田んぼアート 奥州・水沢

(岩手日報 9月3日)

奥州市水沢区佐倉河字北田の水田約30アールで、
地域住民が取り組んでいる「田んぼアート」の稲が色づき始めた。

同市ゆかりのアテルイの顔や「平泉の文化遺産」の一つ、
中尊寺金色堂の図柄が浮かび上がり、
関係者は今月中旬の完成を楽しみにしている。

田んぼアートは、水田をキャンバスに見立て、稲で図柄を表現。
地元の農家を中心に実行委を組織し、今年初めて実施。
稲は、「朝紫」、「黄稲」、「ひとめぼれ」の3品種。
今後、アテルイの髪や金色堂の建物部分の色合いが深まる。
完成後の10月中旬に稲刈りを予定。

実行委の森岡誠会長(56)は、
「成長を見守ってくれる人が多く、励みになっている。収穫が楽しみだ」。
場所は、東水沢中の約500メートル北側。
水田近くに物見やぐらがある。

2008年9月3日水曜日

北京の大気汚染に住民抗議 五輪後、処理場再稼働で

(日経 8月31日)

香港の人権団体、中国人権民主化運動ニュースセンターは、
北京市朝陽区で、北京五輪後に再稼働した大型ごみ処理施設による
大気汚染が健康被害をもたらしているとして、
住民ら約500人が、環境部門の責任者の辞任を求める抗議デモ。

中国語ニュースサイト「博訊」もデモを報じ、
こぶしを突き上げているマスク姿の多数の住民や、
警察車両を取り囲む住民などの写真を掲載。

五輪期間中は、大気汚染対策で同区のごみは河北省などに運ばれ、
区内の多くの処理施設は稼働を停止。
再稼働で、急激に大気汚染が始まったことに住民が抗議。

デモでは、警察との衝突で2人が負傷。
ネット上でデモを呼び掛けたとみられる住民1人が、
30日夜から行方不明になっており、警察に拘束された可能性が高い。

http://eco.nikkei.co.jp/news/today/article.aspx?id=NN000Y738%2031082008

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 高西淳夫氏インタビュー

(日経 8月24日)

高西淳夫・早稲田大学教授

―ロボット技術で今、何が起こっているか?

石油価格が上昇する弊害が、ロボット分野にも出ている。
約10社と共同研究しているが、中小企業では原材料価格の上昇が
経営を圧迫し、研究開発費を出す余力がなくなってきた。

韓国では、ロボット産業を育成する法律が9月に施行。
自国にないロボット技術を海外から買ってきなさいという戦略で、
韓国企業は技術を買い取るために、
日本のロボットメーカーを買収しようと動いている。
欧州でもロボット産業の育成に動き出した。
日本は、景気減速で経営環境が厳しくなっており、
経営者はいっそ海外に売ってしまえという心理に傾いている。
アカデミックな世界に国境はないが、海外の国家戦略として
日本の最高技術が流出するとなれば話は別。

―ロボット技術は日本をけん引できますか?

今後の日本の産業を支える要となる技術。
鉄腕アトムのような形態ばかりでなく、自動車の自動運転が実現すれば、
広い意味で自動車がロボット化した。
外科医に代わって、脳や心臓など微細な場所にメスを入れるロボットなど、
用途は数多い。

―ロボット普及のカギは?

トヨタ自動車がパートナーロボット市場に本格参入する方針を示し、心強い。
大企業が、息の長い開発をしていくことが普及のカギ。
ただ、1社ですべてやろうとすると、限界があるかもしれない。
パソコンやゲーム機は仕様を公開して、
応用ソフト部分は創造的な人たちの参加を促して普及した。
ロボットも、プラットフォームとなる基本部分の仕様を公開し、
ほかの人たちの参加を呼び込む方が広がるのではないか。
マイクロソフトは、ロボティクススタジオというロボットプラグラムの
開発環境を整え、布石を打っている。

―日本のロボット技術の強みは何か?

軍事用に技術開発が進む米国と異なり、民生用技術が主導。
被災者救助ロボットは典型。
格安な通信費用で、携帯電話を使ってロボットを遠隔操作する技術も実現。
画面を見ながら、地球の裏側のロボットを操作することも実現しつつある。

―課題は?

国は、ロボット産業の支援に加え、ロボット普及の妨げとなる
法制面への目配りが必要。
例えば医療。
難しい部分だけをロボットで手術したとすると、混合診療となり、
医療費がすべて自己負担になってしまう。
被災者救助ロボットを無線操作で動かそうとしても、
総務省の無線許可が必要。
技術がある日本が、「制度の壁」でロボット普及に手間取っている間に、
海外勢に市場を奪われかねない。

<高西淳夫氏 略歴>
1956年生まれ。早稲田大学理工学術院創造理工学部総合機械工学科・
ヒューマノイド研究所教授。2足歩行ロボットのほか、
顎関節症の人の口の開閉訓練用のロボットなども開発。
東京女子医科大学と共同で、ロボットの医療福祉分野への応用研究も進める。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2001022082008

遺伝子入れインスリン細胞 体内で、糖尿病治療に期待 米ハーバード大が動物実験

(共同通信社 2008年8月28日)

膵臓に豊富に含まれる細胞にわずか3種類の遺伝子を組み込んで、
血糖を下げるインスリンを分泌する細胞へと体内でつくり変えることに、
米ハーバード大チームがマウス実験で成功、英科学誌ネイチャーに発表。
インスリンをつくれない糖尿病の再生医療に、応用が期待される成果。

再生医療の分野では、山中伸弥京都大教授が、
皮膚などの体細胞を未分化な状態に戻した新型万能細胞
「iPS細胞」が注目を集めている。

今回は、体細胞を未分化な状態にせず、直接別の細胞に転換できることを
初めて示した。万能細胞より、必要な細胞を早く得られる可能性がある。

チームは、膵臓の形成にかかわる約200種類の遺伝子の機能を調べ、
膵臓でインスリン分泌を担う「ベータ細胞」づくりに重要とみられる
遺伝子を絞り込んだ。

そのうち3種類を、膵臓の約95%を占める「外分泌細胞」と呼ばれる細胞に
特殊なウイルスで組み込むと、膵臓に1%程度しか含まれないベータ細胞と
そっくりな細胞に変えられることを突き止めた。

できた細胞は、3日後にインスリン分泌を開始。
10日後には、本物並みの分泌量に達した。
人為的に糖尿病の状態にしたマウスで実験すると、
遺伝子導入から1週間ほどで血糖が下がることも確認。
ただしこの細胞は、塊を形成しないなど、本物とは違う点もあった。

http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&categoryId=&articleId=79170

教師力08(1)無給で大学院 「実践」学び直す

(読売 8月26日)

休職し、自費で教職大学院に通う教師がいる。

「先生、ちゃんと勉強してる?」、
「私たちも頑張るから、先生も頑張ってね」
久しぶりに北海道に帰ってきた太田恵子教諭(45)に、
札幌市立米里小学校の児童が次々と抱きついた。

太田教諭は4月から上京、玉川大学教職大学院で学んでいる。
3月まで担任していた児童が、札幌市内で開かれる
YOSAKOIソーラン祭りに出演するため、練習会場の体育館に駆けつけた。

練習の途中、騒ぎ出した児童に、
太田教諭は「この緑の線の上に乗って」と体育館の床を指さした。
児童はさっと一列に並ぶ。
居合わせた保護者から、「さすが太田先生」。
太田教諭は、「子供の感覚と大人の感覚は全然違う。
子供に分かりやすく指示すれば、大声を出さなくても1回で済むんですよ」

太田教諭が、改めて大学院での「学び直し」を決意したのは、
特別支援教育についてじっくり勉強するため。
教師の指示にうまく反応できない児童や集中力がない児童に対し、
障害を疑わずにしかってばかりいたことが、心に引っかかっていた。

学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの
存在を知って合点がいった。
専門書を読み、毎月、精神科医との勉強会に参加、
臨床心理士らが集まる学会にも顔を出すようになった。

現職の再教育を大きな目的に掲げ、実習重視で実践的な内容を
幅広く学ぶ教職大学院ができることを知った。
最新の教育論や指導法が勉強できるだけでなく、
玉川大には、付属の脳科学研究所があり、障害に対する最新の
脳科学的な知見を交えて学べると思った。

大学院修学休業制度を利用することにした。
進学を希望する現職教員に、1~3年の休職を認める制度。
この制度が2001年に出来るまでは、都道府県教委からの
派遣命令がないと、現職のまま進学することはできなかった。
08年4月までに、1230人がこの制度を利用したが、休業期間中は無給。
教職大学院に進んだ現職教員の多くも、
有給で学べる派遣命令を得た人が多数派。

太田教諭も、在学中は給料がもらえない。
入学が決まると、大学院の近くに小さなワンルームマンションを借りた。
運良く日本学生支援機構から奨学金を受けられたが、
家賃、学費、年金や介護保険料など、かさむ出費をやりくりする。
後悔はないが、「これでは(大学院に)来たくても、
来られない先生が大勢いるのも、無理はない」

以前から、全国各地で開かれる学習会や研修会に参加してきた。
学校に保管されている研修申請簿には、太田教諭の名前が延々と続く。
ことわざや俳句の暗唱、辞書を使った授業など、
新しい指導法は手当たり次第に試した。
効果が高いと聞けば、電子黒板でもプロジェクターでも自費で購入。
「少しでも良い指導ができるのなら、お金も時間も惜しくない」

そんな努力家だけに、都内の小学校を視察したり、ほかの学生を相手に
模擬授業を行ったり、といった日常のほか、
空いた時間には教育学部の講義を聴講する。
「この1年は、高価な買い物だから、一瞬でも無駄にしたくない」と、
街を歩いている時は、東京の小学生の様子の観察。
「電車の中で本を読む子が多い。さすが東京。
札幌の子供たちと、こんなに違うとは思わなかった」

「教師が学び続けなければ、子供が伸びるはずがない」が持論。
自分に続く教師が、どんどん現れてほしいと願っている。

◆人材育成の動き広がる

意欲の高い教員に、大学院などで学ぶ機会を与え、
プロの教師を育てようとする動きが広がっている。
いじめや不登校問題、子供たちの学ぶ意欲の低下などで、
指導が複雑化する中、教員の大量退職時代が始まり、
指導的役割を担う次世代の人材育成が必要とされている。

大学院の修士課程まで学ぶ専修免許状は、1980年代に出来ている。
教員養成系大学には、それ以前から、研究中心の大学院はあったが、
今春には、教職大学院が全国に19大学(国立15、私立4)に開校、
364人の現職教員が入学。
教職大学院は、現職教員の「再教育」を大きな目的の一つに掲げている。
各地の教育委員会も、ここ数年、授業力向上を狙いとした
教師向けの塾を相次いで開設。

共通するのは実践重視。
教職大学院は、2年間で取得する単位のうち、10単位以上を実習に充て、
専任教員の4割以上を校長経験者などの実務家で占める。
教育委員会主催の塾も、ベテラン教員が指導者を務める例がほとんど。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080826-OYT8T00195.htm

2008年9月2日火曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 坂村健氏インタビュー

(日経 8月24日)

坂村健・東京大学教授

―ユビキタスという言葉を理解している人はまだ少ない。どんな研究か?

私が所長を務めるYRPユビキタス・ネットワーキング研究所では、
どこでもコンピューターの情報処理能力が使える社会を実現すべく研究。
食品や薬品から会社の備品、道路や建物にいたるまで、
ICタグを付けることで、あらゆるモノや場所の情報が
ネットワークの世界に結びつけられ、最適なサービスが受けられる。

―ユビキタス関連で活躍する企業は?

モノに、ICタグを張り付ける技術が必要。
高度な特殊印刷技術と電子設計の技術も持つ大日本印刷や凸版印刷は、
世界でもあまり例のない企業で活躍の可能性がある。

ICタグのチップそのものは、半導体メーカーが作っている。
日立製作所が作る高性能チップは、大規模なDRAMの生産設備を
持ちながら、アンテナのテクノロジーも持つ総合電機メーカーだからこそできる。
韓国や中国の企業は、簡単にまねできない。

企業にとって気の毒なのは、高度なタグでも将来は、
5円、10円くらいでの販売を求められること。
タグ単体ではもうからない。
もうけるには、応用システムまで手掛ける必要があるが、
まだ汎用的な基盤が確立されていないため、
その基盤研究をしているのが当研究所。

―日本を見回したとき、有望と感じる技術分野は?

自動車やICT(情報や通信に関する技術)は、これからも強い。
フィンランドのノキアの携帯電話端末の販売台数は、
日本メーカーをすべて束ねてもかなわないが、
日本から端末構成部品をたくさん買っている。
村田製作所やミツミ、ロームなどが作る日本の部品がなければ、
何も作れないともいえる。
日本は完成品になると、法律や制度を巻き込んで
世界標準にしていく力が弱いので、苦戦する。

携帯電話の場合、海外と比べ日本では通信会社の力が強い仕組みで、
端末メーカーは通信会社のプランに合わせた端末しか作れない。
一方で、プランに従っていれば、国内市場で端末が売れるので、
端末メーカーも世界で激しい競争をしなくてもよかった。
国内だけで、通信会社と端末メーカーが一緒になって機能競争をした結果、
気がつけば日本は世界で最も高機能な携帯端末があふれかえっている。
一方、新興国では日本のような高機能端末は必要とされず、
販売は伸びない。

―日本のハイテク企業の魅力は乏しいということか?

日本企業は、技術力はまだ劣っていないが、
企業がこのまま日本市場だけにしがみついていては成長は難しい。
日本から出る勇気を持って、グローバルに展開していく企業が
一歩抜け出るのではないか。
毎日のように企業の人と接触していると、
水面下で芽は出始めていると感じる。
投資家の視点で言えば、いち早く世界市場に打って出た企業に、
投資の魅力があると言える。

<坂村健氏 略歴>
1951年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。
国産基本ソフト「TRON(トロン)」の提唱者で、
リーダーとして世界中にTRONを普及させた。
現在は、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長、
日本発のユビキタス技術を世界に広めようとしている。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MMVEw2000022082008

キャンパス探訪(10)細やか指導 実績アップ

(読売 8月23日)

地方の小規模私大は、きめ細かい教育の成果を示す。
約200人の高校生や保護者が並ぶ説明会会場に突然、
トランペットの音色が響き渡った。
共愛学園前橋国際大学のオープンキャンパス。
楽器はどこにも見えない。
司会役の同大4年、手塚達哉さん(21)の口まね。
曲は、自分の道を示してくれた神への感謝を歌う黒人霊歌
「アメージンググレース」。

説明会では、国際社会学部の英語、国際、情報・経営、心理・人間文化、
児童教育の5コースの学生たちが授業や教員、学生生活の魅力を発表。
そろって口にするのは、「大変だけど、力がついた」。

手塚さん自身も、自らの学生生活を振り返った。
何となく入った英語コースで、教員に励まされ、多くの課題と向き合ううち、
英語が面白くなっていった。
「素晴らしい4年間でした」。
就職活動の真っ最中だが、オープンキャンパスには出ると決めていた。
“トランペット演奏”は、感謝の気持ちを込めた即興。

来場者の大きな拍手に、「目の前の学生の姿こそが成果だ」と
大森昭生学部長(39)は笑顔を浮かべた。

共愛学園は120年前、新島襄らの出資で創設、女学校を開いた。
20年前に開設した短大を、4年制に改組したのは9年前。
学部は一つだけで、収容定員は840人。
大学としての歴史は浅く、知名度も低い。交通の便も良くない。

入学した一期生に、「入学してよかったか」を尋ねると、
「そう思う」は35%。
しかし、卒業時は60%に。今春の卒業生では、86%まで上昇。
「入学して力がついたか」にも今春は、80%が「そう思う」。

高い満足度を支えるのは、個々の学生へのきめ細かい教育。
06年には、群馬県の大学で、いち早く大学基準協会の適合認定
受けたのも、決め手はそこ。

377ある授業のうち、50人以下のクラスが9割を占め、
100人超は1クラスだけ。
全授業で出欠を取り、2回続けて欠席すると、
大学から出席を促す手紙が自宅に届く。
教員の研究室棟には、質問に来る学生の姿が絶えない。

長年の厳しい経営のもと、定員を上回る志願者がありながら、
入学者選抜で学生の質を守ってきた。
「自分たちの教育力を超えた学生を受け入れたら、責任が果たせない」
(大森さん)と心配したため。
こうした姿勢への評価が浸透し、06年度に開学以来初めて学部の定員を満たした。

こうした現状や課題は、オープンキャンパスでも、学生や教員から説明。
福島県から両親と参加した高校生は、
「ホームページではわからない大学の姿を見せてもらった。真剣に考えたい」。

同大のモットーは、「大変だけど実力のつく大学」。
今は学生の8割弱が県内出身者だが、
他県から多くの学生が集まる日は、そう遠くないもしれない。

◆大学基準協会

大学評価・学位授与機構、日本高等教育評価機構とともに、
4年制大学の認証評価機関の一つ。
学校教育法は、国公私立の全大学に対し、
7年以内ごとに評価を受けることを義務づけ。
評価機関は、現地視察も踏まえて、学生が安心して大学生活を送れるか、
学費に見合った結果が得られるかを審査。
「適合」、「不適合」、「保留」判定を出す。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080823-OYT8T00218.htm

褐色脂肪細胞形成とエネルギー消費における骨形成タンパク質7の新しい役割

(nature 2008年8月21日号Vol.454 No7207 / P.1000-1004)

褐色脂肪細胞形成とエネルギー消費における骨形成タンパク質7の新しい役割

脂肪組織は、エネルギー収支の調節に中心的役割を果たしている。
哺乳類では、機能の異なる2種類の脂肪が存在。
1つは、トリグリセリドの主要な貯蔵場所である白色脂肪組織、
もう1つは、エネルギー消費を専門とする褐色脂肪組織で、
肥満を抑える働きがある。

白色脂肪組織、褐色脂肪組織の発生運命や機能を指定する
因子類については、ほとんど解明されていない。

今回我々は、骨形成タンパク質(BMP)ファミリーに属する一部のBMPは
白色脂肪細胞の分化を助けるが、
BMP7は単独で褐色脂肪細胞前駆体の分化を促進することを明らかにする。
この分化促進は、通常必要な誘導ホルモン混合物がなくても起こる。

BMP7は、褐色脂肪細胞形成の全過程を活性化する。
褐色脂肪への運命を決める初期調節因子
PRDM16(PR-domain-containing 16)やPGC-1α
(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-γ(PPARγ)コアクチベーター-1α)
の誘導、褐色脂肪識別マーカーである脱共役タンパク質1(UCP1)、
脂肪形成転写因子PPARγ、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)
の発現増加、p38マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ
(Mapk14)とPGC-1に依存した経路を介したミトコンドリア生合成誘導
などが含まれる。

BMP7は、間葉系前駆細胞の褐色脂肪細胞系列への拘束の引き金となり、
これらの細胞をヌードマウスに移植すると、褐色脂肪細胞を主に含む
脂肪組織が発生する。

Bmp7ノックアウト胚は、褐色脂肪が著しく少なくなり、UCP1はほぼ完全に欠失。
アデノウイルスの媒介によってマウスでBMP7を発現させると、
白色脂肪の量は増えないが、褐色脂肪の量が大幅に増加し、
エネルギー消費が増えて、体重増加が抑えられる。

これらのデータから、BMP7が褐色脂肪細胞の分化と熱産生の促進に
重要な役割を担っていることが、in vivo、in vitroで明らかに。
これは、肥満の新しい治療方法につながる可能性がある。

[原文]New role of bone morphogenetic protein 7 in brown adipogenesis and energy expenditure

http://www.m3.com/tools/MedicalLibrary/nature/200808/nature/7207/02.html

PRDM16は褐色脂肪/骨格筋のスイッチを調節する

(nature 2008年8月21日号Vol.454 No7207 / P.961-967)

PRDM16は褐色脂肪/骨格筋のスイッチを調節する

褐色脂肪には、呼吸を脱共役させる特殊なプログラムによって、
エネルギー消費を増大させ、肥満を予防する働きがある。

本論文では、in vivoでの発生運命地図を作製し、
褐色脂肪細胞は、白色脂肪細胞とは異なり、これまで筋細胞系列でのみ
発現されると考えられていた遺伝子Myf5を発現する前駆細胞から
分化することを示す。

転写調節因子PRDM16(PRD1-BF1-RIZ1 homologous domain containing 16)
が、骨格筋芽細胞と褐色脂肪細胞との間で細胞の運命を決める
二方向性のスイッチを制御することを明らかにする。

褐色脂肪前駆細胞からPRDM16を欠失させると、
褐色脂肪細胞の特徴を失い、筋細胞への分化が促される。

逆に、筋芽細胞にPRDM16を異所性発現させると、
褐色脂肪細胞への分化が誘導。
PRDM16は、PPAR-γ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)に結合し、
転写機能を活性化して褐色脂肪生成を誘導する。

Prdm16を欠失する褐色脂肪は、異常な形態を示し、
産熱遺伝子の発現が低下して、筋特異的な遺伝子の発現が上昇。

今回の結果は、PRDM16は筋芽細胞マーカーを発現する前駆細胞を
指定して褐色脂肪系列へと分化させるが、
白色脂肪の発生には関与しないことを示す。

[原文]PRDM16 controls a brown fat/skeletal muscle switch

http://www.m3.com/tools/MedicalLibrary/nature/200808/nature/7207/01.html?Mg=4b68322d03cf1ae3f0be17c7ae0f2623&Eml=12b55b931cb52b4152963c77864c5aec&F=h&portalId=mailmag

汚水処理普及率、全国36位 県、整備進まず

(岩手日報 8月29日)

下水道や浄化槽などの整備状況を人口の割合で表す
2007年度末の汚水処理人口普及状況を発表。
本県の普及率は68・6%(前年度比1・3ポイント増)で、
全国平均の83・7%を大きく下回り全国36位
市町村の財政難などが整備の進まない要因。

県は、04年に策定した「いわて汚水適正処理ビジョン2004」で、
10年度までに普及率を80%に引き上げる目標を掲げるが、
計画に対して浄化槽の整備が遅れている。

浄化槽の07年度普及率は、13・2%の計画値に対し、10・1%。
浄化槽は、個人か市町村が設置するが、
5人家族の場合で約100万円の本体設置費がかかるほか、
維持管理費も必要。

県は、民間資金活用による社会資本整備(PFI)方式の導入を促し、
既に紫波町、奥州市、宮古市で導入。
一方、地域格差の解消も課題。
汚染処理の人口普及率を地域別にみると、
県央84・5%、県南65・4%、沿岸56・9%、県北43・5%。
県央と県北で41ポイントもの開きがある。

県下水環境課の紺野岳夫計画担当課長は、
「PFIの導入などを積極的に進め、浄化槽普及に努める」。

http://www.iwate-np.co.jp/cgi-bin/topnews.cgi?20080829_9

2008年9月1日月曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 西岡秀三氏インタビュー

(日経 8月24日)

西岡秀三・国立環境研究所特別客員研究員

―環境面からみた今後の技術開発の方向性は。

政府の環境エネルギー技術の革新計画では、
核融合や宇宙太陽光発電を革新的技術として掲げている。
本当に新しい技術が実現するには長い時間がかかる。
こうした技術を追求するのはもちろん大切で、
二酸化炭素(CO2)の排出量削減など目の前に迫るテーマを考えると、
現存する技術をうまく組み合わせ、システム構成を変える発想が重要。

例えば、自動車ならすでに三菱自動車などの電気自動車が動き出している。
高機能電池の開発に伴い、ガソリンと電気によるハイブリッド車が
主力となる期間は短くなりそう。
CO2削減の観点では、レンタカーやカーシェアリングといった
システムの普及も大切。

モノだけでなく、サービスの開発にも取り組む企業が
事業を伸ばす可能性がある。

既存のIT(情報技術)とバス運行を組み合わせ、乗客がいる路線や
停留所に迅速にバスを配車する「オンデマンドバス」サービスなども、
IT・運輸事業者ともにビジネスチャンス。

―エネルギー消費量を減らす発想こそが、利益につながるのか?

エネルギーをいくらでも使ってよい、という考え方は変えざるを得ない。
そのために使える技術は既にある。
例えば、価格はまだ高いが、自然エネルギーを生かす住宅建設が
動き出している。
電力需要は減少するが、電力会社も家庭用給湯機「エコキュート」のような
高効率機器を製品化するなど、新事業に乗り出している。
社会が変わる方向へ、早く動き出した企業にカネは流れる。

燃料価格の高騰も、結果として「低炭素社会」の流れを後押し。
欧州では、フランスが原子力、ドイツが自然エネルギーへと構造転換が進む。
日本は、国全体としての方向はいまだないが、世界競争に直面している
自動車や電機産業など民間レベルでは既に動いている。
エネルギー効率の高い電気自動車や電気機器で、
世界に通用する標準化を目指す。
内需が中心の紙・パルプやセメント、鉄鋼などは
取り組みが遅れているように感じる。

<西岡秀三氏 略歴>
1939年生まれ。東京大学大学院数物系研究科博士課程修了後、
旭化成に勤務。国立環境研究所に移り、東京工業大学、慶応大学で
それぞれ教授を務める。専門は環境システム学。
現在、環境省の「脱温暖化2050プロジェクト」で研究リーダーを務める。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MS3Z2100U%2022082008

都心でポンポコ…東京23区にタヌキ1000匹

(読売 8月27日)

この夏、都心のタヌキに注目が集まっている。
都会のタヌキを10年間、調査してきた研究家によると、
23区内には約1000匹のタヌキがいるらしい。

今年6月には、天皇陛下が「皇居のタヌキ」の生態について
研究者らと共同執筆された論文も発表され、論文を基にした企画展も好評。

研究家は、NPO「都市動物研究会」の宮本拓海さん(41)。
編集者をしていた10年前、都市に住む野生動物の取材で
タヌキを目撃したのがきっかけで、生態調査を始めた。
その成果を、「タヌキたちのびっくり東京生活」(技術評論社)にまとめ、出版。

宮本さんがインターネットで目撃情報を募ったところ、
出没地は23区で191地点に上った。
タヌキがよく目撃されるのは、豊島区目白、新宿御苑など緑の多いスポット。
井の頭線や西武池袋線では、人が近づきにくい線路脇の茂みによく姿を現す。
天敵の野犬が少ないのも、都会でタヌキが生き残る理由。

宮本さんは、現地に足を運んで観察を続け、目撃地点のうち
約100か所が「定住エリア」と結論付けた。
各地点に、10匹前後が生息していると推定して、
23区内のタヌキは約1000匹と目星をつけている。

近年は、都心の緑が急激に減り、タヌキの数も少なくなってきた。
1981年に計約2400ヘクタールあった農用地、森林、原野は年々減少。
昨年は、約半分の約1300ヘクタール減。
再開発に次ぐ再開発のためで、
「タヌキはいまこの時も、街を追い出されようとしている」(宮本さん)。

都心のど真ん中には、とっておきの「楽園」が残されている。
千代田区の皇居。その広さ約115ヘクタール。
東京ドームの25倍に相当する広大な敷地の周辺では、
「タヌキを見かけた」との目撃情報が以前から相次いでいた。

天皇陛下と研究者が調査したところ、タヌキがふんをする「ためふん場」が
30か所もあることが判明。
論文では、これを基に皇居に生息するタヌキは最大14匹と推定。

上野の国立科学博物館では、論文を基にした企画展
「皇居のタヌキ その生態」を開催。
研究内容の説明やタヌキのはく製の展示のほか、お堀の中州に取り残された
子ダヌキを救出する様子を撮ったビデオも上映。

宮本さんは、「タヌキは里山の象徴。タヌキが住めるような自然を
都心に残していくことにつながれば」。

http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20080827-OYT1T00445.htm

光熱フィルター:窓に施し、CO2排出を削減 従業員3人、小さな会社が世界を目指す

(毎日 8月25日)

福島市にある従業員3人の小さな環境資材メーカー
「フミン」(八木澤勝夫社長)が開発した「光熱フィルター」が注目。

窓ガラスに、酸化物をコーティングして、冷暖房費を節約する技術。
二酸化炭素(CO2)排出量の削減につながることから、
環境省の環境技術実証事業の認定も受け、国内外に利用が広がっている。

「さあ、どちらが熱いか体感してみてください」。
新エネルギーの普及と省エネ拡大を目指す産学官連携会議。
約100人を前に、八木澤社長が光熱フィルターを披露。
八木澤社長が、2枚のガラスにライトを当て、透過光に手をかざして
比較するよう参加者に促した。

一方のガラスには光熱フィルターが施され、光の熱をほとんど感じず、
体験した男性は「こんなに温度が違うものか」と驚いていた。

光熱フィルターは、紫外線と赤外線を吸収する特殊コーティング剤
「伝導性金属酸化物」。
窓ガラスに吹き付けると、赤外線を約50%カットするため、
夏は室温を2~5度下げる効果。
冬は、暖房熱の遠赤外線を吸収してガラス自体が温まり、
室内の暖かさを逃さない。
冷暖房費が節約され、二酸化炭素(CO2)の削減。
均一に透明に塗布できるのが、同社の特許技術。

八木澤社長は02年、電話ボックスのガラスに、
この酸化物を塗ってボックス内の温度を下げていることを知り、
「窓ガラスに応用できる」とひらめいた。

最初は、スポンジで酸化物を塗っていたが、むらができる。
スプレーを使うと、霧状になって曇りが出てしまう。
そこで、スプレーの口径を1・5ミリと大きめにして、
温風を当てながら塗布する工夫をしたところ、
均一で透明に仕上がり、昨年、この方法で特許を取得。

同社と提携して工事を請け負う代理店は、
建設業者を中心に全国で65事業所に上る。
1平方メートル当たりの施工価格は、環境管理の国際規格
「ISO14001」にちなみ、1万4001円。
全国から注文が相次ぎ、これまでに窓ガラスを光熱フィルターで塗布した
施設は、学校や銀行など280施設。

シンガポールでも使われ、今後は海外展開も図る。
2月に、福島県の「第2回うつくしまものづくり大賞」を受賞。
6月、先進的な環境技術を第三者が実証する環境技術実証事業の認定。
光熱フィルターの普及を目指す新会社も、6月に誕生。

元地元紙記者の小林富久壽さんが、同市で起業した「プロジェクト・えこ」。
小林さんは、要望があれば自ら足を運んでスプレーする。
「未来から託された我々がやるべきことは、光熱フィルターを広めること。
高度成長の果実を享受し、自然を破壊してきた人間の義務」。

八木澤社長は現在、光熱フィルターの太陽電池への応用を検討。
太陽電池は、太陽光を利用して発電するが、
高熱に弱く、電力需要が増す夏場に発電力が低下。

「高熱に強い太陽電池を開発するのではなく、
あらかじめ熱をカットするという発想の転換。
クーラーの使用で、電力需要が伸びる夏に太陽電池で
たくさん電力を供給できれば、CO2排出量は確実に減るはず」。

http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2008/08/25/20080825ddm016040009000c.html

キャンパス探訪(9)福祉の心 実直に説く

(読売 8月22日)

人気が低迷するなか、福祉の大切さを地道にアピールする大学。
丸めた細長いアクリル板に穴が開いた道具を手に、
男子高校生が頭をひねっている。
「コップの縁をはさみ、ストローが動かないよう固定するホルダー。
障害を持つ人が豊かに生活するために考え出された道具で、
自助具と呼びます」。
職員の説明を聞き、その表情が一際引き締まった。

「福祉の総合大学」を掲げ、55年の歴史を持つ日本福祉大学での
オープンキャンパス。
プログラムは、ストローホルダーの工作に取り組むようなコーナーを除くと、
模擬講義や入試ガイダンスなど、「地味な内容」(福島一政常務理事)が中心。

福祉系大学への志望者が減っている。
6月に約37万人が受けた進研模試では、社会福祉系の志望者数は
前年に比べて1割以上減。
訪問介護大手「コムスン」が不正行為で、
介護事業から撤退させられた問題が大きいようだ。

「介護の仕事への需要が高まっていくにもかかわらず、
きつくて汚いというイメージも先行しており、危機的状況。
福祉系大学のリーダーとしてもっとずうずうしく、本気で福祉の大切さを
アピールしなければ」と福島さんは強調。

同大では、受験生の親も巻き込んだプログラムに力を入れる。
保護者向けの説明会を開き、模擬講義も親子がいっしょに受けることを前提。

社会福祉学科の模擬講義のテーマは、「福祉って何だろう?」。
教室を埋めた約70人の親子に、教育心理学者ダイアン・シスクの
「愛する我が子へ あなたは本当に大切なんだよ」と題した文章が配られた。
「あなたは、大切だよ。あなたが、あなただからこそ、大切なんだよ」など、
愛情あふれる文を、伊藤文人講師(37)が逆の意味にするよう指示。

「あなたは、必要ないんだよ……」。
自ら発表した言葉の残酷さに気づき、沈痛な面持ちになる親子。
「言葉の力を通して、反福祉の世界を想像することにより、
我々は支え合って生きているという福祉の意味を、
現実感を持って追体験してほしい」と伊藤講師は狙いを明かす。

「明るい仕事ではないかもしれないけれども、介護福祉士になりたい。
大学のイメージがつかめた」と長野市から参加した
高校3年、反川綾菜さん(17)。
父親の司さん(48)も、「大学が考える福祉の意味が伝わってきた。
娘がこれからの社会に微力ながら役立ってくれれば」と言葉を継いだ。

保護者にも、福祉の重要性を丁寧に説く。
その実直な取り組みが、淘汰の時代を迎える福祉系大学の
生き残りの鍵を握るのかもしれない。

◆小冊子贈呈します

「PTA再考」や「特別支援」のシリーズを中心に、
24回分の記事を収録した小冊子「教育ルネサンス5」が出来ました。
希望者は〒住所、氏名を書いた紙片と送料180円(1冊)分の切手を同封、
〒100・8055読売新聞東京本社宣伝部「教育ルネサンス5」係へ。
ホームページ(http://www.yomiuri.co.jp/education)からも申し込めます。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080822-OYT8T00189.htm

万能細胞 iPSの奇跡 日本発 再生医療に光

(読売 8月18日)

京都大学の山中伸弥教授が作製に成功した新型万能細胞(iPS細胞)。
再生医療の切り札と期待を集め、「ノーベル賞級の研究成果」と評価。
iPS細胞が、なぜこれほど注目されるのか、
将来的にどんな医療を切り開くのか、研究の現状を探った。
Q1 なぜ世界が注目

人間は、約60兆個の細胞からなる。
元々は1個の受精卵が分裂を繰り返し、神経や筋肉、皮膚など体を
構成する約200種類の細胞に変化。
受精卵は、様々な細胞に変化する「万能性」を持つが、
いったん神経などに変化すると、もう別の細胞に後戻りできない。
この生物学の常識を覆したのが、iPS細胞。
皮膚細胞に数種類の遺伝子を入れるだけで、万能性を獲得。
時計の針を巻き戻す現象は、初期化(リプログラミング)と呼ばれ、
iPS細胞の開発は「タイムマシンの開発」と称賛。

iPS細胞の正式名は、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)。
iが小文字なのは、人気音楽プレーヤー「iPod」にちなんだ。
iPS細胞の登場で期待が高まっているのは、病気やけがで失った機能を
回復させる再生医療の実現。

心臓の細胞(心筋細胞)の一部が壊死している心筋梗塞の場合、
iPS細胞から変化させた心筋細胞を、患者の心臓の壊死した部分に
移植すれば、心機能の回復が期待。

インスリンというホルモンの不足で起きる糖尿病も、
iPS細胞からインスリンを分泌する、膵臓のβ細胞を作って
患者に移植すれば、治療できる。
現在はまだ技術的に難しいが、iPS細胞を使い、心臓や肝臓など
臓器を丸ごと作って取り換えることも、将来できるかもしれない。
iPS細胞の登場で再生医療の夢が広がったが、
安全性の確認など実用化までには10年以上かかると予想。
すぐにでも活用できると見られているのは、
iPS細胞を使った病気の原因解明や新薬開発への応用。
それぞれ神経や筋肉の難病であるパーキンソン病や筋ジストロフィーなどの
患者から、iPS細胞を作製して、神経や筋肉に変化させる過程で、
どんな異常が起きているかをつぶさに観察することで、
病気発症の仕組みが解明できると期待。

新薬の効果や毒性も、シャーレ上で確認できる。
国内外の製薬業界も注目し、研究が加速。

Q2 ES細胞に対する利点は?

iPS細胞の利点は二つ。
一つは、倫理的な問題が少ない点。
同様に万能細胞として注目されている胚性幹細胞(ES細胞)は、
人の生命の萌芽である受精卵を壊して作るため、実用化に向けた障壁に。
米ブッシュ大統領は、人のES細胞を作製する研究に
連邦予算を付けることに強く反対。
日本でも、人のES細胞研究が、国の指針で厳しく制限。
iPS細胞は、皮膚細胞などから作製できるため倫理問題は少ない。
「受精の瞬間」を、人の誕生ととらえるカトリックの影響が強いイタリアなどでも、
万能細胞の研究を推進できるようになった。
もう一つの利点は、患者本人の細胞から作製できるため、
拒絶反応の心配がない。
患者本人の遺伝情報を持たないES細胞では、拒絶反応が避けられない。
これを回避するには、クローン技術を使って、卵子に、
患者の皮膚細胞などの細胞核を入れた「クローン胚」を作製、
そこから患者本人の遺伝情報を持つES細胞を作る必要。
クローンES細胞は、人ではまだ作製に成功していないが、
クローン人間作りにつながる恐れなどから、多くの国が作製を厳しく制限。
iPS細胞を利用すれば、クローン技術を使う必要がなくなる。
世界初のクローン羊ドリーを誕生させた、英エディンバラ大学の
イアン・ウィルムット教授も、すでにiPS細胞の研究に着手。

Q3 作り方は?
iPS細胞の作製は簡単。
「基本的なバイオテクノロジー技術があれば、誰でもできる」(山中教授)。

取り出した皮膚や胃の細胞などに、2~4種類の遺伝子を
ウイルスを使って入れ込むだけ。
遺伝子は、山中教授が、ES細胞の万能性にかかわる
遺伝子の中から探り当てた。
最初にマウスのiPS細胞を作った際には、
「Oct3/4」、「Sox2」、「Klf4」、「c―Myc」の4遺伝子を使用。
米ウィスコンシン大のジェームズ・トムソン教授らは、
山中教授が使った「Oct3/4」「Sox2」の2遺伝子に、
別の2遺伝子を組み合わせた方法で成功。

これらの遺伝子は、細胞のDNAの狙った部位に入れることができず、
細胞ががん化する恐れもある。
使う遺伝子は少ないほどよく、山中教授は、4遺伝子のうち、
がん遺伝子の「c―Myc」を抜いた3遺伝子でもiPS細胞を作製。

作製法は、これだけではない。
米スクリプス研究所のシェン・ディン准教授は、安全性の高い化合物と
2遺伝子を組み合わせた方法でも成功。
安全で効率の良い作製法を巡って、世界が激しい競争を繰り広げている。
Q4 研究の現状は?
2006年8月に、山中教授がマウスのiPS細胞の作製を発表して以来、
世界中で研究に火がついた。
昨年暮れには、米マサチューセッツ工科大(MIT)などのチームが、
iPS細胞由来の造血幹細胞(血液のもととなる細胞)で、
重症貧血マウスの症状改善に成功。
人間には、赤血球が変形して、酸素の運搬能力が低下する
「鎌状赤血球貧血」という遺伝病があるが、こうした病気の治療につながる。
米ハーバード大などのグループは8月7日、パーキンソン病や糖尿病など
10種類の病気の患者の皮膚などから、iPS細胞の作製に成功。
抜本的な治療法のない難治性疾患で、原因を解明することで
新薬の開発につながると期待。
激しい国際競争に対抗するため、日本でも研究拠点の整備が進む。
慶応大は、iPS細胞から作った神経細胞を、脊髄損傷マウスの患部に
移植する実験で、マヒをある程度回復させる効果を上げている。
交通事故など不慮の事故で、脊髄を損傷した患者に希望を与える成果。

国立病院機構大阪医療センターと共同で、
200種類以上のiPS細胞を作るバンクの設立も目指している。
京大は、マウスiPS細胞から、心筋梗塞などの治療に役立つ心筋細胞や
毛細血管の作製に成功。
マウスiPS細胞からは、輸血治療につながる血小板(東京大)や、
視力の回復に必要な網膜の細胞(理化学研究所)などができており、
国内の研究も着実に進展。
世界各地の研究成果を、医療や創薬開発につなげるには、
標準的な作製法や評価法が必要だとの意見が出始めており、
研究者間で協調する動きもある。

日本発の革新的な技術であるiPS細胞。
「再生医療の発展に大きな可能性を切りひらく画期的な成果」(福田首相)
として、政府も過去に例のないスピードで支援策を打ち出した。
文部科学省は、人のiPS細胞作製の公表からわずか1か月で、
今後5年間で総額100億円の研究費を投入する計画を策定。
今年4月には、京大iPS細胞研究センターを中心に、
約20の大学などでつくる研究ネットワークを発足。
政府の科学技術政策を決める総合科学技術会議は6月、
iPS細胞の実用化に向けた工程表を策定し、世界に先駆けて
iPS細胞を使った再生医療の実現を目指す。
こうした一連の動きは、国のバックアップなしに研究の結実はない
との判断が働いたからだ。
米国は有望な研究には、個人の寄付や企業などの潤沢な資金が投資。
世界トップレベルの大学や研究機関が集まるカリフォルニア州や
マサチューセッツ州は、数百億円単位の研究費を投じ、幹細胞研究を推進。
iPS細胞の登場により、細胞や分析機器などの幹細胞市場は活性化。
米国の幹細胞市場は、年率30%で成長し、
2012年には約460億円に達する。
幹細胞市場の発展で重要になってくるのが、知的財産の確保。
外国の企業に特許を押さえられると、iPS細胞を利用した再生医療が実現しても、
医療費の高騰を招く恐れがある。
京都大は6月、三井住友銀行など金融3社の出資をもとに、
iPS細胞の関連特許を管理・活用する会社を設立。
他大学や研究機関の知財も管理し、
知財の面でもオールジャパン体制を目指す。
松本紘・京大次期学長は、「日本全体のiPS細胞研究を発展させたい」。

2008年8月31日日曜日

「博士が選ぶ有望技術」連動記事 生駒俊明氏インタビュー

(日経 8月24日)

生駒俊明・JST研究開発戦略センター長

―科学技術の開発で、これから重視すべきテーマは。

物質を対象とした科学は、20世紀に基盤研究がほとんど終わった。
これからは新しい発見を求めるより、社会のための科学技術として
社会のニーズが強い分野が伸びる

環境やエネルギーが重要な切り口となるだろう。
その際、全体を見渡した「構想設計」が大切になる。

例えば、街づくりで考えれば、個別の交通機関のエネルギー効率を
改善するだけでなく、都市交通システムをどう描くかという
全体を包含したデザインが重要。

技術は従属的になり、既存技術を使って全く新しいものを作る。
これが構想設計だ。
米アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」がよい例。

一般的に、日本企業はこうした考え方が得意ではない。
日本では例外的に、任天堂が技術至上主義に陥らずうまい。

―構想設計が弱い日本企業が生き残るには、どんな方法があるか?

逆説的だが、多くの日本企業は構想設計に依存しない、
目の前の需要に向かって改良を重ねる分野が強い。
その点で、素材や部品は手堅い。

高効率が求められる電源も、素材が絡みチャンスが大きい。
工作機械も産業としてしっかりしている。
希少金属を使わなかったり、環境を考慮したりといった制約を
どううまく生かすかが重要。

―どんな分野なら新発見が期待できるか?

ライフサイエンスは、研究が始まったばかり。
何が起きるか分からない。
医療や食料の効率生産など、実現までは時間がかかるが
大きな分野が控えている。

例えば農業では、求められる味に応じて製品を作り、
土壌や味をセンサーで管理する手法が広がる。
新薬開発は、日本では難しい。
国の仕組みで治験に時間がかかりすぎ、望みが薄い。

全地球測位システム(GPS)やPOS(販売時点情報管理)といった
IT(情報技術)により、サービス業の生産性向上も進む。
技術を裏付けにしたアイデアにより、サービス業では
新規市場が生まれる機会が多い。

<生駒俊明氏 略歴>
1941年生まれ。東京大学教授として半導体を研究。
産学連携の実践として、94年に日本テキサス・インスツルメンツに移り、
97年に社長。
退任後、現在は日立金属の社外取締役やキヤノンの顧問を務める。
企業経営や技術革新についての発言も多い。

http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MS3Z2100W%2022082008

ヤマハ発動機が注目するアスタキサンチンの可能性

(日経ヘルス 2008/08/18)

脳の認知機能の改善やメタボリックシンドロームに対する効果で、
最近注目されている「アスタキサンチン」。

アスタキサンチンを、工業的に安全かつ安定的に製造するヤマハ発動機は、
世界でもっとも高齢化社会が進行する日本の現状および将来を見据え、
ライフサイエンス事業を展開。

キーワードは,“アンチエイジング”。
ライフサイエンス事業推進部研究開発グループの
石倉正治グループリーダーに、研究の経緯や今後の開発の展望を聞いた。

◆はじまりは、地球環境問題への取り組みから

アスタキサンチンは、サケやイクラ、エビ、オキアミに多く含まれる
天然の色素成分で、海洋性のカロテノイドの一種。
強力な抗酸化作用を持つ。
自然界では、サケなどのエサとなる藻類に多く含まれている。

バイクやボートなどの製造を行うメーカーであるヤマハ発動機が、
畑違いの健康食品素材「アスタキサンチン」の製造を始めたのは、
地球環境問題への取り組みの一環。

「バイクやボートを動かすと、二酸化炭素(CO2)を排出。
企業は、地球温暖化対策としてのCO2削減が求められる。
排出するCO2を固定する方法として、植樹などがあるが、
ヤマハ発動機が持っている技術を生かしながら、
植物の光合成を活用する方法がないかと模索したのが、
培養した微細藻類の光合成によるCO2の固定。
微細藻類を使えば、植樹の十数倍のCO2を固定できると試算」

研究の結果、藻類を大量培養することに成功。
エビやカニの幼生時のエサとなる微細藻類「キートセラス藻」を供給。
その後、藻類が持つ機能性成分の活用に研究のテーマを拡大。
最初の素材が、アスタキサンチン。

◆“植物”を使って工業的に生産純度高く、安定供給

「アスタキサンチンを作り出すのは、“ヘマトコッカス藻”という藻。
通常は緑色だが、生息の条件によってアスタキサンチンを生成して赤くなる。
ヘマトコッカス藻が、より多くのアスタキサンチンを
作り出す環境条件を研究。
藻の培養装置の中のCO2濃度や光の照射量、
培養液中のミネラル量やpHなどをコントロールすることで、
アスタキサンチンをより多く含むヘマトコッカス藻の大量培養に成功」

その結果、生産量が天候に左右されがちだった“植物”を、
工業的に安定生産することができる。
同社で生成されたアスタキサンチンは、純度を高くすることができる。
純度は、97%以上。
屋内のクリーンルームに設置された培養装置で作り出され、
カビやバクテリアなどの混入による汚染(コンタミネーション)を防げる。

◆アンチエイジング素材として機能性を追究

「研究は、大量生産技術から素材の健康に対する研究開発へ」。
アスタキサンチンは、強力な抗酸化物質。
目や肌、生活習慣病への効果が研究されていた。
同社では、「脳への作用」と「メタボリックシンドロームへの作用」に
関する研究に力を入れた。

「アスタキサンチンは、炎症や酸化を抑える成分として、
老化や疾患の発生プロセスの上流で働く。
その特性を生かせば、エイジングによる症状や不調を改善する素材として
機能すると考え、アンチエイジング分野での機能性研究に力を入れている。
高齢化社会の進展に伴い、生活習慣病の予防や脳機能の維持・改善に
対するニーズは、急速に高まることが予測。

特に、脳の認知機能に関する研究は、バイクなどの製造メーカーとして、
安全な運転をしてもらうかという観点からも社会的意義が大きい。
最新の研究では、アスタキサンチンがパーキンソン病の改善効果を
期待できるというデータも。
“脳のアンチエイジング”と呼べる分野において研究を進め、
アスタキサンチンのアンチエイジングパワーをさらに追究していきたい」

逼迫する医療保険財政、現実に起こりつつある労働力不足、
いつまでも健康で美しくありたいという
人間本来が持つ高いQOLや若さへの憧憬。
これら社会環境および消費者のニーズに応えるテーマとして、
アンチエイジングは最重要テーマ。

本格的に立ち上がることが予想されるアンチエイジング市場。
その最右翼の健康成分として、アスタキサンチンに期待。

http://sangyo.jp/foodhealth/article/20080818.html

記憶の仕組みにアスパラガスのアミノ酸 岡山大が解明

(朝日 2008年8月20日)

アスパラガスに含まれるアミノ酸の一種「アスパラギン酸」が、
神経細胞で情報伝達にかかわる仕組みを、
岡山大大学院医歯薬学総合研究科の森山芳則教授らが突き止め、
米科学アカデミー紀要電子版に発表。

この仕組みの異常で、発達障害などが起こる難病になる可能性も示され、
記憶・学習の仕組み解明につながりそう。

記憶にかかわる脳の海馬で、アスパラギン酸が神経伝達物質の
グルタミン酸とともに存在することなどは知られていた。
大学院生の宮地孝明さんらは、細胞内でアスパラギン酸を運ぶ
たんぱく質を特定し、小胞型興奮性アミノ酸トランスポーター(VEAT)と命名。

VEATは、神経細胞のつなぎ目にある神経伝達物質を蓄える袋に、
アスパラギン酸を運びこむ。
蓄積されたアスパラギン酸は、この袋から分泌されて神経伝達物質になる。

これまでVEATは別の働きで知られており、
その異常で、幼児期から精神発達や運動障害が起こる「サラ病」
なることがわかっていた。
サラ病は、神経細胞の情報伝達の異常で起こる可能性が示された。

森山教授は、「グルタミン酸だけでは説明が難しい情報伝達の仕組みが、
アスパラギン酸の働きを調べることでわかるかも知れない。
認知症などの薬の開発につながる可能性もある」

http://www.asahi.com/science/update/0818/OSK200808180040.html

白血病を乗り越え金メダル、オランダの水泳選手

(CNN 8月21日)

白血病を乗り越えたオランダの選手が、
北京五輪水泳の新種目オープンウォーター男子10キロで
金メダルを獲得。

白血病にかかったことで、一歩一歩、着実に積み重ねることの
大切さを学んだ、と話している。

同種目で初代の金メダリストとなったのは、
マーテン・ファン・デル・バイデン選手。
1時間51分51秒6で優勝し、2位のデイビッド・デイビス選手(英国)に
約2秒の差をつけた。

ファン・デル・バイデン選手は2001年に白血病にかかり、
2003年に復帰。
白血病克服後のタイムは、病気になる前より早くなった。

白血病の治療では、幹細胞移植手術を受けた。
「幸運にも、移植手術を受けて治ることができた。
世界中で続けられている研究成果の手術で、
研究に資金援助してくれている人々、過去に援助してくれた人々に感謝。
この移植手術なかったら、この場所には立てなかった」

http://www.cnn.co.jp/sports/CNN200808210026.html

キャンパス探訪(8)説明会場 互いに間借り

(読売 8月21日)

東西の大学が、互いのキャンパスで自分の大学をアピール。
早稲田大学の早稲田キャンパスが、オープンキャンパスで、
大学のシンボル・大隈講堂と目と鼻の先にある26号館だけは
別の空気が流れていた。
「笑いを科学する~笑い測定機の冒険」と模擬講義を披露したのは、
関西大学社会学部の木村洋二教授(60)。

「たいていのことが学べる早稲田も、この分野はないだろうという判断」と
関大入試センターアドミッションオフィスの藪田和広課長。
ほお、腹筋、横隔膜の振動で笑いの度合いを測定するという研究は
確かにユニークで、関西ならでは、のテーマ。
関大は2010年、堺市に開設予定の健康文化学部に
「ユーモア科学専攻」も設ける計画。
日本笑い学会副会長も務める木村教授に、白羽の矢が立った。

関西では、「関関同立」と並び称される有力私大とは言え、
東京での催しには、大学も集客に不安。
しかし、講義の聴講者は午前と午後の2回で計50人を超え、
藪田さんは「上出来です」と胸をなで下ろした。

中には、関大が第1志望という東京都内の高校3年生の女子生徒の姿も。
授業での測定機の実演にも、進んでモデルに。
親せきを頼り、8月下旬の関大でのオープンキャンパスにも足を運ぶ。

同じ日、関大の千里山キャンパスでは、
早大のオープンキャンパスが開かれ、約700人が訪れた。
早大は3室を借り、学部説明会や模擬講義を3回ずつ開いたほか、
4人程度の英語の少人数レッスン「チュートリアルイングリッシュ」も披露、
計6回の授業を約30人が体験。

米国人講師が、「お互いに自己紹介して、好きなスポーツや音楽を
尋ねてみよう」と語りかけると、高校生らは時々もたつきながらも、
会話を始めた。
「質問に答える時、別の話題をつけ加える。
その話題について質問を返すと会話が続くよ」と、
講師がコツを伝授しながら授業が進んだ。

早大商学部が第1志望で、兵庫県加古川市の1浪生の男性(19)は、
「話したり聴いたりする力がつきそう。早く大学に入って授業を受けたい。
夏休みは、勉強の大切な時期なので、東京を往復するのは難しい。
近くでやってもらえて助かります」。

田中愛治・教務部長(政治経済学部教授)は、
「予想以上の参加者」と手応えを感じた様子。
チュートリアルイングリッシュについて、「早稲田は、英語を道具として
使いこなすことを重視。その点も、受験生に大いにアピールできた」。

互いのキャンパスを間借りした実験的なイベントは、
両校が5月に教育研究協力の協定を結んだことで実現。
形を変えた入試説明会と言えなくもないが、ともに一定の成果は挙げたよう。

◆早大生と関大生の出身地

早大の今春の一般入試合格者(約1万4000人)では、
関東の高校出身者が70%、中部が11%。近畿は6%強。
関大の学部生(約2万6000人)の出身地は、
近畿(福井含む、三重除く)が78%。
中国、東海、四国、九州・沖縄と続き、関東は1%。

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/renai/20080821-OYT8T00220.htm